加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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セルマー伯

 

 

   ごしゅじんさま は おでかけ します。

   きょう は いえ で べんきょう します。(ミリア)

 

   ※ここからしたはごしゅじんさまのめもです。

 

   春64日

    AM:ボーデ

    PM:予定は未定

 

 

 

   ボーデ 登城道

 

 コハク商の店で、一昨日頼んだ服とラペルピンを受け取った。

 ロクサーヌも服を受け取りに来たがっていたのだが……申し訳ないが、家で留守番だ。

 

 なにしろ今日の俺は、冒険者から探索者になりました……という設定だ。

 ボーデの冒険者ギルドに行くのにも、わざわざ冒険者に頼んでいる。

 いきなり今日セルマー伯の所に行くということはないと思うが、念の為だ。

 

 なんといっても性急な公爵だ。

 これから日取りを決めて、「じゃあ明日よろしく」となることも考えなければならん。

 そうなった時、「昨日の私は冒険者でしたが、今日の私は探索者です」とは言えんだろう。

 

 ……考えすぎかな?

 だが、本来ジョブというのはそんな簡単に変えられるものではないはずだ。

 冒険者や探索者になるということは、冒険者ギルドや探索者ギルドという職能ギルドに所属するということだからな。

 

 というわけで、こうして街から城まで登る道をテクテク歩いている。

 

 登城道は、斜面のキツイ所とかはちゃんと石畳や階段で整備されていた。

 山地のハイキングコースって感じだな。

 中古とはいえ下ろしたての新しい服で、初夏の朝にハイキング、そんな風に考えると気分も良いもんだ。

 

 昨日一昨日はセリーが組んだ予定で慌ただしかったからな、こういう時間も必要だ。

 

 折角組んだチャートが崩壊したセリーは、慌ててチャートを組み直した。

 といっても、無難に帰り道にする予定だった武器防具屋巡りを先にしただけではあるが。

 だが、そこでオリチャーを発動して、シュポワールの商人ギルドでヤギのスキル結晶を注文することを考えたのは偉かった。

 

 ペルマスクへの途上にあるシュポワールの町だが、最寄りの迷宮の一階層に出現する魔物はエスケープゴートになる。

 こいつは〈知力2倍〉のスキルを付与するスキル結晶をドロップするのだ。

 そして一階層の魔物は当然一番倒されるから、スキル結晶の出物も多くなる。

 

 今使っている杖は〈知力2倍〉のスキルがついた『ひもろぎのロッド』だ。

 だが、ロッドは魔法攻撃力が上がるカテゴリの武器としてはせいぜい中の上というところだ。

 今後を考えると、〈知力2倍〉はアクセサリに付与して、基本性能が高い武器に換装していった方が効率よく強化できる。

 

 とはいえ、スキル結晶はさすがにすぐに手に入らなかった。

 しかし注文さえ出しておけば、入荷した時にクーラタルの商人ギルドまで報せてもらえるという。

 あのヤカラみたいな金ネックレスに融合して、杖をゴスラーや公爵夫人も使っていたスタッフにすれば、また一段強くなれることだろう。

 

 昨日は昨日で、各地の武器防具屋ツアーを再開して、帝都の服屋に行けたのは昼過ぎだ。

 なんかもう迷宮探索するつもりになれなかったので、午後はずっとショッピングをしていた。

 

 ネグリジェもちゃんと3人分買った。

 資金が潤沢なものだから、ついつい色々買ってしまったが……冷静になって考えると、AVを借りる時に関係ないものも一緒に借りて印象を薄めよう的な、保身の心が働いたかもしれない。

 まあ、ショッピング好きのロクサーヌが楽しそうだったから良いのだ。

 

 そういえば、帝都から家具を持ち帰るのは大変だから見なかったが、ベッドもどうにかしなければならんな。

 ダブルベッドでも、4人で寝るとさすがに狭い。

 

 ……落ち着け、なんでベッドのことなんか考えた? 色魔は外してるよな? うん。

 そもそも一晩に4人で寝ることがおかしい。

 時間は有限なんだぞ、特にこれから夜が短くなるわけでな。

 

 ベッドを増設するか、買い替えるか、ローテーション制にするか。

 とりあえず、ミリアは勉強のためという名目で、ハンナとカタリナに夜は任せるか。

 ……先延ばしでしかないが。

 

――×××

 

 おや、城の方から人が下ってきているな。

 騎士団員らしい。

 見回りか何かだろうか。

 

 そういえば、もしかして熊とか出るのかな。

 ……出てもおかしくないよな、森の中だし。

 

 散々魔物を倒しているが、熊と比較してどっちが強いかはわからない。

 わからないが、そんな人間離れしたスペックになっているとも思えないし、魔物じゃないから魔法の対象に取れない可能性もある。

 爽やかなハイキングコースだと思ったのに、急に丸腰でいるのが怖くなってきたぞ。

 

