ご主人様も言っていましたが、留守中に強盗が出たら
鏡を渡して身の安全を確保してください。(ロクサーヌ)
↑恐れ入ります。思し召しに従います。(ハンナ)
※ここから下はご主人様のメモ欄です。
春42日
AM:ベイル3Fで暗殺者取得
PM:クーラタル9F→10F
※明日はボーデに行くので早寝すること。
ベイルの迷宮
三階層
「毒針は刺さらなくても投げつけるだけで良い、毒になると魔物の色が少し青白くなる。
……で、良かったよな?」
「はい、そうです」
魔物を毒にした経験があるロクサーヌに確認する。
彼女は幼少期にノンレムゴーレムなるいかにも強そうな魔物を毒にしたというが、俺はそんな冒険をする気になれない。
というわけで、散々戦い慣れたベイルの迷宮のコボルトで暗殺者になれないかの実験だ。
この為に……というわけではないが、ペルマスクに行った前日に半日かけてニートアントを狩り続けたから、毒針は200個以上貯まっている。
以前のロクサーヌの話では〝ほぼ確実に毒を盛るには、20個ほど投げる必要がありました〟ということだから、有り余っていると言えるだろう。
「では、コボルト1匹のところに案内してくれるか」
「はい、それに人がいないところですね」
人に見られて困るというわけではないが、時間が掛かりそうだし「それで頼む」と頷く。
ロクサーヌの案内で歩きながら、アイテムボックスから出した毒針を用意する。
人間や動物にも効くらしいが、経口摂取しないと効果がないらしい、ヘビと逆だな。
毒針は綿棒くらいの長さで、太さはボールペンくらいか。
ダーツの経験とかがあれば投げやすいのかもしれないが、俺には小さくて掴み難いと感じる。
……長さもボールペンくらいあれば良いのに。
「ご主人様、あちらに」
コボルト
Lv:3
「……確かに。
じゃあ、2人とも他の魔物やパーティーが来ないか、見張っていてくれるか」
「はい」
「わかりました」
甲高い声で鳴くコボルトに毒針を投げつける。
大体2回投げる頃にはこちらにナイフで飛びかかってくるから、躱して距離を取って、また投げる。
そうして7個目の投擲で、コボルトのギョロ目が青っぽくなった、体色も心なしか青っぽい。
「ご主人様、毒になりました」
「ああ、後は待つだけだな」
……。
…………。
………………。
「えっと、ご主人様……お疲れ様でした」
「ああ……まあ、それほどのことでは……いや、疲れたな」
ロクサーヌが用意してくれた濡れタオルで手を拭く。
毒になったコボルトは、その後何事もなく死んで煙になった。
そう、驚くほど何もなかった。
俺は子ども程の背丈のコボルトの攻撃を避け続けて、死ぬのを待っていただけだ。
……絵面最悪だったろうな。
俺も精神的に疲れたが、37歳おっさんのコ虐プレイを真横で見せられた2人だってうんざりしたことだろう。
ロクサーヌもセリーも気まずそうな顔をしている。
毒になったからといって、特に苦しそうな顔や呻き声を上げたりなんかはなかったが、されていたら心が折れて介錯していたと思う*1。
「コボルトならもっと早く終わるかと思ったのですが……その、結構掛かってしまいましたね」
「ああ……毒による効果は割合ダメージなのかもしれないな」
「……そういえば、強いボス相手にも毒針を使うことがあると聞いたことがありました。
そう考えると、割合ダメージでないとあまり効果がないことになりますね」
安全性を取ってコボルト相手に試したが、あまり意味はなかったろうか。
溜息を吐く俺に、セリーが「申し訳ありません」と頭を下げてきた。
とはいえコボルトで試すことを決めたのはこっちなので、彼女の頭をポンポンと撫でて「気にするな」と言っておく。
実際、安全であったことは間違いないし、割合ダメージだということを事前に把握していたとしても、多分同じことをしたと思う。
だからなんというか、実際やってみないとわからないことってあるよなって話だ。
だって俺、配信者とかじゃないし、絵面とか撮れ高とか想像しながら戦ってないし*2。
……まあ、全属性攻撃が弱点のコボルトだから、毒にもなりやすかったかもしれないし、毒ダメージも大きかったかもしれない。
多少は早く終わったはずだと思おう……体感時間はくっそ長かったが。
【ジョブ設定】
探索者:Lv35
英雄:Lv33
魔法使い:Lv35
