加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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指導

 

   クーラタルの街

     道夫の家

 

 商談を終わらせて昼に家へ帰った後のこと。

 図書館で糖分を消費しているであろうロクサーヌとセリーのことを考えて、甘味作りをすることにした。

 料理は、たまに凝り性の気分になった時にやるくらいで趣味とかではないのだが、喜んで食べてもらえると純粋に嬉しい。

 

 というか、若い娘がどうしたら喜ぶかよくわからんのよな。

 世の祖父母が、孫にとりあえず食事や甘味をご馳走する気持ちがわかった気がする。

 ……俺の場合、そんな良いもんじゃないか。

 

 憂鬱な気分を振り払って甘味作りに戻る。

 作るのは、小麦粉と卵黄、砂糖、バターを使ったシンプルなバタークッキーだ。

 最初はメレンゲクッキーとかどうかなと思ったのだが、あれはクッキングシートの上で低温で焼くとかしていたと思う。

 焦げて炭になるか、オーブンの板にこびりついて崩壊する未来が思い浮かんだのでやめておいた。

 

 とはいえ卵白が余ってしまうので、メレンゲ作りには挑戦してみた。

 昔1度挑戦して失敗し、だからって電動のホイッパーを買うほどでもなぁ……と挫折していたのだが、出来てしまった。

 ちゃんとツノが立っている、料理動画で見たやつだ、間違いない。

 

 偶然だが、使っているボウルが小さめなのが良かったように思う。

 片手で保持できるから、手元でしっかりかき混ぜることが出来て腰が痛くならない。

 それと、お手製泡だて器の強度が若干不安だったので、針金の数を気持ち多めに作ってもらったこと。

 結果、目が細かいから泡立ちやすい……ような気がする。

 

 ……それにしても、まさか出来るとは。

 まあ、そもそもメレンゲも作れないのにメレンゲクッキー作ろうとか何考えてんだって話なんだが……マヨネーズが出来たしなんとなく出来るんじゃないかという、特に根拠のない自信があったんだよなぁ。

 いや、しかし、本当に出来るとは……。

 

「あの……御主人様?」

「どうかなさいましたか?」

 

 ……メレンゲのツノをニョキニョキさせて感慨に浸っていたら、ハンナとカタリナに心配されてしまった。

 

 とはいえ、火加減の目処も立っていないのにここでメレンゲクッキーに挑戦して、折角出来た可愛い我が子(メレンゲ)を炭化させるわけにはいかん。

 ということで、バタークッキーの卵黄の代わりにメレンゲを入れてクッキーにしてみることにする。

 どうなるかわからんが、変な味にはならないだろう。

 

 普通のクッキー作りには目処が立っている。

 ハンナもカタリナも元々焼き菓子くらいは作ったことがあるというし、俺も在宅勤務中の作業用BGMとして、のんのんびよりはのんすとっぷでりぴーとしていたからな。

 駄菓子屋とほたるんがクッキー作りをする回は数え切れないほど観た。

 

 ……からといって出しゃばったりはせず、焼くのは経験のあるハンナに任せて、大人しく結果を待つ。

 さて、結果は――

 

「このような歯触りのものは初めて食べます」

「口の中で溶けるようで……すごいです」

 

 ――これは……ラングドシャってやつじゃないのか?

 市販のやつはもっと薄くてサクサクしていたと思うが、味と食感に片鱗を感じる。

 というか、バタークッキーもそうだがいまいち歯応えがもっちりしている、多分薄力粉を使わないといけないのだろうが……

 

「美味いなこれ」

 

 大成功といっていい出来だった。

 

   ※   ※   ※

 

 そしてロクサーヌとセリーを迎えに行って、夕食を済ませて、カタリナに淹れてもらったお茶とクッキーを寛ぎながら、2人の今日の成果を聞くことにする。

 クッキーを食べた2人の反応は、言うまでもなく嬉しいものだった。

 

「ハルツ公領は急峻で雄大な山並みと、雪解け水で出来た急流や滝があって、いくつもの景勝地があるそうですよ。

 初代皇帝とそのパーティーが作ったとされる皇家の御用邸が、深山幽谷のどこかに秘されているとか……」

 

