加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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蜜蝋

 

   ターレの迷宮

     入口

 

「十二階層なら2日前に突破されましたよ」

 

 入口の探索者にハルツ公のエンブレムを見せて探索状況を尋ねたところ、そう言われてしまった。

 いざ階層突破をと意気込んでやってきたのだが、肩透かしだな。

 まあ、よく考えたら何日か前に来た時点で十二階層まで到達していたから、この進捗も当然と言えるか。

 

「騎士団関係者の方なら、十三階層まで無料でお送りすることはできますが……」

「ありがとう、十三階層の魔物はわかるだろうか?」

「ラブシュラブですね」

 

 聞き覚えがあるなと思ってセリーに確認すると、「板を落とす魔物です」と言われた。

 木の盾や棍棒の素材だな、前にルークから買った。

 あとは確か……スキル結晶で麻痺のスキルが付くのだったか。

 

「色々教えてくれてありがとう」

 

 お礼を言って銀貨1枚握らせると、探索者がにへらっと笑った。

 チップは悪い文明だと思うが、チップを渡すのはちょっと格好良いと思う、映画みたいで。

 俺が格好良く出来ているかは知らんが、探索者の方はハリウッドスターのようにイケメンだ、エルフだし。

 

「いやぁ、すみませんね。

 ……まぁ、ここいらじゃ金があってもあんまし使い道ないんですけど」

「ああ、ターレはハルツ公領で一番遠い村だったか」

 

 だからボーデにいるエルフ武器商人の下まで情報が遅れていたのだろうな。

 むしろ、よく情報を集めてくれたと言うべきか。

 今日は出直すことにして引き返そうとすると、

 

「人員が少ないので夜はいませんが、ターレの村長の家を訪ねてくれれば連絡は付きます」

「なるほど、了解した」

 

 ……まあ、夜に迷宮に入ることはあまりないとは思うが。

 とはいえ、遅い時間に階層突破しても探索者が居らず、翌日出直したら他のパーティーに先を越された、なんてことはあるかもしれない。

 

「では、今日はハルバーの迷宮十二階層に行くか」

「……十一階層のボスも簡単に倒せていますし、ご主人様なら十三階層も問題ないと思いますが」

 

 ロクサーヌはちょっと不満げだ。

 あんな話をした後だからな、気が逸っているのだろう。

 

「十二階層からは敵が強くなると言うし、慎重に行くべきだろう。

 それに今から十三階層に入っても、2日先行されているから階層突破できるとは限らない」

 

 実際のところ、ロクサーヌにデュランダルを持たせれば大概の敵はどうにかなる気はしている。

 ロクサーヌの自信というか楽観も、そこから来ているのだろう。

 

 だが、デュランダルを出したままでは経験値効率が悪い。

 多少歩みは遅くとも、デュランダルに頼らずに戦える階層を進むのが結局は近道になるだろう。

 エリクシールを自力で手に入れるにせよ、公爵に譲ってもらうにせよ、先は長いと見るべきだ。

 

 ……まあロクサーヌのことだから、魔物を脅威と感じていないだけかもしれないが。

 だってそもそも攻撃が当たらないし。

 内心そんな疑念を抱いていると、セリーが口を開いた。

 

「ターレの迷宮十二階層の魔物はピッグホッグです。

 これはハルバーの迷宮十三階層と同じですから、あっちで十三階層に行く前にこちらに入るのが良いと思います」

 

 ハルバーの迷宮の方は、攻略が進んでいるだけに地図も手に入っている。

 これまでクーラタルとベイルの迷宮でやっていたことを、今後はハルバーとターレの迷宮でやるのが良いだろう。

 というのがセリーの意見だった。

 

「それに、ラブシュラブは遠距離攻撃をしてくる魔物です。

 ハルバーの迷宮十二階層のグラスビーも、毒針を飛ばしてくる魔物ですから……」

「向こうで遠距離攻撃の対処を予行演習するか、それは良いな」

 

 だが、グラスビーは空を飛ぶ魔物らしいから、ちょっと不安だ。

 とはいえ、そんないきなり難易度が上がるようなことはないだろう。

 あったらもっと注意喚起されているはずだし。

 むしろ低階層のうちに経験できることを喜ぶべきだな。

 

「……すみません、気が急いていたようです」

「階層突破をするのを提案したのは私なのに、こちらこそすみません。

 ただ、十二階層以降は敵が強くなるとハンナさんにも言われていますので、いきなり十三階層は……」

 