僧侶:Lv30
色魔:Lv28
錬金術師:Lv28
村人:Lv10
盗賊:Lv15
商人:Lv30
剣士:Lv15
戦士:Lv30
薬草採取士:Lv26
農夫:Lv1
料理人:Lv24
奴隷商人:Lv1
武器商人:Lv1
防具商人:Lv25
賞金稼ぎ:Lv13
暗殺者:Lv1
「よしよし、ちゃんと暗殺者になれたな」
……言ってから、これも不穏当過ぎる台詞だろうかとちょっと思ったが……さすがに気にしすぎか、ジョブの話だしな。
実際、2人は特に気にした様子もなく、
「それは良かったです」
「では、条件は戦士Lv30と毒で魔物を倒すこと、でほぼ確定ですか」
と言ってくれた。
あと戦士が条件のジョブは騎士だが、これは槍で敵を倒す必要があるらしい。
槍といえば空きスロットがなくて結局買うのを見送ったハルバードだが、これについてはちょっと考えていることがある。
……上手くいくかわからないので、口にはしないでおくが。
それより今は暗殺者の話だな。
暗殺者:Lv1
効果:知力小上昇
:精神小上昇
スキル:状態異常確率アップ
:状態異常耐性アップ
「効果は知力と精神小上昇、スキルは状態異常確率アップと状態異常耐性アップだ。
んー……、これは対象を指定するスキルではないようだな」
「図書館で調べた時も、そういう名前のスキルがあるとは書いてありませんでした」
とすると、アクティブスキルでなくパッシブスキルなのだろう。
口にしても詠唱が浮かんでこないしな。
「毒に関係するジョブと言っていたが、他の状態異常の確率も上がるのではないだろうか?」
「はい、そういう話もあります。
ただ、毒でないと魔物は倒せませんから、そのように言われているのだと思います」
状態異常には、ギルドで売っている薬からすると毒の他に麻痺と石化があるはずだが、石化は魔物を倒した判定にならないようだ。
石化については、アイテムがドロップしないからそのように考えられているという。
魔物というのはドロップアイテムを核として魔力で具現化しているような存在らしいから、アイテムを回収しないと倒したことにならないというのは納得だ。
それに、なにしろ暗
ジョブになるための条件は〝状態異常で敵を倒す〟とかかもしれないが、それを満たすのは〝毒で魔物を殺す〟しかない、そんな感じなのかもしれない。
「前にも教えてもらっていたらすまないが、状態異常について改めて教えてくれるか」
「いえ、はい、毒は時間経過で割合ダメージ、麻痺はしばらくの間動けなくなります。
睡眠は攻撃されるまで眠ってしまいます」
そうだった、薬はないが睡眠もあったな。
ビープシープの特殊攻撃で眠らされた時は、ロクサーヌも攻撃を受けてしまうようなピンチだった。
「そして石化は、石のように固くなって物理攻撃に強くなる代わりに、魔法攻撃に弱くなると言われています。
また、麻痺と違って薬を飲んだりしないと自然回復はしません」
「魔物を状態異常にするスキルもあるのだったか」
散々倒したニートアントが落とすアリのスキル結晶が毒、ビープシープが落とす羊のスキル結晶が睡眠、コラーゲンコーラルが落とすサンゴのスキル結晶が石化。
麻痺は灌木という、十二階層以降に出るラブシュラブが落とすスキル結晶でスキル付与できるそうだ。
いずれも武器につければ状態異常攻撃、防具につければ状態異常耐性が得られて、更にコボルトのスキル結晶があれば上位のスキルを得ることができる……と。
ビープシープはロクサーヌにデュランダルを持たせてからは完封しているし、あとは毒にしてくる魔物としか戦っていなかったからあまり気にしていなかったのだが、状態異常で行動不能にできるのは大きいな。
より多くの魔物を止めることができるということは、その分安全に魔法が使えるということだ。
……というか、石化は魔法との
「杖にそれらのスキルを付けて、全体に状態異常をかけるというのは可能か?」
「それは聞いたことがありません、無理で……いえ、ご主人様は複数ジョブが使えるのでしたか……」
無理と言おうとしたセリーが考え込んだ。
暗殺者の〈状態異常確率アップ〉というスキルが引っ掛かったのだろう。
……こっちから言い出したことだが、いくら〈状態異常確率アップ〉したところで、そもそもの確率が0ならば無駄な気がするが。
