加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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またまた奴隷を買う(中)

 

 俺はすっかり冷めたお茶をグイッと飲み干した。

 

「迷宮に入っていると、敵の特性を理解してどの迷宮のどの階層で戦うべきか、色々と考えさせられることがある。

 そこで、セリーに考えてみてほしいのだが……」

 

 一階層で魔物を倒すのに一手番――10分、探すのにも10分掛かるとする。

 二階層では魔物が2匹出るから20分、探すのは同じく10分。

 わかりやすく、ドロップアイテムの買取価格は同じとする。

 どちらで戦うべきだろうか? と訊いてみた。

 

『一階層では魔物1匹につき20分、二階層では1匹につき15分ですから、二階層で戦うべきでしょう』

 

 セリーは更に続ける。

 

『……実際には、二階層でも常に魔物が2匹出るわけではありませんから、1時間当たりに何匹倒せたかを数えて、1日でどれくらい倒せるか計算するべきだと思います』

 

 ……探りのつもりだったんだが、100点満点で120点の回答が来たな。

 この世界の商人以外の人間の計算能力はかなり疑わしい、その商人も〈カルク〉がなければどれくらい計算できるか怪しいものだ。

 ボーナススキルの値引と買取交渉は、商人にしか効かないからこの〈カルク〉に干渉しているのだと思うが……。

 村人が円形のたらいを作ったりしているのだから、数学が発展していないはずはないのだが。

 セリーは〈カルク〉を使わずに軽く計算(culc)してみせたな……ふふ。

 

 アランPもご満悦だな。

 実のところ、もう絶対買うつもりになっているのだが、一応続けてみよう。

 

「では続ける、二階層の魔物はグリーンキャタピラーとしよう」

 

 グリーンキャタピラーは糸で拘束してくる。

 拘束から抜け出すのに二手番――20分余計に掛かるとする、だが避けることもできるから、糸をくらうのは2回に1度とする。

 わかりやすく、二階層では2匹の敵しか出ないものとする。

 どちらで戦うべきだろうか?

 

『二階層で4匹倒すのに40分、探すのに20分、糸の拘束で20分です。

 よって、1匹につき掛かる時間は一階層と等しくなります』

「そう、効率は等しくなるな、その場合、セリーはどうする? これにはハンナも答えてくれ。

 どっちが正解とも言えないので、良いとも悪いとも言わない」

 

 セリーの答えは、効率が同じならより経験になる二階層で戦うべき、だった。

 視界の端で、ロクサーヌが頷くのが見えた。

 ハンナの答えは、糸で拘束されるなら手傷を負ったり装備の損耗も増える、より安全で消耗が少ない一階層で戦って資金を貯める、だった。

 俺としては後者に頷きたい。

 装備を更新する、仲間を増やす、金で解決できることは多いと思うからだ。

 

「ありがとう、セリーについてはよくわかった。

 ロクサーヌは何か訊きたいことはあるか?」

「……そうですね、セリーさんは力があるということですから、力を見せてもらっては?」

 

 なるほど、セリーを戦闘要員にするならそれも必要か。

 

「アラン殿、試してもらうことはできるだろうか? 重いものを持ってもらったり……」

「ドワーフの装備品は用意がないのですが、重いものということであれば……」

 

 アランが手を叩いて人を呼ぶと、誰それの装備を持ってくるように、と伝えた。

 ややあって、大きな盾を持った大男が入ってくる、先日の一件で見かけた戦闘奴隷だな。

 

 

   ダマスカス鋼の大盾

 

 

 大男は、きょろきょろとアランの顔を窺いながら恐る恐る大盾を手渡した。

 盾の大きさはセリーがすっぽり収まるほどだ、商品に怪我をさせたら、と恐々とするのも無理はない。

 だがセリーは特に気負った様子もなく、なかば奪い取るように大盾を捧げ持った。

 

『背が足りないので構えることは難しいです』

「さすがはドワーフ族ですね、ご主人様」

「……そ、そうだな。

 ありがとう、セリーについてはよくわかった」

 

 なんか小さい女の子がウエイトリフティングする映像を見たことがあるが、すごいとかじゃなくてびっくり人間の領域だよ。

 いや、人間じゃないけど。

 セリーが大きく腰を曲げてお辞儀をした、また髪の毛が変な動きをする、この娘の周りだけ物理エンジンがおかしい(ハヴォック神の加護がある)

 

