加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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豚毛

 

 

   蜜蝋石鹸は作れそうな気がするのですが、

   牛乳石鹸はどのようにいたしましょうか?

   固まり難くなってしまいそうで……。(カタリナ)

   ↑最初に水を足す工程で、水の代わりに

    牛乳を使うのはどうでしょう?(セリー)

   ↑ありがとうございます!

    牛はカモミールと相性が良いので

    良いものができそうな気がします。(カタリナ)

 

   ※ここから下は御主人様の備考欄です。

 

   春51日

    終日:買い出し→ターレ12F

 

 

 

 

   クーラタルの街

    商人ギルド

 

 今日は商人ギルドで防具商人のルークと会うことになっていた。

 ルークにはペルマスクとボーデを往復していた頃、人目を避けたかったので代わりに色々と頼み事をしていた。

 

 〈詠唱中断〉のためのウサギとコボルトのスキル結晶。

 身代わりのミサンガのための芋虫のスキル結晶。

 そして、敵を眠らせるための羊、麻痺させるために灌木、石化させるためのサンゴのスキル結晶。

 

 他にセリーの装備製造の素材も頼んで、そちらはすぐに用意してもらっていたのだが、スキル結晶はさすがに時間が掛かっていた。

 今日はそれが用意できたというわけだ。

 

「こちらが本日お取引させていただく商品となります」

 

 以前と同じ広めの部屋で、ルークがスキル結晶をテーブルの上に並べた。

 

    スキル結晶 ウサギ    

 

   スキル結晶 コボルト   

 

    スキル結晶 芋虫    

 

     スキル結晶 羊     

 

 ……芋虫は1個だけか。

 最初の1個を手に入れた後、引き続き調達するようにハンナに頼んでロクサーヌの分までは買い付けてくれていたが、これでやっとセリーの分も作れるな。

 

 最近は随分荒稼ぎした。

 そしてなにより、俺が稼いでいるということを知っている者がいる。

 できれば早くあと2つ、母娘の分も揃えたいものだ。

 

「恐れ入りますが、灌木とサンゴのスキル結晶は競り合いになってしまい、それ以外となってしまいます」

「いや、十二分に働いてもらった、感謝する」

 

 そちらについては、どうせコボルトのスキル結晶もセットでないと出番もないしな。

 そしてコボルトのスキル結晶だが、最近誰かが集めているようで高騰しているらしい。

 

「6日もいただいたのに、お恥ずかしい限りです。

 代わりと言うわけではありませんが……」

 

    スキル結晶 人魚    

 

 ルークがアイテムボックスから更に追加でスキル結晶をテーブルに置いた。

 

「こちらは人魚のスキル結晶となっております。

 たまたま2,500ナールで落札できましたので、よろしければお買い上げになりませんか?」

「武器に合成すれば水属性攻撃が、防具に合成すれば水属性耐性が付くスキル結晶です。

 相場は3,000ナールほどだったと存じますから、随分とお安いですね」

 

 ……なるほど、卒がないというかなんというか。

 当面使う予定はないが、いずれ水属性耐性が必要になることもあるだろう。

 とはいえ、これもコボルトのスキル結晶もないと、効果は弱いものになるはずだが。

 

「それはありがたい、買わせていただこう」

 

 ま、お買い得だっていうなら買わない理由はないか。

 適当な装備に付けて、転売しても良いわけだし。

 

「ところで話は変わるのだが……」

 

 ルークが端正な顔でこちらを真っ直ぐに見た。

 

 カタリナが作ってくれた石鹸を彼を通して売るのはどうかと、いつだったかハンナと話していた。

 だが、彼がどれくらい信用できるのか、秘密が守られるのか……踏ん切りがつかない。

 母娘を危険に晒すのもそうだし、そもそもなんで石鹸の作り方なんか知っているんだと探られるのも困るし……。

 

「……ミチオ様?」

「あ、いや、すまない。

 実はハルツ公領の迷宮に入るよう、公爵閣下に依頼されていてな」

 

 結局言い出せず、話を逸らしてしまった。

 言われたルークは「新たに迷宮が見つかったとか」と心得顔をした。

 

