加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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迷宮探索

 

 ロクサーヌと話した後、朝食を摂って仮眠を取った、眠気はなかったが目を閉じて横たわっておく。

 2食続けて食後に寝ることになって胃もたれするが、朝食の時間は決められているので、逃すと食べられなくなるのだ。

 それに、デュランダル(向精神薬)をキメた後だから、意識的に気を落ち着かせなければと思う。

 

 ……MPのMはマジックじゃなくてメンタルなんじゃなかろうか。

 

 この世界に来る前は、あまり精神状態は健康ではなかったように思う。

 そこで〈MP吸収〉をした影響で、いきなり元気になってハイに――いわゆる躁状態だったのではないだろうか。

 

 そして昼の掃除前に起きて、改めて考える。

 今日も迷宮探索するかどうか……。

 

「おはようございます、ご主人様」

 

 完全武装のロクサーヌに挨拶された、選択肢はなかった。

 

 

 

   ベイル

   探索者ギルド

 

 昼前のやや閑散とした時間、探索者ギルドでロクサーヌに迷宮のあれこれを教えてもらうことにした。

 決してサボりたいわけではない。

 

――楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する。

 

 誰が言ったかそんな言葉があるが、計画をもっと入念に行わなければならないと考えたのだ。

 決してサボりたいわけではない。

 

「こちらには迷宮の情報が書いてあります。

 上から、クーラタルの迷宮、十一階層まで探索済み……クーラタルの迷宮は知られている限り最も古い迷宮です。

 一階層はコボルト、二階層がナイーブオリーブ、三階層が……」

 

 階層毎に出る魔物は決まっていること、ただし下の階層の魔物は一緒に出て来ることがあること。

 実際はもう少し複雑のようだが、当面はこの理解で大丈夫そうだ。

 そして1、2、4、8、16、32、64の階層で出現する数が増える。

 これは階層を2進数表記した時の桁数=敵の出現数、と覚えれば良いか。

 前にロムヤに教えてもらったことと重複するが、改めて覚え直す。

 

「ここの迷宮の情報はないのだろうか?」

「まだないようですね、おそらく、入口の探索者に聞けば教えてくれると思いますが」

 

 攻略中の迷宮にはそうした探索者が配置されるのだという。

 そういえば入口に口笛を吹いて佇んでる男がいたな、と思い出す。

 探索者といっても、迷宮を探索するだけではないようだな、というと探索者の求人情報があったので読んでくれる。

 

「ネギルバ侯爵の騎士団、Lv70以上、主に運搬業務、委細相談。こちらは引退した探索者がやるような仕事ですね」

「他も同じようなものか?」

「はい、こちらはクストフ子爵の戦士団、運搬業務。似たようなものが続きます」

 

 共通する文字から、恐らくこれが運搬業務を意味するのだろうな、と当たりをつける。

 Lv70ぐらいまで上げれば、引退しても大丈夫なのかもしれない、目安として覚えておこう。

 俺はロクサーヌより絶対先に引退することになるだろうからな。

 

「昨日は様子見ということで、改めて一階層を探索していこう。

 出て来るのはニードルウッドだけで良いのだったな」

「はい」

「毒消し丸、柔化丸、抗麻痺丸というのが売っているようだが、必要ないだろうか?」

 

 文字は読めないがアイテムであれば〈鑑定〉でわかる。

 HP回復の滋養丸と滋養剤、MP回復の強壮丸と強壮剤は購入確定だ、何なら強壮丸と強壮剤はダースで欲しい、強壮錠も欲しい。

 

「毒消し丸は毒を、柔化丸は石化を、抗麻痺丸は麻痺を治しますが、ニードルウッドには必要ありません」

「一応確認だが、迷宮で落とし穴で下の階層に飛ばされたりはしないのだろうか?」

「下の? ええと、聞いたことはないですね。一階層に行くなら関係ないと思いますが」

 

 いまいち話が噛み合わないので、しっかりすり合わせをする。

 この世界では、迷宮は上るものだという認識らしい、昔、迷宮の入口のある場所を下に掘り進んでもなにも見つからなかったからだそうな。

 なら下にないから上というのは、わかるようなわからないような。

 というか俺はなぜ下りると認識していたのか……不思議のダンジョン系の影響かな?

