クーラタルの街
道夫の家
〈知力上昇〉について、ハンナに聞いたがやはり重複できないことがわかったので、スキル結晶はしばらく寝かしておくことになった。
変わって翌日、気を取り直してベイルの迷宮の七階層の探索を再開してしばらく、昼食の時間となったので帰宅したところ、外構工事業者に注文していた黒板が届いていた。
子供向けじゃないということでふち取りはしなかったが、1日くれれば出来ると言ってくれた。
なんで家族構成とか気にしてくるんだと思ったが、そういう意味だったのか……親切な業者だ。
今回はお試しだが、次からはお願いするとしよう。
注文したサイズは、納期優先にしたかったから特注ではなく一般的な木窓の板と同じサイズ……大体32インチディスプレイくらいだろうか。
帯に短し襷に長し、手元で使うには大きいし全員で書くには小さい、ちょっと中途半端だったかもしれない。
サイズや手触りを確認したから、黒板をテーブルに横倒しにする。
テーブルの上に立てかけると、多分セリーが届かない……とは口にしないが。
「チョークも固まったようだし、早速試してみよう」
もっとも、いくつかは割れてしまっていた、やはり気候的に湿度が低いのだろうな。
これは、コーラルゼラチンが量が少なかったやつだな。
逆にコーラルゼラチンの量を一番多くしたものは、
「こっちは見事にカチカチだな……なにも書けないが」
同じく試していたロクサーヌと顔を見合わせて苦笑いする。
「こちらは書けました……割れてしまいましたが」
「……最初に作ったものですね、コーラルゼラチンが大さじ4のものです」
「ではそれに小さじ1足したものは……うん、良いんじゃないか?」
ロクサーヌとセリーの3人で試してみるが、ザラザラした黒板の表面にも結構滑らかに書ける。
一度ロクサーヌに頼んで文字の練習をしようと思ったのだが、この世界の筆記具とパピルスだと書き難くて嫌になってしまった。
高品質のベアリングを作れる日本のボールペンは、100均の安物でも世界基準では非常に性能が良い、ということを痛感した。
だがこれくらいの書き味なら悪くはないな。
「俺の手には、カタリナの中指くらいの太さが丁度いいようだ」
「私は……これはハンナさんの人差し指と薬指ですか」
「カタリナの小指が細かい字が書けて良い感じです」
乾いたら縮むかと思ったが親指はさすがに太すぎたな。
乾くのも時間が掛かりそうだし、今後は……と、一歩下がった位置で見守っていたハンナとカタリナが、指をモジモジさせて居心地が悪そうにしていることに気づいた。
……うん、どういう会話だこれは。
「ええと……具合が良かったものを、細い順に1号、2号、3号とでもして、寸法を揃えられるように木枠でも用意するか。
ハンナ、頼めるか?」
「……はい、適当な木地師を探してみます」
迷宮探索しながらこういう頼み事もできるのは、本当にありがたいな。
チョーク作りはこのまま2人に任せても大丈夫だろう。
「あとは、書いたものを消せれば良いのだが」
カタリナがボロ布を持って身を乗り出すが、なかなか消えない。
彼女も片足が力が入らないからな、ボロ布を「貸してくれるか」と代わって消してみる。
「……うーん、ちょっと消し難いな、もっとしっかりとした素材の方が……」
日本の黒板消しは、ただの布地じゃなかったように思う。
滑らかな素材で……フランネル? ビロード? なんか縦にうねった毛織物みたいな感じだったように思う。
このボロ布のような薄いツンツルテンの素材ではなく……と布を触って気付いた。
……これは下着だ。
「……申し訳ありません、お手汚しを。
洗ってはおりますが、それは
「…………すまん」
ロクサーヌが装備の手入れに古い下着を使っていたのだから、気づくべきだった。
娘の前で母親の下着を……とか、死にたい。
「あの、ご主人様、私が」
「……頼んだ、ロクサーヌ。
俺が居たところでは、黒板消し……というのだが、毛織物のような――そうだ」
ウサギの毛皮があったな。
ハンナによれば、帝都の服屋で2倍くらいの値段で引き取ってくれるらしいということで貯めているが、外套などに加工すると高級品になるそうだ。