「ハンナには商人ギルド(ここ)での用事も頼んでいたが、また留守になることも有り得る。

 ルーク殿には、今後ともよしなに願いたい」

「もちろんです、なんなりとご用命下さい」

 

 ……公平に言って、ルークは親切にしてくれていると思う。

 

 ルークは公爵とも付き合いのある、いわば大商人だ。

 越後屋とか紀伊国屋のような、江戸時代の天下の豪商というほどでは、さすがにないかもしれないが。

 彼からはなんだかんだ色々と売ったり買ったりしているが、そもそも一冒険者に過ぎない客なんて、彼にとっては大した取引相手ではないと思う。

 というのに、腰が低い態度を崩そうともしないし、こちらから何かを頼んだ時はすぐに対応してくれる。

 

 値引きもしていないから金払いの良い客だと思われているかもしれないが、だからといって観光地価格みたいな特別価格で売られているわけでもないようだし。

 ……というかそもそも、ポッと出の余所者に「奪えば全部ゥ!」しないでマトモに商売してくれるってだけで、相当文明的だよな。

 

 盗賊にならずに盗賊に協力している人間がいることを考えると、盗賊落ちシステムって絶対抜け道あるだろ。

 かくいう俺だって盗賊の剥ぎ取り品を売買している。

 ……物を盗む判定のことを考えていると、ニワトコの杖の所有者システムの謎判定を思い出すんだよな。

 

 まあ、インテリジェンスカードのある世界だから、身分や身元の証明がしやすいという違いはあるか。

 それにこの世界の人間なら、盗賊落ちシステムのことを神聖にして侵すべからずと捉えていてもおかしくない。

 俺は地球の元エンジニアの視点だから、神妙不可思議にして胡散臭いシステムだとか思ってしまうんだが。

 

 だからルークとしてはただの仕事で、ごく普通の対応をしているだけなのかもしれない。

 

「外に用事があることも多いのでな、ハンナとカタリナの分の身代わりのミサンガも用意したいと思っている」

 

 ルークはハンナの腕に巻かれている()()()ミサンガを一瞥した後、顔を引き締めて一息に話しだした。

 

「もう少々割高になっても構わないのであれば、速やかにご用意することも可能かと存じます。

 と、申しますのも――」

 

 芋虫のスキル結晶のように常に一定の需要がある商品は、高騰する時を待って在庫を抱えている仲買人がいる。

 値段次第で、そうした在庫を吐き出させることもできるのだそうだ。

 

 ……米価を吊り上げてた江戸時代の米屋かよ。

 打ちこわしが起きたら、真っ先にネギトロにされそうな連中だな。

 

「――そうした仲買人に心当たりがあります。

 お任せいただけるのであれば当たってみます」

 

 まあ、それで頼むか……と思っていたら、ハンナが「ルーク殿」と鋭い声で口を挟んだ。

 顔が〝反対です〟と言っている。

 自分達の身代わりのミサンガに金を掛けることを遠慮しているようだ。

 

「その場合ですが、落札品でないのでギルド神殿の使用に費えが必要と思いますが」

「そうですな……まあ、抱え込んでいる者も、そこは折り込み済みでしょう。

 ああ、手前は紹介をするだけですから、手数料などはいただきません」

「なるほど、ではお言葉に甘えよう」

 

 ……これだよな。

 ハンナとカタリナの話題になると、より一層親身になるというか、声に熱が籠もるというか。

 それがよくわからない。

 

 彼にどれくらいの収入があるのかは知らないが、未亡人とその娘の1人くらい、囲うなり養うなり余裕で出来るだろう。

 アランの商館にいた頃の母娘は……そりゃあまあ酷いものだったが、回復薬とか回復魔法とかがある世界だ。

 エリクシールは無理でも、ある程度の金を使えば多少時間は掛かっても今くらいには回復したのではないか?

 ……もちろん、英雄などのステータスアップ効果による恩恵が、俺の想像以上に大きい可能性もあるが。

 

 装備を扱う商人が装備を盗賊に奪われたから、世間的な風当たりが強いとか?

