虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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作るのムズすぎて一生終わらないかと思った。


自分なりの戦い方

 

 爆発から数十分後、トリニティ市街地では大量の人達が逃げ場を求めて攻め寄せていた。

 多少戦える生徒も例外では無く、正体不明の爆発による重々しい空気、そして辺り一帯に現れる謎の聖徒に攻め寄せられ逃げ続けている。そんな中、放課後スイーツ部は爆発の影響をギリギリ受けない位置に居り避難場所を探していた。

 

 幾らトリニティ生徒と云えどトリニティ全貌を記憶している訳では無い。寧ろ覚えている生徒は居ないと断言も出来る。それ程にこの学園は巨大なのだ。

 終結を記念し珍しいスイーツが出されている屋台へ向かっていた途中のスイーツ部は元来た道を辿ろうと周りを見るが、空気は重く思考を鈍らせ、被害の影響で屋台はバラバラ、建物も崩壊しているものが多く特定は難しい。

 

「ヤバいな〜……逃げたいんだけど……どうするべきか」

 

「……カズサちゃん、私達帰れるかな……?」

 

「っ!だ、大丈夫だよアイリ、安心して」

 

 ただでさえ突然起こった非常事態に心が不安定な上、現状『帰れない』と分かった時には正気を保てる方がおかしい。涙目になるアイリを宥めながらカズサは元来た道を必死に思い出そうとする、だが目から入る情報は全て違うと脳が弾き出しマトモに機能しない。

 アイリを傷付けず突破口を見つける。これ程に難しい任務は久方ぶり、だからと云っても残るのは不安ばかりだ。そんな時、後ろから同じ仲間のナツとヨシミが大声を上げた。

 

「二人とも!こっちこっち!あったよっ!」

 

「マジで!?ナイス!」

「行こう、アイリ」

 

「う、うん……!」

 

 カズサがアイリの手を引きナツ達の元へ走る。二人の見つけた道を見ると、多少変わっているが確かに記憶にあった道。普段感謝を見せないカズサもこの時は二人に感謝を伝えようと決め、笑って出ていこうとする。

 その時、カズサ達の周りに無数の青く燃え上がる聖徒達が現れた。そのまま逃げれば良いものを一瞬状況理解が追い付かず脚を止めてしまい、包囲された。

 

「だ、誰よアンタら!」

 

「これは……新手の刺客……!」

 

「そんな事云ってる場合か!?ヤバイよこれ……狙ってきてる」

 

 生み出された聖徒からは生気を感じない、それ所か感じるのは殺意だけ。油断はならない、数では負けている、アイリもヨシミもナツも戦闘は得意ではない。

 それを理解した瞬間、ヨシミとナツにアイリを任せカズサは聖徒も前へ立ち塞がった。

 

「ヨシミ、ナツ。アイリ任せた」

 

「で、でもカズサは……!」

 

「―――私は」

 

「流石キャスパリーグ、恐怖心は疾っくの疾うに捨ててきたか」

 

「ナツ、後で殴る」

 

 今後の予定を立て気合いを入れ直す。二人に連れていかれたアイリは最後にカズサへ向かい『直ぐに助けに行く』と残しその場を去っていった。

 首を鳴らし、攻めてくる聖徒一人一人に焦点を置く。一人一人やれば全員やる頃に助けが来ると信じ、武器を取り出した。

 

「誰なのか知らないけど、ウチの友達に手出しは無用」

 

 銃口を奴らに向けて乱射する。直撃した銃弾は聖徒達の身体を貫通し、異常な炎を上げた。

 穴だらけになりながらもカズサから一切目を逸らさず、走り始める。銃を持ちながら銃を振り上げ物理的な攻撃を繰り出す、速度は遅く簡単に避けられるが、余りの生気の無さにカズサは少しの恐怖を覚えた。

 

 よく見ると、身体に付いた穴が埋まり始めている。それを見たカズサは正体不明な存在に一瞬後退る。

 

「何なの、コイツら……変なやつ」

「普通じゃない……何か別の方法で倒さないといけない……?」

 

 考える隙を与えず聖徒達は攻め入る。攻撃を避け人気の無い建物の中へ入ると、身を潜めた。

 奴らは視野が狭い、逃げようと思えば簡単に逃げられる。が、奴らは対象を見失うと、直ぐに人の多い避難場所へと歩みを始めていた。

 

