加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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債権

 

 

   きのうの てんぷら おいしかった です。

   でも あんなおいしい 魚料理 できません。

   みんなは なにか しってます か?(ミリア)

   ↑ご主人様は博識なので、色々な料理をご存知です。

    でも季節の美味しい魚を選べるのはミリアだからこそです。

    あまり悩まないようにするのですよ。(ロクサーヌ)

 

   ※ここからしたはごしゅじんさまのめもです。

 

   春72日

    AM:ハルバー19F

    PM:ターレ19F

 

 

 

   クーラタルの街

     道夫の家

 

 思った通り、アランはバラダム家の調査を引き受けてくれた。

 無論、大喜びでだ。

 

 報酬である自爆玉は前渡しにしようとしたが、成功報酬で良いらしい。

 よほど自信があるようだな。

 自分ならバラダム家の資産状況を詳細に調べられること、そしてサボーがいなくなったらバラダム家は立ち行かないこと、その両方に対して。

 

 ソマーラの村の方は、さすがにスキル結晶は出なかったが、100を超えるウサギの毛皮が手に入った。

 前回の分と合わせると160個弱になったが、なんとも中途半端なので帝都に売りに行くのは次回に回すことにする。

 そして翌日の競りで、つまり今日ベイルの商人ギルドで出品されるのは、コボルトのスキル結晶だった。

 もちろん購入だ、こんなんなんぼあってもいいからな。

 

 というわけで、午前の迷宮探索を終えてから、ベイルにスキル結晶を受け取りに行った。

 そうして帰宅したところ、

 

「御主人様、アラン殿から書状が届いております」

「……え、もう?」

 

 昨日の今日だってのに。

 走り書きされたような短い書状を見せながら、ハンナが翻訳してくれた。

 

――バラダム家が急いで資金確保に走っている形跡アリ。

――今朝、クーラタルにて武器と防具を売り払ったとのこと。

 

 ……本当に展開が早いな。

 〈フィールドウォーク〉と〈アイテムボックス操作〉が当たり前に使われるとこうなるのか。

 

「商人ギルドに持ち込んだのかな?」

「平日のオークションで現金化するにしても数日を要しますし、そんな様子もございませんでした。

 ですので先程確認して参りましたが、武器屋と防具屋で大口の取引があったそうです」

 

 そしてハンナも動きが早い。

 

「とすると、もう店頭に並んでいるのかな?」

「いえいえ、1つ2つならそういう場合もございましょうが、検品して手入れをしてと色々やることがあるものです。

 そういう未整理の状態でよければ、いつでも来店してもらって構わないそうです」

 

 それも確認済みか。

 いやはや、ハンナは本当に気が利くな。

 会社勤めをしていたら、俺なんぞ太刀打ちできないようなバリキャリになっていたことだろう。

 

「では、昼食を済ませたら、早速店に行くとしよう」

 

 こっちには〈鑑定〉もあるし、武器商人のハンナもいれば品質に厳しいロクサーヌもいる。

 店の整理を待つ理由はないだろう。

 

 

 

   クーラタルの街

     武器屋

 

 ミリアとカタリナに留守番を頼んで、早速武器屋に向かった。

 未整理の武器は、倉庫というか店の裏手の小箱の中に納まっていた。

 雨晒しにはならないようにはしているし、塀があって外からは見えないようになっているが、なんとも不用心な話だ。

 盗賊落ちシステムがあるから、窃盗の警戒とかはあまりしていないのだろうか。

 

 ごちゃごちゃと鑑定画面がうるさくなっている中に、一際眼を引くものがあった。

 

 

   エストック

   ・空き

   ・空き

   ・空き

   ・空き

 

 

「これは素晴らしい」

 

 エストックはレイピアよりワンランク上の片手剣だ。

 店頭に並んでいるのを見た限りレイピアの最大スロット数は3つだし、エストックでは4つが最大だろう。

 つまり買いだ。

 

「ロクサーヌ、ハンナ、一応確認してくれるか」

「はい、お任せ下さい」

 

 2人に品質チェックを頼んでいる間、他にも掘り出し物がないかを確認する。

 

 

   ダマスカス鋼の剣

   ・空き

   ・空き

 

 

 ……あー、くそ、2つか。

 

もしかして、ボーデで買ったものより良い品なのですか?

