昨日注文したベッドが到着する予定です。
私とハンナさんはご主人様の伴をするので、
戻る前に到着したらセリーとミリアに
対応をお願いします。(ロクサーヌ)
↑わかりました。(セリー・ミリア)
※ここからしたはごしゅじんさまのめもです。
春81日
終日:外回り
クーラタルの街
商人ギルド
昨日は恐らく、連日の疲れが出たのであろう。
寝坊してしまったので、午前中はいつもの中古家具屋にベッドを買いに行った。
今のベッドより大きい物になると特注する必要があったので、同じサイズのベッドを追加で購入だ。
横向きにして連結して使えば、4人で寝ても楽々だろう。
その時ついでに商人ギルドに顔を出したら、アランから「明日、クーラタルの商人ギルドでお会いいたしたく」という手紙が来ていたのだった。
というわけで、今日はロクサーヌとハンナの3人で商人ギルドに〈ワープ〉してきたのだが……、
「おおっ、ミチオ様。
冒険者になられたのですな」
ギルドのロビーで待っていたらしいアランが、目を見開いた後「おめでとうございます」と一礼してきた。
「ありがとう。
といっても、実は元々冒険者だったのだが、今までは訳あって……な」
アランは俺がロクサーヌを買った時は村人で、その後は探索者だったことを知っている。
これはインテリジェンスカードを何度も見られているからなので、公爵達のように「フィールドウォークを使っているから冒険者だな、ヨシッ!」と誤魔化すことはできなかった。
だからこれまで結構気を使っていたのだが、ようやくすっきりした。
「なるほど……探索者ギルドと冒険者ギルドは不仲ですからなぁ」
どんな訳があったか訊かれるだろうかと思っていたが、特にそんな様子はなく、適当に納得してくれたようだ。
この場には他に見覚えのある商人や仲買人がいて、俺が何度もロビーの壁を使っていることを知っているはずだが、気にした様子はない。
もし訊かれたら、貴族と会うので一時的に冒険者をやめていた、と言うつもりだった。
実際、セルマー伯関係でこないだ探索者に戻っていたことは事実だ……という設定だからな。
話の細かい整合性なんかは調べようもないだろうし、最終的に帳尻が合えば良いのだ。
アランが部屋を手配してくれたそうなので、大人しくついて行く。
「こちらです」
中にはアランの戦闘奴隷である冒険者と、先日奴隷落ちした魔法使いがいた。
元バラダム家の人間だからちょっと身構えたが、ロクサーヌは特に気にする様子もなく俺の後ろに控えた。
「実は、本日のオークションでこの者をお披露目しようと思っております。
最低入札価格は、200万ナールです」
その値段では、買い手が現れることはないだろう。
だが、「念のため、あらかじめお伝えしておこうかと」とアランは穏やかに言った。
「奴隷のオークションは休日に行われるのではないのか?」
「はい、左様です。
しかしだからといって、出品が禁止されているわけではありませんので」
「……なるほど?」
で、だからなんだ。
思わず首を傾げていると、アランがハンナの方を見た。
それを受けて、ハンナが口を開く。
「この時期に行われるオークションのご説明は、先程させていただきましたが――」
うむ、してもらった。
今日は81日、春と夏の間の休日まで、あと10日だ。
江戸時代の商家が盆と大晦日に決算していたように、こちらでは各季節の終わりに同じようなことをする。
この決算の習慣と、休日のオークションのどっちが先にあったのかは知らない。
だが、資金繰りとオークションの種銭集めのために、色々と物が動くのだという。
バラダム家が聖槍を売ろうとした時に、仲買人に時期が悪いと言われたようだが、これが原因だ。
この時期は需要に比べて供給が増える。
決算が落ち着く春の終わり際や、あるいは夏まで待つようにというのは、仲買人の本音の助言だろう。
……空気が読めてないとも言えそうではあるがな。
金に困ってる人にそんなこと言ったら、そらキレるよ。
時期が悪いおじさんは、人を苛立たせるのが上手い。
ともあれ、今の時期には普段には出てこない出物があったりするらしい。
良い装備品が見つかるかもしれないから、しばらくは毎日ギルドに顔を出すのが良いだろう。
