明日はボーデで風呂場用の壁掛け鏡を受取る予定です。
風呂場で作業するついでに、一度風呂桶を日干しに
したいのですが、お手伝いいただけますか?(ハンナ)
↑もちろん協力します。(セリー)
↑以前お話しした、排水口に蜜蝋を塗る作業も
一緒にやりたいです。(ロクサーヌ)
↑掃除がしやすくなりそうですね。
ありがたいです。(ハンナ)
※ここから下は御主人様の備考欄です。
春55日
AM:ボーデ
PM:クーラタル16Fを目指す
ボーデ 城下町
武器防具店
昨日の探索終了後、クーラタルの商人ギルドにエルフ武器商人から報せがあった。
姿見の方はまだ時間が掛かるが、手鏡と壁掛け鏡が用意できたそうだ。
丁度ロクサーヌの武器をなんとかしたいと思っていたから、渡りに船ということで朝から早速鏡を受け取りにやってきた。
「本日ご用意致しましたのは、手鏡2つと壁掛け鏡です」
先日聞いていた店の場所まで行くと、エルフ武器商人が丁寧な物腰で説明を始めた。
白木の柄がついた手鏡が2つ、美しい文様が彫られているのが1つと、もう1つは地味めだ。
片方はハンナ達が使う分だから、遠慮したのかもしれない。
「……みんなはどうだろう? 良い物だと思うが」
「はい、もったいないくらいです」
皆が笑顔の中、ロクサーヌが代表して「ありがとうございます」とお礼を言った。
良かった、気に入ってくれたようだ。
「どうもありがとう、皆も気に入ってくれたようだ」
「はい、なによりでございます」
あとの1つ、壁掛け鏡の方は金属の縁と金具だけがある簡素なものだ。
風呂を使うのは王侯貴族くらいらしいので詳しい用途は言ってないのだが、水場で使うとか上手いこと言っておいてくれていたらしい。
固定するのに壁に穴を空ける必要はあるが、まあ前の住人のアグレッシブさを思えばそれくらいは誤差だろう。
こちらの返答に、武器商人とその奥さんも笑顔になった。
良かった良かった。
鏡も良かったし、ペルマスクへの輸送の件を蒸し返されないかと不安だったのだが、その心配もないようだ。
「ボーデの南の迷宮の方も、なかなか探索が進んだようでございます。
こちらは、ミチオ様は探索のご予定がないようですが――」
地図はないが、確認されている魔物についてはわかるのでということで、パピルスに書きつけたものを用意してくれていた。
「――冒険者ギルドよりは情報が早いはずです、よろしければ……」
「や、これはご親切に」
……七階層か、新迷宮の話を初めて聞いたのは……春の50日だったかな、5日前か。
5日で七階層まで到達というのは、速いのか遅いのかわからんな。
ターレの迷宮よりは早いが、結構人が多く投入されているとか言っていたし。
まあ、もしクーラタルの十六階層より都合が良い階層があれば……いやいや、後から進捗を追い抜かれるようではいかんな。
ボーデの迷宮が十六階層くらいまで探索が進む頃には、さっさとレベル上げを終えてもっと上の方までターレの迷宮の探索を進める、それくらいじゃないとな。
魔物のランクが変わる二十三階層以降はわからんが、二十二階層までは連続魔で結構サクサク行ける……と思う。
「では先日話した通り、装備の方も見させてもらいたいのだが」
「もちろんでございます、どうぞこちらへ」
そのためにも装備を整えなければな。
……。
…………。
………………。
求めているのは、空きスロットが4つある武器。
〈詠唱中断〉、〈催眠〉、〈麻痺添加〉、〈石化添加〉のためだ。
防具の方は属性耐性4つ、状態異常耐性3つ、移動補助系3つ。
それと昨日の会議後、セリーとハンナによくよく話を訊いてみると、スライムのスキル結晶で〈物理ダメージ削減〉というスキルが付くらしい。
というわけで、合計11の空きスロットが必要になる。
これらを頭、銅、腕、足の4部位で揃えたい。
盾は使ったり使わなかったりだし、アクセサリーに付けて〈身代わり〉で壊れると弱体化してしまうからな。
