加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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新人研修

 

 

   この度はお騒がせして大変申し訳ございません。

   カタリナのために動いて下さったこと、

   深く御礼申し上げます。(ハンナ)

   ↑いえ、私は騒ぎを大きくしてしまった

    だけですから……。(セリー)

   ↑私も不安を煽ってしまいました。

    ご主人様のお言葉に甘えて、何事もなくて

    良かったと思いましょう。(ロクサーヌ)

 

   よろしくおねかいします。(みりあ)

   ↑よろしくおね『が』いします。(ロクサーヌ)

   ↑よろしくおねがいします。(セリー)

 

   ※ここから下は御主人様の備考欄です。

 

   春60日

    AM:カタリナとミリアの様子を見に行った

    PM:レベル上げねる

 

 

 

   クーラタルの街

     道夫の家

 

 家に帰って寝直して、体感的には翌朝だ。

 

 アランの商館では、わざわざ夜明け頃に帰ってきたというアランの息子の挨拶も受けて、眠気を押してなんとか対応した。

 最近子供を産んだ奥さんは、実家の方で静養しているらしい。

 まあ、あまり子育てに向いている環境じゃなさそうだしな。

 

 考えてみると、赤ん坊は多分〈パーティー編成〉しても受諾をすることは難しいと思う。

 とすると〈フィールドウォーク〉で移動することもできないだろうから、安全で静かなところで……ということなのだろうな。

 寝直して頭がはっきりしてきて、今更頭が働いてきた。

 

 今度貰いに行く予定の子猫はどうなんだろう。

 まさかパーティーを組んだりはしないと思うのだが。

 まあ、元冒険者のロムヤも何も言ってなかったから、多分人間以外の生物なら運べるのだろう。

 

 ペットを飼ったりすることで新しいジョブが生えてくるというのは……まあ、ないか。

 馬とか家畜は普通にいるわけだし、条件が緩すぎる。

 セリーも何も言っていなかったしな。

 

 1階に下りると、みんなもうとっくに起きていた。

 ロクサーヌによると正午まであと3時間くらいのようだから、多分3~4時間くらいは眠れたのだろう。

 

 そして居間で軽い朝食をいただきながら、今日の予定を話す。

 ハンナとカタリナはフィッシュフライの支度をするという。

 俺が寝ている間に、材料も全部買ったらしい。

 

 ……じゃあ今日は何しようか。

 何かなかったっけかと、何気なく黒板を見る。

 

 

   【クーラタルの迷宮十六階層】

    ビッチバタフライ …… 麻痺攻撃

    グラスビー    …… 毒攻撃

    ハットバット   …… 攻撃が当たり難い

 

   【ミリアが槍を使う場合】

         ●

     ← ◯   ◎

         ◯

 

   【ミリアが片手剣を使う場合】

       ●

     ←   ◯ ◎

       ◯

 

 

 ……よくわからんが、クーラタルの迷宮とか魔物の名前とかが書いてあるな。

 

「あっ、散らかしていてすみません。

 ミリアに今戦っているクーラタルの迷宮十六階層の説明と、迷宮での陣形(フォーメーション)の話をしていました」

「槍を使う場合と片手剣を使う場合、それぞれ別にした方が良いだろうと、ロクサーヌさんと話していまして」

「頑張る、ます!」

 

 選択肢はなかった。

 ……寝る前の俺よ、今日は全休だってちゃんと申請しておかないとダメじゃないか。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「今日はまず、クーラタルの迷宮十一階層で戦ってみる。

 敵はグリーンキャタピラー、体当たりしてくる他に、糸で巻く攻撃をしてくる。

 そのため、低階層で出てくる魔物では一番厄介だと言われている」

 

 クーラタルの……っと。

 ロクサーヌ達が書いていた内容をチラチラ見ながら自分で黒板に書いてみる。

 魔物の名前も、なんだかんだ覚えてきた。

 だが糸は……と思っていたら、察したロクサーヌが引き継いで書いてくれた。

 

「俺もブラヒム語は喋れるが文字は勉強中でな、一緒に覚えていこう」

「××××××××××」

「……はい!」

 

 ミリアが勢いよく返事した。

 なんというか、新鮮な気持ちになる。

 

「問題なければ、次にハルバーの迷宮十二階層に移動する。

 敵はグラスビー……さっきロクサーヌ達に説明してもらったか?」

 

 そう訊くと、ミリアとロクサーヌが相談を始めた。

 

「空を××? 毒××?」

「××××××××××」

 

「空を飛ぶ、毒針を飛ばす、魔物、です」

 

