加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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[2025/01/24]
作中で通路で〈ダンジョンウォーク〉が使えないと描いてしまいましたが、原作読み返していて迷宮内のどこかの壁から入口の小部屋に通路に戻っていました。
逆に入口の小部屋から元の場所には戻れていません。

多分、通路→小部屋は可能で、小部屋→通路は不可と思われるので、本話についてそのうち修正します。

[2025/01/26]
修正しました。
その影響でいただいた〝ここすき〟がずれてしまいましたことをお詫びいたします。
懲りずにまたここすきをいただけると嬉しいです。



襲撃

 

   ターレの迷宮

    十三階層

 

 デュランダル抜きでピックホッグと再度戦って、やはり危なげなく倒せた。

 〈詠唱中断〉のある武器がもう1つあるのだから、当然ではあるが。

 そしてさっき話した通り周回するのは後日にして、残り時間は十三階層を軽く偵察することにした。

 

「この間もお話ししましたが、ラブシュラブは枝を飛ばして遠距離攻撃をしてくる魔物です。

 火魔法が弱点です」

「では、この階層では火魔法と水魔法を使うことになるな」

 

 セリーが頷いた。

 弱点属性が異なる魔物と同時に戦うことになるのは、これが初めてになるな。

 十二階層のピッグホッグも強さが変わってくるだろうし、魔法の使用回数と敵の構成を見て、ちょっと頭を捻る必要がありそうだ。

 

「まずはこの階層の魔物がそれぞれ魔法何回で倒せるか、1匹ずつ試していく」

 

 2人が頷いたのを確認して、ロクサーヌに魔物が1匹だけいるところに案内を頼んだ。

 だが、歩き出してしばらくして、ロクサーヌが囁いた。

 

「すみません、誰かついてくるようです」

「たまたま同じ方向に進んでいるだけじゃないのか?」

 

 当たり前だが、十三階層の入口の小部屋から探索を開始している。

 さすがに俺達の後に超高速(ちょっぱや)でボスを倒したパーティーはいないだろうが、普通に迷宮の入口からこの階層に入ってくる者はいるだろう。

 

「最初の小部屋を出た横に居て、ずっとついてきていますので」

尾行()けてきているということか」

「入口の小部屋で見張っていたとなると、盗賊と考えるべきでしょうね」

 

 セリーが冷たい声で言った。

 ……うーん、限りなく黒寄りのグレーではあるが、真っ黒というほどではないと思うのだが。

 

「どうだろうな、休憩中に可愛い女の子を見かけて、ついフラフラと追いかけてしまっているだけかもしれんぞ」

 

 怖い雰囲気のセリーの頭を撫でて宥める。

 ……まあ、それにしたって碌な連中じゃないだろうが。

 だからといって盗賊と決めつけるのもな。

 

 とりあえず、ロクサーヌに魔物を避けつつ撒けないかどうか、案内してもらうことにする。

 

「え、ええと……迷宮の十二階層から十四階層辺りでは、盗賊がいることも多いのです。

 だからといって、避けるわけにもいきませんが」

 

 その間、セリーが説明してくれた。

 初心者探索者を襲っても端金にしかならないが、この辺りまで来る探索者なら装備が整っている。

 それが狙いだというわけだ。

 

 そして十二階層だと下の方の魔物も多いが、腕に覚えがある盗賊は十四階層を根城にする。

 この十三階層を根城にしているのは、まあ中堅どころというところか。

 これらの話はロクサーヌも知っているようで、目で問いかけると当然のことのように頷いた。

 

 ……十二階層で騎士が見回りしていたのも、魔物部屋ではなく盗賊が狙いだったのだろうか。

 俺が世間知らずなことは言ってあるのだから教えてくれよ……と思ったが、2人にとって盗賊は避けるべき障害ではなく、積極的に駆除すべき害虫である可能性が高いな。

 ハンナ達の件もあるし。

 

「やはり、ついてきますね」

 

 面倒だし〈ワープ〉で逃げてしまおうか……と一瞬思ったが、丁度盗賊(心が傷まない)相手に試してみたいことがあったのを思い出した。

 

「何人いるかわかるか?」

「多分4人……です。

 こちらより多いです」

 

 よし、ならば通路で待ち構えるべきだな。

 包囲されては敵わん。

 

「もしもの時を考えて、逃げやすいように分岐がある通路で待ち構えるのはどうか」

「良いと思います」

「盗賊じゃなかったら適当にあしらうぞ」

 

