加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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用心棒

 

   ベイル

   アランの館

 

 商館を見張っているからと言って、盗賊の狙いが商館とは限らない。

 金持ちの客も奴隷を求めて来店することはあるだろうし。

 ロクサーヌに「盗賊の方は見ないように」と言って、素知らぬ顔で商館の扉を叩く。

 

「以前こちらで世話になったミチオという、主人のアラン殿はおられるか?」

「はい、おります、こちらへお越しください」

 

 中に入りながら、ちらりと盗賊の方を見ると……身を隠したか。

 店の人間に見られるのを避けているか、俺が前を通っても反応していなかったから、俺の顔は知らないようだ。

 

「ロクサーヌも座るといい」

「えっとその、よろしいでしょうか?」

「構わないだろう、今日は客なのだし」

 

 すんなりと応接間に通されたので、ロクサーヌを横に座らせた。

 座るのが不味いなら、以前商談した(ロクサーヌを買った)時の1人掛けのソファがある部屋に通されただろう。

 彼女が座ると、しかしほとんど待たされることもなくアランが入ってきたので、慌てて立ち上がって迎える。

 

「これはこれは、ようこそお越しくださいました」

「突然申し訳ない、しかし、他に客がいたのでは?」

 

 虚を突かれたような顔で「いいえ」と言われる。

 ということは、盗賊の狙いはこの商館そのものか。

 

「……ロクサーヌはよくやっているようですな」

「もちろんだ、私としてもアラン殿には非常に感謝している」

 

 ちらり、と彼女を見て柔らかい表情をしたアランに力強く断言する。

 彼が何を見てそう言ったのかはわからないが、ここにいた頃よりもロクサーヌが元気そうに見えたのなら嬉しいことだ。

 

「その感謝している商館に、どうにも見過ごせない危機が迫っているようでな。

 ……単刀直入に申し上げる。ここは盗賊に監視されているようだ」

「……ほう、盗賊、ですか」

 

 一転、視線が刃物の鋭さを帯びる。

 

「どうしてそれを?」

「先日、盗賊と揉め事を起こしてな、何人か仕留めたのだが――」

 

 結局、一方的な勘違いだったわけだが……まあ細かい話は良いだろう。

 

「――その時に見かけた盗賊の臭いを、このロクサーヌが嗅ぎ分けてな」

「……はぁ? い、いえ……失礼いたしました。

 しかし、その、店の前にはそれなりに人の往来がありますが……」

「この店に入る前に私も軽く顔を確認したが、間違いない」

 

 アランが呆然としている。

 

――私は狼人族の中でも鼻が利きます! 敵を探すこともできます!

 

――狼人族は嗅覚が鋭く、中には索敵に秀でた者もいるようでございます。

 

 ……ああ、そうじゃないかとは思っていたが。

 アンタ、ロクサーヌの鼻のこと信じてなかったな?

 

 まあ、公平に言って無理もないと思う。

 折角の高額商品を、確認の為に危険な目に合わせて傷物にするわけにもいかないのだから。

 なにより、性奴隷として買った少女の自己アピールなど、己の運命に抗おうとする潔癖な小娘の(さえず)りとしか思えなかったかもしれない。

 

――優しくも意志の強い鳶色(とびいろ)の瞳。

――汗を弾く珠のような肌。

――天使の輪(エンジェルリング)が浮かぶ栗色の髪。

――防具の上からでも主張するたわわな乳房。

 

 そんなものでは計れない本当の彼女の魅力(スペック)を自分だけが知っているのだとしたら……。

 堪らない優越感を覚えて、良い気分のまま言う。

 

「どうだろう、アラン殿。

 なんなら、俺を用心棒として雇ってみないか」

 

 

 

   ベイル亭

 

「ご主人様、おはようございます。

 そろそろお時間です」

 

 ロクサーヌの囁き声が耳朶(じだ)を震わす。

 真っ暗な中、彼女の体温が籠もった寝具の中から意識が浮上していく。

 

「……ああ、すまないな、ロクサーヌ」

 

 まだ明け方には間がある。

 今日は用心棒としてアランの館に行く手筈になっている。

 尤も、守るのは俺達だけではない、奴隷商人であるアランは戦闘奴隷を抱えていて、普段は5人で迷宮に入っているという。

 ビッカーと最初に店に行った時、奥の部屋から出てきて奴隷落ちした盗賊達を受け取った物々しい連中がそれだろう。

 