 ……あっ、ごめん、その話あんまり聞きたくない。

 多分あの山荘、遮蔽セメントは使っているのだろうが、〈ワープ〉で行けちゃうんだよなぁ……。

 話し出したら行きたくなってしまいそうだから、心の棚に厳重にしまっておく。

 

「それと、ハーフェンという漁村があって、地引網という巨大な網で魚を獲っているそうです。

 旅行者でも参加できる場合があるようで……」

 

 ロクサーヌはまた竜人族とドワーフ族の旅行記を読んできたらしい。

 暖かくなったら一緒に行こうかと、こないだ言ったからな。

 地引網は海水浴場でたまに家族向けのイベントをやっているのを見かけたことがあるが、こっちでもそうなのかな。

 

 話を聞くと、なにか事件があって怪我人が出て、たまたま居合わせた2人が手伝ったそうだ。

 ……竜人族とドワーフ、どっちも力が強そうだ。

 

 地引網には、手のひらより小さい魚は自分のものにして良いという慣例があるという。

 恵体な竜人族は手も大きいらしく、もう竜人族には手伝わせないと網元に泣きつかれたとか。

 なんとなく童話とか落語みたいな雰囲気がある話だ、結構面白い。

 

「そうだな、夏になったら行ってみるか」

「はいっ」

 

 迷宮のある場所でハーフェンという土地の名前は聞いたことがないから、冒険者ギルドはないだろう。

 ……海のことだから、猫人族が詳しいかもしれない。

 今度、コハク商に話を訊いてみようかな。

 

 さて、次はセリーだ。

 

「私の方は状態異常について調べてきましたが……やはり杖に状態異常スキルを付与しても、魔法には影響がないようです」

 

 過去に魔物を麻痺させることがある雷魔法を使って実験されたことがあるらしい。

 灌木とコボルトのスキル結晶で付与できる〈麻痺添加〉が雷魔法の麻痺発生確率に影響を与えるか、という観点での実験だったようだが、変化はなかったようだ。

 ……まあ、そんな旨い話はないか。

 

「わかった、調べてくれてありがとう。

 そうそう、雷魔法と言えばだが……」

 

 ついでに、今日わかったゴスラーのジョブレベルのことを話した。

 

「なるほど、そう遠くないうちに見られそうですね」

「とはいえレベルも上がりにくくなってきたから、いつ魔法使いLv50になれるかはわからんがな。

 その時に、暗殺者の状態異常確率アップの効果があるか試してみるか……」

 

 他に、状態異常になる確率は、石化<毒=麻痺<睡眠の順だろうと言われているらしい。

 そんなに戦闘時間が長くなるような相手と戦う気はないから、毒の優先度は低い。

 だが、睡眠は攻撃を受けると解除されるが、一応敵を止めることはできる。

 

「睡眠状態の間、強力な攻撃をするための詠唱をするのがセオリーです。

 獣戦士のビーストアタックなどは強力ですから、狼人族に人気があるスキルだそうです」

 

 ロクサーヌはセリーに視線を向けると、「そうですね」と頷いた。

 

「ですが、ご主人様の魔法の方が早いですから」

 

 ロクサーヌは特に残念そうな様子もなく言った。

 特にこだわりはないようだ。

 

 ……うーん、悩ましいな。

 眠った後に魔法の発動を止められるか……〈詠唱省略〉のおかげで気軽に使えてしまうからな。

 魔法のクールタイム中に上手いこと眠らせてくれれば良いが、確率で成功するのだからそれも……状態異常値が蓄積していくシステムならともかく。

 それに上手く連携できたとして、ボス戦なら考慮の余地があるが複数の敵がいる時にわざわざロクサーヌの詠唱を待つというのも……。

 

「そもそもロクサーヌなら攻撃を避けながら詠唱ができるような……というかしていたような*1

「……確かに」

「あれはまだ低い階層の敵でしたから」

 

 ロクサーヌが苦笑しながら手をパタパタと振った。

 ……まあそういうことにしておこう、俺はセリーと頷き合った。

 