 ……これは有りそうだな、自己責任とか自力救済とか強そうな世界だし。

 しかし、じゃあ今親切そうな面をしているのはなんでだってことになる。

 奴隷になってから同情するくらいなら、奴隷になる前にどうにかしてやれよって話だ。

 

「かしこまりました、可及的速やかに交渉致します。

 交渉がまとまりましたら、ご連絡の方は……?」

「いや、当面は予定もないので、こまめにハンナか私が顔を出すようにする」

 

 話がまとまった後、スキル結晶をギルド神殿で鑑定し、ルークと契約の握手を交わした。

 

 ……駄目だな。

 紹介してくれたハンナには悪いが、どうにも信用できん。

 とはいえ、石鹸はどうしたものか。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「ご主人様、商談はお済みになりましたか?」

「おお、もう花は見つかったのか」

「はい、牛乳も買っておきました」

 

 商人ギルドから出ると、ロクサーヌが待っていた。

 買い物鞄を持とうとしたら、すっと身体をずらされた。

 後ろでハンナが笑いを噛み殺している気配がする。

 

「すみません、ロクサーヌさん。

 雑用をやらせてしまって」

「いえいえ、いつもお世話になってますから」

 

 蜜蝋や牛乳を石鹸作りにどう使うか、なにしろ名前しか知らないのでぶっつけで試行錯誤してみるしかないと思っていたのだが、昨日からセリーとカタリナの方で色々考えてくれていたらしい。

 結果、材料が足りなさそうだということで、今日は調達してから迷宮に入る予定だ。

 

 庭に生えているハーブもそろそろ採り尽くしてしまいそうだったのだが、ロクサーヌが外で匂いを嗅いだ覚えがあるというので任せていた。

 ……多分、目的のものを一直線で回収したんだろうな、いつも迷宮でそうしているように。

 まあ、年頃の女の子が迷宮で魔物退治ばっかりするよりは、能力の健全な使い道と言えるだろう。

 

「たまには歩いて帰ろうか」

 

 外に出ている姿を見せないと不審がられそうだしな。

 

「そうですね、セリー達もまだ準備中だと思いますし」

「そうか、じゃあのんびり帰るか」

 

 セリーとカタリナはボレー粉を作ってくれている。

 コイチの実のふすまに比べると高くつくが、出来上がりが白くて綺麗になる。

 市販の一般的な石鹸に近かったものだから「よく出来てる」と褒めたら、俺の分はボレー粉を使ったものになった。

 ……使い心地の方は、正直違いがよくわからないのだが。

 

 俺とロクサーヌがゆっくり歩き出すと、ハンナが一歩退いた位置で続いた。

 ……ロクサーヌが来てくれて助かった。

 ハンナは俺がルークのことを信用していないことに気付いているだろう。

 

 ハンナにとっては、ルークはただの亡夫の友人なのか、それともそれ以上なのか。

 有能な商人なのだろうなとは感じる。

 ハンナに紹介してもらって、助かっていることは間違いない。

 

 ……本当は、こんな結論の出ない悩みなんか持たずに、腹を割ってハンナやルークと話した方が良いんだろうけどな。

 また地雷を踏みそうで嫌なんだよ。

 

「そうそう、予定通りウサギとコボルトのスキル結晶を買えたから、セリーのハルバードに合成しようと思う。

 ……ロクサーヌの装備の強化が遅れてしまってすまないが」

「いえそんな、十分良いものを使わせていただいてますから」

 

 ロクサーヌが腰のレイピアを示した。

 風呂を沸かすのに使わせてもらっているから、大活躍していることは確かである。

 これの代替品も用意しないとな。

 

「今度鏡を受け取る時に装備も見せてもらうよう頼んであるんだが……時間掛かりそうかな」

「そうですね、ご主人様に相応しいものをと、あの方も心を入れ替えていましたから」

 

 余計な職人根性を発揮させていそうだな。

 ロクサーヌやハンナとも話していたから、こちらに恩を着せるために豪華すぎる代物を用意したりはしないと思うが。

 ……またペルマスクに行くように頼まれそうだなぁ。

 

――先日は娘さんにお世話になりました。

――いえいえ、そんな。

 

 遠い北の山並みを眺めながら歩いていると、後ろからそんな会話が聞こえてきた。

 振り向くと、女性がハンナに話しかけていた。

 獣人だな、ロクサーヌに比べると色んな意味で並盛だ。

 

