加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

78 / 103
アウトソーシング

 

 

   ハーフェン たのしみ です。

   どんな 魚が いますか?(ミリア)

   ↑エルフの公爵様が治める漁村です。

    旅人が地引き網漁をしたという旅行記を

    読んだことがありますが、どんな魚が

    獲れていたかまではわかりません。(ロクサーヌ)

   ↑やりたいです。(ミリア)

   ↑いきなり参加できるかは……(ロクサーヌ)

   ↑旅行記というものは大袈裟に

    書いてあるものです。(セリー)

   ↑むつかしいです。(ミリア)

 

   ※ここからしたはごしゅじんさまのめもです。

 

   春66日

    AM:ハーフェン(魚)

      →ボーデ(カガミ+真ジュ売)

      →アランの店(素材+チョーク買)

    PM:ソマーラ(ネコ+安楽イス)→休日

 

 

 

   ハーフェン 魚市場

 

 漁村の朝は早そうだし、ハルツ公領はクーラタルより日の出が早い。

 だから朝食も摂らず暗い内に起きて、ハーフェンにやってきた。

 

 魚市場は、結構盛況だった。

 わざわざ騎士団員に村長の面通しをしてもらうまでもなく、勝手に来て勝手に買って良さそうな雰囲気だ。

 

「お、お、お、お」

 

 ミリアが感動に打ち震えながら、俺と魚市場を交互に見ている。

 直球で喜んでくれると、早起きしてきた甲斐があるというものだ。

 

「好きなのを選んで良いぞ」

「おおっ、はい!」

 

 勢いよく先導するミリアについていって、市場を見て回る。

 異世界といっても特異な魚がいるわけじゃない、多分大体スズキ目だと思う。

 少しだがエビやカニも扱ってるな、北国補正でやたら美味そうに見える。

 

 やがてミリアが猫耳のおばちゃんと話し始めた。

 この辺りの猫人族の言葉はバーナ語とは違うらしいが、方言レベルの違いらしくゆっくり話せば通じるらしい。

 コハク商の所の店員とも話せていたしな。

 

「ここの、魚、綺麗、丁寧、です」

「なるほど」

 

 きちんと処理されているということだろう。

 内臓も取られているし、発泡スチロールのトレーに載せたらそのまま日本の魚屋に陳列しても違和感がないと思う。

 

「あとは、目が綺麗に輝いていると鮮度が良いんだったかな」

 

 聞きかじりの知識で話を合わせると、ミリアが「おおっ!」と息を吐いて、

 

「そう、です。

 さすが、です」

 

 過去一ミリアに尊敬の眼差しを向けられた気がする。

 ありがとう、でも君の瞳の方が輝いているよ……食欲でギラついてて。

 

「セリー、魚で燻製は作れるか?」

「はい、海水魚で作ったことはありませんが、大丈夫だと思います」

 

 セリーにはたまに肉や卵を燻製にしてもらっている。

 庭に石を積んだ竈で作った燻製は、なかなかのものだった。

 こういう眺めを見ると、今度は魚の燻製もいただきたくなる。

 

 セリーが頷いてくれたので、ミリアに燻製用の魚も選んでもらうことにする。

 スモークサーモンとかニジマスの燻製とかは食べたことがあるが、どういう魚が向いているかはよくわからない。

 だがまあ、燻製にしたら駄目な魚とか聞いたことがないし、変な味にはならないだろう。

 

「魚の値段はどうなってる?」

「1匹、1ナール、です」

 

 ……やっすいな。

 いわゆる雑魚ばっかりなのかもしれない。

 だが、安い魚だから美味しくないということはないだろう。

 アジ・サバ・イワシのような大衆魚が、タイやマグロに劣っているかというと、全くそうは思わん。

 

「じゃあ、桶いっぱいになるまで買っていいぞ」

「はい! です!」

 

 といっても、家から持ってきた桶*1は寿司屋の岡持ちくらいの、それほど底が深くないものだ。

 ハンナ達が普段の買物用に使っているものだしな。

 6人で今日1匹か2匹ずつ食べて、残りを燻製にすると考えると大した量にはならないだろう。

 

 一応視線でセリーに確認するが、問題ないようだ。

 お菓子詰め放題に挑戦する子供のように血眼になっているミリアを3人で見守る。

 

「×××××」

 

 そんなミリアに助け舟、いや助け桶を出す者がいた。

 店員のおばちゃんが、奥から大きな桶を持ってきて、何か喋ってる。

 話しかけられたミリアは、一瞬喜色満面になった後、俺の顔をちらちら見ている。

 