「ではこちらからだが、空きスロットが4つあるハルバードが手に入った。

 以前話していたとおり、これはセリーに使ってもらう」

 

 アイテムボックスから出してセリーに渡す。

 彼女は片手で簡単に持ち上げた。

 知ってた。

 

「こんな良い装備を使わせていただけるとは、ありがとうございます」

 

 出元は言わないでおこう、反応が読めない。

 

「一応、明日少しだけ使わせてくれ、騎士になれそうなのでな」

「はい、もちろんです」

 

 ちょっと居住まいを正して、今後の展望を考えてみる。

 

「このハルバードには、詠唱中断のスキルは最低限付けたいと思っている。

 あとは俺が魔法を使う間敵を食い止めてほしいから、睡眠か麻痺か石化のスキルを付けるのが良いと思うのだが……そういえば、状態異常のスキルは複数付けても問題ないのか?」

「あの、複数のスキルは……ですが理屈としては問題ないはずです、理屈としてはですが」

 

 ……そうだった、この世界ではあまり1つの装備品に複数のスキルをつけることはやらないのだったか。

 

「まあ、それも実験だな、実験していこう」

「そ、そうですね」

 

 そろそろ実験に対するセリーの好奇心より、失敗した場合の恐怖心の方が大きくなってきたようだ。

 実験という言葉を濫用しすぎたかもしれない。

 ……いや、別に騙しても誤魔化してもいないが、ないったらないが。

 

「さて、あとはスキル結晶だが……」

「明日、ボーデからペルマスクに移動する間に、商人ギルドの方に寄っていただければルーク殿に注文はつけられると思います」

 

 ルークは公爵の御用聞きをしている商人だから、俺がペルマスクに行っていることを嗅ぎつけていてもおかしくない。

 だから、ペルマスクに行っているはずの時間に会うのはよろしくないのだが、確かにその時間なら大丈夫か。

 

「では明日はルーク殿に……ウサギとコボルトと、あと身代わりのミサンガのための芋虫と状態異常のスキル結晶と……他に何かあるかな?」

「セリーさんの装備製造の素材がなくなってしまいそうです」

 

 ではそれをということで、会議は終わりとした。

 ルークに頼めば手数料を取られるが、ハンナのおかげでそれも気にならない程度には稼げそうだ。

 

   ※   ※   ※

 

 

   ご主人様がゾボドリンクの果実を料理に使いたいそうです。

   本で読んだローゼルという花のことだと思うのですが、

   ペルマスクで買えるでしょうか?(ロクサーヌ)

   ↑向こうで商人に訊いてみましょう。(ハンナ)

 

   ※ここから下はご主人様のメモ欄です。

 

   春44日

    AM:ボーデ→ペルマスク

    PM:ベイル3Fで騎士取得

      クーラタル11F

 

 

 

 

   ベイルの迷宮

     三階層

 

 鏡の買付と、コハクとタルエムの売却はすぐに終わった。

 事前に貸衣装を着てボーデに行って、軽く化粧直ししてもらって、用意された長櫃を担いで運んだだけだ。

 合間に商人ギルドに行って、昨日話したようにルークに色々と注文し、幸い装備素材はすぐに用意してもらえた。

 

 タルエムの化粧箱に入ったネックレスは大好評で、親方の奥さんの交友関係から広がって更に2つ注文が入った。

 2つ合わせて50万ナールを超え、60万ナールに届きそうな取引だ。

 ……という報告を、パン屋で売ってる高級パンが定価1斤8ナールだったよな……と考えながら聞いていた。

 

――75,000個

 

 金勘定が絡むからと商人をつけていたから、〈カルク〉が勝手に仕事を始めた。

 ……っていうか、いい歳して発想が少年探偵団のうな重担当と同レベルじゃねえか、泣けてくるわ。

 

 クーラタルに戻ったのは昼前というより、朝の遅い時間というところだった。

 午前の微妙な残り時間は、ハルバードを使って騎士になるために使うことにして、こうしてベイルの迷宮にやってきた。

 槍なんて使うのは初めてだし、目測を誤らずに斧や鉤爪を使う自信はあまりないが、スパイクで突くくらいは問題ないだろう。

 

