御伽の魔女の召使い   作:──

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遠い春の日

最後に話したのはいつだっただろうか。

何年も前の、春の晴れた日だったはずだ。

一番型となった姉さん、二番型となった兄さん、三番型となった弟。

それぞれの、最後に出会った日の顔が思い起こされる。

試作型として最初に人形となり封印された私は、彼らの中の誰よりも家族の記憶が少ない。

あぁ、兄さん姉さん、私は今……あなた方が言ったように力を尽くせているだろうか。

月はそんな私を照らす、ボロボロの手足を暴き出す。

 

吠えて噛みつこうとした野犬を撃ち殺す。

有珠さまを狙おうとした野犬を薙刀の石突で殴り殺す。

私は、私の役目を果たせているだろうか

壊れかけの五体に力を込める──五体と言うには二つ足りないけれど──私はまだ倒れるわけにはいかない。

 

チチチ、チチチと五月蝿い鳥の声がする。

ああ、本当にうるさい、私はもう目も見えてはいないのだから、残った聴覚くらいは邪魔しないでいて欲しいものだ。

先ほどの人狼の一撃は酷かった、私の左足をちぎり取ると同時にその衝撃は私の内部を滅茶苦茶に引っ掻き回した。

嗅覚と視覚は破損(ショート)、魔力の生成と制御の役割がある体内に刻まれた無限の文字たちもその半分が意味を喪失した。

どちらも再生は可能だが、かなりの時間を要するだろう。

この野犬どもは一匹一匹は弱いが、あの人狼にあてられているのだから、少しの神秘を纏っている。

私の結界も魔力の制御が乱れた今では紙同然だ。ここでこの野犬どもを殺さなければ、私が倒れた後に食い殺されるのは私の主人になってしまう。

吠える野犬を殺し続ける。

 

「…………黒戸?」

 

背後から声がした。

私が家を守っていろと言いつけた男は、愚かにも私たちを助けようとこんなところまで走ってきたらしい。

 

────────────

 

それは、まるで枯れ木のようにそこに立っていた。

目が見えていないのか、野犬が吠えるのを待ち、吠えれば魔術でそれを粉々にする。

その炸裂音は夜の街に響いていた。

森林公園に着いたその時、草十郎は少しだけ安心してしまった。

だってそこには、しっかりと立っている人影があったのだから。

しかし、近づいて初めて草十郎はその違和感に気がつく。

右足と左腕がない。

四肢のうち二つを喪失した人影は、なんらかの残骸を右手で杖のように持ち、その体を支えていた。

そのボロボロのロングコートには見覚えがあった。

 

「…………黒戸?」

「──静希、草十郎。私は家に居ろと行ったはずです。……ですが、ちょうどいい。有珠さまはそこの電話ボックスの中です。私のことはいい、必ず連れ帰ってください」

「でも、そしたら……」

「もう一度言います。私のことなどどうでもいい。有珠さまを、頼みます」

 

あたりを取り囲んでいた野犬はいつのまにか消えていた。

少女はそれきり、糸の切れた人形のように倒れ伏した。

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