加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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決闘

 

   ボーデ 登城道

 

 まず、カタリナは荷物を持たせて家に帰した。

 これに関しては、ずっと様子を窺っていたらしいエルフ武器商人が快く引き受けてくれた。

 

 そして決闘には騎士団の許可が必要になるらしい。

 ボーデで騎士団がいるところと言えば、当然宮城だ。

 というわけで、さっさと済ませたいので登城道を足早に登っている。

 

「バラダム家というのはどういう連中なんだ?」

「えっと、彼女が言うように、狼人族で1、2を争うと言われるほどの家ですね」

 

 ロクサーヌが前方を進む金髪ドリルを見ながら言った。

 そしてそっと振り向きながら、

 

「あのサボーは、獣戦士で最も強いと言われています。

 危険な男です」

 

 サボーは俺達を見張るように、パーティーから離れて後ろからついてきている。

 

「サボーというのはあの女の父親なのか?」

「いえ、叔父か何かだったかと。

 当主である父親は別の者です」

 

 なるほど、ハルツ公爵家におけるゴスラーのような、一族の有力者というやつか。

 それがパーティーを組んでシモンの敵討ち……というのも変な言い方だが。

 

「連中はシモンを自分で倒して、狼人族で一番になりたかったということかな」

「恐らくそうだと思います。

 もしかすると、元々はシモンを探しにここに来たのではないでしょうか?」

 

 ありそうなことではある。

 それより問題は……と、俺と同様に気付いたらしいセリーが、そっと口を開く。

 

「ご主人様、このまま城に行って大丈夫でしょうか?

 騎士団がご主人様のことを漏らしたなら、行く先は敵地かもしれませんが」

「大丈夫……だと思う」

 

 希望的観測だろうか?

 そうは思わない、連中はロクサーヌがシモンを倒したことを知らなかったからな。

 インテリジェンスカードを届けた時に、公爵とゴスラーにはそのことを話してある。

 

 それにセルマー伯の件がまずかったなら、ルークがとっくの昔に行方不明になってると思うんだよな。

 大体あれはエルフの種族的な醜聞になるらしいし、狼人族の有力者を巻き込むのは筋が合わない。

 

 そのルークが俺のことを話した可能性は、さすがに考えたくない。

 兇賊のハインツと狂犬のシモンが討たれたこと、連中がセルマー伯爵家から結納品を盗んだこと、そこまでは噂を広めただろう。

 セットで俺のことまで話していたなら、俺があいつを行方不明にしてやるところだが……ルークがそんなことをする必要性はないはずだ。

 彼にとっては友人と因縁のあるセルマー伯の醜聞をバラ撒くことに意味があるのであって、指輪を誰が取り戻したかはどうでもいい話だからだ。

 

 じゃあ誰なんだってなると、あとはセルマー伯くらいなんだが……自分の醜聞だし、違うと思うがなぁ。

 

「ま、もしもの時はすぐに……な」

 

 あるとしたら、騎士団員の暴走とかか。

 城に公爵もゴスラーもいなかったら、危険だと思おう。

 

「ご主人様のことは私とセリーがお守りします」

 

 ロクサーヌの頼もしい言葉に、セリーもしっかり頷いた。

 そのためにカタリナを先に帰したんだ。

 

 ……それにしても、いつぞやのように町に下りる騎士団員がいれば、捕まえてさっさと終わらせるんだがな。

 こういう時には遭遇しない。

 

「……私、叔母の家族に迷惑をかけたかもしれません」

 

 一通り話し終えたので黙って歩いていると、ロクサーヌがポツリと呟いた。

 

「迷惑をかけたのはロクサーヌではない、あの連中だ」

「そうですよ、ロクサーヌさんが気に病むのは道理に合いません」

 

 こういう話で『道理に合わない』という言い方をするのが、なんとなくセリーらしいなと思う。

 同じことを、ロクサーヌも思ったのかもしれない。

 クスッと笑って、

 

「ありがとうございます、ご主人様、セリー」

 

 

 

   ボーデ 宮城

 

「それでは、ここで待っていなさい」

 

 城の前に着くと、まずドリル女が1人で中に入った。

 しばらく待つと、ゴスラーと一緒に出てきた。

 