よって、空きスロットが各部位できれば3つは欲しいわけだな。
空きスロット4つの装備が手に入ることも期待できるから、2つでも妥協はできるが。
竜革の帽子
・空き
・空き
・空き
……該当するのはこれだけだな。
軽い分防御力は劣るが、装備のランクとしてはダマスカス鋼と同等らしい。
鋼鉄装備で空きスロット3つはちょいちょいあるから、竜革装備の最大スロット数は多分4つだろう。
まあでも、3なら迷わず買いだな。
ダマスカス鋼の剣
・空き
武器の方は、こう言ってはなんだが不作だ。
見た目は格好良いけどな、特徴的な波紋があって。
ダマスカス鋼シリーズ一式の他にはエストックとスタッフもあったが、空きスロットがあるのはこれだけだった。
スロット1か……2つなら迷わず買った。
ロクサーヌの場合、状態異常だけでなく〈ビーストアタック〉でダメージソースになる方向もあるから、〈詠唱中断〉と〈MP吸収〉というのは有りだと思う。
あとカッコイイ、ダマスカス鋼と日本刀が嫌いな男の子はいない。
「……ということなのだが」
店主夫婦が他の装備を物色しているロクサーヌとセリーの方の相手をしている隙を見計らって、ハンナに相談してみる。
「なるほど……空きスロットがある確率は手前には見当も付きませんが、後で装備を更新することも出来るはずです。
ご主人様の中で、最低限必要だとお考えのスキルは〈詠唱中断〉でよろしいでしょうか?」
「ああ、そうだな」
詠唱中なら確定でスキル攻撃を阻害できる〈詠唱中断〉が優先だろう。
状態異常系は確率だから、博徒の〈状態異常耐性ダウン〉を使うか、〈状態異常確率アップ〉がある暗殺者でもないと当てにし難い。
どんな場合でも使えるのは、やはり〈詠唱中断〉の方だろう。
「〝強権のダマスカス鋼剣〟ともなれば、どんな捨て値で売却しても30万ナールにはなります」
「なるほど……買うか」
こないだは話の流れで、つい今後はどんどん〈スキル結晶融合〉をやってもらうぞ宣言をしてしまったが、元々は〈武器製造〉と〈防具製造〉をやってくれれば良いって説得して鍛冶師にしたからな。
それを思うと、スキル付加して売り飛ばすのはセリー的にどうだろうかとちょっと心配なんだが……まあ、今更だな。
「そういえば、先日の聖銀装備が見当たらないな」
「恐れ入ります、あれは売り物ではなく結納品でして」
ハンナに話しかけたつもりだったのだが、いつの間にかロクサーヌ達の相手を奥さんに任せたらしい武器商人がやって来て、そう言った。
「ゆ、結納品? ……そんな大変なものを預かっていたとは」
……よく奥さん許したな。
いくら公爵の紹介状と委任状を持っていたとはいえ。
そんな風に慄いていると、武器商人が苦笑した。
「あ、いえいえ、私の結納品でございます。
私共のような武器商人や防具商人は、探索者として練達する必要がありますから……」
一般的に、結納品は女の家から男の家に贈るものだそうだ。
魔物と戦うのは原則男の役目だから、男が減って女があぶれるためだな。
だが、武器商人や防具商人の場合は探索者としてレベルを上げるために男も女も迷宮に入る。
男の数だけが減るということはないので、男側が結納を入れる。
これは貴族の場合も同じだそうだ。
……どっちにせよ、旦那から嫁側に納めた品なわけだから、よく許したなって感想は変わらないが。
まあ、婿入りしているというからこの店は奥さんの家なのだろうし、そっちはそっちで非売品の良い装備を持っているんだろうけど。
「ご主人様、アクセサリーの方の確認はよろしいでしょうか?」
「ああ、それもそうだな」
ロクサーヌとセリーは何を見ているんだと思ったが、アクセサリーの方か。
〈ダメージ逓増〉が必要になるのは先のことだから、後回しにして忘れていた。
……指輪とかアミュレットとか手に取っているけど、おねだりしてるわけじゃないよな?