 おばちゃんがこっちに来ると、

 

「こっち、一杯、入る。

 ×××××××××××」

「えっと、魚を買ってくれるなら、この桶を30ナールで売ってくれると言っていますが……」

 

 人の良い笑顔を浮かべながらのおばちゃんの言葉を、困り顔のロクサーヌが翻訳した。

 

 ……単にミリアが小さい桶に入り切らなくて困っていると思ったのだろうか。

 あるいは実はブラヒム語ペラペラで、俺の言葉を聞きつけてでかい桶を押し売りしにきたのか。

 判断に困るところだな。

 

 ……み、ミリアの視線が痛い。

 

「わ、わかった、買おう」

 

 おめでとう、ミリア。

 寿司屋の岡持ちは担い桶*2に進化した。

 

「これを……全部……」

 

 すまん、セリー。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 買物をした後、少しだけ浜辺を歩くことにした。

 魚市場から砂浜が見えたので、気になってしまったのだ。

 

「ここで地引網を曳いているんだろうか」

「きっとそうだと思います」

 

 以前ロクサーヌから聞いた地引網の話を思い出していた。

 波打ち際には小舟が何艘も引き上げられている。

 ここから船で沖に網を広げて、砂浜から引っ張るのだと思う。

 

「そういえば、ミリアが地引網漁に参加したがっていました」

「……あー、後でコハク商の所に行くから、網元を紹介してもらおうか」

 

 同じ猫人族だし、多分知っているだろう。

 コハクが地引網に引っかかることだってあると思うし。

 

「はい、そうしていただけますか」

「じゃあ、みんなで引っ張るか」

 

 会社に漁協がやってるイベントの案内がきていたことはあったが、参加したことはなかった。

 だが、今はなんかやっても良い気分だ。

 周りと言葉が通じないって、ある意味気楽なんだよな。

 愛想笑いして無理に合わせる必要もないし、悪口を言われても気にならん。

 

「はい、折角なので私もやってみたいです」

 

 ……まあ、全員で参加できるかわからんけどな。

 どれくらいの規模でやる漁なんだろう。

 

「……そんなに大きな砂浜じゃないしな」

「ご主人様の故郷には、もっと大きい砂浜があったのですか?」

 

 と、つい独り言を口に出してしまった。

 

「そうだな、99里あるという砂浜があったな」

「そんなに……想像できません」

 

 ま、実際にはそんなに広くないけど*3

 こっちの1里が日本と同じとは限らないので、そこまでは口にしないが。

 

 話しているうちに砂浜が終わって、磯になっていた。

 

「そろそろ帰るか」

「はい」

 

 振り向くと……あれ、ロクサーヌしかいないじゃないか。

 セリーとミリアは……ずっと後方でなんか話しているな。

 荷物を持っているから、砂の上が歩きにくかったのだろうか。

 我ながら、他人と歩幅を合わせるって経験が乏しいからなぁ。

 

「悪かったな、そろそろ帰ろう」

 

 2人の所に戻った。

 とはいえ砂浜だから、〈ワープ〉が使えるような場所はない。

 4人でまた歩き出す。

 

「魚は早速朝食にするか?」

「夕食、です。

 時間、あると、美味しい、です」

 

 なるほど、ちょっと寝かせた方が美味しい的な感じか。

 

 そういえば釣った魚もすぐ食べると身が硬いと聞いたことがあるな。

 それを言ったら、またミリアに「さすが、です」された。

 今日はミリアから随分尊敬される日だ。

 

 とはいえ、俺の魚知識は漫画とアニメとネット動画くらいなんだが。

 知ったかぶりで話を合わせるのはいい加減にしよう。

 愚者は教えたがり、賢者は知りたがると云うしな。

 

 

 

   ボーデ 城下町

     コハク商

 

 朝食を食べ終えて、コハク商の店にきた。

 セリーは家で燻製作りをやってくれている。

 どう考えても買いすぎた。

 早いところ済ませて、手伝えることは手伝おう。

 

 今日の用件は、ペルマスクで買い込んだ品の売却と、預けていたロクサーヌとミリアの服の受け取りだ。

 店主の孫娘が2人の着替えを手伝ってくれるというので、店の奥へ2人を見送――

 

「あら? 海の匂い……釣りでもなさったんですか?」

「あ、いや、魚を買いにハーフェンにな」

 

 ――ろうとしたところで、猫人店員に尋ねられた。

 