多分、杖に魔法攻撃の威力が増す効果がついているだけで、魔法は杖で攻撃しているわけではないだろうし。
とはいえ、装備に複数スキルをつけることが稀なことを考えると、杖に状態異常系スキルを付けることは極めて稀だろうし、魔法使いと暗殺者の複数ジョブの例は恐らくないだろう。
「明日、軽くで良いからそういう先例がないか調べてみておいてくれるか」
明日は公爵に鏡を届けに行って、コハク商人と武器商人とは今後の商談を詰める予定だ。
2人にまた嫌な思いをさせたくないし、商談はハンナとカタリナにやってもらって、セリーとロクサーヌには図書館に行ってもらう予定だ。
望み薄だが、セリーもちょっとその気になっているようだから少し調べてもらうくらいは良いだろう。
「ハンナさんにも訊いてみてよろしいですか?」
「ああ、それもそうだな。
……よし、ちょっと気疲れしたし、一度家に帰ってお茶でも淹れてもらおうかな」
城壁がないから街中に魔物が出るというクーラタルには盗賊はいないという。
戦闘奴隷という名の肉壁になる盗賊もいるようだが、今のところ見かけていない。
……まあ、入口を使わずに不法侵入しているから、他のパーティー自体ほとんど見かけていないが。
そもそも、家の中から直接〈ワープ〉で移動しているから、家の中に鏡や宝石などがあると知っている者はいないはずだ。
とはいえ彼女たちが奴隷堕ちした原因を考えれば、身近に貴重品がある状態で留守番をするのは緊張するだろう。
元々この後はクーラタルの迷宮に行く予定だったし、だったらついでに顔を見に帰っても良いな。
※ ※ ※
家でカタリナと一緒に廃油石鹸作りをしているハンナに訊いてみたが、彼女も魔法に状態異常が付与されるという話は聞いたことがなかった。
ただ、魔法使いの上級職である魔道士は雷魔法が使えるようで、たまに敵が麻痺することがあるらしい。
ゴスラーがなっているジョブだな……先は長そうだ。
……全体攻撃に状態異常が乗ったら相当話が変わってくるんだがな。
剣に全体攻撃するスキルがないものか。
流星剣とは言わないまでも、かまいたちとか円舞剣とか……などというゲーム脳乙な思いつきを軽々しく口にしたりはしない。
真に受けたロクサーヌが不可能を可能にして、通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のロクサーヌにでもなったらいよいよヒモ生活待ったなしだ。
そんなくだらないことを考えながら、自宅で一服した。
魔法で水が出し放題だから迷宮で喉が渇くことはないが、ちゃんと座って温かいものを飲むと落ち着くな。
ベイルの迷宮
十階層
続けてクーラタルの迷宮の九階層と十階層をさっさと突破した。
ベイルの迷宮の十階層でニートアントが出る以上、九階層のニートアントを相手にする意味は薄いし、そのボスのハントアントも毒攻撃をしてくるらしいが、デュランダル付きのロクサーヌが居れば何の心配もない。
十階層はエスケープゴートとパーンだが、これも一度戦った相手だ。
エスケープゴートは倒すのに魔法が3発必要で、そうなると途中で逃げられてしまうことも多い。
面倒だから、まともに相手せずにボス部屋へ一直線だ。
思った以上にスムーズに終わったので、残りの時間はまたベイルの迷宮に戻ってきた。
今日は最寄りの敵をひたすら倒すレベル上げモードではなく、きっちりマッピングする探索モードだ。
水属性が弱点のニートアントは、知力が上がらない村人や農夫のジョブを付けても2発で倒せるから、探索も順調そのものだ。
「ご主人様、少し離れたところですが、魔物部屋があるかもしれません。
……ちょっとわかりにくいのですが」
「ほう」
ロクサーヌの探知範囲と作成済みの地図を突き合わせて、「大体ここらへんでしょうか……」という当たりをセリーがつけてくれた。
魔物部屋を駆除しておおよそのマッピングが済むと、その階層の探索終了宣言というのが出されるが、ベイルの迷宮はまだまだ攻略中の迷宮だ。
探索終了宣言はもっと下の階層までしか出ていなかったと思う*3。
「……ボス部屋がありそうな場所とは離れているか」
「あくまで今時点での推測ですが……そもそもボス部屋の近くだったら、他のパーティーが見つけているのではないでしょうか?」
「それもそうか」
探索終了宣言が出ていないだけで、もっと上まで突破はされているのだしな。
