クーラタルの街
道夫の家
翌朝は1人で寝たというのに寝坊した。
というより、1人だとなかなか眠れなかったな。
広いベッドで独り寝が寂しいというのもあるが、色々と考え事をしてしまった。
悶々として邪魔なので色魔も外したから、気分が凪いでいる。
ちょっと気怠いくらいだ……とすると、色魔の精力増強は活気や元気も増すのだろうか。
まあそれもそうか、性的欲求だけ増やすなら性欲増強とか生殖機能増強とかになりそうなものだ*1。
…………はッ!?
「ぬ、抜け毛は増えてない……よな?*2」
……枕元に何本かは落ちてるが、これくらいは普通……だと思う、そのはずだ。
「はい、ご主人様はいつも黒々とされていますよ。
……もちろん
てっきり1人だと思ったので慌てて振り向くと、水差しを持ったロクサーヌがいた。
「も、申し訳ありません。
その、お加減が悪いのではないかと……」
……寝起きに抜け毛の心配をするのを見られるとか……つらい。
「あ、あの、すみませんっ!
ご主人様はその、いつも最高ですっ!」
……更に無理やり慰められるとか……しんどい。
…………………………と、落ち込んでるわけにもいかないか。
「いや、すまないな、大丈夫だ。
……とはいえ、結構寝坊してしまったな」
ロクサーヌが窓を開けてくれたが、陽射しの感じからは朝10時くらいという雰囲気か。
フレックスのコアタイムぎりぎりまで寝坊した感じだ。
「3人はどうしてる?」
「はい、ハンナさんのお部屋でブラヒム語の勉強を」
「そうか、セリーも大分喋れるようになったが、ちゃんと勉強時間を確保してやらないとな」
フルタイムで仕事をしている人間に勉強させるなら、作業量を減らすべきだ。
というか彼女には夜まで残業させてしまっているし……いや、その、反応が可愛くて、つい。
「そういえば、カタリナの様子はどうだろう?
今日は調子悪くはしていなかったか?」
昨夜は色魔を外していたので確認したが、ロクサーヌはキョトンとした顔で「特に気づきませんでしたが」と言った。
まあ初日に調子を崩していたのも夜のことだったし、そうそう変わらないか、商人Lvも随分上がったしな。
「……実は言い難かったのだが、ロクサーヌとセリーを抱いた日に色魔になって――ゴホンッ――色魔というジョブになってだな――」
危ない危ない、色魔になってなどと言っては、まるで俺が色魔みたいじゃないか。
これはあくまでもジョブの話に過ぎない。
そして言い直して、ジョブの効果に〈精神中上昇〉があり、それがカタリナの気鬱の病に影響しているのではないか、という仮説を話した。
するとロクサーヌは少し頬を赤らめて、「なるほど、それで」と得心した。
「カタリナの調子が良くなったのは良いことですけど……セリーが来てから、その……回数が増えましたので……確かにセリーは可愛いですけど……」
「……すまない、心配させてしまったか」
ロクサーヌがちょっと唇を尖らせた。
ベッドから起き上がって、抱きしめると胸に顔を埋めて強く抱き返してきた。
2人きりだからか、やや甘えモードだ。
「……そうだ、こんな時間になってしまったし、今日はあの3人も休みにするか」
「はい、ご主人様のお世話は私が致します」
「ああ、じゃあ、着替えを用意してくれるか」
……。
…………。
………………。
着替えるのに少々時間が掛かった。
1階に下りると、気配を察したらしい3人に出迎えられた。
……いや、Bまでしかしてないので音が聞こえたとかではないはずだが。
「おはようございます、御主人様。
朝食は出来ておりますが、如何いたしましょう?」
「ありがとう、いただくよ」
アランもそうだったが、ハンナはいつも丁寧な物腰だな。
商人の作法なのだろうか。
「皆にはいつも苦労をかけているからな、今日はロクサーヌに俺の世話をしてもらうので、3人とも今日は休みにしよう。
どこか外に遊びにでも行くか?」
希望の場所まで〈ワープ〉で送ると言うと、3人が顔を見合わせた。
……まとまった休暇とか出した方が良いのかな、故郷に帰りたいとか……帰る故郷があるのかもわからん、聞き難いな。
吉原の遊女は無事年季明けしても、故郷に帰った例はあまりなかったというが、身請けされた遊女はどうだったのだろう?