 その女性はこちらに気づかず、ひとしきり話し終えるとそのまま街の中心の方へ小走りに去っていった。

 特に問題がある様子ではないので、どことなく上機嫌に見えるハンナが追いつくのを待って話を聞く。

 

「あの方は金物屋の下働きをしている女性です。

 どうも先日、奥様が留守にしている時にカタリナが計算を助けたようでして」

 

 そういえば泡立て器を金物屋で作ってもらった時、職人根性を発揮する旦那さんを困った顔で見ている女性がいたような気がするな。

 あの女性だったか。

 

 それにしても、商人ギルドで用事を頼んでいるハンナに比べて、カタリナは家にいることが多いと思っていたのだが、いつの間に。

 ……というか、カタリナはもう商人じゃないから〈カルク〉が使えないんだが、さすがにみっちり教育されているのだな。

 

「そうだったのか、ご近所付き合いを上手いことやってくれているようで助かる」

「いえ、そんな」

 

 嬉しそうなハンナと3人で、またゆっくりと歩き出す。

 

「おっとそうだ、露蜂房を売ろうと思っていたんだった」

 

 外構工事をしてくれた業者の店の近くまで来て思い出した。

 建材だから多分使い道があるんじゃないかと思うんだが……そう思って持ち込むと、ギルドに売るより割高で買い取ってもらえた。

 案の定だな。

 

 ついでに蜜蝋も無いかとも尋ねられた。

 壁とか木窓の塗料の上に塗ると、水や汚れを弾いて長持ちするようになるらしい。

 なるほど、撥水加工というやつだな。

 

 こちらは石鹸作りのために全部家に置いてきてしまったから、申し訳ないが断った。

 だがそんなに使う物でもないし、今度から余った分はここに持ち込んでも良いだろう。

 

「他に何か使い道はないかな」

「……黒板に塗ってみてはどうでしょうか。

 長持ちしそうですし、掃除しやすくなるのでは?」

 

 帰り道の歩みを再開しながら考えていると、ロクサーヌが提案してくれた。

 確かに掃除はしやすくなるだろうが、

 

「そもそもチョークが滑って書けなくなるような……でも、掃除しにくいところに塗るというのは良いかもな」

「では……お風呂場とか?」

「……滑って転ぶ未来が見える気がするぞ」

 

 特にハンナとカタリナは片足が不自由だし。

 そう思って目を向けると、同感のようでハンナが控えめに頷いた。

 

「だがまあ、一番汚れる排水口の周りだけ、とかなら良い考えな気がするな」

 

 うんうん、こういう事を考えている方が楽しいな。

 

 

 

   ターレの迷宮

    十二階層

 

 家に戻って、MP回復を挟みつつセリーにスキル合成をしてもらったり、カタリナの石鹸作りに少し口出ししてみたりしていたらいい時間になった。

 なので今日は早めに昼食を摂って、午後から探索を開始した。

 

「ピッグホッグは土属性の魔物です。

 土属性に耐性があり、土属性魔法を使ってきます。

 水属性が弱点になります」

「魔法を使ってくるなら、早速()()の出番がありそうだな」

 

 セリーが凛々しい顔で「はい」と返事して、ハルバードを握り直した。

 

 

   セリー

   <♀・16歳>

   鍛冶師:Lv26

    装備:強権のハルバード

      :硬革の帽子

      :硬革のジャケット

      :硬革のグローブ

      :硬革の靴

      :身代わりのミサンガ

 

 

 〈詠唱中断〉のついたハルバードは、枕詞に〝強権の〟が付くようだ。

 〈詠唱遅延〉の〝妨害の〟より、いかにも強力な感じだ。

 セリーの膂力で繰り出されるハルバードの名前に、相応しいと言えるだろう。

 

 

   ロクサーヌ

   <♀・16歳>

   獣戦士:Lv27

    装備:ほむらのレイピア

      :鉄の盾

      :硬革の帽子

      :硬革のジャケット

      :硬革のグローブ

      :硬革の靴

      :身代わりのミサンガ

 

 

 ……うーん、やっぱり比べてみると、ロクサーヌの装備の方が見劣る感じになってしまったな。

 早いとこ強化しなければならん。

 

