虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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投稿が今までより遅くなりました。え、いつも遅いだろって?

…………


最期は勝つ

 

「……油断していた」

 

 あの一瞬、エルは確かにあの一瞬に敗北した。動作、視線、少しの瞬間も見逃さずして拳を貰い、こうして瓦礫の山に埋もれている。

 独り呟く。だがそこには喜びも感じられる声色で、もう一度戦いを楽しもうと立ち上がった。瓦礫の山を降りると、消えない煙幕から影が歩いてくる。誰が来るのかは分かっていた。だからこそエルは興奮出来なかった。

 

「随分と待たせてくれた、ようやくお出ましか」

 

「……待たせた?それは悪かったね」

 

 煙幕の中から現れたのは鬼方カヨコ、ゲヘナの三年であり『事件』を知る数少ない人物の一人でもある。カヨコを見てエルは興味の無さそうな顔で淡々と言葉を吐く。

 

「正直、お前に魅力は感じられんな。興味が無い訳ではない。寧ろその逆、お前は興味が薄れる程に成長しきっている」

「成長をこの目で見る事こそが楽しみだと云うのに、成長が無ければ楽しめるものも楽しめんな」

 

 冷静さを装おりながらもカヨコは殺意の目をエルに向け、脳内では常に『どんな方法であれば奴を倒せるのか』を考え続ける。三百六十六回の脳内シュミレーションを行い、結果は全て敗北。雑な正面突破や、下手な作戦では感ずかれ速攻対処される。戦力差は明らかであり、はやり最適解は逃げ――――

 

 その時、エルはつまらなさそうに口を開いた。

 

「個人でやっていればより高い地位に行けたと云うのに……無駄死にだな」

 

「――――は」

 

 その言葉に、カヨコは思い出したくもない記憶を思い出してしまった。

 何も知らない第三者から云われる、心の無い言葉。私の苦労を知らす、何でもない事だと捨てる様に云う、その言葉。

 

 あの人にも、似た様な事を云われたな。

 

︎ ✦︎

 

「え、ここを辞めて別の場所に行くの?」

 

「うん……だめ?」

 

「いや別に、良いんじゃない?」

 

 ■■■は、私の言い出しに何も想ってなさそうな表情と、まるで感情の籠っていない声出そう云った。

 

「次に行く場所が、便利屋68っていう、まだ始まったばかりの所だけど……」

 

「便利屋、何でも屋みたいなの?」

 

「う、うん。依頼人から依頼を受けて、戦ったり、護衛したり……かな」

 

「ふうん……ねえカヨコ、それ」

 

 いつも何か薬品の研究をしていて、何一つとして教えてはくれなかったけど、新しいものにはいつも関心的で知ろうとしてきた。またいつも通り、具体的な事を云わされるのか。

 彼女は、手も止めず私を横目に、心底どうでも良さそうな声色で云い放った。

 

「それ、辞めた方が良いよ」

 

「……え?」

 

「いや、聞いた限りだと問題ないけど……どうせカヨコ、作戦とか仲間の指示役でしょ?じゃ辞めた方が良い」

 

「な、なんで……?私、戦いの指示で負けた事は無い。作戦も全部成功させてる!」

 

「それ『攻め』の作戦だからでしょ?カヨコの云うその戦いや護衛は『守り』の作戦。カヨコは守りに向いてないからね、やっても仲間自滅に追い込むだけだよ」

 

 彼女の云っていた事は全て正しかった。確かに私が作戦を担当する時、全てが私達に有利、正直指示を出さなくても時間が経てば勝手に自滅していく様なものばかり。

 便利屋に入ってこれまでの戦い、アビドスと先生、他の時だって、今だって、思い返してみればどれも成功とは云い難い。

 

「まあしょうがないよね、カヨコは独りの時の方が強いし、ここ辞めたいなら辞めていいよ、でも……忠告はしたよ」

 

「………ッ」

 

 ある日突然『何か』と通信を成功させ、強さを求めてしまったその瞬間から、私は貴方が嫌いだった。

 強さ以外を捨て、これまであったものを捨て、興味を無くし見限った。その前、誰にでも優しくて、勇敢で、可愛らしい貴方が好きだった。きっと今も貴方が居れば、私は便利屋68ここには居なかっただろうね。

 

 やりたい事を否定し、成りたいものを否定し、その興味の無い目がすっと記憶に残っている。

 

『雷帝』その名を冠したその目は、誰よりも濁ってたよ。世界を敵にし、それでも笑っていた貴方は私を指しこう云った。

 

『……私は、要らない子だったかな?』

 

 自分だって、何も守れなかっただろ。何で私だけを指す?何もかもを無視し要らないと云ったのはお前だろ?それを今更『実は必要でした』みたいな意味合いで云ってんじゃない。

 ただの八つ当たりを、私は深く受け取った。私の想いも、気持ちも知らないで。

 

