加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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兇賊

 

   ハルバーの迷宮

     十二階層

 

 ボス部屋の方に誰かがいるということで、出直してさっきと同じ小部屋に〈ワープ〉したのだが、

 

「おかしいですね」

 

 小部屋を出てすぐにロクサーヌが首を捻った。

 

「……もしかして、まだいるのか?」

 

 確認すると、ロクサーヌがこくりと頷いた。

 

「あれから2時間くらいは経ったよな?」

「はい、それくらいですね」

 

 久しぶりに豚バラ肉のトンカツを食べたら、ちょっと胸焼けがしそうな予感がして長めに昼休みを取らせてもらった。

 こっちに来てから基本毎日肉体労働だから、大丈夫だとは思うんだが。

 間、間にキャベツを食べたいんだが……今度、良い感じの野菜を探しに行こう。

 

 ……と、俺達は〈ワープ〉があるから呑気に食事しているが、迷宮内でそんな長時間休憩なんかしないと思うのだが。

 

「盗賊が網を張っている可能性がありますね」

「また盗賊か……ハルツ公領はもしかして治安が悪いのか?」

 

 災害救助とかしっかりやっているようだし、結構名君なのかなとか思っていたのだが。

 誰にとも無くボヤくと、セリーが気まずそうな顔をして、

 

「エルフは見た目が良い人が多いですから……その、人間族に狙われやすいと」

「あー……なるほど」

 

 知らん、そんなことは俺の管轄外だ。

 オラは地球生まれの人間族だ。

 

 ともあれどうすべきか悩ましいが、公爵に恩を売ってエリクシールを分けてもらう、という路線はまだ放棄していない。

 盗賊退治には、その価値は十分あるだろう。

 ……あるかな? 迷宮ガチ勢的には羽虫程度の存在な気がする。

 まあ少なくとも懸賞金は入る、マイナスにはならないか。

 

 こないだターレの迷宮十三階層で遭遇した盗賊のインテリジェンスカードは、まだそのままだ。

 ハルツ公領では冒険者で通っているのに、俺が探索者だと露見するのは避けたいからだ。

 

 このまま放置しておくと、もしかすると享年とかが表示されて騎士団に報告する時に怪しまれる可能性もある。

 だから懸賞金と公爵の功績ポイントを稼ぐためには、年齢が更新されない春の間に冒険者になる必要があるが……まあこの調子なら大丈夫だろう。

 〈必要経験値十分の一〉でレベル上げを始めて、〈フォースジョブ〉にジョブの数を減らしても魔法3発で倒せることに気付いてからは〈必要経験値二十分の一〉したが、目に見えてレベルを上がる速度が上がった。

 この調子なら、春の間には探索者Lv50まで上げられるだろう。

 

「ロクサーヌ、何人くらいいるかわかるか?」

「……そんなに沢山はいないようです」

 

 精々こっちと同数くらい、というのがロクサーヌの見立て、いや鼻立てらしい。

 

「十三階層にいた盗賊より、十二階層で待ち伏せしている盗賊の方が弱いはずです。

 先日戦った盗賊より手強いということはないと思います」

「なるほど、それもそうだな」

 

 セリーが合理的に言った。

 その上、前に戦った時よりレベルが上がっているとなれば、負けるはずがないという判断は妥当だろう。

 

「ミリアの経験が浅いのは気になるが……」

「ちゃんと目を配るようにします」

「私もフォローできるようにします」

「大丈夫、です」

 

 やる気満々だな。

 

「一応言っておくが、全体攻撃魔法は盗賊相手では使えないから、単体攻撃魔法で戦うか、壁魔法で敵を分断するという使い方になる。

 敵が怯むのを期待して火魔法を使うつもりだが、みんなが近くにいる時に使うつもりはない」

「わかりました」

「それが良いと思います」

 

 後はなにか注意事項はあるかな……そうだ、

 

「火といえば、ロクサーヌは〝ほむらのレイピア〟に戻しておいた方が良いんじゃないか?」

 

 ロクサーヌに関しては探索者Lv50のロムヤをタイマンで圧倒していたから安心しているが、両手剣だとどうだろう。

 その事を言うと、

 