夕方に来れば、翌日出品される品は先に見ることができる。
……と、さっきハンナの話を聞いて決めたのだ。
「――出品するのも無料ではありませんから、普通は妥当な値段で出品されます。
誰も落札しなかった場合にはペナルティとして預託金が没収されますし、不相応な値付けをする身の程知らず……と、評判に関わります」
なんとなく、競走馬のセリ市の話を思い出した。
サラブレッドがデビューするまでに、地域や時期が異なる競り市が何度か立つが、売れないと主取りというのだったか。
後の名馬が眠っていることもあると言うが、滅多にあることではないだろう。
まだピンと来てない俺に、ハンナが「しかし」と強く言って、
「あえて法外な値付けで出品することで、お披露目とする場合もあるのです。
無論、半端な代物、半端な値付けでは侮られてしまいますが……」
なるほど、確実に高値が付くようなものなら、そうはならないと。
つまり広く周知する宣伝というか、客の反応を見る観測気球というか、そんな感じか*1。
色々考えるものだな。
当たり前だが、客の財布の中身は有限だ。
事前に金を使われてしまって、競りが盛り上がらず安値で落札されてしまった……なんてことも起こるかもしれない。
もちろん、オークション当日にもお披露目する時間は設けられると思うが。
だが現実的問題、直前に目玉商品が発覚したからって、100万ナールをポンと用意できる者はそうはいないだろう。
事前に見せておけば、それ目当ての客が金策する時間が生まれて、本番はより高額の入札が期待できるわけか。
「本日はこのクーラタルで、明日は帝都を回るつもりです。
戦闘奴隷の需要が高いのはクーラタルですが、富貴の者が多いのはやはり帝都ですからな」
アランは魔法使いの奴隷を売るために、色々策を巡らせるつもりらしいな。
ありがたい限りだ。
なんかの間違いで200万ナールで売れてくれたらもっとありがたい。
「ついでに、休日のオークションの出物を確認して参ります。
お探しなのは、先日お伺いした時からお変わりありませんか?」
竜人族の前衛と魔法使い。
以前相談した条件で間違いないので、「よろしく頼む」と頷いておく。
ついでに、
「それとは違うが、実はドープ薬を集めているのだが」
〈必要経験値二十分の一〉と〈獲得経験値二十倍〉と〈フィフスジョブ〉、そして〈鑑定〉やら〈詠唱省略〉やらを諸々合わせてボーナスポイントが151必要だ。
遊び人Lv59になって最大BPは157だから、6ポイント余裕がある。
だがここにあと10回の追いドーピングをキメると、〈フィフスジョブ〉を〈シックスジョブ〉にアップグレードできるのだ。
遊び人、冒険者、英雄、魔法使い、ものまね士の5つはどうしても代えが利かない。
どれか1つを入れ替えて別のジョブを試してみよう、という事ができないのが困りものだ。
2個だけ残してあるから、あと8個あれば良い。
更に32個あると〈セブンスジョブ〉にできるが、あまりレベルを上げるとLv99になってしまう。
〈エクストリームドロップデッド〉が俺だけしか使えない保証はないから、それはちょっと考えものだ。
「ドープ薬でございますか、集めることは可能ですが……」
バラダム家に訊けばわかるかもしれないが、そんなことは御免だ。
だがバラダム家と付き合いがあったアランならと思ったのだが、心当たりがあるようだった。
「ドープ薬は、奴隷にたまに服用させることがございます。
例えば探索者と冒険者では、値打ちが大きく異なりますからな」
もちろん、探索者Lv1を冒険者にするのでは割に合わない。
だが5個とか10個とかだったら考慮に値する……そんな感じらしい。
他にも、貴族や商人も子弟のために使う場合がある……これも以前ハンナに聞いたかな。
だから帝都なら持っている家も多いし、知り合いの商人にも訊いてみるとアランは引き受けてくれた。
ただし、
「まとまった数となりますと、値段もそれなりのものになりましょう」
アランが気遣わしげな表情をした。
こないだ100万ナール以上使って、追加の戦闘奴隷も探していて、予算は大丈夫でしょうか? ……そんなところか。
後頭部にロクサーヌの心配そうな視線を感じる気がする。
