加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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OJT面談

 

   ベイル亭

 

「さっき、連れの()が来てたぜ」

 

 努めて気を落ち着けながら宿に戻ると、フロントから声を掛けられた。

 やはりな……多分、パーティ編成が解除された時ではなかろうかと思う。

 

「そうか……どんな様子だった?」

「そりゃあ……心配そうだったな」

 

 俺が迷宮に行った、と聞くと部屋に戻ったという。

 さて、どういう意味での心配だったのか。

 というか逃げ出さなかったのか……いや、逃亡奴隷は盗賊に落とされるのだったな。

 

 逃亡奴隷の判定はどうやってされるのだろう?

 逃亡を決意をした瞬間、ということはないだろう。

 俺がサンダルを装備した時、別に盗もうというつもりではなかったが盗賊になった、サンダルを盗んだという事実を基にシステムが裁定を下したのではないだろうか?

 部屋から出るのは恐らく問題ない、フロアのトイレに行くことは許可していたし、付き添う趣味はない(不衛生なのは抜けない)

 だが、もし俺を探しに行く、といってホテルから出て行っていたら、逃亡するつもりはなくても逃亡奴隷と判定されるかもしれない。

 フロントまで下りてくるだけでも不安だったのではないだろうか。

 

 ……悪いことをしたな。

 

 右も左もわからない新入社員を放置してしまったような気持ちになる。

 この場合、右も左もわからないのは主人(上司)の俺も同様というのがこの話の笑い所だ、笑えよ。

 

「……ところで、これはうちの料理人の試作品の余りなんだが」

 

 味は保証するぞ、と焼き菓子が載ったお盆が、カウンターに乗せられる。

 

「……なるほど?」

「子供と女の機嫌を取るには、甘いものが一番だ、そう思うだろう?」

「そ、そうだな、ありがとう?」

 

 旅亭の男はニンマリとした。

 

「試作品だからな、10ナールでいい」

 

 商魂逞しすぎない?

 

   ※   ※   ※

 

 部屋に戻る。

 暗い部屋で一人、ロクサーヌは装備品をつけた状態でベッドに座っていた。

 しかし、シミターには手を触れていない。

 

「おかえりなさいませ……ご無事でなによりです」

「……ああ、すまない、少し迷宮に行っていた、起こしてしまっては悪いと思ってな」

「起こして、いただきたかったです」

 

 カンテラから部屋の明かりに火を移しながら、言葉を探す。

 ……そうか、1人で迷宮に行ったパーティーメンバーの反応が途絶えたら、何かあったと思うか。

 

「どなたか他の方と……いえ、私では御役に立てませんでしょうか?」

「いや! そんなことは全くない、昼間言った通り、ロクサーヌの索敵能力は素晴らしいものだ。

 ……1人で探索してきたが、思うように敵を見つけられなかった」

 

 だが昼間と違い、ロクサーヌの表情は晴れない。

 それはそうだろうな、ならなんで連れて行かなかったのか、という話だ。

 俺は、探索者だ、と昼間に言った。

 これは必然的に、既に迷宮に入ったことがある、ということになる。

 だから、ロクサーヌがいる時といない時の比較をしたかったのだ、という小手先の言い訳は通じないだろう。

 俺がロクサーヌとしか迷宮に入ったことがなかったことなどわからないのだから。

 

 ……言えないことが増えていく。

 

 無理だ、と思った。

 黙って俺についてこい、というメンタルの太さはない。

 それに黙られたら困る、俺にはこの娘のこの世界の知識と能力が必要なのだ。

 

「ロクサーヌ」

 

 と呼び掛けて、〈パーティー編成〉を行う……応じてくれたことを確認し、

 

(パーティージョブ設定)

 

 

   【パーティージョブ設定】

 

   セットジョブ

    獣戦士:Lv6

     効果:敏捷中上昇

       :体力小上昇

       :器用小上昇

    スキル:ビーストアタック

 

