加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

28 / 103
受け入れ(下)

 

   クーラタルの街

     中心街

 

 5人で〈ワープ〉を使うのはなかなかしんどかった。

 レベル上げをしていなかったら、何往復かに分けて移動する必要があったかもしれない。

 

「俺は探索者ということになっているので気をつけてくれ」

 

 金物屋に入る前にそれだけ注意しておく。

 冒険者ギルドでは〈フィールドウォーク〉を使った振りをしていたから、3人は俺のことを冒険者と思っているはずだ。

 3人は怪訝そうにだが、しっかり頷いた。

 

「いらっしゃい――あら、ミチオさん」

「どうも、大家さん、今は大丈夫だろうか?」

 

 世話役のオネスタ女史が「どうぞどうぞ」と頷きながら、3人を品定めする。

 ハンナは涼しい顔をしているが、若い2人は居心地が悪そうだ。

 

「新たに奴隷を3人増やしたのでご挨拶をと……」

 

 ハンナ、カタリナ、セリーと紹介していく。

 特にハンナとカタリナは、俺達が迷宮探索している間、留守を守ることになるから、しっかり紹介する。

 オネスタ女史は……ふむ? 怪訝そうな顔をしているな。

 

「あ、いえ、わかりました。

 ……なるほど、それで家に柵を立てたんですね」

 

 なんとも答えかねて、肩を竦める。

 

「一気に3人とは随分調子が良いようで、何よりです」

 

 ……意外だな、杖をついていることについて何か言われるかと思った。

 ロクサーヌの時は舐め回すように値踏みしていたから、内心身構えていたのだが。

 まあ、特に問題もないようなので、もう一度挨拶して店を出ようとして――

 

「……すみません、ミチオさん――ちょっと」

 

 ――オネスタ女史にちょいちょいと手招きされて、立ち止まる。

 

 ロクサーヌに「着替えや雑貨類の買い物を済ませておいてくれ」と伝えて財布を預ける。

 アイテムボックスにも銀貨は入れているから、まあ問題はないだろう。

 

「は、はい、お預かりいたします」

「後で武器屋で待ち合わせるとしよう」

 

 金物屋に戻ると、オネスタ女史は「どうもすみませんねぇ」と笑いかけてきた。

 悪い話ではないようだ。

 

「いや、若い娘達の買い物に付き合わない口実が出来たので、むしろありがたい話で」

「おやまあ、うちの亭主みたいなことを」

 

 ひとしきり笑いあった後、彼女がぽつぽつと話しだした。

 

「本来素性を詮索するような真似はタブーなので、お答えいただかなくても良いのですが……あのハンナ……さんという人は元商人ですよね?」

「……そう聞いている」

 

 ハンナがクーラタルのことをよく知っている風だったことを、もう少し考えるべきだったか?

 ……とはいえ避けようもないことだからな。

 

「なかなかやり手の商家だったはずですが……いえ、さすがに事情まではお尋ねしませんが」

 

 どうせ訊かれても答えられないので黙っておく。

 こういう空気は、苦手だ。

 

「……おかげさまでうちも結構繁盛していまして、計数に強くて心配りのできる人はいつでも歓迎です。

 もし手が空くことがありましたら、良かったらうちの店を手伝ってください」

「……お心遣い、痛み入る。

 しかし、あの見た目だが……」

 

 女史は不敵な笑みを浮かべると、「それで怖がるような客はクーラタルにいませんよ、むしろ箔が付くというものです」と言った。

 バイト紹介というところか、世話になるかはわからないが。

 

 ありがたい話だ。

 

 

 

   クーラタルの街

     道夫の家

 

 その後、武器屋と防具屋でセリーの装備を買った。

 空きのスキルスロットが1つある棍棒と皮の帽子とジャケット、ミトンだ。

 そして家具屋で予定通りに家具を届けてもらうように頼み、事前にロクサーヌと探して見つけた目立たないところに生えている大木を使って、〈ワープ〉で家に戻った……のだが。

 

「……さすがに5人だと狭いな」

 

 セリーがどでかい棍棒を背負っているから尚更だ。

 この超巨大な生ハム原木みたいな棍棒を見てると酒が呑みたくなってくる。

 

「丁度良い、家の外の説明をしよう」

 