「確かに両手剣でロムヤさんに勝つのは少々厳しいかもしれません」

 

 ……あ、〝少々〟厳しい〝かも〟なんスね。

 本人には聞かせられんな、こりゃ。

 

「では、ミリアには鉄の槍で戦ってもらう。

 セリーと一緒に、俺とロクサーヌの後ろで戦ってくれ」

「わかり、ました」

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 いくつかの曲がり角や分岐を経た先で、ロクサーヌが尻尾を垂らした。

 

「すみません、この先に隠し扉があって、その向こう側にいるのだと思います」

 

 扉越しだと、当然臭いは遮断される。

 思ったより盗賊の人数は多いかもしれない、というわけだ。

 

「申し訳ありません、私も扉のことを失念しておりました」

 

 今度はセリーが頭を下げてきた。

 その手元には地図があるが、あれはエルフ武器商人から受け取った不完全なものだ。

 

「いや、何日も前に一度通っただけの道だしな。

 というか、扉の向こうでもわかるロクサーヌがすごいというべきだろう。

 セリーだって自分でマッピングしていたらもっと正確なものを描いていただろう」

 

 嘘を言ったつもりはない。

 前にこの階層を探索した時は、さっさと次の階層に進むつもりで順路に従ってボス部屋を目指していたからな。

 ともあれ、〈鑑定〉でこっそり盗賊かどうか調べるという手段は使えないわけだ。

 

「全員、俺の後ろに回れ、殿はロクサーヌに任せる」

「はっ、お任せください」

「やばそうな相手なら逃げるから、その時はロクサーヌに話しかけるようにする。

 もし盗賊じゃなかったら……普通に先に進めば良いか」

 

 セリーの合理的な判断に異議を唱えるつもりはないが、やっぱり緊張するな。

 その緊張を振り払うように、ガラガラと音を立ててスライド式の扉を開け放つと、小部屋が現れた。

 

   盗賊:Lv28   

   盗賊:Lv25   

   盗賊:Lv24   

   盗賊:Lv21   

   盗賊:Lv14   

   盗賊:Lv12   

 

 ……6人、全員盗賊か。

 前にストーキングしてきた盗賊より軒並みレベルが低い。

 十二階層の探索者目当ての盗賊だとこんなものなんだろうか? 低すぎるような気がするが。

 

「××××××××××」

 

 いきなり襲ってくるつもりはないらしい。

 小部屋の手前で様子を探っていると、気安い顔で何か話しかけられた。

 だが言葉がわからないので肩を竦めると、今度は盗賊Lv28が「お疲れ様です」と話しかけてきた。

 

「ボスのいる部屋はあっちです。

 俺達はまだ少し休んでから行きますんで」

 

 小部屋は四方に通路が延びているが、そのうち左の通路を示された。

 なんというか、普通のあんちゃんだ。

 〈鑑定〉で盗賊だとわかっていなければ、警戒を解いてしまいそうだ。

 

 通路のうち、どれがボス部屋の方に通じているのかは覚えていない。

 手強そうな相手だったら正解の道を教えて、獲物になりそうな相手だったら仲間が待っている殺しの間に誘導する、恐らくはそんなところだろう。

 

 こっちのことをどっちだと思っているかは……どう考えても後者だな。

 ロクサーヌ達を見て鼻の下を伸ばしている輩がいるし。

 

「どうもありがとう」

 

 と言って俺達が小部屋に足を踏み入れると、6人がばらばらに散った。

 あ、しまった。

 囲まれているわけではないが、遠巻きに警戒されている感じだ。

 こっちも警戒しているのだから、文句を言うわけにもいかない。

 

 ロクサーヌとセリーで1人ずつ、〈オーバーホエルミング〉と魔法2発で俺が3人分になっても1人余る。

 あとはミリアがいるから大丈夫……というのは余りにも希望的観測がすぎるだろう。

 そもそも単体攻撃魔法は避けられることもあるし。

 ……うーむ、手慣れているな。

 

 いや、隅っこの方に2人いるから、〈ファイヤーウォール〉で閉じ込めてしまうという手もあるな。

 上手くすれば酸欠で無力化できるかもしれない。

 ……いやいや、そもそも小部屋で戦うのはよろしくないな、増援の可能性がある。

 