「ハルツ公騎士団のゴスラーである。

 彼女が自由民であることを確認した」

 

 ゴスラーは俺達を見てほんの少しだけ眉を上げたが、それ以上は表情を変えることなく宣告した。

 中立な第三者の立場でないとまずいのだろう。

 彼の宣告を受けて、ロクサーヌが「はい」と前に一歩進み出た。

 

「そのほうがロクサーヌか。

 決闘に異議はないか」

「ありません」

 

 ……やっぱり、連中とゴスラーがグルになってるとか、そんな様子はないな。

 そんな謀略を巡らすなら、むしろフレンドリーな態度で油断を誘うような気がする。

 ゴスラーの態度は、どこまでも事務的だ。

 

「それでは申し出に従い、自力救済の原則に則って決闘を認める。

 被指名者に誰か保護する者がいれば、代理の者とすることができる。

 代理の者を立てるか?」

「いいえ」

 

 ここでゴスラーがちらっと俺を見た。

 もちろん、彼女に代理は不要だ。

 

「相手方は非公開の場で今すぐの決闘を望んでいる。

 それで良いか?」

「日にちを延ばして、また卑怯な手でも使われては困りますからね」

 

 ドリル女の中では、シモンを何らかの卑怯な手で倒したということで決定しているようだ。

 ロクサーヌが倒したと言ってしまったことが、この女のプライドを随分と刺激してしまったようだ。

 それじゃあなんだ、いっそ「そうでゲス、卑怯な手段で倒したんでゲスよ」とでも言って、ゲス笑いでもしてやれば良かったってのか。

 やってられっか。

 

 ……鍛冶師のスキルを目眩ましに使ったことは卑怯な手段に入るだろうか。

 

「怪我や疲れているなどの理由があれば、日程は後日にずらしても良い。

 また、後日なら公開の場で決闘を行うこともできる。

 観客がいれば、変なことはできないだろう」

 

 いやそうか、言うなれば観客がLEDで試合の妨害をしたようなものか。

 メジャーリーグだったら天文学的な賠償金を負わされそうだな。

 そうじゃなくても、多分球場を永久に出禁になるだろう。

 

 ……卑怯な手段で倒しましたでゲス。

 

「かまいません」

 

 言って、ロクサーヌはそのまま歩き出し――いやいやいや、待て待て待て。

 

「失礼、彼女は装備品を身に着けておりませんので、どこか一室をお借りすることはできませんか?」

「うむ、当然の申し出であると認める」

 

 ロクサーヌは武器一本でやるつもりだったのかもしれんが、さすがにそれは許可できんぞ。

 

「フン! 卑劣な手妻(てづま)*1でも仕込んでいるのではなくて?」

「やかましい!

 人が朝の買物をしている時にいきなり突っかかってきておいてキャンキャン喚くな」

 

 正直、かつてないほど苛ついている自覚はある。

 なにしろまだ朝食も済ませていないのだ。

 ゴローちゃんだったらとっくにアームロックしてるぞ。

 

 あと、手妻の種はお前等に絡まれる前からセリーのアイテムボックスに仕込み済みだ。

 さっき武器商人から〈武器製造〉する素材をたんまり受け取ったからな。

 

 歯ぎしりする雌犬を無視して、装備品をロクサーヌとセリーに受け渡す。

 昨日ルークから受け取った鋼鉄で製造した鋼鉄の額金と鋼鉄の胸当てに、〝ダマスカス鋼のガントレット〟、そして〝駿馬のダマスカス鋼デミグリーヴ〟だ。

 昨日買ったデミグリーヴには、既にウシのスキル結晶を融合済みだ。

 初実戦がまさか対人戦になるとは思わなかったが、間に合って良かった。

 

 そしてゴスラーに呼ばれた騎士団員が部屋に案内しようとするが、

 

「ここで構いません」

 

 ロクサーヌはさっさと装備を身に着け始めた。

 俺の側を離れないようにということだろうか。

 服の上から着ければ良いから肌は晒さないが、じろじろ見られるのは不快なので前に出て隠す。

 

