加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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探索者

 

 その後の迷宮探索は順調だ。

 まず、セリーのLv上げも兼ねて、中断していたクーラタルの迷宮探索を再開した。

 

 クーラタルの三階層は、毒攻撃をしてくるスパイスパイダーだが、低階層では滅多に毒になるようなものではないらしい。

 以前ロクサーヌも同じことは言っていたのだが、彼女の物差しで俺を測られても困るのだ。

 実際、スパイスパイダーはスパイ蜘蛛の名前通り、壁や天井を這う3次元的な動きをする魔物で、魔法を使えるようになる前に戦っていたら、やはり危なかったように思う。

 

 クーラタルの迷宮四階層は、ベイルの迷宮五階層と同じチープシープだから、特に確認することもない。

 だが、そのボスのビープシープは未経験だ。

 というかベイルの迷宮五階層を突破するためにレベル上げしているのだから、それを四階層で予行演習するつもりだ。

 今後はクーラタルで上層を目指し、問題なければベイルの迷宮を上るのが効率的だろうな。

 

 ハンナとセリーはビープシープと戦ったことがあるようで、事前対策もしてきている。

 平べったく細長い木の棒――警策(きょうさく)だ。

 座禅を組む時に、坊さんが寝てる奴を起こす時に引っ叩くアレだな。

 

 そう、ビープシープはこちらを眠らせてくるスキルを使うらしい。

 誰が眠ってしまっても良いように、全員分用意した。

 しかし、最善はそもそもスキルを発動させないことだ。

 

「では、俺がボスに近づいて詠唱を止めるように努めるから、2人には援護を頼む」

 

 デュランダルを構えると、ロクサーヌが「わかりました」と頷いた一方、セリーは恐れ慄いた目で、

 

「そ、その剣には、詠唱遅延、も、付いている、のですか?」

 

 恐る恐る尋ねてきた。

 既に風呂を沸かす時と装備製作をする時に、セリーには〈MP吸収〉のためにデュランダルを使わせている。

 どうやら1つの装備に複数のスキルを付けることは、一般的ではないらしい。

 1つのスキルをつける成功率も芳しくないのだから、当然か。

 

「いや、正確には詠唱中断だな。

 あとは知っての通りMP吸収と、攻撃力5倍、HP吸収などがついている*1

 

 うん、例えば俺が国宝の壺とか茶碗とかを持たされたらそんな顔をするだろうな、そんな顔をしている。

 ……いや違うか、国宝を作れと言われた職人の方か。

 

 対してロクサーヌは誇らしげだ、目が「さすごしゅ」と言ってる。

 ……これはこれで居心地が悪い。

 

「まあ、スキルスロット理論が正しければこういうものも作れるかもしれん。

 もし駄目でも、実験だからな、実験」

「そ、そう、ですね……実験、ですね、実験」

 

 よしよし。

 ……さっさとヤギのスキル結晶を手に入れて〈スキル結晶融合〉をやらせてしまおう。

 できれば他にもまとめ買いして〈値引交渉30%値引〉を効かせたいので、緑魔結晶が2つ貯まったら買い求めるつもりだ。

 

 そうして最終確認でちょっと手間取ってから、ボス部屋に突入した。

 これまでのボス同様、ビープシープはチープシープより何倍も大きい。

 巻き角の他に上向きの角、合計4本の角が生えている。

 

(オーバーホエルミング)

 

 距離を取って戦うと眠らされてしまう。

 一気に接近して、走り抜けざまに頭を切り払い、腹部を突き、臀部を袈裟斬りにして後ろを取る。

 魔力で構成されている魔物は、基本的に弱点部位のようなものはないらしい。

 その頃にはロクサーヌも続いていて、正対して頭を斬っていた。

 

――メェ゙ェ゙エ゙ッ!

 

 眠らせてくる前の鳴き声はこれか? ……違った!

 ビープシープが走り出す! デュランダルが空を切る!

 狙いはロクサーヌ……ではない! その後ろのセリーだ!

 

 ロクサーヌの動きを見ていたのであろうセリーは、大きく横に退いて避けた。

 だが距離を取られてしまった。

 

(オーバーホ――)

 

――ビ―――ッ!