 たまらず扉を開けて外に避難した。

 確実に風が温くなってきているのを感じる、こっちに来たのが4月の始めだとすると、そろそろ5月くらいだろうか。

 夏にはどれくらい暑くなるのだろう。

 

 ……塩っ辛い生ハムで痺れた舌に、冷凍庫でガキンガキンに冷やしたジンを流し込むのが、暑い時期には堪らんのだよなぁ*1

 

 雑念を振り払って、クーラタルの中心街がある方向を指さす。

 

「さっきまでいた中心街があっちだ、少し距離があるから、隣近所は冒険者が住んでいるらしい。

 だからか、時間が合わなくて顔を合わせるようなことはないが」

 

 時差がある土地にも一瞬で移動できるのが冒険者だ。

 恐らく、体内時計を仕事をしている余所の土地に合わせているのだろう。

 

「庭にはこの通り、ハーブ類を植えている」

「そんなに手が掛かるものは植えていませんが、私達がご主人様と迷宮探索に出ている間、水やり等をやってもらいたいと思っています」

 

 あとで何を植えているか説明しますね、とロクサーヌ。

 

「では今度こそ家の中に入ろう」

 

 玄関にはスリッパ代わりのサンダルを5足用意してある。

 中に入る時は必ず履き替えるように指示する。

 

 ……家の中に土足で入るのは、どうにも気分が悪い。

 あの伝染病のあれやこれやで、すっかり綺麗好きというか、神経質になってしまった。

 なにしろほぼ天涯孤独の一人暮らしだ、やばい病気になったら本気で死にかねないからな。

 

 この世界でもどんな病気があるかわからないし、医者もどれくらい当てになるかわからない。

 注意するに越したことはないだろう。

 

「玄関にも椅子を置いた方が良いでしょうか」

「……そうだな、よく気付いてくれた、ロクサーヌ」

 

 椅子があれば杖も立て掛けることができるし、座って履き替えることもできる。

 あとは杖先を拭き取れる雑巾もあったほうが良いか。

 

「何から何まで、お気遣いありがとうございます。

 ……ところで、あの、この壁は遮蔽セメントのように思えるのですが?」

 

 壁に手をついて履き替えているハンナが言った。

 ロクサーヌと目で確認し合う。

 うん、やっと人目のないところに来れたし、説明すべきか。

 

「その通りだ、これはワープというスキルでな、遮蔽セメントは無効だし、迷宮でも使える。

 さっき探索者ということになっていると言ったのは、これが原因だ」

「……それは、なんとも……」

 

 3人が顔を見合わせている。

 

「まあ、だからどうしたということもないが、内密にな」

「もちろん、ご主人様のことを言いふらすような真似をするはずがありません」

 

 ロクサーヌが同調圧力によって与圧すると、3人の顎が下に振られた。

 ……まあ、面倒なことになったらロクサーヌとどこか別の場所に行けば良い、そう思えば気楽なものだ。

 

「それでは、冒険者が使うような衝立をご用意するべきかもしれません。

 私共が来客の応対をしている時に、御主人様が現れては露見しかねませんし」

「……なるほど、これからはそういうことも考えられるか、よく言ってくれた」

 

 ……うん、ハンナは大丈夫そうだな。

 

「ではそうだな、しばらくは……脱衣所の壁を使おうか」

 

 風呂を沸かすのも〈ワープ〉を使うのも俺だから、不慮の事故(ラッキースケベ)など起こりようもない。

 ロクサーヌも「すぐ洗濯物を出すこともできますね」と頷いた。

 

「ではロクサーヌ、俺は3人に家の中を案内するから、昼食の用意を頼んで良いか?」

「えと、はい、わかりました」

 

 私達もお手伝いを、と言い出す3人に対して、「出る前にあらかた用意しているので大丈夫ですよ」とロクサーヌが制した。

 ロクサーヌ的には家の案内も自分がしたいのだろうが、任せても俺がすることがないのだよな。

 ……自室で寛げるように、早いとこちゃんと整備しないと、彼女らにも気を使わせてしまうな。

 

 トイレにも専用のサンダルがあるから履き替えるように。

 さっき言った脱衣所と風呂、風呂は自分で魔法を使って入れるから、掃除だけしてくれれば良い。

 

「も、もしかして、複数、ジョブ、でしょうか?」

「……鋭いな、その通りだ」

 