「ではロクサーヌ、昨日と同じように、1匹ずつ増やして試していこう」

「はい、わかりました」

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 

   ピッグホッグ

     Lv:12

 

 

 しばらく歩いて見つかったのは、子豚と言っていいブタの魔物だった。

 hog(ホッグ)はイノシシとかそういう意味があったと思うが、完全にpig(ブタ)だ。

 牙は生えているが、剛毛はない。

 牧羊豚になって牧羊犬コンテストで優勝しそうな見た目をしている*1

 

 痛めつけるとこっちの心が痛みそうな見た目をしているが、魔物である。

 遠慮なく先制の「ウォーターストーム」を使った。

 豚に水滴が叩きつけられると同時に、ロクサーヌとセリーが駆け出す。

 

 昨日の蜂とは違い、魔法により動きが止まることもなく……だが、魔法を使ってくるということもなく、ピッグホッグが突進してきた。

 こうなったらミノと大差ない。

 ロクサーヌが引き付けている間に、ウォーターボールを2発当てたら消えた。

 

 

   豚バラ肉

 

 

 ほぅ、豚バラ肉か。

 うーん、脂っこいから正直あんまり……なんだよな。

 

 豚肉は 三十路超えたら ヒレ肉で

 

 アラフォー心の俳句。

 おっさんにはおろしポン酢やわさび醤油の援護が必要だ。

 

「ピッグホッグのドロップアイテムは豚バラ肉です。

 燻製にしてみましょうか?」

 

 セリーが手渡してくれながら言った。

 

 ……そうだった。

 セリーのおかげで、今の俺には自家製ベーコンという選択肢もあるのだ。

 

「ああ、楽しみにしている」

 

 薄切りのカリカリベーコン……これはありだな、アズパラガスに巻き巻きするのも良いし、スープのアクセントにもなる。

 こっちのベーコンは日本のハムみたいなベーコンとは一味も二味も違う。

 ベーコンじゃなくてベイケンなんだよな。

 ……昼飯食ったばっかなのにビール飲みたくなってきた……フライドポテト……フライドオニオンも良い。

 

「おっとそうだロクサーヌ。

 すまんが、またピッグホッグが1匹のところに案内してもらえるか?」

 

 だがグッと気を引き締める。

 探索開始直後でMPに余裕はあるが、万全な内にデュランダルでピッグホッグを倒せるか確認しておきたい。

 

「えっと、コラーゲンコーラルもいますが」

「ま、いずれ倒さないとならんしな」

 

 コラーゲンコーラルはターレの迷宮十一階層の魔物だ。

 ハルバーの迷宮十二階層ではミノでMP回復していたから、同じパターンならコラーゲンコーラルでMP回復するべきだろう。

 十一階層までの魔物の方が弱いからな。

 

 だが、それも更に上の階層まで行けばなかなか出会えなくなるはずだ。

 であれば、十二階層以降の魔物でもちゃんとMP回復できるか、今のうちに確認しておく必要がある。

 ならば十二階層にいる今がその時だろう。

 俺が攻撃を外してしまっても、他に〈詠唱中断〉のついた装備も手に入ったからスキル攻撃にも対応できるし。

 

「なるほど、わかりました」

「いつでも攻撃できるよう、身構えておきます」

 

 またしばらく歩いて、目的の魔物をロクサーヌが発見した。

 その間に〈セブンスジョブ〉にして、ジョブに腕力が上がる剣士をつけておく。

 ロクサーヌに引き付けてもらいつつ、一歩退いた位置から、

 

(スラッシュ!)

 

――プギィィイイ!

 

 ……これは魔物、これは魔物、これは魔物。

 見ろ、その証拠に魔法陣なんか出し始めたぞ。

 

――ピギィッ!