 ……魚臭いって言われなくて良かった。

 買って数日の服をそう言われたら、ちょっと凹む。

 ロクサーヌだって魚臭い時に新しい服を着たくないだろう……ミリアはともかく。

 

「ああ、そうでしたか」

 

 3人が喋りながら店の奥に向かうのを、今度こそ見送る。

 

「商談の前に申し訳ないのだが、ハーフェンの地引網漁に参加してみたいと思っている。

 向こうの網元? のことはご存知だろうか?」

「もちろんですとも。

 先方とは懇意にしておりますので」

 

 コハク商は力強く請け負ってくれた。

 この後はエルフ武器商人の店にも行くことになる。

 だから、その間に紹介状を準備しておくので、「お帰りの前にお立ち寄りください」ということになった。

 この店は冒険者ギルドの隣にあるから、こういう時に便利だ。

 

「では、後は任せる」

 

 話はまとまったので、いつものように商談はハンナとカタリナに任せる。

 ハンナは慎重な手付きで小袋を机の上に置いた。

 

「本日お持ちした品は、ペルマスクより南、カッシームの更に南の海で採れたものとのことです」

 

 そしてコハク商の前でこれみよがしに手袋して、袋の中身を取り出す。

 

「お、おお……」

「真珠でございます」

 

 コハク商がワナワナと手を震わせて触れようとしたところで、慌てて引っ込めた。

 ハンナと同じようにいそいそと手袋を嵌める。

 

 真珠の主成分は炭酸カルシウムで、酸に侵されやすい。

 指の脂で汚れたりすると、表面が酸化されて光沢が失われてしまうのだ。

 日本では小学生でも知っている、なにしろ小学生が教えてくれるからな*4

 

「失礼、手にとってもよろしいでしょうか?」

「ええ、どうぞ」

 

 コハク商は目を見開いたり細めたりしてひとしきり検分した後、ため息を吐いて真珠を戻した。

 

「この穢れなき白い輝き……いやぁ、素晴らしいですなぁ。

 手前も先代が手に入れた品を保管しているのですが、すっかり色褪せてしまいました」

 

 真珠の光沢寿命は精々数十年。

 日本では小学生でも知っている、なにしろ小学生が以下略。

 

 ひとしきり眺めた後、売値は鏡と同じく仕入れ価格の2倍でというハンナの提案に、コハク商は二つ返事で頷いた。

 真珠はペルマスクでも人気の品のようで、仕入れるには随分金貨を積む必要があったとハンナは言っていたが……まあ、深く考えるのはやめよう。

 

 

 

   ボーデ 城下町

    武器防具店

 

 お次はエルフ武器商人の店に鏡を売りに行く。

 

 コハク商は鏡の買い取りを遠慮した。

 多めに鏡が手に入って、武器商人もホクホクだ。

 それだけでいい。

 真珠のことをわざわざ説明する必要はないだろう。

 

 何度もやっている鏡の売買はあっさり終わって、歯ブラシについての相談を受けた。

 

「堅くて丈夫な木を使って細く仕上げたのですが、妻が使いにくいと」

「ええ! そうなんですのよ」

 

 その方が長持ちするし、ブラシのヘッドを小さくした方が奥まで磨きやすいだろうと思ったそうだ。

 見た目のシルエットは日本のものとそう変わらない。

 細くて薄いのはヘッドだけで、柄が小さいから握りにくいなんていうこともない。

 

 眺めていると、カタリナが「よろしいですか?」と断って実際にやってみた。

 すごいな、物怖じしない。

 セールスマンの鑑だ。

 

「確かに奥様の仰る通り……何が違うとははっきり言えないのですが」

 

 ハンナとカタリナに目で問われるが……うーん、厄介だな。

 首を捻りながら「もしかするとだが」と予防線を張った上で、

 

「木質が柔らかい方が()()()が生まれると思う。

 それで力の掛かり方が違うのかも……はっきりとは言えないが」

 

 苦し紛れに捻り出す。

 歯ブラシのやりかたを見せてくれとも言えないしなぁ。

 力加減は当人の匙加減だし。

 

「例えば歯ブラシを持つ指の数を減らして、弱い力で磨いてみると良いかもしれない」

 

 カタリナが俺の言う通りにまた試行して、「確かにそのようです」と頷いた。

 

 とりあえずそれっぽい理屈には感じられたようで、奥さんは何度も頷いた。

 この奥さんは要求が高そうなお客さんの気配がする。

 俺の厄介顧客センサーはビンビンだ。

 

