玄関と勝手口の扉の建付けが悪いので、
開閉時はご注意ください。(カタリナ)
↑あの……ご主人様でも扉を開けられないと。
それと、さすがに扉の全周に皮を貼るのは
やりすぎでは、と。(ロクサーヌ)
↑すみません、光が漏れていたので
念入りに塞いだ方が良いかと……。
至急調整します(セリー)
※ここから下は御主人様の備考欄です。
春47日
終日:新迷宮11F
※明日はボーデに行くので早寝すること。
シュポワール
南の森の迷宮
十一階層
「確かにニートアントの臭いがします」
「他のパーティはいないか?」
「……今日ここを通ったのは、私達以外はさっきの冒険者だけだと思います」
昨日はペルマスクからの帰り道、ついでに迷宮を探していた。
条件はレベル上げに適した、ニートアントが十一階層の迷宮。
幸い、何度か中継地点に使ったことがある迷宮がその条件に合致していた。
ただし、俺達が未到達の十一階層に行くためには、銀貨11枚が必要だった。
いつぞやこの迷宮まで案内してもらった冒険者に連れてきてもらった。
一階層がエスケープゴートという倒し難い魔物のため、コミュ強が囲んで棒で叩く出会い系迷宮だと説明してくれたおっさんだな。
俺の場合、ずっと行きたい階層に〈ワープ〉で迷宮に不法侵入していたからすっかり忘れていたのだが、迷宮は入る時に階層を選ぶことができる。
が、それが出来るのは探索者か冒険者だけで、それも一度入ったことのある階層だけだ。
ベイルの迷宮のような探索者ギルドが管理する迷宮では入口にいる探索者が、探索者ギルドが管理していない迷宮では冒険者がその役を担っているわけだが、一階層につき銀貨1枚という取り決めがあるそうだ。
俺としては、それだけで11枚かぁ……とちょっと思っただけで別に値切るつもりはなかったのだが、冒険者のおっさんは「規定の料金だ、今度はボッタクリじゃないぜ!?」と余計な一言まで添えてくれた。
やっぱりこないだボッてたのか……と思ったが、昨日ロムヤの話を聞いた後だから寛大な気分になった。
それに、状況を察した
……災害救助の時、まあ緊急事態だしってことで町内会の避難訓練とか草刈りとかの感覚で請け負ったんだが、断ったら奥から怖いお兄さんでも出てきたんだろうか。
日当1,000ナール――銀貨10枚は、冒険者を1日拘束する値段としては安すぎると思う……いくら命の危険はないとはいえ*1。
公爵達は金をケチりそうな感じがしないから、もしかして冒険者ギルドでピンハネしてるんじゃなかろうか……なんてのは、さすがに下衆の勘繰りか。
加えて、後から振り返ると集まった冒険者が野郎ばっかりだったってのも、なんとも物悲しいというかなんというか。
……今更どうでもいいけどさ。
「ニードルウッドとグリーンキャタピラーもいますね」
「十階層と九階層の魔物ですね」
「……おかげで人気がないというわけだな」
ニートアントだけなら魔法使いにとっては良い狩り場だと思うが、ニードルウッドは水属性に耐性がある。
クーラタルの迷宮九階層と同じだ。
そしてグリーンキャタピラーについては言うまでもない。
「ニードルウッドはクーラタルの迷宮八階層以来だな」
「ここまで来ると、
クーラタルの迷宮で戦った時は、丁度ひもろぎのロッドを手に入れたタイミングだったから、魔法2発で倒せていた。
接敵時間はせいぜい30秒だ。
おかげで、特になにかしてきたという覚えがないのだが、いい加減そうもいかないだろう。
「とりあえず、ニートアントだけがいるところに優先して案内してくれ。
MP回復する時はニードルウッドに、グリーンキャタピラーはできるだけ避けよう」
「わかりました」
「セリーはマッピングも頼む、ボスのハントアントと戦いたい」
「ボスの周回ですね、了解です」
いくらニートアントがいると言っても、ダメージ効率が悪いこの迷宮にやって来たのはそれが目的だ。
ハントアントもニートアントと同じく水属性が弱点だし、デュランダルがなくても1匹だけの毒攻撃ならロクサーヌが引き付けてくれればなんとかできるはずだ。
……。
…………。
………………。
何度かニートアントの群れを快調に蹴散らした後、そろそろMP回復を……というところで、
ニードルウッド
Lv:11
ニートアント
Lv:11
ニートアント
Lv:11
ニードルウッド
Lv:11
「アリを片付けてからMP回復する」
「はい」
アリが木の根元で休んでいるような構図だった。
……いや、もしかしてニートアントはニードルウッドに掴まって移動を楽しようとしている?
