カレンダーはブラヒム語でセリーに書いてもらっていますが、それだと道夫さんは読めないので日本語で自分の予定をメモ程度に書いている……という設定です。
あくまで前日夜~当日朝視点での当日予定なので、その通りに進行するとは限りません。
手書きフォントが道夫さんの文字(日本語)で、それ以外の文字はロクサーヌ達のメモ(ブラヒム語)です。
パソコンだと不自由ないのですが、スマホでご覧の方には改行されて見難いかもしれません。
ちょっと見せ方は検討中です。
ご意見あれば感想にどうぞお願いします。
※ここはご主人様のメモ欄なので消さないでください。(セリー)
春34日
AM:アランの店(相続+メイド服)
PM:ベイル7F
ベイル
アランの館
ここは来る度に案内される部屋が変わる、来る度に人数が増えているからだろうが。
今回案内されたのは、3人掛けが2つと、1人掛けのソファが2つある応接間だった。
いわゆるお誕生日席というやつに腰掛けて、皆も掛けるように伝える。
「あの……よろしいのでしょうか?」
「構わないだろう、今日は客なのだし」
戸惑うセリーに、再度席を勧める。
同じような会話を前もしたな、とロクサーヌと目を合わせて笑みを交わした。
同じことを考えていたらしい。
少し待っていると、以前ロクサーヌが世話になったという中年の有能ウーマンが香茶を運んできてくれた。
ロクサーヌだけでなく、セリーの表情もどことなく柔らかい。
……ちらっと聞いただけだが、語学や行儀作法を教える担当らしい。
身一つの奴隷にとっては教養こそ財産だからな、恩師というわけだな。
「お待たせして申し訳ございません……
ご注文の侍女服ですが、採寸したものに寸分変わりないはずですが、一度袖を通してみてはいかがでしょう?」
「なるほど、お願いする。
それと、今日は遺言の変更を頼みたいのだが……」
「かしこまりました、少々お待ちください」
ロクサーヌとセリーが連れられて部屋を出ていって、ハンナとカタリナの3人で部屋に残される。
ちょっとそわそわと……する様子を2人に見せまいと思うと、なんだか気まずい。
元商人である母娘には、商談のために余所行きのパンツスーツのような服を買わせていて、今もその姿だ。
だが、足を怪我していて迷宮に入れない2人は、元々家事担当の予定でこの店で奴隷契約を結んだ。
実際に家事もやってもらっているのだから、彼女達にもメイド……侍女服があった方が良いだろうか。
以前アランに聞いたところによると、侍女服にも色々とランク付けというか、役割によって意匠が変わるらしい。
ロクサーヌには侍女長の服、セリーには一般的な侍女服らしいが、他にも台所担当とか洗い場担当とか色々あるのだとか。
でもなぁ、メイド服に囲まれて生活するとか絶対に落ち着かない……俺がメイド服に対して
……違う、逆だ。
ロクサーヌとセリーに余所行きの服を用意するべきだ。
2人に服を贈るといっても、多分夜くらいしか着ないだろうし、それを贈り物というのは図々しいが過ぎる。
「ロクサーヌ達にも外出着があった方が良さそうだな。
2人の服はクーラタルの服屋で買ったのだったか?」
「はい、古着屋ですが、良い仕立てのものを買い求めることが出来ました*1」
母娘が襟袖を触りながら嬉しそうな顔を見せた。
……カタリナも明るくなったな。
彼女は火傷だけでなく、首筋に大きな切り傷があるのだが、ふわっとしたスカーフを巻いてそれを隠してからは顔を上げるようになった気がする。
「ええと……ロクサーヌさん達より随分良い服になってしまって気が引けるので、そうしていただけると気が楽ですが……その前に御主人様のお召し物を……」
俺の服は、ベイルの市でロクサーヌが選んで――熟慮と熟考を重ねた上で厳選してくれたものだ。
とはいえ市場で手に入るものなので、縫い目が頼もしそうで着心地もそれなりではあるが、普通の服でしかないといえばそれまでだ。
だが、一番奴隷が選んだものをハンナの口から悪くは言えないのだろう、ハンナは慎重に言葉を選んだ。
「迷宮に行く以外だと大して用事もないんだけどな……」
ロクサーヌは、俺が貴顕の生まれで、今の姿を世を忍ぶ仮の姿だと思っているフシがある。
2人より俺の服の方が安物なのに、彼女が何も言わないのはそういう理由かもしれん。
うーん、ロングブーツと長ジャケットにベレー帽がバシっと決まっているルークみたいな服装は照れくさい……まだ20代だしな彼は。
といって、アラフィフの渋いアランみたいな服装を俺が着て、あの渋味が出せるかというとな……微妙だよな、30代後半って。
若者には年寄り扱いされ、老人には若造扱いされ……どっちの扱いを受けてもナイーブな中年の心が疼くんだ。