 幸い、そういう対応はハンナ達がやってくれる。

 とりあえず納得したらしい奥さんが、歯ブラシの話だか世間話だか判別つかないマシンガントークを始めて、ハンナが相手をしてくれた。

 そうなると、自然と武器商人と肩を突き合わせる形になる。

 

「やはり、タルエムを使うべきですな」

「……白木は水に弱いと聞いた覚えがあるのだが」

 

 なんかどっか地方の箱物建築で聞いたことがある。

 見栄えの良い白木を使った建築物があっというまにボロボロになって、これだから見た目のことしか考えてない建築家はフンダララ……ってその道の人達が騒いでいた。

 治安の悪いSNSの民の言うことだから、本当かどうかは知らんが。

 

 エルフ武器商人は「さすが、よくご存知で」と感心顔をした後、身を乗り出してきた。

 

「しかし、星辰が揃う夜に伐採したタルエムは格別の品質になるのです。

 宵の(とばり/veil)に晒すことから、ベイルウッドと称されます」

 

 ……えっと、真面目な話をしてる……で、良いんだよな?

 いや、星辰が揃うってアンタ……旧支配者のキャロルが聞こえてくるんだが。

 

「……お信じになられませんか?」

「いやいやいや」

 

 慌てて否定する。

 なんというか、この世界ってシステマチックな感じなので、住民達も基本的にロジカルな印象がある。

 だから、急にオカルトチックな話が始まってびっくりしてしまった。

 

「その……どこまでいっても、歯ブラシは所詮消耗品なのでな。

 そのような大層な素材を使うべきかと言うと……」

 

 ま、まあなんだ。

 多分、特定の時期に伐採すると、気象条件やらなんやらでなんか良い感じになるとか、そんな感じのサムシングでもあるんだろう。

 遠い将来、セリーみたいな者が現れて科学的に解明してくれるはずだ*5

 

「ですが、高く売れるとはお思いになりませんか?」

「それは確かに」

 

 冒険者を雇ってペルマスクまで派遣する話は、相変わらず思うようにいってないらしい。

 少なくとも木材を運ぶのは見切りをつけて、タルエムの製品を売る方向で考えているらしい。

 だから少しでも付加価値をつけたいのだろう。

 オカルトのことはさっぱりわからんが、オカルトビジネスなら理解できる。

 ……いや、こんなこと言ったら悪いかな。

 

 

 

   ソマーラの村

     馬小屋

 

 ボーデで案外時間を食ってしまった。

 

 基本的にソマーラの村人達は農家なので、朝早くから作業して暑い時間は休憩しているようだ。

 時差を考えると、クーラタルを昼前に出ると村では真っ昼間になる。

 時間がずれて仕事中に邪魔をすると悪いから、ベイルに行くのは後回しだ。

 

 というわけで、早めに昼食をすませてロクサーヌとソマーラの村に飛んだ。

 

――フギャー!

 

 そしたらいきなり騒ぎになった。

 以前は馬が1頭のんびりしていた馬小屋が、今日はえらい賑やかだ。

 

「お、おお……いつもはこんなんなのか」

「えっと、元気が良い……ですね?」

 

 成猫が1匹と子猫が4匹、馬の足元に身を隠しながら俺達を威嚇している。

 とりあえず、親離れしたかどうかはわからないが元気に育っているようだな。

 

 一方で、馬は普段通り落ち着いたものだ。

 無言で口をモシャモシャさせながら、俺に一瞥をくれただけでそっぽを向いた。

 

 ……馬って、臆病だとか好奇心旺盛だとかって聞くけどなぁ。

 いきなり自宅(馬小屋)に出現する人間に対して、思う所はないのだろうか。

 

――ブフゥ~~~

 

 ……鼻を鳴らしてなっがい溜息を吐きやがった。

 はいはい、邪魔して悪かったよ、サーセン。

 

「……ロムヤとビッカー達を探すか」

「そうですね」

 

 馬小屋を出て広場に行くと、そこでも騒ぎになっていた。

 だがいつかのように剣呑な感じはしないので、ロクサーヌと顔を見合わせてから近寄ることにする。

 

「ああ! ミチオさんか!」

「おお、どうもミチオさん」

 

 ロムヤとビッカーは広場の中心にいた。

 揃って俺達の格好を見て、「見違えましたね」と褒められた。

 知り合いに新しい服を見られるのは、なんとも気恥ずかしいな。

 

