翌朝、俺はロクサーヌの胸の中で目を覚ました。
……やってしまった。
地球では歳の差だのロリコンだの言われるだろうが、正直なところそれは余り気にしていない。
近親者とか人妻とかは別にしても、生殖可能年齢の美人に性的興奮を覚えることは生物として正常だと思うからだ。
セックスに余計な付加価値をつける恋愛至上主義の悪弊だと思う、知らんけど。
ただ、半分以下の年齢の女の子に慰められて、あまつさえ縋り付くように胸の中で目覚めるのは……普通に恥ずかしい。
「おはようございます、ご主人様、お加減はよろしいでしょうか?」
頭の上から声がした。
見上げると目が合う、微笑ましいような、心配そうな……慈しみの籠もった瞳だと思った。
ロクサーヌの手が首に回されていることに気づいた、参った、これでは授乳中の赤ん坊だ。
「ああ、おはよう、ロクサーヌ」
起き上がろうとして、できなかった、左腕がロクサーヌの下敷きになっていた。
いや違う、俺が腰に抱きついているんだ。
「す、すみません! すぐに起きますので!」
「い、いや、すまん、すぐ手を退ける!」
お互いの体勢に気づくと、途端に恥ずかしさがこみ上げてきたらしい。
どちらともなく飛び起きて、ベッドの両サイドに腰掛ける。
……駄目だ、この空気、耐えられない。
「きょ、今日も迷宮探索に行くぞ」
「はい、ご主人様!」
ベイルの迷宮
一階層
今日は午後にはビッカー達が来るから、それまでの短時間だが迷宮に潜った。
盗賊の件もあって控えていたが、そろそろ二階層に行っても良いだろうと思ったのだが、その前に
以前からロクサーヌはそうした隠し小部屋があることを察知していたのだが、俺はわかってる罠を踏む必要性を感じなかったし、ロクサーヌの索敵能力なら普通に1匹ずつ見つけて狩っているだけで、運搬能力の限界まで稼ぐことができていた。
だが二階層からは一度に出現する魔物が増える、事前に多数の魔物との戦闘経験は必要だと思ったし、今ならそれほど危険ではないと思った。
実際それほど危険ではなかった。
盗賊と戦った時のように、ロクサーヌが〈火炎剣〉で魔物の気を引いて、俺がデュランダルで斬り続ける。
流石に全ての魔物のヘイトを稼ぐことはできず、何度か被弾してしまったが、デュランダルには〈HP吸収〉もついているから、もうどこを殴られたのかすら覚えていないほどだ。
なお、ほとんどの魔物の標的となっていたロクサーヌが一撃も被弾していないのは言うまでもない。
「申し訳ありません……ご主人様をお守りすることができず……どうか私のことなど捨て置いてください」
「……いや、大丈夫だから、もう治ってるから」
そして、〈火炎剣〉を気力の限り使い続けたロクサーヌは体育座りで落ち込んでいるというわけである。
「ほら、デュランダルだ、これには〈MP吸収〉のスキルがある。
これで魔物をちょっと斬るだけでいつも通りになるから……」
だが、ロクサーヌは俯いて「そのような資格はありません」と固辞するばかりだ。
「なら強壮剤だ、ほら、昨日はロクサーヌがくれたじゃないか、さあ飲んでくれ」
「ご主人様のアイテムを使っていただくなど……」
これは……俺もするしかないというのか……。
これは役得ではない、治療行為である。
ベイル亭
騎士団の屯所でインテリジェンスカードを換金して宿に戻ると、ビッカーとロムヤはもう来ていた。
どうも正確な時計がない世界だから、事前行動は当たり前のようだ、こちらに対する気遣いもあるだろうが、今後は気をつけよう。
「いや、返さなくていいですよ、ミチオさん」
「しかし、盗賊を退治するまでということだったが……」
盗賊の件が片付いたことを伝えてほむらのレイピアを返そうとしたのだが、この通り断られてしまった。
どうもそれは、生きて帰ってこいよ、程度の意味合いだったらしい。
「まあ強力な装備だし、そういうことなら使わせてもらおうか」
「ええ、オレは冒険者は引退しましたが、代わりに冒険に連れてって下さい。
……まあ、そのうちそれ以上の武器を手に入れたら返してくれれば良いんで」
それも、「ミチオさんならそう遠い話じゃないでしょうし」と言われる。
ボーナス装備は別として、これ以外のスキル付き装備をまだ見たことがないのだが……。
「ありがとうございます、大切に使わせていただきます」