「失礼します、ミチオ様。
支度ができましてございます」
「――ああ、どうぞ」
扉が開くと、素晴らしい光景が広がっていた。
紺色のメイド服……フレンチメイドじゃない、
皆ズボンなので忘れていたが、スカート姿ってこんなに女らしいものだったのか。
ロクサーヌもセリーも、しずしずと歩いているように見える。
「2人とも……よく似合っている」
俺の貧相な語彙力ではこの素晴らしさを表現しきれないのが惜しまれる。
やはり2人にも良い服を買おう、着飾ってほしい。
全国のプロデューサーさんや提督さん、トレーナーさんの皆々様も、きっとこんな思いで
「ありがとうございます、ご主人様」
「お、恐れ入ります」
ロクサーヌの侍女服は、帝宮の侍女長のそれを元にしたもので、
本来なら身体のラインが見えにくくなるはずだが、彼女の豊満な身体は全く隠せてない。
首元から手首、足首まで隠れて普段より露出度が少ないのに、確実に艶気が増している。
セリーの侍女服は前掛けのフリルは肩にしかなく、更に半袖で快活な印象がある。
小柄なのも相まって非常に可憐で可愛らしい。
ちょっと照れ顔なのもポイントが高い。
「御気に召していただけたようで、私共も安堵いたしました」
「――あ、アラン殿か。
……いや、非常に気に入った、素晴らしい仕事だ」
……もうちょっと後で来てくれても良かったのに。
いや、後で家で楽しませてもらえば良いのだが。
「本日は遺言の変更と伺いましたが」
「ああ、ロクサーヌを死後解放することに、セリー、ハンナ、カタリナの3人は、ロクサーヌに相続することとしたい」
「……なるほど、かしこまりました」
アランは穏やかな視線を4人に巡らせた。
彼の目から、ロクサーヌ達はどう映っているのだろう。
「遺言の変更は1人300ナールとなります」
といっても、必要なのは俺のインテリジェンスカードだけらしい。
来る前に、一応セリーとハンナのジョブを探索者と商人に戻しておいたのだが、無駄な用心だったようだ。
1200ナール、きっちり払う。
「
アランに向けてかざした左手からカードが出現する。
何度やっても気味悪いな。
……まあ、俺がこの世界の住人になった証とも言えるか。
「ご確認ください」
加賀 道夫
<男・37歳・探索者・自由民>
所有奴隷:ロクサーヌ(死後解放)
:セリー(死後相続:ロクサーヌ)
:ハンナ(死後相続:ロクサーヌ)
:カタリナ(死後相続:ロクサーヌ)
「……確かに」
さて、これで用事は終わりだが……ちょっと名残惜しいような気分になっていると、アランが口を開いた。
「ところで、ミチオ様は人間族の奴隷はお求めではないようにお見受けしましたが……」
……そりゃわかるか、セリー達を買った日、他の戦闘奴隷に一切興味を示さなかったからな。
種族固有ジョブの存在がある以上、人間の戦闘奴隷はあまり必要ない。
人間の種族固有ジョブは男が色魔、女が色情狂らしい。
色魔は俺が取得済みだし、色情狂の女奴隷は……絶対身が持たないな、若い頃ならともかく。
「実はあれから、狼人族の奴隷が新しく入りまして……歳は18、無論処女です。
なかなかの逸材と見立てておりますが、ご覧になりませんか?」
「いや、折角だが――」
ロクサーヌは多分、狼人族の中でも傑出した資質を持っている、あと胸部の脂質もすごい。
彼女と比較してしまうのは気の毒だ、ロクサーヌの方だってやり難いだろう。
年齢差が逆ならば、素直に尊敬と庇護の関係になるかもしれない。
あるいは俺のように、年齢差があれば張り合おうという気も起きないものだが。
もちろん、ロクサーヌが狼人族基準で実はそれほどでもない可能性、あるいは18歳の彼女がロクサーヌ並に優れている可能性もなくはないが……まあ、比べることもない。
「――ロクサーヌに充分に満足している」
それだけで良い。
アランは柔和な笑みを浮かべて「それは良うございました」と軽く頭を下げた。
「それでは、こちらをお渡ししておきます」
パピルスか何かだ。
丁寧に折り畳まれて、真ん中で封蝋がされている*2。
「当家と懇意にしております、帝都の奴隷商人への紹介状でございます。
やはり、鍛冶師の奴隷はいないとのことでしたが、ぜひ一度お立ち寄りください」
「そんなことまでしてもらっては」
……やっぱり時間が経って、3割引したのおかしいぞ? とか思われているのだろうか。
そういえば、ボーナス呪文の実験をして部屋を一つ血の池地獄にしているしな、とんだ疫病神だ。
商売仇に貧乏神を押し付けようというのか……というわけでもないらしく、柔和な顔でアランが説明を始めた。
「この商売、買っていただくお客様にはあまり事欠きません。
むしろ大変なのは仕入れでございまして……」