 

 すかさずハルバードが振り下ろされ、豚が地面に叩き伏せられた。

 魔法陣が霧散する。

 〈詠唱中断〉は間違いなく発動しているようだ。

 

 そして、慎重にデュランダルで計3回〈スラッシュ〉で攻撃するとピッグホッグはバラ肉になった。

 問題なさそうなので、もう一度、今度は剣士を外してスキルを使わずに戦っておく。

 すると倒すまでに5回攻撃する必要があった。

 

 スキルを使わないデュランダルの一撃は魔法1発以上2発未満という感じだから、弱点属性の魔法3発より回数が掛かるようだな。

 剣士は〈腕力小上昇〉もあるし、それを外したら、まあこんなものだろう。

 今後MP回復する時は、横着せずに剣士を付けた方が良さそうだな。

 

「――あっ! すみません、ご主人様、誰かこっちに来るようです」

 

 身構えるロクサーヌが見据える方向に〈鑑定〉を使う。

 先頭の男は……騎士か、騎士団員かな?

 

「いや、問題ない」

 

 ……実際は問題大有りだ。

 職質されてインテリジェンスカードを見られたらえらい事だ。

 

 だが、不審な真似をしたらそれこそ不味いだろう。

 俺がデュランダルを仕舞うと、ロクサーヌも納刀した。

 セリーは納刀できないが、構えを解いて壁際に控える。

 

 やがて通路の向こうから現れたのは、濃緑色の騎士服を着た一党(パーティー)だった。

 やはり騎士団員のようだな。

 

「やぁ、これは……洪水の時のご協力いただいた冒険者の方でしたか。

 ご協力ありがとうございます」

「いや、そちらこそご苦労さまです」

 

 もしかして、あの時に会ったことのある騎士団員だろうか。

 エルフはイケメンと美女ばかりだから、印象がボヤけるというかなんというか……顔の判別がつかないわけではないが、イマイチ印象に残らない。

 おまけに名前もみんな横文字だから覚え難いんだよ……漢字の便利さを痛感する。

 

 こちらが通路の脇に避けて道を譲り、なごやかに会釈を交わして通り過ぎる。

 …………行ったな。

 

「行ったようです」

 

 ロクサーヌの鼻でも、離れていることが確認できたようだ。

 ほっと安堵の息を吐く。

 

「申し訳ありません、気付くのが遅れました」

「いや、戦闘中だったし、仕方がないだろう」

 

 多分、俺が前に出ている時だったから、こっちに気を取られていたのだろうな。

 魔法を使っている時だったら、もっとゆとりがあっただろう。

 

「また会っても困るし、別の方向に行くか」

 

 迷宮は結構広いから、そうそう無いとは思うが。

 ボーデの方の新迷宮に人手も取られているはずだから、そんなに騎士団員がいるとも思えないし。

 だが、一度あったのだから二度目が無いとは言えない。

 

「ターレの迷宮は十三階層まで突破されているわけですから、騎士団員がこの階層にいるのは見回りのためだと思います。

 ということは、少なくとも十三階層を目指しているわけではないでしょうから……」

 

 騎士の行った方向は、十三階層に通じていないのではないか、というのがセリーの推測だった。

 

「なるほど、騎士団関係者なら最上階に行けるわけだしな」

 

 魔物部屋とかが無いか、見回っているというわけだな。

 十三階層へ続く経路の周辺を見回っている可能性もあるが、分が悪い賭けではない気がする。

 

 その後、探索をしつつ、昨日と同様にピッグホッグの数を1匹ずつ増やしていった。

 強権のハルバードが手に入ったこともあって、戦闘は非常にスムーズだ。

 やはり装備の強化は重要だ。

 ロクサーヌの装備も強化すれば、更に安定するだろう。

 

 

 

     ターレの迷宮

   十二階層 ボス部屋

 

 ピッグホッグのボスはピックホッグというそうだ。

 前脚の爪を振り下ろす強力な攻撃をしてくるという。

 手強い相手だそうだが、説明してくれたセリーも「ロクサーヌさんなら大丈夫だと思いますが」と気楽な様子だ。

 

 最初の1回は、そのロクサーヌにデュランダルを持たせた。

 

 

   ピックホッグ

     Lv:12

 

 

 

   ピッグホッグ

     Lv:12

 

 

 ……鑑定結果が非常にわかりにくい。

 ボスの方は、ピッグホッグより大きいイノシシ型の魔物だ。

 弱点属性は一緒だと云うので、最初は〈ウォーターストーム〉で、雑魚が片付いてからは〈ウォーターボール〉で戦う。

 

 結局、何事もなく倒すことが出来た。

 スキル攻撃を封じ込めてしまえば、ちょっとタフな相手というだけだ。

 ロクサーヌは息を吸うように攻撃を避けるし。

 

 倒した後に、茶色いモコっとした物が残った。

 ……タワシ?