結構ふわふわして手触りが良かったな、とアイテムボックスから出して試してみる……うん、悪くないな。
チョークの粉が繊維に巻き込まれる感じはないが、毛先で細かいところまで落とせる感じだ。
「しばらくはこれを使うか、何かに取り付けて、使いやすいようにできると助かる」
「はい、試してみます」
……さて、なんとか気を取り直して、と。
「では、午後はこのまま今後の予定を話し合いたい。
ちょっと大げさだが、作戦会議だな」
この世界の暦は、春夏秋冬で各90日、季節と季節の間に、1日か2日の休日――閏日が入るそうだ。
地球でいう週や月の概念はないので、季節ごとで予定を立てるとすると……。
「横軸が6マス、縦軸が15マス、今日は春の……」
「春の33日ですが、あの御主人様……それは、数字……でしょうか?」
日付をすぐにハンナが答えてくれたが、戸惑った声音に我に返る。
……アラビア数字を書いてたわ。
「……セリー、頼めるか」
「あ、はい」
興味深そうに数字を眺めていたセリーに頼む。
幸い意図は通じていたようで、テキパキと書き込んでくれた。
旅亭ギルドの宿の部屋番号で見覚えのある数字があるな。
「えーと、33日だから、6行目の3列目の、ここだな。
直近の予定は、アラン殿の商館でロクサーヌとセリーの服を頼んでいるが、10日後と言われたな」
「はい、明日ですね」
「では、4列目のマス目にアランの商館、と書き込んでくれるか。
ロクサーヌに死後相続するから、全員で行くとしよう」
一拍置いてロクサーヌが「はい」と返事をした後、3人が「わかりました」と応えた。
「あとは、ジョブの見直しをしたい。
現状、ロクサーヌが獣戦士Lv19、セリーがさっき鍛冶師Lv17になった、ハンナが商人Lv30、カタリナが商人Lv20になっている。
……商人は成長が早いようだ」
頼む前から、セリーがジョブとレベルを書き込んでくれていた……と思われる。
日付経過でどれくらいレベルが上がるか見えるようにしたかったから、言わずとも察してくれるのは本当に助かる。
だが、あまり広くないスペースにどう書くか苦慮しているようだ。
「とりあえず欄外で良いから記録を頼む、ジョブの略称とか頭文字とかを決めておくと記録しやすいかもしれんな」
「なるほど……ご主人様のジョブとLvも教えていただけることはできますか?」
そうだな、略称を決めた後、新しいジョブが出てきて被ったら困るか。
見切り発車の要件定義……五月雨式追加仕様……姑息的設計変更……有名無実化する命名規則……うっ、頭が!
……それはそれとして、ちょっと英雄のジョブを伝えるべきか迷うんだよな……そんなに世界を広く見てきたわけではないとはいえ、同業者を見たことがない。
あと基本的に迷宮では付けっぱなしの色魔のレベルも。
割合でいうと3:7くらいで後者のほうがカミングアウトしたくない。
【ジョブ設定】
探索者:Lv33
英雄:Lv31
魔法使い:Lv33
商人:Lv28
色魔:Lv26
村人:Lv10
盗賊:Lv15
剣士:Lv15
戦士:Lv15
薬草採取士:Lv26
僧侶:Lv20
農夫:Lv1
料理人:Lv1
だがまあ、今更かと諦めて、ジョブ設定画面の内容を伝える。
なお、ボーナスポイントは基本の99に、ファーストジョブの探索者Lv33で32ポイントだから131にまでなった。
内訳は、〈必要経験値十分の一〉で31、〈獲得経験値二十倍〉で63、〈フィフスジョブ〉と〈結晶化促進十六倍〉が15ずつで30、〈詠唱省略〉で3、〈ワープ〉・〈鑑定〉・〈ジョブ設定〉・〈キャラクター再設定〉の4となる。
以前はデュランダルを出す回数を減らすために、MP回復速度にポイントを割いていたのだが、色魔のレベルが上がってからは余裕が出てきた。
色魔のジョブ自体がMPが高いのか、〈MP小上昇〉の効果が意外と大きいのかはちょっとわからないが。
あと、色魔の〈精神中上昇〉はやっぱり魔法のクールタイムに影響していると思う*1。
……という、色魔Lvを上げている言い訳を考えてみたが、彼女達には英雄のジョブの方がトピックスだったらしい。
「え、英雄、ですか……」
「す、すごいです」
「さすがはご主人様です」