 怖いと言えば、騎士団員もちょっとおっかなくはあるんだが……。

 俺はこの世界では自由民という地位にいるわけだが、どういう立場なのかよくわからん。

 諸侯とかの庇護下になく、自力救済することが認められているようだが……。

 

 昔の日本でいうところの、蝦夷(えみし)とか山窩(サンカ)のような『まつろわぬ民』的な存在……とは多分違うよな。

 あれはアウトローというか、もっと殺伐とした扱いを受けていたようなイメージがある。

 といって外国人とか当時の日本じゃ天狗の類だしな……まあ、島国と大陸国じゃ比較できんか。

 

「××××」

「×××××××」

 

 イケメンエルフ集団の声が近くなってきた。

 談笑しながら歩いている。

 あそこだけ少女漫画の世界だ、背景に花が咲いているやつ。

 案外、食事の話とか気になるあの娘の話とかのどうでもいい話をしているのかもしれないが……エルフの言葉はわからん。

 

 いよいよ目前まで近付いたので、道の脇に退いて会釈をした。

 

「×××」

 

 ……特に何事もなく、会釈を交わしただけですれ違ってしまった。

 今日は探索者の設定だから、〈インテリジェンスカード操作〉で見てくれても一向に構わなかったんだが。

 わざわざ自分から「今日は探索者になりまして」と宣言するのもおかしな気がして、なんというか自然にカミングアウトできるような、そういうトスやレシーブが欲しいところだ。

 

 そんなものはないまま、城にたどり着いてしまった。

 ……憂鬱だ。

 

 

 

   ボーデ 宮城

     ロビー

 

「おお、ミチオ殿か、待っておった。

 しかし、なぜ外から? それにその服も」

 

 ロビーで俺を待っていたらしい公爵から、いきなり情報量のスパイクが飛んできた。

 ……疲れる。

 いや、悪い人じゃないとは思うんだが。

 

「近くセルマー伯にお会いするということで、いつになるかわからないので探索者に戻ったのです。

 服は……まあ、事前にお会いする予定がわかっていればこれくらいは」

 

 『近く』に力を込める。

 ゴスラーはいつも通りだが、何故か公爵夫妻はいかにも余所行きっぽい気合が入った格好をしている。

 夫人に至っては、頭にティアラまで輝いているんですがそれは……。

 

「胸のコハクは我が領で産したものでしょうか?

 よくお似合いでございますな」

「はい、東方の装束でしょうか?

 御身に大層馴染んでおりますね」

 

 ゴスラーとカシアが口々に褒めてくれた。

 色魔は外しているよな? うん、間違いない……って何度目だ。

 

 一方、公爵はなぜか首を傾げながら、

 

「余とは冒険者のまま会っていたではないか、それに服も」

 

 ……ふぇぇ、ツッコミが追いつかないよぉ。

 

「閣下、ミチオ殿が冒険者として仕事をされている時に、突然部屋まで呼び出したのは閣下ですぞ」

「そ、そうであったな」

 

 頼りになるゴスラーがビシっと言ってくれた。

 厳密に言うと、普段着で鏡を届けに来た時には事前にアポを取っていたのだが、まあそれも冒険者としての仕事中だったということで見逃してほしい。

 

 公爵からすれば、自分より格下の貴族に会いに行くのに、自分にはしない気遣いをされるのは沽券に関わるのかもしれない。

 鼎の軽重が問われるというやつだな。

 

「確かに、貴族の館には冒険者を入れないとする、古い慣行が残っている所はある。

 いやはや、さすがはミチオ殿だ」

 

 と、微妙に目を逸らしながら言われた。

 ……やっぱりこの人、ただのそそっかしいだけの人なのでは。

 

「とはいえ、()()()()()()セルマー伯の居城にも遮蔽セメントは当然使われておる。

 冒険者を入れないなどという、古臭い伝統を持ち出してくることはあるまい」

 

 ああ……やっぱり。

 公爵の横でカシアが、「お気遣いありがとうございます」と丁寧に頭を下げた。

 そのドレスの胸元から発せられる強力な引力に抗って、ゴスラーに向き直る。

 

「ところで、私の記憶違いでなければ、今日はセルマー伯にお会いする日取りを決めるというお話だったと思いますが……」

「そのことなのですが、少々困ったことになっておりまして」

 

 ゴスラーが申し訳無さそうな顔でため息を吐いた。

 

「ミチオ殿が指輪の鑑定を依頼したルークですが、そのことを同業者に触れ回ってしまいまして……」

「く、口止めは?」

「しましたが、その時にはもう手遅れだったというわけでして」

 

 あ、あの野郎、余計な真似しやがって。

 ……と言いたいところだが、ハンナ達の敵討ちって面がありそうなのがなんとも……はぁ。

 

 ハインツとシモンの被害者がうちの家人にいるということは、ここにいる面々には話している。

 その傷が元で死んだハンナの旦那が、ルークの知己であるということも合わせて。

 