 デュランダルはもう出している。

 大分レベルも上がったし、これまで戦ってきた盗賊と同じくらいの相手なら問題ないとは思うが。

 

「来ます」

 

 ロクサーヌの声に、すかさず〈鑑定〉を使う。

 

    盗賊:Lv40     

   探索者:Lv25   

    盗賊:Lv30     

    盗賊:Lv31     

 

「ちっ、気づいていやがったか。

 まあいい、やるぞ」

「へい」

 

 ……2人に説明する手間を省いてくれてありがとう。

 指示を出したのは盗賊Lv40の男だ。

 残りの3人がそれぞれ臨戦態勢に入る。

 

 開幕の狼煙に……あれ? 〈ファイヤーストーム〉が発動しないな。

 〈ファイヤーボール〉は……こっちは対象を選択できるか。

 攻撃対象の選定が割と謎な全体攻撃魔法だが、対魔物限定なのだろうか。

 

「上玉2人はなるべく生かせよ」

「へい、こいつぁ楽しみだ」

「まあ、俺の後だがな」

「ごちになりやす」

 

 まあ、探索者Lv50のロムヤを圧倒したロクサーヌもいるし問題ないだろう。

 とはいえ、あの時のロムヤと違ってパーティーを組んでいるはずだし、数も向こうが上だ。

 先に1人減らすべきかな。

 

 賞金稼ぎのスキルである〈生死不問〉を使うが……駄目か。

 魔物相手にさっぱり効かないから、盗賊相手ならと思ったんだが。

 〈等量交換〉を使えば1人は確実に減らせるだろうが……怖いな。

 

「おい、アイテムボックスに有り金があるなら、遺品としてもらっておいてやる」

 

 と、一番レベルが低いくせに妙な上から目線で(のたま)う探索者Lv25ならとも思うが……まだ三十路前か。

 若い方が体力あるだろうし、HPも高いんじゃないかな?

 うーん、ステータスがわからんから不安だ。

 

 ……盗賊Lv40は一歩退いた位置にいるな。

 通路で待ち構えて良かった、武器を持った3人が並ぶのが精々の幅しかないからな。

 全員剣を持っているから、一番強い奴に先頭に立たれるのが一番嫌なんだが。

 

「盗賊が3人、今何か言ってたのが探索者だ。

 後ろのやつは俺がやる」

 

 2人が小さく頷くのを確認してから、〈ワープ〉を使って横の壁に黒い幕を出現させ、そこに入る。

 

「野郎ッ! 詠唱を終わらせていやがった!」

「……いや、逃げたのは1人だ」

 

 〈ダンジョンウォーク〉だと思った探索者が焦りだすが、盗賊Lv40は冷静に言った。

 

「女を放っといて逃げるとは、バカなやつだ」

「バカはどっちですか」

 

 吐き捨てる盗賊Lv40に、《俺と目を合わせながら》ロクサーヌが嘲った。

 〈ワープ〉で盗賊Lv40の後ろの壁に移動していた俺は、〈オーバーホエルミング〉を使って一気に駆け出して盗賊Lv40の軸足を切り払う。

 念の為、もう片方の足も動かないように腱を断っておいたところで、〈オーバーホエルミング〉の効果が切れた。

 

――ギィャヤア!!!

 

 戸惑う残りの3人の後ろで頭目の悲鳴が響き渡り、連中がこっちを振り向いた。

 そしてロクサーヌもセリーも、そんな致命的な隙を見逃すわけが無いわけで。

 

――ズンッ!

 

 1人はロクサーヌが音もなく首筋を斬りつけ、もう1人はセリーの振り下ろしで潰れた……文字通りの意味で。

 まだ立っているのは、多分最も弱いであろう探索者Lv25だ。

 

「ど……どうなっていやがる……」

 

 血の海の真ん中で探索者Lv25の男が、もう一度同じセリフを呟いてへたり込んだ。

 震える声で〈ダンジョンウォーク〉の詠唱を唱え始めたが、ハルバードを突き付けられて言葉を止めた。

 そうこうしている間に、倒れ伏す頭目にもう一度〈生死不問〉を使うが……また駄目か。

 

 これまでは迷宮探索のついでに魔物に〈生死不問〉を使っていたが、ペルマスクで博徒の男を見かけて以来、ちょっとやり方を考えなければならないのでは……と思っていた。

 というのも、その博徒はどことなく凄みのある感じというか、そんな大物感があった。

 実際、冒険者ギルドの出入りを管理している騎士も、思い起こすと見て見ぬふりというか恐れているような気がした。

 

