御伽の魔女の召使い 作:──
さて、いろいろ紆余曲折あったり趣味がバレたりしたが、私と有珠さまは晴れて友人、ひいては親友となったわけだ。
最近は有珠さまが私に笑みを見せてくれるような機会も増えて、時々〝隣に座って〟と求められちゃったりなんかして!
友人としてはこれ以上ないほどに近い距離にいて、自惚れかもしれないが有珠さまの人間関係の中で誰よりも信用される立場に私はいるのだと思う。
だが、否だからこそ、この関係を一歩先に進めるための一言が、私は言えないままでいた。
たったの二文字が、これまで有珠さまに言ったどんな言葉よりも重く喉に引っかかる。
原因などわかっている、きっと私は拒絶が怖いのだ。
誰よりも愛しい、誰よりも大切な、誰より素敵なヒト。
そんな人に愛を伝えて拒絶されてしまえば、私はきっと立ち直れない。
人としても、有珠さまの従者としても。
「……どうしたの?クロ」
「──いえ、特に何も。ただ少し考え事をしていたのです」
「そう、悩みなら相談してもいいのよ」
「お優しい言葉をありがとうございます。でも、これは私が考えなければならないことなので」
「………………そう」
さて、それはそれとして私には差し迫った問題がもう一つ。
有珠さまの誕生日のための準備だ。
そのために数日屋敷から離れる必要があるが、そのためにはまず誰か──おそらく静希草十郎が適任──に屋敷での仕事を引き継ぎし、その上で有珠さまに説明をして暇をもらう、またはサプライズのために無言で離れる、のどちらかを実行しなければならない。
「……という話なのです」
数時間後、私は静希草十郎に私の計画を話して協力を取り付けようとしていた。
「あぁ、わかった。仕事の引き継ぎは任せてくれ。……でも、暇をもらうくらいはしっかりと有珠に言うべきだと思う」
「……そうですね。では、あと数日したら私は、有珠さまから暇をもらいまして屋敷を離れます。私がいない屋敷をよろしくお願いします」
私はこうして、無事に彼の助力を得た。
準備は万全、あとは実行するための時間を有珠さまに乞うのみである。
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『──あと数日したら私は、有珠さまから暇をもらいまして屋敷を離れます』
ありえない言葉が聞こえた。
彼女が離れる?この場所を?
ありえない、そう思いたいという気持ちが胸を埋め尽くす。
『いつまでもお側におります』
と言ってくれたのを覚えている。
『あの程度で全損するのでしたら、あなたの従者として失格ですから』
と胸を張って少し自慢げだった表情を忘れていない。
私を守ろうとしてくれた、あの背中を忘れるわけがない。
そんな彼女が、館を離れる?
にわかには信じがたいが、聞こえたその言葉は現実だった。
その日の夜、私は部屋に彼女を呼びつけた。
彼女をドアから一番遠い私のベッドの淵に座らせると、私はそれに向かい合うように立って、彼女を見下ろす形で会話を始めた。
「クロ、私に何か言うことがあるでしょう?」
「……?今のところは特に……」
「……嘘よ。私、聞いていたわ」
そう言うと、彼女は小さく、しかし確かに平時よりも大きく目を開いた。
「──聞いていたのですね、有珠さま。ならわかっていらっしゃるかと思いますが、明日より暇を……」
その時、私はどんな表情をしていただろう?
少なくとも、クロが話を止める程度には酷い顔だったはずだ。
だってそれは、私たちの関係を終わらせる一言だから。
そのような軽い口調で言っていい言葉ではないはずだから。
だから私は、あんな軽い口調でそれを言おうとしたクロに途轍もなく──おそらく私の人生で一番──腹が立って、気がついたら私は……
「巫山戯ないで!」
彼女を、ベッドに押し倒していた。