「ではハンナについてだが……顔色が良くないな、大丈夫か?」

「……いえ、大丈夫です」

 

 娘の方も顔色が悪い、まあ大盾を持った戦闘奴隷は俺もちょっとビビったからな、無理もないか。

 

「単刀直入に訊くが、傷の治りが悪いのか、それとも体調が悪いのか。

 回復薬や僧侶の手当などで良くなるものか?」

「……はい、薬師の話では、血を流しすぎたと。

 薬を飲めば少し良くなりますが、気長に根治するしかないとのことで」

 

 ロクサーヌに言って、彼女に持たせている回復薬を出してもらう。

 

「……滋養丸だ、娘の方にはそれと強壮丸も、気鬱の病に効くと思うのだが」

 

 こちらから頼む前に、中年の女性が水が入ったカップを用意してくれた。

 それどころか、俺がさきほど飲み干したお茶のカップからも湯気が立っている。

 お茶の香気と共に有能オーラが匂い立つようだ。

 

 その有能ウーマンを見て、ロクサーヌが驚いた顔をした。

 なるほど、〝とてもよくしてくれたおばさん〟とはこの女性のことか。

 

「……お慈悲に(すが)ります」

 

 慈悲ではない、症状が改善するか確認するだけだ。

 今後俺がうつ病を再発しないとも限らない。

 それに迷宮に入っているのだ、一生物の怪我をする危険性は、当然もっと高いだろう。

 

「――ありがとうございます、楽になりました」

「……あ、ありがとうございました」

 

 娘の方の声がちゃんと聞けるのは初めてだな。

 両手剣型向精神薬(デュランダル)を使う度に思っていたが、精神病のような状態異常はMP回復速度とMP最大値、いずれかあるいは両方にデバフが掛かる処理がされているのではないだろうか。

 火傷のような身体に残るような怪我も同様にHPが……いやスリップダメージが入る感じかもしれないな。

 

 ともあれ、この調子なら今後俺になにかあっても、ステータスでゴリ押して資金力でヤク漬けにすれば大丈夫だろうか。

 そう思えば心強い……か?

 

「……では、ハンナに質問だが、このロクサーヌは普段、火炎剣のスキルがついたレイピアで戦ってもらっている。

 武器の名前はわかるか?」

「はい、ほむらのレイピアでございますね」

 

 すんなりと答えたな、さすがは本職だ。

 その通りだ、と頷く。

 

「そのほむらのレイピアだが、実は友人からの借り物でな、いずれ代替品を探して返さなければならない。

 どのような武器があるだろうか?」

「はい、同等品でなく、上位の品を探すということであれば、基となる武器を強いものにするか、より良いスキルがついた武器となりましょう。

 狼人族の方であれば、エストックを使う方が多いです。

 また、火炎剣の上位のスキルは、トカゲとコボルトのスキル結晶を合成する火闌剣(からんけん)*1です」

 

 ロクサーヌに視線を向ける。

 

「エストックは過去、狼人族の英雄が使っていた逸話も残る武器です」

 

 なるほど、火闌剣がついたエストックを目標にするか。

 コボルトのスキル結晶はもうある、トカゲのスキル結晶はどうしたものか。

 同じように訊くと、商人ギルドでセリが開かれており、仲買人に依頼すれば購入できるそうだ。

 

 セリーが物言いたげな顔をしている、彼女に訊いてみても良かったかな。

 

「……あとは、そうだな、セリーを迷宮で前衛にするとして、どのような装備がある?」

「ドワーフ族は力がありますから、盾を持たせても良いのですが、どうしても上背の都合があるので、他種族とパーティーを組む場合はあまり盾は使われません。

 両手持ち武器で魔物を押し退けるような戦い方をする方が多いですね、棍棒やウォーハンマー等ですが、技量に秀でた者はハルバード*2を使います」

 

 今度はセリーに視線を向けると、彼女も二度三度と頷いた、異論はないようだ。

 ハルバードは斧槍とか鉾槍とか訳される武器だな、斬る・突く・叩く・払う・引っ掛けると多彩な用途があると聞く。

 バチカンのスイス衛兵(ガード)が使う格式高い武器としても有名だ、まあ現代では儀礼用だろうが。

 

 その時、アランが咳払いをした。

 

「そろそろよろしいでしょうか?」

「ああ、長々と申し訳ない」

 

 アランがセリー達を連れて退室した。

 それぞれ、こちらに丁寧にお辞儀をしてくる。

 

