加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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クレーマー

 

   ハーフェン 砂浜

 

 未明にクーラタルを出発(ワープ)したのだが、ハーフェンはすっかり夜が明けていた。

 冷たい潮風が眠気を洗い流すようだ。

 早起きは三文の徳というが、実際良い気分だな。

 

 ……などと言っていられるのは、砂浜に着く前までだった。

 

「寒いな」「寒いです」

 

 俺とセリーの声がハモった。

 遮るものがなにもない砂浜で立っていると、一周回って気怠くなってくる。

 

 ちょっと早く来過ぎたようだ。

 地引網は漁師が夜が明ける前に沖に網を設置して、ロープを岸まで持ってくるそうだ。

 当然、網を引き揚げるのはその後だ。

 クーラタルと時差があるから、こっちの夜明けの時間なんかわからんわけで……まあ、多少待ち時間が発生するのはどうしようもない。

 

 それらの支度を楽しそうに見ているミリア(元気っ娘)を眺めながら待っていると、やがてロープが回ってきた。

 俺達4人は、一塊で片側のロープを引っ張ることになっている。

 それも先頭でだ。

 

 これは接待モードとかではなくて、網の両側をできるだけ同じペースで引っ張るために人員を調整する必要があるからだそうだ。

 実際引き始めたら、後ろの方でそういうリソースのやり繰りをするわけだな。

 初参加の俺達に、走りにくい砂浜で「あっちいけ」とか「こっちゃこい」とか言っても手間取るだけだろうから、先頭の方に固まっていて下さいというわけだ。

 ……いやまあ、やっぱり接待かな、お客さんだ。

 

「あー……背の順で引っ張ったほうが良さそうだな」

「えっと、そうですね」

 

 ロクサーヌが俺の背後を見て同意した。

 後ろにいるのは、朝焼けを照り返す三角筋を持つ巨漢の猫耳漁師だ。

 彼の前にセリーがいたら、高低差でセリーが宙づりになりかねない。

 

――×××××××××!

 

 セリー、ミリア、ロクサーヌ、俺の順番でロープを掴み直した時、網元ががなり立てる声が浜辺に響いた。

 

「海の恵みを引き寄せろ、と言っているみたいです」

「なるほど、では引き寄せるか」

 

 作業用の皮のグローブを確認する。

 準備は万端だ。

 

――××! ××! ××!

――××! ××! ××!

 

 みんな何か叫びながら引いているな。

 綱引きの「オー、エス!」みたいなやつだろう。

 俺も声を合わせてみると……うん、この方が手応えを感じるな。

 

――××! ××! ××!

――××! ××! ××!

 

 ……出張先でスーツケースのキャスターがブッ壊れた時を思い出すな。

 えらい苦労をしてホテルまで運んだ記憶がある。

 ホテルのフロントが気を利かせて、「帰りは宅配便で送りましょうか?」と言ってくれなかったら、帰りはどうなったことか……。

 

「ご主人様、もう良いようです」

「……おっと、すまん、考え事をしていた」

 

 既に網は波打ち際に引き寄せられていて、遠目に見てもエグい量の魚がひしめいていた。

 これは大漁なんじゃなかろうか。

 周囲の反応を見ようと振り向くと……誰もいないんだが?

 えーと、さっきの猫耳漁師は……向こうのロープに移動してるな、肩で息をしながらorzしている。

 

「……やりすぎたか」

「いえ、ご主人様であれば当然です」

 

 ロクサーヌがフンスと鼻息を吐いた。

 今は力仕事だしと思って、英雄の〈腕力中上昇〉を遊び人に設定して、更に剣士に農夫に賞金稼ぎと腕力上昇効果があるジョブで固めているのだが、

 

 

   キャラクター設定

 

   【ステータス】

    腕力上昇 99

 

 

 ここまではさすがにやりすぎだったかもしれない。

 

「魚、選び、ます!

 お願い、します!」

 

 ミリアが大はしゃぎで桶を抱えながら、俺の手を掴んだ。

 ……ああ、俺の手が一番大きいからか。

 ロクサーヌが読んだ本によると、参加者は手のひらより小さい魚が貰えるらしいからな。

 

 しかも、追加の裏ルールがあるらしい。

 今はいわば、魚が入った(あみ)を挟んで2組に分かれて(つな)引きをしたわけだが、運動会の綱引きのように勝敗はつかない。

 同時に引き揚げないと意味がないからな。

 だが、最終的により少ない人数で網を曳いた組の方が、より貢献度が高いということで先に魚を選べるのだそうだ。

 

 なるほど、実利とエンタメが両立してるな。

 感心していると、網元がにこにこ笑顔でこっちにきた。

 