 

 そして、ゲームにある転移罠の類もないらしい。

 というか、迷宮に罠があるという認識自体がないようだ、モンスターハウスはあるようだが。

 この世界の盗賊はただの犯罪者で、迷宮探索に1人は欲しい密偵の類の職業ではないのだな。

 

「では、滋養丸と滋養剤、強壮丸と強壮剤を2つずつ買って、それぞれ持ち歩くようにしよう」

「はい……あの、私にも魔結晶を持たせていただいたほうがいいと思うのですが」

 

 そういえば、それもロムヤに聞いていたな。

 魔物を倒すと魔力が蓄積し、10進数の桁上り毎に色が変わり、1匹1ナール換算で買い取られるのだったか。

 ロムヤは黄魔結晶を売って結婚資金にしたと言っていたか、あれは魔物10万匹分だったのか。

 

 ついでに魔結晶は何に使うか聞いてみる、ファンタジー特有のあれこれと思って深く気にしていなかったが、

 

「魔結晶はギルド神殿のエネルギー源となります」

 

 うーむ、ファンタジー。

 そういえば、〈結晶化促進〉スキルは恐らくこの蓄積速度を上げてくれるのだろう、資金稼ぎに関わるから今日試してみるか。

 

 諸々決めて購入するが、

 

 

   キャラクター設定

 

   【ボーナススキル】

    値引交渉30%値引

 

 

 しかし、探索者ギルドの職員には値引交渉が利かなかった。

 これに関してはロクサーヌに相談しなかった、ロクサーヌを買う時に値引しなかったことになっているからな。

 それに、スキルで交渉相手の意識に干渉しているのか、と思うと恐ろしくもある。

 今後も相談することはないだろう。

 

「では、ベイルの迷宮に行くとしよう」

 

 今日は探訪ではない、探索だ。

 

 

 

   ベイルの迷宮

     一階層

 

「ここは昨日一緒に入った小部屋だが、場所はわかるか?」

 

 ロクサーヌに聞いたところ、〈ダンジョンウォーク〉ではボスの待機部屋以外の小部屋に移動できるという。

 一人で試した時は通路に飛ぼうとしていたから駄目だったわけだな、思い出すと額が痛い。

 

「はい、大丈夫です」

「では、今日は結晶化促進の効果を試したい。稼げれば装備を良くできるし、ゆくゆくは増員もできるからな。

 ……そうだな、あとは腕力上昇と決意の指輪を外して一階層の魔物が一撃で倒せるかも試そうか」

 

 ロクサーヌの案内でニードルウッドを見つけてもらい、念の為、徐々にポイントを減らしても倒せるか試していく。

 4体目、どちらのボーナスも外しても、一撃で倒せることが確認できた。

 これで〈結晶化促進三十二倍〉が使えるようになるのは大きい。

 

 

   キャラクター設定

 

   【ボーナスポイント】

    0

 

   【ステータス】

 

   【ボーナス装備】

    武器Ⅵ

 

   【ボーナス呪文】

    ワープ

 

   【ボーナススキル】

    結晶化促進三十二倍

    サードジョブ

    鑑定

    パーティージョブ設定

    キャラクター再設定

 

  ▶決定

   やり直す

 

 

 それで3体倒したところ、

 

「おお、ロクサーヌ、見てくれ」

 

 黒魔結晶から赤へ、更に紫色に変わっていた。

 〈結晶化促進〉をつけずに4体、三十二倍で3体、半ば偶然だが、これでちょうど100体分だ。

 

「こ、これはすごいことなのでは……」

「いや、すごいのはロクサーヌもだと思うが……」

 

 体感だが、昨夜1人で2体倒したのと同じくらいの時間で、もう7体倒してしまった。

 

「あ、ありがとうございます。

 私は狼人族でも特に鼻が利きますので」

 

 アランは知っていたのかな……あの口ぶりでは知らなかったように思うが。

 それともそれほど珍しくないのか、狼人族の中で100人に1人の逸材か、1000人に1人の才人か、10000人に1人の天才なのか、大分話は変わってくる。

 他の狼人族を知らないからなんとも言えないな。

 

 さて、これで探索者ギルドで買取価格上昇ができれば良いのだが、まあギルド神殿のエネルギー源らしいから、商人ギルドでも売れるだろう。

 商人なら買取価格上昇が効くはずだ、ビッカーやアランにはできたわけだし。

 

「じゃあ次は、デュランダルを貸すので、4体ニードルウッドを倒してくれるか」

「よ、よろしいのでしょうか!?」

「……え、ああ。

 まあ、シミターとは使い勝手が違うと思うが」

 

 ロクサーヌはさながら卒業証書を受け取るように、デュランダルを押しいただく。

 いや、この場合は騎士が剣を受け取るような、と言うべきか。

 き、気軽に渡してしまって罪悪感が……。

 

 デュランダルを持ったロクサーヌはすごかった。

 俺もロクサーヌの代わりにシミターと木の盾を構えて牽制と防御くらいはするつもりだったのだが、全く出番がなかった。

 駆け足でついていっただけだ。

 ……これがヤムチャ目線というやつか。

 もしボーナススキルの効果がパーティー全体に適用されるなら、この状態のロクサーヌを放流するだけで一生遊んで暮らせそうだ、やらないが。

 

「申し訳ありません、私では駄目のようです」

 