 

 思わず舌打ちしそうになってしまったのを、セリーに見られたようだ。

 ロクサーヌに聞こえたらあまり気分が良くないだろうし、指を2本立てて答える。

 

「……買い替えるほどではないですよね

 

 そうなのだ。

 4つだったら買い替える、3つだったら……悩む、だが2つだ。

 ただ、惜しいなぁ……という気持ちだけが募るんだな、これが。

 

まあ、あの時手に入れたことで、早くにウサギのスキル結晶が融合できたわけですから

そうだな、それに手放すのが惜しくなりそうだ

 

 というわけで、次だ。

 ダマスカス鋼の槍が数本あったが、空きスロット付きのものは1つもなかった。

 槍は今誰も使っていないが、MP回復する時のデュランダルの代用品としての使い道はあると思っている。

 

「魔法の威力が上がる槍というのは、聖槍だったかな」

「はい、聖銀を大量に使う貴重品ですから、店で扱われることはあまりないと思いますが」

 

 実際、このダマスカス鋼の槍以外には、めぼしいものはなさそうだ。

 次だな。

 

 

   スタッフ

   ・空き

 

 

 ……うーん、微妙。

 

「スタッフはロッドの上位の杖です。

 両手持ちで、棍としても使えます」

「ああ、ゴスラーが使っているのが〝ひもろぎのスタッフ〟だったな」

 

 ゆくゆくはアクセサリーに山羊のスキル結晶を融合させて〈知力2倍〉を付与する予定だから、杖の場合は空きスロットはあまり必要ない。

 だが攻撃にも使えるなら、これに〈MP吸収〉を付与するという選択肢もあるか。

 聖槍にいつ出会えるかもわからんわけだし。

 

 ……でも攻撃力低そうなんだよな。

 なんとも材質がよくわからない金属質の杖で、丈夫そうな感じはするのだが。

 いずれにしても、〈攻撃力5倍〉があってベースとなる攻撃力も高そうなデュランダルとは、比べるべくもないだろう。

 結局そうなると、多少の不便を我慢してもデュランダル出した方が良いや、ってことになりそうな気がする。

 

 そんなことを考えていると、ハンナに呼び止められた。

 

「申し訳ありません、報告が抜けておりました。

 以前、シュポワールの商人ギルドに山羊のスキル結晶を注文しておりましたが、今朝入荷されたと連絡がありました」

「おお、それはなにより」

 

 頼んでから10日くらい経ったかな?

 まあ、俺達以外にも注文しているだろうし、そんなものだろうか。

 

「それと、コウモリのスキル結晶が近々競りに出される予定です。

 ルーク殿からは、特に狙っている者はいないと聞いています」

 

 ハンナはそう言って、もう一度「申し訳ありません」と深めに頭を下げた。

 多分、アランの書状の緊急度が高かったからすっぽ抜けて、ひもろぎのスタッフの話題が耳に入って思い出したのだろう。

 ちょっとほっこり。

 

「ご主人様、ハンナさんと確認しましたが、良い品のようです」

 

 ロクサーヌがエストックを渡してきた。

 お眼鏡に適ったようだ。

 これはミリアに使ってもらうことになるが、早くウサギのスキル結晶が欲しいものだな。

 

「ではエストックと……このスタッフを買うかな」

 

 デュランダルの代用品にはならなくても、ロッドよりは強いはずだ。

 十九階層になって魔法の使用回数が増えたから、これでまた減らせると良いのだが。

 

 

 

   クーラタルの街

     防具屋

 

 

   ダマスカス鋼の額金

   ・空き

   ・空き

   ・空き

   ・空き

 

 

 

   竜革のジャケット

   ・空き

   ・空き

   ・空き

 

 

「ロクサーヌ、ハンナ、これとこれを確認してくれ」

「はい、わかりました」

 

 いやぁ、大漁だな。

 折角セリーに作ってもらった鋼鉄の額金だが、早速交代してもらうことになりそうだ。

 ちょっと悪い気もするが。

 

「装備は強いものの方が、当然良いですから」

「すまんな」

 

 合理主義者のセリーは一切気にしていないようだが、念の為一言伝えておいた。

 

 

   アルバ

   ・空き

   ・空き

 

 

「このアルバというのは?」

「魔法の防御力が高く、魔法の威力を高めてくれる服です。

 神官や僧侶、魔法使いが着る装備品です」

 

 なるほど、確かにカトリックの司祭が着ている服に似ているな。

 結構しっかりした生地だと思う。

 

「見た目の割に、重量感があるな」

「素材に聖銀を使っていますから」

 

 なるほど、分厚い防音カーテンくらいの重みを感じるが、銀糸ならぬ聖銀糸が使われているのかな。

 

