虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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ゲヘナ視点ももう終わり。


終わる時を待つ

 

「社長!」

「アル様!!」

 

 声が聞こえたその時、自然と脚が進行を止めた。その瞬間、構えていたエルが見えない速度で鞘から抜き横一文字に地面が断ち斬れる程の斬撃を一太刀に複数回浴びせた。

 斬撃が地面に亀裂を作る。声が聞こえていなければ、アルはその場で何枚にも卸されていただろう。だがそれすらも無視し、アルは声のする方へ振り向いた。

 

 そこには、既に傷だらけの二人。カヨコとハルカが必死の表情で、今にも泣きそうになりながら大声を上げる。

 

「社長……それ以上は、自分を犠牲にしちゃう」

 

「止まって……ぐださい、アル様……!」

 

 既に自分達の方が苦しいというのに、それを知った上で私の止めに入る。

 痛い筈なのに、苦しい筈なのに。今にも痛みに悶え叫び声を上げられるというのに、その瞳は真っ直ぐ、アルだけを映していた。

 

 進む亀裂が、何かで埋められていく様な感覚。直後、エルの蹴りがアルの背中を捉え、強い衝撃と共にアルはカヨコ達の元へ飛ばされた。

 二人でアルを受止め、顔を見合わせる。

 

「カヨコ……ハルカ……ムツキが……!」

 

「分かってる、到底許せるものじゃない……けど、そこで暴走したら相手の思う壺」

 

「室長の為にも……アル様の為に、この命を掛けるつもりです」

「ですから……独りにならないでください」

 

「……二人共、ありがとう」

 

 自分を許せなかった。

 あの時、あと一秒起きるのが早かったら。あの時、咄嗟の判断で銃を取り出せたら。考えれば考える程、自分の弱い所が滲み出てくる。世界一のアウトローになろうもしているのに、仲間を想うだなんて相応しくない。

 でも、もしそれが『正しい選択』だと云うのなら――――

 

『そんなもの、ならなくて良い。なれなくて良い』

 

 涙を流し口を震わせる。敵を目の前にしながら、二人は涙脆いリーダーを優しく、その手で抱き締めていた。

 

「ごめんね……ありがとう」

 

「おかえり……社長」

 

「はぁ……あ〜、敵そっちのけで仲良しムードか……?」

 

 向こう側でエルが口を開く。よく見ると、エルは十分な休憩があったにも関わらず息を切らしていた。

 咳を吐き、汗を拭う。エルは体力に限界を迎えていると感じさせながら、小さく呟いた

 

「ったく……人に大技二回使わせておいて……運の良い奴だ」

 

「大技……もしかして、さっきの……」

 

 アルがそれに飲まれかけながらエルの頭部を掴んだ時に、まるで瞬間移動したかの様に思わせたあれと、先程アルの当てかけた横一文字の斬撃。その事だろう。

 アルは涙を拭い、形勢を立て直す。今が絶好のチャンス、ムツキの仇も含め、強くなった便利屋が改めてエルの前に立ち塞がった。

 

「エル、貴方の事を聞かせて」

 

「……急になんだ」

 

「貴方、相当ゲヘナを嫌っているのよね。その理由を聞きたい」

 

「今更聞かせて、何になる?……それで!アイツらが帰ってくるとでも言うのか!?」

 

「帰って……くる……何がよ」

 

 しまったと言わんばかりにエルの顔が冷静になる。それも直ぐに崩れ、嫌なものを思い出したのか、辺り一面に感じる威圧感も少し弱くなった気がした。

 目を閉じ、何かをゆっくりと思い出す。そして目を開いた時、悲しそうな目でエルは口を開いた。

 

「そうだな……嫌な事を思い出させた礼に、教えてやる」

 

 何故、ゲヘナを嫌うのか。

 

︎ ✦︎

 

 最悪の戦争。当時そう名付けられた戦争の名。

 雷帝の起こしたものは絶大であり、ゲヘナの範疇でありながら私達トリニティにまでそれを影響させに来ていた。

 

 当時私を含めた三人のティーパーティーには勿論全員が個人で従えている部隊も存在する。その中でも、私の部隊はティーパーティーに収まらず、トリニティ内でも有数の実力者集団だった。

 当時最強の名を持っていた私についてくる為か、その部隊に誇りを持っているのか、皆独自の方法で私に負けず劣らず強くなった結果のものだった。その景色が微笑ましく、私は好きだった。

 

 そんなある日に『それ』は起こった。

 

「おい!どう言う事だ!!何故私の部下を現場に向かわせた!」

 

「……今すぐ動かせられる人員を見た時、貴方の部隊しか無かったのです。この様な事を許して下さい」

 

「許せだと?許せられる訳が無いだろう!そもそも、何故私に許可を出さなかった!?」

 

