加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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ペルマスク

 

   クーラタルの街

     道夫の家

 

 カルメ焼きを作ったら丁度良い時間になったので、ロクサーヌ達を迎えに行った。

 その間に、ハンナには食事の準備をしてもらう。

 食後にティータイムとしながら、調べてもらったことを聞くことにした。

 

「甘くて美味しいです」

「先日いただいたときより、きめ細かい気がします」

 

 ロクサーヌとカタリナはカルメ焼きに舌鼓を打ってくれた。

 きめ細かい……卵白の影響だろうか。

 

「とても美味しいです。

 それで、これを作ると錬金術師になれるのですか? 材料の比率はどうなのでしょうか?」

 

 セリーがキラキラした瞳でメモを片手に見つめてきた。

 コボルトスクロース2つと、卵白1つ分と、シェルパウダーが……えっと……適量?

 ……いや、駄目だ、セリーは適量という表現を許せないタイプの気がする。

 

「あの……お傍で見ておりましたので、その時の量でよろしければ手前が。

 ……とはいえ、卵の大きさはバラツキがございますからね……」

「ああそう、そうだ、そうなのだ、説明が難しい」

 

 ありがとう、ハンナ、助かった。

 セリーも納得したようで、「なるほど、卵を……」と呟きながら引き下がった。

 ……多分、卵を使わなくても錬金術師になれるんだが。

 

「では図書館で調べてきた事を教えてくれるか」

 

 ロクサーヌは、俺がペルマスクやカッシームのことを気にしていたから、旅行記を読んだらしい。

 矮躯のドワーフと恵体な竜人族の凸凹コンビの話だそうだ。

 他の3人も知っているようだから、この国における弥次さん喜多さんみたいな扱いなのかもしれない。

 

「ペルマスクは全体が1つの島なのだそうです。

 ドワーフの上背では向こう岸を見ることもできないとか……あ、ごめんなさい、セリー」

 

 セリーは苦笑しながら「いえいえ」と手を振った。

 ま、エッセイとか旅行記なんてものは大げさに表現されるものだ。

 

「島なので、ガラス職人や、時計職人、鏡職人、金銀や宝石の細工師が容易には逃げ出せません。

 そうやって職人や技術を囲い込んでいるそうです」

 

 時計? こっちで時計は見たことがないが……いや、砂時計か、冒険者ギルドの受付にあったな。

 朝昼夕の定期便の時間をそれで管理していたな。

 確かに、透明じゃないと砂が見えないからガラスは重要だな。

 

 そして鏡、この世界に来てから社会科の資料集に載っていた銅鏡のような鏡しか見たことがなかった。

 身だしなみはロクサーヌに任せているから気にしてなかったが、なんで任せるようになったかといえば、鏡の映りが悪くて面倒だからだ。

 ロクサーヌ達を着飾りたいと思っているのだから、もっと良い鏡があった方が良い。

 

「2人は職人に向いていないと思い悩む若者を連れ出して――」

 

 その本、ペルマスクで発禁になってない?

 

 ……ともあれ、ロクサーヌも楽しい時間を過ごせたようだ。

 これは……ペルマスクに行く時はロクサーヌを連れて行かないと駄目だろうな。

 

「次はセリー……は長くなりそうなので、カタリナの方は何か調べてきたのか?」

「はい、石鹸に使えそうなハーブのことを調べて参りました。

 お庭で育てられそうなハーブと、ポプリや精油の形であれば手に入りそうなハーブです」

 

 ポプリ……玄関とかトイレとかに置く芳香剤のことか。

 確かに、色んな種類がありそうだし、その方が楽かもしれないな。

 

「あとは、セリーさんがスキル結晶融合をやることになると思いますので、装備に付与するスキル結晶の組み合わせを改めて確認しておりました」

「ああ、ハンナとセリーと、改めて情報共有しておいてくれ」

 

 視界の端でハンナがお辞儀をしている。

 さて、最後はセリーだ。

 

