進捗6割くらいですが、週イチ投稿くらいで書けてる部分投下します。
また、今回も前章あらすじをご用意しましたが、読み返して一章二章の説明不足と思った箇所を加筆したりどうでもいい箇所を添削したりしたので、もう一度読んでくれるととても嬉しいです。
【前章あらすじ】
ロクサーヌと2人で迷宮探索を進め、ベイルの迷宮二階層に足を踏み入れる道夫さんに、グリーンキャタピラーの糸攻撃が襲いかかる。
デュランダルの攻撃が当たれば一撃でも、拘束されて当たりどころが悪ければ間違いがあるかもしれない、しかも苦労して倒してもドロップアイテムの値段は変わらず。
あまりの不効率に
奴隷商の危機を救ったついでに、ボーナス魔法を使うことで魔法使いのジョブを獲得、遠距離攻撃手段を手に入れたことで迷宮探索を再開する。
効率優先でコボルトを狩り続け、探索者の街クーラタルで家を狩り、初めてのスキル結晶と、黄魔結晶の獲得と順調に探索を進め、この世界で生きていく算段がつく一方、自分の死後に1人残される年若いロクサーヌが心配になる。
「もし私のことを信用して下さっているのなら、殉死のままに。
遺言はなさらないでください」
しかし、ロクサーヌは死後解放されることを望まず、「今後立派な仕事を成し遂げられる」であろう主に仕え続けることを望んだ。
そして更なる迷宮探索を決意した道夫さんは追加の奴隷、ドワーフ族の少女セリーと家事奴隷として元商人のハンナ、カタリナの計3名を購入する。
利発なセリーと博識なハンナの知恵を借りることで、セリーは巫女と鍛冶師のジョブに就くことができるようになり、ついでに少女2人を毒牙にかけて色魔のジョブを得ることに成功してしまう。
公私共に絶好調の道夫さんの前に、1人で探索を進める気さくな青年が現れるが、彼は階層のボスに負けて死んでしまった。
改めて死の危険を自覚しただけでなく、ボーナススキルを持つ自身と比較して
プロローグ
クーラタルの街
商人ギルド
クーラタルの商人ギルドは、迷宮がある中心部から少し外れたところにある。
建屋は2階建てで、なんというか贅沢な敷地の使い方をしていた。
窓がいくつもあり、防衛が考えられている迷宮周辺の建物とは大分趣が異なる。
日本で言うと……なんだろう。
オフィスビルならもっと縦に長いし、工場ならもっと扉が大きくて窓が少ない。
ペンションにしては広すぎるし、ホテルとして見ると少々味気ない。
……ああ、広さと高さから言ってBEAだこれ*1。
いや、現地に行ったことがあるわけではないが。
「結構大きいし、活気があるな」
「クーラタルの力が探索者ギルドなら、クーラタルの富は商人ギルドですから」
なかば独り言に相槌を打ったのは、ドワーフの美少女セリーだ。
こじんまりした身体に見合わぬ凄まじい筋力を誇るが、その真価は明晰な頭脳だ。
彼女は凛々しいと言えなくもない顔で「お気をつけ下さい」と言った。
……いや、精一杯好意的に解釈しても猜疑心の固まりだな。
ロジカルな彼女は仲買人という存在に対しては「仲買しているだけなのに利益を奪われるのはシャクですね」とシニカルだ。
まあ、時代的に考えれば珍しい考え方ではないだろう。
日本でも儒教の影響が強かった江戸時代辺りまでは、商人はかなり下賤な存在として扱われていたと聞くし、ヨーロッパでもユダヤ人の扱いを見るに同様と思われる。
商法とか商道徳とかも整備されていないようだし。
「まあ、ハンナに任せておけば良いだろう」
「はい、そうですね」
そんなセリーもハンナのことは信用しているらしい、大人しく頷いた。
人柄もあるだろうが、同じ奴隷であるハンナが利益を追求することは、主人である俺の利益となる。
あとは俺がそれを彼女達に分配すれば、利害関係が一致してみんな幸せになれるわけだな……俺の胃壁以外。
「微力を尽くします」
ざわめきのある通りの中でもこちらの会話が聞こえたらしい、案内してくれているハンナが振り向いて微笑んだ。
ハンナは装備を扱う商人の出身だったが、盗賊の襲撃により娘以外の家族を喪ったという。
娘ともども盗賊に拷問されたらしい彼女は、右目が失明しあちこちに火箸か焼きごてでも押し付けられたのか火傷の痕がある。
初めて会った時は色白で今にも死にそうな儚い印象で、半ば以上は商人のジョブ効果の〈知力小上昇〉目当てでの購入だったが、今はそれなりに元気を取り戻している。
