その後は1日1回更新とさせていただきます
ボーデ 城下町
コハク商
今度はコハク商に顔を出す。
色々用事はあるが、
貴族に舐められないようにするには、ある程度の財力の誇示も必要らしい。
……俺が頼りなく見えるから、そっちで補強しようとハンナ達が考えたのではないと思いたい。
こないだロクサーヌ達のファッションショーをしたのとは逆の立場になって、今度は俺が着替えてみんなの前に立つ。
あの時は暖炉に火が入っていたが、今日は点いていなかった。
最初の印象から随分北国という印象だったが、暖かくなってきたものだ。
……と、関係ないことを考えて気を紛らわしている俺を見た猫人店主は、「ほぅ、ほぅ」と顎を撫で回して、
「スラっとしておりながら、落ち着いた優雅な印象になりますな。
初めて見る衣装ですが、なかなか良い品とお見受けしました」
「ご主人様ですから」
ロクサーヌはその評価にご満悦のようだ。
……裾が長い服になると、自然と歩幅はいつもより抑え気味になるだろう。
そのことを最大限好意的に膨らませた表現ってだけなんじゃないかなぁ。
大股でズンズン歩く人のことを、『落ち着いた』とか『優雅な』とは思わんからな。
超絶イケメンで超絶ノーブルな公爵に対して、俺は一度もそんな印象を持ったことがない。
夫人は別だ、優雅とはああいうことを指すのだろう。
「こちらのお召し物に合うコハクを、当店でお求めいただけるとは光栄なことです」
猫人店主は屈み込むと、テーブルの下から小箱を取り出した。
箱の中身は、乳白色の宝石が輝く……ブローチかな?
「変わった色のコハクですね、透明度がほとんどありませんが」
セリーが小姑みたいな目をして言った。
前に来た時は、コハクの品質に透明度が関わるようなことを言っていた記憶があるのだが。
これはバターみたいな色をしている。
「セリーさんの仰る通りなのですが、この色のコハクはなかなか採れず、高貴な身分の方も身につける貴重な品となっております*1」
セリーは「確かに先日見せていただいた中でも少ないものでしたね」と引き下がった。
希少品であることは納得したのだろう。
……バターみたいだなとか言わないで良かった。
「あー……真珠のような色をしているのだな」
猫人店主に『如何でしょうか?』という眼をされたので適当に言ってみた。
彼は「お目が高い」と細い目を見開いた。
「確かに、真珠のようなと表現される方もいらっしゃいます。
……いやはや、真珠の輝きをご存知とは、お見逸れいたしました」
魚好きのミリアもそうだが、猫人族というのは海に根ざした種族らしい。
エルフが支配階級のハルツ公領であっても、こうして猫人族の店主がコハクを商っているほどだ。
そして真珠もコハク同様海で採れるものだから、猫人族にとっては憧れの宝石らしい。
だが採れるのはもっと温かい海で、この辺りでは知られていない。
それを人間族の俺が名前を出したことに、猫人店主は驚いたようだった。
……地球では確かペルシャ湾で産出していたんだったかな。
ニホンジンとかいう邪悪な民族が養殖真珠の量産技術を確立して、中東の真珠産業は大打撃を受けたそうな*2。
この世界では養殖する技術はさすがにまだないだろうから、真珠は大層高級品のようだ。
コハク商の後ろで、セリーとハンナが悪い顔でアイコンタクトしているのが見えた。
……これからペルマスクに行って、買い求めるつもりだな。
手に入るかわからんが、この様子では高値で売れそうだしな。
猫人店主はもう一度「お見逸れしました」と言った後、「いえ失礼、話が逸れましたな」と苦笑いした。
彼は俺の胸元にブローチ? を当てながら、
「青い服はややもすると冷たい印象を与えることがございます。
柔らかく温かみのあるこちらのコハクは、そうした印象を和らげてくれるかと存じます」
ロクサーヌが頬に手を当てながらうっとりと、「それは素晴らしいですね」とため息を吐くように言った。
大丈夫か? 情報を食わされているだけじゃないのか?
……うーん、ハンナもセリーも穏やかな表情で頷いているし、それで良いのかな。
「……では、そちらの品を買わせてもらうとするか」
猫人店主の手から慎重な手つきで受け取って……どうやってつけるんだ、これ?
「こちらはラペルピン*3となっております。
貴人の方は、スーツをお召しになる方が多いですからな。
そのお召し物であれば、胸元のボタン紐にお付けになるのがよろしいのではないかと」
なるほど、弁護士が弁護士バッジをつけている、背広のあの穴につけるものか。
学校の校章をつけているところもあったかな?
