御伽の魔女の召使い 作:──
さて、黒戸とマンツーマンで紅茶の淹れ方を学んだこともあり──正確には、その努力が駒鳥を通じて有珠に伝わったこともあり──さらにいくつかの会話を経て、草十郎は久遠寺邸に住む許しを得た。
しかし、まぁそれはそれとして……
草十郎に紅茶のなんたるかを教えた張本人、久遠寺黒戸は大変ご立腹だった。
何故怒っているのかは彼女以外知り得ない、しかし彼女は現在進行形で鋭い目つきを草十郎に向け、有珠と草十郎の間を遮るように有珠の隣に座っていた。
いつも有珠の後ろにいる黒戸が隣にいる様子には青子も驚いたらしく、居間に入ってこの光景を見た瞬間に目を見開いていた。
「……ねぇ、黒戸に何したの?」
「何もしてない……はず。なぁ、黒戸さ──」
「呼び捨てで構いません」
「黒戸、俺は君に何かしただろうか?」
「いえ、ただの気分です。お気遣いなく」
ちらり、と本で顔を隠しながらも草十郎の方へと視線を向ける有珠。
その瞬間に眉間に皺を寄せる黒戸。
その表情の変化の流れに、その場では青子のみが事態を理解した。
「へぇ?黒戸って人形みたいだって思ってたけど、割と可愛いところあるのね」
「……お口を閉じていてください」
「口調がちょっとおかしいの、自分で気がついてる?取り繕えてないわよ」
「私が黙らせる必要がありますか?なら──」
「黒戸、お茶をお願い。とびきり美味しいのをね」
「はい、少々お待ちください」
有珠の言葉に、名残惜しそうに席を立ってキッチンへと向かう黒戸。
彼女が離れた途端、有珠が口を開く。
「それで、彼女の変調の理由がわかるの?青子」
「えぇ、わかるわよ。アレでわからないって……、有珠も罪な女よね」
「……?」
「私が言っていいのかわからないけど……、アレは嫉妬よ。アンタが草十郎にばっかり視線を向けて、話してるから嫉妬したの」
すると、自身が睨まれた理由に合点がいった草十郎がぽんと手を叩く。
「なるほど、つまり今の俺は黒戸から教わった技術で彼女の主人を奪った不届者になるわけだな……?」
アレ?マズくない?と顔を青ざめさせる草十郎。
さしもの草十郎とて、彼女がその片鱗を見せないだけで彼女も魔術師であろうことは理解している。
そんな人間の恨みを買ったのならどうなるのか、遊園地での経験を元に、草十郎は容易に想像ができた。
「……だから、有珠が一言、アイツが一番だって伝えれば終わる話よ」
「──そんなこと、伝えなくてもいいと思うのだけれど」
「お紅茶をお持ちしました。お待たせして申し訳ありません」
やってきた彼女の表情には、先ほどのような嫉妬も、いつものような有珠へ向ける微笑みもない、無表情だった。
彼女は静かに有珠の後ろに佇む。
「ねぇ、黒──」
「先ほどは、出過ぎた真似をしました。思い上がった従者の不躾をお許しください。……館内の掃除をしてまいります」
彼女は機械的な足取りで居間を出て行った。