虚弱先生の青春物語   作:不透明な水滴

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負と戦いと立ち上がり

 

「……嫌な匂いだ」

 

「そう?私は好きだな」

 

 ゲヘナ本部から正面、委員長空崎ヒナの通信が途絶えた事により現場は騒然としていた。

 トリニティ中心に放たれた正体不明の巨大爆発、その影響は大きく、現状死者負傷者は共に二百を超える。そしてその爆薬の匂いは余りに広く、数百km離れた本部にさえ届いた。風紀委員会が騒いでいる中、遠くで煙の上がっている場所を見つめ、鬼怒川カスミはそう呟いた。

 

「部長、凄い顔してる」

 

「……そうだろうか?」

 

「うん、何と言うか……凄い険しい、嫌な気持ちになってる」

 

 隣でそう言う彼女の名は下倉メグ。彼女の勘は鋭い、時になんの脈略も無くカスミの思っている事をドンピシャで当てる。それは何も考えていない故か、考えていないからこそ見えるもの、感じるものがあるのか。

 多くの部下を従える部活『温泉開発部』委員長を含むゲヘナそのものが対処に困っている程面倒な存在。それでいて自由奔放、何をするか分からない危険さ、それを簡単に操ってしまうのが、鬼怒川カスミという者の強さ。

 

 そして過去を知る者からこそ、その匂いにはより強い不快感を覚えていた。

 

「嫌な思い出しか思いつかんな……」

「時にメグ、もし仮に……ゲヘナ最強と謳われる風紀委員長よりも強い者が現れた時、どうする?」

 

「どうする?う〜ん、あの委員長よりも強いって事は戦っても勝てないし……仲良くなる、とか」

 

「仲良くなる……本当に出来ると思っているのか?」

 

 イオリ達に見つからない広場の建物の屋上に居座り、その目は常に煙を見つめていた。

 そしてその問いに対し、メグは対話、和解を求め信じている。その時、カスミは自身の中で何かを確信した。屋上から続く階段に踵を返し歩き始め、その後ろを嬉しそうにメグが着いてきた。

 

「メグ、お前はきっと……アイツよりも強い」

 

「アイツ?アイツって?」

 

「まあ、近い内に会えるさ」

 

︎ ✦︎

 

 ゲヘナとトリニティを繋げる唯一の大橋、灰色に染った曇り空は太陽光すら通さず、どんよりとした空気感と『あと匂い』で満ち足りていた。

 そこに車を停め、外の様子を伺う四人の姿があった。

 

「これ、トリニティ入れるの……?」

 

「今の所警備など見当たりませんが、流石にそれ所では無いという事でしょう」

 

「この匂いに汚染され、食料が駄目になってしまう前に入りたいのですが……」

 

 温泉開発部、便利屋68に肩を並べるゲヘナ屈指の悪集団『美食研究会』

 美食の為なら侵入、戦闘、崩壊、爆破も躊躇わず、戦闘力の高い集団であり風紀委員会が追い掛け続けている。そんな美食研究会も事情があり、こうしてトリニティへと脚を踏み入れようとしていた。

 

 美食研究会はエデン条約も含め様々な所で先生との関わりがある。その先生が現場に居ると知り、一時的にトリニティを荒らしてしまった事への謝罪、そして状況が悪ければ先生の助太刀も考えていた。

 

「まあ警備もいないという事は、入っても良いという事でしょう」

 

「でもさ、今のトリニティに私達が行ったら敵だと思われたりしない?」

 

「まあ、その時は……その時ですわ!」

 

︎ ✦︎

 

 戦況は変わらず、剣先ツルギと羽川ハスミはアリウスの一人戒野ミサキとツルギを模したコピー体との戦闘を繰り広げていた。

 ツルギ達の目標はミサキの確保、そしてコピー体の撃破。現状トリニティでツルギと対等に戦えるのはミカ、状況次第でハスミだろう。問題なのはコピー体でもあるが、戒野ミサキの存在。

 

 トリニティには元々アリウスがあったからツルギ達は理解している。アリウスがトリニティ、いやキヴォトスでも有数の鬼畜学校だと。

 一触即発の空気の中、ミサキに一通のメールが飛んだ。

 

