加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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鍛冶師(上)

 

 巫女の話をした後、そのまま昼食にした。

 母娘が用意してくれた料理は、切れ込みを入れてオーブンで焼いた芋*1と酸味が利いた果物のソースが掛かった塩漬けの豚肉。

 なんとなく北欧っぽいなと思ったが、帝国北部の方の料理らしい。

 調理にオーブンを使うと、ぐっと手間が掛かってる感じが出るな、まあ実際時間が掛かってると思うが。

 

「ロクサーヌさん、先程はすごい身のこなしでした、どうすればあんなに華麗に避けられるのですか?」

「魔物が何をしてくるかはよく見ればわかりますから、フッと動いたときにハッと動けば良いのです」

 

 セリーがロクサーヌに質問している。

 多分、どう訊けば良いか一生懸命考えて、言葉を練って質問したのだろうな、すんなりと口にした。

 だが、それに対する回答は、鯖のことを魚偏にブルーとか言う人みたいなものだった。

 セリーが助けを求めるように俺を見る。

 

「まあ、俺もロクサーヌのようには動けんが……後で迷宮で実際に動きを見てもらえば何か掴めるかも……多分無理だと思うが。

 ……ところで鍛冶師の件だが」

 

 水を差すようでちょっと言い難いが、先延ばしにしても仕方がない。

 

「……失礼いたします、御主人様。

 ご存知とは思いますが、鍛冶師のスキル結晶融合は失敗することも多いものですが……」

 

 ハンナとしては、巫女になったのだしもう良いのでは? ということか。

 セリーも暗い顔で俯いている。

 鍛冶師の奴隷は良い目に遭わないことが多い、アランからもそう聞いてはいるが……。

 

「まあ、その辺りは心得ている。

 装備を製作してドロップアイテムを高く売って効率よく稼ぐことが主な目的だ」

 

 〝効率〟という言葉は彼女達の前で何度か使っているから、2人はそれぞれ頷いた。

 

 ……スキルの〝空き〟の話はまた今度だな。

 〈ワープ〉の話、〈鑑定〉で見える村人Lvの話、少しずつ信用を稼いでいこう。

 最悪、材料持ち込みで鍛冶師を雇うという手もあるはずだ。

 余計に金は掛かるだろうが、ドロップアイテムを加工して売って稼げればそれはそれで良いわけだし。

 

「さて、さっきセリーは素手で魔物を倒したことで僧侶になれるようになった。

 剣士や戦士、商人、そして巫女にもなれるようになった。

 薬草採取士には、元からなれたようだが」

 

 剣士や戦士の条件は多分、剣を使ったり他の武器を使って魔物を倒すことだろう。

 

「セリーはウドウッドのドロップアイテムであるリーフを、直接拾ったことがあるのではないか? ……うん、それも薬草採取士の条件だ」

 

 そして商人は何らかの売買を行うことだろうし、探索者と巫女については言うまでもない。

 

 くどいようだが、認識合わせだ。

 才能に原因を求めてしまっては、新たな発想は出てこないだろう。

 そして心配だったが、セリーに落ち込んでいる様子はない。

 

「……俺にはどうも、鍛冶師になれないのも才能の多寡などではなく、何らかの条件を満たしていないからのように思えるのだが」

「鍛冶師と言えばどんなジョブか、どんなことをするものか? でございますね」

 

 ハンナは昨日俺が言ったことを考えてくれていたようだ。

 鍛冶師といえば、パーティーメンバーの攻撃力を増やす、ドロップアイテムから武器や防具を製作できる、スキル結晶を装備に合成できる、という特長があるという。

 後者2つは試すことはできない、自爆玉のような魔法を使えるようになるアイテムに類するものは、鍛冶師にはないようだ。

 ドワーフのセリーと武器防具商人出身のハンナが揃って言うのなら、一旦脇に置いて良いだろう。

 金物屋の鍛冶職人も、ドワーフの鍛冶師とは完全に切り離された存在のようだしな。

 

 だが、ドワーフの代表的な武器である棍棒を使って魔物を倒したこと――つまりトドメを刺したことはセリーにもあるという。

 村人Lv5になったから、改めて挑戦しても良いかもしれないが……望み薄だな。

 