母娘の感嘆の言葉に、ロクサーヌがにっこり笑顔で頷いた。
これで腕組みしたら王騎将軍だな、などとくだらないことを考えることでこそばゆい思いを誤魔化していると、
「初代皇帝だけが就任したジョブですから、明るみに出たら謀反の罪に問われるかもしれません」
「……な、内密にな」
セリーが冷や水を掛けてきた。
それはもう盛大にぶっかけられた。
……初代皇帝といえば、クーラタルの迷宮の91階層まで上ったというレコードホルダーだったか。
91階層……Lv91の魔物が同時に7匹出るのか? どこの裏ダンジョンだ。
「初代皇帝だが、盗賊を退治したエピソードなどはあるか?」
「はい、初陣で盗賊を撃退したと伝えられています」
「それは有名な話なのか?」
セリーだけでなく、他の3人も頷いた。
「俺もソマーラの村で盗賊退治をしたのが初陣だ」
「……なるほど」
セリーが黒板ではなくパピルスのメモ帳に書き込み始めた。
彼女はジョブの解放条件をまとめて本にして遺したいらしい。
いっそのこと英雄の条件をばら撒くか? 英雄自体が珍しくなくなれば隠すこともなくなるしな。
……いや、みんな知っていることのようだから、盗賊を倒すこと自体は過去に検証されているだろう。
初陣で盗賊を倒すというより、初陣で助けた相手に英雄視されることかもしれない。
盗賊を倒すだけなら、牢屋にストックしておいて子供に殺させれば出来てしまうだろう。
ベイルの町の出来事を思い出す……あの、殺された盗賊のことなど心底どうでも良さそうに死体を掃除させた女騎士、ああいう手合ならやりかねない。
……いやいや、良くないな。
ろくに話したこともない人間のことを、悪しざまに当て推量するのは健康的じゃない。
きっとあの女騎士様も、職務中は気を張ってついついあんな言い方になってしまったのだろう。
おっかなくてチラっとしか見ていないが、太腿がむっちりした相当な美人だったからな*2、舐められまいとしているのではないかな。
アフタータイムには気を緩めて、旦那さんとか恋人とか先輩女騎士とかに「今日はこんな大変なことがあったんですぅ」、なんて甘えているかもしれない。
ツンデレ女騎士……ありだよ、あり。
……うんうん、こういうことを考えている方が健康的だな。
「前置きが長くなったな」
セリーが諸々書き終わったのを見計らって話を続ける。
「ハンナが商人Lv30になったのは何日か前なんだが、一向にレベルが上がらない。
俺の探索者Lvも、やっと33になったが魔法使いにレベルが追いつかれたし、英雄とのレベル差が小さくなってきた。
レベルの上がり方について、知られていることはないだろうか?」
「はい、探索者Lvの話ですが、30までと31以降で上がり方が大きく異なると言われます。
特に十一階層以下の弱い魔物ではほとんど経験が得られなくなるとか*3」
十二階層以降になると、グンと強い魔物が配置されるという。
いつぞやソマーラの村から移動する道中に出たグミスライムは二十三階層以降の魔物、十一階層以下のボスは、三十四階層以降の雑魚となって出現する。
レベル以外に、魔物自体の
一般に、迷宮に入る者達はより上層を目指す。
最終的に迷宮を討伐し、領主となったり名声を得ることが目的なのだから当然だ。
しかし、商人は武器・防具・奴隷商人や上級職である豪商になること、それぞれが持つスキルを手に入れてより大きな商売をするのが目的だろうから、異なるロジック――つまりは効率を重視するというわけだ。
……ハンナに来てもらったのは本当に正解だったな。
ともあれ、俺のレベルが鈍化しつつも上がっているのは、〈必要経験値十分の一〉のおかげだろう。
だが、最低でも十二階層に行くまでは、ハンナのレベルが上がることは期待し難い。
ひもろぎのロッドのおかげで攻撃力も上がったことだし……。
「ではハンナは武器商人か防具商人になってもらった方が良さそうだな」
料理人にもなれるが、まあ聞くまでもないだろう。
「……なれるのですか?」
「ああ、多分、探索者Lv30と商人Lv30が条件だと思う。
……どちらが良い?」
彼女の夫は防具商人だったと聞くが、果たして……。
「では、武器商人でよろしいでしょうか?
