加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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前章(ロクサーヌ)のあらすじ

【加賀道夫さん(37)の足跡】

 高卒でどうにかこうにかデジタル土方として働き口にありつき、20年近く働いた加賀道夫さん(37)。
 かつてネグレストしてきた父親とも死別し、三十路になってから買った家のローンも早めに完済、在宅勤務も気楽なもので、およそ問題らしい問題がない。
 ただ1つ、やりたいことがないという点を除けば。

 連休だというのに暇を持て余す道夫さんが自宅で酒を呑みながらネットサーフィンしていると「自殺の決意をする前に」という謎の広告が現れ、質問に答えた結果、異世界に転移する。

 これは夢だという勘違いと残り酒の勢いのまま、ソマーラの村を襲う盗賊の頭を倒し、腕利きの村人――ロムヤと協力して逃散する盗賊たちを捕縛、更には英雄という壊れ性能のジョブを獲得。
 聖剣デュランダルの〈MP吸収〉とステータス上昇により、軽度鬱状態から一転躁状態なった道夫さんは、ノリと勢いと奴隷商人アランのセールストークに乗せられて紳士の取引60万ナール(※3割引)に応じて狼人族の美少女――ロクサーヌを購入する。

 そして在宅デスクワーカーから魔物ひしめく迷宮の探索者へと転身を遂げ、ロクサーヌと共に迷宮探索を進める道夫さんの前に、盗賊のものと思われる男の死体が。
 野次馬の噂話から盗賊の残党が自分に復讐しに来たのでは、と心配になた道夫さんはロクサーヌの助けを借りてスラムの盗賊を倒し、またも懸賞金を手にしたのだった。


【加賀道夫君(17)の足跡】※比較用

 学校で軽いイジメを受け、片親家庭で父親からネグレストされて世の中に絶望した加賀道夫君(17)が自宅でネットサーフィンしていると「自殺の決意をする前に」という謎の広告が現れ、質問に答えた結果、異世界に転移する。

 最初の地――ソマーラの村で盗賊襲撃に巻き込まれ、迷いながらも転移に伴うボーナスポイント99によって得た聖剣デュランダルを手に盗賊と戦った結果、英雄という壊れ性能のジョブを獲得。
 盗賊の戦利品の売却金や懸賞金、村からの礼金、戦利品を盗んだ村人の売却金を手にした道夫君だが、それでも買えない高額の美少女奴隷――狼人族ロクサーヌが現れる。

 しかし彼女を身請けするため、奴隷商人アランが提示した猶予期間はたったの5日間だった。
 道夫君は1人で迷宮探索を進めるが、とても短期間で得られる金額ではない。
 もう一度盗賊を退治することを決意し、スラム街に巣食う盗賊相手に見事成し遂げた道夫君は、紳士の取引60万ナール(※3割引)を完遂させるのだった。


セリー
プロローグ


 

   ベイルの迷宮

   一階層 ボス部屋

 

 〈MP吸収〉のスキルが付与されている聖剣デュランダルで気力体力共に万全であることを確認し、俺とロクサーヌはボス部屋の扉を開けた。

 

 

   ウドウッド

    Lv:1

 

 

 逆巻く煙の中から現れたのはニードルウッドを超える、ざっと3メートルはあるだろう巨躯の木の魔物。

 腕代わりの枝は雑魚(ニードルウッド)の倍の4本、ゆらゆら動くので長さが掴みにくい。

 攻撃範囲(リーチ)も倍ほどあると考えた方が良いだろう。

 

「いきます」

 

 ボスの全貌が見えるやいなや、ロクサーヌが斬りかかる。

 しなる()が、彼女目掛けて殴り、叩き潰し、薙ぎ払い、絡みつこうとするが、その全てが届く前に剣が幹に吸い込まれ、次の瞬間には離脱している。

 何度見ても見事な体捌きだ。

 

 その間に反対側に回り込む、間近で見るとなお大きい。

 なまじ散々戦ったニードルウッドと似ているだけに、縮尺が狂う。

 ……まあ、せいぜい名鉄名古屋駅名物ナナちゃん人形の胸下くらいだ……いや、充分デカいわ。

 

(スラッシュ!)

 

 思い切って斬り込む!

 使ったのは剣士のスキルである〈スラッシュ〉だ。

 瞬間、ウドウッドが仰け反る!

 

――ばぢん!