キリっとしたスーツ姿に傷も相まって、今では非合法な代物も扱いそうな闇商人のような雰囲気すらある。
彼女が開けてくれた扉の先は、ホテルやデパートのエントランスホールのような場所だった。
若い男がこちらを、いやハンナを見ている。
「――ああ、あちらが今回取引に応じてくれたルーク殿です」
「――おおっ、これはこれはハンナ殿。
……失礼します、私は仲買人をしておりますルークと申します」
ルーク・アシッド
<男・28歳>
防具商人:Lv2
装備:身代わりのミサンガ
男――ルークは胸に手を当てる礼をした。
指先が握手する手を意匠化したワッペンを指している。
入口にも同じロゴの看板があったな、商業ギルドの印章《エンブレム》なのだろう。
「私はミチオという、今日はよろしくお願いする」
「はい、ミチオ様、こちらへどうぞ」
このルークは、盗賊に殺されたハンナの夫と同郷で同じギルドに所属していたらしい。
ハンナの家族は娘のカタリナを除いて治療の甲斐なく助からなかったが、だからといって治療費を払わなくてよくなるはずもない。
そして彼女達母娘は税金が払えず奴隷落ちしたが、治療費については同業者が立て替えてくれたらしい。
このルークもその1人というわけだ。
ハンナ曰く、身代も大きくやり手だが、確かな商売をする商人らしい。
ハルツ公爵という貴族の御用聞きもしているとか。
すごいな、大貴族の大商人ではないか、28歳で防具商人になっているだけのことはある。
「この辺りの部屋は、商談などで自由に使える場所です。
右手の窓からは、午前の競りの様子を見ることができます」
外からは格子窓と思ったが、小さなガラスがはめ込まれた格子ガラスだ。
現代日本では、多分こういう窓の方が値が張ると思うが、技術的に大きい窓を作るのは難しいのかもしれない。
だが、それでも充分な透明度だ。
「これらは全てガラス窓なのか」
ざっと見渡しても何枚も窓がある。
2階にも窓があったから、両手の指では数えられないほどだ。
この世界に来てガラス窓を見たのは初めてだ……と思う、意識していなかっただけかもしれない。
「ほぅ……こちらは遥かペルマスクから取り寄せた窓ガラスとなります。
これほどふんだんに使用している建物は、確かに少ないでしょう」
……しまったな、田舎者と思われてしまっただろうか。
などと考えていると、「こちらの部屋へどうぞ」と言われてしまった。
おかげで競りの様子はさっぱり見てなかった、〝クーラタルの富は商人ギルド〟か、上手いこと見せつけられてしまったかな。
部屋は10人くらいで会議ができそうな応接間だった、俺とセリーとハンナ、そしてルーク氏の4人には広過ぎる。
ハンナは拷問により右足の腱を切られたらしく、今も俺が与えたウッドステッキを装備している。
不自由な彼女に気を遣って、わざわざ1階にある大部屋を確保したのだとすれば、気遣いができて商人ギルドの中でも顔利きなのだろう。
……というところを奥ゆかしくアピールしているのだろうか。
うむむ、セリーに引きずられたかな、どうにも警戒心が出てしまう。
ロクサーヌの笑顔が見たい……彼女にはカタリナと一緒に家で用事を頼んでいる。
「では、本日お取引させていただく商品となります。
ルークは長いテーブルの上に注文の品を陳列していった。
なるほど、探索者Lv30から派生する防具商人のジョブには〈アイテムボックス操作〉があるのか、セリーの鍛冶師と同じだな。
スキル結晶 ヤギ
革 革 革 革 革
革 革 革 革 革
銅 銅 銅 銅 銅
銅 銅 銅 銅 銅
鉄 鉄 鉄 鉄 鉄
鉄 鉄 鉄 鉄 鉄
板 板 板 板 板
板 板 板 板 板
「なるほど、確かに」
注文したのは、今使っているロッドを〝ひもろぎのロッド〟とするためのヤギのスキル結晶、そして装備の更新のためのドロップアイテムだ。
今攻略しているのはクーラタルとベイルの迷宮七階層だが、これらはもっと上の階層のものだ。
本来ならこれらで装備が作れるのは、何年も修行をした鍛冶師だけだとされるが、〈鑑定〉によって確認できるセリーのレベルなら扱えると思う。
「……ルーク殿、落札物の確認のためのギルド神殿の使用料は10ナールだったでしょうか?」
ハンナの言葉に、ルークは「ええ、変わっておりませんよ」と鷹揚に頷いた。