「御主人様のお話を元に考えますと、棍棒を使って倒すのは戦士の方の条件に該当しそうですね」

「うん、俺もそう思う。

 素手で倒すのもそれらしい条件に思えるが、僧侶だしな……」

「あとは……ドワーフはその膂力でもって魔物を押し退けるような戦い方をいたしますが……」

 

 なるほど、と思ったが、朝にチープシープ相手にやっていたな。

 と話すと、ハンナは「そうですか……」と沈思した。

 

「……あとは、複数の魔物を同時に倒す、あるいは押し退ける……でしょうか。

 古代のドワーフ王の故事に、迫り来る魔物を相手に不退転で寄せ付けなかったという逸話がありましたような……」

「あっ、確かに、槌は、本来、思い切り、振り回す、武器です。

 複数の魔物を同時に、攻撃できる、武器です」

 

 おお、これにはセリーが食いついたか。

 なるほど、ハンナは武器の背景とか歴史を知っているのだな。

 多分セールストークのためだろう、「車はアメリカで生まれました、日本の発明品じゃありません」みたいな。

 そして自身も博識で、実際に武器を使う側の視点でも話せるセリーか。

 

 ……うん、この2人はいい感じだな。

 

「では、午後の迷宮探索ではそれを試すために……ベイルの迷宮の三階層に行くか、コボルトが2匹出る階層だ。

 ああ、そういえば……」

 

 そうしていい感じで食事を終えようとした時、俺はふと気になったことをロクサーヌに訊いてみた。

 ……そう、訊いてしまった、「そういえば、ロクサーヌはどうやって獣戦士になったんだ?」と。

 ただ、同じ種族固有ジョブを持つロクサーヌの意見を訊いておくべきかと思っただけなのだ。

 それだけで、特に他意はなかったのだ。

 

「はい、獣戦士は敵の攻撃を見切り、巧みに避ける身のこなしが必要であるとされます。

 私は特別なことはせずになれたのですが、獣戦士ギルドではそのための訓練場があります」

 

 獣戦士の効果は〈敏捷中上昇〉だから、実態と合っているな。

 ……だがロクサーヌにこう言われると、やはり才能なのだろうかという気になるな。

 セリーの顔も暗くなっている。

 

「そ、そうか……だがきっと、獣戦士ギルドに行く前に何らかの条件を満たしていたのだろう。

 心当たりはないか?」

「心当たりですか……ええと……あっ、ニートアントです!」

 

 ニートアント?

 すかさずハンナが「大きな(アリ)の魔物で、毒攻撃をしてきて、倒すと毒針を落とします」と説明してくれた。

 いやはや助かるな。

 

「なるほど、毒にならないために攻撃を避けていたということか」

「はい、家の近くにニートアントが湧く場所があったので、そこで毒針を集めていたのです」

 

 ……流れ変わったな。

 俺にはわかる、ロクサーヌの〝はい〟は時々全く当てにならん。

 

「でも子どもの頃でしたから、毒針を持って帰っても〝危ないことをするな〟と怒られるだけなので、今度は森の奥に行き強い魔物に使います」

「……毒針は魔物に投げつけると毒状態にできることがあります。

 といっても、そう簡単に毒にはなりません……ならないはず……なのですが」

 

 ハンナが己の常識と戦いながら説明してくれた。

 俺が〈ワープ〉や〈鑑定〉の話をした時よりも苦戦している気がする。

 

「はい、ほぼ確実に毒を盛るには、20個ほど投げる必要がありました。

 森の奥で出てくる比較的安全に遊べる魔物は、ノンレムゴーレムでした、的が大きいですから」

「…………ノンレムゴーレムは外でも襲ってくる魔物で、大きな岩の身体を持つ、二足歩行の魔物です。

 迷宮では二十三階層以降に出てくる、非常に……危険……な魔物……です」

 

 あーあ、遊べるって言っちゃったよ。

 ロクサーヌ君さぁ、そういうところだよ?