「うーん、魔法職向けとなると、俺が使うのは不自然かな」

「どうでしょう、魔法防御力が高いので、前衛のジョブで着用しても大丈夫だと思いますが。

 それに……」

 

 セリーが言い淀んだ。

 

「ええと……ご主人様が装備を着てお会いすることが多いのは、ハルツ公の関係者ですよね?」

「まあ、そうだろうな」

 

 迷宮内ではそもそも魔法を使っている時点でアウトだから、ロクサーヌも他のパーティーがいる場所には近づかないようにしてくれているし。

 ボスの待機部屋ではかち合うことはあるが、それも時間をずらしたりすれば良い。

 だが、階層突破する時に入口の探索者とパーティー編成するのは避けられない。

 

「あの、昨日ビットローファーしか装備していないのに、決闘に臨んでいましたよね?

 ですからその……今更なのでは、と」

「………………ソウダネ」

 

 今日もセリーのマジレス神拳は絶好調だ、たわば。

 

 ……昨晩はベッドの中で、ロクサーヌに涙目で怒られてしまった。

 あれから人と会ったりしていたからおくびにも出さなかったが、ずっと我慢していたようだ。

 ちゃんと〈エクストリームドロップデッド〉の説明はして、危険はなかったのだと納得してもらえたが、心配させてしまったことは事実だ。

 

 今日のところは別段に気にしている様子はないが……どうなんだろう。

 実は奴隷落ちしたのがバラダム家の策略によるものだと発覚し、自力でやり返したわけだが……最後はサボーに持ってかれたからな。

 やはりあの時止めたりせずに、ちゃんと決着を付けさせてやるべきだったのだろうか。

 

「大丈夫ですか?」

「……ああ、すまんな」

 

 結論が出るはずもないことだ。

 今ここで考えていても仕方がない。

 とりあえず、このアルバは買いということで、次だな。

 

 

   竜革のグローブ

   ・空き

 

 

 

   竜革の靴

   ・空き

 

 

 うーむ……どっちもびみょい。

 だが、適当なスキルを付与して転売するには手頃でもある。

 ……いや、それでスロット1つのダマスカス鋼の剣を買って、さっきモヤモヤしたのではなかったか。

 

「ご主人様、どちらも良い品のようです」

 

 後ろからロクサーヌにそう言われて、「えっ」と慌てて振り向くが、鉢金とジャケットのことだった。

 ハンナも「状態は良いようです」と言ってくれた。

 

「ああ、ありがとう。

 では、その2つとアルバを買うとしよう」

 

 グローブと靴は……いいや。

 考えてみればすぐに売れるわけじゃないだろうし、バラダム家の連中だってまだすべてを放出したわけじゃないはずだ。

 実際、サボーが使っていた装備品はここにはないしな。

 それを確認してからでも遅くはないだろう。

 

 

 

   クーラタルの街

     道夫の家

 

 翌日、ターレの迷宮十九階層の攻略は快調に進んだ。

 硬革のジャケットをアルバに、〝ひもろぎのロッド〟をスタッフに、そしてネックレスに〈知力2倍〉をつけたら、弱点属性が異なるLv19の魔物もクールタイム1回で倒せるようになったのだ。

 

 そして昼食に戻ると、またアランから連絡があったようだ。

 

――バラダム家が資金確保を急いでいる理由が判明しました。

――彼らの狙いはドープ薬です。

――しかし、強引な資金集めによりサボーが死亡したことが露見しました。

――現在、バラダム家の被害に遭った者たちが連合しようとしております。

――一度、直接お話し致したく。

 

 ハンナが用意してくれた軽食を食べながら、また翻訳してもらった。

 すぐに出るだろうと判断して、簡単に摘めるものを用意してくれていたようだ。

 

「またドープ薬か、サボーの代役を作ろうとしているということかな」

「ドープ薬を服用しても、実際に修行を積むよりも弱いはずですが……」

 

 セリーはちょっと懐疑的なようだが、多分間違いないと思う。

 

 あのお嬢様は、自信満々でロクサーヌに突っかかっていった。

 その自信の根拠は、サボーがパーティーメンバーであることだった。

 獣戦士Lv99のパーティー効果は、それだけ大きなものだったのだろう。

 

 ということは、ドープ薬はレベルが上がるだけでレベルアップに伴うステータス上昇はないか、もしくは少ないのだろう。

 だから普通にレベルを上げた者よりも弱くなる。

 しかしパーティー効果はレベルに依存していて、それをバラダム家の連中は実感として知っているのだと思う。

 

