御伽の魔女の召使い   作:──

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望んだものは

『そんなこと、伝えなくともいいと思うのだけれど』

 

扉越しに聞こえた会話、その最後の一言。

私は、不要なのだろうか?

それとも何か他に意図が?

私の頭ではそれすらわからない。

有珠さまは私が一番だと言ってくれると信じていたのに。

夜は、昔のように冷え込んでいる。

今の私を温める光はない。

まぁ、そうだとしても私のやるべきことは変わらない。

愛する人に、最大限の愛を込めて。

たとえその愛が受け取られずとも、私はそれで幸せなのだから。

 

───────────────

 

「……あのくらいなら時々あるわ、有珠と黒戸の小さい喧嘩。前は……、夕飯を用意してた黒戸の前に外食を食べてきた有珠が現れた時かしら?半年くらい前のことよ」

 

凄まじく腹を立て、〝もう料理しませんからね!〟と腹を立てた黒戸により、自分の食事すらなくなった空腹の悲劇を思い返し、思わず腹のあたりを抑える青子。この久遠寺邸の食費及び食事は、どこが出所なのかわからない黒戸の貯金と彼女の料理の腕に託されているのだ。

 

「……でもまぁ、あの時も3日くらいで終わったし、大丈夫じゃない?」

「そんなものなのか……?」

「えぇ、そんなものよ」

 

青子の予想とは裏腹に、3日ほど経っても黒戸と有珠の関係が修復された様子はない。

しかし、黒戸はその仕草の隅々までいつも通りで、ただなんとなく変調があるだけでは、外からの説得のしようがない。

日に日に厳しくなっているらしい他所の魔術師との戦い、そしていつもなら誰が言わずともにこやかに紅茶を淹れているはずの──現在は無表情で有珠の座るソファの後ろに立つ──従者の姿によりいつもよりも冷たい雰囲気の居間に対し、少しの会話と共に草十郎は自らの財布から3枚のチケットを取り出した。

 

「じゃ、そういう事で」

 

と財布をコートに戻した草十郎。

黒戸は

 

「……そういえば、今晩の為の買い出しがまだでした」

 

と言って居間を出ようとする。

が、草十郎は

 

「チケットは三人分。もちろん蒼崎と有珠と黒戸の三人だぞ」

 

と無自覚に、そして無慈悲に黒戸の退路を押し潰した。

彼女は〝あなたのために買ったチケットだ〟という事実を示されて、それを無碍にできるほど彼女は血も涙もない訳ではなかったのである。

 

青子は対面に座る有珠を覗き見る。

有珠は、黒戸と青子のどちらに視線を送ればいいか分からず、少し視線を彷徨わせていた。

 

「……私はかまわないわ。今やれる事は全部やってあるし」

「そうね。そういう事なら、せっかくだし」

 

しばらく考えた末、そう言った2人を見て黒戸は咳払いをして呼吸を整えると一言。

 

「有珠さまが行くのでしたら……私も参ります」

 

そう言って支度を済ませるため、部屋を出た。

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