加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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自爆玉

 

   ボーデ 宮城

     訓練場

 

 俺が兇賊のハインツと狂犬のシモンを討伐し、ハルツ公がセルマー伯に贈った結納品である決意の指輪を奪還したこと。

 そして俺が冒険者であること。

 それらは騎士団で箝口令が敷かれているはずだった。

 まとめて知っている者は、そう多くない。

 

 しかし、バラダム家は少なくとも俺達が狂犬のシモンを倒したことは知っていた。

 そして『ミチオ・カガという冒険者』として俺のことを探していた。

 サボーとお嬢様を喪ったバラダム家のパーティーメンバーに、それを確認しなければならない。

 

「我々は詳しいことは知らないのです。

 ここに来たのは、お嬢様とサボーの指示でしたから」

 

 やがて狼人族の冒険者が、重い口を開いた。

 ……正直、そんな気はした。

 だってなんかサラリーマンっぽいというか、明らかに下っ端風だもの。

 

 問い詰めようとしたお嬢様はサボーに首を刎ねられたし、サボーは殺す以外にはどうしようもなかった。

 ……参ったな。

 

「そ、その、サボーの装備品のことなのですが……」

「装備品?」

 

 いつものように頼りになるセリーが、すかさず解説してくれた。

 

「決闘で負けた人の装備品は勝利者のものです。

 しかし、受け取らないことが多いです、装備品目当てに決闘を挑む者もいますので。

 特に強い憎悪がある場合には、装備品の中から1つだけ奪うことも行われています」

 

 ……今欲しいのは情報なんだが、お嬢様の父親なら知ってるかな?

 だが正直、これ以上関わり合いになりたくないという気持ちも強い。

 この調子だと、多分ハルツ公(ここ)の騎士団から漏れているということはなさそうだし、今更漏洩経路を知ったところで意味があるのか……うーむ。

 

「ロクサーヌ、どうする?」

「私は特に恨みはありませんので」

 

 そんなものか、あるいはお嬢様ではなく、サボーが相手だからかな。

 サボーの装備品は欲しいが、あいつの中古なんか使いたくないというのが正直な気持ちだ。

 恨まれてロクサーヌの叔母の家に八つ当たりされるのもうんざりだし。

 

 ……あ、装備品じゃないが欲しい物はあるな。

 

「では、そのお嬢様が持っていた自爆玉を貰おうか」

「そ、その勝負は引き分けで、勝負無しになったはずです!」

 

 うん、その通り。

 だが、なんらかの名分さえ通ればルールを曲げることくらいはできるんだろう。

 バラダム家(お前ら)がそうしたように。

 

「だが、そちらのお嬢様とロクサーヌは死力を尽くして戦ったではないか」

「……一体何を言っているのか」

 

 バラダム家の残党はごちゃごちゃ言っているが、ゴスラーは静観の構えをしてくれている。

 それを確認して、ロクサーヌを呼んだ。

 

「ロクサーヌ、悪いがデミグリーヴを外して身代わりのミサンガを見せてくれるか」

「えっと……わかりました」

 

 ロクサーヌは言われた通り足装備を外して、スボンの裾を引き上げる――ああっ、そんなに上げなくていい。

 そして当然だが、そこにはミサンガがあるわけで、

 

「サボーが何を考えていたのかは知らんが、この通り自爆玉を使われても結果は変わらんのだ」

「そ、それは……」

 

 だから自爆玉を使ってたということにすれば、自爆玉は存在しないということになるわけだ。

 まだ煮えきらない連中の前で、これみよがしに金貨を取り出してみる。

 

「ロクサーヌとお嬢様は、死力を尽くして引き分けになった。

 俺とサボーも、死力を尽くして勝負を付けた」

 

 噛んで含めるように、ゆっくり言い聞かせるように。

 連中は俺に怯えているようだから、俺達は利害が一致する関係なのだと呼びかけるのだ。

 

