加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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錬金術師

 

 

   ※ここはご主人様のメモ欄なので消さないでください。

    セリーの注意書きはご主人様が間違えて消してしまったそうです。

    気がついた人は書き直してあげてください。(ロクサーヌ)

 

   春36日

    終日:ザビルを目指す

    ロクサーヌ達に作業指示(買物・石ケン作り・かまど・他ある?)

 

 

 

 

   クーラタルの街

     道夫の家

 

 日本では辺境という言い方はあまりしないし、田舎と都会の区別も人によって見解が異なると思うが、アイエナより先になると概ね満場一致で辺境と呼ばれるらしい。

 アメリカで言えばユタ州というところか。

 ……いや、辺境と田舎は違うか。

 

 いずれにせよ、ますます人は少なくなるはずだから、朝昼夕の定期便を上手く使わなくては冒険者を捕まえて交渉することもできない可能性がある。

 というわけで、時差もあるから夜明け前に起床した。

 

 ロクサーヌの体調のこともあるしと思って、今日はゆっくり寝ているように言っておいた*1

 そうしてなんとか自力で起きたものの、結局俺よりよほどシャキっとしたロクサーヌに身支度を手伝ってもらってから〈ワープ〉した。

 ……まあ、うん。

 

 昨日と同じく冒険者に隣町まで送ってもらい、更に値段交渉してその先まで。

 行ける所まで行ったら、家に戻って石鹸作りを行う。

 理科の実験で作った時の比率なんかはさすがに覚えていないが、重曹より米ぬかの方がかなり多かった記憶はある。

 ……とりあえず、1対2の比率で試してみるか。

 

 

   シェルパウダー + コイチの実のふすま

      ボレー粉 + コイチの実のふすま

   シェルパウダー + オリーブオイル

      ボレー粉 + オリーブオイル

 

         1 対 2?

 

 

「この4通りの組み合わせで、小コップ1対2の比率で混ぜていく。

 それを水を加えながら鍋で加熱する、焦げてしまうから、ずっとかき混ぜる必要がある」

 

 ……はずだ。

 あとは、確か沸騰しないギリギリを攻めるんだったかな。

 実験ではアルコールランプを使ったはずだ、強火は必要ないだろう。

 

「水の量はどれくらいですか?」

「……すまんな、覚えていない。

 焦げ付かないように、均一に混ざるように調整してみよう」

 

 ……そうだ、鹸化反応と言ったな、発熱により反応が進むのだったか。

 小声でこっそり「鹸化反応」と口にするが、日本語そのままだったから対応するブラヒム語はないらしい。

 石鹸自体はあるが、経験則的に製造されていて科学的に解明はされていない、そんな感じなのだろう。

 

「チョークの時のように、少しずつ比率を変えますか?」

「……うーん、反応が進まなければ変える必要があるが、今日のところはこれで試してみよう。

 多分、結果がわかるまで時間が掛かると思う」

 

 反応が進むという表現に首を傾げながら、ひとまずセリーが引き下がった。

 

「……火にかける時は、ホワイトシチューを作った時のような感じでしょうか?」

 

 俺がホワイトシチューのルウを作った時、手伝ってくれたロクサーヌが訊いてきた。

 そういえば、あの時も焦げないように慎重に火加減を調整した、似ているかもしれない。

 

「そうだな、あの時のような感じでやってみるか。

 とにかくかき混ぜて、水と油が分離しないようにする必要がある……だったかな」

 

 水と油の界面で反応が進む。

 界面活性剤、すなわち石鹸だ。

 

「ま、とにかくやってみよう」

「はい、出発のお時間まで、後ろで見ていてください」

 

 チョーク作りの時にハンナ達の手がかぶれて以来、ロクサーヌ的に俺の実験はちょっと危ないという扱いらしい、触らせてくれない。

 まあ実際、石鹸は肌に合わないことが結構あるらしいから、間違ってはいないが。

 

 腕まくりしたロクサーヌ達が皮のグローブとミトンを装備する。

 セリーの装備製作も順調だ、硬革のグローブは出来たから、これらは作業用に回された。

 

 昼前まで作業して、ザビルへの道行きを再開する。

 定期便の冒険者と直接交渉して、更に3つ先の中継地点まで進むことができた。

 渋られたが、帰りは俺が運ぶからと交渉したら大喜びで運んでくれた。

 片道分の魔力(燃料)消費で規定の運賃が貰えるのだから、喜びもしようものだ……というか最初からこうすれば良かった。

 

 ともあれ、この調子なら夕方の便でザビルまで行けそうだ。

 

「かなりドロドロになりました」

 