「あるいは、闇オークションであれば安値で手に入れることも可能かと思いますが」
「……そんなものもあるのか」
身を乗り出して声を潜めながら、アランが説明してくれる。
真っ当な商売ができない盗賊が利用するようなオークションが、やはり今度の休日に行われるのだそうだ*2。
別に盗品だけというわけではなく、盗賊がドロップしたスキル結晶とかもあるようだ。
ギルド神殿での鑑定なんかできないから、贋物を掴まされても自己責任の自力救済だそうだが。
「実は、手前も今季は足を運ぶことを考えていました。
狙っていたのは自爆玉です」
動機になったのは、盗賊が自分の家で盛大に爆死したことだとアランは言う。
原因は俺がボーナス呪文の〈等量交換〉を使ったからだが、アランは自爆玉が使われたのだと信じている。
故に、これは何処かの貴族家が盗賊の被害に遭ったのでは……と見込んでいたらしい。
もちろん、俺がバラダム家の自爆玉をアランに渡したことで、そんな危険な橋を渡る必要はなくなったわけだが。
アランはハンナに一瞬だけ視線を向けて、
「それで以前調べさせておりましたところ、北部で盗賊の跳梁を許した
あるいはドープ薬も流出しておるやもしれません」
……いやぁ、どこかで聞いたような話だなぁ。
それにしても、決意の指輪の件はそれなりに噂に上がっているらしいな。
俺が関知できない所で、セルマー伯の
「い、いや、さすがにそこまでして求めようとは思わない」
とはいえ、大元は本人のチョンボだからな。
ただ、歴史上の悪人とか戦犯とかされている人物も、ついでにこれもこいつのせいにしたろか……って感じで悪役を押し付けられたりしたのかもしれない。
そんなことを思った。
「あー……そうだ、知り合いで持っている者がいるというのなら、夏にでも譲ってもらうことはできないか、下交渉だけでも頼めないだろうか?」
「なるほど、その程度であれば造作もないことです。
倅を走らせましょう」
アランが魔法使いを高く売ってくれれば、俺の懐にはざっと数十万ナールの取り分が入る。
その後ならば、ドープ薬を買うくらいなんてことはないだろう。
お金はあるんだから、真っ当に商取引をしよう。
「そうそう、倅といえば、今回は鳥のスキル結晶が安く手に入ったようです。
ご入用でしょうか?」
鳥の? どんなスキル結晶だったろうかと言葉に詰まっていると、ハンナが「アイテムを探しやすくなるスキルを付与することが可能でございます」と耳打ちしてきた。
ああ、〈魔物探知〉のアイテム版か。
たまに迷宮に落ちてる黒魔結晶や、宝箱の場所がわかる地味に便利そうなスキルだが、
「すまないが、実はミリアが……」
夜目が利くミリアなら、薄暗い迷宮でも目ざとく見つけてくれる。
そしてソマーラの村の自警団は、主に村の外で狩りをしているわけで……森の中だから、落ち葉の下とか木の洞とかに入り込む事もあるかもしれないけどさぁ。
「左様でございますか」
アランが長めのため息を吐いた。
……。
…………。
………………。
アランとの会話を終えて、他に外回りの用事を片付けたら、また夕方にギルドに顔を出した。
明日のオークションの出物を確認するためだ。
装備品を探すためだから、ハンナと今度はセリーも連れてきたところ、
「これはこれは、ミチオ様。
本日のうちにお会いできるとは思いませんでした」
ロビーに顔を出したら、今度はルークに見つけられた。
特に隠すようなことでもないので素直に目的を話して、
「その口ぶりだと、何か用があったのだろうか?」
「まあ、少々……ああ、品蔵はこちらでございますよ」
ルークは何やら言い淀んだ後、人目を気にする様子を見せながら歩き出した。
周囲からは「魔法使い」とか「最低でも白金貨」などと話す商人連中がいる。
アランの宣伝は上手いこといったらしい。
やがて人目のない所まで来ると、ルークに小さな紙片を渡された。
「ハルツ公閣下からのお便りです。
先程、ミチオ様に直接お渡しするよう、ご使者の方より仰せつかりました」
「……なるほど、確かに受け取った」
この場で開けない方が良いだろう。
……どうせ読めないし。
「そういえば、お聞きになられましたか?