 すると、その騎士団員も同じように身体で覆い隠すようにしてくれた。

 一瞬、俺を見て目礼するその表情に、同情の色が見える。

 純粋な厚意なのか、俺を油断させようとしているのか……しんどいわ。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 準備が終わって、ゴスラーの案内で城の中庭の一角までやってきた。

 木も芝生もない、雑草がまばらに生えているだけの場所だ。

 騎士団の訓練場だろうか。

 

ここでやるのか

公開で行うのであれば場所を設営しますが、非公開なので簡単に済ませるのでしょう。

 ほとんどの決闘は非公開で行われるようです。

 騎士団にとっても、面倒事は手間を掛けずに終わらせたいはずです

 

 セリーと小声で会話する。

 設営する場合は、時代劇みたいに陣幕を張る感じだろうか。

 公爵が偉そうに床几(しょうぎ)に座って、扇子を片手に「両者前へ!」とか言うのを想像する。

 ……イメージに嵌りすぎる。

 

「それでは、両者前へ」

 

 が、この場にいるのはゴスラーだ。

 淡々とした宣告の後、ロクサーヌとドリル女が正対した。

 ゴスラーが手を振り下ろす……これで開始らしい。

 

「おーっほっほっ! 覚悟なさい、ロクサーヌ。

 這いつくばったところで許すことなどありませんわ、今日がお前の命日となりましてよ」

「行きます」

「教えて差し上げましょう、ロクサーヌ。

 半年前の試合にはお互いパーティーメンバーはいなかったのに、今日はサボーがわたくしのパーティーメンバーなのですわ!

 サボーはわたくしのバラダム家が総力を結集して集めたドープ薬を服用しているのです!

 その意味が――っ!」

 

――ガッ!

 

 一瞬だった。

 一瞬でロクサーヌが踏み込んで、女の首を刎ねた。

 いや、刎ねたように見えた。

 

 女は仰け反って倒れ、仰向けにばったりと横たわった。

 〈鑑定〉で確認すると……身代わりのミサンガが装備からなくなっているな。

 

 ……すげぇな、身代わりのミサンガ、マジで死なないんだな。

 実際目にするとびっくりだわ。

 

「ひ、卑怯な、いきなり」

「決闘は始まっていますし、行きますとも言いました」

 

 ドリル女はドリルみたいに振動しながら身を起こそうとするが、完全に腰が抜けているようだ。

 

「私の家が困窮するように、色々と画策してくれたようですね。

 しかし、そのことに感謝しないといけないのかもしれません。

 素晴らしいご主人様に出会えましたから」

 

 冷酷な声のロクサーヌが、再度剣を構えた。

 このままもう一度斬れば勝負は終わるが、

 

「すまん、ロクサーヌ。

 ちょっと待ってくれ」

「……はっ」

 

 ロクサーヌが数歩下がり、女と距離を取って振り返った。

 女はそんなロクサーヌを涙目で見て、そして勝負を止めたこっちを見た。

 

「おい、お前たちは何故俺達が狂犬のシモンを討伐したことを知っていたのだ?

 兇賊のハインツのことも知ってのことか?」

 

 勝負を見守っていたゴスラーの眉が、今度こそ吊り上がった。

 だが連中は誰も気づかないだろう。

 揃ってこっちを見ている。

 

「そ、それは……」

「あれを使え」

 

 口を開いた女を、サボーが遮った。

 

「大丈夫だ、ずっと見ていたが、あいつは身代わりのミサンガを渡していない。

 今なら、名誉ある引き分けに持ち込める」

 

 ……? なんのことだと思っていると、セリーが小声で「自爆玉でしょう」と呟いた。

 ああ、そういうことか。

 

 女は涙と鼻水を垂らしながら、のろのろと懐に手を入れる。

 

「もういい、引き分けにしろ、ロクサーヌ」

「しかし」

 

 ロクサーヌには悪いと思うが、果たして殺してしまって良いものか……。

 

決闘で勝敗がつけば、負けた側からの再戦要求は当然拒否できます。

 しかし、引き分けだとそうはなりませんが

 

 どう言おうか悩んでいると、またセリーが小声で助言してくれた。

 勝負は中断しているので、こっちも小声で相談する。

 

なあ、ロクサーヌがあの女の婚約者を手玉にしたという話、本当だと思うか?

