加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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   クーラタルの街

     道夫の家

 

 降って湧いた剣道の指導の後、昼食に午後の装備製造にと日課を終わらせた。

 剣道の方は……当たり前だが小一時間で何が変わるわけでもない。

 まあ、ロクサーヌがなんでか尻尾を揺らしているから良しとしよう。

 

 そして、午後の迷宮探索の前にお茶にすることにした。

 お茶請けは昨日作ったクッキー、それをロクサーヌ達がペルマスクで買ってきてくれたジャムで味変したものだ。

 夜にロクサーヌとセリーを侍らせている時も、たまに非現実感を覚えてフワフワしたりするのだが、今もそんな感じだ。

 食後に女子達と、甘いもの片手にお茶会的なサムシング、それを俺が?

 ……世界は不思議に満ちている。

 

 まあ、話の内容はただの業務連絡なんだが。

 ……茶会というか昼礼?

 そう呼ぶと、現実感がワッと押し寄せてくるな。

 

「クーラタルの迷宮十一階層は難易度が高いとされています」

 

 これから初めて足を踏み入れる十一階層について、セリーが説明してくれた。

 ……このローゼルのジャムは、梅干し感のせいで俺にはいまいちだな。

 緑茶……いや梅昆布茶の気分になる。

 

「ああ、グリーンキャタピラーだったな」

「はい、十一階層に出てくる魔物の中では一番の難敵です。

 糸に気をつけないといけません」

 

 ベイルの二階層で戦ったが、糸のせいで作業効率が悪くなってイライラした記憶がある。

 今から振り返ると、過剰に恐れすぎではなかったかと思わないでもないが、魔物のレベルが上がるとスキルを使ってくる頻度も上がるはずだ。

 気を引き締め直すべきだろう。

 

 ジャムをたっぷり塗って心なしか口元を緩めているセリーを、「よく言ってくれた」と労う。

 実のところ、似た会話はクーラタルの十階層を突破した時にもしているのだが、くどいようでも警告を発してくれる彼女のような存在はありがたいものだ。

 

「では、そろそろ出るか、安全第一でな」

「はい」

「わかっています」

 

 今日も1日、ご安全に!

 

 

 

   クーラタルの迷宮

     十一階層

 

 移動してすぐ、ロクサーヌが鼻を鳴らした。

 

「近くにエスケープゴートとニートアントの臭いもします」

「十階層と九階層の魔物か、どっちもやりにくい相手だな。

 ではロクサーヌ、最初は慎重にいこう」

 

 ニートアント、エスケープゴート、グリーンキャタピラーの順に、1匹ずつ戦ってみることにした。

 ニートアントは水属性が弱点だから2発で倒せるので、慎重に対処すれば問題ないだろう。

 

 エスケープゴートはやっぱり厄介だな。

 これまでの傾向から予想はついていたが、十一階層からは魔法が4発必要のようだ。

 更に、魔法1発とデュランダルで斬っても仕留められず、かといって魔法を2発当てるとその時点で逃げ出してしまう。

 十階層では魔法1発とデュランダルで経験値効率は悪いものの安定して倒せていたのだが……それで深追いすると、先日のようにニートアントのスキルが怖くなってくる。

 (のが)したところで誰かに怒られるわけでもなし、敵の数が多い時は無理はしないほうが良さそうだ。

 

 そして、問題のグリーンキャタピラーだが、1匹は何事もなく倒せたが、2匹目でスキル攻撃を使ってきた。

 

「すみません、穂先を戻すのが遅れました」

 

 ロクサーヌは当然のように避けて、セリーも避けようとしたものの間に合わなかった。

 本人は無事だったものの、ハルバードが糸に巻かれた影響で身動きが取れず、グリーンキャタピラーの突進を食らってしまったようだ。

 駆け寄りつつ僧侶のジョブをつけて、〈手当〉を使う。

 

「ありがとうございます、もう大丈夫です」

「1回だけしか使っていないが……」

 

 強かに尻もちを打ったセリーが、もう一度「大丈夫です」と言った。

 無理しているなら、そう言ってくれるとは思うが……。

 まあ、セリーが製造してくれたおかげで硬革装備は全員に行き渡っている、その分なのだろう。

 

