加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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【2024/09/04】
1~5話(プロローグ/初陣/ソマーラの村/戦利品/ベイルの町)について、説明不足な箇所の加筆、不要な部分の添削を行いました。
本話は順番を変えています。

ここすきの結果がズレてしまいました、以前投票いただいた方には申し訳ありません。
懲りずに投票いただけると嬉しいです。


ロクサーヌ
初陣


 

   ??????

    馬小屋?

 

――ブルルォ

 

「うぉっと!? びっくりしたァ!!」

 

 大きな音となんとも言えない獣臭、思わず跳ね起きて周囲を見渡す。

 すげぇな俺、びっくりした時に本当にびっくりしたって声を上げたことにもびっくりだよ、それぐらいびっくりしたし、相乗効果で更にびっくりしたよ。

 そして、視界に入った茶色い何かを見て、なんだ? と思った瞬間、

 

 

   馬

 

 

 馬か、確かに、馬だな。

 視界にメッセージウインドウとしか表現できないナニカが現れて、眼前の馬がなんと馬であるという衝撃の事実を教えてくれる。

 部屋着のジャージを貫通して藁がチクチクと刺さる。

 完全に馬小屋だ、牧場の厩舎じゃなく、農家のそれ。

 

 ……一体何がどうなっているというのだろう。

 昨日は確か……ネットで見つかったタイトルもわからないゲームをしようとして、世界観設定やキャラクリエイトを延々としていた。

 それで……そうそう、初期設定のボーナスポイントが99になるまでリロールを繰り返していたんだったな。

 結構な時間が掛かって、それでついつい酒を呑んで、

 

「……寝落ちしたかー」

 

 結構深酒していたし、そういえば元々飲むつもりはなかったから、いつも飲酒30分前に飲むようにしているヘパロッテ*1を忘れていた。

 こういうフルダイブのVRが実現するのはいつになることか、技術だけでなく、倫理的にも色々問題はあるだろうな。

 

 周囲に誰かがいる気配は……ない。

 ここはどこだろうか?

 

 

   柱

 

 

 ……どうも疑問に思った時、焦点があっているものの情報が提示されるらしい。

 なるほど、昨日設定した〈鑑定〉スキルだな。

 試しに自分の手に向けて……、

 

(鑑定)

 

 

   加賀 道夫

   <男・37歳>

   村人:Lv1

 

 

 勝手に発動するのは、〈詠唱省略〉も取得したからかもしれないな。

 詠唱破棄系は結構な強スキルという印象だが、ボーナスポイント3で取得できた、バランスがわからん。

 

 足がチクチクする、そりゃそうだ、裸足だもの。

 学生の頃、剣道をやっていた時は、もっと足の皮が厚かったはずだが。

 当時は面の皮も厚かった、おまけに心まで鋼鉄で武装していた。

 

 

   サンダル

 

 

 小汚いサンダルだが、背に腹は代えられない。

 

「こういうリアリティは求めてないんだよなぁ」

 

 部屋の隅の丸太椅子に腰掛けながら、サンダルに足を入れて紐を結ぶ。

 ……しかしこう、装備なんてワンクリックで入れ替えられるべきだろう。

 

 

   加賀 道夫

   <男・37歳>

   盗賊:Lv1

   装備:サンダル

 

 

「悪かったよ、はいはい、盗みましたよ」

 

 そういえば、ボーナス装備も設定していたはずだが、と小屋の中を見渡す。

 

(…………鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定――!)

