加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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キャリアパス

 

   クーラタルの街

     道夫の家

 

 休日を思う存分に堪能した、その夜のこと。

 こっしょりと、ちょっとした実験をした。

 

 

   遊び人:Lv59

    効果:体力中上昇

   スキル:効果設定

      :スキル設定

      :精力増強

 

 

 色魔のレベル上昇に合わせて、〈精力増強〉の効果も強くなってるんじゃないかと思っていたのだが、遊び人ならそれが試せると思ったわけだ。

 さて、その結果やいかに。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「……ご、ご満足、いただけ、ましたか?」

 

 息も絶え絶えのロクサーヌの言葉に、ハッと我に帰った。

 セリーはというと、口をぽへーっとさせながら虚空を見上げている。

 

 ……えっと、5回やったか?

 それを2人だから、10回?

 いや、ロクサーヌから始めてたから、9回か。

 しかし途中で2人に口で1回してもらったような……やっぱり10回か。

 

 ……これもう人間やめてない?

 

「す、すまない」

 

 恐ろしいことに、これでもまだ2回変身を残している。

 色魔を有効にすれば〈精力増強〉は恐らく重ね掛けされるし、更には〈ものまね士〉で色魔をコピーすることもできてしまう。

 誇張抜きでひと晩中、いや1日中できてしまいそうだ。

 

 ……これ以上色魔のレベルを上げるのは控えよう。

 

 効果があるかは不明だが、沙門の〈介抱〉と〈布施〉で2人のHPとMPを回復しておく。

 とんでもねえ生臭坊主だ。

 詠唱せずに使ったのだが、ロクサーヌは気付いたのかこっちを見て微笑んだ。

 

「寝る前に、空気を入れ替えるとしよう」

 

 熱気が籠もって、汗がベトベトだ。

 きっと部屋は酷い臭いをしていることだろう。

 

 窓を小さく開放して、アイテムボックスから出したスタッフで〈飛燕剣〉を使う。

 そして窓辺で火照りを冷ましていると、ロクサーヌが水差しを持ってきてくれた。

 

「ありがとう。

 ……あー、すまない、昼間寝すぎたせいで、目が冴えてしまっていたかもしれん」

 

 さすがに実験していたとは言えない。

 そんな風に誤魔化すと、もう息も整ったらしいロクサーヌが「いえ、大丈夫です」と口元をほころばせた。

 

「ところで、ミリアの事でご相談したいのですが」

 

 なんだろう、増援に呼ぼうというのだろうか、ちょっと傷つくな。

 …………なんでだ。

 

「過分な厚遇を受けているのに、あまりご主人様のお役に立てていないことを、ミリアが悩んでいるようでして」

 

 全然違った。

 

「ミリアについては、俺も気になっていた。

 みんなと比べると、確固たる役割がないとでも言うか……」

 

 今は遊び人、魔法使い、ものまね士で魔法を3発使うだけで雑魚は接敵即殲滅できてしまう。

 そしてボス戦ではボスが1体で雑魚も1体だ。

 索敵をするロクサーヌとマッピングするセリーがいれば、事足りてしまうというのが現状だ。

 

 とはいえ、海女のジョブはHPと体力が上がるから、戦闘の安全性が上昇する。

 ……だから頼りにしているということは、ミリアにも何度か言葉にしているはずなんだが。

 そのことを確認すると、

 

「それについては私もセリーも言っていますし、本人も理解していると思います。

 ただ……えっと、先日手に入れたマーブリームのスキル結晶は、使われる予定はありませんよね?」

「まあ、その予定はないが……」

 

 それもこないだ話したはずだが……いや、そうかそういうことか。

 ジョブのパッシブ効果では役に立っている自覚は持てないし、更にアクティブスキルの〈対水生強化〉も使えないのであれば、自分が海女でいる意味はあるか……もっと言えば、自分が迷宮に入る意味はあるか、そんな風に感じてしまったとしても不思議はないか。

 

 〈対水生強化〉が使えないと言ったのは、あくまで杖に付与しても魔法の威力が上がらないという意味だった。

 だが実際のところ、俺の魔法メインで戦っている以上、今後ミリアがアタッカーとして活躍する未来はないだろう。

 聖槍にアルバにものまね士といきなりパワーアップした事で、ミリアの不安を助長することになってしまったか。

 

「というか、今日海に行くと言ったのは、ミリアの相談に乗るためだったのか?」

 

 そう訊くと、ロクサーヌが曖昧な表情で頷いた。

 

「……なのにすまんな、高い釣り竿を買わせてしまった」

「あ、いえ、そんな。

 釣りは本当に楽しかったですから」

 