 何が『最強』だ。

 

︎ ✦︎

 

 舌打ちが響く、くしゃくしゃになる程に怒りを顕としながらカヨコは呟いた。

 

「誰も彼も……私を否定して、何も知らない癖に……『無駄』だと?」

 

「何か間違った事を云ったか?個で生きれるお前が、何故仲間を持つ必要があるのか」

「その力、独りでないと発揮出来ないだろう?」

 

 個の力は現代最強にも匹敵する。だが、その力に慢心せず仲間を持つ理由。

 その意味は、語る必要も無い。ただカヨコにとってアル、ムツキ、ハルカという存在が、何よりも大切なものとなっただけ。それ以上でも、それ以下でも無い。

 

 ただ今は、その怒りをぶつけるだけだ。

 

「最強に成りたければ、勝手になればいい……けど、その道がどんな茨道か……分からないあんたでは無い」

 

「ああ……――――休憩は済んだか?」

 

「うん」

 

 直後、カヨコはゆっくりとエルの元へ歩き始める。一歩一歩丁寧に、攻撃を仕掛ける事も、避ける事もしないと云わんばかりに。それを見たエルは警戒しながらも隙だらけのカヨコに多少の苛立ちを覚えた。

 あれだけの攻撃を見て尚体勢を崩さない。それは強者を前にしても屈しない強い姿勢か、もしくは阿呆か。どちらにせよ、彼女にとってそれは『降参』している様なもの。

 

 柄をこれ以上無い程に強く握り鞘から刃を抜く。瞬間その姿を消し即座にカヨコの元へ着くと、刃を真横に構え振ろうと力を込めた刹那――――エルに『恐怖』が降り注ぐ。

 

「……!」

 

 今まで感じた事の無い恐怖。根源に埋め込まれた生命体全てが持ち合わせている平等の怖い感情。本来であれば振られている刃も、一呼吸一瞬の隙が生まれ、カヨコが余裕を持って回避した瞬間、十字形に斬撃が飛んだ。

 忘れられないその恐怖に怯え、全てに一呼吸置かれる。エルが振り向いた瞬間、カヨコの肘打ちが脇腹に打たれながらも勢い良く刃を振るった。

 

「強ければ強い程その効果も強くなる。長い間忘れていた感情だからね、慣れていないのは当たり前」

『――――怖い?私が』

 

「……あぁ、気色悪い」

 

 血管が浮き出る程に怒りを顕にする。当たり前だ、正々堂々正面からでは無く、相手の弱い感情を刺激した嫌がらせ、エルの性格上好まない事はカヨコも理解していた。

 だから、ここで終わり。

 

 最速でエルの間合いに入ると防御体勢を取ったエルの上から蹴りを入れる。ダメージは出ずともある程度吹き飛び、その瞬間にカヨコが口を開いた。

 

「私は結局の所、誰かと誰かを繋ぐだけの存在に過ぎない。私だけじゃあんたを倒せないって事も知ってる」

「だから、次に繋ぐ――――全ては、あんたを倒す為にあるって事、忘れないで」

 

「鬼方――――カヨコッ!」

 

 煙の向こうへとエルは飛び、刃を地面に突き刺し衝撃を消す。周りを見渡すと、カヨコは完璧な力加減で飛ばした事が分かった。エルの後ろに、仁王立ちで立つ浅黄ムツキが居た。

 頭から血を流し、既にボロボロとなっているムツキを見てエルはカヨコの時よりも興味の無い顔をした。

 

「……はぁ、次はお前か」

 

「私じゃ不満?」

 

「あぁ、鬼方カヨコあんな奴よりよっぽど興味が無い」

 

 エルに爆発は効かない。何故なら空気中に漂う野良の『神秘』を集め、爆風と衝撃を緩和出来るから。爆発をメインに扱うムツキとは最悪の相性、それを互いに理解しているからこそ興味を示さなかった。

 その上、ムツキには『強くなる意思』を感じられない。何もかもを楽しむだけだと思い自分のものにしようとしない。それがエルにとって一番興味を示さない理由。

 

「私があんたの首取るかもしれないよ?」

 

「笑わせるな……無理だ。今この四人の中で、私から見てみれば一番弱いのはお前だ」

 

「弱い……だなんて、心外だなぁ」

 

 ムツキがそう云い走り出す、エルは刃を鞘に納め抜刀の構えを取った。本能が動くそのギリギリまで近付き、ムツキはしゃがむ。その瞬間鞘から刃は抜かれ、ムツキの真後ろにある建物や街頭を断ち斬りその断面は美しい程に滑らかだった。

 一瞬の隙にエルの間合いに入り込むと、後二秒で爆発する時限爆弾を目の前に浮かせる。爆発する瞬間にムツキは後ろへ回り込み、後ろから蹴り押す、エルは爆発する時限爆弾とほぼくっ付いた状態で巻き込まれ、その姿を見ていたムツキは少しはダメージを負っていると信じていた。