 コイチの実で作った方は、かなり褐色になった。

 オリーブオイルの方は若干白っぽい。

 重曹とボレー粉の違いは……見た目からはよくわからないな。

 

「うん、いい感じだと思う」

 

 かなり知ってる石鹸作りに近付いてきた。

 ……結構量があるな。

 折角だし、ちょっと洒落た石鹸造りに挑戦してみようか。

 

 石鹸の香りは乙女の香り、石鹸の見た目は乙女の見た目。

 ハクメイとミコチにもそう書いてある。

 

「1種類ずつ普通の石鹸を作って、残りは香りのするものを混ぜてみよう……ローズマリーとか」

 

 ローズマリーは料理に付け合わせにも使われるくらいだ。

 前の住人の置き土産らしく庭に生えていたが、引っ越し当初は萎れて元気がなかった。

 しかし、今では時折食卓に出てくるくらい回復したらしい。

 

「そういえば、初めてお風呂に入れていただいた時は、レモンを浮かべていましたね」

「それも良いな、皮を削って入れてみよう」

 

 レモンピールは酒の香り付けにも使う。

 間違いないだろう。

 

「あの……お庭でカモミールが咲きましたが」

 

 普段庭の手入れをしているカタリナが提案してくれた。

 カモミールは、お茶にすると寝付きがよくなるんじゃなかったかな。

 石鹸にして効果があるかはわからないが、ハーブティーにするくらいだから香りは悪くないだろう。

 

「うん、それも季節感があって良いな。

 何輪か取ってきてくれるか」

 

 あの作品では精油を入れていた気がするが、さすがにすぐ用意はできない。

 刻んですりおろして、裏ごしした絞り汁を入れてみる。

 キッチンになんとも言えない匂いが立ち込める……楽しくなってくるな。

 

「ではハンナが用意してくれた木型に流し込んで……鍵を押し込んで柄をつける。

 ……どうだろう、洒落てないか?」

「……あの、御主人様。

 外に出すものではないと思いますが、さすがに借家の鍵を型に取るのは……」

 

 それまでテキパキと手伝ってくれていたハンナが、おずおずと突っ込んだ。

 ……そらそうよ。

 

「すまん、その通りだな」

 

 即座にベチャッと窪みを潰した。

 

 ……あの歌姫も多分借家住まいだったよな、それで自宅の鍵を忘れて隣室に転がり込んでいた。

 そう思うと、石鹸に鍵を埋め込んでいたシーンが、時代劇で盗賊が蔵の合鍵を作るシーンのように思えてくる。

 嗚呼……今は遠き日本の思い出が殺伐としたイメージに上書きされていく。

 

「次で最後です」

「少し余った分は、小分けにして今夜から試していこう。

 風呂に、皿洗いに、洗濯にとな」

 

 ハンナとカタリナの感覚によると、ボレー粉で作った方はちょっと刺激が強いらしい。

 身体を洗う石鹸と、洗濯洗剤とかで用途を分けることになるかもしれない。

 

 そして頭の中で裸族の歌姫が火盗改メに捕縛された頃、あらかたの作業が完了した。

 後片付けも4人に任せて、居間で椅子に腰掛けて休ませてもらう。

 ……中腰気味で慣れない作業してると、さ……腰が、ね。

 

 こっそりと〈手当〉を使用しながら、さて夕方の定期便までちょっと時間があるなと思っていたら、採集したハーブ類の残りを使ってカタリナがハーブティーを淹れてくれた。

 趣味なのだろうか? なんとなく、お嬢様っぽい感じがする。

 味はよくわからないが、落ち着くな。

 

 ……盗賊に襲われる前は、箱入り娘だったんだろうなぁ。

 

「そういえば、アラン殿にもらった紹介状の封蝋にもなにか紋章があったな。

 カタリナの家にもあったのか?」

「それは……はい。

 ケアベルの草冠をした人魚です」

 

 ケアベルは血の巡りが良くなると言い伝えられている他、肉料理や魚料理の風味付けに使われるらしい*2

 それを人魚にって、鴨に葱みたいなものなのでは……いや、人魚は普通は食わないか……食わないよな?