 

 

   豚毛

 

 

「今度は豚毛か、何に使うんだ?」

 

 ヒレ肉でないことにちょっとがっかりしながら、2人に尋ねてみた*2

 

「ブラシですね。

 ご主人様に買っていただいたヘアブラシも豚毛です」

 

 ロクサーヌが答えた。

 ベイルの市で買ったな。

 俺と同じブラシを使わせるのもアレだし、ロクサーヌに贈ったが……あれから3人増えたが、ブラシは追加で買ってあるのだろうか。

 

「猫も飼う予定だし、追加でいくつか買っておくか。

 材料持ち込みなら、安く作ってもらえるのではないかな」

 

 もちろん金はあるが、それはそれとして遠慮されそうだし、安くできるならその方が良い。

 

「ハンナさんなら職人を知っているかもしれません」

 

 セリーが言った。

 そういえば、石鹸の型作りをする木地師とかを探してもらったな。

 

「あとは、靴や装備品の手入れにも使います」

 

 なるほど、革靴の汚れ落としとかクリームを塗るブラシも、良いやつは豚毛だと聞いたことがあるな。

 ……俺はお手軽なスポンジ付きの靴クリームを使っていたけど。

 

 だが、それ以外にも豚毛の使い道は色々ありそうな気がする。

 例えば、ハンナとカタリナの足のことを考えると、デッキブラシみたいなものがあった方が良いんじゃないだろうか。

 いや、ならモップでも良いか。

 毛糸とかで作れるのだろうか……掃除用具としてはメジャーだが、あまり使ったことはない。

 

 あとは……歯ブラシとか。

 近江の国に朽木元綱という、戦国三傑に嫌われながらも大名として生き延びたマイナー武将がいるが、その人物に転生する時代小説で、馬毛で歯ブラシを作る話があった。

 豚毛と馬毛の違いはわからんが、触ってみた感じは……うん、ちょっと固めだがいけそうな気がする*3

 少なくとも、今使っている房楊枝よりはマシだろう。

 デュランダルで回復しているからか、ステータスが上がっているからかわからないが、歯槽膿漏とかにはなってないけどやっぱり磨きにくいんだよな。

 

「よし、色々作れそうな気がするから周回を……するのは、ハルバーの迷宮の方でもいいか」

 

 あっちは十三階層だし、経験値効率も良いだろう。

 早く上の階層に行きたいであろうロクサーヌがまず頷き、セリーも「十三階層でも大丈夫だと思います」と頷いた。

 主に攻撃を受けてしまうのはセリーだから、その判断を尊重すべきだろうな。

 

「一応、デュランダルを使わずにもう1回戦っておこう。

 ロクサーヌ、夕飯まではあとどれくらいかな?」

「……1時間くらいでしょうか」

 

 ……昼から探索して、もう階層突破してしまったのか。

 騎士団員との遭遇というヒヤリハット事例が発生したが、結果的に探索範囲が絞れたおかげで思った以上に早くボス部屋まで到達したな。

 やはりロクサーヌの嗅覚とセリーのマッピング能力は稀有なものだ。

 いずれ階層突破も出来るだろう。

 

*1
 1995年公開の映画『ベイブ』のことです。

 道夫さんと同年代の人は、小中学生時代に金曜ロードショーで見たことがあるかもしれません。

*2
 本作オリジナル設定です、原作ではピックホッグのドロップアイテムは明言されていません。

 豚肉の高級部位であるヒレ肉にしようか迷いましたが、食べ物だったら原作で道夫君がもっと狩っていそうな気がするのでこのようにしました。

*3
 世界初の歯ブラシは1498年、中国の皇帝が豚毛を骨に植えつけたのが始まりと言われています。(諸説あり、959年頃の墓の埋蔵品から動物の毛を使った歯ブラシが見つかっているとも)

 また、日本でも明治から昭和初期頃まで歯ブラシの材料として中国から豚毛を輸入していたそうです。

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