加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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【2024/09/04】
1~5話(プロローグ/初陣/ソマーラの村/戦利品/ベイルの町)について、説明不足な箇所の加筆、不要な部分の添削を行いました。

ここすきの結果がズレてしまいました、以前投票いただいた方には申し訳ありません。
懲りずに投票いただけると嬉しいです。


ソマーラの村

 

   ソマーラの村

    村長の家

 

 

    最終警告!

   本当に二度と戻ってくることはできません。

   それでも続けますか?

 

  ▶はい

   いいえ

 

 

――ゾクッ!

 

 そういえば、そんなメッセージウインドウを見た……のではないか?

 クリックしたような……覚えが……あるのではないか?

 だからといってそれがなんだ、そんなことがあり得るわけが――!

 

「失礼いたします、こちらの湯でお身体をお拭きください。

 それとお水と、着替えもご用意いたしましたので、ここに」

 

――ドクンッ!

 

 鼓動がやまない、声が遠くに聞こえる。

 

「今お召しになっているものは汚れてしまっているので、のちほど洗濯いたしましょう」

 

 

   お湯

 

 

 〈鑑定〉もできる、デュランダルもある。

 だからといって、ここがゲームの中だと誰が断言できるだろう。

 最後の警告まで含めて全てが有効な世界、それはつまり現実だ。

 警告が謳う、異世界だ。

 

 服の汚れに手を触れる、ニチャっとした、嫌な感触。

 

 

   血液

 

 

 俺は認めなければならない。

 気づいてしまった、現実逃避をしていることに。

 認めるべき事実から、目をそむけていることに。

 

 人殺し

 

 ここが夢か幻か、あるいはゲームの中なら、俺は〝とうぞくのむれをやっつけた。〟だけだ。

 だがそうでないなら、俺は人を殺したことになる。

 だから、ここが仮初めのものであると、俺はそう思いたいのだ。

 

 まず手を洗って、水を飲む。

 小さな樽に取っ手をつけたジョッキ。

 ファンタジーで、ドワーフとかバイキングがなみなみと注いだビール――いやエールを呑んでいそうな代物だ、……結構、趣き深いじゃないか。

 

「――ふぅ。……まあ考えようによっては良かったろうさ」

 

 口に出す、できれば手で書きながらがもっとも良いのだが、こういう時、頭で考えすぎるのは良くない。

 頭で考える速度はとても早い、論理の破綻に気づかないほどに。

 考えに考え抜いた、自分にとってのみ自明の理である破綻した論理を基に行動する者、人はそれを狂人と言う。

 

 考える、読む、話す、書く、この順序で遅くなっていく、逆に言えば、丁寧に整理できるということだ。

 

「相手は盗賊、そしてここは盗賊が村を襲うような……異世界だ。

 行為自体は責められるようなことじゃあないし、帰れないのだとすれば、今後も誰かを殺さなければならない、ということもあるだろう。

 いずれ避けられないのなら、夢と思っているうちに済ませられたのだから、良かったんだ。

 ……童貞卒業乙、クソッタレめ」

 

 夢か幻か、ゲームか、現実か。

 ひとまずそれはどうでも良いことだ。

 死んで目覚めたりログアウトできるかわからない以上、ここで生きていかなければならない、それは揺るぎない事実だ。

 そしてそのためには、あらゆる手段を尽くすべきなのだ。

 

 そうだ、確認すべきことはまだあるな。

 ごわごわの生地の服に着替えながら、気づく。

 

(キャラクター再設定)

 

 

   キャラクター設定

 

   【ボーナスポイント】

    1

 

 

 ボーナスポイントが増えている……心当たりといえば、レベルが上がったことか。

 レベルの最大値はいくつだろう、99なら良いが、50くらいということも有り得るだろう。

 その場合、ボーナスポイントは最大149ポイントか、ゲームなら成長要素が薄いと言いたくなるところだ。

 