「ご主人様、あちらです」

 

 

   コボルト

    Lv:3

 

 

「ああ、ありがとう、ロクサーヌ」

 

 そして実際使ってみると、

 

「……やっぱり重いな」

「お気をつけください」

 

 重心が前傾だから、ただ突くだけでも案外難しい、勝手に穂先が落ちて身体が泳いでしまう。

 思い切ってミート優先で短く持つと……これは安定するな。

 うん、これなら斧部分も使える。

 

 ……鉤爪は難しいな、転ばせるくらい大きく穂先を引き寄せるためには、思った以上に踏み込まないといけない。

 とはいえ踏み込むと重心が偏るから、引っ張るのも一苦労だ……下手すると腰をいわすな、これ。

 もっと長く持つ力があるか、短く持って大きく踏み込めるような近接戦闘に対するセンスがないと使いこなせない気がする。

 

「まあ、こんなものか」

 

 そうこうしている間に、コボルトが煙となって還った。

 

 

    騎士:Lv1

    効果:体力小上昇

      :知力微上昇

      :精神微上昇

   スキル:防御

      :任命

      :インテリジェンスカード操作

 

 

「よしよし、騎士になることができたな」

「おめでとうございます、お見事でした」

「騎士は、戦士Lv30と槍で魔物を倒すこと、ですね」

 

 効果は聖騎士をスケールダウンしたような感じだな。

 〈知力微上昇〉は悪くないが、聖騎士まで上げるほどかというと……微妙だな、微上昇だけに。

 スキルについては、〈防御〉はなんとなく想像つくが……〈任命〉とはなんぞや。

 

「セリー、任命と防御というスキルについては知っているか?」

「はい、任命は村長を任命するスキルです」

「……ああ、すまない、前に教えてもらっていたな。

 騎士が勝手に任命することは禁止されているのだったか」

 

 ……ふーむ、使うと対象を求められるが、自分は対象に出来ないようだ、って当たり前か。

 遊び人のことを考えるとできるだけジョブの数を増やしたいのだがな。

 

「防御はしばらくの間防御力を上昇させるスキルです。

 ボス戦の時などに使うそうです」

 

 こっちは逆に対象を取れないから、自分にしか効果がないようだ。

 ぐぬぬ、他人にも使えるなら、ロクサーヌを騎士にするという選択肢も有りかもしれないと思ったのだが。

 回避タンクのロクサーヌは自分の防御力を上げても意味は薄いし、魔物の全体攻撃は〈詠唱中断〉でキャンセルする方針だから……獣戦士としての育成をやめるのはやはり無しだな。

 とすると村長には……公爵に〈任命〉してくれとはさすがにお願いできないしな。

 

 ……いやいや、考えてみれば例の廃嫡された皇太子が村長になっていたとは思えないな。

 〝遊び人皇太子〟と言われるくらいだから皇太子でいる間に遊び人になったはずだ。

 そして、仮に皇太子に〈任命〉スキルを使う騎士がいたら、普通に考えてクビになるだろう……恐らく文字通りの意味で*2

 

「よし、じゃあ……次はロクサーヌもハルバードを試してみるか?」

「えっと、私ですか?」

 

 別に騎士にすることを考えているわけではない。

 色んな武器を試してもらった方が良いんじゃないかと思いついただけだ。

 

「ロクサーヌにはボス戦の時にデュランダルを使ってもらっているが――」

 

 デュランダルには〈MP吸収〉があるから、ロクサーヌが〈ビーストアタック〉を何度も使えるという利点がある。

 その上〈攻撃力5倍〉も付与されているから、ダメージソースとして非常に大きいのだが……最大にして絶対の理由は、〈詠唱中断〉でスキル攻撃を封じてほしいからだ。

 ビープシープの催眠攻撃……妨害の銅剣を5本用意したパーティーをも全滅させた、パーンの全体攻撃……ボスのスキルは非常に危険だと見るべきだ。

 

 そして、ボス戦の時に両手剣にするなら、普段から両手剣を使ってもらって扱いに慣れてもらった方が良い……が、

 