 ロクサーヌも一から十まで翻訳するのではなく、適宜理解が及んでいないところをミリアが質問し、それに回答するという形だ。

 多少時間はかかるが、良い感じなのではなかろうか。

 2人の話が終わるのを待って続ける。

 

「さっき説明してくれていたようだが、現在はクーラタルの迷宮十六階層で戦っている。

 そこでミリアがちゃんと戦えるかどうかの確認をするためだ」

 

 元々のレベルからいって、ミリアはそれほど迷宮探索の経験はないはずだ。

 レベルが上がっているから問題ないとは思うが、特殊攻撃をしてくる敵と戦っておいた方が良いと思う。

 十六階層の探索にちゃんとついてこられるように、そしてその先には、

 

「クーラタルの迷宮十七階層の敵はマーブリーム……白身を落とす魔物だな。

 ミリアがちゃんと戦えるようなら、早期に到達できることだろう」

「はい!」

 

 おかしい、ロクサーヌの翻訳なしで威勢の良い返事が返ってきた。

 絶対、白身の単語だけに反応して返事をしただろう。

 ……ま、やる気があるんならいっか。

 

 

   クーラタルの迷宮

     十一階層

 

「ミリア、ロクサーヌは魔物の臭いを嗅ぎ分けることができる。

 だからいつも、魔物を探すのはロクサーヌにやってもらっている」

「××××××××××」

「お姉ちゃん、すごい、です」

 

 自分で翻訳して尊敬されて、ロクサーヌはちょっと恥ずかしそうだ。

 ……良き良き。

 

 そういえば、猫人族にもそういう能力があったりするのだろうか?

 ロクサーヌに訊いてもらうと、

 

「魚、なら、わかる、です!」

 

 ミリアが胸を張った。

 ……すまん、微妙。

 

××××××××××

……なるほど。

 それと、ミリアは暗い中でもよく物が見えるそうです」

「ほー、夜目が利くというやつか」

 

 迷宮内はぼんやり謎の灯りがあるからそれほど不都合はないが、夜の町とかを歩く時は重宝しそうだ。

 それに、そのうちロクサーヌにも臭いがわからない魔物が出てくるかもしれない。

 ゴーストタイプとか、ガス生命体とか……いるかどうかわからんが。

 日本では安全性のためにガスに臭いを付けているが、天然ガスは無臭だと言うからな、もしそんな魔物がいたら無臭の可能性は高いだろう。

 

「もし何か見つけたら、間違っていても良いから気兼ねなく言ってくれ。

 油断して見逃すより、よっぽど良いからな」

「××××××××××」

「はい、わかり、です」

 

 ロクサーヌがミリアの言葉遣いを直すのを待って、探索開始だ。

 

「ではロクサーヌ、グリーンキャタピラーを探してくれ」

「はい、わかりました」

 

 

   グリーンキャタピラー

      Lv:11

 

 

 

   グリーンキャタピラー

      Lv:11

 

 

 

   グリーンキャタピラー

      Lv:11

 

 

 いきなり3匹はどうかと思って間引きしようとしたら、ロクサーヌに止められた。

 

「私達もいますから、一度やらせてみてはどうでしょう?」

「なるほど、横で実演しながらということか」

 

 ……それだと俺が後方腕組ご主人様になるんだが。

 いやまあ、何かあった時に攻撃魔法と〈手当〉をするために待機するのは大切な役目ではあるが。

 ひたすら防御をさせられているRPGで育てたくない一時加入キャラの気持ちに想いを馳せながら、大人しく待つことにする。

 

 ミリアはグリーンキャタピラーの糸を避けるようなことはできなかったが、体当たりされても平気な顔をしていた。

 体力とHPが上がるジョブだし、ジョブ自体の防御力というか耐久性が高いのかもしれない。

 

「××××! ××××××!」

「××……はい!」

 

 次はロクサーヌが糸を避けてみせると、ミリアに何か指示をしている。

 果たしてロクサーヌ語はミリアに通じるのだろうか?