「というわけでの、ミチオ殿にはすまぬが早くに済ませたい。

 今ならまだ、それほど人の噂にも上っておらぬでな」

「……は、恐れ入ります」

 

 だからか、責めるようなことは言われなかった。

 

「ところで、シモンめを討伐したパーティーメンバーは連れてきていないのか?」

 

 いや、そんな話にはなっていないぞ。

 なりそうなタイミングで公爵夫人が現れて、なる前に立ち消えたからな。

 

 とはいえ、パーティーでの戦果と考えると連れてくるのはおかしくないのか。

 魔王を倒した勇者だって、仲間と一緒に王様の前に並ぶわけだし。

 

「近くで待っておるのなら、騎士団の冒険者に命じて連れてきても良いが」

「いえ、このような話になるとは思わず、家で待たせております」

 

 公爵は「であるか」と頷いた。

 こういう言い訳ができるなら、結果としてルークのファインプレーになるのか。

 あとは終わり良ければ全て良し、と言えれば良いんだが……。

 

「では参ろうか」

「ミチオ様、よろしくお願いいたします」

 

 騎士団の冒険者にパーティーメンバーとして加えられ、公爵夫妻と共に出発する。

 格好を見て察しがついたが、ゴスラーは留守番のようだ。

 

 ロビーから〈フィールドウォーク〉で移動した先は、やはりロビーだった。

 城の中から城の中だから、違いがさっぱりわからん。

 

「ハルツ公爵以下6名、到着しました」

「お待ちしておりました。

 それでは案内させていただきます」

 

 公爵の部下の騎士が来訪を告げて、向こうの騎士が丁寧に対応した。

 話はちゃんとついているようだ。

 

「冒険者の方はここでお待ち下さい。

 冒険者を除く5名の方は、私についてきて下さい」

 

 冒険者はやっぱり駄目のようだ。

 こんな調子でシームレスに移動されると、冒険者立入禁止にしたい気持ちは否応なしに理解できるな。

 

「では参る」

 

 公爵が俺を見て頷くと、ズンズンと奥に歩いていく。

 カシアがそれに続いて、残りの騎士団員2人に促されて俺も続く。

 随分長いこと歩いて階段もいくつか上って、大きな扉の前に出た。

 

「伯爵が中でお待ちです」

「うむ、お前たち2人はここで待て」

 

 公爵がパーティーメンバーの騎士にオリハルコンの剣を渡した。

 さすがに公爵といえど、帯刀禁止らしい。

 俺はアイテムボックスに入れている……ということにしてあるから、特になにもせずそのままだ。

 

 案内の騎士が扉を開けた。

 そんな広くない部屋に、椅子が1つだけある。

 不思議なことに公爵の城の謁見室に入ったことがないので推測だが、謁見室というやつだろう。

 

 その椅子に、小太りのエルフが座っている。

 彼がセルマー伯らしい。

 40歳で騎士Lv21……正直あまり強くないな。

 

 鑑定画面だけ確認して、見咎められないように目を逸らす。

 壁にかけられた垂れ幕の1つに、見覚えのあるエンブレムがあった。

 ハルバードを持った舞茸みたいな角を生やした鹿のエンブレム、ハルツ公のものだな。

 

「さあ、ミチオ様」

 

 最後かと思ったが、公爵の次は俺らしい。

 夫人に声をかけられたので、公爵の後ろまで歩いた。

 黙って頭を下げていると、香水の匂いが一層感じられて頭がパーになってくる。

 

「ハルツ公閣下、よく参られた。

 カシアも、久しいの」

「はい、叔父上におかれてもご健勝そうでなによりです」

 

 セルマー伯とカシアによるごく常識的な挨拶が交わされている。

 どうやら伯爵は公爵より常識人らしい。

 ……公爵と比較するのもどうかと思うが。

 

「して、その者が?」

 

 やがて話題がこちらに移った。

 公爵は「うむ」と胸を張って、

 

「この者が、見事兇賊のハインツ、並びに狂犬のシモンを討伐した探索者のミチオ殿だ」

 

 ちょっと迷ったが、名前を呼ばれたので頭を上げておく。

 セルマー伯は「ふーむ」と長く溜めた後、「僥倖であったの」と感情の読めない声で言った。

 

「この者にかかれば、いかに凶悪な盗賊とはいえ倒すことなど造作もないこと。

 ミチオ殿には、領内の迷宮退治にもご助力いただいておる」

「それは羨ましいの。

 我が領内は騎士団ばかりでてんてこ舞いだ」

 

 うーん、寒々しい会話だ。

 言うなれば、当たり助っ人外国人を引いた球団のファンと、外れを掴まされて強がっている球団のファン同士のレスバみたいな感じだろうか。

 ……オブラートに包んでいる分、やきう民よりかはマシだが。

 

 俺としては生え抜きが活躍するのも好きだが、生え抜きと助っ人外国人がベンチで和気藹々している様子が垣間見えるのが好きだな。

 生え抜きも助っ人外国人も駄目な時は、現役ドラフトやトレードで入団した選手を名誉生え抜き認定すれば解決だ。

 