「……では、外に出て良いということでしたら、よろしければ商人ギルドに行ってきて構いませんか?
ヤギのスキル結晶をお求めだったと思いますので、仲買人に顔を繋いでおこうかと」
「……それでは結局仕事を頼むことになってしまうが――」
まあ仕事をしたいのかもしれない。
信頼を得ないと不安なのだろう、俺も新人の頃はそうだった。
「――わかった、では頼むとするか」
そういえば以前会った色魔の仲買人……ローランドだったかな?
……うーん、なにしろ色魔だからな、会いに行けとは言い難い。
まあ、自分から言いだしたということは、ハンナにも伝手があるのだろう。
などと考えているところで、「あの、ご主人様」とロクサーヌに声を掛けられた。
「ハンナさん達にご主人様の名代として商業ギルドに行ってもらうなら、服も換えた方が良いのではないでしょうか?
セリーは装備もあるので良いと思いますが、ハンナさんとカタリナの格好は……こう言ってはなんですがご主人様が侮られます」
……なるほど、風呂に入っているから身綺麗ではあるが、確かにちょっと
俺も何か服をと思わないではなかったが、まだメイド服が出来上がっていないので
「俺はただの自由民なので侮られるもなにもないが、確かに2人にはもっと良い服があってもいいな、よく気付いてくれた、ロクサーヌ。
まあ、俺はただの自由民だが」
「はい、わかっております」
はい、わかってないってことはわかっておりますよ。
……えーと、メイド服がロクサーヌのが6000ナール、セリーのが4000ナールだったな。
大体その7~8割くらいとして、外でお茶したり食事したり、装飾品とかも必要かな……。
「これで用立てることができるだろうか?」
アイテムボックスからなけなしの金貨を1枚取り出した。
緑魔結晶が1つあるし、まとめ売りする予定のブランチやコボルトナイフ、ウサギの皮もあるが、すぐに動かせるまとまった金はこれくらいだ。
「……その、よろしいのでしょうか?」
「えっと、ご主人様の決めたことですから……」
ハンナはロクサーヌに救いを求めるように視線を向けるが、結局諦めた。
……うん、多すぎたようだな。
考えてみたら、メイド服はオーダーメイドで10日かかる代物だ。
今日用立てるとしたら既製品の中古服だろうし……ビンテージ物でも買うのかって話だな。
……こういう金銭感覚ガバガバなところがロクサーヌの誤解を生んでいる気がして来たな*3。
ね、寝起きで頭の回転が悪くなってるだけだし……。
「では……あのセリーさん、アイテムボックスに入れていただけますか?」
「えぁ!? わ、わかりました」
セリーは押し戴くように金貨を受け取ると、指先で摘みながら俺に見せるようにアイテムボックスにしまった。
……そんな表面張力限界チャレンジみたいな慎重な手つきをせんでも……。
「……そうそう、ハンナには探してほしいものがあったんだ」
「あ、はい、なんでございましょう?」
まずチョークの材料となる石灰だ。
そのための材料として、貝殻を探してほしい。
焼いて砕けば石灰になるはずだ、アイドル番組とかなろう小説とかで得た知識だから怪しいが。
「ああ、それでしたら、オイスターシェルのドロップアイテムのボレーというものがございます。
竜人族の方が10日に一度くらい食べる必要があるということで、広く取り扱われています」
オイスター……ボレー……
鳥の餌に混ぜるボレー粉というのがあったような……竜人族って……。
まあ、今気にすることではないか。
「ではそれを……ドロップアイテムならセリーのアイテムボックスに入るから、1列分……いや2列分、20個用意してくれ」
「わかりました……多分600ナールほどになるかと思いますが……」
ただの貝殻と考えると馬鹿高く感じるな、ちょっと良いパンが8ナールだぞ?*4
いや、とんでもなくデカいものだったりするのかもしれないが。
……本当にデカかったらどうしよう、セメントでも作るか?