危ない危ない、つい〈詠唱省略〉で〈鑑定〉してしまったが、普通はどのモンスターのスキル結晶なのかはわからないのだったか。
無駄な出費とは思うが、まあケチるような金額でもないか*2。
「できるかぎり早急にということでしたので、スキル結晶の方は相場より500ナールほど高くなってしまいました。
シザーリザードの革、サイクロプスの銅、ロールトロールの鉄、ラブシュラブの板については相場通りです。
それぞれお値段は――」
と、メモもなくスラスラと言った。
事前にハンナから教えてもらっている通りの値段だ。
……でも、ちゃんとメモとか確認しながら説明してくれる方が良いな。
世の中にはメモや台本を見ずにハキハキ喋っていると、「有能そう」とか「自分の言葉で喋ってる気がする」とか思ってあっさり騙されるヤツがいるが、きちんとすり合わせた事実を正確に伝えてくれるのが一番だ。
ウチの会社の前の事業部長も、自信満々に江戸しぐさとか抜かす糞コンサルにコロっと騙されて…………落ち着け、KOOLになれ。
あの事業部長は引退して自然農法農家になった。
俺は異世界でよろしくやっている。
もう関係のないことだ。
「……ところでミチオ様、そちらのドワーフの女性は鍛冶師でしょうか?」
警戒心からか、ソファに座らず後ろに控えているセリーを振り向いてから、頷きを返す。
彼女にはたまに〈MP小上昇〉のある巫女になってもらうことがあるが、基本的に鍛冶師をやってもらっている、今もそうだ。
「探索者の多いクーラタルでは装備品の需要は大きいものですから、経験豊富な鍛冶師は大いに歓迎です。
ハンナ殿からはパーティーの装備更新のためと聞いておりますが、装備品を売りに出すおつもりはないのでしょうか?」
ドワーフは種族的な特徴として、老化すると耳が細くなるというのだが、セリーは生まれつき耳が細い。
それを見て〝経験豊富〟と目星をつけたのだろうが、さて……。
「スキル結晶融合は失敗することが多いし、全て自分たちで使うつもりだが、その口振りからすると……」
「はい、通常の装備品の話です。
ああ、申し遅れましたが、私は防具商人をやっておりまして――」
素材を用意するから出来上がった装備品を、か。
言われてみれば当たり前だな。
基本的にはありがたい申し出ではある。
しかし、まだ本当にこれらを使って装備が作れるか確認していないのだが……というこちらの逡巡を値段交渉とでも思ったか、
「――無論、新品の装備品を中古品と同じ店頭価格の2割5分で、などとは申しません。
当方を通して素材も購入していただけるなら、素材は1割引き、買取価格は店頭価格の3割5分、こちらの注文も聞いていただける場合は4割では如何でしょうか?」
「なるほど、素材の購入代金の……最大2倍近くで買い取ってくれることになるのかな?」
装備によってばらつきはあるものの、魔物を狩らずに素材を購入した場合、原材料費は2割強程度らしい。*3
素材が1割引なら2割弱か、条件的には断る理由が見つからないな。
ボーナス武器である聖剣デュランダルには、〈攻撃力5倍〉と〈MP吸収〉のスキルがついているから、普通の鍛冶師と違ってセリーは何度でも〈武器製作〉と〈防具製作〉を使うことができる。
だから極論、迷宮と商人ギルドを〈ワープ〉でシャトルランするだけで金が2倍に増えることになる。
無論、ゲームのように素材を無限に購入できるわけないし、装備を無限に売却できるはずもないが。
「……その値段なら、うちのセリーの腕が買い叩かれているとは言えないな」
後ろから小さく、しゃっくりを無理やり押し込めた時のような音がした。
……すまん、セリー。
〈スキル結晶融合〉もまだやったことないのに、更に仕事を増やしてしまって本当に申し訳ない。
だが断る理由が思い付かないんだ、だからハンナも何も言ってないのだろうし。
……まあ、皮装備なんかは既に製作できることは確認済みだ。
最悪、それらを引き取ってもらえば良い。
「わかった、今後もお願いしよう。
……とはいえ、パーティーの装備更新が優先だから、注文を聞けるとしても先のことになるが」
「もちろんです。
今後もハンナ殿を通してお取引させていただければと思います」
ルーク氏が穏やかな笑みを浮かべて手を差し出してきたので、商人ギルドの看板のように握手を交わす。
これ多分、ハンナの助けになろうと思って申し出てくれているんだろうなぁ。