「このミチオ殿は腕も立つが、その眼力も確かでの。

 ハインツめが盗賊に似つかわしくない指輪を持っているのを不思議に思い、わざわざ余の下に届けてくれたのだ」

 

 公爵が言い争いを打ち切って指輪の話題を切り出した。

 そして突然俺を振り向いて、「そうであったな、ミチオ殿」と水を向けられたが、なんとか「はい」と返事をすることができた。

 黙り込んだセルマー伯のじっとりとした視線を感じる。

 

「余が防具鑑定をさせたところ、思いがけぬ結果が出たのだが……セルマー伯の方で心当たりはないかの」

「……いや」

「ふむ、そうであろうとも。

 指輪は余の方で所持しておこう、もし必要だというのなら、売却することも考えないではない」

 

 公爵はどうやら、俺はたまたま指輪を拾った第三者で、それが決意の指輪のことだと知らない……ということにしてくれるようだ。

 あくまでハインツが指輪を持っていたことを証言させただけ、と。

 

 ……いや、全くありがたい話だ。

 今後もハルツ公領の迷宮に入るようにしよう。

 

 その気があれば伯爵のことを責め立てることもできるはずだが、表立ってはしないというわけだ。

 そして賠償金を要求なんかしたら角が立つから、あくまで指輪を売却という体裁をとると。

 外交交渉みたいで、不謹慎だがちょっと面白いな。

 

 これで話は終わりかと思っていたが、「ところで……」と伯爵がもったいぶった様子で口を開いた。

 

「ハルツ公閣下の下には多士済済の俊才が集って、まことに羨ましい限りだ。

 なんでも、ペルマスクの鏡を手に入れられる凄腕の冒険者までいるそうだの」

 

 今度は公爵が黙り込んだ。

 

「閣下はその冒険者を何度も私室に招くほど親しくしているとか……。

 人間族の探索者だけでなく、人間族の冒険者までとは、全く羨ましいの」

「余が冒険者を、探索者と偽りここまで連れてきたとでも?」

 

 ……胃が痛い。

 

「まさか! 探索者と偽り、冒険者を城の謁見室まで送り込む……そのような真似をすれば侵略する意図は明らかといえる。

 栄えあるハルツ公閣下が、そのような卑劣な真似をするわけがない」

「……無論、そうであるな」

「インテリジェンスカードのチェックをするのは簡単だが、公爵が連れてきた者を疑うわけにはいくまいしの」

 

 2人が睨み合いを始めた。

 この調子では、セルマー伯は俺のことを冒険者だとほとんど確信しているようだ。

 

 ……別におかしな話じゃないな。

 そもそも冒険者として仕事しに行ったのが最初だし、公爵にもしばらく「冒険者殿」と呼ばれていたくらいだ。

 騎士団員の中にも、何人かに「洪水の時の冒険者殿」と覚えられていたな。

 

 ボーデの老舗武器商人やコハク商と組んでペルマスクに行ったし、買ってきた鏡を公爵は領内の有力者に下賜したと言っていた。

 当然、商人連中も同じようにお得意様に売っただろう。

 その相手がお隣のセルマー伯と無関係かというと……噂くらいは届いてもおかしくないよな、ケビン・ベーコンの法則*1的に考えて。

 

 そして写真もスマホもないこの世界で、文字と言葉だけでその冒険者――つまりは俺の特徴を伝えるとしたらどうなるだろう。

 人間族の男、黒髪、中肉中背、この辺りで一般的な人種ではない、恐らく異国の者。

 そんなところだろうと思う。

 

 そして今、目の前に異国風の出で立ちの黒髪の人間がいて、探索者を名乗っている……と。

 

「しかしそれはそれとして、それなりに誠意を見せることがあっても良いのではないかの。

 少しくらいはの」

 

 劣勢故にそこに全ツッパするしかないのかもしれないが、状況証拠を並べたら伯爵が確信を持っても仕方がない。

 

「なんのことかわからぬが、まさか余のことを疑っておるのか?」

「もちろん疑ってはおらん、微塵も疑ってはおらんの」

 

 伯爵は狼狽える様子もない公爵に対し、焦れたように言葉を重ねた。

 

「叔父上」

「もちろん疑ってはおらぬとも、公爵のことも、カシアのことも」

 

 俺が今探索者になっていることを知っている公爵夫人が痛ましい声で制止したが、それも届かないようだ。

 これは……ルークに決意の指輪のことを漏らしたところから含めて、完全に俺が伯爵を騙し討ちしている形になっていやしないか?

