1~5話(プロローグ/初陣/ソマーラの村/戦利品/ベイルの町)について、説明不足な箇所の加筆、不要な部分の添削を行いました。
本話は順番を変えています。
ここすきの結果がズレてしまいました、以前投票いただいた方には申し訳ありません。
懲りずに投票いただけると嬉しいです。
その後、逃散する盗賊を生け捕りにした。
といっても、俺は襟足を掴んだり足払いしたり転ばせただけで、村人Lv25のロムヤ氏がそのむくつけき二の腕で首を締めて気絶させていたのだが。
Lv19の盗賊は無理だった。
生け捕りにするには危険と思えたので、ロムヤが牽制して俺が止めを刺した。
ロムヤも何も言わなかったから、同意見だったのだろう。
馬小屋で見かけた17歳の村人が、捕まえたそのうちの1人を殺していた。
「その、すまねぇが勘弁してやってくれ……父親を殺されたんだ」
とロムヤが言った。
俺は黙ってため息を吐いた。
他にも、深手を負っていた盗賊にはロムヤが介錯をして、村人が仕留めたのが他に2人、何人かは森の中に逃げ込み、五体満足で生け捕りにできたのは5人だった。
「村の窮地を救っていただき、ありがとうございました」
縛られた盗賊達を、ロムヤがさっき俺がいた馬小屋に運ばれているのを見送っていると、村長に声を掛けられた。
「……いや、間に合って良かった」
「できる限りのお礼はさせていただきます」
「あー、ロムヤさんからは、捕まえた盗賊を売った代金を山分けにすると言われていますが」
「む、もしやロムヤの冒険者時代のお仲間ですかな?」
おっと、名前を言ったのはまずかったか。
当人がいなくて良かった。
「いや、誰かが名前を呼んでいたので……私はそう、旅人……ですな、ミチオと言います」
「おお、不躾にも名乗りが遅れました。
ここソマーラの村の村長でございます」
深々と頭を下げてきた。
あまり視線を下げないでくれ、具体的には俺の足元を見ないでくれ。
このサンダルは、元々、俺のだ、イイネ?
「無論、ミチオ様が捕まえた盗賊、仕留めた盗賊の分の装備、賞金、身売りした代金はミチオ様のものです。
当村の者が貢献した分は、こちらに分け前をいただきとうございますが、この窮地を救っていただいたお礼はそれだけで適うものではありません」
「そう、ですか?
……では、どこか横になれる場所と飲みものを……さすがに、少し疲れた」
随分と腰が低いので、かえって喋りにくい。
あとむちゃくちゃ喉が乾いた……そら酒呑んで寝起きで運動すればそうなるよ。
「これは気が利きませんで……。
それではどうか、わたくしどもの家へお越しください」
村長の案内で歩き出す。
「××××」
「×××××」
盗賊の装備を剥ぎ取ったり、壊されたものを片付けたりしている村人に、村長が何やら指示を出しているようだ。
やはり何言ってるかわからない。
「ブラヒム語を話せる人間は、少ないのですかな?」
「この村では、わたくしと商人のビッカー、あとはロムヤだけでございましょう。
……ロムヤは元冒険者でしてな」
「なるほど」
俺は普通に日本語を喋っているだけなのだが、村長やロムヤにはブラヒム語に聞こえるらしい。
この村では日本語のことをブラヒム語と呼んでいるだけかもしれないが、わざわざ言語を分ける意味はあるか?
妙にディテールにこだわるな、この夢。
「どうぞお入りください」
他の家々より少し大きい、2階建ての家に着いた。
中から出迎えてきた老婆――奥さんだろうか――にまた何事か話しかけると、そのまま奥に通される。
「お湯と水を用意させていますので、しばしお休みください」
「どうも、そうさせてもらいます」
4畳半ほどの狭いがこざっぱりした部屋だ、初めて一人暮らしした時のアパートを思い出す。
板張りの寝床、窓も板、文明レベルは中世か近世か。
地方の農村だと近代に入っても中世とほとんど変わらない生活していた、なんて例もあるからわからないが。
「ふぅ」
一番の貴重品であるデュランダルと共に寝転がる。
(鑑定)
加賀 道夫
<男・37歳>
村人:Lv2
盗賊:Lv1
装備:聖剣デュランダル
:決意の指輪
:サンダル
レベルが上がっているが、村人だけでしかも1レベルか*1。
かなり渋いな、セカンドジョブで分散した、あるいはロムヤと分配されたと考えても渋い。
レベル41を倒したんだから、いきなり10くらい上がっても良さそうなものだ。
レベル差がありすぎると経験値が入りにくい仕様か? 低レベルプレイヤーの寄生対策として、そういう仕様のMMORPGをやった記憶がある。
もしくは、対人戦の経験値が少ないということも有り得るか、戦争が少ない設定にしたが、人間の経験値を高くすると魔王みたいなプレイングが出来てしまうからな、……だったら初手で盗賊をポップさせるのをやめろという話だが。
まあ、今日はこんなもんでいいか。
……………………………………これは夢、だよな?