「××××××××××××」

「お見事でございました、さすがは領主様が認めた冒険者の方であると、ご主人様を褒め称えております」

 

 ロクサーヌが尻尾をぶん回しながら翻訳してくれた。

 

「あー……そこのドワーフのセリーは、鍛冶師だからな」

 

 セリーには悪いが、被害担当艦を務めてもらおう。

 さすがに人として有り得んレベルの結果を出してしまった気がするし。

 

 網元も「どうぞどうぞ」ということなので、ありがたく選ばせてもらおう。

 といっても、ミリアが選んで俺が片手で大きさを測るだけの簡単なお仕事だが。

 

――××× ×××

――××××

 

 ……なんか村人達が俺達を見てなんか噂してるな。

 別に悪意とかは感じないが、

 

「……別に責められてるわけじゃないよな?」

「えっと、はい、ご主人様に恐れ入っているようですね」

 

 ロクサーヌに確認するが……うーん、なんとなく煮えきらない言い方だな。

 本当にそれだけだろうか? ロクサーヌが気を使って伝えていないのでは……と訝しんでいると、

 

「その……ご主人様のことを『桶いっぱいの人』と呼んでいるようです」

 

 なんだそりゃ。

 

 

 

   ボーデ 城下町

     青果市場

 

 ハーフェンで潮風に洗われた後は、ボーデで代用ワサビ探しだ。

 一旦帰宅して魚を置いて、下処理をするミリアに代わってカタリナを連れてきた。

 ボーデでコハクと装備品以外の買物をするのは初めてだが、結構な盛況だ。

 

「今季のベリーの収穫が始まっているようです。

 良い時期に来たかもしれません」

 

 人混みを見たカタリナが声を弾ませている。

 なるほど、そういうのもあるのか。

 クーラタルより自然豊かな感じがするしな。

 

「ここにしかない品もあるだろう、色々買い込んでみよう」

 

 旬のものを食べるというのは、なかなかの贅沢だよな。

 果物のソースで魚を食べるのも良い……ソース作りが大変そうだが。

 

 真っ赤なもの、青いもの、黒いものと、カタリナが色とりどりのベリーを選んでいく。

 比べてしまうと地味だが、山菜の類も結構ある。

 海の幸に山の幸、素晴らしい贅沢だ。

 

「あっ、御主人様、こちらがペパロットです」

 

 そんな山の幸の中に、俺が求めるツーンと辛いというペパロットがあったようだ。

 

 これは……根じゃな?

 貧弱な山芋というか、太めのゴボウというか、ただの根菜だ。

 まあワサビも根菜だけども。

 触ってみた感触も、見た目の印象通りだな。

 

「確かに爽やかな香りがしますね」

「……おお、確かに」

 

 だがロクサーヌに言われて茎の断面に鼻を近づけると、ワサビみたいなツンとした香りがした。

 ……あれ、これ西洋ワサビ(ホースラディッシュ)じゃね?

 そうかそうか、ローストビーフに必須と言われるホースラディッシュなら有っても不思議じゃないか。

 

 そうだ、今夜は天ぷらにしよう。

 海の幸と山の幸の天ぷらだ。

 ハーブ類も試してみようか、大葉の天ぷらみたいなもんだろう。

 

「今夜はこれを使って、夕食は俺が作るとしよう」

「楽しみです、お手伝いしますね」

 

 果物のソースの作り方はわからんが、天ぷらなら大丈夫だ。

 そして味付けは、すりおろしたホースラディッシュと塩でさっぱりわさび塩……良いじゃないか良いじゃないか。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 買物を済ませて、ついでにエルフ武器商人の所に行くことを思いついた。

 セルマー伯を援助するために、ルークが防具を集めるのに奔走させられていたのだ。

 当然、地元の商人にも声は掛かっているだろう。

 

「同じように武器製造で稼げるんじゃないかと思うんだが、セリーもそれで良いか?」

「はい、ルーク殿の依頼分だけでも、まだ余裕がありますので」

 

 ということなので、武器防具店に向かった。

 

 

 

   ボーデ 城下町

    武器防具店

 

 早速武器商人に話してみたところ、大喜びで素材を売ってくれた。

 その時ボソッと、「そういえばドワーフがいたんだった……」と呟いているのが聞こえて、セリーが耳をピクつかせていた。

 

 ……うん、まあ無理ないよな。

 エルフ武器商人とは、ペルマスクとの交易とか石鹸とか歯ブラシとかの話ばっかりしているし。

 およそ冒険者パーティーと武器商人がする話題ではない。

 