 たっぷり昼寝して夕方に迎えに行った時は、ハーフェンの子供達も一緒になって盛り上がっていた。

 話を聞くに、魚を取り込むのに苦労していたら、手伝ってくれたらしい。

 釣具屋で売ってたのは、タモ網には程遠い(ざる)だったからな。

 対して地元民が持ってきたのは、漁船でも使えるような……なんかピッケルみたいなやつだ。

 

 なんて言ったかな、あの道具。

 マグロ漁とかで使うやつだ。

 ……頭の中が大門軍団でうるさくなってきたぞ*1

 

 よし、叡智な気分は完全に消え去ったな。

 会話に集中しよう。

 ちゃんと寝間着を着直して、ベッドの端に腰掛ける。

 

「うーん、そう遠くないうちに二十三階層まで行けると思うんだが……」

 

 二十三階層からはまた魔物が強くなる。

 それだけでなく、ボス部屋で出てくる魔物の数も1匹多くなるらしい。

 そうなれば、自然とミリアに頼る場面も増えるはずだ。

 

「ミリアにもう少し辛抱するよう、言い聞かせます」

 

 ロクサーヌがそう言いながら、固く絞った手ぬぐいで首筋を拭ってくれた。

 もう一度〈飛燕剣〉を使う。

 拭いてもらったところが、ひんやりして心地良い。

 

 ……うーん、もうちょっと長期的に考えるべきか。

 つまり、仲間が増えた時のことだ。

 

 残りのパーティーメンバーの枠は2つで、1枠は魔法使いを探す必要があるだろう。

 もう1枠は竜人族が強いと聞くから探しているが、竜人族の固有ジョブである竜騎士は、特に防御に秀でてるジョブらしいんだよな。

 とすると、ミリアの役割はいずれ食われかねない。

 

 まあ、残りの1枠を竜騎士にしなければならないわけではないのだが……ミリアをこのまま海女にしないといけないわけでもないのだ。

 

「いや、ミリアには別のジョブを試してもらうか」

 

 2人に「何が良いかな?」と水を向ける。

 ぱっと思いつくのは〈MP小上昇〉と〈知力微上昇〉の効果がある巫女なんだが、それもパッシブ効果だしな。

 〈全体回復〉を使ってもらう機会は、恐らく滅多にないだろう。

 

「灌木のスキル結晶もあるのですから、暗殺者はどうでしょう?」

 

 セリーが言った。

 〈知力小上昇〉で魔法攻撃力が上がるし、〈状態異常確率アップ〉もある。

 もしボスを状態異常にすることができたら、間違いなく大きな貢献と言えるだろう。

 

 なるほど、それがあったかと感心したが、当のセリーは浮かない顔をしていた。

 

「申し訳ありません。

 実は先日ドープ薬を使った時に、ミリアが戦士のレベルを上げようとするのを止めてしまいました」

 

 セリーが俺とロクサーヌに頭を下げた。

 最初はセリーが自分が暗殺者になることを考えて、それを聞いたミリアが続いたという話だったようだ。

 鍛冶師だけでも十二分に貢献しているというのに、意欲的というかなんというか。

 

 ともあれ、ミリアがパーティーメンバーになってから安定感が出たということで、セリーは止めたらしい。

 

「いや、あの時は戦闘時間が延びてきていたしな」

 

 それで被弾が増えていることを俺が気にしてしまったから、セリーはそれに忖度したのではないだろうか。

 数日で魔法攻撃力が倍近く上昇することなんて、予期できるわけがない。

 あくまで気にしないようにと伝えると、セリーがしっかり頷いた。

 

「では、明日からミリアには戦士をやってもらおう」

「はい、お聞き届けいただき、ありがとうございます」

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 翌朝、ミリアに『痺縛(ひばく)のエストック』を渡し、海女から戦士、そしていずれは暗殺者になってもらうことを伝えた。

 灌木のスキル結晶をそれだけで融合すると〈麻痺付与〉に、コボルトのスキル結晶と合わせて融合すると〈麻痺添加〉のスキルが付与される。

 そしてその場合、枕詞には〝痺縛の〟が付くようだ*2

 

 ミリアは喜び勇んで受け取って、俺と融合したセリーに頭を下げた。

 特にセリーに対して含むところはないらしい。

 あるいはロクサーヌが何か言い含んでおいてくれたのか。

 

 ともあれ、2日ぶりの迷宮探索だ。

 連休前に十九階層まで探索したから、今日からは二十階層だ。

 