「まあ、良い稼ぎになりそうだし、折角だから行ってみるか。
ロクサーヌ、MPを回復してからにしたいから、先にスローラビットがいるところに案内してくれるか」
「はいっ、お任せください!」
ロクサーヌがさすごしゅを言う時の顔で返事した。
……経験値稼ぎしたいだけなんだから、そんなに意気込まんでくれ。
※ ※ ※
目的の魔物部屋は、ちょうど腰くらいの高さにある壁の穴の向こうだった。
身長が丁度良いセリーが壁の向こうを確認して言う。
「……うじゃうじゃいます」
俺もセリーの頭の上からそっと覗き込んで〈鑑定〉を使うが、視界がウィンドウで埋め尽くされた。
……うじゃうじゃの10倍くらいいるな。
だが、ニートアントしか見当たらないというのは好材料だ。
普通、魔物は湧くとどこかに移動して、一箇所に溜まるということはない。
だが、魔物が湧く小部屋の中で駆除もされず移動もできず……となると溜まる一方になる。
それが魔物部屋だと、以前ロクサーヌに教えてもらった。
以前に一階層でニードルウッドの魔物部屋を見つけた時は、俺でも這いつくばらないと出入りできない横穴しか通じていない小部屋の中だったから、2メートル近くあるニードルウッドは移動できなかったのだろう。
この階層には他の魔物も湧く。
にもかかわらずニートアントしかいないということは、ここで湧いたのではなく別の場所で湧いたニートアントが移動して入り込んだのだろう。
アリの魔物であるニートアントは壁も移動できるし、他に壁走りできるスパイスパイダーはベイルの迷宮では十一階層の魔物だから、それでニートアントだけ溜まり続けたと。
……つまりあれか、サボり部屋か。
お前ら入れるんだから出れるだろうが、働けヒキニート。
「全てニートアントのようだ。
1発撃つから、セリーは穴から出てくるやつがいたら叩き返してくれ。
ロクサーヌは周囲の警戒を頼む」
2人が頷いたのを確認し、穴から〈ウォーターストーム〉を叩き込む。
……ぐぅ、MP消費が結構きつい。
全体攻撃魔法は対象となる魔物の数が増えると消費も増えるから、事前に回復して色魔も付けておいたが、それでも結構な消費だ。
だが休んでもいられない、急いで穴から離れる……が、
「……来ませんね」
「……来ないな」
穴の向こうからだから、どこから攻撃されたのかわかっていないのだろうか。
10秒……20秒……そろそろクールタイムも終わるんだが。
「……ウォーターストーム」
結局何事もなく全滅した。
……あのニート共……警戒してたのが馬鹿みたいだ。
「結構消耗してしまった、またスローラビットを探してもらえるか?」
「あの、ドロップアイテムは……」
おっとそうだったと立ち止まると、セリーが「拾ってきます」と棍棒を置いて壁の穴を通って小部屋に入っていった。
小柄でアイテムボックス持ちのセリーが取りに行くのが、一番効率が良いか。
……壁穴から突き出たセリーの尻は最高でおじゃるな、よくやってくれたぞニート共。
「お待たせしました。
すみません、アイテムボックスが一杯で……」
「ああ、渡してくれ」
ホットパンツに包まれた小さなお尻を反芻しながらアイテムを受け取り、最後にセリーの手を引いて壁穴から引き上げる。
改めて考えてみると、結構凶悪な魔物部屋という気がする。
魔法使いがいないパーティーでは槍か何かでチマチマ突っついて誘き寄せるか……時間をかけている間に他の魔物が来たら大惨事じゃなかろうか。
といって、魔法使いがいても低レベルなら倒し切る前にMP枯渇するはずだ。
……どうでもいいが、壁穴って言い方はやめよう、
言葉としては普通なのに、ミーム汚染されて妙な気分になってしまっていけない。
「ではロクサーヌ、手近なところに頼む」
「はい」
スローラビット
Lv:10
ニートアント
Lv:10
ニートアント
Lv:10
「俺がスローラビットをやる」
「ニートアントは私達が」
スローラビットもニートアントもあまり積極的に襲いかかってくる魔物ではない。
3人で駆け出して――斬りつける!
「ご主人様!」
「セリー!」
さてもう一撃……と思っていた時、セリーの俺を呼ぶ声の後にロクサーヌの悲鳴が響いた。
前からはスローラビットも飛びかかってくる! なにがあった!?
避けようとして、何かを踏んづけそうになる――セリーの足!