ご主人様のパーティーでは、質の良い武器を求めていらっしゃると思いますので、その方が何かと都合がよろしいかと存じます」
「……そうか、それで良いなら、そうしよう」
【パーティージョブ設定(ハンナ)】
セットジョブ
武器商人:Lv1
効果:体力小上昇
:知力微上昇
:精神微上昇
スキル:アイテムボックス操作
:カルク
:武器鑑定
所持ジョブ
▶武器商人:Lv1
村人:Lv5
探索者:Lv30
商人:Lv30
剣士:Lv1
戦士:Lv1
薬草採取士:Lv1
料理人:Lv1
農夫:Lv1
防具商人:Lv1
「武器商人の効果は、体力小上昇、知力と精神が微上昇だ。
スキルについては……言うまでもないか」
「はい、ありがとうございます」
「知力の効果が下がるのは残念だが、体力小上昇は良いな。
……改めて言っておくが、パーティーメンバーは今後も増やすことになるが――」
遅くとも十六階層で魔物の数が増える頃には増員の必要があると考えているが、場合によっては敵が強くなる十二階層に到達する頃に必要になるかもしれない。
今は5人だから、もう1人まではこのまま増員できる。
だが、2人、3人と増やす頃には、少なくとも探索中はハンナとカタリナをパーティーから外さなくてはならない。
それはつまり、英雄の各種ステータス中上昇などの恩恵を受けられなくなるということだ。
「――ハンナは怪我もあるからな、体力が上がるジョブの方が良いだろう」
「お気遣いいただき、重ねてありがとうございます。
将来性を考えましても、先にパーティーメンバーから外すのは私の方でお願い致します」
「……まあ、まだ先の話だ」
母娘が手を握り合っていた。
……何も言えなくなる。
「では、他のメンバーは、Lv30になるまではこのままで良いか」
全員、特に希望するジョブはないようだ。
と、話を終えようとしたところで、ハンナが「申し訳ありません」と口を挟んだ。
「申し上げるのが遅れました。
先日、セリーさんが巫女になった時、御主人様が聖職ギルドのことを気にしていらしたので、寄進が少ない聖職ギルドがないか調べていたのですが……」
商人ギルドで知り合いの仲買人に聞き取りしてくれていたらしい。
「それはありがたいな、ルーク殿か?」
「いえ、今回は別口でして、帝国東部辺境最外縁のザビルという土地にある聖地の話です。
冒険者でもなければ行きにくい場所です」
当然だが聞いたこともない土地だ。
ロクサーヌとセリーに目を向けると、セリーが「ペルマスクの近くにある土地ではないですか?」と言った。
それは聞き覚えがある、商人ギルドの窓ガラスの生産地だったな。
「ペルマスクは職人を囲い込む自治都市です。
帝国とカッシームの間にありますが……」
セリーが、そしてロクサーヌがそっと俺を窺う視線を感じる。
俺の出身については「遠くから来た」と言っただけで、適当に誤魔化している。
特に秘密にしようとか考えてるのではなく、もう帰れないだろうし帰る気もない日本のことを話す意味を感じないだけなのだが。
……うーん、初代皇帝同郷説、あるか?
魔物がそこらへんに闊歩する世界で、初陣が盗賊退治で英雄的な活躍をするのって、相当なレアケースじゃないか?