 クーラタルがラブシュラブ、ハルバーがハットバット、ターレがフライトラップだった。

 どれも何度も戦った相手だし、ものまね士のレベルも上がったことで、同じく魔法3連発で片付いた。

 この階層も1日で突破して、翌日も朝から二十一階層の探索も順調に進んで、

 

「Lv28だから、今日中には暗殺者になれそうだぞ」

 

 昼食のために帰宅して、ハンナから安く落札できた蝶のスキル結晶を受け取って。

 そして、午後の探索開始時のミーティングでそう声を掛けると、ミリアが「はい! 頑張ります!」と意気込んだ。

 

「は、早すぎます……」

 

 セリーが唖然とした顔になった後、「い、いえ、疑っているわけではないですが」とブンブン手を振った。

 

 ……うん、まあ気持ちはわかる。

 約2日でLv30になれるなら、ドープ薬を使う時に勿体ぶって、「レベルを上げたいジョブは探索者でなくても構わないから、朝までに考えておいてくれ」とか言ったのはなんだったんだって思うよな。

 

 ドープ薬を使う前と後で、本当に効率が一気に変わった。

 開幕ブッパで殲滅できてしまうから、魔物を選定する必要がなくなって探索効率も良くなる。

 当然戦闘時間も短いし、回復の手間もなくなる。

 

 そして、レベルが上がって存在感を更に増してきたのが、ものまね士だ。

 遊び人のレベルが上がると〈効果設定〉で設定した効果も上昇することは恐らく確実だが、ものまね士はそれに加えて基礎ステータスも上がってると思う。

 要するに、ものまね士Lv30で魔法使いを〈ものまね〉した時、ステータスも魔法使いLv30のものになるのではないかということだ。

 

 感覚の話なので厳密にはわからないが、最大MPが跳ね上がっている気がするんだよな。

 魔法使いの取得前後で〈ワープ〉による負担が大分変わった記憶があるが、それと同じような感じだ。

 

 加えて今は、〈フィフスジョブ〉、〈必要経験値二十分の一〉、〈獲得経験値二十倍〉で探索している。

 これがドープ薬を使っていなかったら、〈セブンスジョブ〉、〈必要経験値十分の一〉、〈獲得経験値十倍〉になっていたことだろう。

 だから約2日が最低でも4日にはなっていたはずだ。

 

 加えて殲滅速度も落ちて二十一階層に辿り着くのも遅くなっていたはずだから、経験値効率はもっと悪くなっていただろう。

 4日が8日、あるいは10日以上掛かった可能性だってある。

 

 ……どっちにしても早いと言われそうだな。

 とはいえ、「君の今後のキャリアにまるで役に立たないかもしれないけど、ちょっと試しにやってみてよ」とか言いにくいのよ。

 俺の意向が基本的に100%通ってしまうからこそ、尚更だ。

 

「あー……皆も他になってみたいジョブがあるなら、希望は受け付けるが」

 

 罪滅ぼしではないが、そんな話をしたところ、

 

「それでは」

「私達も」

 

 と、ロクサーヌとセリーも暗殺者になりたいと言い出した。

 ……字面が物騒すぎる。

 ここはアサシン教団か。

 

 とはいえ、獣戦士は回避や行動速度に影響する〈敏捷中上昇〉があるし、鍛冶師は言うまでもない。

 

「2人には獣戦士や鍛冶師を続けてほしいんだが……」

 

 と確認してみたところ、完全に転職するわけではなく、敵との相性を考えて有用な時にジョブを変える。

 そんな運用を考えているらしい。

 ゆくゆくは状態異常装備を揃えるという話は共有済みだったし、確かにそれもありだな。

 

「とはいえ、一斉にジョブを変えるのは危険だ。

 ミリアが暗殺者になって、ある程度慣らしてからでも構わないか?」

「はい、それでお願いします」

 

 そういうことになった。

 さて、暗殺者はどんな感じだろうか。

 

 

 

   ターレの迷宮

    二十一階層

 

 午後の探索を再開してしばらくして、予想通りミリアは戦士Lv30になることができた。

 ロクサーヌ監督の指導の下、ミリアとついでにセリーにもコボルトが毒死するまでの様子を観察してもらって、そういう記憶に留めておきたくない光景はさっさと忘れて、ミリアを暗殺者にした。

 そうしてしばらくレベル上げして、

 

「やった、です」

 

 ボス部屋の手前で試運転すると、あっさりケトルマーメイドが麻痺状態になった。

 グッと拳を突き上げたミリアに、すかさず声をかける。

 

「おお、やったな」

「はい、よくやりましたね、ミリア」

「あっさり麻痺しましたね、すごいです」

 