 どうすれば良い、人を助ける為にはどうすれば良い?それだけが思考を支配する。

 奴らは人の形をした別のモノ。だが人型であれば弱点は存在する、人が人で居られる条件は基本的に『上半身』に詰められているとなれば、弱点は上半身の何処か。

 

「やるだけ試してみるか……」

「おい、アンタら!」

 

 声が聞こえ聖徒達が振り返ると、カズサは崩れた建物の破片。二十センチ以上の分厚さのある壁を掴み、ブーメランの様に投げた。それは相当な速度を出し聖徒の上半身に直撃する。

 その瞬間、聖徒は煙を出し豆腐の様に崩れ消滅した。予想が的中し、見えなかった勝機も多少顔を出す。

 

「弱点、見つけちゃった!」

 

 カズサは再び破片を持ち上げ、今度はカズサから攻め入る。走り出すと空気が揺れ風圧を生み、一瞬聖徒の身を止めた。次の瞬間カズサが思いっきり振りかぶり振ると、破片は粉々に砕けると同時聖徒の上半身は完全に潰され、その後ろにあった建物にも強いヒビ割れを起こした。

 体格や個体差はあれど、カズサの前では小さな差。ただ数が多く対処が追いつかない。それを理解している奴らは複数人で固まりカズサに襲いかかる。

 

「無駄に知能が高い……厄介ね」

「アイリ達に近付けさせない様もっと遠くへ……」

 

 聖徒の攻撃を避け続け周りに気を置く、すると狙ったかの様に一人の聖徒がカズサの不意を突き真横から拳を放つ。一瞬遅れながらも当たる瞬間腕に力を込め盾にするが、直撃した瞬間銃弾とは比にならない重い鐘がぶつかった様な衝撃、そのまま商店の壁を突き破り背中から壁に直撃した。

 身体の強さが幸をなし軽傷だったが、昔を思い出す一撃。少しだけ腕が痺れている。

 

「身体が追い付いてない……このままじゃジリ貧で負ける」

 

 この攻撃で動きを止めてしまったせいか、段々と心拍数が上がっていき、深く息を吸う。最中は気付いていなかったが、確実に疲労が溜まり鈍くなっていた。

 ある程度戦った、力量も分かった。余り強く無い事が分かりこれならアイリ達の元へ逃げながら戦える。避難者も居ない、俗に云う戦略的撤退だ。

 

「あの一撃、全員が同じくらいだったらヤバいな……モロに喰らえば一発で終わるやつ」

「まあアイツら動きは遅いし、このまま逃げれば――――」

 

「見つけましたよ、杏山カズサ!」

 

 聞き慣れた声、それを上回る音量は獣耳さえ毛が立つ程遠くだった。爆発音にも聞こえる音に聖徒達も一斉に一点を見る。そこには、カズサにとって今一番会いたくなかった存在。

 

「な、なな……なんでいんの!?」

 

「杏山カズサのお友達から一人で戦っていると聞き、助けに来ましたよ!!」

 

「うるさい!分かったから!と云うかアンタの手に負える相手じゃ……!」

 

 トリニティ自警団の宇沢レイサ、カズサの『本性』を知っている人の一人であり、それ故に固執して追ってきている奴。

 何故居るのか、カズサから聞いたにも関わらず声が余りにも大きすぎて逆ギレしてしまい、一瞬聖徒の存在が消えてしまった。その瞬間聖徒の中でも速度が異次元な聖徒がカズサの横を通り抜け、レイサの元へ辿り着く。一秒遅れ奴が『ヤバい奴』だと気付くと、カズサも走り出しまだ気付いていないレイサに叫ぶ。

 

「宇沢!逃げてっ!」

 

「――――……ぇ」

 

 時すでに遅し、両翼を広げた聖徒はレイサの後ろへ周り、飛び蹴りを放つ。

 一瞬浮く髪、風が厚みを持ち凹む『間に合わない』そう変わったほんの一瞬、カズサに炎が宿る。

 

「――――固有解放」

 

 『マビノギオン』身体の強化を受けたその瞬間、狙ったかの様にカズサへ『天使の恩恵が舞い降りたロイヤルブレンド』肉眼では到底追い付けない速度は聖徒の脚よりも速くレイサの後ろに周り両腕で抱き締めたまま、カズサは背を向け盾となった。