目が覚めない、心臓の鼓動がうるさい、息苦しくなってきた、一層目が冴えてくる。
古典的だが、頬を抓ってみる……痛い。
ならば、
「……ログアウト、……ログオフ、終了、中断、エンド、セーブ、メインメニュー、終了メニュー、オプション、保存、名前をつけて保存、CTRL+F4、CTRL+ALT+DEL、終了する、終わる、終わって、終われ、終わった……」
現実に戻れない。
これは夢なのか、ゲームなのか。
こんなゲームなどあるわけないと、システムエンジニア歴約20年として断言できる。
感覚は……認めよう、この場所が完全に現実であると告げている。
夢ではない、ゲームではない。
要するにそれは、ただの現実なのではないか?
(……鑑定)
加賀 道夫
<男・37歳>
村人:Lv2
盗賊:Lv1
装備:聖剣デュランダル
:決意の指輪
:サンダル
なぜ、こんなことが可能なんだ。
こんなもの、夢か幻か……ゲームの中くらいだろう。
……思い出せ! 何があった!?
昨日酔いつぶれて寝る前に!
日本
加賀道夫宅
こころの健康相談統一ダイヤル。
自殺を連想させるキーワードを検索するとトップヒットする電話番号だ。
いや、別に自殺するつもりはなく、最近は異世界転生の題材にもなる太宰治について調べていたら、なぜかヒットしてしまっただけなのだが。
なんとなく、どんな単語でヒットするのか試してみる。
死にたい……、消えたい……、いなくなりたい……、私は貝になりたい……なんとなく聞いたことある言葉だったが、これって戦争ドラマの題名だったのか。
ピンピンコロリ……これは違うな。
終活……より良い最期、残された家族の負担を減らす、やりたいことリストを作る、か。
家族のいない自分には関係のないことだ。
……やりたいことがあったら、折角の連休にこんなことを調べてはいない。
なにか嫌なことがあるわけでもない。
健康に差し迫った不安はなく、高卒で就職した仕事も大きな問題はない。
職場はIT企業で、在学中必死に取った資格のおかげか、人手不足の恩恵もあってどうにか就職出来た。
会社の試用期間が終わったらすぐ家を出たが、やがて家賃を払うのが馬鹿らしくなって、三十路になって家を買った。
引退した老夫婦が
会社まで片道2時間だが、始発駅だから多少は楽だ。
もっとも、ここ数年在宅勤務だから、たまの出張以外は通勤自体していないが。
そんな家のローンも、案外早く返せてしまった。
給料は同世代の平均値にやや劣るが、20代の頃からチマチマ積み立てていたNISA口座がそれなりに膨れ上がったのだ。
無趣味で給料を塩漬けにしていた俺にしつこく勧誘してきた銀行員は、人生の五指に入る恩人と言えるかもしれない。
……顔も名前も覚えてないが。
母は20年以上前に死んでしまった。
そして、自暴自棄になったらしい父は仕事もせず暴力を振るうようになった。
その父も、不摂生が祟ったのか先年死んだ。
寝たきりになって余命いくばくもないという頃になって、病院から連絡があった。
親切なもので、進路相談で世話になった高3の担任教師の連絡先を見つけて、自分を探してくれたのだ。
独立してから初めて帰った実家は空虚だった。
散らかるほど物が残ってない家の中で、母の仏間だけが整頓されていた。
お互いの話はしなかった。
ただ、母の思い出話だけを、幾つかした。
さて、父も今際の際に終活について調べたのか、どうか……。
……まあ、借金を残さず、蒸発したりもせず、介護の手間も掛からなかったのだから良かったのだろう。
父が当時マトモで、もし進学出来ていたら、超円高の頃とぶつかって就職は苦労したことだろう、うちの会社でもあの頃の採用は1人か2人だけだったからな。
人間万事塞翁が馬、というやつだな。
そう、生きることに支障はない。
特にやることがない、それだけのことだ。
……しにちあ……タイプミスだが、これでも出るのか。
無駄に親切な……いや、そう、例えばシニアチアリーダーの略称とかかもしれないだろうが、全く不親切な、……日本シニアチア連盟!?