 ロクサーヌとセリーが、こちらこそ、いえいえこちらこそと譲り合っている。

 よきよき、仲良きことは美しき(かな)

 

「まあ、こんな時ほど地道にやっていこう」

 

 ……そう、先は長いのだ。

 だから、帝都の服屋でネグリジェを買っておくべきだった。

 一旦利確してからとか考えなきゃ良かった。

 

 

 

   ハルバーの迷宮

      入口

 

「おおっ! ミチオ殿。

 早速こちらの迷宮に入っていただけるのですか」

 

 〈ワープ〉で入口に移動したその時、今まさに迷宮から出てきたのは、今朝会ったばかりのゴスラーだった。

 偶然とはいえナイスタイミングだ。

 金儲けに勤しむ銭ゲバ冒険者ではなく、真摯に依頼に取り組む勤勉な冒険者だと印象付けることができたことだろう。

 

「ゴスラー殿もこちらの迷宮へ?」

「はい、ちょうど四十一階層を突破したところです」

 

 ……いや、どうだろうな。

 相手は朝から事務仕事して午後に階層突破する迷宮ガチ勢だ、これくらいが当たり前かもしれん。

 慢心せずに点数稼ぎしよう。

 

「それは見事なもので」

 

 そう称えつつ、ゴスラーのパーティーメンバーを〈鑑定〉する。

 聖騎士、聖騎士、僧侶Lv90!? そして沙門か。

 沙門は僧侶の上級職だと思うが、盾役と回復役2枚ずつでメイン火力の魔道士(ゴスラー)を守るという構成だろうか。

 

 真似はできないが、参考にはなるな。

 ゴスラーの得物はひもろぎのスタッフだ、〈MP吸収〉はついていない。

 ということは、魔道士Lv61ともなれば無補給でLv41のボスを倒しきれるのかもしれない。

 

 ……まあ、薬ガブ飲みの課金プレイをやっている可能性もあるか。

 澄ました顔をして、胃の中は滋養丸でジャラジャラさせているのかもしれん。

 

「ミチオ殿がハルバードを使わせたいと仰っていたのはそちらの方ですか」

 

 滋養丸がたっぷり入ったゴスラー型の10円ガムのガチャを妄想していると、ゴスラーがこっちのパーティーメンバーに言及した。

 セリーの方を見ながら「ドワーフの方でしたか」と言った。

 ちょっと緊張したが、特にドワーフであることに思うところはないようだ。

 

「セリーと言います、こちらはロクサーヌ。

 2人ともまだ年若いですが、頼りになるパーティーメンバーです」

 

 多分察しているとは思うが、ロクサーヌ達にもゴスラーのことを「色々お気遣いいただいている方だ」と紹介する。

 実際、ゴスラーがいなかったら公爵と付き合うのはちょっとしんどいと思う。

 色々深読みしてメンタルをやられそうだ。

 

「さすがにドワーフの方は力が強いですな。

 そのハルバードの元の持ち主も、相応しい持ち主の手にあることを喜んでおられることでしょう」

 

 この言葉に、セリーがちょっと首を傾げた。

 ゴスラーが元の持ち主に(へりくだ)る言い方をしたのが引っ掛かったか。

 そういえば、ハルバードの出元についてはちゃんと話していなかったな。

 ……訊かれるまで黙っとこ。

 

「これから探索をされるのでしたら、よろしければお望みの階層までうちのパーティーの者に案内させましょう」

「それはありがたく、十二階層から入ってみようかと思っています」

「そうですか、もうすぐうちの冒険者が――お、出てきました」

 

 入口から探索者と冒険者が出てきた。

 そういえば、ゴスラーのパーティーが5人しかいなかったな、と今更気付く。

 ゴスラーは冒険者の方に話しかけた。

 

「すまんが、こちらの方を連れて十二階層に行ってもらえるか」

 

 冒険者をこちらのパーティーに加入させて、十二階層に連れて行ってもらうという段取りになった。

 むぅ、向こうのパーティーに入れてもらって〈パーティージョブ設定〉を使いたかったが、さすがに無理か。

 という話をしている間に、もう1人の探索者の方が迷宮に入って……すぐ戻ってきた。

 

「確認できました。

 四十二階層なので、銀貨四十二枚を払わせていただきます」

 