「そうなるとだ、自爆玉を持ち帰る方が君達には困ったことになるのではないかな?」

 

 自爆玉はドリル女が命を惜しんだという証だ。

 ……いや、ごくごく真っ当な感性をしていたと思うけども。

 ともあれ当然、持ち帰ったらどういうことだということになるだろう。

 

 つまり、お嬢様はお情けに引き分けになり、サボーに粛清された。

 そしてわざわざ再戦を申し出て返り討ちにされた。

 この連中は、それをありのまま全てを報告しないといけないわけで、

 

「君達の主人は、そんな報告を機嫌よく聞いてくれる寛容さを持ち合わせているのか?」

 

 別に嘘を吐けっていってるわけじゃあない、ほんのちょっとだけ詳細をボカすだけだ。

 娘を喪った父親に対する気遣いってやつだ。

 みんなで幸せになろうよ。

 

 4人は顔を見合わせて、やがて首を振った。

 誰もそんな悪い報告を上げたくないようだな。

 気持ちはわかるよと、うんうん頷いてやる。

 

 次に連中はのろのろとした動きでゴスラーの様子を窺うと、彼はわざとらしく咳払いしてから「こら、何をしている! 訓練に戻らぬか!」などと騎士団員に指示を飛ばし始めた。

 ……見逃してくれるらしい。

 

 冒険者の手に金貨を1枚握らせる。

 ……グッと握りしめて頷かれた。

 交渉成立だな。

 

「決闘上のことなので、やむをえぬ仕儀となった。

 装備品も求めないので、遺恨のないように願いたい」

「はっ、寛大なお心に感謝いたします」

 

 冒険者がお嬢様の死体に手を伸ばすと、赤黒い玉を取り出して俺に渡した。

 赤熱して灰を被ってる石炭みたいな見た目だが、触っても特に熱くはないようだ。

 いかにもって感じだな、これが自爆玉か*1

 

 冒険者が俺の手を未練たらしく見ている、はて?

 ……おおっと、そういえばさっき余分に金貨を取り出してしまったなー。

 でも今更仕舞うのも格好悪いしなー、どうしよっかなー。

 

「じ、実は我々は以前、こちらの領地の隣にあるセルマー伯領の方に行っておりまして」

「……ほほう」

 

 向こうでゴスラーが、ギュインッと音がしそうな勢いで振り向いた。

 ステイステイ。

 また怯えた表情になってしまった冒険者に、もう1枚金貨を握らせて宥めすかす。

 

 そうしてどうにかこうにか喋らせた結果は、このようなものだった。

 

 バラダム家の一行は、元々セルマー伯領で活動していた。

 目的はもちろん、狂犬のシモンの討伐だ。

 向こうで指名手配されて懸賞金まで懸けられていたのだから、シモンを討ち果たそうと思えばそうするのは当然のことだろう。

 

 そしてその時、セルマー伯からシモン討伐と共に迷宮探索の助力を頼まれたらしい。

 異種族とはいえ、有力者が領内で盗賊退治をしたがっているのだから、伯爵がそうするのもおかしくはないか。

 エルフは異種族を見下す傾向があるとか言われているのに、意外とクレバーな対応をするんだなとは思うが。

 

 ともあれ、サボーはシモンのこと以外に興味を示さなかったようだ。

 伯爵は上の階層を探索してほしかったようだが、盗賊が(たむろ)しているのは十二階層とかそこらへんだから、両立はできないわけだし。

 

 そして当たり前だが、狂犬のシモンが見つかることはなかった。

 やがて領内の迷宮も一通り探索し終えたので、もう河岸を変えたのだろうと思い、捜索を打ち切った。

 それが大体、春の中旬頃だそうだ。

 