「あとはちょっと難しい注文だが、板を探してほしい。
黒い……いや、濃い色をした板なら良い」
これは黒板のことだ。
だがいきなり大きなものだと、やっぱりチョークが作れなかった時に処分に困る。
丁度カタリナが食事をトレイに乗せて運んできたので、「とりあえず、それくらいの大きさで」と頼んだ。
できるだけ硬い素材で、木製でも土器やセメントでも良いが、できるだけ丈夫なものが良い。
「まあ、これは今日揃えてくれなくても良い。
どんな素材があるか、どこで注文して、どれくらい予算が必要か、当たりをつけてくれれば充分だ」
「……なるほど、街を巡りながら考えさせてください」
当たり前だが、全員既に朝食は終えたらしい。
こうして1人で食べるのはちょっと食べにくいな。
最近はナイーブオリーブを狩っていたから、オリーブオイルの在庫が潤沢だ。
なんてことのない野菜とベーコンのオリーブオイル炒め、……優しい味付けだな、起き抜けに丁度良い。
「休みと言ったのに、結局色々注文をつけてしまったな。
……セリー、すまんが、今日は荷物持ちと2人の護衛ということで、頼んだぞ」
ついでにカタリナが心配なので、セリーに滋養丸と強壮丸を渡しておく。
レベルが低かった頃にMP枯渇が怖くて買い込んだが、最近は全然使っていないしな。
「申し訳ありません、御主人様。
セリーさんが作ったミサンガをお借りしてもよろしいでしょうか?」
セリーは「特に効果はありませんが」と言うが、ハンナは身代わりのミサンガの代わりにしたいそうだ。
効果はなくても、防具商人の〈防具鑑定〉がなければ見た目ではわからない。
なるほど、ハッタリということだな。
……身代わりのミサンガの代わり……身サン代わり……ううむ、一捻りすると秀逸なジョークに化けそうな……覚えて……おく必要はない、忘れてしまえ*5。
「もちろん構わない……というか、俺も付けておくか。
セリー、一番初めに作ったミサンガを貰えるか?」
セリーはもう一度「効果はないですけど」と言いつつも、アイテムボックスから出して俺の手にそれを巻いてくれた。
ちょっと照れくさそうだ。
この娘は理屈っぽいところがあるが、時々とても純朴な仕草を見せる、そこが可愛いところだ。
「では、準備が良いようなら街まで送ろう」
※ ※ ※
3人を送り、ロクサーヌとはベイルの街に行った。
そういえば市が立つ日だったような……と思い出したのだ。
カレンダーが欲しいな、黒板ができたら予定を書き込めるようにしよう。
ベイルでは、ロムヤとビッカーはいないだろうか、と探すともなしに探してみたが、見当たらなかった。
食材や服、雑貨や民芸品、特に何を求めてということもなく、適当に冷やかしてみる。
これは買い物デートというやつなのでは……と思い当たってからは、2人に遭遇するのがこっ恥ずかしくなったので帝都に移動した。
以前、とんでもない臭いの魚醤を見つけた裏通りだ。
予防接種に連れてこられた犬みたいな反応をするロクサーヌにほっこりした後、以前と同じ屋台でカルメ焼きを買って機嫌を取る。
MP回復のために2人だけで迷宮探索して、セリーが来る前のことを少し思い出したりしてから、昼下がりに帰宅した。
今日は以前ロクサーヌが作ってくれたポトフを基に、ホワイトシチューを作るつもりだ。
ハンナに訊いてみたが、料理人は探索者Lv30になると就けるジョブらしい。
俺も探索者Lv30になったのだが、ハンナのように料理人のジョブは解放されなかった。
出しゃばるのもどうかと思い、この世界に来てから料理らしい料理をしなかったからだろう。
ロクサーヌは俺が作ると言うと恐縮していたが、一緒に作ろうと言ったら尻尾を振ってくれた。
できるだけ彼女の尻尾を揺らせるように暮らしたいものだ。
ウサギの肉を使って、いつぞや食べたロクサーヌのゴロゴロ野菜のポトフを作ってもらう間に、金物屋で買った中華鍋にバターをひいて小麦粉を炒める。
そこに牛乳を入れ、弱火でとろみが出るまでかき混ぜればホワイトルーだ。
更にボスタウルスという魔物のドロップアイテムだという〝