 これは、前にゴスラーが言っていた、階層突破の報奨金か。

 四十一階層を突破して四十二階層まで行けるようになった、ゆえに銀貨四十二枚。

 

 冒険者は入口の探索者を新階層に案内して、探索者がそこが四十二階層であることを確認したわけだな。

 迷宮は入口から入る時に何階層に入るか選択できるから、案内されたのが新階層ならそれでわかる。

 なるほど、こういう流れなのか。

 ……と、ボーッと眺めているわけにもいかんな。

 

 冒険者の男をパーティーに入れなければ。

 この男もそうだが、ゴスラーのパーティーは全員エルフの男だ。

 女連れだから評価が下がったりしただろうか……今更どうしようもないけど。

 

「――、パーティージョブ編成。

 では、よろしくお願いする」

 

 ……階層突破の報酬って、よく考えなくても消費者(迷宮を攻略する)側が行きたい階層まで行くために階層×銀貨1枚払うのと同じ値段だよな。

 一度行ったことのある階層なら、もう払わなくても良いとはいえ。

 ギルド所属の探索者は、今後はその階層に人を運ぶ商売をするのに、突破した方は1回分の料金だけ。

 ひっでぇ集金システムって気がする。

 隣で半分の値段で運ぶ商売とか始めたくなるな、しないけど。

 

 まあ、あちこちの迷宮の入口に探索者を張り付けてるのもお金掛かるんだろうけどさ。

 最低限文化的に自衛できる程度の探索者を配置しないと、ガラの悪い地域の自販機みたいな運命を辿りそうだし。

 それに、POSシステムよろしく各地の攻略状況を集計したりもしているのだろう。

 

 でも、純粋に迷宮を攻略することを考えると非効率だよな。

 最上階に挑戦できるパーティーの敷居を高くしてるだけだし。

 ……ああ、だから騎士団関係者は最上階無料キャンペーンやってるのか。

 

「あっ、申し訳ない、少しお待ちいただきたい」

 

 ……そういえば、エリクシールの名前を初めて耳にしたのもゴスラーからだったな。

 皇子の結婚がどうとかの話をした時だ。

 

 ゴスラーならクーラタルの六十三階層も突破できるのだろうか?

 ……できるのだろうな。

 なにしろ、初代皇帝所縁の由緒正しい公爵家の側近で騎士団長だ。

 この国でもトップレベルの強者だろう。

 

 だが、できるとしても彼はハルツ公の部下だ。

 公爵夫妻が病気――御不例(ごふれい)? とかの危急時でなければ、今こうしているように領内の迷宮が優先だろう。

 ……そりゃエリクシールの供給が追っつかないはずだよ。

 

「ゴスラー殿、少し内密にお話を……」

 

 ゴスラーは軽く首を傾げた後、鷹揚に頷いて応じてくれた。

 2人で少し離れた場所に歩いて、尋ねる。

 

「クーラタルの迷宮六十三階層のボスから手に入る威霊仙、もしくはエリクシールを手に入れるためにはどのようにすれば良いか、ご教授いただきたいのですが」

「む……そういえば、身体を悪くしている者がいると仰っていましたな」

 

 彼は顎に手を当てて考え込むと、

 

「……私から言えることは、多くありません。

 ですが、ミチオ殿が迷宮討伐に貢献していただけるのであれば、いずれは便宜を図ることもできるかと思います」

 

 なるほど、今はダメということだな。

 まあ、今は俺がこういう望みを持っていることをわかってもらえばそれで良いだろう。

 

 

 

   ハルバーの迷宮

     十二階層

 

「グラスビーは空を飛ぶ魔物だが、風属性が弱点……だったな」

「はい、グラスビーがというより、空を飛ぶ魔物は共通して風魔法が弱点だそうです」

 

 十二階層から出てくる魔物は弱点属性を持っているらしい。

 ここから先は、魔法が使えないパーティーは苦しいだろうな。

 

「ではロクサーヌ、グラスビーが1匹のところへ……いや、初めての魔物だったか」

「いえ、会ったことがない魔物であることはわかるので、大丈夫です」

 

 なるほど。

 というか、多分これまでも初めての魔物も嗅ぎ分けてくれていたのだろうな。

 元々ロクサーヌはある程度迷宮に入ったことがあるというし、ベイルとクーラタルの迷宮に交互に入っていたからあまり意識していなかったが。

 

 ……だがここからは、

 