 

 仰け反ったまま、その反動で上腕が振り下ろされた! 足にかすった! いや衝撃だけか!?

 しまったな、人型のような姿はしているが、眼球もなければ関節もない、前後関係なく攻撃できるのだった。

 ニードルウッドが一撃だし、()()()戦った時は〈オーバーホエルミング〉でゴリ押したからな、油断したつもりはなかったが、こういうところで粗が出た。

 

呼びかけたるは我が心、感じ現る剣の意思、奔流、火炎剣!」

 

 心配させてしまったか、ロクサーヌがほむらのレイピアに炎を纏わせる。

 彼女がヘイトを集めて俺がデュランダルで攻撃する、いつものパターンだ。

 攻撃対象が移ったことを見計らって、再度の〈スラッシュ〉。

 そしてロクサーヌが動くたび、ボスの身体に焦げ跡が残される、心なしか、ウドウッドの動きも雑になっている気がする。

 更にもう一度、押しの〈スラッシュ〉を叩き込んで、ウドウッドは煙になって消え去った。

 

「ふぅ……ウドウッド相手ならなんとかなるか」

「お見事です。

 ……えっと、ドロップアイテムはご主人様に拾っていただければ良いのでしたか?」

 

 

   リーフ

 

 

 頷いて、ウドウッドのドロップアイテムであるリーフを拾い上げる。

 なんでもない葉っぱにしか見えないが……。

 

 

   【ジョブ設定】

      探索者:Lv12

       英雄:Lv7

       剣士:Lv5

       戦士:Lv5

       村人:Lv10

       盗賊:Lv5

       商人:Lv1

    薬草採取士:Lv1

 

 

 思った通り、薬草採取士が増えている。

 さっきボスを倒した後、レベルを確認しようとしたらロクサーヌにだけジョブが増えていたが、やはり条件は名前の通り薬草(リーフ)を採取することだったのだろう。

 剣士、戦士、商人は村人:Lv5に上がった時に増えたが、盗賊や英雄、そしてこの薬草採取士のように、何らかの特定の行動をすることによって解放されるジョブもあるわけだな。

 

 村人:Lv10にしたら更に増えないかと考え、きりの良いところまで上げているが、そちらはないようだ。

 まだ足りないだけかもしれないが、効果が弱い村人のレベルを今後も上げるかどうするか、悩ましいところだ。

 攻略本が欲しいと思いつつも、一歩一歩情報を集めていくのに楽しみも感じている。

 

 

   薬草採取士:Lv1

      効果:知力小上昇

     スキル:生薬生成

 

 

 なるほど、それならと〈生薬生成〉を唱えると、

 

「おおっ、できたな」

 

 

   毒消し丸

 

 

 先程までリーフがあった手のひらに、丸薬が10個出来上がっていた。

 

「薬草採取士になられたのですねっ! ご主人様すごいですっ!」

「ああ、確か探索者ギルドで1個100ナールだったかな」

 

 まあ末端価格だから、単純に1000ナールの儲けとは言えないが。

 

咄嗟(とっさ)に作ってしまったが、二階層のグリーンキャタピラーは別に毒を使ってこない……だったな?」

 

 改めて確認すると、「その通りです」と頷かれる。

 イモムシ、ケムシというといかにも毒を持っていそうなイメージがあるが、一安心か。

 

「では、今度こそ二階層の探索に移ろうか」

「はい、ご主人様!」

 

 

 

   ベイルの迷宮

     二階層

 

 二階層はグリーンキャタピラーとニードルウッドの2種類が、最大で2匹出てくる。

 といってもデュランダルの猛威は変わらず一撃で倒せたので、先手を取って1匹排除し、もう1匹をロクサーヌが引きつけている間に倒せば何の問題もなかった。

 それに、最大2匹といっても常に2匹というわけでもないようだった。

 

 警戒して先日は事前にわざわざ魔物部屋(モンスターハウス)に入ってまで集団相手の戦闘経験を積んだが、慎重すぎただろうか。

 

「ご主人様、向こうにグリーンキャタピラーが2匹の団体がいます。

 行ってもよろしいでしょうか?」

 

 ニードルウッドより、前後がわかるグリーンキャタピラーの方が対処し易いのではないか?