ネックレス
・空き
・空き
・空き
・空き
……で、有ったよ、空きスロット4つ。
そういえば今は〈知力二倍〉をロッドにつけているが、防具やアクセサリーにもつけられるらしい。
今度武器を更新した時のことを考えると、アクセサリーにつけた方が便利なんだよな。
それは〈攻撃力二倍〉もそうだ。
もちろん、〈攻撃力五倍〉がついているデュランダルでは意味がないが、それ以外の武器――前にセリーに聞いた聖槍に〈MP吸収〉を付けた場合は生きてくる。
魔法と〈ワープ〉が使える俺が死ぬと多分パーティーは壊滅するから、デュランダルを使わずに生存性重視でボーナスポイントを防具に振ることも出来るし。
「使い捨てになることを恐れてミサンガを使うお客様が多いですが、アクセサリーには魔法攻撃に対する防御力を上げる効果がございますので、こちらを選ぶお方もおられます。
指輪、イアリング、アミュレットの順に効果が上がります」
ビジネスチャンスとでも思ったか、武器商人の奥さんがシュバってきた。
察するに、最大空きスロット数は2、3、4だろうか。
スロット2の指輪はあるが、デザインもそんなに派手じゃないからできればこれくらいが良いんだが。
「こちらのネックレスですが、魔法に対する防御も上がるだけでなく、魔法の威力も上がる品となっております。
魔法使いの方に特にお勧めしたい逸品です」
……欲しい、とても欲しい。
だがデザインが……なんだよこの金ピカのジャラジャラしたの、こんなのプロ野球選手くらいしかしないだろ*1。
「魔法防御が上がるのは良いですね」
「はい、魔法使い以外の方がしてもおかしくはないですね」
俺の様子を見て、空きスロットがあることを察したのだろう。
セリーとハンナが援護射撃を寄越した。
遅れてロクサーヌも、「えっと、いずれ魔法使いのパーティーメンバーも増えるでしょうし」と同意した。
多分、魔法使いじゃないのに買うのはおかしいのではないか、と俺が懸念していると思ったのだろう。
……いや、その懸念も確かにしてはいるのだが。
「左様でございますね。
ミチオ様は素晴らしい冒険者でいらっしゃるのですから」
奥さんがネックレスを俺の首に当ててニコニコ笑顔になった。
そして少し離れた位置で、武器商人がこっちを見て……目が合うと逸らされた。
……良いんだぜ、また鼻で笑ってくれてもよ。
「あの……今度、ご主人様の服を買いに行きませんか?」
……ロクサーヌよ、そっちの方が傷つくぞ。
「……そうだな、カタリナ達が帰ってきたらそうするか」
この心の傷を癒やすには、ロクサーヌとセリーにネグリジェを着てもらうしかないだろう。
クーラタルの迷宮
十六階層
風呂場に鏡を設置して、午後。
またターレの迷宮に入って、すぐクーラタルの迷宮に移動する。
入口にいる顔見知りの探索者に「今日はお休みなのかと思いましたが、毎日ご苦労さまです」と挨拶されるとちょっと心が痛むが、公爵達だって入るだけで良いといっていたし、詐欺ではないと思う。
ないはずだ。
ないに違いない、ヨシッ!