 6人とも盗賊だが、迷宮でパーティーを組まないで戦うのは相当な縛りプレイだ。

 ということは、探索者が別の場所にいるだろう。

 俺なら盗賊を炭鉱のカナリアにして、別の場所で主力と待つ。

 カナリアの反応が消えたら、主力と一緒に〈ダンジョンウォーク〉だ。

 

 最悪の想定としては、この6人が全員別々の6人パーティーを組んでいて、やったと思ったら30人増援に来ることだな。

 ベイルの町の盗賊はほとんど雑魚だったが、それくらいの数はいた。

 戦うなら〈ダンジョンウォーク〉で増援が来ない通路だ。

 

 その場は何事もなくやり過ごし、通路に入った。

 すぐ追いかけてくるようならこの場でやってしまうんだが……その様子もない、か。

 

「……滅びればいいのです」

 

 セリーがドスの利いた唸り声を上げた。

 胸のサイズを見比べられたのだろう。

 セリーの頭をポンポンと叩く。

 

「曲がった先に3、4人います」

 

 最後まで警戒していた殿のロクサーヌが、小走りに追いついてきて囁いた。

 そっちが主力だろうか。

 

「あいつらは盗賊だ」

「はい、ボス部屋の方向とも外れますしね」

「ああ、それもあったか」

 

 ある程度時間を置いたら、小部屋に置いてきた連中も追いかけてくる手筈だろう。

 それで前後から挟み撃ちか、やはり手慣れているな。

 

「小部屋で戦うと増援が来るかもしれない。

 できるだけ通路で戦う、陣形はさっきのままだ」

 

 3人が頷いた。

 やる気は全く衰えていないらしい。

 

 いっそこのまま待って、後ろの雑魚を先に……いや駄目だ、パーティーを組んでいるなら相手の位置がわかる。

 さっき部屋で散った動き自体が、仲間への合図になっていると見るべきだ。

 ならば逆に小部屋に戻って――だから増援が来るっての。

 ……さては探索者ってクッソチートだな!?

 

「では行くぞ」

 

 警戒してまごついた分、早足に行く。

 無警戒に、何も気付いていないかのように。

 こっちがあっちを盗賊であると既に知っていること、これは〈鑑定〉を持つ俺のアドバンテージだ。

 さればチートの数多かれど、ボーナススキルに優るあらめや。

 

 角を曲がった。

 通路の先の方に4人いる。

 

 

   ハインツ

   <♂・45歳>

   兇賊:Lv24

   装備:鋼鉄の剣

     :硬革の帽子

     :硬革の鎧

     :硬革のグローブ

     :硬革の靴

     :決意の指輪

 

 

 

   シモン

   <♂・44歳>

   海賊:Lv67

   装備:レイピア

     :鋼鉄の盾

     :硬革の帽子

     :硬革の鎧

     :硬革のグローブ

     :硬革の靴

 

 

 他には盗賊Lv48と探索者Lv42か、軒並み高いな。

 4人はこっちを見ると、立ちはだかるように広がった。

 

「ボスがいると思ったか?」

「残念だったな、盗賊だよ」

 

 だが、探索者が1匹しかいないのはありがたい――〈生死不問〉。

 探索者を〈等量交換〉で排除して、通路を壁魔法で封鎖、しかるのちに後ろから来ている雑魚盗賊を駆除し、全員で残った高レベル連中と戦う……これかな。

 俺のレベルもここ数日で大分上がっている、多少の年齢差はレベルでカバーできる……はずだ。

 

「××××××××××」

 

 洗ってない雑巾みたいな毛色の獣人は、ブラヒム語が喋れないようだ――〈生死不問〉。

 犬耳だから狼人族のようだが、なんと圧巻のLv67だ。

 獣人は獣じゃないし、覚悟を決められたら〈ファイヤーウォール〉も突っ切ってくるかもしれない。

 1枚目は〈ファイヤーウォール〉、2枚目は〈サンドウォール〉にしてみるか、焼身自殺する間抜けの出来上がりだ。

 

 …………ん? 狼人族のシモン? レイピア?