 あるいは、セカンドジョブ、サードジョブのレベルが上がってもボーナスポイントが増えるのか、どうか。

 ジョブの数の最大は確か、セブンスジョブでBP32、総計63だから、ジョブの数だけボーナスポイントが増えるなら、レベル33以上のジョブならセブンスジョブまで追加してもボーナスポイントが増えることになる、それはさすがに話が旨すぎる。

 

「要検証だな」

 

(ジョブ設定)

 

 

   【ジョブ設定】

    村人:Lv2

    盗賊:Lv1

    英雄:Lv1

 

 

 1つ増えている。

 英雄を選ぶと、情報が浮かんできた。

 

 

    英雄:Lv1

    効果:HP中上昇

      :MP中上昇

      :腕力中上昇

      :体力中上昇

      :知力中上昇

      :精神中上昇

      :器用中上昇

      :敏捷中上昇

   スキル:オーバーホエルミング

 

 

 なんだこれは、壊れるなぁ。

 

 

   村人:Lv2

   効果:体力微上昇

 

 

 

   盗賊:Lv1

   効果:敏捷小上昇

 

 

 比べ物にならない。

 最初から持っていた、ということはないだろう。

 盗賊だって獲得したのはサンダルを盗……無断で借りた時だ。

 とすれば、盗賊から村を守ったことで獲得条件を満たした、と考えるのが自然だ。

 

 ジョブ設定で、盗賊を外して英雄をつける。

 サードジョブまでつけられるが、これで盗賊のジョブについていないということになる、念の為だ。

 そう、これでこのサンダルが盗まれたものだという事実は消え去った。

 盗賊じゃないってことは、このサンダルは元々私のものだったんじゃないですかねー? と言える。

 実際このサンダル、自分で履き古したように実に馴染む……やはり俺のなのでは?*1

 

「失礼いたします。よろしいでしょうか?」

「――!? あ、ああ、はい。どうぞ村長」

 

 公明正大かつ一点の瑕疵もない英雄村人である加賀道夫は堂々と応えた――大本営からの発表は以上です。

 

「あとで食事にいたしますが、盗賊の装備を集めましたので、先に確認をお願いします」

「なるほど」

 

 俺が倒した盗賊の装備は俺に権利がある、という話だったな。

 案内される前に、武器Ⅵのボーナス装備をリセットし、各種ステータスに割り振っておく。

 デュランダルは初めから存在しなかったかのように消えた。

 まさかそんな――それも村長の家の中で!――不届きな輩がいるわけないが、デュランダルが盗まれればボーナスポイント63が消えてなくなる可能性があるからな。

 

 ジョッキの残りの水を飲み干しながら、俺は初めて武器を持たずに外に出ることにした。

 

   ※   ※   ※

 

 村長に連れられた先、村はずれの一角に盗賊約十人分の装備が置かれていた。

 傍に2人の男が立っている。

 ロムヤと――。

 

 

   ビッカー

   <男・32歳>

   商人:Lv6

 

 

 もう一人のブラヒム語を話せるという人間か。

 

 事前に聞いていた通り、村人が倒した2人の盗賊は村の取り分で文句はない。

 だが微妙なのが、生け捕りにした盗賊と、俺が捕まえてロムヤが介錯をした盗賊だ。

 ロムヤが介錯したのは既に深手を負っていて、奴隷商に持って行くまで持たない、あるいは値がつかないと判断された者だ。

 その傷を与えたのは一体誰か、そして俺が捕まえて、ロムヤが介錯をした、となると誰の取り分となるのが正しいか。

 

 ……なお検死官はいないものとする、か。

 面倒な話だな。

 

 しかし、あっさりと、

 

「オレは文句はないですよ、村長。

 そっちの……ミチオさんがいなけりゃ、間違いなくオレたちゃ全員殺されてた。

 村人が倒したってはっきりわかってる2人分以外、権利を主張するつもりはねぇですし、させません」

 

