加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

66 / 103
送迎

 

 

   春59日

    終日:レベル上げ

 

 

 

 

   クーラタルの街

     道夫の家

 

 毎日同じ時間に起きて、同じ時間に食事し、同じ時間にレベル上げを終えて……と代わり映えしない生活をしていると、家の中での会話も少なくなる。

 黒板も日付を更新する程度だ。

 みんなが業務連絡か何かを黒板に書いていると、読めないながらも活用してくれているのがわかってちょっと嬉しくなるのだが、その日はそれもなかった。

 

「明日は春の60日だし、そろそろカタリナ達の様子を見に行くか」

 

 ふと思いついてそう言うと、ハンナはもちろんロクサーヌ達もちょっと嬉しそうな顔をした。

 そしていつものようにクーラタルの迷宮十六階層に〈ワープ〉すると、ロクサーヌに呼び止められた。

 

「ハンナさんのことです。

 明日カタリナが帰ってくることを考慮して、念入りに家の掃除とかをすると思います」

「なるほど?」

 

 別に様子を見に行くだけのつもりだったが、ブラヒム語を全く喋れないミリアはともかく、カタリナの方はもう終わっているかもしれないな。

 そしてロクサーヌが言うように、娘がいない間に業務を滞らせたなんてことを許す性格じゃないのもわかる。

 

 ……いや、ここ数日、別に不都合なことはなかったが。

 商人ギルドの方の用事は減らしているが、ルークにスキル結晶の注文をしているし問題はない。

 そしてハンナがきっちり家事をしてくれているから、その分の時間をがっつりレベル上げに回せた。

 

「確かにそうです。

 ですが、直接お手伝いしようとしても断られるでしょうね」

「なるほど」

 

 今度はセリーが言った。

 それも確かに。

 

 だからその日は、少し早く昼に戻って、少し長く昼休みをとって、また少し早く家に帰った。

 そうした隙間時間に、2人は何気ない感じを装ってハンナを手伝ったり、先回りして片付けしたりしている。

 こういう日常の中のちょっとした気遣いを見ていると、なんだかほっこりするな。

 

 まあ、俺には手伝わせてくれないのだが。

 ……ちょっと寂しい。

 

 そして、いつも通りに風呂に入って、いつも通りにベッドに入って、いつも通りロクサーヌに2回、セリーに2回出して、いつも通りに寝ようとして、

 

「明日からは、可愛がっていただく機会が減るかもしれませんので」

 

 そんなこと言われたらさぁ……やってやろうじゃねえかよコノヤロー!

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 で、結局8回だ、バカじゃねーの。

 色魔先生は加減というものを知らん。

 ロクサーヌとセリーの挑発にすぐ乗ってしまうのもよろしくない、自重という言葉もあわせて知ってほしい。

 精力は無限かもしれんが、時間は有限なのだ。

 

 ……ミリアが戻ったらどうしよう。

 これ以上は睡眠時間が確保できない。

 一晩2人までにしてローテーションするべきだろうか。

 

 そんなことを働かない頭でうつらうつら考えていると、ベッドが揺れた。

 ロクサーヌが飛び起きたようだと気配で感じる。

 

「……ロクサーヌ? 今日はもう――」

「――すみません、ご主人様、下で何かが」

 

――カタン

 

 俺にも聞こえた、何かが棒状のものが倒れたような乾いた音だ。

 ハンナかな? 今まで覚えがないか……まあ、トイレくらい行くか。

 

 寝直そうと目を閉じるが、ロクサーヌは起きて駆け出した。

 彼女はあまり夜目が利かないというのに。

 …………仕方がない俺もついて――今パンイチだが!?

 

 ああ、もう、完全に目が覚めてしまった。

 

   サイドテーブル   

   寝間着   

   寝間着   

   寝間着   

   水差し   

   コップ   

   燭台   

 

   サンダル   

   マット   

 

 というかロクサーヌも下着姿じゃないか。

 いそいそと自分の寝巻きを……どれだっけ?