 

 やがて公爵がため息を吐いて、「話にならぬな」と首を振った。

 

「ミチオ殿、どうかインテリジェンスカードのチェックを受けてもらうことはできぬであろうか?」

「は、それは」

「無論、ミチオ殿の行いになんら不審な点はないが、どうか曲げてお頼み申す」

 

 硬い声で頭を下げる公爵、泣きそうな目で顔を伏せる夫人、血走った目で俺を見る伯爵。

 この空間の全てが俺の胃に優しくない。

 状況を長引かせたくない一心で、黙って左手を差し出すことで返事とした。

 

「……やれ」

 

 もう引くに引けないのだろう。

 セルマー伯は言葉少なく案内役の騎士に命じた。

 

「……ミチオ・カガ様、ジョブは探索者です」

 

 かくして裁定は下った。

 ジャッジは伯爵の部下の騎士だ、異議の唱えようもない。

 

「伯よ、疲れているようだの」

 

 項垂れたセルマー伯に、公爵が優しく声をかけた。

 

「迷宮退治は、全く一筋縄ではいかぬ。

 更に領内で3つ目の迷宮が見つかったのと時を同じくして、兇賊のハインツ、狂犬のシモンという厄介な輩が現れた。

 伯の言う通りよ、ミチオ殿と出会えたのは全くの僥倖であったわ」

 

 公爵は「同じエルフではないか」とか「余にとっても実家のようなもの」とかのお題目を掲げて、憔悴した伯爵に呼びかけ続けた。

 要するに、援助を申し出ているらしいな。

 さっきまでの会話はなんだったんだって感じだが……うーむ、格付けチェックしてからじゃないとこういう言葉をかけられないのだろうか。

 

「それでは、この場は失礼させていただく。

 必要なものがあれば、くれぐれも遠慮なく申されよ……よろしいな?」

「……あ、ああ」

 

 伯爵のうめき声のような返事を最後に、俺達は退出した。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 無言でボーデの城まで戻った後、夫人が「申し訳ありませんでした」と頭を下げた。

 

「ミチオ様が冒険者だというお話は、実家から連れてきているわたくしの侍女の誰かから聞いたのでしょう。

 きちんと口止めしておくべきでした」

「あ、いえ、そうとは限らないでしょう」

 

 改めてエルフ武器商人やコハク商のことを話して、そこから露見したかもしれないという可能性を提示する。

 だからなんだって話だが……こういう雰囲気は駄目だ。

 女に泣かれた経験なんか一度もないボッチの許容量(キャパ)を完全に超えている。

 

「今更仕方あるまい、余も迂闊だった」

 

 帰ってきて早々そんな話を始めたことを不審に思ったのだろう。

 留守役のゴスラーが、人払いをしつつ足早にやってきた。

 

「何かあったのですか?」

 

 公爵が事情を説明すると、ゴスラーは無言で首を振った。

 ゴスラーからしても、伯爵の言いようは非常識なものだったのだろう。

 

「しかし、私が冒険者であったことは事実です。

 問題にはならないのでしょうか?」

 

 一番頼りになりそうなゴスラーに尋ねる。

 だが、彼が答えるより早く、公爵が「なるものか」と吐き捨てた。

 

「先程も言ったであろう、あのようなものは古臭い伝統に過ぎぬ。

 そもそも探索者はいずれ冒険者になれるのだから、城に入れぬというなら探索者もそうしなければ道理に合わぬわ!」

 

 なるほど、そう言われると公爵がこの伝統を無意味に思うのも無理はないか。

 ……というかこの口ぶりだと、探索者の時に行った場所には冒険者になったら〈フィールドウォーク〉で行けるようになるということか。

 ルーラは習得後に再訪問しないといけない場合があったような……ナンバリングによって違うが。

 

「大体、恐れ多くも今上陛下も冒険者であらせられるのだぞ!

 陛下にあんな口を叩いたら、いっそその度胸を褒めてやるがな!」

 

 公爵は渇いた声で高笑いした。

 言葉を重ねているうちに、ヒートアップしてしまったらしい。

 ちょっと脱線している気もするが。

 

 ややあって、ゴスラーに「閣下」、カシアに「あなた」と宥められると、公爵は大きく息を吐いた。

 

「ともかくも、ミチオ殿には世話になった」

 

 やっと落ち着いたらしい。

 平素の声音に、やっとこっちの肩の力も抜ける。

 

 ……まあ、済んだことを考えていても仕方がないな。

 結果として罠に嵌める形になってしまったが、他にやりようがあったかというとどうしようもなかった気がする。

 

「そうそう、ミチオ殿には決意の指輪を取り戻してくれた礼をせねばならぬな。

 ……ふむ、ジョブを変えるのにも費えが掛かったであろう、40万ナールほどで如何か」

「……は、ありがたく頂戴します」

 

 本当はまた装備を買えないか交渉するつもりだったんだが、別のことに気を取られて言い出せなかった。

 

「……申し訳ありません、失念しておりましたな。

 直ちに用意いたします」

 

 ゴスラーがそう言って下がろうとすると、公爵が「頼む」と頷いて別の方向に歩き出した。

 

「そういえば、ミチオ殿には余の謁見室を見せておらなんだな。

 折角だ、そちらで渡すとするか」

 