 

 なお、セリーは速攻でグリーンキャタピラーを眠らせて、「こんな時ばかり……」とぶつぶつ呟いていた。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 戦闘が終わって、セリーとミリアに〈手当〉を使おうとしたが首を振られた。

 ほとんどダメージはなかったらしい。

 

 結局ミリアは最後まで糸を避けられなかった……が、感じ入るものはあったらしい。

 今はロクサーヌの真似をして身体を動かしながら、2人してバーナ語で話している。

 

「……わかるのかな?」

「……何か通じ合っているような感じはしますね」

 

 身のこなしに関してはロクサーヌより俺寄りのセリーと一緒に、その様子を見守る。

 

「ブラヒム語じゃなくてバーナ語でしかできない表現とかがあったのだろうか」

「なるほど……獣人族特有の感覚であれば、ブラヒム語に該当する言葉がない可能性もありますね」

 

 そうそう、翻訳って難しいんだよな。

 同じ人間同士でも国や地域によって違いがあるんだ、同じ言語の同じ単語でも微妙にニュアンスが違ったりな。

 種族も違うなら尚更だろう。

 

「お待たせしてすみません。

 次は槍で戦わせてみようかと思いますが、よろしいでしょうか?」

「ああ、ロクサーヌの判断に任せる」

 

 そしてもう一度、今度は槍で戦ったら、ミリアは見事に糸を避けてみせた。

 片手剣より間合いを取っているとはいえ、素晴らしい。

 倒した後はまたバーナ語で会話しているが、ロクサーヌの表情も柔らかいものだ。

 

「ミリアは元々、魚を捕る時に槍を使っていたそうです」

「……それは銛じゃないのか?」

 

 盾を使えた方が防御力は上がるし、装備部位が増えた方が付加できるスキルの数が増えるんだが……という話をする前に、ついツッコミを入れてしまった。

 セリーも多分同じことを考えていたのだろう、曖昧に頷いた。

 

 よく考えたら、〈武器製造〉がある世界だから銛の技術ツリー自体が未発展の可能性もあったろう。

 変なこと言ってないようで良かった。

 ……まあ、ファンタジー世界にも銛くらいあるか、モリーファンタジーって言うしな。

 

「本人が慣れていそうな槍にするか、スキルが増やせる片手剣と盾にするか、悩ましいところだな」

「あと増やす予定なのは、竜人族と魔法使いですよね?」

 

 セリーが言うには、竜人族の種族固有ジョブである竜騎士は、両手剣を片手で持つことができるという特長があるようだ。

 他に、いつぞやセリーが力試しに持たせた大盾も片手で扱えるらしい。

 

 もしかしたら槍も片手で持てるのかな?

 ロクサーヌは多分あの調子なら両手剣を使い続けるだろうし、ミリアが片手剣と盾、竜騎士が槍と大盾とかだとなんとなくバランスが良い気がする。

 スパルタ兵みたいで格好いいと思うし。

 

 ただ、セリーのハルバードの分類としては槍だし、俺も聖槍を使うかもしれない。

 斬属性とか突属性とか打属性とかがあるシステムではないようだが、色んな魔物と戦うことを考えると武器種は満遍なく割り振りたい。

 そう考えると偏りすぎだろうか。

 

「そういえば、ロクサーヌもすっかりダマスカス鋼の剣に慣れたようだな」

「はい……さっき、〝今まで如何に無駄な動きをしていたのかがわかりました〟と言っていました。

 ……これもご主人様のおかげだと」

「えぇ……」

 

 いや、元々紙一重でチョン避けとかしてたじゃん……お次は切り返しでも覚えたか?*1

 困惑していると、セリーに「ご主人様からお言葉を差し上げた方がよろしいかと」と言われた。

 えぇ……。

 

「……ところで、ミリアに魔法のこととかワープのこととか説明するのをすっかり忘れていたのだが、やっておいてくれたのか?」

「ええと……説明が難しかったので、〝ご主人様というジョブだと思うように〟と……その、ロクサーヌさんが」

 

 ……いや、別に良いけどさぁ。

 

 

 

   ハルバーの迷宮

     十二階層

 

 グラスビーの毒針だが、これをなんとミリアは初見で避けた。

 面攻撃の糸に比べて点攻撃だとはいえ、結構速度もあるんだが。

 

「すごいじゃないか、ミリア」

「……光って、見える、ので、です」

 

 なるほど?

 針が光って見えたから、ということか。

 

「はい、素晴らしいですよ、ミリア」

「本当にすごいです」

 

 ロクサーヌとセリーにも手放しで褒められて、ミリアがもじもじしている……と思ったら、

 

「光ってる、です!」

 

 もう一度そう言うと走り出した。

 ドロップアイテムを拾ってくれるのかと思ったら、そのまま駆け抜けた。

 そして何かを拾い上げると、ドヤっという笑顔でそれを掲げた。

 

 

   魔結晶

 

 

「……魔結晶のようだ。

 確か、迷宮が出来て時間が経つと出来るんだったか?」

「はい」

 