 

「ごしゅじんさま?」

 

 セリーも起きてしまったようだ。

 事情を説明しようにも俺もよくわかっていない。

 

「すまんな、セリー。

 ちょっと火を使うから、動かないでくれ」

「……ふぁい」

 

 寝室の暖炉に〈ファイヤーウォール〉を使い、慎重にロウソクに火を灯す。

 これで少しはマシになった。

 

 ……あ、セリーの髪が爆発してる、あんなに長いことするから。

 おかげで壁にモルボルみたいなシルエットが揺らいでいる。

 そして灯りは燭台のみ、軽くホラーだ。

 

「セリー、俺はちょっと下に……」

「…………」

 

 ……ま、いいや。

 今度こそ寝間着を着込んで部屋の外に出ようとすると、先に上半身裸のロクサーヌが入ってきた。

 両腕でハンナをお姫様抱っこしている。

 どういう光景だ、ここは夢の中なのでは……いや、ふざけている場合じゃなさそうだ。

 

「御主人様、夜分遅くに申し訳ありません。

 あの、カタリナの反応が、カタリナはパーティー編成されているでしょうか?」

 

 

   【パーティー】

   ・加賀 道夫

   ・ロクサーヌ

   ・セリー

   ・ハンナ

   ・ミリア

 

 

「……入っていない。

 すまない、気づかなかった」

「いえそんな……寝る前までは確かに反応が感じられたのですが」

 

 遠くベイルの方向からパーティーメンバーの反応はあるが、1人分しかないという感じがする。

 ……ハンナはずっとカタリナの反応を追っていたのだろうか。

 

「ご主人様!」

「すぐベイルに行く、装備を整えろ。

 セリー! 起きてくれ!」

 

 盗賊のいないクーラタルで気が緩んでいただろうか。

 ベイルは盗賊の巣窟だ。

 アランの商館だから大丈夫だと思っていたが、狙われてもおかしくない。

 

 ロクサーヌに事情を説明されたセリーも覚醒した。

 俺もアイテムボックスから装備を取り出して床に置き、急いで着替える。

 

「身代わりのミサンガも持たせていますし、そうそうおかしなことにはならないと思いますが」

「えぇ、えぇ、そうです、そうですとも」

 

 セリーが身支度をしながら宥めるように言ってくれているが、ハンナは気が気じゃない様子だ。

 ロクサーヌがもの問いたげな表情でギュッと俺の服の裾を掴んだ。

 黙って首を振る。

 

 先日あの商館が盗賊に狙われた……ということを今言う必要はないだろう。

 時期的にハンナもセリーも知っているかもしれないが、改めて言うことではない。

 あの時は、盗賊の一味と見られる奴隷落ちした村人を売却して、そいつが盗賊に内応したというきっかけがあったが……まさか石鹸のことを嗅ぎつけられたか?

 ……今考えることでもないか。

 

 

   ロクサーヌ

   <♀・16歳>

   獣戦士:Lv31

    装備:ダマスカス鋼の剣

      :硬革の帽子

      :硬革のジャケット

      :硬革のグローブ

      :硬革の靴

      :身代わりのミサンガ

 

 

 

   セリー

   <♀・16歳>

   鍛冶師:Lv31

    装備:強権のハルバード

      :硬革の帽子

      :硬革のジャケット

      :硬革のグローブ

      :硬革の靴

      :身代わりのミサンガ

 

 

「よし、ちゃんと装備できてるな」

 

 暗がりで慌ててだから、一応ダブルチェックだ。

 

「はい、ご主人様の装備も大丈夫です」

「ああ、ありがとう、ロクサーヌ。

 ……すまん、ちょっと時間をくれ」

 

 俺の場合は装備よりジョブ構成の方が大切だ。

 経験値効率は考えなくて良いから〈セブンスジョブ〉にして……〈手当〉はすぐできるように……。

 

 

   【ジョブ設定】

      探索者:Lv41

       英雄:Lv38

     魔法使い:Lv41

       僧侶:Lv31

       色魔:Lv38

      遊び人:Lv38

     賞金稼ぎ:Lv30

       村人:Lv30

       盗賊:Lv30

       商人:Lv31

       剣士:Lv30

       戦士:Lv30

    薬草採取士:Lv30

       農夫:Lv30

      料理人:Lv30

     錬金術師:Lv31

     奴隷商人:Lv30

     武器商人:Lv30

     防具商人:Lv30

       騎士:Lv31

      暗殺者:Lv31

       博徒:Lv31

 

 

 ……よし、こんなところか。

 最後にハンナに鉄の槍を渡す。

 ミリアの装備にと用意しておいたものだが、少しでも安心できればいいが。

 

「留守を任せる」

「はい、どうかよろしくお願い致します」

 

 

   ベイル

   アランの館 裏口

 

 前に用心棒をやった時のように、商館の裏口に〈ワープ〉した。

 あの時と同様、辺りに人気はない。

 一見なんでもない夜だが、

 

「……ッ! 血の匂いがします」

 

 ロクサーヌが歯軋りしながら囁いた。

 セリーが燭台をかざすと、地面に点々と黒い点――血痕があった。

 裏口から道の向こうへ、ずっと続いているようだ。

 

「中に入るぞ、ロクサーヌは周囲の警戒を」

「はい」

 

――ガッ

 

 意を決して裏口の扉を開けようとするが、鍵が掛かっていた。

 だが……うーん、中から人の気配がするな、ざわついている感じだ。

 ……んん? 押し入り強盗がわざわざ鍵を閉めて出ていくか?