「はい、ジョブとスキルについて調べてきました。

 結果はこちらのパピルスにまとめましたが……」

 

 俺はそれを読めないから、渡されたパピルスはロクサーヌに渡した。

 セリーの説明を聴きながら、ロクサーヌに指をさしてもらって固有名詞くらいはなんとか覚えられるようにする。

 

 まず、錬金術師の〈メッキ〉についてはよくわからなかった、むしろハンナの方が詳しいくらいだったそうだ。

 あまり有名なジョブではないようだが……まあ良いか。

 

 そして、錬金術師以外に俺が持っていないジョブで名前がわかったのは……まずは賞金稼ぎ、暗殺者、騎士。

 これらは歴戦の戦士がなれるらしい。

 

 賞金稼ぎはそのまんまだな。

 盗賊を退治して懸賞金を受け取ったし、戦士のレベルを上げればなれるかもしれない。

 

 暗殺者とはまたおどろおどろしい、盗賊との複合条件とかだろうか?

 訊いてみたところ、毒に関係していて、毒付与のスキルが付いた武器なんかを使うと活躍すると言われているが、詳細な条件までは不明だという。

 それはそうだ、暗殺者のなりかたが図書館でわかったら怖い。

 

 ……だが、ついこないだこれに関係していそうな話を聞いたな。

 

「これは、ロクサーヌが昔やったという、ニートアントの毒針を使った遊……狩りのことじゃないかな?」

「私もそう思います。

 ですが、ロクサーヌさんは暗殺者になれないのですよね?」

「ああ……とはいえロクサーヌの戦士はLv1だからな」

 

 ……戦士を育てて試してみるか。

 デュランダルを使うことが多いからどっちかというと剣士を先に育てていたのだが、そちらから派生するジョブは知られていないようだ。

 剣豪という噂もあるが、それがジョブなのか、ただの称号なのかはわからないという。

 

 また、騎士の上級職は聖騎士。

 そして、村長は騎士が任命するらしい、勝手に任命するのは禁止されているらしいが。

 

 他に、ちょっと後ろ暗いジョブでは、博徒だ。

 盗賊の項目の余白に、〝このジョブに関して真に驚くべき取得方法を私は発見したが、この余白はそれを書くには狭すぎる〟と書いてあったらしい、フェルマーかよ。

 後進が350年くらい苦労するんだから、ちゃんと論文で残せ。

 

「ただよくわからないのは、賞金稼ぎにも関係するようなことが書いてあったことです。

 本当にイタズラ書きかもしれませんが……」

「ふーむ、なるほど」

 

 博徒といえばギャンブラーのことだが、歴史的には無宿人とか渡世人のような意味もあったはずだ。

 いわゆるアウトローだな。

 だから盗賊に関係するというのはなんとなくわかる。

 

 そして、賞金稼ぎと盗賊には親和性があるようにも思える。

 盗賊が足を洗って賞金稼ぎになる、あるいは賞金稼ぎが道を踏み外して盗賊に堕ちる、どちらもありそうだ。

 マル暴のお巡りさんとか、どっちがヤクザかわからんかったり(ワレェ! はよ開けんかいゴラァ!!)するし。

 

 盗賊の中でも特に凶悪な者がなるというのが兇賊。

 これはいつだったか旅亭ギルドで聞いたな、盗賊系の上級職だろう。

 レベルを上げるだけで良いのか、更に外道に手を染める必要があるのか……まあ、あまり考えなくて良いか。

 

「神官と巫女は、前にも言いましたが聖職ギルドで得られます。

 他に、沙門と禰宜というジョブがあるようです、聖職ギルドに関係するようですが……」

 

 沙門は仏教関係だろう、手塚治虫のブッダでサモンと言われていたやつだと思う、二代目風影ではないだろう。

 禰宜は神社の役職……だったような。

 ……僧侶と神官の上級職だろうか。

 

「最後に、伝説というか……与太話の類ですが、遊び人というジョブがあるそうです。

 ただ、大昔に自分がそうだと言いふらした人がいるだけなので、実態は調べてみてもわかりませんでした」

「あ、私も聞いたことがあります、遊び人皇太子のことですよね?」

 