 躊躇いも無く放たれた脚技はカズサの後頭部に直撃し、そのまま纏めて二人を吹き飛ばす。飛んだ二人の目の前に建物の壁が迫り、直前カズサがレイサとの位置を逆にし、再びカズサの背中は崩れた建物の瓦礫へ直撃した。

 

 ゴリッ、明確に骨の削れる音がした。聴きたくもない鈍い音が二人の耳へ鳴り響く。

 

「ぁ……き、きょや……カズ、さ……?」

 

「……中々良いの持ってくるじゃん、アイツ」

 

 半面は血で染まり、鼻、口と血を垂れ流したカズサは意外にも平気な顔をして、口角は上がっている。だがレイサはそうもいかず、見た事も無い状況に、目に映る情報が信じれず瞳から光が消えていた。

 小刻みに呼吸をするレイサの頭をポンと撫で、目で『平気』だと伝える。その伝えに光を取り戻しながらも、その瞳からは涙が零れ落ちていた。

 

「ほら、立って……本番はこれから」

 

「は、はいぃ……!」

 

「泣いてる暇あったら、集中っ!」

 

 直後両翼の聖徒が攻める。レイサの後ろに回った時よりも遅い蹴り、少し集中したカズサには簡単に避けられた。

 カズサはそれよりも目の前に居る聖徒の事を考えていた。それもその筈、ぼんやりではあるが、トリニティ――――明確に云えば『正義実現委員会』の制服の様なもの。それに何処か見た事のある様な糸目、どちらにせよ、この正体不明な聖徒集団は今のトリニティ生を模倣している様だ。

 

 条件は何か分からない、だが結果として今正義実現委員会の一人の模倣体と戦っている。となれば、決着は速く着けるべき。そうカズサは考える。

 

「レイサ!一回で良い……目の前のコイツ足止め出来る方法考えて!私が引き付けてるから!」

 

「あ、足止めですか!?え、えっと……」

 

「そのうるさい声とかで何とか出来ないの!?」

 

「こえ、声……」

 

︎ ✦︎

 

「スズミさん!どうしたら強くなれますか!」

 

 トリニティ市街地のある公園で、レイサはスズミにそう問い掛けた。スズミの強さ、その秘訣――――例え成果は得られずとも、知識として得れるものはあると信じレイサは決死の覚悟で問い掛けている。

 突然の事に、スズミは戸惑いながらも『その強さ』について考えてみた。トリニティ自警団、公式なものでは無いが、取り消されず残り続けているのはその実力と存在を認知、評価されているから。

 

 レイサが入るまでの一年間はたった一人で自警団をしており、個人で残れる実力を残している。

 

「そうですね……一番は身体を鍛える事ですが、それだけでは生き残れません。もっと云えば戦いで使える長所を鍛える、弱点を減らしより長く戦える様な技術も身に付けるとなお良しですね」

 

「でも、レイサさんにはもっと良い長所がありますね」

 

「もっと良い……長所?」

 

「レイサさんは声が大きいですから、寧ろこれは相手の油断を突く『攻撃』になり得ます」

 

 レイサにとっての長所は『声』他の人よりも大きな声はただの音では無く『武器』にもなりえる。その言葉を、ずっと覚えていた。

 

「自分なりの戦い方、ですね」

 

︎ ✦︎

 

「武器……分かりました!」

 

 瞬間、レイサが走り出す。

 カズサと聖徒の間に入り聖徒に向かって大きく息を吸った。

 

「わっ!!」

 

 全息を使った大声は衝撃波を生む程強く、カズサ諸共逃げ出したくなる。それだけ聴覚へ深刻なダメージを負わせた。

 証拠として聖徒はほんの数秒動きを止めた。速度重視の聖徒でさえ声の大きさに耐えられない、それは相当な『武器』だが残念な事にその初見の動きにカズサも追い付けず巻き添えを喰らった結果、互いに身体が硬直してしまうと云う謎の状況が生まれてしまった。

 

 直後聖徒は一度距離を置き、体勢を整える。

 

「流石、声がでかい」

 

「褒めてるのか褒めてないのか怪しい所ですね、それ!」

 

「褒めてる褒めてるよ」

 