 折角素晴らしい剣をお任せいただいたのに、と悄気(しょげ)るロクサーヌの魔結晶は、黒いままだった。

 とすると、〈獲得経験値上昇〉も俺が倒さないといけないということになるか、そして〈必要経験値減少〉の適用範囲も自分だけということだろう。

 働けということだな。

 

「いや、俺がスキルの使い方を理解していなかっただけだから気にしないでくれ、どうも俺が倒さないといけないらしい。

 ロクサーヌは見事な手腕だった」

「ありがとうございます。

 では、引き続き敵を見つけて、ご主人様に仕留めていただければよろしいのでしょうか」

「ああ、資金の確保ができる算段はついたので、ここからは獲得経験値上昇と必要経験値減少に切り替える。

 金があっても最低限の実力はつけないとな」

 

 〈必要経験値減少〉がある分、ロクサーヌより成長は早いはずだ。

 ご主人様は置いてきた、はっきり言ってこの戦いにはついてこれそうもない、とか言われないようにしなければ。

 

「はい、それが良いと思います」

「じゃあボス部屋を探すつもりで探索を進めよう。

 ……ああ、後はオーバーホエルミングと、ワープも試さなければ」

 

 やることが……やることが多い……!

 

 

 

   ベイルの町

 

「ああ、ちゃんと出られたか……」

「本当に、外、ですね……」

 

 その後、ニードルウッドを狩り続けて、アイテムボックスとリュックサックにブランチが一杯になったところで戻ることにした。

 ついでに〈ワープ〉で外に出られることも確認できた。

 迷宮入口の、昨日、冒険者パーティーが黒い壁から出て来たところだ。

 

 迂闊ではないか?

 荷物を一杯にして、さも今まで迷宮に潜っていました、という風体の人間がそんなところから出て来たらどう思われるだろう?

 ……陰鬱になっている、MP切れだな、とわかる。

 ダンジョンウォークの時よりきつい、ボーナス呪文は普通のスキルより消費がきついのか。

 

 

   キャラクター設定

 

   【ボーナス装備】

    武器Ⅵ

 

   【ボーナススキル】

    MP回復速度二十倍

 

 

 デュランダルを消して、ボーナススキルを再設定する。

 

「すまない、MP切れのようだ、便利だが、消耗が激しいな」

 

 追加で強壮丸を飲む。

 吝嗇(ケチ)だな、念の為に強壮剤にするべきではないか、今何かあったらどうなる?

 ……いや大丈夫だろう、ロクサーヌのおかげで早く狩ることができたから、日没前の引き揚げる人間が多い時間を避けることができた。

 

「混みだす前に、ブランチを売りに行こう」

「はい、こちらです」

 

 ロクサーヌが心配そうな顔で先導する。

 さすがに迷宮の外なのだから道くらいわかるが……心配をかけてしまっているな……いきなり〈ワープ〉を試すからだ。

 もっと荷物が少ない時に、1人で試すべきではなかったか。

 ……1人で危険だからロクサーヌと一緒の時にやったんだろうが。

 だが荷物は少し反省点だろうか、消費MPに影響しているか未知数だが、慎重さは足りなかった。

 

「すみません、ご主人様、あちらでなにかが……。

 ――! 血の匂いがします」

 

 城壁の外の木の周りに人集りができていた。

 そして血の匂いとなれば……良いことではなさそうだ。

 

「すみません、何かあったんでしょうか?」

 

 ロクサーヌが尋ねると、青い顔をした若い男が答える。

 

「……死体だよ……あまり見るもんじゃないよ、お嬢さん。

 盗賊さ、インテリジェンスカードの出る左手が切り取られている」

 

 禿頭の男が血の海に倒れていた、剣があるから応戦したのか、凶器を置いていったということもあるかもしれないが。

 インテリジェンスカードは賞金目当てか、いや身元を隠すためというのも考えられるか?

 

 顎に手を当てて考え込むと、そろそろ気になり出した無精髭が手に当たる。

 ……果てしなくどうでも良いが、彼の頭は天然か剃ってるのか気になる、剃刀を買い忘れたのだよなぁ。

 

「ちょっと通してください」

 

 誰かが通報したのだろう、騎士団だ、彼らは町の警察でもあるのだろう。

 先日見た高慢な女騎士もいる。

 

「盗賊か。おまえたち、死体置き場に捨てておけ」

「はっ」

 

 一瞥しただけだった。

 殺人事件なのに、捜査らしい捜査もない。

 ……命が、軽い。

 

「あれは盗賊だ、全員解散」

 

 女騎士は大股で町で戻っていき、一部の騎士が残って死体を回収するために残った。

 野次馬は騎士団への文句もなく解散していく、これが普通なのだろう。

 

「ご主人様……」

 

 陰鬱だが、ここにいても仕方がないか。

 ロクサーヌに頷いて、歩き出す。

 その時、野次馬の誰かが言った。

 

「町を追い出された盗賊の一派が、復讐に帰ってきたらしいぜ」

 

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