仕入れする地域が異なる場合は必ずしも商売仇というわけではなく、時に融通し合うこともあるそうだ。
それはそうか、身売りする方だって信用ならない業者に売りたくはないだろうしな。
かといって、顧客を求めて全国津々浦々に商館を建てていたら人手がいくらあっても足りない。
「なるほど、持ちつ持たれつと」
頷くアランから紹介状を受け取った。
といっても、鍛冶師はもう必要ないのだが……そうだ、ついでに聞いてみるかな。
「難しいことは承知の上でだが、魔法使いや竜人族の奴隷となると、どれくらいのものだろうか?」
竜人族は、たまに
しかし、ハンナによくよく訊いてみると、竜人族の種族固有ジョブである竜騎士は、守備に秀でていてパーティーの安定度が増すと言われているらしい。
恐らく、HPか体力が上昇するジョブなのだろうな。
現状、迷宮では
回復役も俺が兼任している、たまにデュランダルを渡して済ませることもあるが。
このまま上の階層を目指すには、前衛を安定させるか、魔法使いを増やして後衛の攻撃力を増やすかのどちらかが必要になるだろう。
「魔法使いに竜人族……仰る通りどちらも難しいですな」
「……まあ、そうか」
鼻で笑われなかっただけマシか、と思ったが不意にアランが顔を歪めた。
舌打ちでもしそうな表情だ。
……珍しいな、という思いがつい顔に出ていたらしい、アランが俺を見てバツの悪そうな顔をした。
「……これは、失礼を。
いえ、先日ミチオ様にお助けいただいた盗賊の一件を思い出していたのです。
……あの
魔法使いになる条件は推測するに〝魔法を使うこと〟で、自爆魔法が使える自爆玉を使うことで条件が満たせるらしい。
これは大人が使うと自爆して死んでしまうが、幼児が使うと必ず失敗する。
ベビーサタンがメガンテを使うがMPが足りなくて何も起こらない、みたいな状況なのだろう。
だが、それでも魔法は使ったという判定になるようだ。
「――貴顕の家では、出産祝の贈答品にも選ばれるような貴重品でございます」
アランにしてみれば強盗なんかせずに、
例えるなら、銀行強盗をするために高級スポーツカーをオシャカにするようなものだろうか。
俺が魔法使いの話題を出したことで思い出したようだ。
……良かった、あの時のことは特に不審には思われていないらしい。
この調子だと、捕らえられた盗賊連中は自爆玉が使われたことを知らなかった……それは当然だが、そもそも自爆玉がなんのことかも知らなかったのだろう。
そんな風に内心ホッとしていると、「失礼ですが、アラン様」とハンナが口を挟んだ。
「もしや、
定期的に商人ギルドに行ってもらっている彼女にとっては、市場に動きが出るであろう気になる情報なのだろう。
日本でも、有名芸能人が結婚すると株価が下がるなんていう与太話があったしな。
奴隷の言葉にもアランは特に気を悪くした様子もなく、いやそれどころか照れくさそうに笑みを浮かべた。
「いえ……生まれたのは当家でして」
なんとか表情を引き締めようとしているが、成功しているとは言い難い。
……WEB会議中に猫に乱入された時のお偉いさんみたいだな。
世の中には猫で会議を中断させておいてカメラをオフにする不心得者もいるが、ウチの部長は猫じゃらしであやしている姿をきちんと放送してくれる良い上司だった。
「息子夫婦に
2人目ですが、孫というのは何人いても可愛いもので……」
「……おおっ、それはそれは、おめでとうございます」
こういう場合の作法がわからないが、とりあえず祝っておくと、ロクサーヌ達も口々に「おめでとうございます」と言った。
良かった、特におかしいところはなかったらしい。
……もし自爆玉が手に入ったら贈ってみようかな、多分合計で20万ナール以上値切ってるし。
「いやはや、どうもありがとうございます。
……まあ、というわけでございまして、なかなかに難しくございます」
アイテム自体が貴重品で、しかも子供から育成しなければならないから、魔法使いは輪をかけて金が掛かる。
当然有力者やその一族の出身なのだから、奴隷落ちするようなケースは更に希少だ。
有り得るとすれば、閏日に開かれる奴隷市の出物くらいだそうだ。
「竜人族は魔法使いほどではありませんが、やはり希少ではあります。
彼ら彼女らはボレーというアイテムを定期的に摂取する必要があるのですが、それだけに維持するのに
エンゲル係数の高い竜人族で奴隷落ちするような者は、既に富裕層の所有奴隷になっているか、富裕層の顧客を持つ奴隷商が仕入れ先を押さえているらしい。
高値がつくから、こちらも奴隷市くらいにしか出てこないという。
「もし守備に優れた前衛が必要なのであれば、猫人族などはいかがでしょうか?