「――デュランダルを出しっ放しにすることはできないのでな」

「ボーナスポイントというものが必要なのでしたか」

 

 相槌を打ってくれたセリーに頷く。

 

 だが、空きのスキルスロットが4つあるハルバードのような装備を手に入れて思った。

 何もデュランダルに拘泥(こうでい)することはないのではないか、と。

 同じ量のボーナスポイントを〈知力上昇〉に注ぎ込んでもダメージ量は増えるし、その方が俺がトドメを刺せる確率が増えるから〈獲得経験値二十倍〉が有効になる。

 

 ……という部分は黙っておく。

 デュランダルに相当する武器を造らされると言われた場合のセリーの精神状態が心配だ。

 聡い娘だし、いつかはやることになると察してはいるだろうが……まあ、一度複数スキルの付与に成功してから話した方が良いだろう。

 出来ると決まったわけでもないしな。

 

「ロクサーヌは重い両手剣は片手剣に比べると得意というわけではないようだし、いっそ別の武器も試してみてはどうかと思ってな」

 

 こないだコボルトを足払いか何かで転ばせていたし、ロクサーヌなら短く持てばハルバードも扱えるのではないだろうか。

 まだ16歳なら筋力も上がるだろうし、レベルだって上がるしな。

 

「……まあ、そもそも詠唱中断がついた片手剣を手に入れてそれをロクサーヌに使ってもらえば良い話ではあるんだが……ロクサーヌってあまり盾を使っていなくないか?」

 

 だって避けられるし*3

 

「えっと、こないだセリーが毒になった時には使いましたけど……」

「いえ、詠唱中断がついた装備で固めるなら有りだと思います。

 ビーストアタックの威力を考えると、ロクサーヌさんに片手剣より強力な武器を、というのもわかります」

 

 そうそう、セリーが俺の言葉が足らないところを補足してくれた。

 

「ですが、十二階層以降は空を飛ぶ魔物も出てきます。

 ご主人様をお守りするのに、盾が必要になる場面もあるかもしれません」

 

 ついでに思慮が足らないところも補足してくれた。

 

「ま、まあ、そのうち前衛は増やすし、俺は後ろの方で魔法を使うことの方が多いからな」

 

 MP回復の時は前に出なくてはならないが、こないだのように3匹の団体ではなく、少ない数の魔物で確実に回復するようにすれば大丈夫だろう。

 そして魔物1匹もまともに対処できない階層まで到達したら、そこが俺の天井だろう。

 

「そうですね……空を飛ぶ魔物のことを考えると、片手剣では届かない場面もありそうです。

 長柄武器か両手剣を扱えるようになった方が良いのかもしれません」

 

 ここまでの会話で納得したらしい。

 ロクサーヌなら若島津くんの三角飛びの要領で対空迎撃も出来そうな気がするが……不用意なことは言わずにハルバードを渡す。

 しかし、コボルトは倒せたものの、

 

「……すみません、随分難しいものですね」

「いや、すまん、俺とロクサーヌの身体の大きさの違いを考慮してなかった」

 

 俺の方が手のひらも大きいし、腕の長さも違うから、どうやら俺が使うより強い力が必要っぽい。

 エルフは力がある印象はないからハルバードというイメージはないが、そういえば揃いも揃って高身長だしなぁ。

 まあ、使い続ければ慣れていくかもしれないし、普通の槍なら大丈夫かもしれないが……。

 

「えっと、仰る通り両手剣の扱いにも長けているとは言えませんので、ご主人様に教えていただくことはできませんか?」

「お、俺にか?」

 

 俺のは剣道の振り方だし、魔物との戦い方なんて当然ながら考慮されていないので、最初は強く当たって後は流れでってな感じなんだが……。

 まあ、振り方とか参考にならないことはないだろうが。

 ……実際、俺みたいなアラフォーデスクワーカーが迷宮で戦えているわけだし。

 

「ダメですか?」

「あ、いや、ダメということはないが」

 

 とはいえ、上目遣いにこっちを見つめるロクサーヌに否定なんかできないわけで。

 俺が頷くと、ロクサーヌは満面の笑みを浮かべて……っとと、セリーを放置してしまった。

 