謀反に問われるならまだ良い、逃げる一択だから何か考えるまでもない。
だが、初代皇帝の遺訓により「同じ地球出身だから皇帝になって下さい」、とか言われたら困るなんてもんじゃない、なんでもしますからって言われてもお断りだ。
想像の翼を広げすぎとは思うが、ボーナススキルにはそれくらいの値打ちはあるだろう。
養殖プレイで高レベル量産は難しくないし、値引きや買取スキルを国家間の貿易に使ったら世界経済をぶっ壊せそうだ。
……ちょっと慎重に考えるか。
「辺境最外縁とは……安いのもそれが理由かな?」
1人落ち着き払った様子のハンナに尋ねると、「さようでございますね」と頷いた。
「東の方は人口も少ないですから*4」
冒険者でもなければ行きにくいというだけあって、〈フィールドウォーク〉を使っても何日も掛かる場所らしい。
だが、デュランダルでMP回復しながらなら問題ないだろう……うん、ここら辺りでどれくらい遠出ができるか、測っておくのも悪くないな。
この国に居辛くなったら他国に逃げるということも有り得るだろう、その意味でも悪くない*5。
「では、ロクサーヌが良ければカタリナを巫女にしたいが……」
「はい、私は構いませんが……」
「――御主人様ッ! そのようなつもりで申し上げたのでは!」
ハンナが慌てて口を挟んだ。
自らの商人ギルドに行く役割を利用して娘を引き立てようとした、そんな風に思われるのは心外なのだろう。
潔癖というより、自分達の立場を守ろうとしてのことだろうな、悪いことをした。
「わかっている。
だがこれは、あくまで効率を考えてのことだと思ってほしい」
まず、獣戦士であるロクサーヌがLv30になるのはしばらく先だ、ということ。
「種族固有ジョブはレベルが上がるのに時間が掛かるのだろうな。
効果も強いジョブだし、基本方針としてロクサーヌにはこのまま獣戦士として高みに至ってほしいと考えている」
「はい、精一杯努めます」
MP消費が大きい〈ワープ〉で移動する時のために、〈MP小上昇〉のあるジョブをサブポジとして持っていてほしいという思いはあるが、優先度を間違ってはいけない。
なにしろ、俺がいなくなったら気軽にジョブ変更はできなくなる、そうなったら他のジョブの経験は基本的に無駄になってしまうだろう。
……こんなこと、ロクサーヌには言えないな。
「言うまでもなく、セリーは既に巫女になっている。
俺も巫女……いや、男は神官だったか、いずれはなるつもりだが、他にレベルを上げたいジョブはいくらでもあるからな」
金が掛からないなら話は別だが、優先度としては低いだろう。
さきほどセリーがまとめたジョブのレベルを指で指しながら言うと、それぞれ納得したようだ。
「次に、巫女の持つ全体回復は現状さほど必要としていない」
ボスや更に上の階層の魔物の中には全体魔法攻撃を使うものがいるらしいが、ボス戦の時だけセリーを巫女にしてもいい。
そもそも、デュランダルをロクサーヌに預ければ、ビープシープを完封したように〈詠唱中断〉でスキルを発動させないようにもできるはずだ。
「ひもろぎのロッドで魔法の威力が飛躍的に向上した今、優先度が高いのはMPの上昇だと思っている。
ワープの移動距離も延びるし、継戦能力も上がる、俺が他のジョブのレベルを上げながらMP小上昇と知力微上昇の恩恵を受けることもできる。
……それに、昨日はセリーに負担を掛けてしまったからな」
鍛冶師のスキルは結構消耗が激しいようだ。
糸だけで作れるミサンガは2つ、3つと作っても平気な顔をしていたセリーが、皮装備は2回作ったら息を切らしていた。
そして、昨日探索を終えて挑戦してもらったが、硬革装備は1つで汗をかいて「もう1つ作れそうな気はいたしますが……」と言っていたがやめさせた。
使用する素材の数によって消費MPが増えていくのは確実だ。
あとは素材のレアリティというか、素材をドロップする魔物の格でも変わってきそうだな。
装備製造は作れる装備なら失敗しないというが、これは〝必要MPを満たしていれば〟と言い換えれば納得だ*6。
「俺もワープで長距離移動した時があるからわかるつもりだが、急激なMP消費はあまりしない方が良いと思うから、当面は1つ製造するたびにデュランダルでMP回復した方が良いだろう」
「……ご面倒をおかけします」
朝の起床後、昼休み前後、夕食前の計4回ならデュランダルで回復しつつ無理なく製造できるだろう。