 ――――それより。

 そうカズサは再び構えた聖徒を睨みつけながら『同じ手は喰らわない』と見えない意思で伝える。先程の戦いでレイサもそれは理解しており、同じ至近距離での攻撃は不可と考えて良い。

 決定打が消えた今、次どう攻めるかが重要となる。

 

「次で決めるよ」

 

「……は、はい!」

 

 銃だけでは戦況は変わらない、街にあるもの利用出来るものを目だけで探していると、レイサが丁度良いものを見つけた。レイサの長所であり武器が、一番活きるもの。

 次にレイサがカズサへある提案を出す。

 

「杏山カズサ!私が何とか隙を作ります、決めて下さい!」

 

「アンタ……くれぐれも、怪我だけはしない様にね」

 

 そう云い残しカズサは真横へ走っていき、建物を転々と移動し姿を消す。聖徒は特に驚きもせず、レイサへ標的を集めた。

 レイサは地面に落ちている拡張器を拾う。

 

『自分なりの戦い方』

 

 カズサの様に力やスピードがある訳でも無い、上層部の様に戦略を立てられる訳でも無い。戦闘経験なんてろくに無いただの平凡な学生。それでも、それを変えようと思ってトリニティ自警団に入った。

 リスクを負え、勝利に固執するな。今目の前に居るのは圧倒的な格上、それを倒す為の『隙』を作る存在。

 

「……ただ、負ける気も、死ぬ気も無いですよ」

 

 瞬間聖徒が走り出す。カズサの様に見て避けられれば最高だったが、生憎そんな反射神経持ち合わせていない。その代わり、先の戦闘で多少感覚は掴めた。

 一瞬脚を上げたその時、レイサは大袈裟に頭を逸らす。振り上げられた脚は案の定首、頭辺りを狙われていた。レイサの予想は当たり、脚蹴りを得意とした聖徒、その速度と威力から大半の場合首から上を狙ってくる。

 

 だがそれが分かったからと云って、どうにかなる訳でも無い。避けられたは良いものの大袈裟に避けすぎて体勢が崩れ、次に飛んできた拳を腹に受けてしまう。

 

「っ……!」

 

 数メートル飛び、倒れる。痛みを超えた衝撃だけが伝わる中腹を抑え、何とか再び立ち上がった。

 もうあの聖徒はカズサは逃げたものだと思い込んでいる筈。証拠として直ぐに攻めてこない。もしカズサが居ると分かれば、もっと速く決着を着ける筈だ。

 

 耐えるのは十分にやった。後は『隙を作るだけ』

 

はぁ……はぁ……っげほ……ぁ

 

 拡張器へ電源を付け、涙が零れ落ちそうな目を抑える。

 強い人達は、こんなものよりももっと、もっと強い奴らと戦っている。こんな一撃如きにやられてちゃ、強くはなれない。

 

 まだ、今は弱い。私一人で何とか出来る相手でも無い――――だから。

 

「……だから!」

「今だけは……任せましたよ」

 

 立ち上がったレイサに、再び聖徒は目の前まで迫る。

 レイサは既に分かっている様に拡張器をゆっくりと口元まで持っていき、脚蹴りが来るよりも速く大きく息を吸った。

 

「今です!杏山カズサ!!」

 

「――――本気でいくよっ!」

 

 鼓膜が破れかねない轟音、衝撃波が地面を削り聖徒の身体を少し浮かせた。瓦礫がレイサの頬を掠め血が流れる。だが、笑っていた。

 次の瞬間カズサが聖徒の真後ろへ現れる。本来であればカズサも音と衝撃を受け動きが止まった筈だが、この大きな声もそこから出る衝撃も、全部カズサにとっては慣れているもの。

 

 故に、一番の隙を作る事が出来た。

 

 カズサはもう一度瓦礫を持ち、思い切り振り上げる。固有解放状態に加え相手は一切の防御を取っていない。上半身に弱点があると知り一瞬の躊躇も無い。

 振り上げた瓦礫は目の前に居る聖徒を消し炭にし、その衝撃だけで奥にある数十階建てのビルさえバラバラに砕いてしまった。

 

「は……はぁ……」

 

「何とか……勝ったね」

 

 勝利への興奮よりも先に安堵が襲う。その場に二人が座り込み、緊張の糸が着れる様に息を切らした。




変に終わらせちゃったけど心が限界なのでゆるちて
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