 しかし最近になって、狂犬のシモンが討たれたという報せが舞い込んだ。

 そして同じ頃に、一行はセルマー伯に呼ばれた。

 そこでどんな話し合いが持たれたのか、それは「本当に知らないのです」とこいつらは言い張った。

 わかっているのは、伯爵の所から戻ってすぐにこのボーデで人を探し始めたこと。

 

「それが冒険者ミチオ・カガというわけか」

 

 セルマー伯から、ハルツ公領で活動している冒険者だということを聞いていれば、更には騎士団に箝口令が敷かれていることまで聞かされていれば、聞き込みをする場所は冒険者ギルドと武器防具屋くらいだろう。

 今日遭遇したのは偶然にしても、いずれ見つかるのは必然だったか。

 

「よくわかった、これは見舞金だ」

 

 残りの金貨を渡すと、4人は卑屈な笑みを浮かべた。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「この度は誠に申し訳ございませんでした。

 どうかご寛恕を願います」

 

 連中がサボーとお嬢様の遺品を持って帰ると、俺達はゴスラーに応接間に通された。

 ゴスラーはこの通り、平身低頭な様子だ。

 

「どうかお気になさらずに、そちらに非があったわけではないのですから」

「しかし――!」

 

 なおも言い募るゴスラーに、もう一度「どうかお気になさらず」と言ってやめてもらう。

 騎士団から漏れたんじゃないかと疑っていたので、ちょっと心苦しいんだ。

 

――エルフの公爵であるハルツ公爵としては、セルマー伯爵家を助けなければならぬ。

――ミチオ殿にあちらの迷宮退治の手伝いを頼むつもりはないが、今後も我が領地の迷宮退治への合力、よろしく頼み申す。

 

 ……まあ、こないだこんなことを言った相手に裏切られたら赤っ恥もいいところだし、わからんでもないが。

 

「ミチオ殿がターレの迷宮でご活躍されていることは、報告が上がっております。

 にもかかわらずこのような事になるとは……まったくもって汗顔の至りです」

 

 階層突破した時は、入口の探索者をパーティーに入れて新階層に行く必要がある。

 そしてパーティーメンバーの名前はわかるから、誰それが階層突破したというのは報告されているようだ。

 

「閣下もミチオ殿の活躍を我が事のように喜んでおりまして――」

 

――コン コン

 

 と、ノックの音がして、ゴスラーが「入れ」と応じた。

 入ってきた騎士団員は、さっきロクサーヌの身体を隠してくれた人だな。

 巾着袋を載せたお盆を恭しく運んでいる……またこのパターンか。

 

「先ほどは随分ご負担をおかけしてしまいました。

 こちらとしても貴重な情報でしたので、心ばかりの(こころざし)*2をお納めください」

「あー……どうもありがたく。

 今後もターレの迷宮には入るつもりです」

 

 巾着袋には……こないだほどじゃないが、明らかに10枚以上入ってるな。

 さっき掴ませた金貨より遥かに多いのだが、これも焼け太りと言うのだろうか。

 

「ありがとうございます。

 そのように仰っていただいて、安堵いたしました」

 

 ……今後どうするんだろうとか、セルマー伯はなーに考えてんだろうとか、気になることはある。

 だが前者は首を突っ込むのは全力で遠慮したいし、後者については本人のいない所であーだこーだ言っても仕方がない。

 さっきの話も、バラダム家の下っ端連中から見た一方的な話だしな。

 案外、伯爵が主体になって何か画策したわけじゃなく、バラダム家がかき回しただけって可能性もある。

 

 ……ホント、なんだったんだろう……あのヤカラ連中は。

 思いつく悪口が多すぎて、言葉にならんのだが。

 

 しばらくして、俺が何も訊くつもりはないと見たのか、ゴスラーが表情を緩めた。

 

「……ところで自爆玉を求めておいででしたが、もしやお子様がお生まれになられたのですか?」

「はぁ!? あ、いや、そういうわけでは」

 

 し、しまった、そういうことになるのか。

 自爆玉は、4歳以下の幼児が使うと魔法使いになれるという代物だ。

 だからそう思われてしまうことも考慮するべきだったか。

 

 ……も、もしかしてこのずっしりした志って、出産祝いも含まれてたりする!?