 ロクサーヌが反応した。

 遊び人皇太子……遠山桜、遊び人の金さんは帝国では奉行ではなくて皇太子なのか。

 

「皇太子ですが、廃嫡されました、歴代最低の皇太子だとされています。

 何事にも堪え性のない人で、色々なジョブに就いては辞めてを繰り返していたそうです。

 その上、嘘と騙りはお手の物、帝国の穀潰しだと」

 

 なんとまあ、ボロクソだな。

 嘘と騙りか、盗賊系のジョブも持っていたのではないかな、それで廃嫡されたか。

 ……うーん、ジョブの数が増えると解放される隠しジョブ……いかにもありそうだ。

 古参のドラクエプレイヤーとしては、遊び人は気になるジョブだ、賢者になれるかもしれないし。

 

「興味深いジョブがいくつかあるな、しばらくは戦士を育ててみることにする。

 後は神官か、カタリナを巫女にする時に、俺も神官になれないか試してみようか」

 

 だが、この話の流れで「遊び人に俺はなる」と宣言する度胸はない。

 まあ、どうせやることは一緒だ。

 できるだけジョブを増やして、セリーに条件をまとめてもらって、そのついでに取得できれば儲けものだ。

 

 ……と思っていたが、ハンナに「あの、御主人様」と話しかけられた。

 

「ギルド神殿でジョブに就く場合、インテリジェンスカードが確認されてしまいますが……」

「……なるほど」

 

 そりゃそうだ、盗賊がこっそりジョブを変えたら盗賊堕ちする意味がなくなる*1

 そして、ザビルの冒険者ギルドでは既に一度〈ワープ〉を使っているから……やめておくか。

 

「ではこちらからだが、ハンナが芋虫のスキル結晶を手に入れる手筈を整えてくれた」

 

 明日買いに行くが、〈スキル結晶融合〉をするにはセリーの負担が心配だ。

 あまり向精神薬(デュランダル)依存症になられても困るし……。

 

「明日は商人ギルドに行った後、ザビルの聖職ギルドに行く。

 首尾よくカタリナが巫女になれたら、セリーにスキル結晶融合を頼むとしよう」

 

 あの時から多少レベルは上がっているし、スキル結晶2つのひもろぎのロッドと1つの身代わりのミサンガでは消費MPも異なるかもしれないが、念の為だ。

 

「折角ザビルまで行くのだから、ペルマスクまで足を延ばすか。

 ロクサーヌの話を聞いて、どんなところか見てみたくなった」

「あっ、はい!」

 

 ロクサーヌが弾むような笑顔になった。

 4人で行くのはちょっと辛そうだが、まあ刻んで行けば大丈夫だろう。

 ロクサーヌに索敵してもらったほうがMP回復も早いしな。

 

「それに、手鏡と姿見の1つくらいあっても良いだろう」

「……御主人様、ペルマスクの鏡は貴顕の方々の贈答品に選ばれるほどの高級品です。

 姿見ともなりますと……」

 

 て、手鏡だけでも……。

 

 

 

    ザビルの町

   冒険者ギルド

 

 次の日、朝一で商人ギルドにハンナを送り、その後は中継地点を1つ飛ばしにしながら3人を連れてザビルの町までやってきた。

 なお、競売に出るハルバードにはスキルスロットがなかった。

 値段の格からすれば、スキルスロットが3つ4つはあってもよさそうなものだが……ちょっと惜しい気がしたが、購入は見送ることにした。

 

「あっ、先日の方ですね。

 ペルマスクへの定期便は……あと1時間ほどです」

 

 一昨日来た時はもう日没で、冒険者も誰も残っていなかったからトンボ返りしただけなのだが、受付に顔を覚えられていたらしい。

 閉店間際に駆け込んでくる迷惑客だと思われていたら嫌だな。

 受付嬢がカウンターの砂時計を見ながら教えてくれた後、テーブル席にいる少女を手で示した。

 

 ……いや、少女じゃないな。

 俺と同年代の、多分ドワーフの冒険者だ*2

 

 テーブルの上にはいくつもジョッキが置かれている。

 ……え、酒飲んでんの?