 

「上手く石鹸が出来上がったら、その紋章をつけて石鹸を売り出してみるか?」

「いえ、あの……御主人様の紋章を使うべきでは……」

「……いや、俺にはないな」

 

 実家の遺品整理をしていたら、加賀梅鉢(かがうめばち)の家紋の紋付袴が出てきたが、あれは前田利家や前田慶次で有名な加賀百万石の前田家の家紋だ。

 多分、名字が加賀だからってことで適当に作ったんじゃなかろうか。

 こち亀の両さんも、親戚が好き勝手に家紋を使っていて、最終的にタイガー戦車の家紋を創作していたし。

 

 困り顔のカタリナが「母に訊いてみないと」と言ったところで、そのハンナがやってきた。

 

「ええと、石鹸は高価なものですし、市場に流すと既得権益を侵すことになりますが……」

「それもそうか」

「……ただ、目立たずに売る手段はございます。

 仲買人を通すこと、それも複数です」

 

 商人ギルドの仲買人達は結託して顧客の情報を漏らさないようにする。

 販路を自分達で囲い込むためだ。

 と言っても、特定の仲買人だけの専売にしてしまうと露見しやすいし、誰か1人が荒稼ぎしていたら他の仲買人も出元を探ろうとする。

 だが、複数の仲買人を抱き込んでしまえば……。

 

「……利益を独占するためというより、誰かが儲けすぎないように足を引っ張り合っているように聞こえるな」

「実際、そういう側面もあります」

 

 ハンナも苦笑いだ。

 外から見ると右から左へ物を動かすだけで儲けを掠め取っているようにも見えるが、内部には様々な葛藤があるのだろう。

 ……やっぱり、あまり付き合いたい連中じゃないな。

 

「まあ、石鹸が固まるまで10日か20日か、多分それくらいは掛かるだろう。

 実際使ってみて、安全かどうかも確かめなければいけないから、先の話だ」

 

 ロクサーヌとセリーはこのままレベル上げすれば、将来なんとでもなるだろう。

 この2人も身を立てられるようにしないとな……と、なんとなく母娘のジョブ設定画面を見ていると――

 

 

   【パーティージョブ設定(ハンナ)】

 

   セットジョブ

    武器商人:Lv10

      効果:体力小上昇

        :知力微上昇

        :精神微上昇

     スキル:アイテムボックス操作

        :カルク

        :武器鑑定

 

   所持ジョブ

    ▶武器商人:Lv10

       村人:Lv5

      探索者:Lv30

       商人:Lv30

       剣士:Lv1

       戦士:Lv1

    薬草採取士:Lv1

      料理人:Lv1

       農夫:Lv1

     防具商人:Lv1

     錬金術師:Lv1

 

 

 

   【パーティージョブ設定(カタリナ)】

 

   セットジョブ

     商人:Lv25

     効果:知力小上昇

       :精神微上昇

    スキル:カルク

 

   所持ジョブ

     ▶商人:Lv25

     探索者:Lv1

      村人:Lv5

      剣士:Lv1

      戦士:Lv1

      農夫:Lv1

    錬金術師:Lv1

 

 

「――錬金術師?」

「御主人様?」

「ロクサーヌとセリーも、ちょっと来てくれるか?」

 

 外で竈の掃除をしていた2人も呼んで確認する。

 ……やっぱり錬金術師のジョブが生えているな。

 

「錬金術師というジョブについては知っているか?」

 

 ロクサーヌ達に訊いてみた。

 

「えっと、金を作り出そうとしている人達のことですか?」

「特殊な実験をするとなれると聞いたことがあります。

 私も鍛冶師と巫女になれなかった後、なれないものかと試したことはあるのですが……*3

「メッキという、一度だけダメージを軽減するスキルが使えるそうです。

 あまり有名なジョブではありませんが、それで商売している者もいるとか*4

 

 ダメージ軽減、そういうのもあるのか。

 ロクサーヌは殆ど攻撃が当たらないが、セリーには有用じゃないか?

 もちろん、俺自身にも使いたい。

 

「ロクサーヌ、ちょっとジョブを変えさせてくれるか」

「あ、はい」

 

 

   【パーティージョブ設定(ロクサーヌ)】

 

   セットジョブ

    錬金術師:Lv1

      効果:知力小上昇

        :器用微上昇

     スキル:メッキ

 

   所持ジョブ

    ▶錬金術師:Lv1

      獣戦士:Lv20

       村人:Lv8

       農夫:Lv1

       戦士:Lv1

       剣士:Lv1

      探索者:Lv1

       僧侶:Lv6

    薬草採取士:Lv1

 

 

 〈知力小上昇〉はいいな。

 ひもろぎのロッドのお蔭で魔法の威力は上がったが、当然今後はもっと敵は強くなるわけだし。

 手持ちのジョブで知力が上がるのは、英雄、魔法使い、色魔、商人、薬草採取士だが、〈器用微上昇〉がある分、薬草採取士の上位互換と言える。

 まあ、器用がどういう効果があるのかは、よくわからんのだが。

 

「ダメージ軽減の効果はどれくらいだろう?