 

「あー……恩人の家に最近孫が生まれたので、それで」

 

 咄嗟にアランの家で孫が生まれたという話を思い出したのでそう言い訳すると、ゴスラーは「そうでしたか」と頷いた。

 ……もう少し心の内を明かしていただきたい。

 

「ミチオ殿のパーティーは4人組と聞いておりますが、魔法使いはおられるのですかな?」

「い、いえ、まだいませんが」

「まだということは、魔法使いのパーティーメンバーをお求めなのですな。

 ……いえ、迷宮に入るのであれば、問うまでもないことでしたな」

 

 ……あ、圧が強いんだが。

 ゴスラーは背が高くて体型もがっちりしてるから、ズイッと来られると思わず仰け反ってしまう。

 

 それにしても、なんだろう?

 魔法使いのパーティーメンバーでも紹介してくれるつもりだろうか。

 弊社は機密事項が多いから、派遣社員とかは困るんだが。

 

「と、ところで、エリクシールを求めることはできないでしょうか?」

 

 話を逸らす意味もあって、思い切って訊いてみた。

 するとゴスラーは、またすまなさそうな顔に戻って、

 

「申し訳ありません、あればかりはどうしても……えー」

 

 ゴスラーが言いづらそうに、後ろに控えるロクサーヌ達に視線を向けた。

 2人に「悪いがちょっと外してくれ」と伝えると、ゴスラーは「誠に申し訳ない」とまた頭を下げた。

 

「ご存知ないようですので、私の一存でお伝えします。

 実は、私も閣下もエリクシールを一部の例外を除いて勝手に譲渡することを禁じられているのです」

「公爵閣下も、ですか」

「はい、こちらが購入することは問題ないのですが」

 

 そうしてゴスラーが話した内容は、なんとも世知辛いものだった。

 

 この帝国では、装備品やドロップアイテムには公定価格が定められている。

 そして人頭税以外の税金、商税なんかはこの公定価格を基に算出されるそうだ。

 いわゆる、統制経済というやつだろうか。

 

 そしてドロップアイテムの買取価格は、十一階層までの魔物なら10ナール、二十二階層までの魔物なら20ナール……というように横並びだ*3

 まあ、コボルトソルトのような例外はあるが。

 これは旨味のある迷宮ばかりに人が集まって、それ以外の迷宮が放置されることを防ぐという意図があったらしい。

 

「コボルトソルト以外にも例外があります。

 銀貨や金貨、白金貨のように、ドロップアイテムがそのまま通貨として流通する場合ですな」

「なるほど」

 

 ……さぁて、そろそろセリーが恋しくなってきたぞ。

 というか、あれはドロップアイテムだったのか。

 確かに言われてみれば、銅貨はアイテムボックスに入らないのに、銀貨や金貨は入るんだよな。

 

「それでその昔、知恵の働く商人が思いついたと言われています。

 通貨のように誰もが価値を認めるドロップアイテムであれば、通貨の代わりに用いても構わないではないか、と」

「…………それはもしかして脱税というやつでは?」

 

 ゴスラーが肩を竦めて頷いた。

 ……なんで俺は休日にこんな話をしているんだ?

 

「つまり、それがエリクシールだと」

「正確には、その素材となる威霊仙ですな」

 

 ドロップアイテムの値段は、需要に関係なく一定だ。

 つまり威霊仙は、ギルドに持ち込んだら需要に対して相当に安い値段で買い叩かれるはずだ。

 逆に言えば、100万ナールの白金貨の代わりに威霊仙で物納したら、そこに掛かる商税も小さくなるわけだな。

 

 ……だからなんで俺は休日にこんな話をしているんだ?