 そう考えると、ドープ薬をかき集めて夢よもう一度って目論むのは、わからんでもないな。

 

「クーラタルで装備を売り捌いていたのは、地元で売ったら足が付くと思ったからか」

 

 ハンナに尋ねると、彼女は頷いて、

 

「あれから商人ギルドで情報を集めて参りましたが、バラダム家というのは随分恨みを買っていたそうで……」

 

 昨日大量の装備を売り払っていたが、そうやって装備を集めるのに商人などから強引に借財をしていたらしい。

 今までは力尽くで踏み倒したり期限を延ばさせたりしていたが、サボーがいなくなったら遠慮する必要はなくなる。

 つまりは債権者集会を開かれそうになっているわけだな。

 

「さて、出し抜かれてはアランの情報が無駄になるな。

 早速話を聞きに行こう」

 

 

 

   ベイル

   アランの館

 

 またミリアとカタリナに留守番を頼んで、ベイルの冒険者ギルドからアランの商館に歩いて訪問する。

 すると、俺の顔を見て店員がシュバってきた。

 

「これはミチオ様!

 ようこそお越し下さいました」

 

 更には店の奥からガタイの良い戦闘奴隷まで出てきて、壁にズラっと整列した。

 ……ここはどこ? わたしはだぁれ?

 困惑していると、商人より親父とか叔父貴とか呼ばれる職業の方が似合いそうな雰囲気のアランがやってきた。

 

「これはこれはミチオ様。

 お呼び立てして申し訳ございません」

「あ、いや、こちらが頼んだことであるし……」

 

 早速応接間に移動すると、いつものようにお茶が来るのを待つことなく、アランが本題に入った。

 

「バラダム家は魔法使いを奴隷として売ることを考えています」

「なんと」

「手前に打診して参りました。

 値段交渉中ということで、引き延ばしておりますが」

 

 展開が早すぎないかと思ったが、それもこれもバラダム家がドープ薬を確保しようとしたことが原因らしい。

 バラダム家が夢よもう一度と考えても、それは債権者達にとっての悪夢でしかない。

 ドープ薬が集まらないように関係者に回状を回し、一部の者は余計なことをしないでさっさと金を返せと迫ったそうだ。

 

「参考までにお尋ねするが、魔法使いの奴隷となると、どれほどの値がつくものなのだろう?」

「先方は最低でも100万ナールと言って参りましたな」

 

 実際、夏至にやるオークションとかに出品すれば、それ以上の値段にはなるらしい。

 だが、どう考えても時間が経つほどバラダム家は追い詰められる。

 ならば向こうの言い値を丸呑みにしてやる義理なんぞないわけで、

 

「手前は60万ナールならば、と申し上げました。

 話にならんと怒鳴られましたが……席を立つことはいたしませんでしたな」

「なるほど、それであくまで値段交渉中というわけか」

 

 アランは頷くと、ちょっと苦笑いして、

 

「どうか、強欲なとは思わないでくださいませ。

 こういう場合、下手に手を差し伸べれば債権者達にこちらが恨まれますからな」

「ははぁ、この機会に徹底的に追い詰めてしまえと」

 

 債権者連合は意図的に資金難に陥らせようとしているようだ。

 ロクサーヌの叔母の家にやった振る舞いが、そのまま返ってきているわけだな。

 因果応報、いい気味だ。

 

 それにしても、魔法使いは魔物相手に真価を発揮するジョブだろう。

 全体攻撃魔法は魔物にしか使えないし、ボール系は動きが速い相手には避けられるし。

 そんな魔法使いを手放してでもドープ薬を集める……これは迷宮を攻略するより、対人戦を重視しているという事にはならないか。

 

 ……連中、危険だな。

 思考が盗賊と変わらん。

 

「まあ、魔法使いについてはいい。

 いくら魔法使いのパーティーメンバーが欲しいといっても、バラダム家の者を迎えるつもりはない」

「それがよろしいでしょう。

 共に危険に臨む相手は、なにより信が置ける存在でなければなりません」

 

 まったくだ。

 アランは本当に、よくロクサーヌとセリーに出会わせてくれたよ。

 ここに教育を頼んだミリアも、一生懸命頑張ってくれているしな。

 

「ところで、バラダム家が所有している装備品の情報などはないだろうか?」

「はい、先方は聖槍を所蔵しております」

 

 欲しい。

 一万年と二千年前から欲しかった。

 