 ロクサーヌとセリーも追撃すると、ミリアは「はい!」といい笑顔を見せてくれた。

 良き良き。

 

 それにしても、ひょっとこのお面のような顔の残念人魚が動きを止めると……なんともシュールな光景だな。

 なにしろよくよく見ると、ケトル(やかん)みたいな頭部がプルプル震えているのだ。

 今にも頭がフットーしだして、ピーッって蒸気を出しそうだ。

 

 ……いかん、これ以上見るな、想像もするな。

 

「一度麻痺すると、どれくらいの時間で治るんだろう?」

「決まってはいませんが、それほど長くはかかりません」

 

 静止芸中のひょっとこ人魚から視線を外してセリーを見ると、すぐに回答が返ってきた。

 麻痺は人間も魔物も同じで、戦闘中に治ることも結構あるという。

 そして人間の場合は薬を使うか、安全な場所に避難したりするが、

 

「魔物の場合は人間より早く治るという人もいますが、気の所為だという人もいます。

 ただ、強い魔物ほど早く治るとされています」

「なるほど、よくわかった」

 

 さすがはセリー、120点満点の回答だ。

 精神とか体力とかのステータスが、状態異常に対する耐性に影響しているのだろうか。

 だからステータスの高い魔物ほど早く治る、というのは有り得そうだな。

 

「ご主人様」

 

 会話している間に、ケトルマーメイドが回復したようだ。

 〈サンドボール〉を3連発して片付ける。

 

「1分くらいは麻痺してたかな?」

「はい、それくらいです」

 

 クールタイム2回分くらいか。

 階層を上がっていくと、こうはいかなくなるのだろうが。

 

「では、次はボトルマーメイドで試してみるか」

『はい!』

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 ターレの迷宮の攻略トップランナーは俺達だ。

 誰もいない待機部屋を素通りして、ボス部屋の扉を開ける。

 

 

   ボトルマーメイド

      Lv:21

 

 

 

   ケトルマーメイド

      Lv:21

 

 

 弱点属性が同じ組み合わせだ。

 開幕ブッパで主砲(サンドストーム)斉射三連、これで残るはボスだけだ。

 

「じゃあミリア、頼んだぞ」

「はい!」

 

 ミリアが先頭になって、ボトルマーメイドを一突きした。

 

 ケトルマーメイドがひょっとこなら、ボトルマーメイドは頭の先が尖った瓶のような形をした残念人魚だ。

 ほっそりした永沢君みたいな人魚だ。

 ……駄目だ、さっきから微妙に笑いの(ウェーブ)がきてる。

 

「攻撃に集中を!」

「はい!」

 

 ロクサーヌの声にドキッとしたが、言われたのは俺じゃなくてミリアだ。

 人魚の足元――尻尾元? に展開した魔法陣を、ロクサーヌが〈詠唱中断〉で掻き消していた。

 

 クールタイムが解けるのを待って、更に微妙に一呼吸ずつ置いてから〈サンドボール〉を3連発。

 ボトルマーメイドはまだまだ元気だ。

 倒れることはないが、麻痺することもない。

 

 ……博徒の〈状態異常耐性ダウン〉を使うべきかな?

 だが、今後よほど苦戦する相手でもなければ、博徒のジョブを有効にすることはないはずだ。

 今ここで状態異常にするためだけに使う意味はないと思う。

 

 更に〈サンドボール〉を使う。

 次にクールタイムが明けたら、恐らくボスは倒れてしまうが……、

 

「やった、です」

 

 どうしたもんかねと気を揉んでいると、ミリアがそう宣言してフンスと鼻息を吐いた。

 

「おおっ、素晴らしい。

 よくやったぞ、ミリア」

「ええ、本当によくやりましたね」

 

 ロクサーヌと一緒に目一杯労う。

 実際、素晴らしい。

 麻痺は比較的成功しやすい状態異常らしいが、前にセリーにコボルトイェーガーを小突き回してもらった時より、はっきり早く成功した。

 

「ご主人様、ボスですから、麻痺から回復するのも早いかもしれません」

「おっと、そうだったな」

 

 気を引き締め直して見守る。

 ややあって、ボトルマーメイドがまた動き出したのを確認してから〈サンドボール〉を叩き込んだ。

 

「さっきの半分くらいかな」

「そうですね」

 

 クールタイム1回分と考えれば、十分ありがたいな。

 その時間に回復するなり、デュランダルに持ち替えるなりする時間はあるだろう。

 

「ボスでもこれくらいの時間止められるなら、今後MP回復する時はミリアに麻痺させてもらうのが良いかもしれんな」

「はい、それは良いですね」

 

 ロクサーヌがすかさず同意した。

 基本的に、俺が敵前に出るのを心許なく思っているフシがあるな、ロクサーヌは。

 全くもって正しい。

 

 ミリアは「お、お、お、お」と震えた後、

 

「はい! やります!」

 

 元気良く言った。

 

 なにはともあれ、良かった良かった。

 これでミリアも居心地の悪い思いをすることはなくなるだろう。

 

 

 

   クーラタルの街

     道夫の家

 

――パシッ!