「全員初めての魔物だ、慎重に進もう」

『はい』

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「あちらに」

 

 

   グラスビー

    Lv:12

 

 

「確かに」

 

 ロクサーヌが上手い具合に通路の角の向こうにいる魔物を見つけてくれた。

 遠くから耳鳴りがするように翅音(はおと)が耳に届く。

 

 デカい蜂だ、人間の頭くらいの大きさで、丁度俺の視点くらいの高さをゆっくり飛んでいる。

 ……クトゥルフ神話のシャンってこれくらいの大きさだろうか*1

 余計なこと考えるもんじゃない、怖気がする。

 

 っていうか、また虫かよ。

 最近虫ばっかりと戦っているぞ、今夜辺りまたゴキブリが出ないだろうな。

 

「こっちから仕掛ける……ブリーズストーム」

 

 距離があるから、避けられないように全体攻撃魔法を使う、全力だ。

 瞬間――グラスビーが激しく震えてバランスを崩した。

 なるほど、空を飛ぶ魔物に風魔法が当たるとこうなるのか。

 

『行きます!』

 

 ロクサーヌとセリーが駆け出して、蜂が態勢を立て直したところを追撃した。

 ロクサーヌが斬りつけてそのまま背後を取り、セリーのハルバードが振り下ろされて地面に叩きつけられる。

 非常に良い感じなのではないだろうか。

 

「ブリーズボール」

 

 そして俺も距離を詰めて、今度は単体攻撃魔法だ。

 それからはほぼ同じことの繰り返しだ。

 もう1発、計3発の風魔法でグラスビーは消滅した。

 

「……よし、1匹なら問題ないようだな」

 

 今は探索者、英雄、魔法使い、色魔、暗殺者、錬金術師と知力が上昇するジョブで固めている。

 弱点属性を突いて3発ということは、十一階層の魔物より倍以上のHPがあるのは確定か。

 

「あのくらいの高さなら片手剣でも対応できそうです」

「それほど速く飛ぶわけでもないようですね」

 

 スズメバチなんかは原付より速く飛ぶとか言うが、そんな速いわけでもないようだ。

 

「まあ、袋叩きにしたから決め付けるのは早いが、風魔法で動きが止められるのは良いな」

「クーラタルの迷宮では十四階層から十六階層まで空を飛ぶ魔物が連続します。

 レベル上げのことを考えると、その階層まで行くのが良いかもしれません」

 

 セリーがグラスビーのドロップアイテムを拾って渡してくれながら、「ハルツ公の依頼は果たせなくなりますが」と厳しい顔で続けた。

 

 ……うーん、悩ましいのはそこだな。

 どっかでがっつりレベリングはしたい。

 ニートアントで全ジョブLv30にしようと思っていたが、途中でハントアント周回に切り替えたために滞っているし。

 

 そういえば、賞金稼ぎの〈生死不問〉も結局まだ成功していない。

 Lv30になってからも何かの折に試すようにしているのだが、確率どうなってるんだ。

 デュランダルがある分、試行回数は多いはずなんだがな。

 

「まあ、あまり先のことを考えても仕方ないか」

 

 

   蜜蝋

 

 

「……ところで、この蜜蝋というのは何に使うんだ? ロウソクでも作るのか?」

「はい、ギルドに売ると、職人がロウソクに加工します。

 特に貴重な素材でもないので、ギルド以外での買い取りはあまりやっていないようです」

 

 セリーが教えてくれた。

 スキルで作るわけではないのだな。

 

「革の装備品を手入れすることにも使えます。

 よろしければ、1つ使わせていただけますか?」

 

 ロクサーヌが言った。

 今の俺達は硬革装備で固めているからな。

 革靴に塗るワックスのようなものだろう。

 

 ……ん、ワックス?