 魔法にも有効なのか? また、一度使えば攻撃を受けるまで効果は持続するのだろうか?」

「申し訳ありません、そこまでは……」

 

 ……ふーむ、とすると実験をする必要があるか。

 とはいえわざと攻撃を受けるのはな……いや、敵に使ってみて戦闘時間が変わるか見れば良いか?

 

「えっと、ご主人様はなれないのですか?」

 

 ぐう、ロクサーヌよ、それを訊いてしまうか。

 ……そう、所詮は後方腕組ご主人様に過ぎない俺にはない。

 まあ、お前は石鹸作りをやっていないだろうと言われたらぐうの音も出ないが。

 

「石鹸作りをすることによってなれるようになる、ということですか」

「まあ、石鹸作りに限った話ではないだろうが、そのようだな」

 

 ……鹸化反応のような化学反応を伴う実験をするとなれるとか、そんな感じだろうか。

 

 とはいえ、我が家の女性陣は買い物が上手い。

 割引シールを見るとついつい無駄遣いして大味な自炊料理をしてしまう俺と違い、きっちり材料を用意してくれた。

 要するに、リトライする材料はない。

 

「……あの、ご主人様、そろそろお時間ではないでしょうか?」

 

 そして時間もない、ロクサーヌの腹時計は正確だ。

 ……まあ、残念だが仕方がないか。

 

 なんとか夕方の定期便には間に合って、ザビルまで到着することが出来た。

 ついでにペルマスクまで足を延ばそうかと思ったが、そちらの定期便は終わっていた。

 

 そして、ザビルからの帰り道。

 〈ワープ〉の距離を徐々に延ばしてきたが、そろそろ不安になってきたので直接迷宮に移動するのではなく、各地の冒険者ギルドを経由していた時のこと。

 

「すみません、冒険者の方ですよね?」

「……ここのギルドの冒険者ではないが」

 

 何事だろう。

 慌てた様子の受付嬢に戸惑いながら答えると、「それは問題ではありません」と首を振られた。

 

「北にあるハルツ公領で雨が続き大きな水害が発生しています。

 急な要請でギルドも数を揃えられません、救援物資の輸送に冒険者の力をお借りしたいのです」

 

*1
 生理の期間を道夫さんが勉強する機会といえば、精々20年以上昔の保健体育の授業くらいのもので、当然覚えていないでしょう。(そもそも種族が違いますが)

 会社でそんなことを訊いたら直球のセクハラなので、ロクサーヌに直接聞くこともしなさそうです。

*2
英名チャービル、仏名セルフィーユ、独名ケアベルのようなハーブを想定。

*3
 本作オリジナル(捏造)設定。

 原作ではセリー加入前に錬金術師のジョブを取得しているためこういう会話はありませんでしたが、セリーは鋼鉄が鉄から作れるという話も知っていたり、いかにも興味を持っていそうだと思います。

*4
 本作オリジナル(捏造)設定。

 原作で魔物を対象に使用しているのでパーティー外に使用できるであろうこと、確定で1回ダメージ軽減することから、低階層ならともかく上階層の金持ちパーティー相手なら辻ヒールならぬ辻メッキによる商売が成立するのではないかと思います。




 錬金術師回(道夫さんが錬金術師になるとは言っていない)

 話の切れ目のせいで微妙に短かくなってしまったので小ネタ。
 特に予定がない日の道夫さんの1日のスケジュール。

   ~06:00 起床 ※これから夏になるので早起きになるかもしれない
06:00~07:00 朝食と朝礼、セリーの装備製作
07:00~11:30 迷宮探索
11:30~13:00 昼食、セリーの装備製作 ※ハンナが商人ギルドに行った日は報告を聞いたりする
13:00~17:00 迷宮探索
17:00~18:00 夕食 ※雑談交じりに明日の予定を確認して、食後に掲示板に明日の予定を書いたりする
18:00~19:00 セリーの装備製作、MP回復、風呂準備 ※ほむらのレイピアの火力支援があるので道夫君より早くできる
19:00~20:00 風呂
20:00~22:00 寝る()
22:00~06:00 就寝

 原作道夫君は毎日風呂には入っていないはずですが、朝食前に迷宮に入っているのでもっと早起きでしょうし、家事奴隷もいないから掃除洗濯炊事も自分達でやっています。
 あと、最終的に毎日6Pしてることを考えると、寝る()時間が増えて就寝時間が遅くなることになるでしょう。(回数減らしたらロクサーヌが拗そうな……)

 ……鉄人すぎるので、さんじゅうななさいには無理だろうなって。
 筆者は6Pの所要時間とかわかりませんので、ご経験お持ちの方は感想で教えてください。
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