 比較してみると我が身はどうか。

 安全マージンを取って格下の魔物にばかり〈生死不問〉を使う行為は、博徒に必要と思われるギャンブル行為とはかけ離れているように思う。

 もっと格上相手の、それこそ一発逆転を賭けるような……と思ったのだが、いくらレベルが上の盗賊と言っても、半死半生の相手ではやっぱり駄目かもしれないな*1

 

 次に五体満足の探索者Lv25の方で試してみるが……駄目だな。

 と、俺が嘆息して首を振った仕草に何か思ったのか、探索者が泡食って喚き出した。

 

「た、助けてくれ! 俺は探索者だ! この盗賊共に無理やり――」

「――アイテムボックスに有り金があるなら、遺品としてもらっておいてやる」

 

 さっき言われたセリフをそのまま返したら大人しくなった。

 地べたで呻いている頭目が「……へっ!」と掠れ声で嘲笑した。

 

 ……俺としては、これでも感謝しているんだが。

 おかげで盗賊じゃない人間を殺しても、万が一にも後悔しないで済む。

 

「か、金は出す! 出すから!

 や、八百(やお)千五百(ちいほ)のお宝を――」

 

 話している内にクールタイムが終わったので、もう一度試してみる……が、駄目。

 アイテムボックスを出そうとしている男に、デュランダルを突き入れて黙らせる。

 

「よろしかったのですか?」

「どうせこの手の輩は、金がある内は遊んでいるだろうから、大して持っていやしないだろう」

 

 ……みんなで稼いだ金と一緒にしたくないしな。

 

「それにしても、生死不問はさっぱり使えんな」

「まあ、強力なスキルですから、その分効きにくいのだとは思いますが」

 

 俺の半ば独り言に、ハルバードで探索者を突っついて死亡確認しながらセリーが相槌を打った。

 探索者Lv25ではなく、盗賊Lv40の頭目を五体満足で残して試すべきだっただろうか。

 

 ……いや、それとこれとは関係なく、まず探索者を落とすべきだったのではないか。

 連中は当然パーティーを組んでいたはずで、探索者がいなくなれば〈パーティー編成〉は解除されたはずだ。

 つまり、ジョブの効果も横展開されなくなるわけだ。

 

 パーティ効果のないただの盗賊Lv40なら、ロクサーヌに相手をしてもらえば間違いもなかっただろう。

 ……まあ、今更か。

 

「し、しょうき、ん……かせ、ぎ……?」

 

 盗賊だけに、賞金稼ぎのスキルのことも知っているようだ。

 とはいえ〈詠唱省略〉しているし、何が起きているのかわかっていないだろうが。

 

 頭目は息も絶え絶えになりながら、のろのろと手を伸ばす。

 その先には取り落とした鉄の剣があるが、無情にもロクサーヌが先に拾い上げた。

 〝どうしましょうか?〟と目で問い掛けてくる彼女に、「少し待ってくれ」と答える。

 

 そして最後にもう1回だけ〈生死不問〉を――おっ!?

 ……盗賊Lv40がガクっと動かなくなり、〈鑑定〉できなくなった、死んだのだ。

 

 

   【ジョブ設定】

      探索者:Lv37

       英雄:Lv35

     魔法使い:Lv37

       僧侶:Lv30

       色魔:Lv30

     賞金稼ぎ:Lv30

       村人:Lv10

       盗賊:Lv30

       商人:Lv30

       剣士:Lv30

       戦士:Lv30

    薬草採取士:Lv26

       農夫:Lv1

      料理人:Lv30

     錬金術師:Lv30

     奴隷商人:Lv1

     武器商人:Lv23

     防具商人:Lv30

       騎士:Lv1

      暗殺者:Lv24

       博徒:Lv1

      遊び人:Lv1

 

 

 ……おおっ、ジョブが一気に2つも増えているぞ。

 遊び人の取得条件は沢山のジョブを取得することだと思われるから、今回博徒を得て条件を満たしたのだろう*2

 

 

    博徒:Lv1

    効果:知力小上昇

      :器用小上昇

   スキル:クリティカル発生

      :状態異常耐性ダウン

 

 