 

「持っているものと女を置いていくなら、命だけは助けてやっても――」

「もしかして、狂犬のシモン?」

「――あぁん? シモンの知り合いか?」

 

 兇賊がきょとんとした顔で言った――〈生死不問〉。

 こいつはエルフのようだな、イケメンだ。

 女殴ってそうな顔をした、ちょっとヤバげ感じのイケメンだ。

 

「シモンを知っているのに、この兇賊のハインツを無視とはな……傷つくぜ」

「兇賊のハインツ……まさかハルツ公領にいるとはな」

 

 適当なことを言って話を合わせると、ハインツとやらは気分が良さそうにした――〈生死不問〉。

 一歩退いた位置にいるからもしかしてと思ったが、どうやらこっちのケチャップ野郎が頭目らしい。

 レベルが低いとはいえ、上級職だからか。

 

「もしかして、以前見逃してやったことが……覚えがないな。

 シモン、×××××?」

「×× ×××」

 

 シモンが肩を竦めた。

 当たり前だが、ないと言っているようだ――〈生死不問〉。

 

「お前らは獲物を見逃すのか?」

「ぁ゙? そりゃあ、農民だって畑を休ませるもンだろ?」

 

――チッ!

――チッ!

 

 ……しまった、ロクサーヌ達の殺る気スイッチが入ってしまった。

 名前なんか呼ばなきゃ良かった。

 

 レベル制のこの世界では、一度格付けチェックが済んだら、成長曲線が同じなら追い抜くことはできない。

 そしてインテリジェンスカードで盗賊かどうかわかってしまうから、犯罪の隠蔽をしても犯罪者であることを隠すことはできない。

 だから口封じをする意味も、無いとは言わないが薄いはずだ。

 

 そしてこいつらは迷宮に籠るような盗賊なのだから、戦闘経験は極めて豊富なはずだ。

 また装備を整えてリベンジしてくれるならカモでしかないわけだ。

 二期作だか二毛作だかってやつだな。

 努力が報われるこの世界は、だからこそ無慈悲だ。

 

 まあ、人間は魔物とは違う。

 当たりどころが悪かったり毒を盛られたりしたら多分ポックリ逝くから、油断したらあっさりということもあるだろうが。

 賢いのか自信過剰なのかは微妙なところだな、俺ならやらん。

 だが、そういうところで賭け事に勝てる奴が大成するんだろう……良くも悪くも。

 

「ご主人様、やらせてください」

 

 俺はそういう賭け事したくないんだが、まあロクサーヌなら……うーん。

 セリーに視線で問いかけつつ――〈生死不問〉。

 ……やっぱり賭け事は嫌いだ。

 固定値は裏切らない、固定値を崇めよ。

 

「一騎討ちなら大丈夫だと思いますが」

 

 こっちも殺意マシマシモードのセリーが頷いた時、後ろからバラバラと足音がした。

 全員集合だな。

 ……うーん、推定一番の強敵を引き付けてくれると思えば、乱戦になるよりはマシか。

 

「そちらは俺達のことなど知らんだろうが、こちらは貴様等に少々遺恨がある。

 どうだろう、ここは一騎打ちとしないか?」

 

 その提案に、ニヤつきながらも目だけは真顔なハインツがシモンに耳打ちして……シモンが爆笑した。

 

「×××!? ××××××!」

「ああ、シモンはこう言っている。

 そちらのような美しいお嬢さんと一騎打ちとは、非常に光栄だと」

 

 超巨大嘘つき。

 

「お姉ちゃん、女の子、バカにしてる、です」

 

 殺意ガンギマっているロクサーヌの代わりに、ミリアが翻訳してくれた。

 

 兇賊の方は狼人族ではないから、ロクサーヌの年齢が多分外見からはわからない。

 だがシモンに確認して、女の子――多分小娘とでも言ったのだろうが、それがわかったから安心して任せた、そんなところだろう。

 基本、年齢≒レベル≒強さの爺ファンタジーな世界だからな、仕様的に。

 

「では特等席にご案内だ……奥に行きな」

 

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