あとは社章バッジとかがある会社にでも入社しないと、普通のサラリーマンは結婚式くらいでしかあの穴を使わないと思う。
この詰め襟の民族衣装には相当する場所がないが、確かに言われた場所につけることはできそうだ。
……いや、ちょっと不安な付け心地かな。
背広の襟みたいな土台があるわけじゃないからな。
「ふーむ……チェーンをつけて留め具を追加した方が良さそうですな。
如何でしょうか? お召し物と一緒にこちらでお預かりし、明後日までにご用意させていただくということにされては……」
「なるほど……それではついでに、綿抜きもしてもらうことは頼めるだろうか?」
ボーデはクーラタルより涼しい。
セルマー伯の居城があるノルトセルムの気候も似たようなものらしい。
お隣さんらしいしな。
だから綿入りでも暑いというほどにはならないと思うが、明後日の気温はわからん。
お偉方の前で汗だくになるくらいなら、寒いのを我慢する方がマシだ。
「はい、もちろんです。
商売柄、懇意にしている服飾職人がおりますから」
そして服の手直しと一緒に請求された金額は……た、高いな。
乳白色のコハクが貴重品というのは本当らしい。
だがまあ、高級品を身につければそれだけこちらを大きく見てくれる効果もあるだろう。
「ロクサーヌ達の分も、一緒にやってもらえばどうだ?」
これからセリーが組んだチャートでショッピングの旅に出るし、ハンナ達は石鹸のことで忙しくなるかもしれん。
綿抜きだけでなく、尻尾を通す穴を空ける必要があるし、プロにやってもらえるならその方が良いだろう。
ロクサーヌはちょっと申し訳なさそうな顔をしながら、「ではお願いします」と言った。
彼女は雪が残る季節に上着なしで平気な顔をしていたから、綿入りだと暑いのだろう。
ミリアもそれに続いて、セリーは逡巡した結果「私にはまだ少々寒いので」と断った。
猫人店主にロクサーヌとミリアの分の民族衣装を渡す。
ついでに、「ロクサーヌの分のコハクもまだ買っていなかったな」と付け加えると、
「おおっ! 左様でございましたな」
猫人店主は揉み手をしながら大袈裟な調子で言うと、また机の下から小箱を取り出した。
今度は真っ赤なコハクを中心に据えたネックレスだった。
「赤く、味わいのある色でございましょう?
これほどの品は滅多にお目にかかれません、10年に一度の一品と言えるでしょう」
濃い赤なのに透き通っている。
コハクは樹液の化石だから、樹の種類によって色々と色があるのだろうが、いわゆる琥珀色とはかけ離れたものだ。
「えっと、その、如何でしょうか?」
「あ、ああ……ロクサーヌの緑の服によく似合うな」
猫人店主が赤いのを勧めてきたのは、多分ロクサーヌの服に対する補色だからだろう。
そう思って色に関する回答をすると、猫人店主が我が意を得たりと頷いた。
「まさしく仰る通りでございます。
ロクサーヌさんの服をお預かりした時、これしかないと思いました」
うーむ、さすがのセールストークだなと思うが、何故だか口の中が酸っぱくなってきた。
緑の服に赤くて丸い宝石がついてると、シズマドライブを思い出すんだよ。
……ああ、暑くなってきたしガツンと濃い梅サワーをキュウリを齧りながら呑みたい。
だがロクサーヌも満更でもなさそうだし、こんな下らない感想は涎と一緒に飲み込もう。
「あの、でも、そこまでの品ですとお高いのでは?」
コハクのアクセサリーは、セリーは髪飾り、ハンナとカタリナは潰された片目を隠せる額飾りとそれぞれ購入済みだ。
しかし、それらは小粒だったり成形する時の削りカスとかを流用した、技術力と芸術性は高いが素材自体は安価なものだった。
今も身に着けてくれていて気に入ってくれているようだが、値段としては大分変わってくる。
みんなを差し置いて……と、ロクサーヌは遠慮しているようだ。
「ふむ……では、こういたしましょう。
この中心のコハクだけを使って、ミチオ様のものとお揃いのラペルピンにするのです。
そうすれば、他のコハクの分はお値引きさせていただきますので……」
「ご主人様と……お揃いの……」
ろ、ロクサーヌの尻尾が……これは買わないといけないやつだ。
いや、値段はどうにでもなるが、それではまるでペアルックというかなんというか……。
「か、買わせていただこう。
だがバランスを考えて、セリーとミリアの分のラペ――」
「――ご主人様、私はもう立派な髪飾りをいただいてますので」
「み、ミリアにはまだ――」
「――ご主人様、例の件もありますし、ペルマスクに行かれるのでしたらお急ぎになりませんと」
俺のささやかな抵抗は、食い気味のセリーにオールシャットアウトされた。
ペルマスクにはシェスタがあるから、時差を考慮すると確かに急がなければならんのだが……ぐぬぬ。
「……で、では、そのようにお願いしよう」
小粒のコハクの分ということで1万ナールの割引が利いた。
つまり値段のほとんどは真ん中のコハクじゃねえか、でしょうね!