 

「これは市井ではあまり知られていないと思います。

 ミチオ殿も、流布するようなことはおやめください」

 

 釘を刺されてしまったので、黙って頷く。

 さっき思いっきり詭弁を弄してしまったからな……なんとも肩身が狭い。

 

 しかし、成文法主義はまだ早すぎる概念なのだろうか。

 江戸時代までの日本のように、徳治主義なのかもしれない。

 

 ……いや、成文化することで法の抜け穴を探しやすくなるという弊害もあるか。

 ゴスラーの話だって、公定価格を定めたせいで穴を突かれたわけだし。

 

「私としては迷宮を攻略するのは使命ですし、その結果誰かが助かるのであれば喜ばしいことです。

 とはいえ……」

 

 ゴスラーは黙って首を振った。

 そりゃあまあ、やりきれないだろうなぁ。

 

「そういうわけで、帝国諸侯と()()()()()の会員という例外を除いて、エリクシールも威霊仙もお譲りできないというわけです。

 こればかりは誓い(ゲッシュ)を結んでおりますので、どうにもなりません」

 

 とある結社とは、以前ハンナとセリーが言っていた帝国解放会とかいうテロリストっぽい名前の組織のことだろう。

 ゴスラーは慎重に言葉を選んだ様子で説明を終えると、

 

「しかし、ミチオ殿であればいずれお譲りすることができるでしょう。

 閣下はもちろん、私もそのように確信しております」

 

 ……だからさぁ……圧がさぁ。

 

 

 

   クーラタルの街

     道夫の家

 

 やっとこさ家に帰ると、カタリナも無事に帰宅していた。

 ホッと一安心だ。

 遅い朝食をいただきながら、事の顛末をハンナ達に話した。

 

 帰り際、ゴスラーに耳打ちされたことは黙っておく。

 

――セルマー伯のことですが、このままで済ませるつもりはないので、どうか今しばらくお待ちいただきたく……。

 

 静かな声だった。

 ……自分のことじゃないのに、思い出しただけで首筋が涼しくなる。

 

「そういうわけで、ボーデにはしばらく近寄りたくない。

 カタリナを送ってもらったことについて、ハンナの方から武器商人にお礼の手紙でも出しておいてもらえるか」

「はい、それはもう。

 今日中に礼状を出しに参ります」

 

 狂犬のシモンを討伐したことで、格ゲーみたいな理由で喧嘩を売られたしな。

 お次は狼人族第3の実力者とかが出てくるかもしれない。

 ロクサーヌはこんなに穏やかなのになぁ……という気持ちと、ロクサーヌと同じ種族なんだから有り得そうだ……という気持ちが、正味五分五分で混在している。

 

 それに狼人族だけじゃない、兇賊のハインツも倒してるんだ。

 エルフ版バラダム家みたいな連中だっているかもしれん。

 今日はゴスラーがいたから良かったが、公爵が忙しいならゴスラーだって基本的には忙しいだろう。

 

 最悪なのは、セルマー伯がこっちに直接ちょっかいを出してくることだ。

 俺のことを冒険者だと確信しているようだし、しつこく職質をかけてくることも考えられる。

 今更俺が冒険者であることを暴いたところでどうにもならんと思うが、伯爵がどう考えるかは別の話だ。

 SNSにもいるだろう、論点をずらして勝利宣言をする輩が。

 

「とにかく、冒険者になるまでは目立つような真似は避けたい」

「いえあの、ご主人様。

 武器を納品することを請け負ってましたよね」

「……ああ、そうだったわ」

 

 セリーのマジレス神拳が炸裂した、あべし。

 まだ午前中なのに、もうぐったりだよ。

 

「まあ、納品は5日後だ、それまではボーデに近寄らん」

 

 結局いつも通りとも言う。

 セリーも「そうですね」と頷いて、それ以上は言わないでいてくれた。

 