   所持ジョブ

   ▶獣戦士:Lv6

     村人:Lv8

     農夫:Lv1

     戦士:Lv1

     剣士:Lv1

    探索者:Lv1

 

 

 盗賊――いや獣人系は海賊だったか、持っていない、良かった。

 もし逃亡奴隷として盗賊落ちしていたら申し訳ないなんてものじゃないからな。

 そして、獣戦士の効果は高いな、戦いに優れたジョブというのは間違いないようだ。

 

「獣戦士にはビーストアタックというスキルがあるのか」

「えと、はい。私のブラヒム語が拙いのか、使えませんが」

 

 

   【パーティージョブ設定】

 

   セットジョブ

    探索者:Lv1

     効果:体力小上昇

    スキル:アイテムボックス操作

       :パーティー編成

       :ダンジョンウォーク

 

   所持ジョブ

    獣戦士:Lv6

     村人:Lv8

     農夫:Lv1

     戦士:Lv1

     剣士:Lv1

   ▶探索者:Lv1

 

 

「今、ロクサーヌのジョブを探索者にした。アイテムボックス操作、パーティー編成、ダンジョンウォークが使えるはずだ」

「? え、ええと、わ、私のブラヒム語がおかしいのでしょうか? ……アイテムボックス操作? ……え!?」

 

 ロクサーヌはこんらんしている。

 まだ夜明け前なので、落ち着くように、と素振りで示す。

 

――子供と女の機嫌を取るには、甘いものが一番だ

 

「すまない、カウンターで焼き菓子をもらってきたから、一度椅子に座って、落ち着いて話そう」

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

八百(やお)千五百(ちいほ)のお宝を、収めし蔵の掛け金(かけがね)の、……アイテムボックス、オープン。

 ……ほ、本当に使えました」

 

 ロクサーヌは〈アイテムボックス操作〉の詠唱を知らなかった。

 さっきロクサーヌが混乱していたのは、突然知らない詠唱が頭に浮かんだからだろうな。

 彼女は上手く発音できなかったが、俺が詠唱をブラヒム語で――というか日本語で喋ることで、正しく詠唱できるようになった。

 〈ビーストアタック〉の詠唱もなんとかわからないだろうか、今度試そう。

 

 詠唱省略の話をしたことで、ロクサーヌは色々謎が解けたらしかった。

 無言で〈パーティー編成〉してたからな……俺は今まで無言でパーティー申請する迷惑プレイヤーだったのか、と思うと凹む。

 そういえば、以前SNSで「無詠唱ってウインカーを出さずに割り込みするようなもんじゃね?」みたいな提言が物議を醸していた記憶がある。

 今後は声に出すようにしよう。

 だが、一方的に〈鑑定〉が使えるアドバンテージは有用だから、使いようだな。

 

「私が……いや、俺が迷宮に入ったのはロクサーヌと入ったのが初めてなんだ。

 この通り、自分でジョブ設定ができるので、あの時に探索者になった」

「なるほど、ギルド神殿をお持ちなのでしょうか?」

「いや、持ってないと思うが……ギルド神殿とは?」

 

 迷宮の最終ボスが落とすアイテムであり、各種ギルドの開設に使う非常に貴重なものだという。

 もちろん、持っていない。

 ……インテリジェンスカードみたいに身体の中に入っていたらわからないが。

 

 ロクサーヌが昼間拾ったブランチ――夕方は疲れてたから探索者ギルドには行かなかった――をアイテムボックスに収納した。

 レベル1だから1つしか入らない。

 俺は2種類、2つずつ入る、と言うと、

 

「今日探索者になられたのに、もうレベルが上がったのですか?」

「ああ、多分、〈必要経験値減少〉と〈獲得経験値上昇〉のスキルのおかげだろう」

 

 そんなものまで……ロクサーヌが絶句している。

 焼き菓子が素朴で美味しい、ぎゅむっとした食感に遅れてくる香ばしさ、ライ麦かな。

 