と、ここまで長い説明をしたことで、ハンナも納得したようだ。
「御主人様の深いお考えを知らず、差し出がましい真似をしたことをお許し下さい」
「あ、ありがとうございます、微力を尽くします」
深々と頭を下げる母の横で、カタリナも同様に頭を下げた。
カタリナが〈全体手当〉を使えるようになれば、2人がパーティーを抜けた後も体調を整えることができるだろう。
〈手当〉が使える僧侶でも良いんだが、彼女に素手で魔物を倒させるのはブラック企業ってレベルじゃないと思うし。
そして、まず俺がザビルまで行けるようにした後、既に巫女の修行を終えているセリーとカタリナの3人で聖職ギルドに行くということで話をまとめた。
中継地点となる各都市の名前を、セリーにメモしてもらう。
読めないが、形を見比べることくらいはできるはずだ。
「では最後の議題だが、石鹸を作ろうと思っている」
一応セリーとハンナにも確認したが、作り方は知らないという。
「俺も理屈は知っているが、素材のブラヒム語はわからんし、ここいらで手に入るかもわからんが、代替材料になりそうなものに心当たりがある。
シェルパウダーとボレー、コイチの実とオリーブオイル――はドロップアイテムがあるからいいか」
コイチの実……正確にはコイチの実の
多分、米ぬかと同じようなものだろう、ならば石鹸の材料になるはずだ。
オリーブオイルは保険だ、植物油からも石鹸は作れるはずだから、これらを組み合わせて具合が良いものを探すつもりだ。
「昨日のような作業を今後も繰り返すなら、庭に
作業中はハンナさんとカタリナも食事の支度ができませんし……」
「御勝手*8の外に作れば、人目にもつかないと思います」
昨日一番大変な作業だったであろう、ボレー粉の製粉をやってくれたロクサーヌとカタリナが提案してくれた。
確かに、5人でキッチンで作業するのも家庭科の実習や理科の実験みたいでちょっと楽しいが、そればっかりというわけにもいかない。
……というか、ボレーを灰にするのは迷宮に行って魔法でやったが、それも俺抜きで出来るならその方が良いな。
製造が安定して、需要がありそうなら誰かに製法を売っても良い。
どうせこんなもの、思いついたら誰かがやるだろうし。
「では、これらの素材を……チョーク作りに使ったのと同じくらいの量を用意してもらえるか。
あ、いや――」
武器商人になったおかげで、彼女もアイテムボックスが使えるようになった。
ルークとの装備素材の購入と防具の売却は、今後は彼女に任せることができる。
だが……、
「今はLv1になっているから、今日と明日の午後にレベル上げして、明後日俺がザビルに行っている間に頼むとしよう」
ボーナススキルの値引はできないが、買い出しの時間を魔物の狩り時間に割り当てた方が効率が良いだろう。
大体商談とか面倒だしな。
その時には他のジョブLvももっと上がっているので色魔の恩恵をあまり体感しなかった、ということに本作ではします。
また、なぜ道夫さんが色魔のLvを上げているのかというと、色魔なしでも4回ヤレる道夫君と違って、道夫さんは色々衰えているためです。
なお、白黒なので生脚を出しているように見えますが、世界観的に多分タイツを履いてると想定しています。
適正レベル外の盗賊達が十三階層や十四階層に潜んで普段は何食わぬ魔物を倒しつつ、探索者を狩っていると原作にあることを考えると、十二階層以降の魔物ならある程度はレベルが上がるのではないかと思われます。
本作では南東の方角にあるものとします。
しかし、原作道夫君は薬草採取士の〈生薬生成〉で、緑豆から万金丹を作れなかった時に必要レベルが足りないという思考に至っていると思います。
薬草採取士のレベルを上げていない状態でサラセニアの附子から滋養丸の生成に成功した時は、複数ジョブがあるため=MPが高いため成功したのだろうと推測しています。
そのことから、現時点では必要レベルの概念まで思い付かないと思います。
初代皇帝同郷説は、原作でそのような設定が出てこない限りは採用しません。
あくまでも、状況から考えてそういう懸念を持つだろうな、という仮定の話です。
ロクサーヌ級の逸般人に強力な武器を持たせれば初陣で盗賊退治もできると思いますが、そんな逸般人ならロクサーヌみたいに子どもの遊びで魔物狩りしてそうなんですよね。