 ロムヤが力強く頷いた。

 村長も頻りにうんうんと頷いている、決して悪くない意味での事なかれ主義、という感じがするな。

 非常に親近感を覚える。

 

「どうもこちらに都合が良い気がするが、変に遠慮するものではないでしょうな。

 では、事前の約定通り、捕らえた賊を売った分は山分けということだが、折半でよろしいのでしょうか?」

 

 敏捷値にモノを言わせて走って捕まえて転ばせたりはしたが、そのあと気絶させて縛り上げて、という手間に比べると大したことをやっていないように思えるが、

 

「それはもう、こちらとしてもありがたい限りで」

 

 村長が答え、ロムヤとビッカーが頷いている。

 そのまま話はトントン拍子に進み、殺した盗賊のインテリジェンスカードが渡される。

 人の死体を片付けると、名前やジョブが記されたインテリジェンスカードというものが残されるという。

 なんともぞっとするような、考えさせられる話だ。

 

 ……俺の身体の中にも、このカードはあるのだろうか?

 

 村長とロムヤが言うには、頭目――ウーゴという盗賊は装備も整っていたし、かなりの腕利きだったから、きっと懸賞金が懸かってるだろうと言う。

 明日、最寄りの町――ベイルに行き、諸々換金して分配いたしましょうとビッカーが請け負う。

 

「ミチオ様は、空間は余っておられないのでしょうか?」

 

 ビッカーが訊いてきた。

 ……なんじゃそりゃ。

 空閑? 暇な時間が余ってないこと……じゃないよな、空間だろう。

 

「アイデムボックスの空間です、空いていると、これらを町に運ぶ時に助かるんですが。

 ……ミチオさんは冒険者ですよね? 探索者?」

 

 戸惑う俺にロムヤが補足してくれた。

 なるほど、ジャージ姿で突然現れたから、そういう空間に荷物を置いていると思われているわけか。

 大体さっき持っていたデュランダルはどこ行ったのかという話だ、空間がないとは言えないな。

 

「申し訳ないが、旅の途中なので余裕が……」

 

 2人は残念そうに、「そうですか」と言ってこの話は終わった。

 なんとか誤魔化せたようだ。

 

 

   バンダナ

 

 

「……ん?」

「どうかしたかい? ミチオさん」

「いや、あの頭目のつけてたバンダナだが、あれは盗賊のバンダナだったはずだと思ってな。

 これはただのバンダナだ……が?」

 

 3人の顔がみるみる強張る。

 あれ? 俺なんかやっちゃいました?

 

 ……違うのだ。

 装備品に、1つ変わったものがあったのである。

 

 

   銅の剣

   ・空き

 

 

 これはいわゆるスキルスロットで、任意のスキルがつけられるんじゃないか? と考え事をしながら喋ったら……これだよ。

 

「まさか!?」

「あー……」

 

 こちらが何か言う前に、ロムヤが駆け出していた。

 残された村長とビッカーが居心地が悪そうだ。

 

 ……村の誰かがすり替えたのだろうな、恐らく。

 そしてそれは、この2人も(あずか)り知らぬことなのだ。

 そうでなければ、村の最大戦力であるロムヤが2人を置いては行かないし、2人もロムヤを行かせないだろう。

 

 そして俺も非常に居心地が悪いのだが……これ以上なにかを言うのはやめておこう。

 

   ※   ※   ※

 

「××××」

「×××××××!?」

 

 装備を検品することしばし、ロムヤが男の首根っこを引っ掴んで戻ってきた。

 ロン毛のちゃらけた売れないミュージシャン――偏見のかたまり――のような男だ。

 

「すまねえ、ミチオさん! こいつがバンダナをすり替えていやがった」

 

 それを聞いた村長が項垂れる……年寄りのそういう姿を見るのは居た堪れないんだ、死にかけの親父を思い出す。

 あと下のほうを見ないでほしい、ジャージを腰パン気味にしてサンダルを隠しつつ、差し出されたバンダナを確かめる。

 