 それで用事は済んだのだが、武器商人の奥さんがまた皆と歯ブラシの話を始めたので、こっちも武器商人と冒険者らしからぬ世間話をしていくことにする。

 ペルマスクとの交易については、解決に向かっているようだ。

 微妙に一歩退いていたコハク商が、乗り気になって冒険者に払う給金の負担率を上げる気になったらしい。

 

 元々、ペルマスクでの取引はコハクの利益率が圧倒的だった。

 だがコハクは嵩張らないという利点があり、わざわざ大人数の冒険者パーティを組む必要性はあまりない。

 大量に運ばないと採算がとれないタルエムとは話が違う。

 

 その辺りのギャップが、コハク商とエルフ武器商人の熱量の差になっていたわけだな。

 そもそもコハク自体、そんなに量が採れるわけでもないようだし。

 変わってきた理由は、恐らくこないだ真珠を持ち込んだからだろう。

 

 そして武器商人の方も、嵩張る材木ではなく歯ブラシなどの加工品を持ち込むことを考えているようだ。

 

「そこで、ミチオ様に以前コハクを売った方々との橋渡しをお願いしたいのです。

 ハンナ殿からは、向こうの有力者の方々と取引をしたと聞いてはおりますが」

「あー、交渉はハンナに任せていたのでな。

 また後日ということで頼めるか」

「はい、それはもう。

 ……ミチオ様も、石鹸を向こうに持ち込むことをお考えなのでは?」

 

 エルフ武器商人が上目遣いに探るような視線を向けてきた。

 うん、まあハンナはそこまで考えているだろうなぁ。

 俺はQOLを上げたくて思いついただけだが、商人のバイタリティは大したもんだよ、まったく。

 

「ところで公爵閣下の様子は……相変わらず、か」

「ええ、はい、ご多忙であらせられるようでして……」

 

 公爵のお墨付き、もしくは公爵夫人でも良いが、そういうものがあると大分話が変わってくる。

 

 あと考えすぎかもしれないが、俺は元々公爵の紹介状を持って鏡を買いに行き、同じく紹介されたコハクを転売して、ついでにタルエムを売ったわけだ。

 歯ブラシもここで作っているのだから、ハルツ公領の産物と言える。

 だが、俺の家で作っている石鹸はそうではない。

 ……嫌なんだよなぁ、「あいつは公爵様の名前を使って商売してるぞ」とか言われんの。

 

 公爵は多分気にしないと思うが、改めて「こういうものを売りに出すので」と筋を通しておきたいところだ。

 

「近頃は、他家の結婚式などにご出席なされているようです。

 今の時期は多いですから」

 

 農閑期だから、いわゆるジューンブライドという季節なんだろうな。

 梅雨がある日本には根付かなかった文化みたいだが。

 

「いわゆる、外遊というやつか」

 

 言ってから、日本ではなぜかイメージの悪い言葉だから謎翻訳が暴走しないか心配だったが、武器商人は「はい、そのようで」と神妙な顔で頷いた。

 結構深刻そうな様子だな。

 エルフの諸侯であるセルマー伯のことを心配しているのだろう。

 選挙で少数政党が議席を減らしそうだ、みたいな前評判が報道されたら、その党員はきっとこのような顔をするのではないだろうか。

 

「しかし、今までそうした式典には、あまりお出でにならなかったのですがね。

 なにしろ領主様はせっか――あ、いやその」

「……行動力のある御仁だから」

「左様でございます。

 我らが領主様は、行動の人でございます」

 

 小市民が2人、無駄にビビって無駄に安堵するという無駄そのものな会話をしてしまった。

 領民が異種族と一緒になって領主(専制君主)の悪口を言っていた……なんて、割と洒落にならんからな、お互いに。

 

 多分、セルマー伯の援助のためになんやかんや根回しとかしてるんだろう。

 ……いや、セルマー伯爵家か、まあ関係ない関係ない。

 

――ギィ

 

 そんな話をしていると、店のドアが開いて客が入ってきたようだ。

 おや、獣人だな……多分狼人族だ。

 

 この店でエルフ以外の種族を見かけるのは、初めてだと思う。

 エルフ武器商人は元々レイシストだったらしく、この店も本来は異種族お断りらしい。

 コハク商の孫娘が、以前そう言っていた。

 

 今は宗旨替えしたのか、俺だけ特別枠に入ったのかは知らん。

 だが、俺がいるのに「Sorry, Elf only.」とは言えないだろう。

 エルフ武器商人が俺に「失礼します」と会釈をして、客の相手をしに離れた。

 