「……それではハンナ、後は頼んだ」
「はい、お任せください」
前に出たハンナが「コハクの原石をお売りいただきたいのですが」と話をすると、猫人店主はすぐに心得顔をした。
さっきセリーがペルマスクの話をしたから、察していたのだろう。
だが次にハンナが取り出した木箱の中身を見ると、表情を変えた。
「なんとっ! 石鹸をお作りになれると!」
「遠国からの旅人に製法を聞きまして、あまり大量に作れるわけではないのですが……」
『遠国からの旅人』と聞いて、猫人店主は一瞬俺を見たが、すぐ目を逸らした。
……まあ、人はみな旅人って言うしね。
「それで、石鹸を手前に……いえ、ゆくゆくは当店の顧客にお売りしたいとお考えなのですな?」
「いえいえ、まだ作り始めたばかりですから、そんな……。
まずはご自由にお使いいただいて、感想だけでもお教えいただければ幸いです」
ハンナは余裕の表情だ。
こう……がっつかない感じがなんとも頼もしい。
こっちから『買ってください』じゃなくて、あっちから『売ってください』と言わせたいのだろう。
猫人店主は「なるほどなるほど」と頷いた後、部屋の外の店員を呼び出した。
「これから夏になりますから、ありがたい限りです。
こちらは孫と一緒に使わせていただきましょう」
……あの猫耳店員はお孫さんだったのか。
やってきた猫人店員は、祖父から石鹸を貰ったと聞いて喜び、木箱の中身の色とりどりな石鹸を見て更に喜んだ。
ハンナとカタリナからそれぞれに配合されているハーブを聞いて、表情をコロコロ変えて喜んでいる。
うーん……良き。
「ありがとうございます!
扱っている
「これこれ、感想をお教えしなければならんのだから、あまり軽い気持ちではいかんぞ」
ハンナがもう一度、「いえいえ、ご自由にお使いいただいて……」と微笑んだ。
横でカタリナも同じように微笑んでいる。
……セールスマンだなぁ。
「では、また上手いこと鏡が手に入ったら売りにくるので……」
ということで、みんなニコニコ笑顔で店を出た。
……。
…………。
………………。
店を出てしばらくして、
「ところで」「ご主人様」「御主人様」
俺とセリーとハンナの声がハモった。
「あー……真珠ってペルマスクで買えるかな?」
「はい、話に聞く真珠のようなものが飾られた鏡を、工房で見た覚えがあります」
「緩衝材を兼ねて反物は買い求めましたが、宝石を持ち込んで宝石を仕入れることを忘れるとは……不覚です」
セリーとハンナは悔しそうに顔を見合わせている。
……意識が高いなー。
いや、頼もしい限りだ。
「必要なだけ金は出すから、たっぷり仕入れてくれ」
そしてあのコハク商から搾り取ってくれ。
なんか上手いこと転がされてしまったという気がする。
まあ真珠を売ったら上手いこと儲けるんだろうけども、それはそれとして回収したい。
2人がしっかり頷いたのを確認して、俺も頷き返す。
「じゃあ、次は武器防具屋だな」
ボーデ 城下町
武器防具店
ここはハルツ公領でも屈指の老舗だそうだ。
店主は最初に会った時はいかにも高慢ちきなエルフという印象だったが、俺達の姿を見ると神妙な顔に笑顔を交えて迎えてくれた。
俺はどうやら公爵の信頼厚い冒険者と思われているらしく、いつの間にやらこんな態度を示されるようになっていた。
まずエルフ武器商人から、頼んでいた姿見を受け取った。
俺の部屋に置く用と、玄関で皆が使えるようにするためのものだ。
それらの出来栄えは、ロクサーヌ達が笑顔で頷くものだった。
そして「近々ペルマスク方面に行くので、ついでで良かったら」と鏡の取引を持ちかけると、更に笑みを深くして鏡の運搬ができる背負子と、ついでに売り物になるタルエムの木材も用意してくれることになった。
ロクサーヌ達があっちの使用人と荷造りをしてくれている間に、俺はハンナ達と商談だ。
コハク商の時と同じように、ハンナが石鹸の試供品を差し出すと、
「このようなものがあるなら、もっと早くに教えていただきたかったですなぁ」
恨みがましく聞こえる言葉とは裏腹に、エルフ武器商人は笑み崩れていた。
ぶつぶつと「タルエムで仕切り付きの木箱を作れば……」と呟いている。