十五階層はもう散々戦ったグラスビーなので、さっくり突破した。
十四階層と同じく、魔法3発――つまり2ターンで撃破できている。
一応、ネックレス改め〝身代わりのネックレス〟を外したら魔法が4発になったから、ネックレスの効果は出ているようだ。
そのネックレスは硬革の鎧の下に納めているから、外目にはわからない。
が、鎖骨がちょっと痛い。
「クーラタル十六階層の魔物は、先日も言ったようにビッチバタフライです。
風魔法が弱点で、火魔法に耐性があります」
「ああ、それで麻痺攻撃をしてくるんだったか」
〈パーティライゼイション〉は使うつもりだが、一応2人にも抗麻痺丸を渡しておく。
「この階層でもサラセニアとフライトラップとは戦いたくないな。
ロクサーヌ、とりあえずビッチバタフライ1匹のところに案内してもらえるか」
「はい、こちらです」
もう目星はつけていたらしい、ロクサーヌがすぐに歩き出した。
ビッチバタフライ
Lv:16
迷宮で蝶というと、世界樹の迷宮で毒吹きアゲハに全滅させられたトラウマが蘇るが、こいつは蝶というよりデカい蛾だ。
流麗とか可憐とか言った言葉とは無縁な、バタバタとした飛び方をしている。
動きも鈍い、これなら〈ブリーズボール〉が当たるだろう。
実際問題なかった。
〈ブリーズボール〉はバンバン当たるし、魔法陣が出た端からセリーがハルバードで突き刺してキャンセルさせて、何もさせずに魔法3発で煙になった。
Lv16でも3発か……村人と農夫を付けても4発で2ターン撃破できそうだな。
いや、しばらく籠ることになるから、この2つを同時に上げる必要もないか。
今後もずっとレベルを上げることになりそうな探索者、英雄、魔法使い、遊び人、色魔を基本セットとして、残り1枠を優先度が低いジョブのレベル上げに使おう。
鱗粉
「今度は鱗粉か」
ビッチバタフライを倒した後には、キラキラ光る粉が残った。
ナイーブオリーブからドロップするオリーブオイルのように、薄い膜に包まれている。
「これも建材ですね。
漆喰に混ぜるとよく水を弾くようになり、そして滑らかで美しい仕上がりになります」
「確か、帝城もその建材なのですよね」
「はい、先日連れて行っていただいた図書館も同じです。
奴隷商の商館もそうだったと思います」
ロクサーヌも知っているから、有名な建材なのだろう。
建材となると、さっぱり使い道が思いつかんな。
まさか食べ物にはならんだろうし、鱗粉を石鹸に混ぜるのもどうなんだろう。
「では、皮膜と蜜蝋と一緒に、また外構工事業者に持ち込むか」
蜜蝋の時のように、何か便利な使い道を知ってるかもしれない。
「ところで、ダマスカス鋼の剣の方はどうだ?」
「はい、かなり重いですが、使いこなしてみせます」
ロクサーヌ的には、デュランダルをより使いこなすための修行くらいの認識らしい。
……まあ、本人がやる気なら良いか。
今は割と余裕あるし。
「というか、ダマスカス鋼の剣は鉄の剣より重いのか、鋼鉄の一種じゃないのか?」
「えっと、どういうことでしょう?」
ロクサーヌが首を傾げている、この世界的に変なことを言ってしまったようだ。
いや、それもそうか……比重の話とかを始めると、そもそも銅の剣の方が重いことになるしな。
ついそんな話をしてしまったから、セリーの目が好奇心に輝いた。
「あの、鋼鉄はやはり鉄から作れるのですか? まさかダマスカス鋼も?」
「ち、違うのか?」
「一般的には、鉄も鋼鉄もダマスカス鋼も魔物が残すアイテムを使います」
だが、昔の偉い学者が鋼鉄は鉄から作れると言い遺しているのだそうだ。
それが頭にあったから、〝鉄の剣の重さ≒鋼鉄の剣の重さ〟という式がセリーの中で成り立ち、更に俺の発言から〝≒ダマスカス鋼の剣の重さ〟も導き出せたと。
そしてそれぞれを全然別の素材と認識しているロクサーヌには、俺が何を言っているのかわからなかったわけだな。
「まあ、俺の居たところではそうだったが……やり方を知っているわけではないから、話半分で頼む」
と言うと、セリーは「そうですか」と引き下がった。
だが、自分の知識が補強できたからか、ちょっと嬉しそうにしている。