 

「すみません、少しの間武器を持っていていただけますか」

「え?」

「こじ開けます」

 

――バガンッ!

 

 俺を押しのけたセリーがドアノブに手を掛けると、ドア枠の一部を道連れにして扉が開け放たれた。

 んまあ、ハイパワーだこと。

 

 中には物々しい装備をした男達がいて、ギョッとした顔でこっちを見ていた。

 何人かは見覚えがある、アランの戦闘奴隷だ。

 どこの組事務所ですか? と言いたくなる一団の中央に、アランとカタリナがいた。

 

「……ミチオ様?」

「……御主人様?」

 

 おっ、でっかい黒板もある、早速自分で作ったらしいな。

 活用してくれているようで、嬉しい限りだ。

 

「あー……夜分遅く申し訳ない」

 

 これはやっちまったな。

 装備を消して、手を上げ(ホールドアップし)た。

 お手上げだ。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 ありがたいことに拘束されるようなことはなく、応接間に通された。

 

「ご心配をお掛けして申し訳ございません! 御主人様!」

 

 と90度になって謝罪してくるカタリナを宥めて事情を教えてもらった。

 といっても複雑な話ではない。

 

 アランの戦闘奴隷が怪我をして担ぎ込まれた場面に居合わせ、そちらのパーティーに入って〈全体手当〉を使うためにパーティーを抜けたということだ。

 戦闘奴隷には僧侶もいるが、その時は不在だったのだそうだ。

 道に点々と続いていた血痕は、中から外にではなく、その怪我人が運び込まれた時のものだったわけだな。

 

 もう一度、「申し訳ありません」と謝られたが、そういう事情なら仕方がない。

 自分の判断で使うようにとも言っていたし。

 

「ハンナが随分と心配していた。

 帰ったら安心させてやってくれ」

「はい、お気遣いありがとうございます」

 

 本当はすぐにも帰りたいんだが……この状況ではな。

 夜の静かな町中に、扉の破砕音は大層響き渡ったようで、隣近所やら警邏中の騎士やらがやってきた。

 今はアランは対応してくれている。

 

――コン コン

 

 そのアランが来たのだろうかと思って立ち上がったら、入ってきたのはミリアだった。

 いや、ただのミリアではない、メイドミリアだ。

 白いエプロン部分と広がったロングスカートが特徴の紺のワンピース、初めて会った時のロクサーヌと同じ服装だ。

 同じようにフリルがついた頭巾をしているが、猫耳の部分がちょっと盛り上がっている。

 

 メイドミリアはしずしずと歩いてくると、

 

「御主人様、不束者ですが、よろしくお願いします」

 

 スカートをちょこんと摘んでする挨拶をしてきた。

 確かカーテシーとかいうやつだ。

 

「お、おお、見違えたな、ミリア」

「は、はい、すごいです」

「ええ、本当に」

 

 なんということでしょう! 満足にブラヒム語を喋れなかったミリアが、お淑やかな猫耳メイドに!

 匠のワザマエが光りますね。

 俺もロクサーヌもセリーも、揃って驚くばかりだ。

 

「…………」

 

 しかしそのミリアだが、挨拶をした後はもじもじと黙ったままだ。

 

「失礼いたします。

 ミリアさんですが、挨拶だけでもきちんとなさりたいということでしたので……」

 

 後ろからいつぞやの有能ウーマン――いや、匠がやってきて、苦笑気味に種明かしをした。

 そういうことだったか。

 いや、むしろ安心したわ、洗脳魔法とかの存在を疑うところだった。

 

「……すみません、です」

「いや、それでもよく話せていた、本当に見違えるようだ」

 

 仕草ひとつとっても、随分落ち着きのある感じになったものだ。

 多分、周囲を窺う様子が鳴りを潜めたからだろう。

 

 