「武器だけ絡め取られた時は、手放して身の安全を図った方が良いだろう。

 それで壊れたり消えたりするわけでもなし」

「それは……はい、そのようにします」

 

 セリーが立ち上がって「ありがとうございます」と頭を下げてきたので、丁度良い高さの頭を撫でる。

 

「ロクサーヌは問題なさそうだな……ロクサーヌ?」

「あっ、すみません、私は大丈夫です。

 ……えっと、やっぱり盾があった方が良いのかと思いまして」

 

 午前中に武器の換装の話をした後だから、ロクサーヌは色々と考えているようだ。

 

「……あの、ロクサーヌさん、ご心配をおかけしてすみません。

 ですが、本当にそれほどのダメージではありませんから」

「セリーのことは心配だが、それでロクサーヌが代わりに拘束されてしまっては……」

 

 今は素材が揃ったから硬革装備で揃えているが、将来的にはセリーの力ならもっと重武装も大丈夫なはずだ。

 回避タンクのロクサーヌが庇うのは意味がない。

 俺とセリーの言葉に、しかしロクサーヌは首を傾げて、

 

「いえ、私もセリーのように、盾だけを糸に巻き込むことができないかと思いまして」

 

 ……それなんて変わり身の術?

 

 そもそも盾というものは、手で持つだけでなく腕にベルトを巻いてしっかり固定するものだ*1

 それを瞬時に外して、盾だけ残して離脱するような真似ができるとは思えない。

 

 ……ということを、俺達の中で唯一盾を使っているロクサーヌがわからないはずはないわけで、

 

――そんなことできんの?

――見たことも聞いたこともありません。

 

 俺はセリーと視線を交わした。

 心が通じ合っていることを感じる。

 

「ろ、ロクサーヌ、俺達は迷宮に入ってまだ日が浅い。

 今は基本に忠実に、堅実に力を高めていく時ではないかと思うぞ」

「そ、そうです、ご主人様のおかげで、私も日々鍛冶師としての成長を感じます。

 もっと良い防具も作れるはずです」

 

 俺達の言葉に、ロクサーヌは笑顔で「そうですね」と頷いた。

 

「セリーの言う通りですね。

 私もご主人様のおかげで獣戦士として成長していると感じます。

 基本に忠実に、今後も精進して参ります」

 

 そなたはもうじゅうぶんにつよい。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 繰り返すが、十一階層では魔法は4発使う必要がある、ニートアントは2発なのに。

 ニートアントの2倍必要ということは、戦闘時間が2倍に延びるということ……ではなく、実質3倍以上なのである。

 最初の1発目は移動中にクールタイムが終わるから、2発なら実質的な戦闘時間はクールタイム1回分となるからだ。

 

 しかも、戦闘時間が遅延するとセリーが攻撃を受ける機会も増えるから、〈手当〉を使う必要も出てくる。

 要するに、MPを余計に使うわけだな。

 もしもの時のために僧侶をつけっぱなしにしてしまっているが、僧侶はもうLv30になっている。

 

 十一階層までの魔物ではLv30以降になると経験値効率が悪いという話があるから、これは非常に効率が悪い。

 ……カイゼンだ、カイゼンが必要だ。

 

「その……十一階層がニートアントの迷宮を探した方が良いでしょうか……」

「これでも、私が以前のパーティーで迷宮探索していた頃より随分順調ですけれど……」

 

 セリーとロクサーヌの遠慮がちな発言で気付いた。

 自分が苛立っているということに。

 

「すまない、どうにもいけないな。

 ……確かにそうだな、別の迷宮を探すというのも手か」

 

 一旦家に帰ろうか。

 カタリナにお茶を淹れてもらって一服して、ちょっと作戦会議といこうかな……と、〈MP回復速度二十倍〉をつけて休憩モードになるために〈キャラクター再設定〉画面を開いて思い出した。

 そういえば、攻撃用のボーナス呪文があったではないか、と。

 

 

   キャラクター設定

 

   【ボーナス呪文】

    ワープ

    メテオクラッシュ

    ガンマ線バースト

 

 