そういうのもあるのかー、まじかー、最年長が御年92歳とか、とんでもねー。
そして、その歳になってもやりたいことがあるとは、なんというか凄まじい。
自分には想像もできない話だ。
いつも頭のどこかで、何が良くなかったのか、と過去を思い悔やんでいる自分には。
……「自殺の決意をする前に」?
はて、なにを検索したのだったか、こころのなんちゃらダイヤルではない何かが目に入る。
妙だな、24時間受付の表示と共に書かれた電話番号は12桁だ、こんなのあるか?
「……なんだ、これ?」
セキュリティソフトの警告も出ないのでなんとなくクリックして、思わず呟いていた。
簡単にまとめると、
この世界 生き辛いなら 異世界で
無双できれば それもまた善し
こんなところか、……即興にしてはなかなかじゃない?
世界観は……近未来、海洋冒険、古代、そして剣と魔法の世界から選べるのか。
……やっぱりここは、王道を征く……剣と魔法の世界ですか。
次に人間オンリー、加えてエルフとドワーフのいる世界、更に亜人や獣人、ふむ、亜人や獣人に
なるほど、ゲームの広告だったか。
こんなところに、とも思うが、突拍子もないことをやる役所やNGOやらNPOやらはあるからな。
小人閑居して不善を為す。
いらんこと考えるより、ゲームで時間を潰す方が、消費活動にもなるし社会的にもよっぽどマシだ。
まあそれもいいか、残りの休日を消化できるものであればなんでも良い。
昔やっていたシリーズの新作や過去作のリメイクなど、積んでるゲームはいくらでもある。
だが、クリアまで何十時間も掛かるような大作ゲームはどうにも途中で飽きてしまう。
手軽にさらっと、しかしスマホゲーやブラウザゲーのようにお手軽に課金出来てしまうものはやりたくない、後々コスパを考えると今以上の虚無になるのがわかってる。
文化の数……これは文化レベルというより、文明圏の数ということか。
文明の衝突とか考えたくないからな、少ない、と。
国の数……ヨーロッパみたいに多少混沌としている方が良いな。
戦争の頻度……身体は闘争を求めてない、ゲームの中くらいは
ダンジョン型かフィールド型か……1つの都市でひたすらダンジョンアタックというのも嫌いじゃないが、ゲームの中でくらい旅もしてみたい……両方だな。
……? 不思議だな、これではゲームデザインから変わってしまうが、オススメゲームでも紹介してくれるのだろうか。
これで知ってるゲームが紹介されたら萎えてしまうが、使用する言語がデフォルトでブラヒム語なるものになっており、日本語が選べない。
少なくとも知ってるゲームではなさそうか、ということでデフォルトで進めていく。
【ボーナスポイントの設定】
▶やり直し
13
決定する
思わず、おっとなる。
[やり直し]ボタンをクリックするとリロールできる。
10台、20台が多い、1桁もちらほら。
こういう時は最高値が出るまで粘ってしまうのが常だ。
懐かしいな、Wiz*2やElano*3のキャラメイクに何時間溶かしたことか、俄然やる気が出てくる。
――カシュッ!
ちょっと夜更かしを決意して、超ドライなビールを開けてしまおう。
【ボーナスポイントの設定】
▶やり直し
62
決定する
なかなか高い数字だが、微妙なところだ、更に繰り返す。
【ボーナスポイントの設定】
▶やり直し
71
決定する
フォントが緑色になっている、悪くないが、もっと上があるんだろう?