……ここで〈値引交渉30%値引〉を使うのは、俺には無理。
※ ※ ※
「さて、次は外構業者の店だな」
「はい、どこかお心当たりがあるのでしたか」
セリーに頷きを返して、ゆっくりと歩き出す。
今日街に出てきた理由はもう一つある。
黒板の材料探しだ。
先日、ハンナに用途を説明せずに〝黒っぽい板〟という雑な注文で材料探しをさせたが、どうにも手触りがツルツルしていて、チョークが乗りそうにない。
なので、今朝家を出る前にチョークと黒板の完成形をどうにかこうにか説明したところ、セリーが「軽石で地面に文字を書くようなものですか?」と察してくれた。
お絵かきでなく文字というのが、なんともセリーらしい、真面目な顔で文字を練習している彼女の様子が目に浮かぶようだ。
そしてロクサーヌも思い当たることがあるらしく、「ああっ」と手を叩いて、
「幼い頃、家の壁に絵を描いて怒られてしまいました」
と、テヘっと笑った。
あの時は無言でロクサーヌ以外の4人で安堵の視線を交わして頷きあったものだ。
笑顔で「ノンレムゴーレムに落書きして遊んでました!」とか言われたら反応に困る。
セリー達の心の声にアテレコを入れると、
『あ、パイセンそういう普通の遊びもするんッスね』
というところか。
……言い方に多少議論の余地はあるかもしれない。
ともあれ、おおよその目的を共有したことで、完成形が見えてきた。
そして、ロクサーヌの〝家の壁〟という言葉で思いついた。
以前家の周囲に柵を建ててもらった外構業者に注文すれば、いい感じの板が用意できるのではないか、と。
それに家の壁と同じ素材なら、それなりに頑丈なはずだ。
なお、ロクサーヌにはカタリナとチョークを作るための用意をしてもらっている。
ハンナ達に買い求めてもらった
家に帰る頃には試作に入ることができるだろう。
まあ、思った通りにいかなければ、失敗作を迷宮に置いておけば吸収されるだろう。
粗大ゴミの心配がいらないDIYというのは素晴らしいな。*4
素材と装備の値段について補足です。
装備素材(ドロップアイテム)は、ギルドに売却した際の値段が10ナールとした時、店頭購入価格は3倍の30ナールが相場とします。
装備品の店頭売却価格は店頭購入価格の4分の1です。(原作通り)
原作で製作スキルで製作可能な素材が明らかになっているダガーで考えてみます。
ダガーは店頭購入価格が明らかになっていませんが、500ナールとします。
これは、以下の2つの理由からの推測です。
①銅の剣が1000ナール、その上の両手剣装備である鉄の剣が4000ナールと4倍であること。
②ダガーの上の片手剣装備であるシミターの店頭売却価格が500であり、推定できる店頭購入価格が2000ナールであること。
ダガーの製作に必要な素材は、コボルトナイフ×2、ブランチ、皮です。
これらの素材はギルドで各10ナールで売却できるので、店頭購入価格は40ナール×3の120ナールとします。
まとめると、ダガーの値段と原材料費は以下となります。
店頭購入価格:500ナール
店頭売却価格:125ナール(※中古品)
素材購入価格:120ナール
新品売却価格:175ナール
注文売却価格:200ナール(※ルークから注文された場合)
作中で記載した通り、中古品を店頭に持ち込んで売却した場合と、新品を売却する場合で価格は変えます。
装備品はかなりゲームっぽい要素ですが、ロクサーヌが装備の手入れをしていることからも、装備品に損耗という概念は恐らく存在すると思います。
鍛冶師は数年間は朝夕ミサンガ作りで修行するとされているので、普通の鍛冶師が装備製作スキルが使えるのは1日2回程度と思われます。
ダガーを作れる程度の鍛冶師なら、装備製作だけで1日110ナールの利益が出せるので、質素に生活することはできるでしょう。
自分で魔物も狩れるなら350ナールの利益になるので、旅亭ギルドで1人部屋を借りて宿暮らしができるくらいでしょうか。
また、作中で記載した通り、デュランダルでMP回復すれば製作スキルを乱用できるので、素材を購入しても充分利益を上げることができるでしょう。
今後はスキルスロット付きの装備を自作できるまで製作ガチャを回して、余りを売り払う形になると思いますが、いちいち描写はせず背景でやっているものとします。