「……なるほど」

 

「どうした、今更になって臆したか?」

 

「……リーダーは先生を殺すと言っていた。もう時期戦いは終わる」

 

「待て、それはどう言う意味だ」

 

 ミサキはツルギの言葉に耳も傾けず、煙幕弾のピンを抜き中心へと投げ捨てた。直ぐに煙幕弾爆破し辺り一帯に煙が舞う。

 ツルギは限界まで目を開け続けミサキの影を追いかけようとしたが、ほんの一瞬瞬きをした瞬間ミサキは姿を消してしまった。一瞬の隙を逃してしまいツルギは煙幕一つに惑わされる奴だと自分を怒りのまま歯を食いしばった。

 

 間髪入れず、風圧で煙幕が消えると同時コピー体はツルギに向けて真っ直ぐ拳を突き出した。再び隙を突かれ攻撃を直に受け止めてしまう。

 

「ツルギ!?」

 

 崩れ山になった瓦礫に全身を打たれ、轟音と共に肉が切れる。既に息をしている事すら不思議な程血を溢れさせ、体の節々も骨が砕かれていたり折れている。それでも、兵器は立ち上がった。

 

「……思えば、想像もしていなかった……『最強』と謳われる剣先ツルギ、自分自身と戦うというのは」

「不思議と、笑えてくるな」

 

 白い煙を体から立たせ、膝を着く事なくツルギが立つ。直前でコピー体にやられた傷の大半はその一瞬で既に『完治』まで達している。これが、これこそが誰も彼女に追いつけない理由。

 

「実際、そのコピーはどこまでの私だ?まさか、見た事も無い本気の私じゃないだろうな?」

「私は、私自身と戦う事でやっといつも通りの実力が出せる」

 

「もしかして、ツルギ……貴方、初めから本気じゃなかったの……?」

 

「本気、か……いや、まず今まで力を抑えて戦っていた」

 

 長い間共に戦ってきたハスミでさえ、ツルギが本気、否。通常の状態ですら数回しかないのだと言う。何故彼女が力を抑えていたのか、それは当時のトリニティ、そして今のトリニティもツルギにとっては弱いものであり、力を抑えなければ簡単に破壊してしまうから。

 だがそんな彼女も今まで数人、本気でやりあってみたい人達は多く増えた。それでも簡単に戦う事は叶わず、たった一人で戦場を彷徨っている。

 

 戦場の敵でありながら自分と同格、これ以上に嬉しく楽しい事は無い。

 

「私に尽くせ、神秘共」

 

「……!この感覚は……!」

 

 ツルギの一言に、空間に漂う神秘達はツルギの名に従い、傷を癒す。瞬きをする間に神秘は傷口を塞ぎ、骨も治す。ハスミが認識するよりも早く、気付けばツルギの体は完全に治り準備運動を始めていた。

 

「ハスミも早い内に取得しておくと良い、辺りに散らばる神秘を吸収し回復、例え回復力が弱くとも有利は取れるぞ」

 

「それが出来たら苦労はしません、天才なんですよ貴方は」

 

「天才か……身に余る言葉だ」

 

 直後約百二十秒後、誰も近付ぬ戦場と化す。

 ツルギが走り出すとその速度を上回り、ハスミがコピー体の背後へ回る。ツルギは牽制程度にショッドガンを撃つがコピー体は避けも守りもせずツルギを睨み続け、そのまま互いにぶつかり合う。超至近距離で殴り合いが勃発する、一つ衝撃が生まれる度地面が震え、空気が押し出される。その勢いにハスミは追いつけずにいた。

 

「直接殴り合いをしてしまえば、同時に倒れてしまいますよ!品の無い戦いを辞めなさい!」

 

 聞く耳持たず殴り合うツルギ達に向けてハスミは容赦無くスナイパー弾を放つ。秒速何百何千の速度で放たれる銃弾は本来捉える事すら不可能だが、丁度良くコピー体が背を向けるタイミングで当たると思われた銃弾は直前でコピー体が首を無理矢理真後ろへ回し歯で止めてみせた。