 ……話し方は多少拙くとも、やはりセリーは頭が良いな。

 ハンナは、あっという顔をしている、セリーの方が発想が柔軟というべきか。

 さすがに実演はしないが、今晩風呂を沸かす時にわかるだろう。

 

 食事は居間でするが、自室で食事してくれて構わない。

 家具はこれから運び込むが、ハンナとカタリナの部屋にはテーブルも用意する。

 そんな話をすると、えらく感謝された。

 

 説明している間に食事の支度が出来たようだ、ロクサーヌに呼ばれて居間に戻った。

 

「まあ、今日は折角なので全員でまとめて食事にしよう」

 

 言わないと座らないだろうから、さっさと座るように言う。

 俺が一番奥、対面正面にロクサーヌ、セリー、カタリナ、俺の隣に1席空けて横にハンナだ。

 横の椅子は、当面使う予定もないので後で玄関に持っていくか。

 

「じきに家具が届く、さっさと食べてしまおう」

 

 昼食は香辛料のような風味のあるシェーマという香味野菜で肉を巻くシェーマ焼きだ。

 ……うーん、棍棒(生ハム原木)のせいでさっきから酒が飲みたい気分になっている。

 もう少しおとなしい料理にしてもらうべきだったか。

 

「うちでは朝昼夕に食事を摂る」

「ハンナさんとカタリナには食事の用意もしてもらうつもりです」

 

 ロクサーヌの食事の時間や買い物の予算なんかの説明に、母娘が頷いている。

 特に不安はないようだな、まあ細かいところは彼女達に任せよう。

 

「……私がご用意できないのは寂しいですが」

「あー……まあ、2人も休みたい時もあるだろう、その時は頼むとしよう」

 

 ロクサーヌがにっこりと微笑んだ。

 セリーにも頼んでみよう、ドワーフ料理とか気になる。

 すごい酒に合いそうなものを作ってくれそうなイメージがある。

 

 ……が、今は言わないぞ、このタイミングで頼むのはロクサーヌに悪いからな。

 

「そうだ、セリーのことだが……」

「は、はいっ」

 

 セリーは相変わらず緊張しているな……ううむ。

 最初は売り込んでみたものの、いざ男の家に来て恐れをなしたとか?

 だとすると、変に気を使っても怯えさせるだけだろうか。

 

「……セリーの、ジョブのこと、なのだがな」

「はひっ!」

 

 ……なぜこの話題で更に挙動不審になるのだ。

 ロクサーヌを見る……首を傾げられた。

 ハンナとカタリナを見る……首を振られた。

 再度セリーを見る……ゴクリと唾を飲み込まれた……寂しい。

 

「……折角探索者のレベルが上がったのに悪いのだが、セリーのジョブを一度村人にしようと思う」

「……あの、なぜ、わたしが、レベルの、上がったことに、御存じで、なのですか?」

 

 ああ、そうか。

 さてどこまで話したものか……。

 

「ご主人様ですから」

 

 いや、それは説明とは言わないぞ、ロクサーヌ。

 

「……まあ、これもスキルだな、鑑定、という。

 探索者だけでなく、他のジョブのレベルも見える」

 

 3人は……ピンと来ていないようだな。

 それが常識なのだろうし、無理もないか。

 というか〈鑑定〉が正しいとは限らないし、突然クソアプデが入ってナーフされるかもしれないし。

 別の視点は大事にするようにしよう。

 

「……まあ、鑑定の結果が本当なのか、俺も証明することはできないのだが。

 セリーは、自分でアイテムボックス操作を使って気付いたのか?」

「はい、ブラヒム語の、練習、です」

 

 ああ……一番身近なブラヒム語だもんな、そらそうよ。

 うん、高レベル商人をパーティーメンバーにすることに目が眩んで、何も考えていなかったな。

 

「……それでその、セリーのレベルはいくつになったのでしょうか?」

 

 セリーの探索者Lvが、この3日でLv10からLv15に上がったことを伝えると、全員ギョッとした顔でセリーを見る。

 見られたセリーは、硬い面持ちでコクリと頷いた。

 ハンナとカタリナも驚いているな……そうか、セリーは誰にも言わなかったのか。

 悪いことをした気もするが、彼女が信頼できそうなのは良かった。

 

 ついでに、ロクサーヌが獣戦士Lv16であること、ハンナが商人Lv29、カタリナが商人Lv15であることを伝えた。

 気分は神父か王様か……次のレベルアップまでの経験値もわかれば良いのに。

 