いえ、男の方が勝手に欲情しただけでしょう

 

 ……あの、欲情って……まあいいや。

 

つまりあの女の父親は、片方の勝手な言い分で一家が若い娘を奴隷落ちさせるまで追い込むクソ野郎だということになるな

なるほど、殺しては問題になると……ですが負けた側の再戦は――」

「――この場はそれで済むとして、ロクサーヌの叔母の家が無事で済むと思うか?

 

 そう耳打ちすると、セリーが唸り声を上げた。

 

 この世界の当てにならん法律がどうなっているかは知らん。

 だが、ロクサーヌが奴隷落ちした時点で、叔母の家との縁は切れていると思われる。

 そして無関係なら、この決闘の勝敗とも関係ないということにはならないか。

 

「わかりました、ご主人様の判断を支持します」

 

 納得したセリーが、ロクサーヌに頷いた。

 ロクサーヌも頷きを返し、

 

「引き分けでお願いします」

「相手は降参をしていないので勝負なしということになるが、よろしいか?」

 

 ゴスラーが寄ってきて、俺とロクサーヌに確認する。

 

「はい」

 

 もう一度俺を見たロクサーヌに頷くと、ロクサーヌが答えた。

 

「そちらもそれでよろしいか」

 

 ゴスラーは今度は向こうの陣営に行き、尋ねた。

 

「……仕方がない」

「それでは、この決闘は引き分けとする」

 

 これで終わりだ……少なくとも、ひとまずは。

 

「一瞬だったな、すごいものだ」

「はい、本当にお見事でした」

 

 戻ってきたロクサーヌをセリーと一緒に労うと、ロクサーヌも笑顔で「ありがとうございます」と言った。

 だがすぐに表情を引き締めて、

 

「今までの私は間違っておりました」

「……というと?」

 

 いい加減付き合いも長いのでよく知っている。

 こういう時のロクサーヌは決まって変なことを言うんだ。

 

「今まではできるかぎり無駄のない動きで避ければ、無駄なく攻撃に転じることができると考えていました。

 しかし、そもそも攻撃されるより先に倒してしまえば、避ける必要すら無かったのです」

 

 ……ああ、ロクサーヌが更によくわからないところに。

 俺とセリーが黙って首を振っていると、何を思ったのかロクサーヌも首を振って、

 

「はい、こんな簡単なことにも気づかなかったとは、情けない限りです」

 

 ボブなの? ボブ・ロスサーヌなの?*2

 

「この、バラダム家の面汚しがッ!」

 

 突如、サボーの怒鳴り声が響いた。

 サボーは腰が抜けて動けない女の所にツカツカと近づくと、一瞬でその首を刎ね飛ばした。

 

「は?」

 

 思わず間抜けな声が漏れてしまった。

 

「こいつにはもしもの時のために自爆玉を渡しておいた。

 まさか本当に後れを取るとは思わなかったが、その程度の覚悟もないやつなど、我がバラダム家には必要ない」

 

 ゴロゴロと転がる首を無視して、サボーが俺に向かって言い放った。

 ……は?

 

「何をする!?」

 

 固まってしまった俺と違って、ゴスラーはすぐに詰め寄った。

 

「これはバラダム家内部の問題だ。

 この女も当然、我がバラダム家の家父長権の下にある。

 今の処理になんら問題はない」

 

 しかし、サボーは涼しい顔で言った。

 言われたゴスラーは、動きを止めた首を一瞥し、「わかった」と首を振った。

 わかっちゃうんだ。

 

「一応、インテリジェンスカードの確認はさせてもらおう」

 

 それでいいんだ。

 

 ……俺は明治新政府を盲信する。

 なぜなら決闘罪を制定したこと、そして家父長権を厳格に定めた一方で、家長が家人を一方的に殺傷したりすることは禁止したからだ。

 他にどんな瑕疵があっても、汚職が蔓延っていても民間財閥から借りた金を踏み倒しても太陽暦を導入する時に公務員の給与をカットしても、その一点だけで俺は明治政府を信奉する。