 ……クリティカルの概念は、ボーナススキルにもあるのにすっかり忘れていたな。

 あっちは発生率アップだから、そもそも0%だと意味がないということだろう。

 そして〈状態異常耐性ダウン〉か、こうなるといよいよ状態異常装備が欲しくなってくるな。

 

 

   遊び人:Lv1

    効果:空き

   スキル:効果設定

      :スキル設定

      :空き

 

 

 ……うん、わからん。

 とりあえず、ロクサーヌとセリーにジョブを得たことを話そうと2人を見ると……テキパキと盗賊連中の衣服を剥いだり手首を切断したりしていた。

 

 …………ああ、インテリジェンスカードか。

 あまりにもあんまりな光景に、一瞬フリーズしてしまった。

 

 盗賊のインテリジェンスカードは、騎士団に届けて懸賞金がかかっていればそれが貰える……というのは、ベイルの盗賊の件で経験している。

 そして死体は迷宮に呑み込まれてしまうから、インテリジェンスカードがある手首だけは別にしなければならない。

 衣服を剥いでいるのは、その手首を小分けにする布を得るためだな。

 

「あー……やらせてしまってすまない。

 手を洗っておいたほうが良いだろう」

 

 〈ウォーターウォール〉で水を出すと、2人はお礼を言って洗い出した。

 あまりにも平素と変わらないその様子に、つい「随分手慣れているような……」という非難めいた言葉が出てしまう。

 

「迷宮では、死んだパーティーメンバーの装備とインテリジェンスカードを持ち帰ることもありますから*3

「さすがに盗賊を殺すのは初めてですが……いえ、私はですが」

「私もご主人様と出会う前はないですよ?」

 

 なるほど、ドッグタグ*4のようなものか。

 話している間に、死体が床に沈み込むように消えた。

 認識票もといインテリジェンスカードは、いつぞやのことを考えるともうちょっと時間が掛かるかな。

 

「そうそう、さっきようやく〈生死不問〉が成功してな、思った通り博徒のジョブを得ることが出来たぞ。

 これも2人のおかげだ」

『おめでとうございます』

 

 2人とも、どうやら〈生死不問〉が効いたことは気付いていないようだった。

 まあ、死にかけだったしな。

 

「これまでにも魔物相手に使っていたのですよね? 盗賊の方が効きやすいのでしょうか?」

 

 早速条件を考え出したセリーに、さっき考えていた格上相手の方が効きやすいのでは? という推測を伝えると、「なるほど」と頷いた。

 

「まあ、あの盗賊も死にかけだったから、その時の状態で力量に差があるほど成功する、あるいは弱っているほど成功する……という可能性もあるかもしれない」

 

 セリーが曖昧な表情で頷いた。

 弱い相手や死にかけの相手に効きやすい即死攻撃って微妙だもんな。

 ……実際どうなんだろう、結構下の方の魔物でも試したはずなんだが。

 確率だから失敗し続けることも十分あるとはいえ、それじゃあまるで俺が運が悪い人みたいじゃないか。

 

「そして博徒と一緒に……あー、遊び人のジョブも得ることができてな」

 効果とスキルがよくわからんのだが……とはいえ、いい加減遅い時間だしな」

 

 博徒で遊び人って、言葉にすると……なんというか酷いな。

 ……あ、色魔も持ってたわ、もう役満じゃん。

 居た堪れない気持ちになっていると、ありがたいことに丁度手首からインテリジェンスカードが出てきた。

 

「このインテリジェンスカードはどうしましょうか?」

 

 セリーに訊かれて、思わず言葉に詰まる。

 

「先ほどの騎士団の人を探してみますか?」

 

 ロクサーヌがそう言うが、探せるのか? ……探せそうだな。

 顔見知りっぽいから、こちらのインテリジェンスカードは確認されないかもしれない……し、されるかもしれない。

 この迷宮には〈ワープ〉で来ているから、事情があって探索者になりまして……という言い訳は使えないし。

 

「どっか他所の騎士団に持ち込むのも……変な話だよな」

 

 ロクサーヌとセリーが顔を見合わせてから頷いた。

 

「ま、考えていても仕方がないな。

 金に困っているわけでもないし、そのうち機会もあるだろう」

「はい」

「そうですね」

 

 装備品と魔結晶をアイテムボックスに仕舞って、インテリジェンスカードはしばらく寝かせておくことにする。

 カードに享年とか表示されたら困ることになるかもしれないから、その時は事前によく確認しておこう。

 