 

 BIOSのビープ音のような甲高い音、これが……。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「――ぐぉッ!」

 

 突然腹に衝撃が走った。

 ……これがビープシープのスキルか、隣でロクサーヌが盾を構えて腹を抱えていた。

 彼女が攻撃を受けるとか……眠らされたのか、俺を起こそうとして庇ったのか。

 視界の端でセリーが倒れているのも見えた。

 

「……ロクサーヌ、デュランダルを預ける」

「は……い、お任せ下さい」

 

 〈オーバーホエルミング〉を使い続ければスキルの発動を邪魔し続けることが出来るだろうが、なかなかそう続かない。

 ロクサーヌなら攻撃を躱しながら、距離を詰めることができるだろう。

 ついでにロクサーヌのHP回復もできるからな。

 

 腹に〈手当〉をしながら、警策を持ってセリーに駆け寄る。

 

――パシーンッ!

 

「セリー! 大丈夫か!?」

「は、はい、申し訳、ありません!」

 

 〈手当〉はいるかと訊いたが止められた、どうやら眠らされただけのようだ。

 しかし、一気に戦線崩壊だな。

 そんなに眠らされる確率は高くないと聞いたが、0ではない以上はこうなることもあるか。

 

「ファイヤーボール」

 

 ロクサーヌがズンバラリンとビープシープを斬っているのを見ながら魔法を使う。

 火属性にした理由は特にない。

 毛がもっさもさだから、燃えやすいような気がしただけだ。

 セリーも敵に走り寄る、また眠らされた時のために横に居てもらおうかと思ったが、ロクサーヌのあの様子ならスキルは封殺できるだろう。

 

「ファイヤーボール」

 

 ついでに、まだ腹が痛む気がしたので〈手当〉っと。

 ……何気なくやったが、魔法使いのクールタイムと僧侶のクールタイムは別枠なのか。

 右手で攻撃魔法、左手で回復魔法、気分は大魔道士だな。

 魔法使いの上級職はあるのだろうか、もし氷魔法があったらメドローアに挑戦してみよう、絶対無駄だろうけど*2

 

「ファイヤーボール」

 

 着弾より前に、セリーのフルスイングがビープシープの尻を叩いて吹き飛ぶ。

 一瞬セリーに当たるかとヒヤリとしたが、火球はカーブして尻に追撃する格好となり、おまけにロクサーヌの切り払いも当たって、哀れビープシープは、メ゙ッ! と短い悲鳴を発して霧散した。

 

「なんとかなったな、2人とも怪我はないか?」

 

 どうやら大丈夫らしい。

 〈HP吸収〉と〈MP吸収〉の効果か、こころなしかうっとりとしているロクサーヌからデュランダルを返してもらう。

 

「さて、ビープシープにはベイルの迷宮でも戦うだろうし、何度も戦いたい相手ではないな。

 このまま五階層まで進もう」

 

   ※   ※   ※

 

 五階層のコラーゲンコーラルは丸い岩石――いや珊瑚の塊に、クモヒトデのような足が生えた魔物で、ホッピングするように襲ってくる。

 この魔物からは面白いものがドロップした、接着剤としても使われるというコーラルゼラチンだ。

 石灰が見つかれば、これで固めてチョークが作れるかもしれない。

 

 ……良かった、もう名前も忘れたが、グミスライムのドロップアイテムを使う必要があるかと思った。

 グミスライムはもっと上の階層で出る魔物らしい……それだとちょっと高く付きそうだからな。

 

 ボスのコラージュコーラルは、これもコラーゲンコーラルより数倍大きかったが、こちらは特に状態異常攻撃を持っていない。

 セリー選手の打棒で横殴りにされると、転倒する代わりに起き上がり小法師(こぼし)のようにバウンドした。

 予測のつかない変化に、後ろから回り込んでデュランダルで切りかかっていたミチオ選手が空振りしたくらいで、さしたる苦戦もせずに倒せた。

 

 六階層の魔物は、ベイルの迷宮の四階層と同じミノだ。

 こちらはボスのハチノスも含めて経験済みなので、マップで最短距離を進んでさっさと進んでしまう。

 レベルも上がったからだろうが、魔法の使用回数は五階層と変わらない、今後の資金稼ぎとレベル上げは、ベイルの迷宮の六階層にして良いな。

 