ちょっと気になったが、折角の先制攻撃の形を崩したくないので、
「ウォーターストーム」
魔法を使うと、ニードルウッドのうち1体が大股で向かってきた。
アリ2匹はノロノロしている、こいつらはホントに働かないときは全く働かない。
それは良いのだが、
「魔法陣です!」
「魔法が来ます!」
前に出たロクサーヌとセリーが警告すると、その場に留まっていた方のニードルウッドから水球が発射されて、
――バガッ!
水の音とは思えない鈍い音をさせて、水球が床に落ちて弾けた。
離れた俺のところまで水滴が跳ねる。
……そう、水球は床に落ちた。
狙われたロクサーヌは首をクイっとさせて避けた、お前は西住隊長か。
ボール系の魔法って、繰気弾という程じゃないにしてもある程度の追尾性があるんだが……。
「ウォーターストーム」
これでアリが脱落……したな。
恐らく弱点属性は効果2倍、耐性属性なら効果半分になると思われるので、ニードルウッドには都合1発分の魔法ダメージしか入っていないと計算できる。
それではデュランダルで斬っても一撃では倒せない。
「すまん、もう少し頑張ってくれ」
「はいっ」
「大丈夫です!」
どうやら問題なさそうなことを確認して……「ファイヤーストーム」、これで大丈夫のはずだ。
「よし、あとは俺が――」
と言って駆け出すと、前に出てきていた方のニードルウッドの足元に魔法陣が展開された。
今から距離を取るのは――無理! なら、いっそ、この、まま!!
樹上に出現する水球、被弾面積が狭くなるように身を低くしながら、剣を――
「ご主人様!」
――ゴッ!
突きの手応えの後に、肩から背中にハンマーでぶん殴られたような衝撃がやってくる……脱臼しそうだ。
「ご主人様!」
「ロクサーヌさん! あっちも!」
もう1体の方も魔法陣を出していた。
ロクサーヌが盾を構えて俺を庇おうとする。
「いや、大丈夫だ」
デュランダルの回復が間に合ったのか、痛みはそれほどでもない。
今度は回り込むように走り込む、現れた水球は――立ちはだかるロクサーヌの方に向かって、また空振りした。
そして俺が袈裟懸けにして、最後のニードルウッドも煙に還った。
「ふぅ、肝を冷やしたな。
……しかし、すごいなロクサーヌは、魔法も避けられるとは」
「それも2回も」
俺とセリーの賛辞に、しかしロクサーヌは苦笑いして「とんでもありません」と手を振った。
「最初の方は距離がありましたし、魔物の方も牽制に使っただけで当たるとは思っていなかったでしょう。
2回目はしっかり身構えていましたし、私とご主人様のどちらが脅威かもわからない愚物です。
狙いもいい加減なものだったでしょう」
「…………そうか」
セリーがドロップアイテムを拾って持ってきてくれたので、一応確認する。
――どう思う?