 今日の残りタスクは、ソマーラの村でウサギ狩りの収穫の買い取りと、アランの店でドロップアイテムの買い取りか。

 どっちも気楽に済む用事だな。

 さっさと終わらせて、ちょっと昼寝させてもらおう。

 充電してからじゃないと、天ぷら作りをやる気力もない。

 

「では、これからアラン様に自爆玉を贈りに行きますか?」

 

 俺が疲れた様子を見せているからか、ロクサーヌは心配そうな顔をしている。

 いかんいかん、ちょっとしっかりしなければな。

 

「いや、さっきはああ言ったが、身代わりのミサンガを装備して自爆玉を使えば魔法使いになれるんじゃないかと思ってな」

 

 自爆玉を幼児が使うと魔法使いになれるのは、恐らくMPないしHPが必要量に足りないからだと思う。

 それで不発になって、魔法は使ったが発動しなかったという状態になり、魔法使いになるための必要条件を満たすのだ。

 

 そして身代わりのミサンガは、さっきも見たように死亡ダメージが軽減される。

 というより、死亡した事実をなかったことにしたかのようだった。

 これを組み合わせれば、大人でも魔法使いになれるのではないだろうか。

 

「いえ、身代わりのミサンガを持っていても自爆玉を使うと死んでしまいます」

「……え、そうなのか?」

 

 内心ドヤ顔していると、セリーのマジレス神拳が再度炸裂した、うわらば。

 

「はい、昔囚人を使ってそのような実験が行われたそうです*4

 

 えげつねぇな、仕方がないのだろうが。

 以前アランの店で〈等量交換〉を使った時の事を思い出す……その実験もきっと、ひでぶな感じになったのだろう。

 ドン引きしている俺に、セリーが淡々とした口調で「敵から受けた被害ではないから防げないという説があります」と付け加えた。

 

 ……冷静に考えてみると、聖騎士である公爵も魔法使いのジョブを持っていた。

 そしてこの国の貴族は、幼子に自爆玉を使わせるとかいうキチガイ沙汰をやっている連中だ。

 それがブロッケンくんよんさいに自爆玉を使わせておいて、魔法使いにすることができませんでしたとかは有り得んだろう。

 

 ということは、貴族の子供は自爆玉を使わせられるのがデフォで、成長後の適性とかを見て進路を決められるのだと思われる。

 だが、騎士育成ルートにしても魔法使い育成ルートにしても、貴族なら成人するまで数十万ナールは必要だろう。

 精々数万ナールの身代わりのミサンガで自爆玉を節約できるなら――つまり魔法使いの数を増やせるならば、そうするはずだ。

 

「ならまあ、仕方ないか。

 ……日頃のお礼ということで、アランに贈るとするかなぁ」

 

 といって、代わりに何かしてもらうことは思いつかないのだが……死蔵しても意味ないしな。

 

「ところでロクサーヌさん、そのバラダム家というのは、それほど力のある家なのですか?」

 

 俺が話をまとめたタイミングで、ハンナが尋ねた。

 彼女の活動範囲は帝国北部だったはずだが、そこまでは知られていないということか。

 狼人族で1、2を争うとか豪語してたが、所詮はお山の大将なんじゃなかろうか。

 

「はい、狼人族にも諸侯はいますが、それらを除けば最も勢いのある家だと言われていました」

「とすると、バラダム家が没落すれば、その資産が処分されるかもしれませんね」

「……ほう、装備品とかか」

「あるいは魔法使いも」

 

 なるほどなるほど、滅多に出回らないという魔法使いの奴隷は、そういう場合に出てくるものなのか。

 とはいえ魔法使いの奴隷が出てきたとして、バラダム家の人間をパーティーに加えるのはゾッとしないが。

 

「アランは帝国中東部の狼人族と繋がりがあるんだよな?」

「はい、バラダム家と取引があるかまではわかりませんが、付き合いがあることは間違いないです」

 

 ロクサーヌに確認すると、思った通りの回答が返ってきた。

 