 こちらに気づいたらしく、ひらひらと手を振られた、反応に困る。

 

「セリー、滝行はどれくらい時間がかかるものかな?」

「人によるかと……私の場合は、20分くらいでもしかして、という感覚がありましたが」

 

 うーん……セリーも結構ピーキーなところがあるしな。

 カタリナは愚鈍とは思わないが、常識的な女の子という気がする。

 もっと時間が掛かると思った方が良いだろう。

 

「定期便でペルマスクに行ってから、聖職ギルドに行こう。

 ついでにあの冒険者と交渉してみるか」

 

 近付いてみると、セリーより耳が太い。

 チューブトップの水着っぽい服と腰布のようなものを巻いているだけで、健康的なチョコレート色の肌を惜しげもなく晒している海水浴場にでもいそうな少女だ。

 パイナップルのようなヘアスタイルは、いかにも南国っぽい。

 ……セリーはドワーフとしては背が高いと言っていたが、本当だったな。

 髪型で嵩増ししているが、俺の腰くらいまでしかない。

 

「すまない、ペルマスクに行きたいんだが、その後に聖職ギルドに行きたい。

 このザビルにあると聞いたのだが」

「あ~、珍しいですね。

 はい、行けますよ」

 

 ペルマスクは1人銀貨5枚、聖職ギルドの方は隣町ほど遠くはないらしい、1人銀貨1枚で良いそうだ。

 だが、さすがにペルマスクに行った後は少し休憩したいらしい。

 銀貨5枚だからな、結構遠いのだろう。

 ……まあ、ペルマスクを見物してから聖職ギルドに行けば良いか。

 

「ありがとう。

 それと、この辺りに迷宮はあるだろうか?」

「どんなのを探してます?」

 

 ドワーフの冒険者がグビっとジョッキを傾けた。

 ……酒臭い。

 

「とりあえず近くであれば」

「本当に近いだけなら、ここを出て左手に進んで――」

 

 と、説明してくれた。

 管理されていないので、担当の探索者はいないという。

 人が少ないのは都合が良いな。

 一階層の魔物はミノだという、それも悪くない、特殊攻撃をしてこない相手だ。

 連れて行ってもらおうと、財布を取り出すと「あ~、いりませんいりません」と手を振られた。

 

「歩いて行ける距離ですし、わざわざフィールドウォークにお金払うのはもったいないですよぉ」

「重ねてありがとう」

 

 良心的な女性だ。

 ……さて、ペルマスクからこっちに戻る時は自分で〈ワープ〉をしないと余計な金が掛かる。

 1時間もあれば〈MP回復速度二十倍〉で回復すると思うが、一応回復しておくか*3

 ロクサーヌがいるから、すぐ敵も見つかるだろう。

 

「セリー、カタリナ、俺はロクサーヌとちょっと迷宮に行ってくる。

 ここで待っていてくれ」

「はい、私達は大丈夫です」

 

 セリーにカタリナを任せて、ロクサーヌと冒険者ギルドを出る。

 

「暖かいところだな」

「ペルマスクの向こうのカッシームは、更に暑いそうですよ」

 

 外に出てすぐ、町の向こうに褐色の岩肌というか、巨大な崖が見えた。

 ギリシャかどっかの世界遺産に、こういう景色の場所があったような気がする。

 メテオみたいな名前の……奇岩の上に建った修道院の……。

 

「クーラタルよりのどかなところですね」

「ああ、緑も豊かだな」

 

 広さはベイルとさほど変わらず、クーラタルと同じくらい古めかしい。

 なんとなく風情のある赤レンガの建物、緑が多い、落ち着いた街だな。

 街路樹も見慣れない……いや、地球で見たような……。

 

「オリーブの木だと思います」

 