牛乳よりコクがあって、スープなどに入れると美味しいという、結構上の階層の魔物なので、そこそこの値段がした。
……うん、いい感じだ。
ちょっと作りすぎたから、明日はグラタンにでもしてもらおうか。
「とても良い香りがします……あ、セリー達が帰ってきましたね」
「そうか、焦げないようにかき混ぜていてくれるか?」
「はい、お任せ下さい」
玄関に行くと、3人は靴を脱いでいるところだった。
母娘は服を突っついたり引っ張ったりしながら笑い合っていた。
その様子を思わず見つめてしまう。
「――あっ! 申し訳ございません、騒がしくしてしまい」
「いや、すまない、少し昔を思い出していた。
……子供の頃、母に買い物に連れられてな――」
もう下手すれば30年近く昔か。
あれは赤坂か広尾だったか……デパート? いや瀟洒なブランドショップだったような……。
確かなことは、俺は買い物を楽しめない子供だったということだ。
ブーたれて外を流れる車を眺めていた記憶だけが残っている。
「――母も、こんな風に俺と楽しみたかったのか、とな」
「……まぁ、若い殿方は難しゅうございますからね」
だよなぁ? とひとしきりハンナと笑い合った。
うむ、思春期前の息子にそれは厳しいと思うぞ、母よ。
「御主人様は……お料理ですか? 申し訳ございません」
エプロン姿の俺に3人が頭を下げてきたが、「いや、楽しんでやっている」と手を振る。
……母娘の服装は、なんというのだろうな。
男装とも違うが、スーツのようでありドレスっぽい要素もあり、可愛いよりカッコイイ系。
皇妃になる前の
ハンナはキャリアウーマンの雰囲気があるな。
カタリナは比べると学生っぽい。
2人はゆるいヘアバンドのようなもので片目を隠し、加えてカタリナはスカーフを巻いて首元を見えないようにしている。
カタリナの表情が明るい。
……そうか、いつも俯き加減だったのは、首の切り傷を隠していたのかな。
もっと早く贈ってあげれば良かった、我ながら気が利かないことだ。
「……本当に見違えた、よく似合っている」
「ありがとうございます。
お蔭様で、なかなか良い仕立てのものを見繕うことができました」
さすがにオーダーメイドのように上手くはいかず、微妙に身体に合っていないらしいが、それくらいは自分達で手直しできるという。
洋の東西を問わず、昔は針仕事ができることが嫁入りの条件だったというが、それは異世界でも変わらないのだな。
ロクサーヌにもこういう服があっていいな。
セリーには……思いっきり可愛い格好をさせてみたい欲がある、フリッフリのやつ、すごいしかめっ面してくれそう。
「セリーもよく働いてくれた、疲れただろう?」
労うと「いえ、そのようなことは」と遠慮するセリーからボレーを受け取り、アイテムボックスに移す。
……岩牡蠣くらいの大きさだな、大きいと言えば大きいが、身が食べたい。
ホワイトシチューを作ったというのに……いや、だからか、今の俺はクラムチャウダー腹だ。
「さて、買い物の成果は食後に聞かせてもらうとして、それまで休んでいてくれて良いのだが……。
その前に少し話があってな」
※ ※ ※
ホワイトシチューは好評で、全員おかわりまでしてくれた。
材料にウサギの肉と酪を使っていることは、ちゃんとおかわりした後に教えた。
事前に言うと絶対遠慮してしまうからな、俺は気遣いができる男だ。
……なぜかハンナに恨めしげな目をされたが。
それにしても、味はベイル亭にも負けないと思うが、価格は完敗だ、あそこは本当に良い宿だったな。
まあ、食材を自力調達できるくらい上層まで行ければ、食費も浮かせて食事も豪華にできるだろう。
それくらい気楽に迷宮探索するくらいが、多分丁度良いのではないか。
「……なるほど、ヤギのスキル結晶はそれくらいか」
「はい……とはいえオークションの落札額は仲買人同士で結託しておりますので、急ぎで頼むと吊り上げられてしまいます」
ま、業界団体なんてそんなものか。
なくなったらなくなったで、大資本の寡占状態になったりしそうだしな。
長いものには巻かれるに限る。
だが〈値引交渉30%値引〉は使う、慈悲はない。
「とすると、あまり急がない方が良いかな?