 あっちの謁見室に行ったことで思い出したのだろうか。

 大人しくついていくしかなさそうだ。

 セルマー伯の居城がそうだったように結構長く歩かされた間、なんとも嫌な予感に見舞われた。

 

 ……40万ナールが妥当なのかどうかは、正直よくわからん。

 伝世品だから非売品だろうし、相場のようなものもないだろう。

 貴族は身代わりのミサンガでアクセサリが埋まることを考えると、あまり実用的ではない気がするが。

 

 だが、公爵が金額を口にした時、夫人が目を大きく見開いたのが見えてしまった。

 多分、ひどく安いかひどく高いか、そのどちらかだったのだ。

 そして話の流れから、安いということはちょっと考えにくい。

 

 思えば、ゴスラーの受け答えもちょっと変だった気がする。

 あれは金を用意するのを忘れていたのではなく、事前に決めていた金額から変更になったのではないだろうか。

 となると、セルマー伯に会う前と後で公爵の気が変わったということになるが……。

 

 公爵が大きな扉の前で立ち止まって、「ここだ」と振り向いた。

 

「余はミチオ殿に憚る所はないのでな。

 遠慮なく入るが良かろう」

「は、それでは」

 

 両サイドに控える騎士が扉を開いたので、公爵に従って入室する。

 部屋の様子は、さっきの謁見室より少し広いくらいで大差はない。

 壁にいくつもの垂れ幕が掛かっているのも同じで、今度は公爵のエンブレムが中央に位置していた。

 

「ここにあるエンブレムは、いざという時ここから攻め入ってきても良いという友好と信頼の証だ。

 ミチオ殿が諸侯に列せられたら、そのエンブレムもここに並ぶことになるかもしれぬの」

「お、お戯れを」

 

 話がものすごく不味い方向に行っている気がする。

 指輪の報酬は予定より増えたのだ、間違いなく。

 その理由は、今後俺にやってほしいことが増えたから……そういうことではなかろうか。

 

 注意深く公爵の言葉を待っていると、彼は「人間族のミチオ殿に言うのは心苦しいが……」と重々しく口を開いた。

 

「エルフの貴族は、現在1公爵1侯爵2伯爵を維持(キープ)している。

 失爵であれ降爵であれ、エルフとしては現状を放っておくわけにはいかぬ」

 

 一緒に謁見室についてきた公爵夫人が、ハルツ公のそれとは別の垂れ幕を切なそうな顔で見つめていた。

 伯爵の居城で見かけたものだ。

 多分、それが彼女の実家であるセルマー伯爵家のエンブレムなのだろう。

 

「エルフの公爵であるハルツ公爵としては、セルマー伯爵家を助けなければならぬ。

 ミチオ殿にあちらの迷宮退治の手伝いを頼むつもりはないが、今後も我が領地の迷宮退治への合力、よろしく頼み申す」

「はい、それはまあ」

 

 それだけなら問題はない。

 というか元々その予定だったし、以前から頼まれてもいることだし。

 だからそれだけなら全く構わないんだが……『セルマー伯爵家を』か、意味深だよなぁ。

 

「失礼します」

 

 ゴスラーが入ってきた。

 連れている騎士団員が、銀色の盆の上に巾着袋を載せている。

 用意ができたらしい。

 

 ゴスラーはそのまま公爵の横に控え、公爵夫人は逆側に侍った。

 ボス戦でも始まりそうな並びだ。

 そして公爵が、威厳を込めて「ミチオ・カガ殿」と、初めて俺をフルネームで呼んだ。

 

 …………こ、これって跪くべきなのか??

 リヒテンラーデ侯が薔薇園とか黒真珠の間でフリードリヒ4世にするようなポーズ?

 内心、『せいぜい華麗に滅びるがよいのだ』と言われた時の顔になりながら、恐る恐る中腰になると、

 

「そのままで良い」

 

 上目遣いに声の出元を窺うと、公爵が一瞬だけニヤリと笑みを浮かべた。

 なんだか良いらしい。

 猫背にならないようにだけ気をつけて、立っていることにする。

 

「汝の勇敢なる働きにより、我が家の失われし宝が再び戻った。

 我が一族の誉れを汚すことなく、汝がこれを取り戻した功績は計り知れぬ。

 我が感謝の意をここに示し、正当なる報酬を与える」

 

 騎士が銀盆を捧げ持ってこちらに差し出した。

 列席者もいない、式典とも呼べないような儀式ではある。

 だが、報酬の入った袋はかつてなく重かった。

 

 

 

   クーラタルの街

     道夫の家

 

 ありがたいことに、公爵は帰りの冒険者(タクシー)を手配してくれた。

 低姿勢に「どちらへでもお送りいたします」という言葉に甘えて、ちょっと寄り道を頼んでからクーラタルの冒険者ギルドまで送ってもらい、そこから念の為に歩いてようやく帰宅した。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様。

 ……お疲れですか?」

 