 

「とすると、床板とかテーブルとかにも使えるんじゃないか?」

「ええと、セリー?」

 

 問われたセリーは顎に手を当てて考え込むと、

 

「……そういえば、家具の艶出しに使うと聞いたような。

 私の生家は、昔は羽振りが良かったのですが……」

 

 その頃はきちんと手入れしていたが、身代が傾いてからは段々と色褪せていった。

 そこで家族が「蜜蝋があれば……」と言っていたらしい。

 ……そういえば前に聞いたな、祖父の代までは羽振りが良かったと。

 

「まあ、家具も中古、家も借家だし、そこまですることはないか」

 

 ふとした思いつきで、セリーに昔のことを思い出させてしまった。

 あまり気にしている風ではないのが救いだが。

 さっきのエリクシールの件といい……ちょっと凹むな。

 手の中の蜜蝋を見つめてため息を我慢していると、「そういえば」とロクサーヌが口を開いた。

 

「蜜蝋は、どこか石鹸にも似ていますね。

 これも石鹸の材料になるのでしょうか?」

 

 蜜蝋……蜜蝋石鹸? なんとなく耳に覚えがあるような。

 ドラッグストアのオーガニック素材のなんやかんやが置いてある辺りにあった気が……興味がなかったから、手に取ったことはないが。

 

「わからないが、聞いたことがあるような気がする。

 帰ったら、カタリナに渡して試してもらうか」

「すみません、ただの思いつきで……」

 

 蜜蝋をアイテムボックスに収納して、「気にするな」とロクサーヌを撫でる。

 

「俺の居たところでは、〝失敗は成功の母〟という諺がある。

 案外そういう、何気ない思いつきから偉大な発明が産まれたりするものだ」

 

 それに、今のカタリナには仕事を一杯与えた方が良いような気がするし、丁度良いだろう。

 無論、体調には目を配りつつだが。

 

 ……オーガニック素材といえば牛乳石鹸があったな、青箱と赤箱のやつ。

 一緒に試してもらうか。

 

「では、蜜蝋を集めつつ、ボス部屋を目指そう」

 

 その後、1匹ずつグラスビーの数を増やしつつ戦った。

 ロクサーヌが2匹、セリーが1匹を受け持って、3匹までは全く問題なく倒せた。

 4匹からはそろそろ大変か……と思ったら、やや高度を取って前衛2人を避けたグラスビーがこっちに来た。

 が、ロクサーヌが壁蹴りして跳び上がって撃墜した。

 

 ……ロクサーヌには自由にやってもらおう。

 俺のような凡人が彼女の戦闘スタイルに口を出すこと自体が不遜というものだ。

 

 

 

   ハルバーの迷宮

  十二階層 待機部屋

 

 十一階層の魔物であるミノでMP回復してから、ボス部屋の前までやってきた。

 ついでに確認したが、弱点属性を持たないミノも魔法3発で倒れた。

 だから単純計算で十一階層までの魔物と十二階層からの魔物では、HPが2倍程度になっていると思われる。

 

 ……魔法が使えないパーティーだと、十二階層以降は別ゲーってレベルで難易度が変わるんだろうな。

 ハンナが警告するわけだ。

 

「十二階層のボスからは、雑魚のお供が1匹付きます。

 ハントアントのように、ボスの周回をするのも良いかもしれませんね」

「なるほど、それも良さそうだな」

 

 ボスと雑魚をまとめて倒せるなら、公爵の依頼を果たしつつレベル上げも両立できるか。

 それに、クーラタルの迷宮ほどには人もいないようだし。

 

――ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴォン!

 

 実際、扉の前に立ったらすぐにボス部屋への扉が開いた。

 誰も戦っていなかったようだ。

 

 これまでのボスよりも心なしか多めの煙が逆巻いて、

 

 

   キラービー

    Lv:12

 

 

 

   グラスビー

    Lv:12

 

 

 ボスはグラスビーより更に巨大なスズメバチだった。

 完全にEDFの世界だ、ストーム1が針山になるような大きな針を発射してきそうだ。

 セントリーガンに任せて物陰に潜んでいたくなるが、代わりにロクサーヌにデュランダルを持ってもらっている。

 

 ボス部屋は結構広い空間だから、敵が壁際に寄ったりしない限りはロクサーヌの壁蹴りによる対空迎撃はできない。

 だが、そんなに高く飛ぶわけでもないようだ。

 というか、デカすぎるからそんなに高度も取れないんじゃないかな。

 

「行きます!」

「私はグラスビーを」

 

 ロクサーヌがボスに突進し、セリーがグラスビーの前に立ちはだかった。

 ハントアントと戦った時のように射線に入らないことを心がけながら風魔法を使う。

 結局、一度もスキル攻撃は発動することはなく、あっさり倒せた。

 ハントアントより時間はかかったが、風魔法によるスタン効果がある分余裕だったな。

 

 

   露蜂房

 

 

 そして残されたのは……土の塊?