 そんな風に思いながら、俺は「頼む」と頷いた。

 

 

   グリーンキャタピラー

      Lv:2

 

 

 

   グリーンキャタピラー

      Lv:2

 

 

 全長約1メートル、膝ほどまでの体高のある緑色のイモムシが地面をうぞうぞと這っている。

 昨年、14畳用のエアコンを買い替えたが、あれを一回り大きくしたぐらいだろうか。

 まだこちらに気付いていない、ロクサーヌの嗅覚(センサー)は相変わらずだな。

 

「手前は私が引きつけます」

「わかった」

 

 全力で駆ける! そのまま上段から!

 

――ドッッ!

 

 遅れて気付いて振り向くグリーンキャタピラーが体液を撒き散らしながら掻き消える! 気持ち悪い! が、倒せる!

 

「来ます!」

 

 ロクサーヌの声に慌てて振り向くと、前傾で盾を構えて防御姿勢を取るロクサーヌの向こうで、グリーンキャタピラーの凶悪な顎の下で、魔法陣が光っている。

 

――ビュンッ!

 

 口から白い液体が吐き出される! ロクサーヌが避ける! ――俺は……無理!

 

「くそ……糸ッ!?」

 

 液体ではなかった。

 デュランダルを持つ腕と、両足に糸が巻き付いて、堪らず転げ回る。

 視界の端で、グリーンキャタピラーが尺取り虫のように身を縮める、昆虫の無機質な眼球と目が合った気がした……俺に目標を変えた?

 

「――――、火炎剣!」

 

 ロクサーヌがまたスキルを使った。

 わざと大振りに構えて、気を引こうとする。

 グリーンキャタピラーは再度目標を変えたようで、収縮した筋肉を一気に解放してロクサーヌに飛びかかった。

 が、虚しく空を切って壁に激突した。

 

 その間もなんとか糸を解こうとするが、二の腕から巻き付かれているから上手く力が入れられない。

 そうだ――

 

「――ロクサーヌ! 剣を! 火で糸を斬ってくれ!」

 

 なんかこういうシーン、アニメで見たことある!*1 そんな咄嗟の思いつきで頼んだが……いやこれ無茶苦茶怖い。

 ロクサーヌは俺の指示を完璧かつ迅速にこなした。

 眼前を火が通り過ぎて、腕が自由になる――と同時に、再度グリーンキャタピラーが突進してきた。

 なんとか転がって避けながら――

 

「――おぅふ、ロ、ロクサーヌ、これ(デュランダル)を使え」

「はい、喜んで」

 

 ロクサーヌは投げ渡したデュランダルを、どことなく湿度のある口調で受け取り、あっさりとグリーンキャタピラーを屠った。

 

「……こいつは糸を吐いてくるのか」

「そういうスキルのようですね。

 すみません、2人を同時に狙える位置に回り込まれてしまったようです」

 

 魔物が消えると同時に、脚に絡みついていた糸も消えた。

 物理的な糸というより、魔法的な糸ということだろうか。

 

 

   糸

 

 

 

   糸

 

 

 いや、物理的な糸も残るようだ。

 これがグリーンキャタピラーのドロップアイテムか。

 

「ちょっと厄介だな」

「他の魔物に注意が行ってる時だとそうですね。

 ちゃんと見ている時なら回避できると思いますが」

「……いや、俺には難しいな」

 

 ロクサーヌはキョトンとした顔で、「あの時の動きであれば……」と言った。

 2人でベイルの町のスラムに巣食う盗賊を退治した時のことだろう。

 

「あれは、オーバーホエルミングというスキルなんだが……」

 

 英雄のスキルである〈オーバーホエルミング〉を使うと、時間がゆっくりと流れて俺だけが自由に動けるようになる。

 つまり、相対的に見れば高速移動しているということだ。

 強力なだけになかなかMP消費が激しい、英雄のジョブになりたての頃は発動自体しなかったほどだ。

 だが、〈MP吸収〉のあるデュランダルを使えば使い放題……なんてうまい話はない、シンプルに言うとMP収支が見合わない。

 

「それに、躁鬱状態……ええと、MP切れの状態を繰り返すのは結構辛い」

「確かに……あれは辛いものでした」

 

 ロクサーヌも〈火炎剣〉の使いすぎで、一度ドン底状態になったことがあるからな、素直に頷いた。

 ……あの時は、ロクサーヌに口移しで強壮剤(MP回復薬)を……と思い出したところで、顔を赤くしたロクサーヌと目が合った、同じことを考えていたらしい。

 いかんいかん、一応仕事中だ、盛るわけにはいかん。

 

「と、というわけでな、グリーンキャタピラーがいない所、いても1匹だけしかいない所へ案内を頼む」

「は、はいっ、わかりました!」

 

 ……だが、いつまでもこそこそしているようではいけない。

 他の方策を立てなければ。

 

 例えば、もっと距離を取れれば……魔法が使えればなんとかならないだろうか?