「良い装備品ほど、ジョブとの相性や使用者の力量によって扱えない場合があると言われています」
「なるほど、まあこの階層でレベル上げをすればきっと大丈夫だろう。
ミリアの海女でも腕力が上がるはずだしな」
多分、必要筋力とか必要レベルとかがあるシステムなんだろう。
「……いや、だったらデュランダルが使えるのはおかしくないか?」
「ええと、限定をかけているわけでは……ないようですね」
また新たな概念が出てきたな。
そのことについて尋ねようとしたところで、
「……あの、そろそろ風呂桶を裏返す時間ですし、お話は家に戻ってからにしませんか?」
ロクサーヌの突っ込みが入った。
風呂場で色々するついでに天日干しにしている風呂桶だが、留守番をしているハンナでは逆側を干すことは難しい。
陽が高いうちに一度戻るということになっていたのだった。
「すまないな、ロクサーヌ。
教えてくれてありがとう」
セリーと話していると、たまに話が明後日の方向に飛んでいってしまうな。
こういう時、冷静に止めてくれるロクサーヌの存在はありがたいものだ。
クーラタルの街
道夫の家
「装備を限定すると、誰にでも扱えるようになるそうです。
しかし、コストばかり掛かって性能もはっきり落ちると聞きました」
セリーにそのことを教えてくれた人によると、〝格好つけたい金持ちの道楽息子とかがやるもの〟ということだ。
「コストというと?」
「ギルド神殿を融合するそうです」
「融合ということは使い捨てか」
またギルド神殿か。
就職に離職にアイテムの鑑定にと、八面六臂の活躍だな。
それを使い捨てにするとは、なんとももったいない。
「ギルド神殿ってそんなに沢山あるものなのか?」
「迷宮が討伐される時の、最終ボスが残すアイテムですから……まあそれなりにはあるのでは」
迷宮の一番上にある最後の階層でボスが倒されると迷宮が討伐されたことになり、ボスのドロップアイテムとは別にどの迷宮でもギルド神殿が残るのだそうだ。
これまでどれだけの迷宮が討伐されてきたのかは知らないが、資源としては限りなく無限に近いのかもしれない。
採掘コストがとんでもないが。
そんな話をすると、
「通常、ギルド神殿はその名の通り各種ギルドを開設するために使います。
ギルド神殿がなければ探索者ギルドも冒険者ギルドも作れませんから、重要で貴重なアイテムですね」
「なるほど、それで迷宮を討伐すると諸侯に列せられるというのは、納得できるな」
「はい、貴族ともなれば騎士ギルドも作る必要があるでしょうし、特定の武器を限定したりなんかにはまず使われないと思います」
うーむ、ますますもったいないな。
言うなれば、スパコンをゲーミングPC、いや動画視聴専用PCにするようなものだろうか。
ある意味究極の贅沢と言えるかもしれない。
「限定された装備はそれとわかるのだろうか?」
「そこまでは……ハンナさんはわかりますか?」
セリーが丁度香茶を淹れてくれたハンナに尋ねた。
「いえ、申し訳ありませんが……。
限定するのはオリハルコン装備くらいですから、市井の武器商人や防具商人には縁の遠いものです」
訊かれたハンナは、「セリーさんは本当に博識ですね」と感嘆の息を吐いた。
「……で、これが限定されているんじゃないか、つまり性能が制限されているんじゃないかという話なんだが」
いつでも新品の輝きを放つデュランダルをテーブルの上に置いて、改めて眺めてたり〈鑑定〉してみたりする。
……さっぱりわからんな。
「……手前も武器鑑定を使わせていただいてよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろんだ」
基本、ボーナススキルの〈鑑定〉の方が高性能だとは思うが、プロには別の観点もあるかもしれない。
こっちから頼みたいくらいだ。
「はっ、それでは……武器に宿りし魂よ、その力を解き放て、武器鑑定」
ややあって、ハンナが熱の籠もった吐息を漏らすと、
「素晴らしい逸品でございます。
これほどのものは、皇家ですら所有しているかどうか……」
と言って、デュランダルをテーブルに戻した。
ハンナは興奮醒めやらぬ顔で、反芻するかのようにうっとりと目を閉じている。
……あの?