「……あの2人はともかく、セリーまで積極的なのは不思議だな」

「条件が良いからだと思います」

 

 そうなのだろうか? わざわざ危険な迷宮にこっちから飛び込んでいくのだが。

 俺がロクサーヌの意見も訊いていたから、ということもあるだろうか、それで風通しの良い職場だとでも思ったか。

 アットホームな職場であることは保証できる、なにしろおはようからおやすみまで一緒だ。

 

 ……いや、あの母娘のように魔物に限らず向こうから危険がやってくることもあるか。

 迷宮に入って強くなるというのは、それ自体が魅力的な条件なのかもしれない。

 

「ロクサーヌはあの3人とは上手くやれそうか?」

「……そうですね、おかしな人達ではないかと、カタリナさんはちょっとわかりませんが」

 

 言い方は悪いが、付属品だからなぁ……。

 母親はしっかりしていそうだし、問題ないと思うが。

 

「セリーさんは力も強いですし、頼もしいです。

 あまり長い間活躍することはできないと思いますが、その分、値段も安いでしょうから、選択肢としては悪くないと思います」

「……え? 長くはできないのか?」

 

 危ない危ない、ロクサーヌと同い歳なのに、と言いそうだった。

 セリーの年齢は、今は〈鑑定〉でしか知り得ない情報だ。

 そして、〈鑑定〉に頼らない外見情報だと、セリーはある程度の年齢に見えるようだ。

 ドワーフは年を取ると耳が細くなる、彼女の耳はかなり細くなっていたそうだ。

 

「……お待たせいたしました」

 

 アランが戻ってきた、後ろには先程の有能ウーマンもいる。

 彼女がロクサーヌに手を振った。

 

「少し席を外してよろしいでしょうか?

 あの方には、ここにいたときお世話になったのです」

「ああ、話してくるといい」

 

 ここからは商談だ。

 

「ドワーフの彼女はいかがでしたでしょうか?」

 

 自信の笑みだな。

 俺は「人が悪いな」と苦笑いする。

 

「今更隠せるものでもないが、セリーのことを是非購入したいと考えている」

 

 アランは軽く喉を震わせると、「いえ、失礼いたしました」と会釈した。

 ……まあ、ここまでは既定路線だ。

 あとは条件闘争ということになるが。

 

「セリーは鍛冶師でこそありませんが、ドワーフで16歳、性奴隷となることも了承しております。

 もちろん、処女でございますので病気の心配はございません」

「16歳か、ロクサーヌは耳が細いと言っていたが」

「……実はセリーは生まれつき耳が細いのです、後ほどインテリジェントカードをご確認いただければわかることかと。

 ミチオ様にこだわりがなければ、相場より安くなっておりお買い得であると思います」

 

 更に、3人とも初年度奴隷だから、今年の人頭税が庶民の家人同様に3万ナール、合計9万ナール必要だという。

 そして、まだ教育が行き届いていないという瑕疵もある。

 だが、金額の提示はない。

 

 わかっている、俺がセリーを買うのか、セリー()を買うのか、その答えを待っているのだろう。

 

「金額次第ではあるが、あの3人をまとめて購入したいと考えている」

「おおっ、ありがとうございます。

 耳のこと、怪我のこともありますし、教育も不十分ですから……ズバリ30万ナール、と言いたいところですが……」

 

 大丈夫、俺の心は凪いでいる。

 ロクサーヌの時のように、後ろからメイド服のセリーに奇襲されても大丈夫だ。

 ……メイド服、そうだメイド服があったな。

 あの時は当座の資金が心配で皮装備に変わってしまったが、今ならば……。

 

「……29万……28万……いえ、27万ナール、これがぎりぎりの値段です*3

「……なるほど、その金額ならば……いや、しかしな…………」

 

 別にアランのアラ溜めを真似しているわけではないが、勿体ぶった感じになってしまった。

 アランが「……いかがいたしましたか?」と水を向けてくる。

 

「正直なところ、2人増やすことまでは想定内だったが、3人は想定していなかったのでな」

「……なるほど、受け入れるのに時間が掛かる、ということでしょうか?」

 

 部屋割りも考えなければならない。

 特にあの母娘は、1階の部屋の方が良いだろう、脚も悪いし、男の俺がいると落ち着かないだろう。

 家具や寝具は元々これから揃えるつもりだったが、そこまではアランは知るところではない。

 