「結局ラブシュラブとは戦えなかったが、今日のところは家に戻ろう。

 ……ハンナとカタリナには、何も言わんようにしようか」

「そうですね、2人の仇の盗賊というわけではないですし」

「狂犬のシモンでしたね、出会ったらただではおきません」

 

 ロクサーヌが気合を入れているが……まあ、そうそうエンカウントすることはないだろう。

 ハンナ達は北部の方で商売をしていたらしいが、ハルツ公領ではないようだし、盗賊の行動範囲なんて知れていると思う。

 大手を振って冒険者ギルドに行って渡りを頼むのも難しいんじゃなかろうか。

 

 ……というか、そう何度も盗賊に遭遇して堪るか。

 

 

 

   クーラタルの街

     道夫の家

 

『おかえりなさいませ、御主人様』

「ただいま、2人共。

 何か変わったことはなかったか?」

 

 不自然な言い方になっていやしないか……と、内心ヒヤヒヤしていると、カタリナが少し興奮気味に話しだした。

 

「蜜蝋を使った石鹸ですが、固まるのが早いようです。

 もしかすると、出来上がる時間を短縮できるかもしれません」

「おおっ、それは素晴らしいな」

 

 工期の短縮はそのままコストの削減に繋がる。

 最初に石鹸を作ってから、そろそろ20日近く経っている。

 ここらは乾燥気味な気候のせいか、理科の実験でやった時より固まるのは早いようだが、それでも時間が掛かっているからな。

 

「それと、朝に作って余った分を少しだけ使ってみたのですが、いつもより指先がしっとりしておりますような……」

 

 カタリナが指先を触りながら言葉を続けた、その手は結構荒れている。

 毎日水仕事をさせているし、ハンドクリームとかはないしな。

 ……母さんの指もこんなんだったような気がする。

 

「指先が荒れているな、ハンナもか?」

「あ、あの」

「別に痛みがあるわけでは」

 

 ジョブを付け替えて僧侶をセットしつつ、遠慮する2人に〈手当〉を使う。

 ……これくらいの軽傷なら治るようだな。

 折角〈全体手当〉があるんだから、使ってくれれば良いのに……いや、そういえば初めて使った時、MP消費が辛そうだったか。

 

「カタリナの巫女もLv20を超えたから、そろそろ全体手当を使っても大丈夫だろう。

 石鹸で手洗いすれば大丈夫だと思うが、小さな傷が大きな病気に繋がることもある。

 今後は、自分の判断で使ってくれて構わない」

 

 仮に保湿効果があるなら、手荒れの改善にも繋がりそうではあるが。

 石鹸を変えて改善するかどうか実験することもできるかもしれないが、手荒れを治してから手が荒れないか観察しても同じことだと思う。

 ならば治してしまった方が良いだろう。

 

 そんな風に言い包めするが、「は、はい」と口籠るカタリナの顔が赤い。

 ……おっと、〈手当〉をした時に手を掴んだままだった。

 

「では、食事にさせてもらおうか」

「わかりました」

「すぐにご用意いたします」

 

   ※   ※   ※

 

 その夜のこと。

 考え事をしていてなかなか眠れなかったので、目を瞑って遊び人の設定画面を眺めていた。

 

 

   【スキル設定】

    アイテムボックス操作(探索者)

    アイテムボックス操作(武器商人)

    アイテムボックス操作(防具商人)

    アイテムボックス操作(料理人)

    インテリジェンスカード操作(騎士)

    インテリジェンスカード操作(奴隷商人)

    オーバーホエルミング

    カルク(商人)

    カルク(武器商人)

    カルク(防具商人)

    カルク(奴隷商人)

    禁欲攻撃

    クリティカル発生

    生薬生成

    初級風魔法

    初級土魔法

    初級火魔法

     ▼

 

 

 〈スキル設定〉を使ってみると、持っているスキルがずらーっと出てきた*5

 スキルの“空き"に他のジョブを設定できる……ということだろうか。

 とすると、〈効果設定〉の方も……同じのようだな。

 

 〈アイテムボックス操作〉とか〈インテリジェンスカード操作〉とかはジョブ毎の別項目になっているのは、効果が違うからだろう。

 探索者Lv30から派生するジョブは、容量が30×30固定だ。

 では探索者の〈アイテムボックス操作〉を設定した場合にアイテムボックスがいくつになるのか、探索者のレベル依存なのか遊び人のレベル依存なのか……は、明日確認するとしよう。