 広場を見渡すと、もう顔見知りになった自警団の若者達の他に、村人達もいるようだ。

 

 

   スキル結晶

    ウサギ

 

 

 そして若者が得意気に掲げていたそれを、咄嗟に〈鑑定〉してしまった。

 ――欲しい! ……という気持ちは堪えて、

 

「もしかして、スキル結晶かな?」

「ええ、若いもんが引き当てたようで……××××××××!」

 

 ロムヤが何やら一喝すると、自警団の面々は俺に会釈をして、そしてロクサーヌのことを名残惜しそうに見て、去っていった。

 

「すみません、騒がしくしてしまいまして……」

「いや、こちらが突然来たのだしな」

「いえいえ、本日は子猫のことでしょうか?」

 

 その通りなのだが、ウサギのスキル結晶となると話は変わってくる。

 〈詠唱中断〉に必要なスキル結晶だから、是非欲しい。

 次に手に入ったら、ロクサーヌのダマスカス鋼の剣につけると決めている。

 

「子猫の件はそうなんだが……あのスキル結晶は、もしかして村の周りのスローラビットからドロップしたものだろうか?」

「ええ、ついさっき出たそうで」

 

 どうやら、最近は空き時間を見つけてスローラビットを狩っているようだ。

 農作業が忙しいから、ベイルの迷宮まで行く時間がないのだろうか。

 そう言うと、ロムヤ達は揃って苦笑いした。

 

「いやいや、その逆ですよ」

「そろそろ春の農作業も一区切りですから、若者たちが暇を持て余しているという調子でして」

 

 なるほど、農閑期というやつか。

 ベイルの町まで行けば迷宮があるが、自警団がベイルの町に行くのは、市が立つ5日に1回だ。

 暇つぶしというには危険なことをしてると思うが、これが若さか。

 わ~か~い~ちぃから~と~♪*6

 

「……つまり、これからもスローラビットは狩る、と?」

「そりゃあまあ、村の周りにいる魔物ですんで」

「そうなるでしょうね」

 

 俺が何を言いたいのかわからないようで、2人は首を傾げつつ頷いた。

 

 スキル結晶は欲しいが、1つだけじゃ足りない。

 そのために今俺が考えたのは、今後も継続的にウサギ狩りしてもらうこと、そしてそのドロップアイテムを流してもらうことだ。

 

 ウサギの皮は、帝都の服屋に持ち込めばギルドに売る値段の倍で売れる。

 100個単位でしか売れないが、俺の場合はハンナのアイテムボックスもあるから余裕がある。

 魚も良いが、ウサギの肉もたまには食べたい。

 スキル結晶は言わずもがなだ。

 可及的速やかに2個、できれば3個、最終的には5個必要になる。

 

 是非その若い力を有効利用させていただきたい。

 

「……というわけでな、スキル結晶の値段は応相談だが、それ以外のドロップアイテムはギルドに売るより高く買うぞ。

 そうだな、5割増でどうだろう?」

「いやぁ、そりゃ貰いすぎですよ。

 あいつらじゃ100個のウサギの皮を持つのに数人がかりだし、それで帝都に売りに行ったら足が出まさぁ」

「ええ、ええ、大恩あるミチオさんにそんな」

 

 ……予想外の所で遠慮されたな。

 探索者Lv50のロムヤなら余裕でアイテムボックスに入れて帝都に売りに行けるだろうし、それくらい出すのが筋かと思ったんだが。

 指導者ポジであまり直接手は貸さない方針なのかもしれない。

 

「ではまあそっちの値段も応相談ということで、スキル結晶を売ってもらうのは問題ないかな?」

「はい、先程も私がベイルの商人ギルドに売りに行くという話をしていたところですので」

 

 ベイルでは2と7が付く日に市をやっているが、それに合わせて商人ギルドでも競りをやっているそうだ。

 クーラタルの商人ギルドのような規模ではないが、町で迷宮が出現してからはスキル結晶の出物もあって、そこそこ盛況らしい。

 

 ……うっかりしてたな。

 折角ビッカーと知り合ったのに、そこから仕入れることは頭になかった。

 

「では商人ギルドで前回の落札額を確認し、その値段でお譲りするというのは如何でしょうか?

 ギルド神殿で鑑定もできますし」

「あー……その、決して侮辱するわけではないが、この村でスキル結晶の偽物を用意できるとは思えんのだが」

 

 ロムヤが「そりゃそうだ」と、野太い声で笑った。

 もし俺が来ることを予期して一芝居打っていたのなら、もう見物料払うわ。

 

「それと、最初の取引は現物交換ということでどうかな?