 首を真後ろへ回した時点で首は捻じ折れている筈、だがコピー体はその尋常じゃない回復速度を利用し無理矢理可能とさせた。その上スナイパー弾を口で止める。

 

「そんなの、可能なんですか……?」

 

「実際、やったのだから仕方無い」

 

 この間にもツルギは殴り合いで何度も腕や脚を折っており、その都度コピー体は回復し骨を直していた。これは本来の状態のツルギと同等、超える事は無いが余りにも互角で続いていた。

 コピー体が脚に力を込め地面にぶつけると、既に過激な戦闘で崩れていた地面は崩壊を始め、巨大なクレーター型へと変わりツルギ達も流れ落ちていった。

 

「おいハスミ、これはトリニティの経費で落ちるか?」

 

「そうでなきゃ困ります」

 

「……だな」

 

 コピー体を前にし、今だツルギもハスミは余裕そうな表情を浮かべ、寧ろこの先の心配をしていた。

 

︎ ✦︎

 

「二人は、皆んなは大丈夫ですか!?」

 

「だ、大丈夫ですから!落ち着いて……」

 

 トリニティ医療室には今までに類を見ない程の患者が送りており、内部でも混乱が続いていた。

 負傷者は既に四桁を迎えている。幾ら二大学園とはいえ、一度に何千と人を管理できる訳では無い。その上爆発から助かった生徒達は高確率でこうして医療室へと押し掛ける。

 

 勿論、まじかで爆発を受け運良く無傷だった下江コハルもその内の一人だ。

 

「最低限の処置をしていたお陰で特に大事には至っていませんでした。恐らく後遺症も残らないかと」

 

「なら……良いんだけど」

 

「……心配するのも分かります。ですが現状が変わらない今、ただ嘆いて終わる訳にはいきません」

 

 幸運な事にも医務室や治療室は爆発の影響を余り受けておらず、予想以上に生徒を入れられている。混乱は続いているが、やがて人も回復し復帰すれば戦況も多少良くなる筈だ。そう信じている。

 

「今の時点で死者も少なくは無い。既に数十……数百は覚悟しています」

「死んでしまった者、戦えない者の為にも、今私達が動かなければいけないんです」

 

「……そう、だよね」

 

 気の弱い、力も無い。だけど助けたい気持ちは誰よりもある。コハルは立ち上がり、出来る事をやろうと動き出そうとしていた。その時、コハルの横をダッシュで駆け抜ける風を感じた。

 白い髪に白い羽根、コハルがヒフミとハナコをたった一人で守り抜いた時助けに来たたった一人の生徒。

 

「あ、貴方は……!あ、あの!」

 

「……?私ですか?」

 

「そ、そうです!あの時、助けてくれて……」

 

「……あ、あああの時ですね。私は私のやるべき事をしたまでなので、気にしないでください」

 

 噂には聞いた事のある、トリニティ非公認の組織『トリニティ自警団』のリーダーであり、トリニティの間では『走る閃光弾』として耳にした事があった。

 細かな実力は不明だが、噂では正義実現委員会の副委員長と同等、もしくはそれ以上だとか。

 

「守月スズミさん……ですよね」

 

「……私の名前を知ってるんですね。意外でした」

 

「あの、時々見掛けたりとかしたり……まさか話せるとは思えなくて」

 

 評判はそこまで良くないが、単純な実力や立ち回り、役割は下に付いている者は一度憧れるものがある。

 だがここで憧れに戸惑い止まっている場合では無い。スズミにはスズミの役割、そしてコハルにはコハルなりの役割がある。それを理解しているコハルは自分から踏み切りをつけた。

 

「大変だろうけど、頑張ってください」

 

「はい、貴方も、何かやるべき事を見つけている様ですね。お互い、頑張りましょう」

 

「……はい!」




不定期すぎるので思い切って無期限休止です。原因は大体わかってますね、自分の脳内で完結させてしまったからです。これ以上想像する事が無くなったので意欲が下がり続けた結果ですよこれがぁ!
帰ってはくると思うんですが一年か二年かは分かりません。ただその場その場に作り始めてしまう癖を辞めたいので作り置きという概念をやります、あと短編やりたい。なので暫くバイバイで〜す。以上
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