 ……というわけで、クーラタルの迷宮七階層に進む前に、ベイルの迷宮の五階層を突破して六階層に進むことにする。

 こちらのビープシープには、最初からロクサーヌにデュランダルを持たせたお蔭で、一度も眠らされることもなく完封できた。

 そして六階層はナイーブオリーブとパームバウム、クーラタルの迷宮二階層と同じ相手だ。

 低層とはいえ一度経験している魔物だ、特に不安はない。

 

 このまま六階層で稼ごうかとも思ったが、もし七階層で魔法の使用回数が変わらないならそちらの方が良い。

 

「次はクーラタルの七階層だな」

 

 数日掛けて、ここまで一気に上がった。

 

 

   クーラタルの迷宮

      七階層

 

 この階層から出てくる魔物はスローラビットだ。

 俺がソマーラの村で初めて倒した魔物でもある。

 セリーを鍛冶師にしたことで六階層までの魔物がデュランダルで一撃で倒せるようになったが、また倒せなくなってしまった。

 俺かセリーのレベルがもっと上がれば、また一撃になるのだろうが、その頃には八階層まで行ってるだろう。

 

 ……しかし、魔物といっても地球のウサギとそれほど変わらない見た目のスローラビットが、セリーのスイングでかっ飛ばされてフェンス直撃してべちゃっとなるのを見るのは少々心臓に悪いものがある。

 俺は東京タイタンズ*3のファンではないが、アンタイ*4でもないのだ。

 

「ハンナが、ウサギの皮は服屋で割増価格で引き取ってくれる場合があると言っていたな」

「そうですね、しばらくこちらで狩りますか?」

 

 ……うーん、結局六階層より魔法の使用回数が1回多くなってしまったしな。

 

「まずは八階層を目指そう。

 八階層からは一度に出る魔物の数が4匹に増える……だったな?」

「はい、それが良いと思います」

 

 魔物の数が増えるなら、魔法の使用回数が増えても収支はトントン……とは言えないが、探索者と魔法使いがLv30になってから上がらず、遅れていた英雄のLvが追いつきそうになっている。

 適正Lvじゃないと経験値効率が悪くなるのかもしれない。

 

「スローラビットのボスは、ラピッドラビットです」

 

 数日かけてここまで上ってきたが、セリーは大分喋れるようになった。

 迷宮で話すような言葉はスキルや魔物などの固有名詞が多いから、ということもあるだろうか。

 

「ではロクサーヌ、いつものように頼む」

「お任せ下さい」

 

 クーラタルの迷宮は、マップがあるのが便利だな。

 指で数えられるほどの戦闘をこなしただけで目的地に着いた。

 

「少し先がボス部屋ですね。

 ……誰かいるようです」

「そうか、そこの小部屋で水を飲んでからにするか」

 

 飲み水は〈ウォーターウォール〉を使って入れている。

 自前で水が出せないロクサーヌ達には水筒を持たせているが、魔法を使う関係上、俺は人前では飲めない。

 まあ、そこまで長く待たされることはないと思うが。

 各自、トイレに行く必要がないかも一応確認する。

 クーラタルの迷宮なら、〈ワープ〉でちょっくら自宅に中抜けするのも楽なものだ。

 

 そしてボス部屋前に行くと、6人パーティーが待っていた。

 ……次の増員はいつになるか、十六階層からは敵の数が更に増えて5匹になるから、それまでには増やすことになるか。

 前衛を増やすか……だが人が多いクーラタルの迷宮に入っていると、魔法使いのパーティーメンバーが欲しくなる。

 殲滅速度も上がるし、魔法が使えるのを隠さなくても良くなる。

 

 ……まだか、この時間が苦手だったりする。

 迷宮に入るのは男性が多いが、ロクサーヌもセリーも美人だからな、絡まれたりしたくない。

 騎士団で整理券でも配ってくれないものか……などと下らないことを考えていると、扉が開いて前のパーティーが入っていった。

 

 ……が、1人残った。

 フルメンバーのパーティーじゃなかったのか、もう少し待つことになるな。

 

 ……と思いながら目の前の男の後ろ姿を見ていると、チラッと振り向いた男と目が合う。

 いや、俺ではなくロクサーヌの胸を見ていたな。

 ……まあ気持ちはわかる。

 

「――おふた……3人ですか?」

 