 真っ暗な寝室でやることではない。

 

 それよりなにより、魔法使いと遊び人で2回魔法が使えるなら話は大きく変わってくるな。

 ……クールタイムが共通なら意味ないけど。

 いかんな、考え事をしていて眠気が遠のいていたが、別の意味で眠たくなくなってきた、子供か。

 

「お加減が悪いのですか?」

 

 ふと、ロクサーヌの声が耳に入った。

 

「いや、遊び人のスキルが気になってな、それで眠れなかっただけだ」

 

 言っても無駄だろうが、「気にするな」と言っておく。

 実際無駄だった。

 ロクサーヌが顔を覗き込んでいるのがわかる……だって吐息が当たるんだもの。

 真っ暗だから、そうするしかないのだろうが。

 

 ……このままだとロクサーヌも寝てくれないのだろうな、と諦めて話すことにする。

 その前にセリーの方を見ると、「もう眠ったようです」とロクサーヌが言うので、声を潜めて、

 

「今頃になって気付いたんだが……」

 

 ハンナ達母娘がなぜ拷問されたのか、だ。

 アイテムボックスを持っている相手を殺したら、その中身は手に入らない。

 つまり、アイテムボックスの中身を奪うには、自主的に差し出すように仕向けなければならない。

 

 ……ということを、あの探索者の言葉で気付いたのだった。

 

 ハンナもカタリナも、ここに来た時はただの商人だった。

 防具商人だったのはハンナの夫らしいから、当然売り物である装備品や高額貨幣は彼が持っていただろう。

 アイテムボックスの中身を手に入れるためにはどうするか、間違って殺してしまわないようにするにはどうするのが効果的か。

 

 ……死んだ旦那は、生きたままそれを見せられていたのだろうな。

 

 そしてそのことに俺が思い至らなかったのは……多分、根本的に人が人を傷付けるのに理由なんか必要ないと思っているからだな。

 ちょっと異常な思考なのかもしれない……ため息が出る*6

 

「……そういえば、ロクサーヌは2人を初めて風呂に入れた時に色々気にしていたな。

 気付いていたのか?」

「それは、はい」

「そうか……すまなかった」

 

 盗賊の一味の探索者のことも、俺が殺すまで2人は手出ししていなかったし、この世界では当然のことなんだろうな。

 

 そして鏡の売買をしていた時も、大金を預かってもハンナはすぐに俺に渡していた。

 あれは、責任の重さを感じて……とかじゃあない。

 自分のアイテムボックス目当てに娘が拷問されるのを恐れていたのだ。

 

 結果として、大金を預けたのは取引の時だけだし、その時もロクサーヌとセリーに護衛を頼んでいた。

 鏡を置いて留守を任せてしまったが、鏡はアイテムボックスに入らないし、強盗が来たら迷わず渡して安全を確保しろと指示していた。

 だがそれは、何も知らずに偶然正解の選択肢を選んでいただけだ。

 

――ミシッ

 

 ベッドが軋みをあげて、身体が重くなった。

 ……ロクサーヌに伸し掛かられたようだ。

 耳元に吐息を感じる。

 

「あの時、痛かったんですから」

 

 囁き声の後、首筋に痛みが走った。

 噛みつかれた?

 ……まあ、可愛いものだが。

 あの時は、ロクサーヌが去ってしまうような気がして、それでつい……なんてのは、なんの言い訳にもならないか。

 

「こんな風に、無理やり、痛かったです」

「あ、あの、ロクサーヌ?」

 

――ミシッ ギシッ

 

 ね、寝る時は滋養強壮薬(色魔)をつけてるから、そんなことされたら――!

 

「痛かった、ん、です、から」

 

――ギシッ ギシッ ギシッ

 

 ……その後、2回搾り取られたところまでは記憶が残っている。

 

   ※   ※   ※

 

「お……おはようございます」

 

 翌朝、珍しくセリーに起こされた。

 その顔は、薄暗がりでもわかるくらい真っ赤だ。

 ……ああ、昨日――今日? は繋がったまま寝てしまったのか……うぁ、下半身がえらいことに。

 

「あ、その、おはようございます」

「……おはよう」

 

 上に乗ったままのロクサーヌと同時に挨拶をする。

 ロクサーヌは下に敷いてるものの感触に気付いたのか、同じく真っ赤になった。

 ……あの、寝起きにこうなるのは生理現象なので、あまり上で動かんでもろて。

 