 

「はい、私自身の攻撃などまったく効きません、逆に一撃でももらったら確実に殺されますし、かすったくらいで死にます。

 下手をしたら風圧だけで死にかねません、だから必死にかわすだけです。

 毒状態にしているおかげでニートアントより短時間で終わります、安心ですね」

 

 ……働きアリを〝よく働く〟〝標準的に働く〟〝働かない〟という3つに分類したとき、その割合は2:6:2になるとされる。

 この働かないアリを取り除いても、新たに一定数の働くアリが働かないアリに代わり、2:6:2の割合は変わらないという。

 これを働きアリの法則と呼ぶ。

 この働かないアリは、緊急時の予備というか待機組というか、そういう余剰戦力だと思われる……だからニートアントって呼び方は良くないと思うんだ。

 いや、ニートアントがNeet antかどうか知らんけど。

 

 ……と、現実逃避をしている場合ではないな。

 ハンナにはもう何かを言う気力はないようだ、セリーはガタガタ震えて、カタリナが背中を擦っている。

 俺が確認しなければならないか。

 

「そ、その遊び? は他の狼人族の子供もやっていたのか?」

「いえ、他の子を誘う前に禁止されてしまいました。

 私でもやれたのでみんなで遊べると当時思ったのですが」

「……まあ、ロクサーヌ以外の狼人族を知らんが、自分に出来ることは他人もできると思わないようにな」

 

 ロクサーヌはあっという顔をした後、「すみません」と悄気げた。

 アランとの別れ際の会話は彼女も訊いていたからな、状況は違うが、多少は思い当たるところがあったなら少しずつで良いから改めてほしい。

 何よりも、俺の精神衛生のために。

 

「がッ、がんばッ、がんばばばってみますすす」

 

 ……そっちは改めなくて良い。

 

「他の狼人族はやらなかったということは、ロクサーヌと同じことができなくても、獣戦士にはなれるわけだな。

 だとすれば才能云々の問題ではない、セリーもきっと大丈夫だ」

 

 余計な話をしてしまった。

 ……なんだかどっと疲れた。

 

 

 

   ベイルの迷宮

     三階層

 

「ご主人様、あちらに」

 

 

    コボルト

    Lv:3

 

 

 

    コボルト

    Lv:3

 

 

「よし、2匹いるな、よくやってくれた」

 

 午後は3回目の接敵で、コボルト2匹の団体が見つかった。

 さっきグリーンキャタピラーを含む団体もいたが、糸に巻かれるのは面倒だからな。

 

「では、セリー、手筈通りに」

「わかり、ました、いきますっ!」

 

 早速セリーが棍棒片手に突っ込んでいった。

 半裸でナイフを構えるコボルトと、棍棒のセリー。

 ……蛮族vs蛮族とか考えてしまった、すまん、セリー。

 

 だがコボルト相手とは言え、2匹同時に攻撃するのは難しいらしい。

 1匹クリーンヒットしても、もう1匹タイミングよくミートする場所にいるとは限らないからな。

 

「どう思う?」

「……そうですね、右側の方の動きを私の方で牽制してみましょうか?」

 

 なるほど、セリーは左打ちのようで、右側の方が外れてしまうようだ。

 ロクサーヌに頼んでみたところ、上手く2匹同時に攻撃できた……と同時に何度も殴られたほうが煙になって消えた。

 一応手は出さず、そのままセリーが倒すまで待つ。

 

 しかし……、

 

「……駄目、でした、でしょうか?」

「……セリーに隠し事はできんな、鍛冶師は増えていない」

 

 うーん、何が良くなかったのか。

 

「敵の的が小さかったからかもしれん。

 ロクサーヌ、ニードルウッドを探してみてくれるか?」

「……いえ、2匹同時に攻撃は出来ていたと思います。

 ですが1匹目に比べて2匹目の威力が随分低いというか、当たってるだけというか……」

「あ、はい、確かに、そうでした」

 

 威力が下がるのは当然という気がするが。

 だがセリー自身もしっくり来ていない感触はあるようだ。

 思い描いた姿になっていない、というところか。

 

「ではセリー、棍棒を振ってみせてくれるか?」

 