――しっかり狙ってました。
お手上げポーズで首を振るセリーに、だよな、と頷きを返す。
ロクサーヌ的には、偏差射撃くらい決めないと狙っているうちに入らないのだろうか……いやだから追尾性あるんだってば。
「それよりご主人様、体をお拭きしないと……」
「あ、ああ、ありがとう、ロクサーヌ」
そういえば身体がぐっしょりだ。
散々魔法で風呂を沸かしておいて今更だが、魔法で出た水はそのままなんだった。
「少し肌寒いし、ついでにカタリナにお茶でも淹れてもらうか」
「鎧も脱いだ方が良いので、それがよろしいかと」
MP回復も若干不十分な気がするし、丁度良いだろう。
クーラタルの街
道夫の家
「……デュランダルで斬ったら魔法が消えるかと思ったんだが」
「魔法によって現実に作られたものは、魔力がなくなっても消えませんから」
香茶で暖まりながら言った俺の言葉に、セリーがそう答えた。
〈詠唱中断〉でキャンセルできるのは、あくまで詠唱そのものというわけだな。
もう発動し、発射された水球にまでは影響しない、改めて考えれば至極当然だ。
だから、命中前だったら水球が消えないまでも、運動性は失われるんじゃないかとなんとなく思ったんだが。
追尾性はなくなるかもしれないが、一度ついた加速度まで消える理由はないといえばそうか。
……いずれにしても、身構えていても避けられたとは思えないが。
「そうなると、詠唱中断がついた装備を揃えたとしても、発動前にスキル攻撃を封じるというのは難しそうだな」
今回の場合だと、ロクサーヌにデュランダルを持たせていても、発動前にニードルウッドを斬るところまではいけなかったと思う。
他の敵の後列から撃たれたからな。
自分がやっていることを相手にやられると異様にむかつく。
「状態異常攻撃も難しいかと思います」
横からハンナが言った。
彼女はさすが本職という手慣れた手付きで硬革の鎧を手入れしてくれている。
「ニートアントのスキルは、爪や牙に毒属性を付与していると考えられています」
『なるほど』
俺とセリーの声がハモった。
そうなると、発動後にキャンセルしても結局躱すか防ぐかしないと毒自体は防げないことになる。
敵によっては通常攻撃でも毒になるし、毒にならないからといって基本攻撃は防ぐから、対処は変わらないとはいえ。
その辺りのことを話して認識合わせすると、セリーが考えこんだ。
〈詠唱中断〉装備で固めたい意向は話してあるからな。
「ロクサーヌにデュランダルを使ってもらった時のボス狩りが順調だったから、ちょっと見積もりが甘かったかな。
……まあ、ボス相手なら詠唱中断装備があれば大丈夫か」
「いえ、十二階層からはボスと共に雑魚も出てきますから……」
「……とすると、結局地道に武器も防具も揃えるしかないわけだな」
リアルでオワタ式なんてするつもりはないから、防具も当然揃える予定ではあるが、優先度は心持ち上げる必要があるかもしれない。
「ともあれ、魔法をくらったのは初めてだったが、1発でどうこうという程ではないようだな」
まあ、後頭部とかにもらったらぽっくり逝ってしまうかもしれないから、とても油断はできないが。
それにしっかり身構えていても、何度も当たってたらウン年後にパンチドランカーで廃人になるかもしれん。
ロクサーヌは躱せるから良いが、俺とセリーはなぁ……。
「……そういえば聖銀を用いた装備は魔法に耐性があるのだったか?」
「はい、あとは属性耐性のスキルを装備に付与する方法があります」
「で、状態異常も各種耐性スキルがあると」
全属性と全状態異常の耐性装備は最低限揃えたいよな。
……とは今は言わない。
防具の部位の数から言って、複数スキルを付与することは確定だしな。
で、そのためには空きスロットがいっぱいある高ランク装備が必要だから、結局やっぱり地道に装備を更新していくしかないわけだな。
……うん、気長にやろう。
その日は1日かけたが、結局ボス部屋まで行けなかった。
敵を選びながらの探索だと、なかなか快調にとはいかない。
続きはまた明日だな。
※ここから下は御主人様の備考欄です。
春48日
AM:ボーデ→ペルマスク
PM:シュポワール11F
ボーデ 城下町
コハク商
その日は心持ち早目に家を出た。
ペルマスクに行くのはこれで最後になることを伝えなければならないからだ。