 いや、以前試した時は発動自体しなかったので、攻撃用というのは推測だが。

 ツングースカ大爆発とか超新星爆発とかの規模だったら、それはもう攻撃とかいう次元ではないが、さすがにそんなことは起きないだろう。

 

「ちょっと試したいことができた。

 ロクサーヌ、魔物が1匹だけいるところに案内を頼む」

「あ、はい、わかりました」

 

 そうして案内してもらっている間に、探索者の他に英雄、魔法使い、僧侶、色魔、賞金稼ぎのMP上昇ビルドに設定しておく。

 あとはMP枯渇した時のために〈MP回復速度二十倍〉を、ペルマスクに行くときと同じだな。

 

「ご主人様、あちらに」

 

 

   グリーンキャタピラー

      Lv:11

 

 

「よし、2人はちょっと待っていてくれ」

 

 怪訝そうな2人を尻目に魔物の前に出て……今更ながら、もし発動しなかったらどうしよう? という懸念が頭をよぎったので、詠唱はせずに、

 

(メテオクラッシュ!)

 

 対象の指定は求められない、ダメかな?

 ……いや、発動した! MPがごっそり持っていかれた!

 周囲が赤い、夕焼けのようだ。

 

『ご主人様っ!』

 

 見上げると、そこには無機質の天井ではなく、夜空が広がっていた。

 その一点に、灼熱した岩のかけらがあった、溶岩のように赤く燃えたぎった隕石が、夜空――いや宇宙空間に輝いている。

 それが……大きくなる! 落ちてくる!

 空気を切り裂く轟音を発しながら、火の粉を撒き散らしながら、周囲を赤く燃え上がらせながら、突き進む岩はやがて――グリーンキャタピラーを押し潰した。

 

「――人様っ!?」

「――すか、今のは!?」

 

 ……まるで迷宮自体が悲鳴を上げているかのような鳴動が終わった。

 赤い光景はいつしか元通りになり、そして……何もなくなった、星空も、隕石も、魔物も。

 いつもの迷宮内だ。

 慌てた様子のロクサーヌ達の声も、耳に入ってくるようになった。

 

「新しい魔法だ、メテオクラッシュという」

「こんな魔法も持っておられたのですね、さすがはご主人様です」

「で、でも一撃ですよ!?」

 

 正直なところ……猛烈に感動している。

 まるでコスモキャニオンのプラネタリウムを見ているような、いや実際に入り込んだかのような気分だ。

 初めてやったプレステのゲームがFF7だったから、一層心に残っている。

 あの後グラフィックのすごいゲームはいくつもやったが、年取って振り返るとゲームで一番感動したのってあのシーンだった気がする。

 ……まあ、過去を美化しすぎているだけかもしれんけど。

 

「初めて使ったというか、使えるようになったんだが……消耗が激しいな」

 

 体感としては、こないだニートアントのサボり部屋に〈ウォーターストーム〉を1発叩き込んだ時と同じか、若干少ないくらいだろうか。

 1匹でこれだから、MP消費は十数倍くらいかな、慎重を期して1匹で試して良かったとホッとする。

 

「とても普段使いできるものではないようだ」

 

 ……まあ、ストレス解消と緊急避難と思えば良いか。

 

「それでも……素晴らしい威力でした」

「火属性か土属性でしょうか?

 どちらにしてもグリーンキャタピラーには弱点属性がありませんから、普通の魔法の約4倍か、それ以上の威力があることは確定ですか……」

 

 とにかくスッキリした。

 

 冷静になって考えると、今非効率だと感じているのは、レベルの低いジョブのレベル上げと探索、そして賞金稼ぎの〈生死不問〉の成功を並行しようとしているからだ。

 十二階層以降ならレベルを気にせず、単純に強いジョブで戦えば良い。

 育ってないジョブのレベル上げをするなら、セリーが言ってくれたように別の迷宮を探せば良い。

 業務の細分化は効率化の基本だ。

 

 ……〈生死不問〉は、もう気長にやるしかないだろう。

 風呂を沸かす時や、セリーの装備製造の時のMP回復のついでとかだな。

 即死攻撃なら、多分低レベルの魔物の方が効きやすいような気がするし。

 