 いや、穴が空いてるし、蜂の巣の欠片か。

 

「この露蜂房(ろほうぼう)というのは?」

「モルタルやセメントに混ぜると丈夫になるそうです」

 

 なるほど、建材か*2

 

『さすがにこれは……』

 

 3人の声がハモった。

 石鹸に混ぜるものじゃないな、と言おうとしたのだが、考えることは同じだったようだ。

 

「……くっ」

「……うふふ」

「……ふ、ふふっ」

 

 全員顔を見合わせて俺が思わず笑ってしまうと、ロクサーヌとセリーも堪えきれず笑み崩れた。

 先ほどからあった、どこか張り詰めていた空気も霧散したような気がする。

 

「今日は時間も微妙だし、このままキラービーを周回するか」

「夕食まで、あと1時間くらいです」

 

 ボス戦の前に回復してあるから、それくらいならMP回復の手間なく周回できるだろう。

 

 その後、デュランダルを使わずにもう1度戦ってみて、危なげなく倒せたので4回周回した。

 直線的なキラービーのスキル攻撃は、きちんと気をつけていれば大丈夫そうだ。

 適度に緊張感を保ちつつ、適度に肩の力を抜きつつ……なんとなく良い感じだな。

 

*1
 クトゥルフ神話に登場する異星人で、出典によって『シャン』、『シャッガイの昆虫』あるいは『シャッガイからの昆虫怪物』などと呼ばれる。

 惑星シャッガイを母星とする昆虫型知的生命体、鳩程度の大きさで半円の翅と5対の脚を持つとされる。

 種族的な特徴として拷問が趣味で、人間などの生物の脳に寄生しては、宿主が壊れるギリギリまで遊ぶという異常嗜好の持ち主。

*2
 本作オリジナル設定です。

 スズメバチは唾液を巣材に混ぜることで丈夫な巣を作ると言われており、そこからの発想です。

 露蜂房はスズメバチやアシナガバチなどの巣を原料とする漢方薬なので、建材というのは不適当ですが良い名前が思い浮かばなかったので名前だけ拝借しました。

 原作ではキラービーの描写は省かれていて、ドロップアイテムも明示されていません。

 ということは、道夫君にとってあまり興味の湧くものではなかったのでしょう。




■なんとなく思いついた公爵達の道夫さんの評価(戦略ゲーム風)

 ・彼は異種族だ。(-5)     ※排他の特性持ちだと-100くらいになる
 ・彼は余所者だ。(-5)     ※上に同じく
 ・彼は災害救助に合力してくれた。(+20)
 ・彼は優秀な冒険者だ。(+10)
 ・そなたは余の仕官の誘いを断ったのだぞ!(-5) ※公爵はおおらかの特性持ちなので緩和
 ・彼はペルマスクまで行ける冒険者だ。(+20)
[・彼はペルマスクまで毎日往復出来る冒険者だ。(+40)] ※原作道夫君の場合
 ・その上、4人も連れて行けるようですぞ。(+5)
 ・そんな大きな荷物も運べるのですか……。(+5)
 ・さすがは余の見込んだ冒険者だ。(+5)
 ・随分と商売熱心なのだな。(-10)     ※尚武の気風が強そうなので減点対象
 ・装備を整えるのにも金が掛かりますからな。(+10)
 ・増える一方の壁の花(ハルバード)が片付いて清々したわ。(+5)
 ・後進の育成とは見上げたものだ。(+10)
 ・目が合うと逸らされてしまいます、嫌われているのでしょうか……。(-5)
 ・そなたは余の仕官の誘いを断ったのだぞ! 2回も!(-10)  ※公爵はおおらか(ry
 ・あまりしつこくするものではありませんぞ。(+5)
 ・貴方、あまり無理を言ってはいけませんよ。(+5)
 ・おかげであの傲慢な商人が大人しくなったな。(+20)
 ・真面目に依頼に取り組んでくれています。(+10)
 ・真面目な方だと思いましたが、若い娘を連れて迷宮探索とは……。(-20)
 ・身体を悪くした家人のためにエリクシールを求めていたのですな。(+50)

 関係値+120(友好的)

 ※+100以上で一定条件を満たすと、イベント『帝国解放会への推薦』が発生します。
 ※+200以上で一定条件を満たすと、イベント『エリクシール』が発生します。
 ※イベント『仕官の誘い』を受諾すると、関係性が庇護に変化し、関係値に修正が入ります。
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