日の出も早くなっているし、まあ問題ないだろう。
「これはミチオ様、お早いお着きで」
「いや店主殿、申し訳ない」
初老の猫人族であるコハク商の店主は、愛想良く笑いながら「いえいえ」と手を振った。
「手前共は早起きがあまり苦になりませんので」
そういえば、飼い猫に起こされるって話は聞いたことがあるような。
猫人族の種族的な特徴だろうか、ちょっと羨ましいな*2。
店主と同じく、寝起きの倦怠感など感じさせない猫人店員に、いつも通りロクサーヌ達の化粧直しを頼む。
そしてそれを待っている間、コハク商と話をさせてもらった。
「今日早くお邪魔したのは……実は――」
と、短期間で鏡を買いすぎたから次の取引に時間が要ること。
そして、向こうで人気が出過ぎて探られるような真似までされていて少々
「――ということで、コハクとタルエムの仕入れは今回で最後ということにしたいのだが」
「ほうほう、それほどまでに……」
エルフ武器商人と別に話せて良かった……まあ、それを狙って早く来たんだが。
コハクとタルエムでは、利益率という意味ではタルエムが上だが、コハクは額が文字通り桁が違う上に嵩張らない。
仕入れ価格の件はハンナの機転でひとまとめに交渉できたが、今後どうするかという話になると温度差があるかもしれない。
「なるほど、かしこまりました。
当方としても、売れ行きが良いのはありがたいのですが、古くからのお客様を蔑ろにするわけには参りませんから……」
もうそろそろ……と思っていたという。
それもそうか、コハクの供給量には限りがあるだろうからな。
……自分で冒険者を雇った方が儲けが大きいからそう言っているだけかもしれないが。
そうこうしている間に、エルフ武器商人がやってきた。
最初は奥さんと従業員が2人、次は従業員のみと減っていって、今日は1人のようだ。
それも都合が良いなと思いながら、同じ話をする。
「な、なるほど、今回が最後と……」
「手前共としても、公爵閣下から迷宮探索への合力を依頼されるような冒険者の方を、商いに掛かりきりにさせるわけには参りません。
むしろ、これまで良くお引き受けいただいたものだと……」
好々爺然としたコハク商が細い目を更に細めて武器商人に同意という名の同調圧力をかけると、彼は「そ、それはもちろん」と大きく頷いた。
ナイス援護射撃だ。
「だ、だが、ペルマスクとの交易は今後も続けたいと思っている」
……おや、こっちが前向きなのか。
まあ、コハクより木材のタルエムの方が供給量も多いか。
「あー……この場合、公爵閣下の委任状をそのまま使うわけには……」
「それはもちろん、改めて御許可を賜る必要がありましょう」
……だよな。
武器商人としては、前任者である俺に口添えしてもらって、コハク商も一緒に願い出てもらいたいようだ。
元々公爵から紹介があったのもコハク商の方だしな。
それに、冒険者を雇うのにも一枚噛んでほしいのだろう。
ゴスラーも言っていたが、冒険者を数人、それも常雇いとなればそれなりの金が掛かるだろうしな。
「……コハクの産出は海任せ、波任せの部分がありますし……古くからのお客様を蔑ろにするわけにも……お互い客商売ですから、おわかりでしょう?」
「それは……まあ」
「……とはいえ、折角ミチオ様に作っていただいた新しい御縁も……無下にすることは……」
苦慮した顔のコハク商の溜めが入ると、武器商人が前のめりになる。
「……そう、ですな……こちらに余裕がある時に、商品を運んでいただけるのであれば……」
「そ、それはもう!」
「商売柄、冒険者のお付き合いは貴方様の方が多いでしょうから、そちらはお任せしたいのですが?」
「もちろんお任せいただきたい!」
はっきりとした上下関係が構築されているような……。
儲けが大きいのは絶対コハク商の方なのに……足元見られちゃって……。
……初めてロクサーヌと会った時、アランに手玉に取られている時の俺も、こんなんだったんだろうなぁ。
「ところで、実はミチオ様。
お譲りいただいた鏡を用いて、手前共も意匠を凝らした逸品を作ろうとしているのですが……」
「なるほど?」
買わんぞ。
そもそも、ゴテゴテした高い鏡を買うのが嫌だったことからこの一連のイベントはスタートしているんだからな。
……どうしてこうなった?
