御伽の魔女の召使い 作:──
さて、年明けも迫るある日のこと
青子が草十郎を伴って実家へと戻って行ったその日。
「二人きりですね、有珠さま」
「──そうね」
語尾に♡が付くのではないかと思うほど甘い声でにじりよって来る従者に困惑を隠せない有珠。
そんな有珠の隣に座る黒戸は傍目にわかるほど上機嫌で、そんな彼女にほとんどなんの反応も示さない有珠を楽しげに見つめている。
言葉もなく数十分経過した頃、有珠が突然
「…………クロ?」
「?私のこと、ですか?」
「えぇ、あだ名よ。……友達になるには、それが一番早いと聞いたから。クロ、でいいかしら?」
黒戸は意図が理解できないと言ったふうに首を傾げる。
彼女は人並みの感情や知識はあるのに自らの立場は従者以外の何者にもなれないと思い込みがちで、その結果として今の有珠の言葉の意図を理解できていない。
「……だから、主従じゃなくて、友達になりましょう?私たち」
「……!?よろしいのですか?私なんかで?いえ、あの、私は良いのですが……務まりますでしょうか?」
「友人というものは、務まるかどうかという基準で話すものではなくて、ただお互いがそれを望むかどうか、きっとそれだけよ。私はあなたときっと良い友人に、いずれ親友になれると思うのだけど」
「……不束者ですが、よろしくお願いします」
こうして黒戸と有珠はただの主従から、主従であり良き友人へとその距離が縮まった。
「あ、それはそれとして有珠さまの従者としての仕事は放り投げないので、命令はいつでもお気軽に。……というか、それがなくなったらかなり大事なアイデンティティが消失いたしますので」
「もちろん、ここまでできた従者を手放す気はないわ。……ただ、日々の不満とか、雑談とか、そういう話をもっと気軽にできるようになりたかったの」
本で顔の半分以上を隠しながらそう言った有珠。
黒戸はそれならば、とさらにお互いの距離を詰める。
二人しかおらず余裕があるはずの居間のソファの上で、二人の距離感は満員電車の座席ほどの、ギリギリ触れてはいないがお互いが少し動けば触れ合う距離にまで近づいていた。
「……有珠さまともっと仲良くなれて嬉しいです。これからもよろしくお願いしますね?私のかわいい有珠さま?」
「えぇ、来年も再来年も、その先もよろしく」
冬の寒さを温めるように、黒戸が有珠を優しく抱擁する。
有珠はそれを抵抗もなく受け入れる。
「……腕も足も、直っているのよね」
「えぇ。神経さえ通ってはいますが、元から魔術を込めた義肢ですので。再生しますし、再生しなくとも替えが効きますよ。一本要ります?」
「────、やめとくわ」
「かなり悩みましたね?温もりがご入用でしたら是非!私と添い寝しましょ?」
有珠の手を取り、指を絡めようとする黒戸の手を優しく振り解きながらも有珠は黒戸との距離が縮んだことを感じ、少し面倒な性格をしている雰囲気がするものの、それを喜ばしく思った。
さて、そんな一日は帰ってきた青子と草十郎が二人の距離感の変化に目を剥きつつも、概ね平和に終わった。
そんな有珠は今……
「……どうして、こうなったのかしら」
「…………むにゃ、ありしゅさま──」
従者の部屋で、従者のベットで、眠る従者に抱きしめられつつ、自身の迂闊さを少しだけ後悔し、そして……
「……え」
天井一面に貼り付けられた自身の写真に戦慄するのであった。
主従→主従兼お友達
という距離感の変化に浮かれてしまった(浮かれすぎた)従者の明日はいかに──!?