「お、お風呂場で洗ってきた方が、よ、よろしいかと」

 

 目を逸らしつつチラ見するという器用なことをしながら、セリーが言った。

 ……あの、寝起きにこうなるのは生理現象なので、あまり見んでもろて。

 

「そうする」

 

 大人しく従うことにした。

 

 

 

 

   ロクサーヌさんへ。

   ご主人様に鏡をよく見るように伝えてください。(セリー)

 

   ※ここから下はご主人様のメモ欄です。

 

   春52日

    終日:ハルバー13F

 

 

 色魔をきっちり外してから、お湯で身体を拭って風呂場から出ると、掲示板を見てまたロクサーヌが顔を赤くしていた。

 ……何が書いてあるんだろう?

 

*1
〈生死不問〉の成功条件について、あとがきにて弁明……もとい補足します。

*2
 原作道夫君が遊び人になった時点で所持していたジョブで、この道夫さんが所持していないのは村長だけです。

 そして、以前にも触れましたが、遊び人皇太子を村長に〈任命〉する騎士がいたとは思えません。

 遊び人皇太子は道夫君も道夫さんもこの時点で持っていなかった神官のジョブを所持していた可能性はありますが、英雄のジョブを持っていたとは思えません。

 以上のことから、現時点で遊び人の条件を満たせるものと、本作ではします。

*3
 本作オリジナル設定ですが、おそらく原作でも同じでしょう。

 原作では、迷宮ではありませんがバラダム家との決闘の一件で敗者の死体は打ち捨てられ、インテリジェンスカードだけ持ち帰られていました。

*4
軍隊において兵士が身につける認識票を意味するスラング。

*5
原作道夫君は最初に特に理由もなく〈アイテムボックス操作〉をスキル設定で選択しているので、恐らく50音順で表示されていたのではないかと推測します。

*6
 若き日の道夫君はいじめとDV(ネグレクト?)を受けているので、年を取ってもこのように考えるのではないかと思います。

 訳ありなことが確定している奴隷の過去なんか深く考えたくないというのも大きいでしょうが。




■〈生死不問〉の成功率について(ついでに〈エクストリームドロップデッド〉についても)
 Web版では、〈生死不問〉の初成功は賞金稼ぎLv32以降でした。
 デュランダルと〈詠唱省略〉のある道夫君ですから、〈生死不問〉の試行回数は現地人より遥かに多かったはずですが、それでもそれだけ時間が掛かっています。
 そのことから、実はレベル的に格上相手の方が効きやすいスキルであり、原作では一部の対人戦を除いて道夫君は格上相手と戦闘していないため成功しなかった、ということに本作ではする……つもりでした。
 原作であんなに成功しなかったんだから、あっさり成功したらちょっとご都合主義すぎるかなと思ったからです。

 ……書籍版を見直したら、成功率が見直されたのかもっとあっさり成功しているのを見落としていました。
 Web版はpdfで落として全文検索できるから調べやすくて、つい……。

 じゃあもっと早く遊び人になれたじゃん……はい、作者のガバです。
 でも〈生死不問〉のスキル名は西部開拓時代のDead or Aliveが由来と思われ可能なら生きて逮捕したいけどそれができないから殺しちゃってもヨシッ!にしたという経緯があるはずで更に本文で書いた通り博徒の取得条件になるならギャンブル要素が必要なはずでであれば格上相手用スキルというのは結構説得力のある設定じゃないでしょうか?(早口)

 後で修正するかもしれませんが、本作では低レベル相手と弱っている相手に効きやすいスキルとします。
 魔物と違って人間は怪我をすると弱るので、これでも原作とあまり矛盾はないと思います。

 そして、同じく書籍版を見返して、〈生死不問〉を試している時に〈エクストリームドロップデッド〉も試していて……Lv1の魔物に効いてましたねぇ。
 じゃあもっと早く魔法使いになれたじゃんよ……はい、これもガバです。

 今更直せないので、〈エクストリームドロップデッド〉はMP消費量が多かったので使えなかったということにそのうち修正します。
 実際、結構レベルが上がってる原作書籍7巻時点の道夫君がMP消費量について「結構ごっそりいったな」と表現しているので、低レベルで魔法使い取得前の道夫さんには発動できなかった可能性は高いでしょう。(というか、原作者様はそのツッコミをされたくないからそのように描写したのだと思います)
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