「ゴホンっ! で、ではセリー、ハルバードを返すぞ」

「……はい、ありがとうございます」

 

 被害妄想かもしれないが、セリーの目が冷たい。

 

「よ、よし、上の階層に行く前に、一度セリーも使い心地を試してみてはどうだ」

「……はい、わかりました」

 

 結果は……身体の大きさとか物理法則とか関係ない、技を超える限りない(パワー)というものを見せてもらった。

 持ってる武器は竜狩りオーンスタインっぽいのに、振り下ろしと薙ぎ払いは処刑者スモウなんよ。

 

「いかがでしょうか?」

「いや、いかがも何も……」

「セリーはすごいですね」

 

 俺とロクサーヌはひたすら感心しているだけだが、セリーとしてはいまいち納得していないらしい。

 

「やはり鉤爪を使うのが難しいですね、何か良いやり方はご存知ありませんか?」

「いや、ハルバードを使うのは俺も初めてだからな……」

 

 それどころか、見るのも初めてだ。

 多分、三国志演義で有名な呂布の方天画戟とか、宝蔵院流槍術の十文字槍の使い方が近いのだろうが、無双シリーズとか時代劇の殺陣くらいでしか知らん。

 あとは、剣豪小説とか漫画とかの聞きかじりくらいだ。

 

「槍の話だが、突くよりもむしろ戻すことを意識する、と聞いたことはあるが……」

「突くよりも戻す、ですか」

「素早く戻さないと、穂先を切り落とされたり、柄を掴まれて奪われたりするからだな。

 ……まあ、魔物がそんなことをしてくるかわからんが」

 

 ロクサーヌが「ニードルウッドのような人型の魔物ならやってくるかもしれません」と指摘すると、セリーも「確かに」と頷いた。

 ……どうなんだろう。

 まあ、穂先をはたき落とすくらいはしてくるかもしれんか。

 

「ありがとうございます。

 素早く戻せるようになれば鉤爪も上手く使えるようになるかもしれませんし、攻撃回数も増やせるので合理的だと思います」

 

 いい加減なことを言ってしまっていやしないかと不安になるが、とりあえず納得してくれたようだ。

 この世界には剣術道場的なのはあるんだろうか……戦士ギルドとかではやっているのかな。

 

「そういえば、ハンナに訊いてみてはどうだろう?」

 

 元々装備を売ってる商人なのだから、扱い方も知っているのではなかろうか。

 そもそも探索者Lv30と商人Lvも20台後半になるまで迷宮に入っていたというしな。

 

   ※   ※   ※

 

「手前はハルバードはありませんが、槍の扱いでしたら経験がございます」

 

 ということだったので、少し長めの昼休みを取ることにして庭でセリーに技術指導をしてもらうことにした。

 流派とかそういうのではなく実戦で磨いたものらしいが、多分俺達3人分を合算したより長い間迷宮に入っているであろう先輩の指導だ。

 十二階層以降の魔物の対処法も含めて、セリーの相談に乗ってくれた。

 

 そして俺は、

 

「ではご主人様、両手剣の指導をお願いします」

「……わ、わかった。

 まずは握り方だが――」

 

 何故か剣道の指導をすることになってしまった。

 ……今度、ロクサーヌがいない時に迷宮に籠もって剣道の動きを思い出そう。

 

*1
もっと言うと、原作ではパーン相手に道夫君と〈ビーストアタック〉の詠唱文を解読しながら戦っています。

*2
 原作道夫君はジョブの数を増やすために村長になりたかったこともあり、ロクサーヌを騎士にしています。

 本作の道夫さんは事前に遊び人皇太子のことを聞いていますから、少なくとも遊び人の条件に村長は不要だろうと判断しています。(実際、皇太子が村長のジョブを持つことは難しいでしょう)

 それはそれとして色んなジョブにはなりたいので、機会があれば〈任命〉してもらおうとはするでしょうが。

*3
原作では道夫君を庇うために何度か盾を使っていますが、道夫さんは魔法重点のため基本的に後ろに引っ込んでいるので、機会は減るでしょう。

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