「貴方なら、こんな危険な事……許可を出す訳が無かった!だから、こうするしかなかったんです」

 

 当時の状況では、向かう者は大体の確率で死亡か意識不明の重体。それを私達ティーパーティーは知っている上で、二人のティーパーティーは私を抜いて勝手に私の部隊を派遣に行かせた。

 

 無論、全員死ぬ前提で。

 

 許せなかった。立場上そうそう動けない私、トリニティでも、キヴォトスでも類を見ない実力を持っている私が、大切な仲間を見殺しにする。

 もう一人、私の友達が居た。トリニティ独自の法律が生まれたと同時に作られた『裁判官』の立場に初めて成った、私の大切な大切な友達。

 

 彼女もまた、非力ながら単独で奴の元へ向かい、死んだ。

 

 法の上では無敵であるこの力も、トリニティの外では力が発動しない。その時、私達は初めて知った。

 既に知っていたら、私も一緒にいけたのに、止める事が出来たのに。止めるよりも早く、いってしまった。

 

「お前が……仲間も、友達も……全部を奪った元凶」

 

『この戦いはお遊びじゃない……殺し合い。今更恨んでどうするの?』

『私達は、表も裏も無い……思った事をそのままする。ゲヘナ人さ』

 

「そうか……お前も、ゲヘナも――――」

 

︎ ✦︎

 

「……別に、理不尽に嫌っていた訳じゃない」

「ただ……仲間を殺され、友達を殺され……私も殺された。お前達のトップが、嫌いだったんだ」

 

「…………」

 

 学園を超えて、嫌う理由。その答え。それにアル達は言葉を発せなかった。

 同じ体験をした訳でも、それに近い境遇を受けた訳でも無い筈なのに、そこには確かな『悲しみ』がある。心がどっしりと重くなり、嫌でも共感しようとしてしまう。

 

 人の事を想う彼女にとって、それは耐え難く、許し難い事だった。

 

「――――ごめんなさい」

 

「……何故、アルが謝罪する?」

 

「貴方の事は知らないし分からない。貴方の過去も今知った。その雷帝……って事も全く分からないし、知らない……けど」

「貴方がこの世界から居なくなってもここに留まり続ける理由……分かった気がするの」

 

「許せないと思う。私もこんな事で許されると思ってないわ……けど、その人雷帝の代わりに、今ゲヘナの代表として……謝りたいの。ごめんなさい」

 

 一方的なエゴで行うアルの行動は、正解とは言えない。が、その言葉には一切の偽り無く、真っ直ぐな言葉だった。

 エルの恨みは強い。未だこの現世に留まり続けている事が証拠、だが少しだけ軽くなる様な、欲しかった言葉の様な。

 

 彼女の心にもまた、彼女を想う子達が居た。

 

「……今思えば、死んだからといって復讐しろなどと、言う様な奴らじゃなかった」

「私の一方的な想いで、勝手に恨み、復讐を決行し返り討ちにあっただけか」

 

「感情的になっていただけで、既に解決していたじゃないか」

 

 優しい空気が流れる。彼女は刀を下ろし、深く深呼吸をした。

 そして、最期の戦いの風が吹く。

 

「ありがとう、その言葉に救われた」

「最後に、強者だった者として……再度、手合わせ願おうか」

 

 痛々しい針の様な殺意は消え失せ、戦う者としての尊敬を肌で感じ取る。

 三人は互いで見つめ合い、笑って頷く。もう死は感じない。

 

「ええ、これが最後よ!」

 

「ああ……よろしく頼む」

 

 瞬間、エルとハルカが飛び出す。抜刀する刃はハルカの首を捉えるが、ハルカはショットガンを盾に刃を受け流す。

 一瞬の余韻を利用しハルカは脚を払う瞬間、エルはジャンプで宙に浮きながら再度刃を横に振る。ハルカはバク転の容量で脚を刃の側面に向けて蹴ると、そのままエルは横へと飛んだ。

 

 飛んだ先に、カヨコが現れる。

 

「アンタのまだ見てない技、見せてあげる」

 

「……魅せてみろ」

 

 高速で背後を取り袈裟斬りをした、カヨコは認識すると数センチギリギリで避け、喉と心臓、腹に三発拳を放つ。それをもろともせず燕返しで不意を突くがまるで見えているかの様に再び避け、数発拳を放つ。

 

 エルは一度距離を取り、冷静に分析し始めた。

 

「今のは一体……」

 

「少し無理する上、一瞬使うのにタメが必要だから使い所はあるけど、使い始めたら一瞬」

「やり方は簡単、目に映る情報から出る攻撃ルートを生み出して、そこから絞っていく」

 

 数千から数万のルートを用意し、一つ動く事に『次に出せる技』を絞っていく。理論上、物理的に不可能な動きを除外し可能な動き、技だけで絞っていくと、攻撃の当たるギリギリにその出る動きが見え、避けられるというもの。