「さきほど魔法が使えると言ったが、商人には知力小上昇という効果があり、魔法の威力が上がるようだ。

 2人に来てもらったのは、そういう部分も期待してのことだ」

「……そういえば、商家出身の魔法使いは大成しやすいと言われることがあります。

 眉唾と思っていましたが、パーティーメンバーに商人がいたからかもしれません*2

 

 野心的な商家は自爆玉というアイテムを用意して、子供を魔法使いにするのだという。

 これは、アランが言ってた代物だな。

 幼少時に使えば確実に不発になり、安全に魔法使いになれるというが、なかなか覚悟ガンギマリじゃないと出来ないことに聞こえる。

 

「……まあ、ジョブに就くには色々な条件があるということだな。

 そして、鑑定で見るところ、村人にもレベルがあり、俺の場合はLv5になると戦士、剣士、商人といったジョブになれるようになった。

 セリーは村人Lv3のようなので、もしかしたらと思ってな」

「私が……鍛冶師に……?」

 

 鍛冶師になれると言ったわけではないのだが、やはり相当なりたかったのだろうな。

 だがここは心を鬼にして、「まあそうとは限らないが」と伝える。

 後でやっぱり駄目だった、となった時のダメージを軽減するために、事前にテンションを下げておく作戦だ。

 

 なにしろ鍛冶師は種族固有ジョブだ。

 この世界の歴史は知らないが、同じ知的生物なのだから地球のように民族紛争などを経てきたであろうし、となれば種族の命題としてその条件を解き明かそうとしてきたはずだ。

 それを思えば、条件が緩すぎる気がする。

 

「……だが、戦士、剣士、商人にはなれるだろうし、巫女というジョブも種族固有ジョブではない……よな?」

 

 ロクサーヌが頷いたので、「ならば、きっと巫女にもなれるだろう」と続ける。

 

「それに、僧侶は魔物を素手で倒すことが条件のようだ。

 となれば、鍛冶師になるにはLvだけでなく、何らかの行動条件を満たすことが必要かもしれん。

 ……ロクサーヌもハンナ達も、鍛冶師と言えばどんなジョブか、どんなことをするものか? 考えてみてくれるか」

 

 セリーにも「辛いだろうが」と考えてみるように促すと、彼女は凛々しい顔で頷いた。

 

 ……しかし、この国――帝国らしいが、たまたまなのかもしれないが、種族としては人間が支配的のようだ、明らかに数が多い。

 獣戦士の狼人族や鍛冶師のドワーフ、24時間働けますかのエマーロ族、そうした種族達に対して、どうして主流になれたのだろうな?

 

「そういえば、人間にも種族固有ジョブはあるのだろうか?」

 

 ……………………なんでみんな黙るの?

 若い3人が何やら顔を赤らめて俯き、ハンナが口を何度かパクパクとさせた時――

 

「購入された品をお届けに参りましたー!!」

 

 ――ノックの音と共に張り上げられた声が響いた。

 

「あ、受け取りに参ります!」

 

 

   ロクサーヌは にげだした!

 

 

「お、お手伝い、します!」

 

 

   セリーは にげだした!

 

 

「カタリナも、お行きなさい」

「は、はい」

 

 

   カタリナは にげだした!

 

 

 

 さぞ困惑した顔をしているであろう俺に、ハンナが咳払いをして顔を寄せてきた。

 

「我々人間族は欲望が極端に肥大する種族であると言われております。

 ……ですので、男は色魔、女は色情狂というジョブがあると伝えられてます。

 御主人様であれば近い内に……いえ、失言でした」

 

 ……なるほど。

 あの時の会った仲買人の……トーレルだったかな? あの男のジョブは、そうか……。

 俺の反応を待たず、ハンナは「失礼いたします」と会釈をして部屋を出ていった。

 

 

   ハンナは さっていった!

 

 

 

   ロクサーヌたちは いなくなった!

 

 

 ……おお、道夫よ! 逃げられてしまうとは情けない!

 

*1
肝臓「…………」

*2
本作独自(捏造)設定。商人は知力(=魔法の威力に影響)と精神(=魔法の詠唱速度に影響)が上昇するスキルであり、恐らく上級職の豪商も同様であろう。そして魔法使いを育てられるような商家であれば、豪商もいるだろうと思われる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。