 一旦家に帰って小休憩を取ってから、ジョブを探索者、英雄、魔法使い、色魔、錬金術師、防具商人にしてみる。

 既にLv30で〈知力小上昇〉の商人ではなく、まだ育ってなくて〈知力微上昇〉の防具商人にしてしまうあたり、利根川幸雄に「道夫君の心の贅肉……」と説教されそうな諦めの悪さがあるが、とにかくこれで無事に魔法3発で倒せるようになった。

 戦闘時間が減れば被ダメも減るし、メッキも使えるからより安全だ。

 

 その日は予定通り、クーラタルの迷宮十一階層を突破した。

 〈ガンマ線バースト〉は発動しなかったが……まあそのうち試すとしそう。

 そんだけMP食うと、なにかとんでもない現象が発生しやしないかと不安になってくるんだが。

 ……放射線とか大丈夫だろうな。

 

 そして、明日は予定通りベイルの迷宮十一階層を攻略し、明後日ペルマスクからの帰り道に冒険者ギルドに寄って、ニートアントが十一階層にいる迷宮を探すことに決めた。

 確率11分の1だから、中継地点に使っている迷宮が実はそうだったということも十分期待できる。

 ついでに、魔王軍の幹部が住み着いている廃城とか見つからないものか。

 1日1回、メテオクラッシュを叩き込め(エクスプロージョンすれ)ば気分もスッキリすることだろう。

 

   ※   ※   ※

 

 

   申し訳ありません、見様見真似で試してみましたが、

   めれんげというものが作れませんでした。(ハンナ)

   バタークッキーは再現できました。(カタリナ)

   ↑お疲れ様です。

    ご主人様に聞いてみましょう。(ロクサーヌ)

 

   ※ここから下はご主人様のメモ欄です。

 

   春45日

    終日:ベイル11F

 

 

 

 

   ベイルの迷宮

    十一階層

 

 この階層ではスパイスパイダー、その下の階層のニートアントもよく出現する。

 ……ここ数日、殆ど虫としか戦っていないぞ。

 

 虫は別に苦手ではない。

 これでも日本では7年近く戸建てに住んでいたのだ、クモとアリが苦手だったら戸建てになんか住めないからな。

 ……というか、住み始めてから悩まされて慣れただけだが。

 

 だが、どっちも毒持ちだったら話は別だ。

 例えばセアカゴケグモとヒアリが出没する戸建てだったら、とてもじゃないが住めないだろう。

 

 

   スパイスパイダー

      Lv:11

 

 

 スパイのように天井に張り付く1匹と、

 

 

   スパイスパイダー

      Lv:11

 

 

 

   ニートアント

     Lv:11

 

 

 

   スパイスパイダー

      Lv:11

 

 

 地を這う3匹の毒虫。

 スパイスパイダーは特に弱点はないので、ニートアントの弱点の「ウォーターストーム」で……今沈んだ。

 あとはクモが3匹。

 地上の2匹はロクサーヌとセリーが相手をしてくれているが……もう1発使う(クールタイムが終わる)前に――「セリー! ご主人様を!」――天井を這ってこっちに――「はいっ!」――落っこちた!? いや、跳んできた! ハエトリグモかよ!?

 

「ご主人様っ!」

 

 こっちも反復横跳びの要領で躱そうとした直前、クモはハルバードのスパイクで串刺しにされた。

 そのままけん玉みたいにブン回されてブっ飛ばされて、床にボトッと落ちた後、今度はセリーの振り下ろしだ。

 ……俺がこれをくらったら、身長がセリーより低くなるな。

 

 これでもまだ動いているのだから不思議だ。

 魔物がタフというか、魔法が強いというべきか。

 

「ウォーターストーム」

 

 もうニートアントはいないので水属性じゃなくても良いのだが、惰性で使った水属性魔法が発動して、ロクサーヌが食い止めていた2匹もまとめて水泡に帰した。

 

「ふぅ……ロクサーヌ、セリー、助かった」

「スキルは使っていませんでしたから、差し出がましい真似かと思いましたが……」

 

 遠慮がちに言うロクサーヌに、いやいやと手を振る。

 