 まじまじ見ている俺の視線に気付いたロクサーヌが教えてくれた。

 なるほど、道理で見覚えがあるわけだ。

 

 ……あれ、メテオリだっけ? メテオレ? いや、メテオラだな、メテオラ修道院群だ。

 聖地ギルドはどんなところだろうか、〈フィールドウォーク〉があるから、山登りとかはしないと思うが。

 

「おっと、ついつい物見遊山気分になってしまった。

 左手だったな」

「はい、あちらですね」

 

 門は1人しか通れないような片開きの扉が開放されていた、門というより通用口だな。

 門番もいない、壁の上の櫓にはいるのかもしれないが、誰何されることもなく素通りだ。

 

 壁の外は畑もなく、すぐ林になっていた。

 木漏れ陽が射す小道を歩くと、突然ぽっかりと黒い四角が空間を穿っていた。

 迷宮の入口だ。

 

「さてと、魔物を探してくれるか」

「はい、お任せください」

 

   ※   ※   ※

 

 急いで魔物を倒して〈ワープ〉で冒険者ギルドに戻った。

 受付にある砂時計を見ると……うん、慌てることもなかった、全然余裕だな。

 迷宮も近いし、人が少ないのも悪くない、冬場はこっちに河岸を変えても良いかもしれないな。

 

「あっ、どうもどうも」

 

 さっきの冒険者だ。

 なぜかセリーとカタリナが相席している。

 

「ご主人様、こちらの方にお飲み物をいただきまして」

「あの、それ、酒だよな?」

 

 ロクサーヌじゃなくても臭いでわかる。

 ……えっと、ペルマスクの後は聖職ギルドに行くって話はしてあるよな。

 聖地……なんだよな? えっ、般若湯だからセーフ理論?

 

「いえ、水です」

「水ですよぉ」

 

 確かに水のように澄んでるが、明らかに酒臭いんですけど?

 そしてカタリナが飲んでるのは……

 

「……赤ワイン?」

「ち、ちがいますっ! ××ドリンク? というそうです」

 

 上手く翻訳できてないな、ザボ? ゾボ? なんだろう?

 なんでも、甘くて良い香りがして美味しいらしい。

 なにかの果汁だろうか……ザーボンさんの元ネタか? 色からするとドドリアさんの絞り汁っぽいが。

 

「……酒じゃないなら、俺も頼んでみるか、ロクサーヌもどうだ?」

「えっと、いただきます」

 

 迷宮を走り回ったから喉が渇いた。

 飲み物を待っている間、冒険者に一応礼を言う。

 

 そしてカタリナの説明によると、セリー達が飲んでいるのはドワーフの間で水代わりに飲まれる弱い酒らしい。

 3回しか蒸留していないそうだ。

 そうかそうか、つまり、酒だな。

 

「いやぁ、ここはペルマスクからも結構距離がありますから、聖職ギルド目当ての人も滅多にいなくて。

 つい応援したくなりまして……すいませんねぇ」

「あ、いや、ご親切にどうもありがとう」

 

 ガワは少女というより幼女だが、ノリは大阪のおばちゃんみたいな女性だ。

 というか、これは俺が甲斐性なしと言うべきだろうか。

 待たせている間、飲み物くらいは用意するべきだったかもしれない。

 ……いやでも、信じて待たせた16歳のパーティーメンバーが飲酒してるとか、想像の斜め上だわ。

 

「どうぞ、××ドリンクです」

 

 受付の人が運んでくれた、発音はゾボドリンクか。

 翻訳されないのは、外国の飲み物だからだろうか*4

 

「――ん、酸味が爽やかで美味しいな」

「はいっ、ちょっと変わってますが、レモンみたいな良い香りです」

 

 俺からすると梅干しっぽい香りと感じる、これは……色々混ざっているようだが、多分ハイビスカスティーだな、クエン酸だ。

 一時期カフェイン中毒っぽい症状が出て、代替に色々試したことがある。

 いかにも暑い地方の飲み物という感じだ、温いのはちょっとあれだが、これはいいな。

 