 そして賊が来るのは今日しかないと思われた。

 コトの発端となった、ソマーラの村の元村民――盗賊のバンダナを盗んだ男が引き取られるのが、今日だからだ。

 売約済みということで軟禁もされず、館内である程度の自由を得た奴隷、それを盗み働きの内通者として仕込んだ者がいる。

 更にまだブラヒム語も覚えていない男を、わざわざ選んで買取契約を結んだ者達、それこそが自らの店を狙う盗賊の一味であろうとアランは読んでいた。

 

「――ふぅ……ロクサーヌも飲むか」

「はい、ありがとうございます」

 

 寝る前に用意していた水差しから水を注ぎ、ロクサーヌに渡す。

 特別夜目が利くわけではないが、見知った間取りで〈鑑定〉が使えれば身支度に支障はない。

 

   寝巻き   

 

 新任の寝巻き君は就業1時間で床の上に左遷になった。

 昨日はその、つい盛り上がってしまって……いや、キミが必要とされる場面はきっとあるよ、だから許してほしい。

 

「またしても盗賊退治だが、もし機会があれば……」

「はい、わかっております」

 

 アランの戦闘奴隷は、普段は店が忙しくなる時間を避け、迷宮には夜明け前から入るようにしているそうだ。

 賊が店を見張っているなら、当然それも把握していることだろう。

 彼ら戦闘要員の代わりに戦えない者をカモフラージュとして商館から出ていかせ、襲ってくる盗賊を逆に罠にはめて待ち構える、というのがアランの狙いだった。

 

 ……だが、俺の狙いはまた別にある。

 

「装備は……問題ないようだな」

 

 〈鑑定〉を使えば、ちゃんと装備を身に着けているかも確認することができる。

 あまり依存しすぎるのも、と思っていつもは目視確認とダブルチェックしているが、今日は暗くてよく見えないので……まあ、ヨシッ!

 

「では、行くとするか」

「はい!」

 

   ※   ※   ※

 

「今日は朝食はいらないんだったな」

 

 ロビーで鍵を預ける時、すっかり見慣れた旅亭に声を掛けられた。

 人間と変わらない見た目の彼はエマーロ族だ。

 というか、旅亭はエマーロ族の種族固有ジョブのようだ。

 

 彼はいつでも宿の受付にいる。

 エマーロ族の種族的特長として、半球睡眠によって左右交互に休むことで仕事し続けることができるそうだ。

 地球にいたら残業代だけで一財産作れるだろう……羨ましいような、そうでもないような。

 

 旅亭には、昨日のうちに今日は予定があることを話していた。

 

「ああ、少し予定があってな」

「そうか、夕食には戻ってくるのか?」

 

 さすがにそこまで長引くことはないだろう、「そのつもりだ」と頷く。

 

「昨日、またビッカーからキュピコが届いてな、今回はジャムを仕込んだんだ」

「それはいい、パンに塗るのが良いか」

「いや、あれはハーブティーがお薦めだな。

 食後に1杯の香茶を……ローズヒップは美肌に良いそうだ」

 

 旅亭が意味有りげにロクサーヌを見て言う。

 商魂たくましいのも平常運転か。

 

「まあ覚えていたら頼むとしよう」

「おう、毎度あり」

 

 ……覚えていたらだってば。

 

 

 

   ベイル

   アランの館

 

 宿を出て、本来は使うまでもない距離だが〈ワープ〉で移動する。

 目的は商館裏の路地だ。

 この辺りの場所は、スラムの盗賊を調査した時に、移動に使える壁を調べてある。

 

 まだ真っ暗で分からないが、裏口の扉があるであろう場所を軽くノックする。

 扉はすぐに開いて、カンテラを持ったアランが出迎えてくれた。

 

「お待ちしておりました、こちらへ」

 

 囁き声に無言で頷き、中に入る。

 扉はまるでこういう事態を想定していたかのように、音もなく閉じた。

 

「灯りも持たずに来られたのですか、よく来られましたな」

「目立ってはいけないと思ってな」

 

 アランが軽く会釈をする。

 

「代わりの者は先程出かけました。

 おそらく、もう少ししたら賊が動き始めるでしょう」

 

 彼の案内で店の2階に上がる。

 ここから上には、何も知らない奴隷と、その世話をする者達――つまりは非戦闘員がいる。

 盗賊を迎え撃つのはアラン率いる戦闘奴隷達で、俺達は予備というべきか最後の砦というべきか、悩ましいところだ。

 

 アランがカンテラの灯を吹き消した。

 あとはひたすら、待つだけだ。

 横目で戦闘奴隷達を〈鑑定〉するが、全員レベル40オーバー、装備もダマスカス鋼、見事なものだ。

 あの盗賊の頭目(ウーゴ)が団体で来てもどうにもなるまい……それも少し困るのだが。

 

――スンッ

 

 ロクサーヌが鼻を鳴らして立ち上がる。

 

「表口で動きがあったようです」

 

 全くわからんが、ロクサーヌが言うなら間違いないだろう。

 他の連中も立つ。

 

「それでは、この場はお願いします」

 

 アランも出るようだ、剣を片手に迎え撃ちに行く。

 ……予備かと思ったが、もしかして頼りにされているのだろうか?