 それなら避けられるかもしれない。

 

 あとは、1匹相手でも先制されて糸を吐かれる危険はあるから、被弾の可能性も考えなくてはならない。

 となれば回復手段が必要だ、糸に巻かれて死ぬんだよぉ!! とやってる間に回復アイテムを使うことはできない。

 EDF隊員じゃないんだ、ここには座標が重なるだけで効果を発揮する救急箱などないのだから。

 

 そんな調子で、その日はどうにかこうにか探索を進めた。

 なお、糸の売却価格は10ナールだった。

 ……こんなに苦労したのに、ニードルウッド(ブランチ)と同じか。

 

 

 

   ベイルの町

 

 この世界に来て11日。

 ロクサーヌを買って10日。

 盗賊を退治して5日。

 

 今日はベイルに市が立つ日だった。

 俺とロクサーヌは軽く迷宮を探索した後、買い出しに来ていた。

 

 ベイルの迷宮の二階層の探索を始めて数日だが、一旦探索を止めている。

 回復手段については、ロクサーヌに訊いた結果、素手で魔物を倒すと僧侶のジョブが得られるらしい……というので試したところ解放することができた。

 しかし、魔法については上手くいっていない。

 

 物を盗んで盗賊になり、村を救って英雄に、迷宮に入ることで探索者に、そして直近では僧侶のジョブを得た。

 他のジョブも村人Lv:5の条件が追加されているとはいえ、同じような理屈だろう。

 ならば、魔法を使えば魔法使いになれるのではないか?

 

 ……耐火レンガを作るのに耐火レンガが必要みたいな話だな。

 

 ロクサーヌによれば、5歳までに特別な薬を服用するのだというが、詳細はわからなかった。

 ボーナス呪文の〈メテオクラッシュ〉、〈ガンマ線バースト〉、〈エクストリームドロップデッド〉は相変わらず発動しなかった。

 恐らくMPが足りないのだろう。

 〈自爆攻撃〉? 試すわけがないが?

 

 駄目元で俺も〈火炎剣〉で魔物を倒してみたが、当然駄目だった。

 ロクサーヌが持つほむらのレイピアは、ロムヤという村人Lv:25の元冒険者から借りたものだ。

 ロクサーヌは彼と妙な経緯で一騎打ち……のような稽古のようなことを行うことになり、スキル付きの武器を借り受けることになった。

 ともあれ、武器に付いたスキルでなれるなら彼はとっくに魔法使いになっているだろうが、そうなってはいなかった。

 

「えっと、ご主人様、寝間着はこんなものでよろしいでしょうか?

 ……地味すぎる気がしますが」

「いや、寝間着だし、別にな。

 ロクサーヌは好きなのを選んで良いぞ」

「いえ、私だけそのような……」

 

 ふっ、計画通りだな。

 俺が地味なのにすればロクサーヌもそうすると思ったぞ。

 

 ……ロクサーヌとは今もダブルベッドの部屋に泊まっている。

 お互いに持ってる服が少なかったので、寝る時はほとんど下着姿だったのだが、そんな状態のロクサーヌと同衾して何も起きない(我慢できる)はずもなく。

 たたでさえ肉体労働(迷宮探索)なんだ、もうおじさんなんだよ、毎日朝から晩までハッスルするのは辛いんだ。

 

「帝都やクーラタルならもっと色々あったろうに、ここで良かったのか?」

「はい、お祭りみたいで楽しいですから」

 

 確かにな、と頷く。

 クーラタルや帝都ならば常設の店舗はあるし、品揃えは比較にもならないが、5日に一度の市という催事の空気が財布の紐を緩くするのだろうか。

 それは売る方も同じで、〈値引交渉30%値引〉で買った品が、時間が経ってから見たら半額になっていたりして苦笑いしてしまった。

 ま、勉強料というやつだな。

 

 五日市(いつかいち)など、◯日市という定期市をそのまま地名した土地は日本全国にあったが、こういう特別な雰囲気が人々の心に強く残ったのかもしれない。

 案外、ベイルの町も語源を辿ると五日市という意味だったりしてな。

 