 

   盗賊のバンダナ

 

 

「確かに……これで間違いないようだ」

 

 ロムヤはギロリ、と音が出そうな目つきで男を睨みつけた。

 

「それで……この者の処罰ですが……」

 

 おそるおそる、村長が口を開いた。

 罪を軽くしてくれ、ということだろうな。

 

 俺の乏しい理解だが、封建社会というのは会社で言うと元請けと下請けのような関係であったらしい。

 例えば、元請けの会社が業務の一部を下請けの会社に委託した時、下請けの社員が服務規定違反的なことをやらかしたとする。

 その場合、元請けは下請けの会社に対してペナルティを科すが、やらかした社員をどう処罰し、再発防止の手段をどのように講じるか、顛末(てんまつ)を報告する義務はあっても、決めるのは下請けの会社自身だ。

 下請けの人事や教育に直接手出しする権利はない。

 だが、ここで俺が何かしら所感を述べることで、「先方もこう言っておられるので……」と処分を緩めることはできるだろうし、ひねくれた見方をすれば、交渉をまとめた村長の権威も高まるかもしれない。

 

 ……いや、そもそもこの村が封建社会かどうかなんて知らんけど。

 

「いや、村長。こいつはきっちり締め上げた方が良いですぜ」

 

 半ば現実逃避気味に余計なことを考えていると、勝手に話が進みそうだ。

 いいぞロムヤ。

 

「しかし――」

「盗賊のバンダナってなあ、盗賊にしか扱えねぇ装備品だ、どこの防具屋でもまともに扱っちゃくれねぇはずなんだ。

 それをちょろまかしたってこたぁ、こいつぁ盗賊のバンダナの価値を知っていて、売る伝手を知ってるってことだ。

 ……この村の仲間じゃねぇ、盗賊の一味だってことでさ」

 

 村長は太いため息を吐いた。

 ビッカーに助けを求めるように目を合わせるが、彼もそっと首を振るのみだった。

 

「……ミチオ様、この不届き者の始末、当村の規定に従い処罰してよろしいでしょうか?」

「……ええ、異論はないですよ」

 

 この者の首を刎ねよ! とか言わないよな?

 一日に何度も見たい光景じゃないんだが……。

 

滔々(とうとう)と流るる霊の意志、脈々息づく知の調べ、……インテリジェンスカードオープン」

 

 これは詠唱、そしてスキルの使用か!

 

「この男のインテリジェンスカードに、奴隷身分であることを書き込みました」

 

 盗みがあった時、そしてそれが家の働き手が犯人である場合、犯人を奴隷身分に落として売却し、額の半分を家族に、残りを賠償金として支払うことになっているという。

 盗品の価値ではなく、犯人自身の売値に依存するというのは、場合によっては厳しい話だ。

 例えば、使い古しのサンダルを盗んで――まさかそんな奴がいるわけもないが――奴隷落ちして損害額の何十倍もの借金を背負うこともあれば、デュランダルを盗まれて窃盗犯を捕まえても、質流れされて剣はなくなり、僅かな金しか返ってこない、ということも有り得るわけだ。

 

「この度はお助けいただいたにもかかわらず、身内の恥を晒す真似をして申し訳ありませんでした」

「いや、誰しも魔が差すことはあるもの。

 ……とはいえ、この男がどうしてこうなったか、は検証した方がよろしいでしょうな」

 

 だから視線を下げないでくれ、相手の目を見て話そうじゃないか?

 

「仰るとおりで……」

 

 村長とロムヤが頷きあった。

 恐らく、これからロムヤが尋問するのだろうな。

 

「それでは、わたくしの家へお越しください。

 食事の支度ができる頃でございましょう」

「世話になります」

 

 話題が変わることに感謝して、俺はとっととこの場を離れることにした。

 

*1
この世界の装備品はサイズ自動調整機能つきなので、そのような戯言は当然通用しない。

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