 だから西郷隆盛(せごどん)大久保利通(いちぞう)木戸孝允(ヅラ)の維新三傑よ、ジェットストリーム維新(アタック)をかけてこの世界を近代化してくれ。

 

「だが引き分けなのは都合が良い。

 お前達は我がバラダム家に恥辱を与えた。

 決闘で敗れ、とどめを刺されないなどこの上ない不名誉だ。

 この汚辱をすすぐため、俺はそこの女に決闘を申し込む」

 

 ゴスラーに呼ばれた騎士団員によってインテリジェンスカードを晒しながら、サボーがロクサーヌを指差した。

 

「俺は規定通りドープ薬を50個しか服用していない。

 覚悟があるなら受けるが良い」

 

 ……さて、そういえばさっきから名前が呼ばれているが、ドープ薬とはなんぞや。

 

セリー?

はい、ドープ薬を使うと、少しだけ強くなるとされています。

 大量に服用することで、上位職への転職も可能になるそうです。

 ただし、ドープ薬を服用した人は、長年実際に修行を積み重ねた人よりも弱いという意見が一般的です。

 いたずらに服用しても強くなれないので、使用は50個までという説もあります

 

 なるほどなるほど。

 とするとサボーは、残りの49は自分で上げたのだろうか。

 そうなるとシモンより弱い気がするが。

 

 ……いやいや、〈鑑定〉を使わないとレベルがわからないのだから、何レベルからドープ薬を使ったのかはわからんな。

 それに、高レベルのシモンに攻撃が通りにくかったというロクサーヌの証言もある。

 

「俺が行く」

「いえ、私が。

 サボーの強さはよく知られています、危険です」

「まあ、成算はある」

 

 今の情報で補強されたことは、サボーのレベルが最大まで達しているであろうということだ。

 つまり、

 

 

   キャラクター設定

 

   【ボーナス呪文】

    ワープ

    エクストリームドロップデッド

 

 

 こいつの出番というわけだな。

 試しに使ってみると、他の魔法と同様に対象を選択するマーカーが出る。

 かなり前に試した時は発動自体しなかったものだが、当時は恐らくMPが足りなかったのだと思う。

 

「サボーは相当に強いはずです。

 狼人族の間では暴れ者として有名です。

 ご主人様を危険に晒すわけには」

 

 よって選択できるということは……いや、一応事前に試しておくか。

 考えてみれば消費MPがわからん。

 消費がヤバそうなら、〈MP回復速度二十倍〉にしてなんとか時間稼ぎしよう。

 

 アイテムボックスを開いてデュランダルを取り出す……振りをして、随分昔に買った強壮剤を手にする。

 強壮錠(6,000ナールのやつ)もストックしておくべきだった、迂闊だ。

 

(エクストリームドロップデッド!)

 

 …………何も起きんが!?

 

 

   サボー・バラダム

   <♂・42歳>

   獣戦士:Lv99

    装備:激情のダマスカス鋼剣

      :耐火のダマスカス鋼額金

      :耐眠のダマスカス鋼プレートメイル

      :耐風のダマスカス鋼ガントレット

      :駿馬のダマスカス鋼デミグリーヴ

 

 

 いや、ちゃんと身代わりのミサンガが消えてるな。

 というか考えてみれば、いきなりド派手な演出が始まってたらどうしてたんだって話でもある。

 ドデカい死神が出てきたりとかな。

 

 ……その時は「祟りじゃ~」とでも叫んでトンズラするか。

 そしてこんな下らないことを考えているゆとりもあるくらい、MP消費は大したことない。

 

 よーしよし、これで全ての問題はなくなった。

 

「大丈夫だロクサーヌ、お前の主人を信じろ」

 

 デュランダル片手に、前に進み出る。

 

「……貴様、馬鹿にしているのか?