更に進めて、そろそろ酒がなくなりそうだな、と意識が冷蔵庫に引きずられた時、一瞬80台が見えた……ような気がしたが、惰性でクリックしてしまった。
……本腰を入れよう。
2本目のビールはカクエフ*4。
深酔い防止にミネラルウォーター、ミックスナッツを用意。
カクエフを取り出したということは、半分飲んだら黒ビールを混ぜてハーフ&ハーフにするということ、つまり最低でも合計3本飲むということだ、覚悟しろよ。
トイレを済ませてから自動クリックツールを設定。
背もたれを固定、画面を注視しながらダイス神に祈りを捧げる。
そして黒生をちびりちびりとやりながら、ナッツを殲滅してミモレットチーズの征服に着手しようとした時のこと、
【ボーナスポイントの設定】
やり直し
99
▶決定する
その数字はビールのロゴより黄金に輝いていた*5。
ついに、ついにだ。
どれくらい掛かったか……直視したくないので時計から目を逸らす。
これが最高値ということで良いだろう、3桁はないと思い込むことにして、[決定する]ボタンをクリックした。
ようやくキャラクター設定画面まで辿り着いた。
画面にアバターの設定がないことに安堵する。
……あれも大概時間泥棒だからな。
腕力、体力、知力、精神、器用、敏捷値の設定……この手のゲームでは、基本パラメータを上昇させるメリットは序盤だけで、最終的に育てていくと無駄になるという印象がある。
まあ、この連休に楽しむだけと考えれば、上げてしまっても構わないか。
ボーナス装備……これもスタートダッシュを決めるのには良いが、大抵は最終装備に一歩劣る性能だったりするものではなかろうか。
そうじゃないとゲーム内で装備を整える楽しみがなくなるしな。
ボーナス呪文……ワープは移動呪文だろう、フィールドで使う系か、戦闘中に使う短距離ワープもロマンがあるが、……カーソルを当ててもTipsが出ない。
メテオクラッシュ、ガンマ線バースト……ふーむ。
必要経験値減少と獲得経験値上昇は鉄板だな。
値引きと買取り価格のボーナスもあるのは、交易プレイも可能なやつか、好きなやつだ。
どちらの場合でも鑑定スキルは必須栄養素だな、ガンにも効く。
攻略サイトを見ようにも、まだタイトルも知らないという……斬新だな。
いや、ゲームスタート時に初めて題名がわかる、そんな演出も嫌いじゃないが。
となると、キャラクター設定もあまり取り返しのつかない要素じゃないのかもしれない……やはりな、スキル欄に〈キャラクター再設定〉という項目がある。
選択すると、ボーナスポイントが1ポイントだけ減った、ということは何度でもできるのだ。
……いや、これ取ると取らないで話が全く変わるぞ?
まあ案外、ゲーム内通貨で簡単に振り直したりできるのかもしれない、気楽に……っと。
「………………じゃ、決定っと」
残った黒ビールに追いウイスキーを決めて、ナツメヤシとイチジクのドライフルーツを添える。
今夜は長くなりそうだ。
警告!
あなたはこの世界を捨て、異世界で生きることを選択しました。
二度とこの世界に帰ってくることはできません。
続けますか?
▶はい
いいえ
セキュリティソフトは問題なしっと。
雰囲気作りとしては悪くないな、クリックする。
――カチッ
最終警告!
本当に二度と戻ってくることはできません。
それでも続けますか?
▶はい
いいえ
「ふぁ――ひつこいな、課金の警告でもないしっと」
――カチッ
……。
…………。
………………。
というわけで、加賀道夫さん(37)になるまでの経歴にさらっと触れました。
あの性格で、おそらく進学できないので高卒で歳を取った時にどんな仕事してるかなー、と考えた時に、体力高くて孤独耐性も強い性格なので長距離トラックドライバーとか向いてそうだと思ったんですが、結構実態がブラックな場合が多いので、難しいのかなと。
というのも、加賀道夫君(17)は過去にいじめられていた際、無料で剣道を教えていた場所に通って鍛えた結果、手出しされない存在になったという、ある種の成功体験を持っているので、なろうあるあるな理不尽ブラック企業勤めだと、爆発して傷害事件とか起こしそうで……。
逆にどんな経歴なら真っ当な社会人出来てるかな、と逆算してこんな感じにしました。
ま、どんな環境でも理不尽なモンスターはいますけど、ここの道夫さんは学生時代に不運を使いきったということで。
その分、道夫君は世の中腐ってんなーって厭世的になって異世界入りしましたが、道夫さんは世間に恨みつらみを溜め込むことが出来ずに内省的になっています。
そうした原作との性格の違いをお楽しみいただけたら、と思います。