 ロクサーヌ(おっぱい)に気を取られて、セリーがいるのに気づいてなかったな。

 ……まあ気持ちはわかる。

 

「そうだ、そちらは1人で?」

 

 訊いてみると、男は「はい」と苦笑いをした。

 

「パーティーメンバーを集めるためにお金も貯めているのですが、どうしても出ていくばかりで」

「……まあ、お互いにな」

 

 これは、金を貯めて奴隷を買うということ……なのだろうな。

 気さくなイケメンにしか見えないが、ごく自然にこういう雑談をしてくる程度には、奴隷は普通なのか。

 奴隷を買うのも、もっと言えば奴隷に落ちるのも珍しいことではないのだろう、そしてアランの商売が繁盛する、と。

 

「1人だと魔物がいる部屋が怖いので他の迷宮には行きづらいですし――」

 

 魔物部屋(モンスターハウス)か……クーラタルの迷宮は、結構上の方まで探索終了宣言が出ているからな。

 俺もロクサーヌがいなければ、ベイルの迷宮にほいほい入れなかったろうな。

 

「七階層に入るようになって、2年を越えましたし、探索者のLvも最近上がったので――」

 

 なるほど、これを機に、ということらしい。

 それにしても、たった1人でここまで上れるものなのか。

 話しぶりも理路整然としているし、慎重を期してもいるようだし、ロクサーヌのように才能溢れる若者なのだろうな。

 

 つい、「好事魔多(こうじまおお)しともいう、気を付けてな」と説教臭いことを言ってしまった時、石臼のような音を立ててボス部屋の扉が開いた。

 前のパーティーが突破したらしい。

 

「ありがとうございます。

 1人目の都合も、ようやくなんとかなりそうです。

 そうなれば、私にも運が向いてくるでしょう」

 

 青年は「では」と笑顔で剣を抜き、部屋の中に入っていった。

 ……次のパーティーが来ないうちに、俺も支度するか。

 

(キャラクター再設定)

 

 

  【ボーナス装備】

  武器Ⅵ

 

 

 それにしても、七階層で2年か。

 年の頃は大卒2、3年目というところだが、迷宮に入り始めてからなら10年選手だろうか。

 1人でやれることには限りがあるし、クーラタルの迷宮なら安全かもしれないが、毎日入場料も取られる。

 ……探索者というのも、なかなか世知辛いな。

 

 さて、1人パーティだからもうちょっと長く待つことになるかな。

 ……と、デュランダルを取り出して、いつ見ても見事な白刃が目に入った時にふと思い出した。

 

「そういえば、2人から見て最近のカタリナは元気に見えるか?

 ……どうも俺が武器を持っていると怯えるようでな、痛ましいことだ」

「え?」

「え?」

「……え?」

 

 あの……何言ってんのこの人? みたいな目で見られるとナイーブな中年の心が傷つくんですけど。

 おじさんの心はわれもの注意だよ?

 

「あの、カタリナが怯えているのは私に対してです」

「え? そうなのか? なんでまた?」

「えっと……なんででしょう?」

 

 俺が見ていない所でトウシューズに画鋲でも入れてるのか? んなわけないか。

 話が進まないと見たのか、セリーがおずおずと口を挟んだ。

 

「……あの、カタリナが怯えているのは、ロクサーヌさんが、狼人族で、レイピアを使うから、だと思います」

 

 セリーは商館でブラヒム語の聞き取りは早い段階からできていた。

 だが、喋ることは比較すると遅かったので、店の人間はセリーがブラヒム語を聞き取れるとも思っていなかったらしい。

 だから、油断した従業員がブラヒム語で噂話をしているのを聞いていたという。

 

「おふたりは、知っていらした、方が良いと、思いますので――」

 

 というセリーが語るところによれば、ハンナとカタリナの店を襲った盗賊に狂犬のシモンという有名な海賊がいたらしい。

 海賊というのは、獣人が盗賊落ちした時のジョブだな、亜人の場合は山賊だったか。

 

 主に帝国の北の方で活動しているということだが、その名はベイルの辺りでも轟いていると。

 そしてその海賊が、狼人族でレイピアを使うらしい。

 ……(うつむ)きがちな少女の首筋にある切り傷が脳裏によぎる。

 

「狂犬のシモンですか……」

「知っているのか、ロクサーヌ?」

「はい、狼人族の間では有名な海賊です。

 片手剣を使わせたら狼人族で右に出るものはいないとか……ですが、私が子どもの頃に誰かに敗れたとも聞きました」

 

 ロクサーヌは「私も一度戦ってみたいです」と握りこぶしを作った。

 

 ……俺、バトル系より日常系の方が好きなんだけどな……この娘だけ世界観違くない?