 貴様如きの首を摘み取ったところで、我がバラダム家の汚辱はすすげぬわ」

「ロクサーヌのパーティーリーダーが、彼女より弱いとでも思ったか」

 

 竜騎将バラン理論で言い返すと、サボーは「ぬぅ」と唸って引き下がった*3

 いや、論破されんなよ。

 

「ご、ご主人様、せめて防具を」

「必要ない」

 

 だって今から着替えてたら、ミサンガがなくなってることに気づかれるかもしれないし。

 

「ロクサーヌさん、ご主人様には何かお考えがあるのでしょう」

 

 半狂乱で俺を止めようとしていたロクサーヌが、セリーにそう言われてようやく引き下がった。

 だが、またサボーが騒ぎ出した。

 

「き、貴様ァ、そこまで我がバラダム家を愚弄するかッ!」

「さっきからやかましいな。

 それともバラダム家の言う決闘とは、口喧嘩のことだったのかな?」

「……殺す」

 

 サボーは歯をギシギシとさせながら、絞り出すように言った。

 よしよし、完全にこっちをロックオンしているな。

 ……足元になんかの切れ端が落ちてるけど、誰も気にしていないはずだ。

 

「……よろしいのですな?

 

 心配そうな顔のゴスラーに、黙って頷きを返す。

 

「……では、両者前へ」

 

 そしてゴスラーが手を振り落とすと同時に――

 

「ガァァァアアアアアッ――!」

 

 ――サボーが駆け出した。

 すかさず〈オーバーホエルミング〉を使うと、サボーの動きが遅く――ならない!

 いや、遅くはなるが、それでも速い。

 

――強……! 速……避……無理!! 受け止める? 無事で!? 出来る!? 否! 死!

 

(エクストリームドロップデッド!!)

 

 その瞬間、怒りに血走るサボーの眼が、焦点が定まらなくなるのが見えた。

 成功だ。

 そして力が抜けた斬撃をすり抜けてサボーの首にデュランダルを突き入れつつ、最初にエクストリームドロップデッドを使った地点――つまりは身代わりのミサンガが落ちている場所へと、力の抜けた身体を蹴り飛ばす。

 

「そ、そこまで!」

 

 ……ちょ、ちょっと焦った。

 〈エクストリームドロップデッド〉だけで殺したら、なにをどうしたのかと不審に思われるかもしれない。

 そう思って〈オーバーホエルミング〉だけでやろうとしたんだが……ドーピング野郎とはいえ獣戦士Lv99を舐めてたわ。

 

「す、すごいです。

 交錯して一突きしたのは見えましたが、それ以上は何もわかりませんでした」

 

 大丈夫だ、ロクサーヌ。

 それで全部だから。

 

「……確かに事切れている」

 

 ゴスラーは唸り声を上げながら「身代わりのミサンガまでも……」と呟いた後、我に返って、

 

「この決闘はハルツ公騎士団のゴスラーが確かに見届けた。

 両者死力を尽くした、正当な決闘であると証言する」

 

 事務的な表情を取り戻したゴスラーがサボーのパーティーメンバーを見ながら「報復などないように」と訓示した。

 

「そんな……あのサボーが」

「確かにお嬢様と戦ったロクサーヌも強かったが、まさかサボーを上回るなんで……」

 

 見た感じ、報復とか考える気力もないように見える。

 だが、これで終わりと言ってやるわけにもいかん。

 

「さて、もう一度訊こうか。

 お前たちは俺のことをどこで、誰から聞いた?」

 

 4人の狼人族が、ごくりと唾を飲み込んだ。

 

*1
手品や奇術のこと、手を稲妻のように素早く動かすことから手妻という名がついたとされる。

*2
 ボブ・ロスはアメリカの絵画番組『ボブの絵画教室』の講師役。

 素人には到底模倣できない技術で絵の完成度を上げながら、「very easy(ね、簡単でしょう?)」という台詞で視聴者を戦慄させ、ニコ動民の素材(おもちゃ)になった。

*3
竜の群れを束ねる軍団長はドラゴンより強いし、日本国総理大臣は国会議員の中で〝最強〟の者がなる、当然の(ことわり)である。




 17歳と37歳の動体視力が同じなはずはなく……。
 スタープラチナ・ザ・ワールドみたいに加齢でスキル性能も劣化しているかもしれませんね。
 しかし弱いからこそ、頭を捻って別の選択肢が生まれます。
 次話からオリ設定オリ展開多めです。
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