 

   窓   

   柱   

   柱   

   馬   

   柱   

   決意の指輪   

   柵   

   聖剣デュランダル   

   柵   

   ダニ   

   藁   

   藁   

   蟻   

   土   

   蟻   

   蟻   

   草   

 

 あったあった……ってダニィ!? ダニは怖い、媒介する感染症がわんさとある。

 ……なんてこと、心配してもしようがないか。

 と思いつつも、身の回りに〈鑑定〉を使って身体にダニがいないことを確認してから、目的のものを回収する。

 

 

   聖剣デュランダル

   ・攻撃力5倍

   ・HP吸収

   ・MP吸収

   ・詠唱中断

      ▼

 

 

 ボーナスポイントを目一杯割り振った剣は、スキル盛り盛りでさすがの性能と言えよう。

 寸法は竹刀と同じくらいだが、意外と軽い。

 竹刀や木刀よりは重いが、片手でも振れそうなくらいだ。

 

 ……いや、確かボーナスポイントを筋力にも割り振っていたんだったかな、だからか。

 えーと、確か……、

 

(キャラクター再設定)

 

 

   キャラクター設定

 

   【ボーナスポイント】

    0

 

   【ステータス】

    腕力上昇  5

    敏捷上昇 19

 

   【ボーナス装備】

    武器Ⅵ

    アクセサリーⅡ

 

   【ボーナス呪文】

    ワープ

 

   【ボーナススキル】

    必要経験値二分の一

    獲得経験値二倍

    鑑定

    ジョブ設定

    詠唱省略

    キャラクター再設定

 

  ▶決定

   やり直す

 

 

 そうそう、腕力と敏捷値を上げてワンターンキルを狙うビルドにしたんだった。

 で、腕力上げるくらいならさいつよ武器使えば良いやんって〈武器Ⅵ〉に変えた……〈腕力上昇〉にその残骸が残っているな。

 

 ……確か〈セカンドジョブ〉とか〈サードジョブ〉とかあったっけ。

 折角? 盗賊になったのだし、〈セカンドジョブ〉……いやまた増えるかもしれないから〈サードジョブ〉にして、その分調整を……っと。

 

 

   キャラクター設定

 

   【ボーナスポイント】

    0

 

   【ステータス】

    敏捷上昇 17

 

   【ボーナス装備】

    武器Ⅵ

    アクセサリーⅡ

 

   【ボーナス呪文】

    ワープ

 

   【ボーナススキル】

    必要経験値二分の一

    獲得経験値二倍

    サードジョブ

    鑑定

    ジョブ設定

    詠唱省略

    キャラクター再設定

 

  ▶決定

   やり直す

 

 

 ……うん、〈腕力上昇〉を下げても聖剣デュランダルは重くはないな。

 

 それにしても、両刃の剣として奇抜な形はしておらず、ロマン溢るる鍔の宝石以外は装飾も控えめ、実用品の趣がある、いわゆる安っぽさがない。

 ……我ながら、なかなかの想像力だな、つい舐め回すように眺めてしまった。

 

 

   決意の指輪

   ・攻撃力強化

   ・対人強化

 

 

 指輪の方は素っ気ないリングだ、〈アクセサリーⅡ〉は3ポイントか。

 これも攻撃力が上がる、悪くない。

 

 そして……〈ジョブ設定〉っと。

 

 

   【ジョブ設定】

    村人:Lv1

    盗賊:Lv1

 

 

 なんとなく嫌だったので、ジョブが上書きされてしまった盗賊を一旦外して、ファーストジョブを村人にしてから盗賊を設定してみる。

 ……俺はパンピー、俺はパンピー。

 

 さて、この夢だかなんだかが覚める前に、

 

「いざ繰り出さん、冒険の旅へ――!」

 

 小屋の外は……のどかな農村だった。

 一面の畑に平屋の一軒家が点在している、

 朝焼けに照らされた恐らく春の山を背景に、機械化以前の程よい大きさの畑が広がる。

 

 ……なぜ朝焼けと思ったのだろう。

 と思った時、さっきから〝チチチチッ〟という鳥の声がしていることに気付いた、だからか。

 まあ、ヒバリじゃなくてナイチンゲールかもしれんが。

 

 ぐぐっと身体を伸ばして息を吸う。

 いかにも古き良き景色だ、美瑛のパッチワークの丘のように、現代なら観光地になっているだろう。

 

「×××××××××」

「××××× ××××× ××××」

 

 人の声がして、反射的に馬小屋の陰に隠れる。

 隠れる必要があったかはわからない。

 いや、サンダルを盗……やむにやまれずちょっと借りたからな、賢明な判断ということにしておこう。

 