 

 次の瞬間、斬撃が飛ぶ。それと同時にムツキへ違和感が襲う。

『右目が見えない』膝を着き、手を着き息を整える。斬られた、深くは無いが右目から左みぞおちまで真っ直ぐに血が溢れ出る。

 

「やられたぁ……いった」

 

「云っただろう、私に爆発は効かんと」

 

 爆発で巻き付く砂嵐を断ち斬り、中からは損傷を一つも受けていないエルが歩く。爆弾は効かず、体格差的にも蹴りや拳も通りずらい。銃弾なんて斬られて終いだ。

 万策尽きた。その言葉が今は似合う。元から勝つ気など無かったが、ここまでになると流石に来るものがある。

 

「いやぁ……ここまでか」

 

「――――まあ、悪くは無かった」

 

「……え?」

 

 言葉に戸惑うのも束の間、気付けばエルはムツキの懐まで入る。

 

 褒められた――のか?『悪くなかった』この言葉の意味は……?もしかして、さっきの戦術を褒められたのか?

『強い奴を好む』――――考えてみれば、これは単純に強い奴じゃなくて、例え負けると分かっていても、戦力差を理解していてもその持っている『一芸』で相手を倒す。いや『魅了する』が正しい。

 そうか、私は認められたのか。本物の強者に。負ける、負けるか。

 

『確かに……負けた。けど、私の負けが仲間の負けじゃない……それはよく知ってるでしょ?』

 

 刹那、ムツキの体に十字形の斬撃が当たる。血飛沫が散乱し、後ろへ仰け反る。

 だが、その目は決して死んではおらず、寧ろ勝利を確信している様な鮮やかな目だった。そして、倒れるムツキはエルの向こうを目通し、震える指を弱々しく立て、指した。

 

 その先に、映るものは。

 

︎ ✦︎

 

 人が悪に堕ちる時、それはどんな時?

 大切な約束を破られた時?自分を、家族を、仲間を、友達を傷付けられた時?仲間だと思っていた奴に貶められ、そうならなければいけない時?

 

 目の前で、大切な幼馴染が殺された時?

 

「――――ムツキ?」

 

「あぁ……遅かったじゃないか。アル」

 

 目の前で見た、殺される瞬間を。後数秒早ければ助けられていたかもしれない瞬間を、私は無様に気絶していた。

 死んだ、死んだ?本当に死んでいるのか?遠目で分からない、だけどムツキは最後に微笑んで私を見ていた。希望を託す様な風に、目の前の奴を殺せと云う様に。

 

 その心の中には、虚無も、悲しみも無く『怒り』のみ。

 

 怒りは彼女を、黒く染める。黒く、黒く染め上げ、善意を失い、ただそこにあるのは圧倒的な力と、全てを滅ぼす悪意だけ。

 

■■■■■

 

 アルの目が変わり、右目だけが黒くなる。そして全身の肌に黒い線の様なものが伝わり、異様な雰囲気にエルも警戒を強める。

 

(雰囲気が変わった……)

「変身なんか持っていたのか、それ―――」

 

 一瞬の気の緩み、口を開いた瞬間エルの目の前には黒く巨大な手が顔全体を覆った。そのまま為す術なくエルは顔面を掴まれ、勢い良く地面へ叩き落とされた。

 衝撃が地面を抉り、それだけで建物が崩壊しそうになる。強く潰されそうになる程強い力は常人のそれでは無い。あの一秒でも掴まれていれば、その場で頭蓋骨が粉々だ。

 

 次の瞬間エルはアルの手の中から消える。まるで瞬間移動をした様にアルの真後ろへ逆さの状態で回り、その首元にアル達に向けた初めての斬撃を一太刀与える。

 それでもアルの首元には少し皮が切れ血が流れる程度、アルは怒りの力のみで場面が切り替わる様にエルの真正面へ向き、力強く拳を固めぶつけようと最小の動きが構えた。

 

(死ぬな)

 

 攻撃の手を止め刃を拳の方向へ向けると同時に防御の形を取った。拳が刃に当たる瞬間、数センチアルの拳へ刃が通り血が零れるが、それ以上肉を斬らずその衝撃はある程度の距離までエルを吹き飛ばした。

 

 刃の亀裂が入る。根元部分に入った為これ以上攻撃を受け切れない筈、攻めの瞬間、勝利と怒りがよりアルを衝動的にさせる。

 

「……あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」

 

 拳は振り上げられ、今一歩を踏み出した瞬間、声が響いた。

 

「社長!」

「アル様!!」

 

 その亀裂が、少しだけ治る。




普通に分かると思いますが()は心の声的なやつです初登場です多分あんま出ません
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