ロクサーヌが深々とお辞儀をするが、「いいっていいって」とロムヤは気にしていない。
シミター
・空き
・空き
そっと、ロムヤが持っている剣を〈鑑定〉する。
以前使っていた思い入れのある武器だというが、空きスロットが2つもある。
彼は以前どれくらいの冒険者だったのだろうか……非常に豪運なのか、意外と珍しくもないのか。
「――ああ、ミチオさん、この度はありがとうございました」
昼の食堂で旅亭とキュピコの商談をしていたビッカーが戻ってきた。
聞くまでもなく、良い結果だったようだ。
「いや、貰いものをお裾分けしただけで、そう礼を言われても……」
「いえいえ、旅亭ギルドとお取引をさせていただくというのはそれだけのお話ですよ」
なるほど、と思う。
ただの町の宿屋ではなく、転勤が頻繁にあるような全国チェーン店との取引と考えると確かに大きい話だ。
「ただ、今年の収穫分は予約が入ってしまったので、ミチオさんに食べていただけないのですが」
「いや、充分いただいたよ、ありがとう」
「来年も作りますので、きっと食べに来てくださいね」
2人には、すぐではないが、そう遠くないうちに拠点を変えるだろうと話していた。
立て続けに盗賊と揉め事を起こしたし、治安維持組織たる騎士団はどうも信用ならない。
盗賊同士の繋がりは希薄だが、他の盗賊グループだって盗賊を狩る奴がいれば邪魔に思うだろう、付け狙われるようなことになっては堪らない。
冒険者ギルドで他の町に行く冒険者に頼めば〈フィールドウォーク〉で連れて行ってくれるという。
しばらくは色々見て回ることになるだろう。
「おふたりならどこでも大丈夫でしょう。
……随分仲もよろしくなったようですし」
「……あー……わかるか」
「いや、わかるもなにも……」
ロムヤの視線に気づいて、ロクサーヌがすぅっと俺から距離を取った。
先ほど口づけで薬を飲ませて、少し回復したロクサーヌに
まるでこう……疲労がポンと取れたような……依存症にならないように気をつけよう。
あれからなんとなく、振り返って不意に目が合ったりした時の顔が近い。
……ヤクザは女を殴った後に優しくして依存させるというが。
MP枯渇による鬱状態と
予定していたビッカーの仕入れも終わったようで、もう帰るという。
ソマーラの村までは3、4時間、荷物もあるから〈ワープ〉で送ることはできない。
再会を約して、二人と別れた。
ちょうど部屋の掃除も終わったようだ。
そうだな、着替えて荷物を置いて、早速冒険者ギルドに行ってみるか。
「よう、部屋に戻るのか?」
肯定して鍵を受け取ろうと……いつものように旅亭が鍵を渡してこない。
「宿代は明日まで貰ってたな。その後はどうするんだ?」
「そうだな、そのうち拠点を変えようと思ってはいるが、まだ当てもないのでな。
また同じ部屋で5日分、頼めるだろうか」
しかし、「……それなんだがな」と旅亭の反応は鈍い。
「うちの最上階はダブルのお客さんだけなんで……、あー、夜遅くなっても大丈夫なんだが」
「「……あっ」」
そらそうだ、掃除されたらそらわかる。
いや、それとも他の客から苦情でもあったか。
「ところで、今ならダブルルームでワンランク上の部屋が空いてるんだが」
「そ、それでお願いする」
苦情の方かもしれない。
まあ迷惑料と思おう。
※ ※ ※
早速今までの部屋から荷物を移して、4階の部屋に移ることになった。
「遮蔽セメントと鍵付きの棚は同じだ。
あと、このランクからは部屋にトイレもついている」
「それはありがたい」
就職してすぐ住んでたアパートは風呂なしトイレ共用だったから我慢出来たが、専用トイレはありがたい。
あとは風呂があれば……欲望は果てしないな。
部屋の広さはそれほど変わらないが、ベッドは当然ダブルベッドに変わっており、椅子が革張りのソファになっていた。
それも向かい合う形ではなく、横並びに座るものだ。
ロクサーヌがクローゼットに荷物をしまい終えたので、隣で休むように手振りで示す。
横に座ると、膝にじんわりと体温を感じる。
「……夕食まではちょっと時間があるな」
ちょこんと座るロクサーヌの手に手を重ねると、俯いたままもたれ掛かってきた。
ぴょこぴょこ動く尻尾を撫でると、応えるように指に絡まる。
……冒険者ギルドに行くのは明日だな。
旅亭「ああもうじれってぇな。やらしい雰囲気にしてやるぜ」