 前にそう教えてくれたロクサーヌが頷いた。

 ベイルの迷宮は出来て間もなかったが、ハルバーの迷宮は四十三階層まで攻略されているくらいだから結構時間が経っているのだろう。

 

「あとは、上の階層に行くほど出来やすいとか」

 

 セリーがそう教えてくれている間に、ミリアが魔結晶を持ってきてくれた。

 

「×××××××……です」

「えっと、魚貯金? と言っています」

 

 ロクサーヌによると、ミリアは迷宮に入ってそれを沢山集めたら魚を食べさせる、と親から言われていたそうだ。

 それで魚貯金だと……いやいや、俺が日本語で翻訳されて聞こえているから変な言葉に聞こえるだけだろう。

 例えばフィッシュ・デポジットとかなら……ないわー。

 

「良く見つけてくれたな、ミリア」

「はい!」

 

 うん、いい笑顔だ。

 でも今日はこれからフィッシュフライだから、それで良いよな?

 

「今後も見つけてくれると助かる……が、勝手に飛び出さないで場所だけ教えてくれ。

 迷宮内では何があるかわからないからな」

「××××××××××」

 

 ロクサーヌが翻訳すると、ミリアが嬉しそうにしたりしょんぼりしたりまた笑顔に戻ったりと百面相をした。

 叱るばかりではなくちゃんとフォローも入れてくれているのだろう。

 

 ……さてどうするかな、もう十六階層に行っても問題ない気がしてきた。

 というか、そもそもミリアが海女Lv30になったから、レベル上げよりもターレの迷宮で上を目指すべきなんだが……。

 

 ターレの迷宮は昨日の朝の段階で十六階層まで突破されているが、あっちの十四階層から十六階層はグラスビー、ロートルトロール、クラムシェルの並びとなっている。

 グラスビーは風属性が弱点属性だが、ロートルトロールは風属性が耐性属性。

 そしてロートルトロールの弱点属性は火属性だが、クラムシェルは火属性が耐性属性だ。

 ……苦行かと。

 

 魔法の威力は弱点属性で2倍、耐性属性で半分になると思われる。

 片方の弱点属性の魔物を3発で片付けたとして、その時点で弱点属性の魔法1発分に満たないダメージしか入らない。

 つまり、倒し切るのにもう3発必要になるわけだな。

 当たり前だが階層突破するまでには何十回も戦闘しなきゃいけないわけで、作業効率が悪すぎる。

 

 向こうの迷宮に入るついでに騎士団関係者特典を使って戦闘を1回ずつこなしているが、攻略するのは十七階層からの方が良いのではないか、というのがセリーの意見だ。

 もしかしたら俺の影響かもしれんが、セリーも効率を気にするようになってきた気がする。

 ……まあ、効率悪くても我慢できるけどな、多分。

 そのうち魔道士になるまでと思えば、きっと。

 

 だが戦闘が長引くと、当たり前だがセリーの被弾が増える。

 平気そうな顔はしているが、当たり前だが頭部に攻撃をもらうこともあるわけで……パンチドランカーってどれくらいの衝撃をどれくらいの回数くらうと発症するんだ?*2

 俺にわかるわけがない、そもそも地球人類がなる病気にドワーフがなるかもわからん。

 ただし、基本的な人体の構造は似たようなものだろうと思う。

 

 ……ハンナ達のことは関係なくエリクシールが欲しくなってきたな。

 今のところ伝聞でしか知らんから、実際どれくらいの効果があるのか――

 

「ご主人様?」

「――あ、すまんすまん。

 どうかしたか、ロクサーヌ?」

 

 我ながら、1人で考えてるとロクなことを考えないな。

 

「はい、近くにミノがいるようです。

 そういう魔物もミリアに相手してもらってはどうかと」

「なるほど、勢いよく突進してくるしな。

 確かに、ああいう相手に怯まず戦えるかも見ておくべきか」

 

 ロクサーヌの意図とも合致していたようで、笑顔で頷いた。

 

「その後はキラービーと戦ってみてはどうかな。

 このまま十六階層に行くと、油断してしまわないか不安でな

確かに……はい、それが良いと思います

 

 十六階層での狩りはもうかなり効率化してルーチンワークと化していて、攻撃を食らうことはほとんどない。

 ポイントは、1発目と2発目の〈ブリーズストーム〉に十数秒のインターバルを挟むことだ。

 こうすると、ほとんど何もさせずに3発目でトドメが刺せる……が、いきなりスキル攻撃をやってきて肝を冷やすこともある。

 