「元を辿れば、ミチオ様と公爵閣下のお陰で手に入ることが叶ったのですから、最初の品は公爵閣下に献上するのが筋であろうと、そのように心得ております」
コハク商の提案としては、武器商人も一緒に鏡を献上して、その時に委任状の件を願い出てはどうか? ということだった。
なるほど、公爵が領内で鏡が希少性を高めるために独占しようとしても、こう出られたら気を使わざるを得ないことだろう。
「そ、そういうことであればこちらも献上を……」
果たして、明後日俺が鏡を届けた後で、公爵に献上しに行くことに話はまとまった。
……商人って、怖いね。
クーラタルの迷宮
九階層 待機部屋
午前中にはペルマスクから戻ってシュポワールの迷宮の探索を続け、とうとうボス部屋まで到達した。
まず一度、デュランダルを使って十一階層のハントアントが問題なく倒せることを確認した。
弱点属性があるから、クーラタルの迷宮十一階層のホワイトキャタピラーより確実に早く倒すことができた。
そこまでは予想通りだ。
そして午後からはデュランダルを使わずにハントアント周回をする。
これは多少怖いので、行ったことのある迷宮で一番レベルが低いハントアントで、つまりクーラタルの迷宮九階層で練習することにした。
人が多い階層なのだが、待機部屋には人がいなかった、あまり人気があるボスではないらしい。
「ハントアントのスキルは、尻から毒液を噴射する攻撃です。
これは当たれば確実に毒になると言われていますし、通常攻撃でも毒を受けます」
「これまでは通常攻撃で毒になったことはなかったな」
ハントアントとはこれまで3回戦っていて、ロクサーヌのおかげでスキル攻撃は一度も見ていないが、普通の攻撃はセリーは何度か被弾している。
「それほど確率は高くないと言われていますが――」
「――油断は禁物、だな。
俺もすぐ使うようにするが、毒消し丸はすぐ取り出せるようにな」
『はい!』
……。
…………。
………………。
ニートアントは日本でもそこらへんで見かけるクロアリのでっかい版だが、ハントアントは背中に3本のトゲが生えている。
トゲアリという名のアリがいたような気がするが、こんな感じだろうか*3。
そして大型犬くらいのニートアントより更に大きい、見上げるほど大きい。
EDFの出動が待たれるが、いないのでウォーターボールで戦う。
できればライサンダーが欲しい、AF100でもいい。
――キァァァアアアッ!
煙と共に甲高い鳴き声が響いて、それは現れる。
ハントアント
Lv:9
いち早く飛び出したロクサーヌが「来ます!」と警告する。
俺達3人が手を繋いでも届かないような直径の尻、その下で魔法陣が輝いていた、いきなりか!
ハントアントがロクサーヌに向けて巨尻を突き出すので、その方向から退避する。
――シュパゥ!
ロクサーヌにはもちろんかすりもしていない。
結城隊員も殉職しなかった。
「ウォーターボール」
水球が頭にヒットすると、触角をチロチロと動かしてからこっちを見た。
だがロクサーヌが立ちはだかり、セリーのハルバードが断頭台のように振り下ろされる。
これで水球の方がダメージが大きいようなのが不思議だ。
「ウォーターボール」
ストーム1のようにローリングはしないが、巨大生物の射線に入らないように回り込みながら魔法を使う。
階層が上がって全体攻撃魔法を使う機会が増えたが、単体攻撃魔法はMP消費が少ない気がする。
まあ、そうじゃないとストーム系の魔法が優遇されすぎているからな。
その点でもボス周回は悪くないな……おっと。
「来ます!」
「来るぞ!」
後ろからだと、魔法陣がよく見える。
今度の狙いは――セリーのようだ。
駆け出すセリーに狙いを定めるように尻の位置が横滑りする。
――ダンッ!