 出迎えてくれたロクサーヌは、服とコハクが揃った姿を初めて見て顔を綻ばせたが、すぐに俺が疲れていることに気づいたらしい。

 

「ただいま、ロクサーヌ。

 ……まあ、ちょっとな」

 

 いや、疲れたわ。

 ぬわああん疲れたもおおおおおおん、って感じだ。

 正直なところ、しばらく人と会いたくない。

 

「ところで良い匂いがするな」

「お帰りがいつになるかわからなかったので、昼食の前に焼き菓子を作っていました」

「それは素晴らしい」

 

 心配そうなロクサーヌに手伝ってもらって上着を脱いで、着替えて居間でお茶を飲ませてもらうことにした。

 糖分を脳に補充しながら、軽く報告タイムだ。

 

「決意の指輪は公爵が40万ナールで引き取ってくれた」

 

 昨日はコハク商に真珠も売れたし、積載量が2倍になって木材(タルエム)と反物の売上も倍々のバイバインだ。

 服を買って宝石を買って装備品を買ってと、昨日一昨日で結構散財したんだが……鏡と真珠を売ったら、所持金は間違いなく200万ナールを超えるな。

 ……と、浮かれてもいられない。

 

「一応、俺達はあの指輪が何のことか知らないということになっているから、内密に頼む」

『はい』

 

 セルマー伯爵家が今後どうなるのかは知らんが、貴族の醜聞なんか知らないことにできるならその方が良い。

 ミリアに通じてるかな……とつい心配になってしまうが、すぐにロクサーヌが「後でちゃんと言い聞かせておきます」と申し出てくれた。

 

「で、セルマー伯との挨拶も終わった。

 ルークが指輪の件を同業者に話してしまったようでな、それが噂になる前に慌てて済ませたというわけだ」

 

 公爵からも口止めは行ってるはずだが、少々心配だ。

 ハンナに向けて、「俺達のことは口外しないように念を押しておいてくれ」と頼んでおく。

 

「は……かしこまりました」

 

 俺が盗賊退治をして決意の指輪を奪還したこと。

 冒険者であること、そしてペルマスクまで行けること。

 クーラタルに在住していること。

 

 あまり知られたくない情報を全部抱えているのは公爵達だが、その次に持っているのはルークだ。

 エルフ武器商人とコハク商は、肝心の俺が盗賊退治したことを知らない。

 ルークはペルマスクの件は知らないと思うが、俺が冒険者であることは知ってるし、ボーデで鏡が出回っていることも知っていておかしくない。

 そこから結びつけることは、できなくはないだろう。

 

 ……ああ、面倒くさい。

 

「公爵はセルマー伯に何らかの援助をするようだな。

 随分と気に掛けていたというか、気を揉んでいたというか」

 

 情報をどこまでお漏らししていいかわからないので、当たり障りのないことだけを伝えることにする。

 必要ならゴスラーあたりがルークに伝えるだろう。

 

「領内の迷宮を退治できないばかりか、盗賊の跳梁まで許しているのに、随分お優しいことですね」

 

 セリーが手厳しいことを言った。

 まあ庶民目線で言うと、魔物も倒せず盗賊も倒せずじゃあ何のために貴族に税金払ってんだって話だよな。

 

 ……だが、あれは優しいっていうのかねぇ。

 なんというか、合理主義のシゴデキ管理職が一欠片も期待していない部下に見せる、優しさに似て非なる何かのような気がするんだが。

 ま、そんな憶測まではいいか。

 

「エルフ同士だし奥さんの実家だし、色々あるんだろう」

 

 適当に話を合わせながら、焼き菓子にジャムをたっぷり塗って口に入れる。

 甘いは旨いだな、そして南国はフルーツが美味い。

 冒険者になったら、ペルマスクの向こう側にも一度行ってみようかな。

 

「そっちは今日は、ミリアの勉強だったな」

 

 こっちの話は終わりということで、ロクサーヌに「どんな感じだった?」と訊いてみる。

 壁際に置かれた黒板には、勉強の結果が残っている。

 

「はい、よく頑張っていました」

「がんばり、ます、した」

 

 図書館より家の方が気楽かと思ったが、ミリアは今日もお疲れだ。

 これでは休日になっていないが、想定の範囲内だ。

 ちゃんと労いを用意している。

 

「ミリア、ハーフェンに、魚を、買いに行くか?」

 

 喜んでくれるかなと思ったんだが、しょんぼりerミリアがしょんぼりestミリアに進化してしまった、最上級だ。

 猫耳と猫尻尾もくったり萎れている。

 何故だ、早く帰りたい気持ちをぐっと堪えて、騎士団員にハーフェンまで送ってもらったのに。

 

「今から、もう、遅い、です」

「……すまん、俺の言い方が全面的に悪かった」

 

 ミリアに通じるように簡単な単語だけで喋ろうと思ったら、必要な情報が抜けてしまった。

 脳細胞がストライキを起こしている。

 

「今度行こうかという話でな」

「行き、ます」

 