きっと漫画だったら、目が『$』になっていることだろう。
……君は実にチョロいな。
「ありがとうございます。
もちろん、妻と使わせていただきますとも」
「はい、喜んで使わせていただきます」
武器防具商人の夫婦に笑顔で頭を下げられた。
老舗だけに、この街の有力者と言って良いだろう2人だ。
ここから販路が広がると、エルフの上流階級にアクセスできるとハンナは見込んでいるらしい。
ハンナも「よろしくお願いします」と、しっかり頭を下げた。
「さて、実はもう1つ試してほしいものがあるんだが……」
と、ハンナに話を振る。
彼女は頷いて「こちらのブラシなのですが」と歯ブラシを取り出した。
それを見て、エルフ武器商人はキョトンとした顔をした。
それだけ見ると、ただの小さくてみすぼらしいブラシだからな。
「失礼……これは豚毛ですか?」
「はい、ピックホッグのドロップアイテムですね」
エルフ武器商人が、なぜか恐る恐るという手付きでブラシに触っている。
……なんだろう、ガラクタでも押し売りに来られたと思われているのだろうか。
江戸時代には、武士が『これは先祖伝来の品で……』とか言って商人に押し売りしたり、借金の棒引きをさせたりすることがあったらしいが。
「こちらは歯を磨くためのブラシ、歯ブラシになります」
百聞は一見にしかずということで、カタリナが自分の口に歯ブラシを突っ込んで実演した。
それを見て、奥さんの方が口に手を当てて小さく、「まぁっ!」と叫んだ。
この世界全体か、地域的なものかは知らんが、歯を磨く姿はかなり恥ずかしい姿という扱いらしい。
江戸でも歯磨き中の姿を見せるのは『粋じゃない』とか言われていたらしいし、現代地球でもわざわざ見せつけるものではないが。
その理由は、当たり前だが奥歯を磨く時に大口を開けないといけないからだろう。
「房楊枝と違って、毛が垂直についていますから、こうして口を閉じたままでも磨けるのです」
俺にとっては磨きやすい方が良いという理由で作ったものだし、実際磨き心地は全然違う。
だが、ハンナが重視した点はここだったようだ。
恐らく、奥さんを攻略にした方が良いという判断だろう……なにしろ旦那の方は婿養子であるからして。
「これは素晴らしいものですね」
果たして奥さんはあっさり釣れた。
「いえ、それがまだ完成とは言えないのです」
真似をされないように掃除用具と偽って職人に作らせていること。
口の中に入れるものだし、衛生面を考えてワニスを塗りたいこと。
そこまですると怪しまれてしまわないかということ。
ハンナがそれらを説明すると、夫婦はなぜ自分の所に持ち込まれたのかを理解したようだった。
「貴方」
「ええ、手前どもならもちろん可能ですとも。
豚毛も手に入りやすいですし」
奥さんに頼られて、鼻高々な様子の旦那が請け負った。
2人はボーデに店を構えているから、当然ハルツ公の領地の迷宮で手に入る素材は手に入りやすい。
そしてターレの迷宮でもハルバーの迷宮でも、ピックホッグは低階層に配置されている魔物だ。
多分、客から募れば安価で引き取ることができるのだろう。
そういう意味でもこれ以上ないほどの適任者というわけだ。
そして歯ブラシが無事に出来上がったとして、いくらくらいで売れるか、発明者扱いのこっちにどれくらい分け前がもらえるか。
そういう話は、まずは出来上がってから改めて、ということになった。
特許料とかの概念はないが、そこらへんは気を使ってくれるようだ。
歯ブラシに興味津々な奥さんは、ハンナとカタリナにあれこれ希望を言い始める。
そうして姦しくなってくると、自然に俺と旦那は2人で顔を見合わせるようになった。
「あー……ところで冒険者を集めるという件は、どうなったのだろうか?」
「はい、少々思わしくなく……」
エルフ武器商人が言うには、4人集まったので試しにペルマスクまで派遣してみたそうだ。
しかし、荷物を持った状態だと、4人でリレーしても1日でたどり着けなかったらしい。
冒険者達には、往復に予備日も含めて5日欲しいと言われてしまい、そうなると雇用費用が高くなりすぎる。