 スパイスパイダーはニートアントより毒攻撃を使ってこないと言われているそうだ。

 実際、この階層に入って小一時間経っているが、使われる前に倒している。

 その代わりか知らないが、アリよりクモの方が働きものというか動きがトリッキーというか、対応し難いと感じる。

 巣でも構えてデンっとご在宅していてほしいものだ、こっちから魔法をお届けにあがるので。

 

 ともあれ、毒関係なしに天井からあの大きさの物体が落ちてくるだけでビビるので、もう一度2人に「助かった」と礼を言っておく。

 

「ロクサーヌもよく2匹を相手にしてくれた」

「いえ、問題ありません」

 

 毒は厄介だが、グリーンキャタピラーの糸のような迷惑遅延行為はないので探索は順調に進んだ。

 幸運もあるが、その日のうちにベイルの迷宮十一階層を突破することができた。

 

 

 

   クーラタルの街

     道夫の家

 

 ……深夜に目が覚めた。

 

 睡眠は90分周期でレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返すというが、多分最初の90分で起きたな、という感覚がする。

 年取ってから眠りが浅くなったのか、割と些細なことでこうなるようになった気がする。

 暑いとか寒いとか、低気圧で耳鳴りがするとか。

 

「ごしゅじん、さま?」

 

 気配を察してロクサーヌも起きてしまったようだ。

 

「ちょっとトイレだ、ゆっくり寝ていてくれ」

 

 思いっきり寝られるのは若い内だけなんだよ……。

 ロウソクと燭台を用意しようとするロクサーヌをベッドに押し留めて、セリーも起こしてしまわないように慎重に起き上がる。

 

   サイドテーブル   

   寝間着   

   寝間着   

   寝間着   

   水差し   

   コップ   

   燭台   

 

 うん、〈鑑定〉使って位置関係を把握しながらなら大丈夫だな。

 

   サンダル   

   マット   

 

 魔法を使えば火も灯せるが、燃えるものが何も無い風呂場ならともかく、借家の寝室で火を使うのはちょっとな。

 魔法は火加減できないから怖い。

 

   柱   

   ドア   

   柱   

 

 まあ、水もすぐ出せるから、そうそう大惨事にはならないだろうけど。

 ……こうして暗闇でソロソロと歩いていると、アランの商館で用心棒をやった夜を思い出すな。

 

   柱   

   手すり   

   階段   

   手すり   

   柱   

 

 あの時は〈等量交換〉を試して……骨がひしゃげて肉が弾ける音、血と臓物の臭い……夜中にトイレに行きながら思い出すもんじゃないな。

 ブルっと震えがきて、足を早める。

 

   柱   

   ドア   

   柱   

 

 昼間はハンナ達がメレンゲを上手く作れないということで、俺がやってみたら何故か上手くいった。

 汚れや水滴があると卵白は泡立たないと言うから、慎重に拭き取って試したがそれが良かったのか。

 ついでに思いつきで、生地にミルで砕いたナッツを混ぜて焼いてみたら、香ばしくていい感じのクッキーが出来上がった。

 今度はフロランタンとか試してみようか、カラメルソースはカルメ焼き作りのちょっとした応用で作れると思うし。

 

 …………ふぅ。

 

 トイレが近くなったのも、それが遠因だと思う。

 甘いものと一緒に、お茶を飲む機会が増えたからな。

 カフェインが効いている感じはしないが、利尿作用のあるハーブとかが入っているのかもしれない。

 まあ、この世界で尿結石になったらどうしていいかわからないので、いっぱい飲んでいっぱい出すのは悪いことじゃないが。

 

   サンダル   

   ゴキブリ   

 

 じゃあ風呂場で手を洗って、ついでに水瓶の水を…………ん?

 

   サンダル   

 

 ……今なんかいたよなぁ!?

 

*1
 ロクサーヌの盾の持ち方については、原作漫画で前腕をベルトに通して取手を持っていることが確認できます。(5巻の『石鹸①』の回が1番大きく描かれているかも)

 また、たまに道夫さんがデュランダルをロクサーヌに渡す時は、盾を前腕に付けたまま両手でデュランダルを持っているものとします。(システム的には盾を持っているだけで装備していない状態)




書籍版を履修していない読者の方に補足すると、家にゴキブリが湧くイベントは書籍版5巻で加筆されたエピソードです。
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