 実はあれから迷宮で盗賊に襲われてな、その装備品が余っている」

 

 これは元々譲るつもりだった。

 店で売っても4分の1の値段でしか売れないし、大した装備はなかったから懸賞金に比べると端金にしかならない。

 とはいえ、まともな防具もしていなかった村を襲った盗賊連中よりは上等な装備をしているし、ここなら使い道があるだろう。

 

 とりあえずそれを見てからということで、4人でビッカーの店に移動した。

 そして「収穫物を洗う所で申し訳ないですが……」と言われて作業台に装備品を広げる。

 

 レイピアと鋼鉄の盾……念の為、「これはほむらのレイピアではないが」と前置きしてから置く。

 狂犬のシモンの装備品だ。

 防具は使い物にならないほど損壊していたので、死体と一緒に迷宮で処理した。

 

 次に兇賊のハインツの装備品だった鋼鉄の剣と硬革装備。

 他に鉄の剣3本、硬革装備がいくつか。

 

「こりゃあ……随分大きな盗賊団を相手にしたようですね」

 

 まあ、正確には盗賊団2つ分だしなと思いながら、更に追加で置いていく。

 最後は銅の剣と皮装備一式が8セットだ。

 感心顔だったロムヤの顔が引き攣った。

 

「いやいやいやいや」

「こんなにいただいては釣り合いがとれませんよ」

 

 揃って遠慮する2人に、「そう言わずに」と宥める。

 

「こっちがウサギのドロップアイテムが欲しくて依頼するんだ。

 装備を強化して作業効率が良くなるんなら、それはこっちにも都合が良い」

 

 まずは理詰めで話すと、2人は顔を見合わせてのろのろと頷いた。

 

「それに盗賊は実際手強くてな、ほむらのレイピアがなければ危なかった。

 そうだろう、ロクサーヌ?」

「はい、ロムヤさんのおかげで助かりました」

 

 ロクサーヌがお辞儀をすると、ロムヤが「いやいや」と狼狽えた。

 理と情のダブルパンチ、いや美少女のお辞儀付きのトリプルパンチだ。

 ……だからほむらのレイピアはもうしばらく貸してほしい。

 

 装備に火属性を付与できるスキル結晶は、ランク3――三十三階層以降に出てくるシザーリザードからドロップするらしい。

 他の属性はランク2の魔物から手に入るのに、だ。

 だから供給が少ないし、他の属性より弱点になる魔物が多いから人気も高いようだ。

 正直、いつ返せるかわからん。

 

「わ、わかりましたって!

 ですがちぃっと話がデカすぎるんで、なあ?」

「え、ええ、村長に話を通させてください」

 

 2人は大慌てで外に駆け出していった。

 

 

*1
原作道夫君は桶を持たずに買物に来ていましたが、令和の日本人である道夫さんはマイバッグ標準装備です。

*2
 江戸時代、神田上水や玉川上水等から汲んだ飲用水を売る『水売り』もしくは『水屋』が担いだ桶のこと。

 天秤棒の両端に、それぞれ1斗(18リットル)の桶を担いでいたそうです。

*3
 千葉県東部に広がる九十九里浜の実際の長さは約60kmなので、1里を約3.9kmで計算するとおよそ15里となります。

 ただし、江戸時代に1里=36町と定められる前は1里=6町=654mだったとされるので、その計算だと実際約99里になります。

*4
 名探偵コナン第76話『コナンvsキッド』にて、真珠の正しい取り扱い方法を知っている人間か否かを見極めることが、怪盗キッドの変装を見破るきっかけとなった。

 当該回はコナンが怪盗キッドと初対決した回として有名。

*5
 タルエムがどんな木材をモデルにしているかわからないので、ここでは白木材のヨーロピアン・スプルースを想定しています。

 アコーディオンギター等の楽器に古くから用いられていた木材ですが、新月に伐採されたものを『ムーンウッド』と呼び、燥性・耐久性・音響特性が高まると言われています。

 しかし困りました、作中世界にはどうやら月が存在しないようなのです。

 ということで、それに相当する概念を創作(でっちあげ)しました。

 なお、ムーンウッド理論は科学的見地からは否定的に見られているそうですが、日本にも『闇伐り材』などの似たような概念が存在するそうです。

*6
『若い力』は、加賀百万石で知られる石川県金沢市で開催された第2回国民体育大会(石川国体)の際に、スポーツの歌として制作された楽曲である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。