 見せてもらって、すぐに気付いた。

 持ち手が逆だ。

 剣道なら、竹刀の柄を右手を上、左手を下に掴んで、右手で振り下ろす。

 左利きは持ち方が違うという話は聞いたことがない。

 

「右から振り回すか、持ち手を逆にしてみると良い」

 

 棍棒は横に振り回すのだから、野球のスイングのようになる。

 左打ちはバットを右手を下、左手を上にして、左手で押し出す。

 セリーは剣士のジョブも持っているから、剣で魔物を倒したことがあるはずだ。

 その握り方でそのまま棍棒を振るっているのだろう、だがスイングは左打ちにしているから、威力が落ちるわけか。

 

 ……食べる時は普通に右手を使っていたような気がするが、いわゆる右投げ左打ちというやつなのだろう。

 野球選手では珍しくもない、左打ちの方が一塁に近いからな。

 

「あっ、本当です、こちらの方が、振り、やすいです」

「でも、どの方向から攻撃が来るか、持ち手でわかってしまいますね」

「……時々、逆に、した方が、良いでしょうか?」

「まあ、魔物にそこまで知能があるかはわからんが。

 ……もしかすると、ハルバードを使うドワーフがいるというのも、攻撃パターンを増やすためなのだろうか」

 

 俺の当て推量に、ロクサーヌが「なるほど」と頷いた。

 ……後でハンナに訊いてみよう。

 

「ではロクサーヌ、またコボルト2匹の団体を探してくれ。

 それ以外の団体がいたら無視していい」

 

 セリーは今、感覚がしっくり来ている時だろうから、他の敵と戦わせるのは良くない気がする。

 ロクサーヌの案内で、5分程迷宮を彷徨って目的の団体を見つけた。

 

「行き、ますっ!」

 

 声に今度こそは、という凄みがある。

 ……これで駄目だったらどうしよう、そう考えてしまう俺は、臆病者だなぁ。

 話しているうちに俺もその気になって、事前にテンションを下げておく作戦を忘れてしまった。

 いやまあ、どうせ何の意味もない気休めでしかないのだが。

 

「ふんッ!」

 

――グシャッ!

 

 1匹目の頭を横殴りにして――

 

「っぁぁぁあああッ!」

 

――ゴギュッ!

 

 コボルトの頭がグルンっと回転する、だが棍棒は止まらず2匹目の側頭へ――

 

「ッせいァッ!」

 

――バガァァン!!

 

 めり込み――振り抜かれる。

 そして哀れなコボルトは、両側の壁にそれぞれ激突した。

 

 野球でホームランを打つには、大体最低90m飛ばす必要があり、その場合必要なスイングスピードは時速120kmだという。

 セリーのスイングは、場外ホームランだろうな、打った瞬間確定演出(ガツーン!!!)が入るやつだ。

 

「すごいものだなっ」

「ええ、本当に」

 

 セリーが2匹相手に時間を稼げるようになるのは大きい。

 八階層からは魔物が最大4匹になるから、ロクサーヌとセリーが2匹ずつ受け持ってくれるなら、俺はフリーハンドで後ろから魔法が使える。

 もう鍛冶師になれなくても問題ない、これなら何の不安もなく上の階層を目指せる。

 

 ……だが、予感がある。

 

 

   【パーティージョブ設定(セリー)】

 

   セットジョブ

     巫女:Lv5

     効果:MP小上昇

       :知力微上昇

    スキル:全体手当

 

   所持ジョブ

      ▶巫女:Lv5

       村人:Lv5

      探索者:Lv15

    薬草採取士:Lv1

       戦士:Lv1

       商人:Lv1

       剣士:Lv1

       僧侶:Lv1

      鍛冶師:Lv1

 

 

 コボルトに止めを刺したセリーが戻ってきた。

 弾むような笑顔だ。

 

「できましたっ! ありがとうございます!」

「ああ! セリー、やったな!」

 

 ジョブ設定画面は俺にしか見えていない。

 だがセリーは俺が何を祝っているのかわかったらしい。

 笑顔が泣き笑いになった。

 

*1
この世界にジャガイモがあるかわからないが、〝芋〟虫がいるのだから芋は当然ある。

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