 ……さて、まだ朝食も済ませてないのに、すっかり長話してしまったな。

 そろそろ帰ったほうが良いだろう、とロクサーヌ達の方を見ると、そのロクサーヌが驚いた顔で足早にやってきていた。

 

「ご主人様、どうも知り合いがいるようでして」

「店主殿、ミチオ・カガという人間族の冒険者を知ってはおらぬか?」

 

――「えっ?」「はっ?」

 

 エルフ武器商人が口をポカンと開けた間抜け顔でこっちを見ていた。

 多分俺も同じ顔をしていると思う。

 

 店に入ってきたのは、推定狼人族の6人パーティーだった。

 獣戦士4人、冒険者1人、僧侶1人だな。

 ……ハァ? 獣戦士Lv99!? きゅうじゅうきゅう!!?

 

 驚いて反応が遅れてしまった俺に、武器商人の視線を辿るように冒険者の男が寄ってきた。

 

「……失礼、もしや貴公がミチオ・カガ――」

「おーほっほっ!

 なんとまあ、ロクサーヌではありませんこと」

 

 その冒険者を押しのけて、金髪縦ロールのお嬢さんが高笑いを上げながら言い放った。

 じょ、情報量が多い。

 

 遮られた冒険者は一瞬だけ俺に黙礼すると、しらっとした顔で後ろに下がった。

 そのサラリーマンっぽい仕草を見てると、なんとなく落ち着く。

 

「……ご無沙汰しております」

 

 ロクサーヌが硬い声を出した。

 あまり歓迎したい相手ではない感じだな。

 

「ホント、久しぶりだというのに、相変わらず……な、なかなか見事な出で立ちですわね。

 フン! 羽が美しければ鳥も立派に見えるとはこのことかしら!」

 

 よくわからんが、馬子にも衣装みたいな言い回しなのかね。

 ドリル女はロクサーヌにちょっと見惚れた後、プリプリと怒り出した。

 ……お前はレイの華麗さに心奪われて嫉妬心を抱いたユダか。

 ケバいところは似ているかもしれない。

 

「そちらはお変わりもなく」

「以前のわたくしとは思わないでいただけます?

 半年前から更に強く、美しくなりましてよ!?」

 

 この女は獣戦士Lv29だから、弱くはないだろう。

 それにまあ、ブサイクでもないよ、うん。

 美人すぎるよりちょいブスの方がそそるっていうマニアもいるし、需要はあると思う。

 

 っと、ミスドリラーよりもこっちが気になるな。

 

 

   サボー・バラダム

   <♂・42歳>

   獣戦士:Lv99

    装備:激情のダマスカス鋼剣

      :耐火のダマスカス鋼額金

      :耐眠のダマスカス鋼プレートメイル

      :耐風のダマスカス鋼ガントレット

      :駿馬のダマスカス鋼デミグリーヴ

      :身代わりのミサンガ

 

 

 『激情』はなんだったか……〈攻撃力上昇〉か〈攻撃力2倍〉だったかな?

 後でセリーに確認してみよう。

 

 属性耐性は火と風か。

 火属性は火花や高温、風属性も衝撃があるから、なんとなく回避が難しい気がする。

 そういう意味で、水や土より優先しているのかもしれんな。

 

 そして状態異常耐性は眠りか。

 ビープシープの催眠攻撃しか知らないが、あれは多分音速だから回避不能だろう。

 だから装備で対策するというのはわかりやすい。

 

 ……実はちょっとだけ、セリーのハルバードに〈催眠〉を付与したことを後悔している。

 あれから眠らせてくる魔物と戦っていないから、問題にはなっていないが。

 

 で、駿馬は〈移動力増強〉だな。

 回避は自前でなんとかして、間合いを装備で広げるというのは俺と同じ思考だ。

 うん、なかなか参考になるな。

 

 そんな風に観察していると、Lv99と目が合って……フンッと鼻を鳴らされた。

 眼中にないって感じだな、俺は最強なんだよって顔に書いてある。

 

「おい、それで――」

 

 サボーが口を開くと、ドリル女がピタリと黙り込んだ。

 ロクサーヌの様子からすると、この女は身分が上っぽいが……親子なのかな?