冒険者が〈フィールドウォーク〉で街と街を1日3往復できるとして、運べる人数は100ナール×5人×6回だから最大3,000ナールというところになるか。
アイテムボックスで運搬業務とかもやってるだろうから、そこに更にプラスして幾らか稼げるはずだ。
それにこういうのはインフラの一部になっているはずだから、社会貢献とギルドへの貢献ということで評価もされるだろう。
安定した仕事だろうし、公務員的な人気もあるだろう。
そういう人材を雇うとして……俺なら最低日給5,000~6,000ナールはもらえないと検討する余地すらないかな。
過疎地の冒険者はそんなに稼げないだろうが、そんな所から引き抜いたら色んな人からガチギレされると思う。
主な業務が空気輸送の第三セクター鉄道だって、必要とする人間はいるわけで。
多分補助金とか出ているだろう。
「辺境に手隙の冒険者はいなかったのかな?」
「どうもザビルからペルマスクへ渡るのが大変なようですな。
あそこは他に渡る者も多いので、相乗りするにもなかなか……」
確かに海を隔てているだけあって、結構消耗が激しかった。
とはいえ……いや、そもそも〈ワープ〉と〈フィールドウォーク〉の消費MPが同じとは限らないんだよな*4。
ちょっと派手にやり過ぎだったかもしれん。
「緊急時に騎士団に協力するという名目で、資金援助なんかは貰えないのだろうか」
「ええ、はい、あちらにもお話しさせていただいているのですが……」
どうにも思わしくないらしい。
3つ目の迷宮が見つかって忙しくなると言っていたし、そんな雑事に構っていられないのだろうか。
1人の冒険者で非冒険者を何人迷宮に送り込めるかって考えると、為政者目線ではそんなことにうつつを抜かせないってのはわからんでもない。
「ボーデの迷宮のせいで忙しいのだろうか」
「ええ……まあ、そうですな」
……なんか妙な反応だな。
実際妙な気はする。
もっと長期的な目線で見ると、そういう冒険者を兼業とはいえ手元に囲っておけるのは悪い話じゃないはずだからな。
ということは忙しいだけじゃない? 騎士団の方で何か起きたのかな?
……明後日、変な依頼をされたりしないと良いんだが。
「ご主人様、梱包の方が終わりました」
ロクサーヌ達が店の奥から出てきた。
セリーとミリアが長櫃付きの背負子を担いでいる。
5人で行った時は俺だけが背負ったが、ミリアが増えたから積載量が増える。
「ミチオ様はさすがでございますなぁ」
「い、いや、別の所用があるので少し時間をもらうことになって申し訳ないが」
ペルマスクには数日かけて行ったということにしておこう。
……。
…………。
………………。
「申し訳ありません、時間が押しております」
「すみません、セリーさん。
石鹸と歯ブラシの件は後日に回した方が良かったですね」
「あ、いえ、大切な商談ですし、時間が掛かることはわかっていました。
元はと言えば、あの古着屋の店主が……」
あの長話は想定していなかったと、そりゃそうだ。
最後にペルマスクに往復していたのは10日以上前だ。
あの後にみっちりレベル上げもしたし、なんとかなるだろう。
……ミリアとその荷物の分が増えたのは不安だが。
いや、できると思おう。
MP消費は割と根性でなんとかなる気がする。
「よし、一気に飛ばして……そうだな、シュポワールの迷宮まで飛ぶ。
すぐに回復したいから、いつものように頼んだぞ、ロクサーヌ」
「はい、あそこの一階層は確か……」
「エスケープゴートですね」
……結論から言うと、なんとかはなった。
そして皆をペルマスクの市街に送り出して冒険者ギルドで休んでいると、すぐにセリーが帰ってきた。
「……申し訳ありません。
今日は暑いので早めに昼休みだそうで」
セリーのちゃんと練り込まれたチャートはあえなく崩壊した。
……まあ、そんなこともある。
一説には20年近い飢饉により、22万人が死亡したとされる。
また、クウェートでは発明者の御木本幸吉が深く恨まれており、御木本幸吉とその一族は全員死刑という名指しの法律があったという逸話がある。(法律云々については、ソースはSNSなので話半分に聞いて下さい)