 あと、ザーボンさんの元ネタはザボンだ、文旦の別名だったはずだ。

 

――ゴーン ゴーン ゴーン

 

「は~い、それではペルマスクまで行きたい方、集まってください。

 銀貨5枚になりま~す」

 

 鐘の音がして、冒険者が声を上げた。

 俺の他に、3人の人間が立ち上がった。

 

「……3人はしばらくここに居てくれ。

 聖職ギルドの滝行は時間がかかるかもしれない、軽く何か摘んでおいても良いだろう」

 

 3人に銀貨を1枚ずつ、冒険者に5枚を渡して、ペルマスクに渡った。

 

   ※   ※   ※

 

「お帰りなさいませ。

 ……何かありましたか?」

 

 すぐにザビルに戻って、ロクサーヌの笑顔に迎えられる……が、表情を読まれてしまった。

 MPは……わかるほどには減ったな、銀貨5枚だけの距離はあるようだ。

 だが、俺の気分が落ち込んでいるのはMPのせいだけではない。

 

「……ちょっと街に入るのが面倒でな」

 

 ガラスの採光窓がふんだんに使われたペルマスクの冒険者ギルドは、ザビルとも違う雰囲気の場所だった。

 そして、説明係の職員から、ペルマスクでは冒険者ギルド以外の全ての建物で遮蔽セメントが使われていること、入市する時にはなんちゃら委員会麾下の騎士によるインテリジェンスカードのチェックを受ける必要があること、他にもゴチャゴチャとした説明を受けた。

 カストロプ公爵家みたいなギリシャ風の服を着ていたな……ベルゲングリューン大佐、指向性ゼッフル粒子を頼む。

 

「ああ、そういうことですか」

 

 酒を飲んでも頭脳明晰なセリーが察してくれた。

 

 そう、冒険者でない俺はペルマスクに入るのはちょっと面倒ということである。

 もちろん、冒険者に連れて行ってもらって「37歳、探索者です」と言うのは……あっちの冒険者ギルドから〈ワープ〉で移動したから冒険者だと思われてるはずだ、間違いなく不審に思われるだろう。

 向こうからまた銀貨5枚払ってトンボ返りしたら、それはそれで不審者だったろうが。

 

 ……と、話しているところでギルドの壁に黒い幕がかかり、さっきのドワーフの冒険者が出てきた。

 

「さっきは連れて行ってくれてありがとう。

 ところで、ペルマスクで鏡を買うとどれくらいするのだろうか?」

「鏡? あそこのは高いですよぉ?」

 

 聞けば、サイズを問わずにゴチャゴチャと宝石や金銀細工の施したものしか売ってくれないという。

 なるほど、代替製品がないガラス製品に、更に付加価値を付けているというわけか。

 

「金貨での支払いは覚悟しておいた方が良いでしょうねぇ」

「ありがとう、参考になった」

 

 彼女は手慣れた仕草で、「水くださーい」とカウンターに注文した。

 

「ちょっとこれから回復しますんで、1時間くらいもらえますか?」

「あ、ああ……ごゆっくり」

 

 そうか、ドワーフは酒を飲むと回復するのか。

 ……ホントか?

 

「……ではこれからペルマスクに渡るから、金貨を渡しておく。

 買えるかわからんが、良さそうなものがあれば買ってくれ、こっちの銀貨は入市税だ」

「ご主人様は行けませんか……」

 

 ロクサーヌが眉をハの字にした。

 ……う、うぬぬ。

 

「冒険者ギルドのテラスからでも、町並みは見えた。

 そこから景色でも眺めて、ゆっくり待つことにする。

 まあ、いずれ行く機会もあるだろう」

「……はい」

 

 ロクサーヌは自分に言い聞かせるように頷いた。

 

「こんな大金、きちんと扱いきれるか……」

 

 セリーのアイテムボックスに金貨を移すが、どうも緊張しているようだ。

 図書館に行った時とそう状況は変わらないが、預託金と違って返ってはこないからか。

 