「俺は多分、人より多くのことができるようだ、しかし、それによって何が起きるのかがわからない。

 迷宮で試したいことがあるが、一人では満足に敵を見つけることもできない。

 〈詠唱省略〉のように、それが周囲からどう思われてしまうのかも、わからないことが多い。

 俺にはロクサーヌの索敵能力と知識が必要だ」

「はい、ご主人様の為に努めるのは当然のことです」

 

 そういうことじゃないのだが、うーむ。

 ロクサーヌも焼き菓子を口に運ぶ、視線に気づいたのか「美味しいです」と言った。

 俺は正直、もう一味欲しい、ジャムとかドライフルーツとか……キュピコで作れないだろうか。

 

「……奴隷落ちした身には酷な質問かもしれないが、ロクサーヌは何かしたいことはないのか?

 甘い物が好きとか、遊びに行きたい場所とか、なんでも良いが」

 

 無根拠に人を信頼することができるような年齢ではなくなってしまった、汚れてしまった悲しみ……いや、昔からあまり人を信じた覚えなどないか。

 しかし、自分の希望と他人の希望、それをすり合わせて協働する形を目指すのは、仕事でやってきたことだ*1

 

「ええと、獣戦士として熟達し、百獣王という伝説のジョブに就くことが夢でした」

「それは……迷宮を踏破するため、で良いのかな?」

「はい、戦う力がある以上、当然のことです」

 

 一点の曇りもない目だった。

 ……この娘は戦いを忘れた人々の代わりに立ち上がる戦士なの? まだ16歳の女の子なのに、この世界の人間って覚悟決まり過ぎていやしないだろうか。

 そういえば迷宮は新しく増えているのだったか、とするともしかして……。

 

 ……うわっ、人類(わたしたち)の生存圏狭すぎ?

 

 初期設定で選んだ〝戦争が少ない〟とは、戦争する余裕のない世界ということなのか?

 まさか、いわゆる召喚勇者枠で37歳のおっさんを呼んでないだろうな、神様?

 ……早く強くなったほうが良いのか?

 

「迷宮の踏破はわからないが、獣戦士としてレベルを上げるには俺のスキルが役に立つだろう」

「……ええと、獣戦士には、というより、探索者以外にレベルはありませんが……」

 

 話が……話が進まない……!

 一般には、パーティー内の探索者のレベル――アイテムボックスの数を基準として迷宮を攻略するのだそうだ。

 ロクサーヌが六階層を探索していたのはそういうことなのだろう。

 

「……俺にはロクサーヌが獣戦士:Lv6と見えるのだが……とりあえず、今はいい。

 ロクサーヌが強くなるために、きっと〈必要経験値減少〉と〈獲得経験値上昇〉は役に立つはずだ*2

 俺達は互いのため、何より自分のために協力し合えると思う、どうだろうか?」

「その……私のことを考えてくださってありがとうございます。

 期待に応えられるよう精進します」

 

 もっとこう、自分の目的のために他人を利用するくらいのノリの方が気楽なんだが……まあ、気長に頑張ろう。

 奴隷として購入しておいて今更、と思わなくもないが、この世界では合法だし、雇用の一形態に過ぎないだろう。

 昔の日本の年季奉公も西洋から奴隷制扱いされたというし。

 

 その後、ロクサーヌのジョブを探索者から獣戦士に戻せないという、早速信頼を損ねる事態が発生したが、アイテムボックスにアイテムを入れたままではできないということが判明し、事なきを得た。

 面目は保てた、はずだ。

 

*1
上手くできたとは言っていない。

*2
〈必要経験値減少〉は道夫さん本人にしか効果がないが、この時点では未検証。




 召喚勇者枠云々は限られた情報から導かれた道夫さんの思い込みですが、原作は実際のところどうなんですかね。
 まあアラフォーのおじさんなので、切迫感がないと働かないし仕方ないね。
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