 ミノの突進攻撃に対し、ミリアはロクサーヌがよくやるようにひらりと避けた。

 ここでロクサーヌだと、すれ違いざまに更に一撃入れてヘイトを稼ぐのだが、そこまでの域には達していないようだ。

 だが怯む様子もない、ミリアは十分将来有望だろう。

 

「問題ないようなので、次はボスのキラービーと戦う。

 それも問題なければ、クーラタルの迷宮十六階層から十七階層を目指そうと思うが」

「はい、大丈夫だと思います」

「先ほどグリーンキャタピラーの体当たりに当たってみた感じですが、やはりかなり防御が上がっているようです。

 十七階層でもさほど問題にはならないかと」

 

 しばらく十七階層で白身稼ぎをして、ターレの迷宮の十六階層が突破されたらターレの迷宮に行く、これだな。

 まあ、それも十七階層での狩りが問題なければだな。

 ということで、ボス部屋の近くまで〈ワープ〉で移動するが、

 

「……ご主人様、ボス部屋の方に誰かがいるようです」

「そうか、まあそこそこ人がいる迷宮だしな」

 

 このハルバーの迷宮は、低階層では探索終了宣言も出されている迷宮だ。

 ここの情報をくれたエルフ武器商人によると、公爵も入る迷宮だから騎士団が丁寧に魔物部屋を潰したらしい。

 公爵達もここに入ることを勧めていたしな。

 

 そういうこともあって、クーラタルほどではないが人が多い。

 だから待機部屋すぐ近くの小部屋ではなく、ちょっと離れた場所を〈ワープ〉地点にしていたのだが、

 

「まあ、そろそろ昼食の時間じゃないか?

 出直して、午後にまた来るとしようか」

「はい、そうですね」

 

 ロクサーヌが同意すると、ミリアの顔が輝いた。

 

「ふぃっしゅふらい、です」

「そうだな、フィッシュフライだ」

「フィッシュフライ、です」

 

 いや、相槌を打っただけで別に発音を指摘したわけじゃないんだが。

 

   ※   ※   ※

 

 家に戻ると、ハンナ達があとは揚げるだけというところまで準備してくれていた。

 ミリアはともかく、「白身以外もあった方がよろしいかと」と、ウサギの肉とバラ肉の用意もしてくれていた。

 付け合せの野菜スープや芋料理やらもある。

 

 そういえば、芋があるんだからコロッケという選択肢もあったな。

 バラ肉があるんだからメンチカツやハンバーグも出来る。

 ……いや、でもウスターソースがないからなぁ。

 あれの原材料を正確には知るわけもないが、色んな種類の野菜や果物を使っているということは知っている。

 

 料理は色々あったが、案の定ミリアの一番はフィッシュフライだった。

 ラビットカツもトンカツも薦められると1つだけ食べたが、ひたすらフィッシュフライに没頭している。

 こうなるとこっちは白身を食べるのも気が引けるので、結局ミリア以外はフィッシュフライを一切れだけにして、ウサギの肉とバラ肉をメインで食べていた。

 ……なるほど、多分こうなるだろうと見越して別の具材を用意してくれていたのだな。

 

 ロクサーヌはバクバクとフライを食べるミリアにちょっと厳しい視線を向けたが、やがて諦めたようにため息を吐いた。

 ……うん、こうも嬉しそうにされると叱り難いよな。

 この料理を最初に作った俺も嬉しいし、今回作ってくれたハンナもカタリナも嬉しそうだ。

 

 それと、ミリアはタルタルソースが好きらしい。

 マヨラーの素質があるのかもしれん。

 今度はマヨネーズ焼きの魅力を教えてやるべきだろうか。

 

「ミリアも上手くやっていけそうだし、明日はみんなで帝都に服を買いに行こう」

「はい、ご主人様の服もですね」

 

 ああ、それとロクサーヌ達のネグリジェもだ。

 

*1
 チョン避けはシューティングゲームで自機狙い弾を発射後に最小の動きで避けるテクニックのこと。

 その動きをしているといずれ画面端に追い詰められるため、その前に大きく動いて自機狙い弾をバラけさせ、その間に避ける技術を切り返しという。

*2
 慢性外傷性脳症を意味する和製英語。

 軽度な外傷性脳損傷を繰り返し受けた後、数年から数十年経ってから、認知症様の症状が発症することがある。

 ボクサーの発症により発見されたことが有名だが、アメフト・ホッケー・プロレス・野球・剣道等の競技でも症例が見られる。

 また、現在治療法は見つかっていない。




道夫さんと話している時のセリー(一般人(まとも)なのは私だけだから、ミリアが気に病まないように優しくしてあげなくては)
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