 ……ロクサーヌに言ったように、このベイルを離れ別の町、別の迷宮にも行ってみた。

 

 知られている限り最古だというクーラタルの迷宮は、人が多すぎた。

 ボーナス装備である聖剣デュランダルは、低階層を探索する者が持つことは有り得ないようなお宝だから、できるだけ人目につきたくはない。

 その上、一階層のコボルトのドロップアイテムは安くてまずい。

 

 二階層のナイーブオリーブは特筆すべきこともない木の魔物だった。

 狩りは楽だし、ドロップアイテムのオリーブオイルは武器の手入れに使える、もちろん料理にも使えるから宿で割高で買い取ってもらえる。

 それだけなら悪くはないのだが、コボルトが混じるので稼ぎ効率は良くない。

 

 更に三階層は毒にしてくるスパイスパイダーということなので、そこでも探索は一旦打ち切っている。

 

 ……この、効率が悪い、という感覚が気持ち悪い。

 このまま続けて良いのか、間違ったことをしてはいないかと不安になる*2

 かといって、大きくリスクのある行動を取るには2人というパーティーメンバーは少なすぎると感じる。

 

 ……やはり、増員か。

 市が立っているベイルの街の中央部、その少し入ったところにある奴隷商人アランの商館を見る。

 俺がロクサーヌを買った場所、何かと秘匿事項が多い俺のパーティーメンバーは、またあそこで求めることになるだろう。

 

「さすがはご主人様、既にお気付きでしたか」

「――え? ああ、そうか、そうだな、わかってくれるか」

 

 男の奴隷を増やすと同じ部屋に泊まるのもやり難いし、かといって目を離すのも不安だから、増やすとなれば女奴隷になるだろう。

 そう思うと、ロクサーヌに相談するのは気が引けていた。

 ……まあそうだな、彼女にとってはビジネスライクな関係だろうし、人手が足りないなら増員しましょうよ、と考えるのは当然か。

 

「はい、向かいの茶色い屋根の家の陰ですね」

 

 ……流れ変わったな?

 どうにも話の雲行きが怪しいと思いながら言われた場所に視線をずらすと、若い男が1人、アランの館を見ていた。

 

   盗賊:Lv3   

 

 こいつは確か……

 

「先日、スラムで女性を追い回していた盗賊達の1人ですね。

 アラン様の商館を狙っているのかもしれません」

 

 ……そうだった、グリーンキャタピラーを狩り難いと思っているのは俺だけで、ロクサーヌがまともに被弾したのは一度も見たことがないからな。

 当然、スパイスパイダーで毒になることもないのだろう。

 そもそも、人手が足りないという認識すらないだろうな。

 なにしろ今の状態でも、ちょっと有り得ないくらい高速で狩り続けているという感覚のようだし。

 

「……ちなみにそれも臭いでわかったのか?」

「はい、そうですが?」

 

 あの、ここからだと結構距離あるんですけど……。

 剣道の試合場*3どころか、多分バッターボックスから二塁手(セカンド)遊撃手(ショート)までくらいの距離*4あるんですけど……。

 ついでに市の日だから他の一般人もいっぱいいるんですけど……。

 

「さっそく捕らえてアラン様に突き出してしまいましょう」

 

 ……わぁ、なんて奇麗な瞳をしているんだろう。

 

 この娘は俺が盗賊を倒すこと、アランを助けることを確信しているようだ。

 一旦俺をなんだと思っているのか……おそらく、ソマーラの村長のせいだと思う。

 

 ソマーラの村は、この世界に来て最初に訪れた……というかスポーンした村だ。

 丁度盗賊が襲撃してきて、居合わせた縁で撃退したのだが……あの時はゲーム感覚というか夢見心地というか、寝ぼけてはっちゃけたというのが正確なところだ。

 だというのに、なんでだか村長は俺のことを聖人か何かのように思っている節がある。

 それが伝染した結果、ロクサーヌは俺の行動を好意的に解釈する病気に罹っている気がしてならない。

 

 ……いや、まあ助けるけどさぁ。

 

*1
ただし男女は逆である

*2
説明しよう! 技術者として終わらないカイゼン活動を強いられてきた道夫さんは、不効率と感じると過度なストレス反応を発症する身体になっているのだ!

*3
一辺の長さが9メートルあるいは11メートルの正方形又は長方形

*4
プロ野球の場合約39メートルほどだが、少年野球の場合は約33メートルほど。

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