 

   <男・42歳>

   村人:Lv15

 

 

 

   <男・17歳>

   村人:Lv5

 

 

 馬小屋の前を通り過ぎていく2人……背格好が似ているから、もしかすると父子かもしれない。

 ウチの洗濯籠がすっぽり入りそうな大きい籠を抱えて何かを運んでいるようだ、農作業の途中なのだろう。

 着ている服は味も素っ気ない簡素なものだ、あまり豊かそうには見えないな。

 

 ……それにしても危なかった。

 あっちがお喋りしながらじゃなかったら見つかっていただろう。

 しかし、年の差が25でレベル差は10は多いのか少ないのか……37歳でレベル1の俺がどうこう言えることではないか。

 

 2人をやり過ごした後、物陰から村の様子をうかがいつつ、更に〈鑑定〉を使って村人を観察する。

 

 

   <男・35歳>

   村人:Lv25

 

 

 

   <男・38歳>

   農夫:Lv5

 

 

 

   ソマーラ

   <男・68歳>

   村長:Lv8

 

 

 

   <男・32歳>

   商人:Lv6

 

 

 目についたのはこんなところか。

 村人と農夫の違いがよくわからないが、Lv25の男は周囲に頼られるくらいには強そうだ。

 さりとてレベルと立場は別のようで、村長には気を使っている雰囲気だな……レベル8なのに、……いや俺は1だけども。

 そういえば全員ジョブは1つだけか、ふっ。

 

 話しかけるなら商人だろうか、もしかすると排他的な村だったりするかもしれないが、商人なら旅人の対応にも慣れているだろう。

 願わくば、ジャージにサンダル(盗品)履きで抜き身の聖剣をぶら下げてる一般通過旅人にも慣れていてほしい。

 

――ウアアアアアアァァァアッ!

 

 歓声、いや怒号、もっと言えば悲鳴に近い声がする。

 言うなれば、9回裏満塁でホームラン性の当たりを見たレフトスタンドから聞こえそうな声。

 

 見つかった……わけではないな。

 手に剣や斧や農機具を構えて、馬小屋と反対方向に村人達が駆け出していく。

 熊でも出たのだろうか?

 去年、東京西部で熊が出た時は、丁度日野市まで出張する必要があったから「よりにもよって」とボヤいたものだ。

 

   盗賊   

   盗賊   

   盗賊   

   盗賊   

   盗賊   

   盗賊   

   盗賊   

   盗賊   

   盗賊   

   盗賊   

   盗賊   

 

 ……ゲームスタートが盗賊襲撃イベントかぁ。

 いや、昨日は〝争いが少ない世界〟に設定したような気がするんだが。

 やめてくれ、心理的安全性が低い世界観は嫌いなんだ、ほのぼの日常系アニメだけを見ていたい。

 

 どうせなら農村じゃなくて、貴族の姫君とか聖女が乗った馬車とか襲撃しろよな。

 夢なんだから様式美というやつを尊重しろ、定番は人気があるから定番なんだ。

 このまま隠れてやり過ごすか……だが村人が全滅したら、その後どこを目指せば良いのかわからん。

 盗賊の皆さんに道を尋ねるのは賢明な選択肢ではないだろうし。

 

 村人の主力は、先程の村人:Lv25のようだ。

 荷馬車を使った即席のバリケードの穴を埋めるように陣取り、その後ろに剣や農具で武装した村人達が続く。

 ……一通り〈鑑定〉を使って確認してみる。

 さっきのLv15の他は、レベル一桁ばかりだ、老人の村長からLv2の少年まで動員して、数は優っている。

 

 

   ウーゴ

   <男・38歳>

   盗賊:Lv41

   装備:鉄の剣

     :盗賊のバンダナ

     :鉄の鎧

     :皮の靴

 

 

 

   <男・24歳>

   盗賊:Lv19

   装備:銅の剣

 

 

 盗賊側のめぼしいのはこの2人だな、他は大きく見劣りしてLv11……残りは全員一桁だな。

 この号令をかけているLv41が頭目だろう、アクセサリーと思われるものまで装備しているしな。

 レベルだけならゾーマにも挑めそうだが、負けイベントってやつかね。

 

「××××××××!!」

「×××××!!」

 

――ガァン!