 

「――お前が狂犬のシモンを討伐したミチオ・カガ、か?」

 

 ……おっと、これは。

 

「誰に何を聞いたのか知らんが、ここでは迷惑になる。

 店の外に出ないか?」

「フン、良いだろう」

 

   ※   ※   ※

 

「確かに私はミチオ・カガという名だが、そちらは?」

 

 店の前で向かい合ってそう言うと、ドリルお嬢様が手の平で弧を描くように動かして、最後に指先を自らに向ける仕草をした。

 なんかお嬢様キャラがよくやるあれだ。

 そして、

 

「わたくし達は狼人族の中で最も強い、バラダム家の者ですわ」

 

 ……んなもん知らんが。

 

「シモンはエルフ如きの風下に立った狼人族の面汚しとはいえ、かつては狼人族でも1、2の使い手と言われた男。

 それを討伐したのが人間族と聞き、一体どのような顛末かとお話を伺いたいと思いまして」

 

 ドリル女は一応こっちに配慮した口の利き方をしているが、どう見ても武勲話を聞きたいみたいな感じじゃないなぁ。

 こう、なんとか粗探ししてやりたいみたいな雰囲気を感じる。

 なんのかんのと言っても、自分の出身種族の強者が他種族に負けたというのが気に入らないということかね。

 

「まあ、シモンを一騎打ちで倒したのはこのロクサーヌだが」

 

 だから同じ狼人族のロクサーヌが倒したと言えば、狼人族至上主義者っぽいこの輩の溜飲も下がるかと思ったんだが……、

 

「……ほほほ、面白い冗談ですわね。

 ()()()()()()()()()()その女を奴隷に落としたのが半年前。

 なかなか良い主人に出会えたようですが、それだけの期間でそんなに強くなれるはずがありませんわ」

「そんな……、あなたが……」

 

 ロクサーヌが絶句している。

 そういえば、ロクサーヌを買う時にアランが言っていたか、『狼人族の中でも有力な()()家に睨まれた』と。

 くそっ、名前を聞き出しておくべきだった。

 

「いとも容易いことでしたわ。

 ロクサーヌがひとの男に色目を使うビッチなのがいけないのです」

「使ってません」

「口ではそんなことを言っても、態度を見れば明白ですわ。

 どれだけの男を手玉に取ったのやら……ロクサーヌを見る男の視線が違うのだから、すぐにわかりましてよ」

 

 ドリル女はひび割れたような笑みで目を血走らせながら、「その上わたくしの婚約者まで」と呻くように言った。

 ロクサーヌはすげなく「知りません」と一蹴する。

 

「そんな話はどうでもいい。

 ロクサーヌを奴隷に落としたというのは、どうやってだ」

 

 ロクサーヌが何か罪を犯したわけではないことは、彼女が盗賊のジョブを持っていないことからも明らかだ。

 そしてこの女も獣戦士だから、盗賊に落ちているわけではないだろう。

 ということは、無実の人間を意図的かつ合法的に奴隷にすることができることになるが、

 

「ああ、色々手を回して、ロクサーヌの家に収入が行かないようにしただけですわ」

 

 と、涼しい顔で言いやがった。

 税金を払えないようにして、それで彼女の保護者がロクサーヌを売らないといけないように追い詰めたのか、なんだそりゃ。

 薄々思ってはいたが、盗賊落ちシステムには重篤な欠陥がある!

 

「あなた、わたくしとロクサーヌの決闘を認めるなら、わたくしの方から決闘を申し込んで差し上げてもよろしくてよ」

「……どういうことだ?」

 

 話がめまぐるしすぎて、ついていけん。

 そこにセリーが助言してくれた。

 

「決闘を申し込めるのは自由民だけです。

 ただし、決闘は申し込んだ本人がやらなければなりません。

 申し込まれた方は代理を立てることができます」

 

 つまり、ロクサーヌは決闘を申し込めない。

 申し込めるのは俺だけだが、その場合代理を立てることが、つまりロクサーヌを代理にすることができないと。

 

「……いや、俺が片付ければそれで済む話なのでは?」

「あら? それも良いですけれど」

「ご主人様、やらせてください」

 

 いや、まあそれでも良いのだが。

 

「どんな卑怯な手を使ったか知りませんが、今度は半年前と同じ引き分けにはなりませんわ。

 半年の間にわたくしも強くなっています。

 小生意気な雌犬など、今度こそ叩き潰して差し上げますわ」

 

 ……この女の自信がよくわからんな。

 こないだブラックダイヤツナを周回して、ロクサーヌは獣戦士Lv33になっている。

 いやレベルのことはわからないにしても、最初に出会ったLv6の頃から普通に強かったんだが。

 

「大丈夫か?」

「負けません」

 

 ……ん、まあ信じるか。

 ロクサーヌは狼人族の中でも並外れているはずだ。

 というか、ロクサーヌが狼人族の標準スペックなら、帝国の支配種族が狼人族じゃないのがおかしいと思う。

 

 しかし、折角の休日にこんな厄介クレーマーにエンカウントするとは、なんて日だ。

 ああ、それにしても……腹が、減った。

 




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