   カタリナ

   <女・15歳>

   巫女:Lv33

   装備:ウッドステッキ

     :身代わりのミサンガ

 

 

 

   ミリア

   <♀・15歳>

   海女:Lv30

   装備:身代わりのミサンガ

 

 

 そしてこっちも文句なしだ。

 今日のレベル上げでセリーがLv31に上がったから、そろそろじゃないかとは思っていたのだが。

 それにしても、ロクサーヌ含めてレベルがほぼ横並びになる辺り、Lv30から31の壁はかなり分厚いな。

 ともあれ、これでレベル上げは一段落つけて良いだろう。

 

「まだまだ片言ですし、難しい話はできませんが、それなりにブラヒム語も覚えていただきました。

 そろそろミチオ様にお報せし、一度ご様子を見ていただこうかと、主とも話しておりましたところでして」

「では、あとはロクサーヌが教えれば大丈夫だろうか」

 

 匠とカタリナが笑顔で頷いた。

 カタリナの方もバーナ語を結構話せるようになったようで、ミリアとロクサーヌとバーナ語で話している。

 ロクサーヌもこれならと思ったようで、ホッと安堵の笑顔になった。

 

「大変お世話になった。

 こちらに預けたことは正解だったようだ」

「そのように仰っていただき嬉しい限りです」

 

 匠が微笑んで、たおやかにお辞儀してきた。

 それを見てミリアが、「お世話に、なり、ました」とややぎこちなくもお辞儀を返す。

 

「それで御主人様、今日はミリアさんにフィッシュフライを作ってよろしいでしょうか?

 帰ったらフィッシュフライが食べられると、随分楽しみにしていたようで」

「ああ、もちろんだとも」

 

 小声で確認してくるカタリナに、大きく頷いて返す。

 もう探索に行く気はない、帰ったら休みにする。

 

「ミリアさんの侍女服ですが、よろしければそのままお持ち帰り下さい」

 

 初めて会った時のロクサーヌと同じ格好と思ったのは正しかったようで、あれをミリア用に仕立て直したものだそうだ。

 あの時は資金が不安で、侍女服の代わりにロクサーヌの初心者用装備一式を譲ってもらったからな。

 お姉ちゃんのお下がりか……素晴らしいな。

 

「御気に召していただけたようで、私共も安堵いたしました」

 

 そうこうしているうちに、諸々済ませたらしいアランも部屋に入ってきた。

 

「アラン殿か、この度は大変ご迷惑を――」

「――いえいえ、頭をお上げ下さい。

 こちらこそ助けていただきましたので」

 

 アランは手振りで座るように示しながら、「本当にお気になさらないでください」と微笑を浮かべた。

 お言葉に甘えて大人しく座ることにする……が、ロクサーヌとセリーは恥ずかしそうな顔で立っている。

 カタリナもミリアもそれに付き合うことはないのだが、2人に倣って同じようにした。

 

 ……まあ、今は無理に座らせる方が酷かもしれない。

 アランも同じように思ったようで、微笑を苦笑いに変えてこっちに向き直ると、さっさと本題に入った。

 

「石鹸、チョーク、黒板、どれも素晴らしい品でした。

 ……ですからどうか、裏口の弁償をなさるなんて水臭いことは仰らないでくださいよ」

 

 ちょっと冗談めかした言い方をされた。

 うーむ、気遣いが上手いというか、距離を詰めてくるのが巧みだな。

 

「こちらとしても生産体制と警備体制を整える必要があると考え、新たに戦闘奴隷を増やしたのです。

 しかし、血気に逸ったかブランクが大きかったか、本日の探索で失敗してしまったようでして……」

 

 普段の、つまり一軍メンバーには熟練の僧侶がいるが、夜明け前頃に他所の迷宮に探索に出ている。

 そのタイミングで最寄りのベイルの迷宮に探索を出ていた二軍メンバーが怪我をして帰還して、カタリナが居合わせたのはそういうタイミングだったらしい。

 そちらのメンバーが集めたドロップアイテムも是非にということなので、ありがたく買い取らせてもらうことにする。

 

 ……というかもう夜明け前だったのか、随分日の出も早くなったものだ。

 何気なく窓から外を見ると、空が白んでいた。

 あぁ…………ねっむ。

 




セリーの髪が爆発している時のシルエットを、ドラクエのメドーサボールかFFのモルボルのどっちで例えるか迷いましたが、キスティス先生の方が有名かなと思ってこっちにしました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。