 

 始まった!

 ほとんどの盗賊も村人もレベルが低いせいか、鍔迫り合いか。

 レベル差のある村人:Lv25の男はやはり不利か、圧し負けている!

 

 ジョブが見える以上、迷う余地はない。

 善良な旅人として取るべき選択肢は一つ。

 

 

  ▶村人に加勢する

   盗賊に加勢する

 

 

 馬小屋の陰から出る! 走る!

 

「春日部……いや、日本国国民加賀道夫! 義によって助太刀いたす! いざっ!!」

 

 駆ける! 身体が軽い! 振ってて良かった敏捷値! もう何も怖くない!

 頭目が、他の盗賊も何人か、こっちを向く。

 村人:Lv25が押し返した! 頭目は迷っている!

 

「××××!」

 

 盗賊:Lv2だ。

 そこらのチンピラと変わらない、余裕がない、腰が引けている! 睨みつける!

 

――ザンッ!

 

 あっさり切れた、マグロの柵を切るより他愛ない、笑えるほどだ。

 気分が上がる*2

 血に酔うとはこういうことか、今宵のデュランダルは血に飢えておる。

 

 本命の頭目は、俺を脅威と見なしたようだ。

 鍔迫り合いをしながら、何かを叫んでいる。

 多分、そいつを止めろ、そんなところだろう。

 上手い! 村人:Lv25が押し負けた、と見せかけて一気に押し返す! 腕相撲でよくある、一瞬引いた後に畳み掛けるような動き!

 

「××××!!」

 

 盗賊:Lv11が切りかかってきた! 皮の鎧を着ている! 胴は打ち込めない。

 〈敏捷上昇〉17ポイントを信じる! Lv11は無視して、村人:Lv25に掛り切りの頭目の下へ――!

 

――ドッ!

 

 踏み込む! そのまま首筋に、突き!

 

――ブシャァァァア

 

 ……ひっでぇスプラッターだ。

 破裂した水道管のように血が噴き出て、さすがに怯んでしまう。

 

――ガィィン!

 

 すぐ背後からの剣戟の音。

 村人:Lv25が、追いついてきた盗賊:Lv11の剣を受け止めてくれていた。

 

「×××××!」

「助かった!」

 

 気をつけろ、と言っていたような気がして応え、振り向きざまに突き刺す。

 

「×××!? ××!!」

 

 村長と対峙していた、推定副頭目の盗賊:Lv19が叫んでいる、逃げるつもりか。

 

「ブラヒム語か? 悪いな、アンタ。

 あいつらとっ捕まえて奴隷商人に叩き売ったら山分けにするから、もう少し手を貸してくれないか?」

「ん? ああ、そういうことなら」

 

 

   ロムヤ

   <男・35歳>

   村人:Lv25

   装備:ほむらのレイピア

     :皮の鎧

     :皮の靴

 

 

 村人:Lv25改めロムヤか、ほー……よく見たら、レア装備っぽいの持ってるじゃないか。

 追いかけて皆殺しって言われたら気が重いが、捕まえろというなら話は別だ。

 それにあの副頭目っぽい盗賊はちょっと怖い、24歳でLv19は他の盗賊や村人に比べてちょっと頭抜けている。

 見逃したら後々パワーアップして復讐してくるパターンと見た。

 バトル漫画じゃあないんだ、様式美なんてクソ喰らえだよ、危険の芽は予め摘み取っておくものだ。

 

*1
肝臓水解物配合の第三類医薬品。キャッチフレーズは『肝臓(ヘパ)のために、これを飲まずに呑むのはやめロッテ!』。

*2
現時点では知る由もないことだが、慢性的な軽度の鬱状態から、MP回復により躁状態になっている。加えて言えばアルコールの影響も残っている。

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