 いや、俺がおかしいのか……セリーを見る……半目になって首を横に振る彼女と目が合う……うん、そうだよな。

 

「まあそういうことなら時間が解決するのを待つしかないか。

 ……俺を怖がってるのでなくて、良かったのか悪かったのか」

「ご主人様を恐れるなどということがあろうはずがありません」

 

 もしカタリナが怯えているのが俺だったら……ロクサーヌがどんな対応をしたのかと考えると恐ろしいな。

 しかし、自分のことだから気にしていなかった、と。

 寛容と取れなくもないが、無関心とも取れるな……ううむ。

 

 っと、ロクサーヌが後ろを見た。

 遅れて足音が聞こえる、次のパーティーが来たようだ。

 事前にデュランダルを出しておいて良かった。

 同じ頃、また重い音と共に扉が開いた。

 

「よし、では行くぞ」

 

 部屋の中に入ると……ん?

 

 

   ラピッドラビット

      Lv:7

 

 

 ボスが既に待ち構えている、今までにないパターンだな。

 スローラビットの動きを速くしたような魔物と聞いたが……何かあるのかもしれない、速攻するか。

 

(オーバーホエルミング)

 

 一気に距離を詰めて3回斬ると……煙になって消えた。

 ……弱いな、なんだったのだろう?

 

 

   ウサギの肉

 

 

 スローラビットがレアドロップで落とすものと同じか。

 そう考えると微妙だが、まあ夕飯代を稼いだと思えば良いか。

 ……ん?

 

   皮の鎧   

   銅の剣   

   魔結晶   

   皮のグローブ   

   皮の靴   

 

「ボス部屋に装備品が落ちてることもあるのか?」

「えっと、それは前のパーティの装備品だと思います」

「……多分、大分ダメージが、入っていたのかと、早く倒せましたし」

 

 言いながら、セリーが装備を拾って自身のアイテムボックスに入れていった。

 黒魔結晶は見逃したようなので、俺が拾う。

 

(……ワープ)

 

 ボス部屋の壁に、黒い壁が出てくる。

 探索者の〈ダンジョンウォーク〉では不可能なこと、冒険者の〈フィールドウォーク〉でももちろん無理なこと、〈ワープ〉が使える俺にだけ許されること。

 これがなければ、死ぬか殺すまでこの部屋から出られない、それが迷宮(ここ)のルールだ。

 

 ……あの気さくな青年は、さっきのボスにやられたか。

 

「……あの、今日はもうお帰りですか?」

「いや……いや、外にもう次のパーティが来ていたな。

 ちゃんとラピッドラビットと戦っておきたいが、今日はベイルの迷宮の七階層に行くとしよう」

 

 2人が心配そうな顔で向き合ってから頷いた。

 ……そんなに顔に出てしまっているか。

 別に今更、迷宮で戦うことに恐れを為したわけじゃない。

 

 いや恐れてはいる、だからこそ増員し、レベルを上げている。

 あの青年が恐らくは10年掛かりでもできていなかったことを、ほんの数十日で為している。

 ……ただの感傷だ。

 多分、生存者罪悪感(サバイバーズ・ギルト)というやつだろう。

 

 移動した先でエスケープゴートという山羊の魔物が出てきたが、劣勢になると逃げ出す魔物だった。

 他の魔物と同じなら魔法3発だが、2発使った後にクールタイムの間に逃げられてしまう。

 面倒くさい相手だ、何もかも上手くいかない。

 

*1
Web版で付与されている〈レベル補正無視〉と〈防御力無視〉のスキルは、小説版と漫画版では明言されていない。漫画版では鑑定画面に続きがあるような表記になっていたので、付与されている可能性はある。

*2
ネタバレ:無駄です。

*3
通称〝球界の盟主〟。ウサギのマスコットがいる。

*4
アンチ・タイタンズファンのこと。過激派はウサギのマスコットを市中引き回しにしたりする。

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