正直なところ、多少吹っ掛けられるくらいならすぐ取り返せるのでどうでも良いのだが……」
一度値段を吊り上げれば、それが基準になってしまう。
俺個人は3割引になるからどうでも良いのだが、他に欲しがっている者達に恨まれるのは困る。
値引スキルのことは伏せて、ハンナに相談してみると、
「顧客の情報を外に漏らす仲買人はおりませんよ、追い出されてしまいます。
情報を仲間内で囲い込んで調整するのも彼らの得意とするところです」
さきほどからセリーの目つきがプリプリしてるな。
多分、ドワーフの彼女は生産者側の視点になるだろうから、良い感情は持てないのだろう。
後でおみやげのカルメ焼きをあげよう。
「それに、以前申し上げましたがひもろぎのロッドは魔法使い垂涎の品です。
貴顕の家で
「……よし、買ってしまおう。
別に買い占めるつもりはなく、とりあえず1つだけということで、上手い具合に理由は任せて良いか?」
ハンナは「お任せ下さい」と頷いた、商談ができるからか、ちょっと楽しそうだな。
対してセリーは一転緊張に顔をしかめている。
現実に〈スキル結晶融合〉をする時が迫っているのを理解したからだろうな。
もっと肉食え、肉。
「……板の方ですが、黒い染料を塗ったものであればご用意できそうです。
乾くのに時間が掛かるので、本日は既製品のトレイをお持ち帰りしました」
これはさっき触れてみたが、どうもツルツルしていたのでチョークの粉が乗らないような気がするのだよな。
黒板の感触……どんなだったかな。
結構、摩擦係数は高かったような、黒板消しで消す時に力を使った記憶があるが……。
ちなみに、最近の子供たちは電子黒板らしい。
さて、これで本日の議題は終了だが……。
「ところで話は変わるが、アラン殿に頼んでいたロクサーヌとセリーの服を数日後に受け取りに行くことになっているが……」
ロクサーヌの顔を見ると、「仲間が増えるのですか?」と期待のこもらない目で見られた。
……大丈夫だ、そんな金はない、というのも沽券に関わるので「まだそのつもりはない」と応える。
もっとも、これからする話もロクサーヌの期待する話でもないだろうが。
「その時に、遺言の変更を頼もうと思う。
……セリー、ハンナ、カタリナ、お前達は俺の死後、ロクサーヌに相続させるつもりだ」
『かしこまりました』
3人には事前に話してあるから、すんなり頷いた。
狼狽えたのはロクサーヌ1人だ。
「お、お待ち下さいっ! 私はご主人様に――!」
「そう言うな、俺は限界まで長生きしてもお前より先に死ぬ。
ハンナはともかく、セリーやカタリナよりもな。
死後に後事を託す、それは最も信頼するロクサーヌしかない」
しかし、ロクサーヌは言葉に窮している。
3人には、何年かしてどうしても嫌なら、あるいはロクサーヌがあくまでも殉死を望むなら死後解放するように変更する、とさきほど根回し済みだ。
ハンナはどうにかして娘の身を立てることしか考えていないようだが、いずれにしてもカタリナが狼人族を恐れているのを良いこととは思っていないようで、これを機会にロクサーヌと打ち解けることを考えているらしい。
この母娘はセリーとは接する機会が多いが、ロクサーヌとはちょっと距離があるからな。
セリーはしっかりしたもので、ここ数日色々試したようなこと……ジョブ解放の条件を体系づけて後世に遺したいらしい。
ジョブを増やしたい俺としてもそれは実益に
未来にセリーの主人ミチオとして名が残るかもしれないと思うと、ちょっと面白い。
Wikipediaでミチオ・カガ*6と表示されるくらいのポジションになれれば上々だ。
「……私にそのような大任が……できるでしょうか?」
「まあ、今からそう気負って考えなくて良いだろう、俺もあと10年かそこらは迷宮探索を続けるだろうし、よぼよぼになってくたばるのはもっと先だ。
気長に将来どうするか、どうしたいか探せば良い」
セリーの構想については、ロクサーヌにはしばらく黙っておくように頼んだ。
恐らく知れば彼女も全力で協力するだろうが、できれば自力でやりたいことを見つけてほしいという、これは俺の我儘だな。
「……わかりました、ご主人様のお心をやすんじるように致します。
よろしくお願いしますね、セリー、ハンナさん、カタリナ」
『よろしくお願いします』
さて、どうなるかな。