「他には金剛杵(こんごうしょ)もあるようです。

 あまり人気のない装備ですから、買い取りを渋られたのかもしれませんな」

「なるほど……いや、よく調べていただいたものだ」

「いえいえ、これもミチオ様が布石を敷いてくださっていたおかげというものです」

 

 なんのこっちゃと思ったら、アランの情報源はお嬢様とサボーのパーティーメンバーだった4人らしい。

 このままバラダム家と心中するのは御免だというわけだな。

 決闘の時の顛末はアランに話してあるから、それで利用できると踏んだようだ。

 

 ……一度悪事に手を染めると、次はさらに容易くなるものだ。

 やっぱり人間誠実が一番だよ。

 

「もしお求めになられるのでしたら、手前から先方に紹介することは可能でございます。

 あちらも、資金難であることを隠し通せているとは考えていないでしょうから……」

 

 アランは特にバラダム家の債権を抱えているわけではないらしい。

 取引を持ち込まれたのだから、口が堅いとも思われているはずだ。

 

 そのアランの紹介なら、善意の第三者と思われるかもしれない。

 いわゆるホワイトナイトってやつだ。

 白い明日が待ってるぜ。

 

「これから行けるだろうか?」

「もちろんです。

 既に冒険者は用意してございます」

 

 さっきの戦闘奴隷か。

 ハンナもアランも仕事が早いわ。

 

「では、セリーとハンナには来てもらうとして……ロクサーヌはちょっとここで留守番していてくれるか」

 

 恐る恐る反応を窺うと、ロクサーヌは案の定、

 

「危険です! ご主人様に何かあっては――!」

 

 怖い怖い若頭がいなくなったとはいえ、反社の根城みたいなものだし、言いたいことはわかる。

 だが、あっちにしてみればロクサーヌは娘の仇だ。

 実際に殺したのはサボーだが、そういう話に俺がしてしまった、やらかした。

 

「あくまで商談を持ちかけに行くだけだ。

 向こうは金に困っているようだし、手荒な真似はしないだろう」

「しかし、苦し紛れにということはあるかもしれません」

 

 確かに、そういう一発逆転を狙ってくることは考慮すべきだろう。

 だが、サボーを倒した俺に下手な真似をするかというと……、

 

「むしろ狼人族社会での序列を気にしてたようだから、ロクサーヌの方が標的にされると思うんだが」

「好都合というものです。

 返り討ちにしてやります」

 

 ……いや、その心配はしていないんだ。

 だがその場合、取引は間違いなくおじゃんになると思う。

 

「まあまあ、ロクサーヌさん。

 私も一緒に行くわけですから」

「手前もこの身を盾にすることくらいはできますので」

「いや、しかしそれでも……」

 

 セリーとハンナも一緒に説得を試みてくれたが……うーむ、参った。

 昨日心配させたからなぁ。

 ロクサーヌはちょっと頑なになっていると感じる。

 

「今日は……いや、今後は危険になりそうな時は、ちゃんと装備を身に着ける。

 セリーにも鎧を着てもらうから、な」

「……あの」

 

 再発防止策を提示すると、ロクサーヌの態度がやや軟化してきたようだ。

 問いかけられたので、視線を合わせる。

 

「もしバラダム家が私の叔母の家のことを持ち出してきても、無視してくださいますか?」

「……あー、聞こえていたのか」

 

 バツが悪く思っていると、ロクサーヌがクスクスと笑った。

 

「ご主人様はセリーと小声で相談する時、耳の先端に耳打ちしておられるでしょう?

 だから、ちょっとだけ声が漏れるんです」

「なるほど、それも今後は気をつけるとしよう」

 

 気まずそうに耳を弄るセリーが視界の端に映った。

 彼女の長い耳はピンッと外側に伸びているから、どうしてもそうなるんだよな。

 

 緩んだ空気の中で、しっかりとロクサーヌに向き直る。

 

「必ず身の安全を優先する、約束する」

「はい……申し訳ございません、差し出がましく口を挟みました」

 

 ロクサーヌが頭を下げて、セリーとハンナにも同じようにした。

 

「ロクサーヌには悪いと思ってる。

 仇の家の援助をするようなものだからな」

「いえ、ご主人様の装備を整えるのが最優先ですから」

「まあ、精々買い叩いてくる」

 

 そう言うと、ロクサーヌが「はい、よろしくお願いします」と笑った。

 セリー、ハンナ、今日は手加減無用だ。

 

 ……なお、アランはいつの間にか席を外していた、さすがだ。

 




アラン「末永くお幸せに」
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