 少し持ち直した。

 行きたいは行きたいらしい。

 

「ハーフェンに行けるようになったのですか?」

「ああ、騎士団の冒険者に送ってもらった」

 

 しばらく城に近寄りたくないから、思いついた用事をまとめて片しただけとも言う。

 

 それに、エルフは感じ悪い奴もいるからな。

 あっちの村長を紹介してもらうのに、騎士団員の威光に縋ったというわけだ。

 さすがに魚を買いに行くのに、騎士団のエンブレムを見せびらかすわけにもいかんだろうし。

 

「そういえば、ビッカーさんのお宅の猫を引き取るというお話は、そろそろでしたね」

「ああ、それだ」

 

 耳と尻尾を萎らせるミリアを見ていて、俺も思い出した。

 前にロクサーヌと2人でソマーラの村に行ったのは……とカレンダーを見ていたら、セリーが「春の46日です」と教えてくれた。

 

 あの時、20日くらいで親離れする時期と言っていたから、明後日だな。

 そういえば、部屋で寛げる手段が欲しいから安楽椅子も頼んでいたんだった。

 

「あー……明後日は休日の予定だったんだが」

 

 村に行って猫を引き取るくらいはなんでもないが、猫の世話に関してはロクサーヌに付いてきてもらいたい。

 だが、1と6が付く日は休日にすると決めたのはつい先日だ。

 その最初の休みに、休日出勤を頼むというのは……ないわー。

 

「いえ、この間からあまり迷宮に入っていませんし、それでお休みをいただくわけには」

「はい、図書館にも行かせていただきましたし」

 

 どうしたものかと唸っていると、ロクサーヌとセリーが強めの口調で言った。

 ハンナとカタリナも頷いている。

 戸惑っているミリアは……休日にするとして、どこに行きたいかは訊くまでもないな。

 

「じゃあ明後日は、迷宮には入らないが雑用を済ませる日にしよう。

 ソマーラの村で猫を引き取って安楽椅子を受け取りに行くから、悪いがロクサーヌは付き合ってくれ」

「はい、わかりました」

 

 えーと、他には……色々あるな。

 

 ベイルの町の奴隷商であるアランには、石鹸の製法を教えた代わりに戦闘奴隷が集めた素材をこっちに卸してもらうことになっている。

 今の俺達には手が届かない上層の素材だけでなく、今更行くのが面倒な下層の素材もだ。

 

 それと、ペルマスクで仕入れた真珠と鏡をボーデに売りに行く必要があるな。

 アイテムボックスに入らない貴重品は、あまり手元に置いておきたくないものだ。

 春の66日に売りに行くなら5日経っていることになるから、不審に思われることはないだろう。

 

「ベイルにはソマーラの村の行き帰りに寄るが、ボーデの方は皆も同行してくれるか」

『はい』

 

「で、それらの用事を済ませる前に、朝はハーフェンに魚を買いに行く」

「はい!」

 

 ミリアのやる気が上がった。

 

「そして明日はクーラタルの迷宮でマーブリームを狩るとしよう、白身だ」

「はい! 尾頭付きも、です!」

 

 ミリアのやる気が上がった。

 

「で、だ……皆、今日はどうする?」

 

 まだ昼食もしていないが、悪いが疲れているので迷宮に行くのは遠慮したい。

 

「どこにも出かけないのであれば、私はハンナさんと石鹸作りをしようかと。

 多めに必要になりそうですし」

「ありがとうございます、セリーさん」

 

 今後はアトリエ的な物件も借りた方が良いのだろうか。

 防犯と防諜を考えると人里離れた土地が良いんだが……足が不自由な作業員を僻地に押し込めるのって、そこらのブラック企業も超越する邪悪(ダークネス)な所業のような気が……。

 まあ、これ以上生産量が増えるようなら、協議した上で検討してみるか。

 

 それはそれとして、

 

「俺も石鹸作りに参加しようかな」

「……お疲れなのでは?」

「何も考えずに手を動かしたい気分なんだ」

 

 単純作業は癒やしだよ。

 石鹸作りに人手が不要なら、マヨネーズ作りでもメレンゲ作りでもなんでも辞さない所存だ。

 今なら壺おじも気持ちよくクリアできる気がする*2

 

 ハンナがセリーと目を合わせてから、「それではお言葉に甘えます」と生暖かい感じで言われた。

 

「皆さん他に何もないのであれば、私はカタリナと一緒にミリアの勉強の続きでしょうか」

「……はい、です」

 

 ミリアのやる気が下がった。

 ……話す順番逆にすりゃ良かった。

 

*1
世界中のどんな俳優でも、共演者を最大6人辿るとハリウッド俳優であるケビン・ベーコン氏に行き着くという法則。

*2
ハンマー1本で山を登る壺に入った男を操作する、苦行ゲームの金字塔。




Google日本語入力を使っているのですが、『ハーフェン』で単語変換すると『河粉』が出てきて何度もタイプミスしてしまいます。
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