 

 ややあって、遠雷のように響く怒号と剣戟。

 

「来ます」

 

 ロクサーヌの視線の向こうに、――〈鑑定〉!

 

   盗賊:Lv3   

 

 ……またこいつか、因果だなとでもいうべきか。

 息せき切って逃げ回る盗賊が廊下に現れ、突き当りの部屋に入った。

 

「1人だけか?」

「はい」

 

 〈鑑定〉でも確認する、間違いなさそうだ。

 これはお誂え向きだな。

 デュランダルを消すのは怖いが……

 

(キャラクター再設定)

 

 

   キャラクター設定

 

   【ボーナス装備】

    武器Ⅵ

 

   【ボーナス呪文】

    等量交換

 

   【ボーナススキル】

    MP回復速度二十倍

 

 

 今日の俺の狙い。

 それは〈自爆攻撃〉同様、怖くて使えなかったボーナス呪文、〈等量交換〉を使うことだ。

 等量交換という以上、俺のHPないしMPと等しいダメージを対象に与えるのではないか?

 そうは思うが、Lv1でも魔物相手では怖くて使えない。

 盗賊:Lv41でも不意を突けばデュランダルの一撃で死ぬのだ、ウドウッドはLv1でも何度も斬る必要があったのにだ。

 

 だから盗賊(人間)相手に試す。

 俺は盗賊:Lv5だけでなく、強力な英雄のジョブも持っている。

 等量交換が何を交換するのだとしても、この盗賊が俺より弱いことは間違いない。

 

――ギィィィ……。

 

 いつしか静まり返った館内に、扉の音が響く、ちゃんと蝶番に油を差してくれ!

 いや、気の所為だ、そんな大きな音じゃない……クソっ! 高い金払った虎の子の強壮錠を口に入れ忘れた!*1

 

   絵画   

   ソファ   

   テーブル   

   ソファ   

   盗賊:Lv3   

 

 慌てなくても大丈夫だ、盗賊は部屋のソファの陰に隠れてやり過ごすつもりだろう。

 動く気配はない。

 6,000ナールを口に入れる……違う、強壮錠をだ、よし。

 

(等量交換!)

 

――ボコッ! ボココッ!!

 

「×……! ××!! ×!!?」

 

 濃厚なシチューが沸き立つような音と、声にならない悲鳴。

 だがそれに耳を傾ける余裕は俺にはなかった。

 この猛烈に嫌な感じ……力が抜ける、腰砕けになる!

 〈オーバーホエルミング〉の後に〈ワープ〉を使ったあの時と同じ……いや、あの時よりひどい。

 

――パン!

 

 風船が割れるような音と共に、俺の中からも何かが抜けていく、なにもかもが、骨が丸ごと引き抜かれるような感覚!

 クスリだ、なんとか……クスリを……飲み……

 

「ご主人様!」

 

 抱き起こされて気付く、俺は倒れ込んでいた。

 口に柔らかいものが入り込んでくる。

 あの時と同じだ。

 

「……すまない、ロクサーヌ、また助けられた」

「お加減はいかがですか?」

「問題ない……とは言えないが、大丈夫だ」

 

 さすが、強壮丸の100倍するだけのことはある。

 風邪を引いた時のように身体の節々が痛むのは、MPで賄えない分をHPで代用判定したのだろう。

 よいしょ、と声を出して立ち上がると、背中をさすってくれていたロクサーヌの手が解ける。

 

 ……心配を掛けてしまったが、その成果はあった。

 

 

   【ジョブ設定】

      探索者:Lv16

       英雄:Lv12

       剣士:Lv5

       戦士:Lv5

       村人:Lv10

       盗賊:Lv5

       商人:Lv5

       僧侶:Lv5

    薬草採取士:Lv1

     魔法使い:Lv1

 

 

――計画通り!

*1
道夫さんは過去に精神疾患の既往歴がある影響で、MP枯渇に対し非常に慎重になっている。

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