――シュピッ!
避けられないと見たセリーは、尻にハルバードを振り下ろして射線を逸らした。
「セリー!」
だが逸らしきれなかったようだ、ロクサーヌの切羽詰まった声が響く。
(パーティライゼイション)
毒消し丸
予めセットしておいたボーナス呪文の〈パーティライゼイション〉を使って、毒消し丸を指定する。
すると丸薬がするっと手に飲まれるように消えた。
「セリー! 無事か!?」
「大丈夫、ですッ!」
返事と同時にセリーの掬い上げを顎に食らって、巨大なハントアントがのけぞった。
元気いっぱいだ。
「ウォーターボール」
デュランダルなしでも戦線は安定している。
程なく倒せるだろう。
……。
…………。
………………。
「みんな、無事か?」
「はい」
「大丈夫です」
息を弾ませているセリーには、〈手当〉を3回使った。
これを含めても、MP効率はかなり良いのではなかろうか。
索敵にかかる時間も短縮できるしな。
「セリー、毒液はもっとギリギリまで引き付けると良いです」
……ああ、あっさりと避けたロクサーヌとセリーの差はそれか。
回避中の相手に偏差射撃くらいはしてくると。
ロクサーヌは発射を見てから回避ができるから、その心配はないわけか。
……それができれば、苦労はしねェ!!!
「あー……そうだな、魔法陣が発動してから何秒、尻を向けられてから何秒、とかでタイミングを覚えるのも良いかもな」
「なるほど、やってみます」
反射神経ゲーではなく覚えゲーに落とし込めば、多分俺にもできる。
セリーにもそっちの方が向いていると思う。
……タイミングまでランダムだったらお手上げだけどな。
「まあ、パーティライゼイションで俺が治すこともできるし、そのうち詠唱中断装備も手に入るから、あまり無理をしないようにな。
それに、振り下ろしで射線を逸らすというのも狙いは良かったと思うぞ」
「そうですね、後ろまで毒液が飛んでいませんでしたから」
あれで左右に逸らされたら大惨事が発生したかもしれない。
だが下に逸らしたことで、被害範囲を最小限に抑えたと言える。
ベストではないがベターではあっただろう。
「では、体調に問題がないようなら、一応ベイルの迷宮十階層でも試してからシュポワールの迷宮に行くか」
ハントアントLv10、Lv11と上げていっても行動パターンに変化はなく、たまにMP回復する手間を含めても、1時間で6周くらい回せた。
伸び悩んでいた探索者、英雄、魔法使いのレベルも上がったし、獣戦士と鍛冶師のレベルも上がって万々歳だ。
楽しくなってきたものだから、ハントアント周回はそのまま翌日も続けた。
〈パーティライゼイション〉のせいでロクサーヌとセリーのキマシタワーは建てられなくなったが、それは夜にお願いしてやってもらえば良いことだ。
完璧な作戦だ。
……俺がそれを頼む度胸がないヘタレご主人様だという点に目を瞑ればな。
道夫さんは(多分原作道夫君も)ボランティア感覚だったので日当についてはあまり気にしていなかったと思われます。
冒険者なら何回かタクシーするだけで稼げる金額なので、複数ジョブの道夫君がMP枯渇ギリギリまで働いた報酬としては渋いでしょう。
また、当たり前ですが個体差、もしくは個人差があるでしょうが。
トゲアリは他のアリの巣を乗っ取るアリなので、ニートアントも乗っ取られているのかもしれませんね、ニートだから養ってもらってるのかもですが。