 ロクサーヌが奴隷としてアランの所に売られた際、叔父が『狼人族には売却しないこと』を条件としたらしい。

 恐らくそれは、バラダム家に買われて酷な目に遭わされないようにという配慮だろう。

 そうした商談の場にロクサーヌは居なかったそうだが、何度かアランがバラダム家についてボヤいているのを聞いたそうだ。

 アランにしてみたら、折角の上玉なのに――いやだからこそ訳ありと見られたのか、流れ者の俺が現れるまで買い手がつかなかったようだし。

 

「装備品を探すとして、アランに頼めるかな?」

「相手の資産状況を把握するのは、商人として当然のことです。

 アラン様であれば間違いないでしょう」

 

 そういうものか。

 まあ、秘蔵のお宝とかはわからんかもしれんが、装備品は隠すものじゃなくて実用品だしな。

 それにバラダム家はいかにも武闘派――というかヤカラだから、むしろ見せびらかしていたかもしれない。

 

「それならアランに自爆玉を贈れば……」

「そこまでされれば、必ずや御主人様のために全力を尽くすことでしょう」

 

 ハンナが力強く頷いた。

 結構なレベルの戦闘奴隷に魔法使いが加われば、アランの代には無理でも次代には隆盛するかもしれない。

 そんな夢が見れるなら、確かに頑張ってくれるだろう。

 

「よし、アランの店に行くとしよう。

 ロクサーヌとハンナは付き合ってくれ」

『わかりました』

 

*1
自爆アイテムということで、FFシリーズの『ボムの魂』のような見た目を想定しています。

*2
贈答の文脈では、気持ちを込めた贈り物の婉曲表現となります。

*3
ドロップアイテムの定価について、あとがきで補足します。

*4
改稿前は自爆玉は発動せず、ミサンガもなくならないという設定にしていましたが、原作者様が感想返しにてこのような設定を提示しておられました。




 ドロップアイテムの買取価格について補足です。
 本作では、魔物のドロップアイテムは以下の通りとします。

   一階層~ ランク1  10ナール
  十二階層~ ランク2  20ナール
 二十三階層~ ランク3  40ナール
 三十四階層~ ランク4  80ナール
 四十五階層~ ランク5  160ナール
 五十六階層~ ランク6  320ナール
 六十七階層~ ランク7  640ナール
 七十八階層~ ランク8 1280ナール
 八十九階層~ ランク9 2560ナール
 ※ただし、通常ドロップとレアドロップがある魔物の場合は、統計的に求められたドロップ率を元に価格が調整されるものとします。
 ※威霊仙はランク9の魔物のレアドロップという設定なので、定価でギルドに売ると1万ナールくらいでしょうか。

 原作でそこまで明示されていない認識ですが、ニードルウッド(ランク1)が落とすブランチが10ナール、グミスライム(ランク3)が落とすスライムスターチが40ナール、ウドウッド(ランク4)の落とすリーフが80ナールなので、恐らく原作もそうなっていると思います。
 この価格設定だと、シルバーサイクロプス(ランク6)のドロップアイテムが銀貨(=100ナール)なので割に合わないのですが、レアドロップで金貨(=1万ナール)でも落とす裏設定でもあるか、デフレ対策でギルドや領主から報奨金でも出てるんじゃないかと。
 もしくはその両方でしょうか。

 一般論として既得権益層は、自身の資産価値を高めるためにデフレを望む傾向があります。
 しかし、通貨がドロップアイテムの場合は、通貨が潤沢に流通していることは領主の権威を示すことになると思います。(インフレになる≒迷宮討伐が上手くいっている≒強い領主という図式)
 よって、地球とは違った論理が働いている可能性はあるのではないでしょうか。

 また当然ですが、公爵達がエリクシール(威霊仙)を売ってくれない設定は本作独自の捏造設定です。
 すぐ手に入ったらお話にならないですから……。
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