猫人族は海女、あるいは漁師という種族固有ジョブがありますが、こちらもパーティーが安定すると言われています*3」
「なるほど、猫人族」
猫耳と猫尻尾ということか。
興味深い、実に興味深い、非常に興味深い。
「はい、当家でも何度か取り扱ったことがあります。
もし有望な者が見つかりましたら、お報せいたしましょうか?」
「買うと約束することはできないが……」
別の街とはどうやって手紙のやり取りとかしているのだろう? 住所は? 郵便番号は?
と戸惑っていたら、ロクサーヌが「クーラタルの商人ギルドに報せていただければハンナさんが受け取れるのでは?」と言ってくれた。
ハンナも頷く。
なるほど、それで良いのか。
「では、報せていただければありがたい」
ありがたくお言葉に甘えることにした。
ベイルの迷宮
七階層
午後は引き続き探索をした。
クーラタルの迷宮は昨日八階層まで到達し、そこでも魔法2発で敵が殲滅できることを確認したが、あちらは人目を避ける必要があるのが難点だ。
しかし、人目が少ないベイルの迷宮は地図が売ってないので自力で攻略しなければならない。
ロクサーヌの嗅覚とセリーのマッピングがある分、楽はさせてもらっているとはいえ。
そうしてようやく待機部屋まで辿り着いたので、手前の小部屋で最後の水分補給を取った。
「――猫人族というのは、
だから、毎日短い時間だけ相手をすれば、依存されることはないと思います」
「ははぁ、なるほど」
アランから猫人族の奴隷を薦められた時、ロクサーヌがちょっと乗り気な感じがしたのはそういうことだったか。
彼女は重……い、いや、俺と一緒にいる時間を大切に思ってくれているからな、うん。
ロクサーヌと上手くやってくれるなら良いのだ。
「では、今度こそ待機部屋に行くか。
……エスケープゴートのボスはパーンだったな」
「はい、全体魔法攻撃を使ってくる魔物です」
どうするかな、一度は魔法攻撃を受けておくべきだろうか。
クーラタル八階層のニードルウッドは水魔法を使ってくるらしいが、その前にさっさと倒してしまったからまだ魔法攻撃を受けていない。
いきなり食らって総崩れ、なんてことになると困るが……、
「まあ、最初だから慎重に行こう。
ロクサーヌにデュランダルを渡しておく」
「はいっ、お任せください!」
〈詠唱中断〉のスキルが付与されているデュランダルをロクサーヌに使わせれば、まともに詠唱をすることはできないだろう。
俺は後ろから攻撃呪文を飛ばす、催眠攻撃をしてくるビープシープと同じ戦法だ*4。
魔法攻撃を受ける機会は慎重に考えよう、いきなりボスの攻撃で試すことはないだろう。
「……申し訳ありません、扉の前に人がいます」
「いや、休もうと言ったのは俺だしな。
大人しく後ろで待つとしよう」
だがすぐ後悔した。
6人組はロクサーヌに気づくと、舐め回すような視線で彼女の胸を見た。
先日の探索者の男は恥入る気持ちがあったが、こいつらは隠そうともしない。
……一周回って尊敬するわ。
普段、貴重品であるデュランダルは人目を避けて、直前になって装備するようにしているが、さっきロクサーヌに持たせてしまった。
というのに、一切目もくれないで胸を凝視している。
こ、こいつら……まだ装備の違いに気づいていないのか……、バ、バカの世界チャンピオンだ……!
――ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴォン!
ややあって、扉が開いてバーロー連中は消え去った。
そして俺は間抜けだ、デュランダルのことはもっと気をつけよう。
「なんかいやらしい視線でした」
「……まぁ、ああいう奴らもいる」
「全員、ロクサーヌさんの胸を見てました」
セリーが暗い顔で俯いて、自分の胸元を擦った。
どうしてもロクサーヌと比べてしまうようだ。
……うーん、彼女の自己評価が低いところが悪い方に出ているかな。
「いや、別にセリーもひ……小さいというわけではないだろう。
体格を考えれば、均整の取れた美しい身体だと思うぞ」
「で、ですがあの男達は……」
「あんな連中のことは気にするな」
……というか、そもそも貧乳は悪いことではないと思うのだが。
HANZAのランキングを見ろ、今の日本で巨乳は珍しいものではない、むしろ没個性的とすら言える。
貧乳はステータスだ、希少価値だ。
「たとえば道の向こうから一際背が高い人がやって来たら、つい目を向けてしまったりするだろう。
大きいものは衆目を集める、そんなものだ」
「……私はドワーフの中では背が高い方ですが、そんなに視線を感じたことは……」
それはドワーフ基準であって、一般には小柄だからだと思うが。
「そうだな……普段振るっている棍棒で考えてみるといい。
同じ動きをしているのに、棍棒の根本より先端部の方がより長い距離を動いたことになるだろう?
つまり同じ時間でより速く動くということだ、動きが速いものについつい注意を引かれる、よくあることだ」
「な、なるほど……円周の長さが……確かに、当たり前のことなのに言われて見ると不思議です」
セリーは特大生ハム原木のような棍棒を持ち替えたりぶら下げたりしながら、
……バット3本分くらいの重さがありそうなそれを、片手で軽々と。
「セリー、こんなものは飾りです、迷宮で戦うのに関係ありません。
あなたのその力の方がよっぽど大事ですよ」
ロクサーヌがπを、いや〝
皮のジャケットの上からなのに、その動きがはっきりとわかる。
……つい視線が吸引されてしまった、セリーの冷たい視線が突き刺さる。
「……誤魔化しましたか?」
……はい。
いや、さすがに無理があったな。
「……俺がセリーの胸をどれだけ素晴らしいものと思っているか、今夜じっくりと証明することにする」
「えっ」
「責任はロクサーヌにもあるので、手伝ってもらうから」
『えっ』
――ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴォン!
丁度扉が開いた、雑談は終わりだ。
重々しい開閉音は、気持ちを切り替えるのに十分な時間続いた。
「行くぞ」
だが、ボス部屋に足を踏み入れたところで、ぐにゃっと何かを踏みつけた。
……そこには一面に装備が散乱していた。
剣、鎧、篭手や靴、20以上もあるだろうか。
俺が踏みつけたのは、皮のグローブだ。
「またこのパターンか」
パーン
Lv:7
装備品の山の中心に、二足歩行の影がいる。
獣毛と二本角が生えた半人半獣の怪人が、ゆらりとこちらに振り向いた。
その足元に、赤い魔法陣が浮かび上がる。
「行きますっ!」
「セリーは装備を脇に寄せておいてくれ――ファイヤーボール」
ロクサーヌのデュランダルの一撃と、火球の着弾はほぼ同時だったろうか。
パーンはあっさりと煙に還った。
……ほとんど倒しかけていたのか、助平連中とはいえ、哀れな。
そして部屋にはパーンのドロップアイテムと無数の装備だけが残された。
妨害の銅剣
・詠唱遅延
スキル付き装備が5つも……変わったものまで相続してしまったな。
その目的から人死も当然多いはずなので、ガラクタから贅沢品まで中古品の供給は大きいものと考えられます。
原作でも、中古とはいえ家具一式が即日揃って届けてもらえるのも、そういう理由によるものと本作では設定します。
本作では竜人族ほどではないものの、このように評価されているものとします。
成人男性のくせに女の子に守ってもらうなんて恥ずかしくないのかって? 例えば蘭姉ちゃんに守ってもらっても別に恥ずかしくないと思うの。