 これは目に極端な圧力を掛け動きを超スローモーションへと変換し、目だけで全てを完結させるというカヨコにしか不可能な特殊技。

 

「長時間使用してると目が破裂する危険があるけど、短時間なら十分。どれだけ相手が格上でも為せる特別な技」

 

「成程……それは凄いな」

 

 これ以上の戦闘は危険と感じたエルは、一番の成長を見せたアルへ視線を向ける。

 エルは直ぐに標的を変えアルの元へ走り出す。その姿に、誰一人焦る者は居なかった。

 

 力を込め、エルが刀を振るう。そこから成される斬撃は建物を当たり前の様に断ち斬る斬撃、受け止めるよりも避けた方が懸命だった筈だが、アルはそこに立ち刃をよく見る。

 刀が振り下ろされた瞬間、アルの内側からあの時感じた黒いものをもう一度、擬似的に作り出す。

 

 腕が黒くなり、アルは腕を振るう。刃と腕が接触した瞬間、強い衝撃が辺り一面を吹き飛ばし、台風の様に風が円を作る。

 

 そして、エルを吹き飛ばすと同時、エルの持っていた刃に強いヒビを入れそのまま、刀を折った。

 

「刀を……折った!?」

 

「……で、出来ちゃった……わ」

 

 やった本人も驚いた表情でカヨコ達と顔を見合わせる。遠く吹き飛んだエルは膝を着き、既に限界の様だった。

 刀は折れ、体力も無い。既に体が消えかかっている。震える手を抑え、まだ戦えると折れた刀を杖代わりに立て尚、膝は着いたままだった。

 

「まだ来るかもしれない……皆んな、警戒して」

 

「はい!」

 

「……ええ」

 

 警戒する先、エルは立ち上がろうとしても体が動かず、既に悟っている様だった。深く深呼吸をして、最期を覚悟し力強く立ち上がる。

 心が震える程空気が振動する。そして『大技が来る』そう思わせる。折れた筈の刃が伸び、元の形に戻り、片手に刀を持つ。

 

 そして、日常会話の様にエルは口を開いた。

 

「アル、お前は普段何をしている?」

 

「……え?え、ええっと……何でも屋!便利屋をやっているわ」

 

「何でも屋……それは本当に何でも良いのか?」

 

「ええ、何でも、よ!」

 

「――――成程」

 

 刀を構える素振りは見せず、攻めようともしない。怪しげに思っていると、エルは刃を自分の方向へと向けた。

 

「便利屋……か、覚えておこう」

「次来た時、その時は正式に依頼させてくれ」

 

「……貴方、まさか……!」

 

 エルは持っていた刀を自分の首に当てると、一瞬の迷いも無く刀を引いた。

 血が出る筈が、亡霊聖徒だから血は無い。だが、体が直ぐに崩壊を始めた。そして消滅する最期の瞬間まで、エルは真っ直ぐな目でアルを、便利屋68を見つめていた。

 

「し……居なくなった……?」

 

「ええ……あ!ムツキ!!」

 

 長いようで短い戦いでも忘れていた程の激戦を超え、倒れるムツキの元へ全員が駆け寄る。再び涙を浮かべる三人が悲しみに埋まっていると、カヨコが何かに気が付いた。

 一線の血を流し大に倒れるムツキの体をよく見ると、深くは傷を負っていない事に気付いた。それを見ていると一瞬、戸惑いが生まる。

 

「――――あ〜、もう終わった?」

 

「ムツキ……もしかして、生きてる?」

 

 そうカヨコが問うと、少し気まずい表情をしながらムツキが体を起こす。涙を浮かべていた二人は驚きと同時に幽霊を見るかの様な恐怖に襲われる。

 

「ゆ、幽霊!?」

 

「違うよ……アイツ、深くはやらなかったみたい……真っ二つにも出来た筈なのに」

 

「目は、大丈夫?」

 

「うん、辛うじて開くぐらい……直前に閉じたから、傷も付いてないはず」

 

 死んでいたと思っていた仲間も死なず、重症も負っていない。キヴォトス最強を相手にしていたとは思えない負傷の少なさ、それは本人が無くす痛みを知っていたらからか。それとも――――

 

「……あれ?あそこに何か……」

 

「これって、エルの持ってた刀?」

 

「そうみたいですね」

 

 傷一つ付いておらず、戦った痕跡は無い様に見える。

 アルがその刀を持つと、妙な暖かさを感じた。そこから出る想いを受け止め、アルは皆んなの方向を向いた。

 

「終わる時を、待ちましょう」





八月を超え、九月になりました。九月は秋らしいですね。読書の秋、食欲の秋、まず秋なんて無かった。
猛暑が続く秋は夏なんよ。熱中症に気を付けよう!そして今年もあと三ヶ月ですよ。思い出作ろう!

では。
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