「クソっ!」
避けるのはやめて、咄嗟に剣道の巻き落としの要領で空中のスローラビットを迎撃する。
何年もやっていないのに、身体は覚えているものだな。
「ウォーターストーム!」
振り向きざまに魔法を使いつつ、状況を把握する。
ニートアントが2匹、俺とセリーを守って仁王立ちしているロクサーヌに
「ご主人様、セリーを!」
「ロクサーヌ! これを使え!」
デュランダルをロクサーヌに投げ渡し、空いた手でセリーを抱き上げて距離を取る! ニートアントが飛び掛かる! ロクサーヌが躱しざまに突きを入れる――が、まだ倒せない!
計算上、魔法1発とデュランダルなら倒せると思ったが、ロクサーヌでは微妙に攻撃力が足りないのか!
……間に合え!
「ウォーターストーム!」
水滴と共にアリ共が消え去った。
……良かった。
察するに、セリーは俺を庇ってニートアントの攻撃を受けてしまったのだろう。
情けない話だ。
「すまなかったな、セリー……セリー?」
……様子がおかしい、真っ青な顔、紫色の唇、滝のような汗――毒か!
さっきはチンタラしていたくせに、いきなりスキル攻撃を使ってきたのか!?
急に働き者になりやがって!
「ご主人様、毒消し丸です!」
アイテムボックスから毒消し丸を探していると、横からロクサーヌが差し出してきた。
受け取ってセリーの口に運ぶが……駄目だな、意識が朦朧としているようで、飲み込んでくれない。
「失礼します」
と、ロクサーヌが俺の手からセリーの頭を奪うように抱き寄せて……口づけをした。
粘性の音が響く、ロクサーヌが唾液を送り込む、苦しげな顔のセリーがすがりつくようにロクサーヌに抱きついて、熱い吐息と共に喉が動いて嚥下する。
そして……ゆっくりとロクサーヌの舌が離れた。
「……あっ、す、すみません、ロクサーヌさん。
助かりました」
「ああ、良かったです、セリー」
見つめ合う2人の間で、唾液の橋がゆっくりと崩壊する。
……ま、間近で見ると……すごい……すごくすごい。
俺はこんなすごいことをロクサーヌにしてもらっていたのか。
「すご……すまなかったな、セリー。
助けてもらったようだ」
「いえ、ロクサーヌさんのように上手くいなせなくて」
てらてらと輝くセリーの唇によだれの泡が残っていた、これはロクサーヌのだろうか、それともセリーの? あるいは混じり合った……などと思っている間に、気付いたセリーがそれをぺろっと舐め取ってごくりと飲み込んだ。
……いかんいかん。
あれは人命救助だ、余計なことを考えるな。
「いや、すまない、俺も油断したな。
戦い慣れたつもりになっても、毒持ちの魔物は危険だな、気をつけなければ」
一度、確実にデュランダルで倒せる階層に行って、きっちり回復するか。
大分体力も消耗しているだろうし、俺のMP回復も万全ではないし。
「一度――」
と、考えたことを言おうとしたら、視界が塞がって口の中に何か入り込んできた。
温かいものがひとしきり口の中を弄ってきた後、舌が吸われてチュポっと離れていく。
「――えっと、あの、ロクサーヌ? どうした?」
「……知りません!」
いきなり濃っゆいキスをしてきたロクサーヌが、プイっと顔を背けた。
……ちっ、違うんだ、セリーのことばかりを見ていたわけではないんだ。
人命救助だということはもちろんわかっている、重々承知してはいる。
だが、他人のキスシーン――マウスツーマウスするところを間近で見たのも初めてだったし、まして女の子同士の……などと言えるわけもなく。
その後、MP回復と一緒に〈禁欲攻撃〉をしてきっちり発散した。
そうして冷静になってから、そういえばボーナス呪文に〈パーティライゼイション〉があったな、と思い出した。
名前からして、多分アイテムの効果をパーティーメンバーに横展開できると思うのだが……後の祭りだ。
そして夜は頑張った、すごい頑張った。
……明日早起きなのに。
また、現地民であるロクサーヌ達はコボルトに対して哀れんだりすることはないかもしれませんが、道夫さんがしんどそうにしていたら嫌な気分にはなるでしょう。
本作では、探索ペースが早いため原作では駆除済みの魔物部屋をロクサーヌが発見した、ということになります。
セリー(早くパーティーメンバー増えないかなぁ……)