「……わかりました、2日……いえ、3日までであれば契約済みとして別室で待機させられます。

 その期間であれば、セリーの教育は引き続きこちらで行いましょう」

「あの母娘は、少し体調が心配だな……」

「……無論、契約済みでお預かりしているわけですから、心配はご無用です。

 こうして買い手もついた以上は僧侶を呼び、治療を受けさせることもできます」

 

 なるほど、売り物になるかもわからない()()に投資はできないということか。

 まあ、彼女らにデュランダルを持たせて戦わせる(回復させる)のは難しそうだし、もう一度ちゃんと治療してもらえるならその方が良いだろう。

 

「あとは、単純にこちらの不徳の致す所なのだが、ロクサーヌが初めての奴隷で、いきなり3人も増えることに不安もある。

 特に、1人は年嵩でもあるしな……なにか助言のようなものをいただけないだろうか?」

「それはそれは、堂の入ったご様子なので、すっかり忘れておりました。

 ……そうですな、まずは序列をしっかりと定めることですな」

 

 なるほど、権威ということか。

 ロクサーヌに不満がないのであれば、一番奴隷として任命すると良いという。

 一番奴隷とはその名の通り、奴隷に何をするにも優先すべき存在で、場合によっては女主人のような役割を持つこともあるという。

 まあ、ウチの職場では先任なのだし、俺1人で4人に細々した指示をするのでは気苦労も多い。

 

「あとは同時期に購入する3人ですが……まあ母と娘という間柄の2人は良いでしょうが……」

「……問題はセリーか」

 

 アランは重々しく頷いた。

 

「戦闘奴隷、性奴隷、家事奴隷、それぞれに役割がありますが、待遇に差をつけなければ不満が溜まります。

 ミチオ様から見ても、何より奴隷達自身から見ても、それとわかる明らかな差です」

「……待遇……衣食住か」

 

 だが食事と寝具はマトモなものにしないと、体調のこともある。

 服だな、特に他意はないが、服だろうな。

 

「とはいえ、あの母娘は過酷な扱いは難しいでしょう、変えるとすれば服ですな。

 ……そうそう、以前ロクサーヌに着せていた服は、帝宮の侍女の服を模したもので、多くのお客様から喜ばれるものです」

「ああ、そういえばそんなものもあったな」

 

 いや、完全に忘れていたな、よく思い出させてくれたものだ。

 さすがはアランだ、どうしてアンタはそんなに気が利くんだ。

 

「では、その侍女の服を、ロクサーヌとセリーの分、作ってもらえるだろうか?」

「……ふむ、実はロクサーヌが以前着ていたものが残っているのですが……セリーにもとなれば、合わせて新しく作るべきでしょうな」

 

 なるほど、と頷く。

 色々と気を使うものだ。

 

「帝宮の侍女にも、色々と格式というものがございます、一番奴隷のロクサーヌには侍女長の服を模したもの、セリーには通常のものといたしましょうか。

 デザインの違いですが――」

 

 手慣れた様子で説明してくれた。

 ……なんで俺はアラフィフのおっさんとメイド服談義をしているんだろう――おいやめろ正気に戻るな。

 

「――では27万ナールに、侍女長の服6千ナール、通常の侍女服4千ナールもお付けいたしまして……特別サービスということで19万6000ナールでお譲りいたしましょう」

 

 持っててよかった3割引き。

 

*1
原作で登場していないが、本作では火炎剣の上位スキルとする。

*2
原作で装備としては未登場ですが、ハルツ公爵のエンブレムが恐らくハルバードを持ったヘラジカ(漫画10巻参照)なので存在して問題ないと思います。『ロードス島伝説』の石の王フレーベとか、『最果てのパラディン』のルゥとか超好き。

*3
原作より教育不十分の状態でも2万ナール高いのは、母娘の分はもちろんだが、戦闘奴隷を求めた道夫君と異なり、道夫さんが知識奴隷を求めて来店していることによるもの。




火闌剣(からんけん)火闌降命(ホノスソリノミコト)からです。
また火闌を一文字にすると〝(ただ)れる〟の漢字になります。
『異世界迷宮に奴隷ハーレムを』の詠唱文は古式ゆかしく韻が踏まれていて、雰囲気に合う名前を考えるだけでも一苦労ですね、違和感がなければ幸いです。
オリジナル詠唱呪文は無理なので出すか不明です。
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