「セリーは仲買人との取引にも警戒しているし、カタリナだって商人だ。

 それに、なんとしても買ってこいというわけじゃない。

 市場調査とでも思って気楽に街を見て回って、もし買えそうなら買えば良い」

 

 街に出るのは1時間以内と打ち合わせて、4人でペルマスクに渡った。

 

 

 

   ペルマスク市

   冒険者ギルド

 

 ……MPごっそり減った。

 ザビルに戻った後、一度迷宮で回復するべきだったかな、ちょっと油断したか。

 銀貨の枚数で換算すると2.5駅分だ、ザビルまで来た時は1駅飛ばしだったから、もっと慎重になるべきだった。

 

「では、行って参ります」

 

 3人を見送って、テラス席がある2階に上がる。

 〈MP回復速度二十倍〉がついていることを再確認し……っと。

 

「大丈夫ですか?」

 

 軽く蹴躓(けつまず)いてよろめいた時、後ろから支えられた。

 しなやかな指の感触、ロクサーヌだ。

 

「……街に行かなかったのか?」

「えっと、その、ご主人様が少し調子が悪いように見えたので……」

 

 そこまで深刻にMPが減っているわけではないのだが、躓いたのを見られた後では説得力がない。

 全く、歳は取りたくないものだ。

 

「つ、ついでですし、街並みを眺めながらペルマスクのことをご案内しますね」

「ああ、任せた」

 

 彼女に寄り添われながら、潮風の香る方へ歩き出す。

 

 外に出ると、碧い海と青い空、白い雲に白い鳥、やがて陽光に目が慣れると、街並みがよく見えた。

 下の通りは、陽光を遮るためか視線を遮るためかわからないが、シートに覆われていて人通りはよく見えない……だが、結構な人通りがあるように思う。

 右手の大きな建物には煙突があり、黒い煙が風にたなびいている、ガラス工房だろうか。

 ……良い景色だ。

 

「あっ、あそこに見える鐘楼は――」

 

 楽しそうなロクサーヌの横顔を眺めながら、説明を聴く。

 

 ……在宅勤務中を思い出すな。

 作業用BGMとして、旅動画とか車載動画なんかをよく見ていたが、旅行に行きたかったわけではない。

 むしろ逆で、興味がないものの方が作業が捗るからだ。

 

 だが、こうして楽しそうなロクサーヌの横顔を眺めながら聞くのは……また違うな。

 

 いつかジジイになって、旅行や冒険から帰ってきたロクサーヌの話を安楽椅子で寛ぎながら聴くのだ。

 旅先で食べた料理を再現してくれたりするかもしれない。

 そんな老後も悪くないんじゃなかろうか。

 

*1
エレーヌの神殿で兇賊になったとされるキャラがいますが、原作者様の感想返しによると「担当者は殺されたかもしれません」ということなので、真っ当な手段では使えないのでしょう。

*2
 漫画10巻に出てくる小柄な体型な冒険者のことです。

 作中に種族の記載はないですが、耳長でジョッキで飲み物をパカパカ空けてる描写があるので、恐らくドワーフだと思います。

*3
 本作では素の状態で1日(=24時間)でMPが全回復すると設定します。

 その場合、20倍なら1時間で8割型回復する計算となります。

*4
 ナイジェリアなどアフリカ諸国で飲まれているハイビスカスを原料とした飲み物。

 副材料にショウガ、パイナップル、レモンなど。




 セリーが図書館で水(酒)を飲んだイベントは発生場所を変えました。
 本を汚したら預託金が返って来ないわけですし、ロクサーヌが飲酒を許すかと考えると、ちょっとないかなと。
 ただ、状況から館内で飲酒を許していると思われる(図書館に行くのを夢見ていたセリーがわざわざ館外まで飲み物を飲みに行くかというと、行かない気がします)ので、ドワーフの肝臓は特別製というのは帝国では共通認識なのでしょうね。
 羨ましいものです。
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