 

 竿先から垂らした疑似餌を眼前にチラつかせると、タマがジャンプしてそれを弾いた。

 ……やるじゃないか。

 もう少し高くしてみるか。

 

 タマと遊びながら、夕飯の支度を待つ。

 今日は新しいジョブになったということで、尾頭付きでお祝いだ。

 

 暗殺者(アサシン)が 良いねと(みな)が 言ったから

  七十九日は 暗殺者記念日

 

 ……うーむ、語呂も悪ければ縁起も悪いな。

 

――パシッ!

 

 夕方になったからか、タマは絶好調だ。

 猫は夜行性というイメージがあるが、これくらいの時間が活発なんだろうか。

 朝食前と夕食前の頃だと、全身全霊をかけて遊んでくれるのだ。

 

 そういえば暖かい季節になると、夜中にとんでもない鳴き声を上げる野良猫がいたものだが……タマもそうなるのかな。

 さすがに発情期がくるのはまだだと思うが。

 ……まあ、その時はその時だ。

 

――パシッ!

 

 ふふふ、もうちょい高くしよう。

 

「そういえば……」

 

 装備品の手入れをしているロクサーヌの方を振り向くと、いつもより3割増くらいの笑顔で「どうされましたか?」と返された。

 

 なんかこう……声音と視線に生暖かいものを感じる。

 

「いや……釣具屋にこの竿の感想を聞かせることになってたのを思い出してな。

 ロクサーヌとミリアも、釣り竿の感想を言うと良いだろう」

 

 おまけしてくれたのだし、釣りを続けるなら今度も付き合いが続くだろう。

 こういうお礼はしておいた方が良い。

 ロクサーヌもそう思ったのか、「そうですね」と笑顔で頷いた。

 

 なんかこう……いつもに比べると、「そうですねw」くらいの温度差を感じるというか。

 

――スカッ

 

 おっと、ちょっと高くしすぎたかな。

 

 ……いや、これは訓練だ。

 ネズミやゴキブリを駆逐する戦士となるための訓練だ。

 虎だ! お前は虎になるのだ!

 

――パシッ!

 

おっ

 

 さっきより深く踏み込んで、高く跳んだな。

 こいつ……戦いの中で成長しているというのか。

 

やるな

 

 ロクサーヌがくすりと笑った気がする。

 ……いや、気にならんが?

 全然気にならん、全く。

 

 もう一度釣り糸を垂れると……しかし、タマはその場でぐるぐる回り始めた。

 疲れたか? それとも飽きちゃったかな?

 と思っていたら、誰かに疑似餌をむんずと掴まれた。

 

「……は?」

 

 掴んだのはミリアだ。

 まさか疑似餌に反応したわけではない……と思うが。

 

「あの……今日は、タマ、お風呂、カタリナ、やってくれます」

「はぁ……まあ、良いんじゃないか?」

 

 毎日世話するのも大変だろうし、代わってもらうのは別に良いと思うが。

 

「だから、えっと」

 

 ミリアが何やらもじもじとし始めると、固く握られた疑似餌が引っ張られる。

 

「今日は、ご主人様、洗っても、良いですか?」

「……は?」

 

 ……次の日、不思議なことが起こった。

 皆、揃って寝坊したのだ。

 

*1
「マグロ、ご期待ください」

 なお、道夫さんが思い浮かべているのはギャフという漁具で、棒の先に鉤爪がついたものです。

 網に入らないような大物を釣り上げる際に、魚体に引っ掛けて取り込みます。

*2
 本作オリジナル設定です。

 原作では最初に〈石化添加〉を付与しているため硬直のエストックとなっています。

 そして複数スキルを付与しても名称は変わらないため、〈麻痺添加〉を最初に付与した場合の名称は不明でした。




本当はドープ薬でミリアをさっさと暗殺者にしたかったんですが(騎士もOKなら多分なれるでしょう)、ドーピング前の状態だとその決断はできないだろうなと思い、回りくどいことになってしまいました。
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