「……ああっ! 失礼いたしました。
申し訳ありません、こちらの品が限定されたものであるかどうか、手前にもわかりませんでした」
「そうか、ありがとう」
結局よくわからなかったが、限定されている可能性があるかどうかを訊いてみると、セリーもハンナも確かに有り得ることだと同意した。
「解除するには……やっぱりギルド神殿か?」
「はい、戻すには限定するのと同じようにすればいいはず……確かそう聞きました」
……ふーむ、これだけの装備が村人Lv1でも使えたし、やっぱり限定されている可能性は高そうだ。
デュランダルを初めて装備した時は夢現だったが、今にして思えば初めて手にする真剣を意のままに扱えたからというのも、そう思った理由の1つだと思う。
「ご主人様は、この剣の限定を解除するのでしょうか?」
ロクサーヌが真剣な顔で訊いてきた。
どっちにしろ先の話だし、この話はもう終わりかと思ったんだが。
「まあ、いつになるかはわからんが選択肢の1つではあるだろうな」
目的の五十六階層まで行く実力があるならそれ未満の迷宮は討伐できるわけだし、できなくはないだろう。
みんなに時間稼ぎしてもらっている間に〈ダメージ逓増〉の蓄積ダメージに期待するか、状態異常にさせて袋叩きにするか、どっちの場合でもデュランダルを強化することは無駄にならない。
完全体になったらデュランダルに人格が生えて、俺に使われるのを嫌がったりする斜め上パターンだと困るが。
そんな適当なことを考えていると、ロクサーヌが「わかりました」と言って立ち上がり、いつだったかそうしたように俺の横に跪いた。
「ご主人様、きっとこの剣に恥じない使い手になってみせます!」
……どうしてこうなった。
いやまあ、ロクサーヌには俺に家族がいないことも言ってあるし、財産を遺すこともセリー達をロクサーヌに死後相続する手続きをした時に言ってある。
で、多分この世界の価値観で一番価値があるのはデュランダルだし、こうもなるかな……なるかも……なっとるやろがい。
……お、俺の死後にデュランダルも消えたらどうしよう。
「そ、そうか、ロクサーヌならきっとできるはずだ」
「はいっ!」
……死ぬまでに、最低でもオリハルコンの剣を用意しよう。
スキルマシマシ、鞘も立派なやつを拵えてもらう。
そうして俺のタスクが1つ増えた。
※ ※ ※
思いがけない方向に話が飛んだが、午後の残りの時間でひたすらレベル上げした。
すると、ほんの2時間程度で村人がLv10からLv30になってしまった。
連続魔の恩恵もあって、とんでもない作業効率だ。
「ドロップアイテムも溜まってきたし、今日はこれくらいにして売りに行こう」
成り行きとその場の空気に流されてはいかん。
どうせ時間がかかることだし、適切にペース配分しなければ。
というわけで、今日は程々で終わらせて外構工事業者の店に行くことにする。
何か使い道がないものかと尋ねてみると、業者のおっさんがロクサーヌとセリーを見て、「まあ要りませんわな」と野太い声で笑った。
……コンドームのことか?
デリカシーがないな、昭和か……中世だったわ。
「ギルドで買うより安く売ってもらえたんで、こっちは古女房にでも贈らせてもらいまさぁ」
えっ、コンドームを!?
いや、高齢出産とか避けるならありなのかな。
わからんな……夫婦って何歳くらいまで一緒に寝るものなんだろう。
ロクサーヌもセリーも恥ずかしそう、かつ居辛そうにしている。
こっちの反応を見て、業者のおっさんはなんか壮大な勘違いしているとわかったらしい。
鱗粉は
「まあ、獣人や亜人の人達は齢がいっても肌が若々しいんで、あんまこういうのは使わないんですかねぇ」
『あー……』
そうか、種族によって老化するポイントが違うんだったな。
だからドワーフとかなら、できるだけ耳を太く見せる工夫をしたりするんだろう。
帰り道は全員無言だった。
顔が赤く見えるのは、夕焼けのせいということにしておこう。
あっ、ハンナのために1つくらい持って帰れば良かった。
……しまらんなぁ。
その様子をマルチアングルで映した44秒の動画は、2025年1月現在200万を超える再生数となっている。