御伽の魔女の召使い 作:──
静希草十郎が目を覚ますと、そこには遊園地で草十郎と青子を襲った少女と、その近くに立っていた従者らしき少女の二人がいた。
直接攻撃を行ってきた少女は椅子に座りこちらを見下ろし、もう一人の少女はその斜め後ろで立ったままこちら……というよりも座る少女を見守っている。
座る少女の人形のような美しさと違い、もう一人の少女は触れた途端に塵となって掻き消えそうな儚さがあった。
伏せられた目は有珠以外の何者も見てはおらず、腰のあたりで祈るように組まれた手は、命ぜられるまで何一つ動作を行わないのであろうと容易に想像できた。
その少女について草十郎が質問するよりも早く、青子が現れて座っていた少女を追い払った。
もう一人の少女は数秒だけその場に止まっていたが、少し眉間に皺を寄せた後その場を去った。
後ろ手に、俗にドスと呼ばれる類の短刀を所持していたことを草十郎は触れないことにした。
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有珠に関して、青子と一通りの質問と会話が終わった後、草十郎は思い出したかのように質問をする。
「そういえば青子、もう一人いたぞ。有珠の後ろに立ってた女の人は誰だ?」
「……アレは久遠寺黒戸。久遠寺家の養子で、有珠の世話役兼護衛役。どう見ても有珠の方が強いんだけどね、お互いのことを気に入ってるみたいで離れないのよ。あ、でも攻撃性で言うと有珠より酷いから気をつけなさい。黒戸の前で有珠に少しでも眉を顰めさせたら、アンタの首が飛ぶわ」
「だいぶ攻撃的だな」
「それくらい有珠を大事にしてんのよ」
居間に移動して会話をしていた際もやはり、黒戸は有珠の座るソファーの後ろに立っていた。
彼女はこちらを酷く疑わしく思うような厳しい目でこちらを射抜いていた。
さて、そんなこんなで草十郎が有珠に同居人として認めてもらうための日々が始まった。
……彼の友人の木乃美曰く、仲良くなるためには外堀から埋めるのも良いと聞く。
しかし、その外堀が強固すぎるのだ。
廊下にて掃除をしていた黒戸に
「手伝おうか?」
と声をかけたところ
「これは私が有珠さまから賜った仕事です。私が遂行します」
と、冷たく突き放されてしまった。
その後、少しだけ観察していたが彼女の動きは的確で素早く、〝今日中に館全体の掃除を終わらせます!〟という意気込みが伝わるテキパキとした動きで、なんとそれを完遂してみせた。
有珠と黒戸の二人と和解しなければならない草十郎が黒戸のことを知りたがっていることなど、黒戸はとっくに見透かしていた。
そして、意外なことにそれに応じたのも彼女自身だった。
「……私の命を拾ったのは久遠寺の家です。そして、そんな私に居場所と役目をくださったのは有珠さまです。ですから、私は有珠さまが良いと言うのなら反論する気はございません。私に気をかけるよりも、有珠さまと言葉を交わすのがよろしいかと」
そこで、草十郎は彼女の行動について全て理解した。
この洋館において最もミステリアスに見えた少女はその実、誰よりも単純であった。
先ほどの攻撃的な視線や態度も、この館で目覚めたその時有珠の斜め後ろで刃物を携えていたのも、全て自分が有珠に警戒されているからなのだ。
つまり、彼女に認められるための最善手はその主人、久遠寺有珠に認められることである。
「……振り出しに戻ったな」
「ご愁傷様でございます」
黒戸はその静かな表情にわずかに笑みを浮かべ、小さく礼をするとそのまま去って行った。
取り残された草十郎は一人、久遠寺の二人組のことを脳裏に浮かべつつ途方に暮れるのだった。
久遠寺黒戸の行動指針
趣味<仕事<<<越えられない壁<<<有珠さま