今日は魔法使いの奴隷が出品されたのですよ」
手紙を懐にしまうと、一転ルークが明るい口調になった。
後ろから話し声が聞こえる、誰かが近づいてきているようだ。
「おおっ、それはすごいな」
「はい、滅多にないことでございます。
休日のオークションは盛況になるでしょう」
能天気に話しつつ、歩みを再開した。
ルークによると、早速明日から例年より多くの出品が見込めるらしい。
休日に向けて、資金確保に奔走する者が増えたためだろう。
「ほう、それは楽しみだ」
明らかに売れない価格設定で出品して、商人ギルドに何の利益があるんだろうと思ったが、そういう副次作用があったのか。
ルークも「誠に結構なことで」と顔を綻ばせている。
仲買人はオークションで代理で競り落とすと手数料を得ることができるからな。
「スキル結晶の出物もございます。
お気に召すものがあれば良いのですが」
「そうか、コボルトのスキル結晶も手に入りやすくなると良いのだが」
コボルトのスキル結晶は、ずっと高止まりしている。
いつぞやまとめ買いしたりビッカーに落札してもらったりしたのだが、ロクサーヌの〝強権のダマスカス鋼剣〟と〝駿馬のダマスカス鋼デミグリーヴ〟、セリーの〝耐水の竜革帽子〟、ミリアの〝痺縛のエストック〟、そしてソマーラの村の自警団に貸し出した〝警戒の硬革帽子〟。
これで5つも使ってしまった。
アランの倅が仕入れてくれた1つがなければ、全部溶かしてしまうところだった。
今日もソマーラの村に行ったら、自警団はきっちりスキル結晶をゲットしてくれていのだが、それがボトルネックになって融合に踏み切ることができないでいる。
セリーとロクサーヌの2人に〈詠唱中断〉があれば、今のところ十分ではあるのだが、他に融合したいスキル結晶はいくつもある。
「コボルトのスキル結晶ですか、それは……」
ルークは渋い顔で言い淀んだ後、「ご覧いただいた方が早いですね」と両開きのドアを示した。
翌日の出品物が保管されている部屋だ。
前にハルバードを〈鑑定〉するために、入れてもらったことがある。
「どうぞこちらへ」
ルークの案内で部屋の一角に向かう。
棚の上に、名札らしき紙と一緒にスキル結晶がいくつも置かれていたが、
「コボルトのスキル結晶はありませんね」
目一杯背伸びしながらのセリーの言葉に、ルークが「仰るとおりで」と肩を竦めた。
紙はやはり名札で、スキル結晶の種類が書かれているらしい。
〈鑑定〉の結果もそう言っている。
欲しいところとしては……珊瑚が確か石化だったな、エストックに是非とも融合したい。
サイクロプスは〈攻撃力2倍〉、聖槍に〈MP吸収〉と一緒に付与するのが良いと思っているが……まあ、デュランダルがあるからなぁ。
あと、豚は土属性を付与するやつだったか……属性系は付与術士があるから優先度を下げていいな*3。
ま、それもこれもコボルトのスキル結晶がないといかんのだが。
「この通り、事前に買い占められてしまいました。
はさみ式食虫植物のスキル結晶も同様です」
「……はさみ式食虫植物の方は覚えてないが、コボルトのスキル結晶は随分前から値上がりしていたと思ったが」
コボルトのスキル結晶が値上がりしてるという話を聞いたのは、何十日も前のことだ。
少なくとも、ミリアと会うよりは前だったはずだ。
別に流れ理論とか信じているわけではないが……
俺のそんな引き気味の顔を見てか、ルークが苦笑いした。
「実際苦労しているようで、鍛冶師を代えようと方々に声を掛けているようです。
当家にも鍛冶師はおりますが、今は忙しくしているので断りました」
多忙の原因は間違いなく、公爵からのノルマだろう。
ルークはセリーの方にちらっと視線をやってから、
「もしご興味がお有りでしたら、ミチオ様も挑戦なさいますか?
なかなか勢いのある家ですから、貸しを作っておいて損はないと思いますが」
見られたセリーが、一瞬だけ嫌な顔をした。
セリーは鍛冶師の質が〈スキル結晶融合〉の成功率に影響しないことを知っている。
自分が成功率100%なのは、俺の〈鑑定〉があるからだということも。
「うーん……どんな武器にスキル結晶融合させようとしているのか、わかるだろうか?」
断ろうとも思ったが……それにつけても金の欲しさよ。
ルークは意外そうな顔で身を乗り出した。
「そこまではわかりかねますが……もしかして、お持ちなのですか?」
「ああ、MP吸収がついたスタッフであれば用意できる」
セリーが小さく頷いた。
手持ちのスタッフに、空きのスキルスロットがあることは話してあるからな。
そして、アランの倅がはさみ式食虫植物のスキル結晶を仕入れた時も同席していた。
……やっぱり鳥のスキル結晶も買っておいた方が良かったかな。
倅殿には幸運補正があるような気がする。
「なるほど……スタッフであれば十分でしょう」
スタッフを買ったすぐ後に聖槍が手に入ったから、ほとんど使わず家で扇風機の代わりになっている。
確か5万ナールくらいしたかな?
スキル付きなら、5倍以上にはなるだろう。
「先方に譲るに当たって、条件などはございますか?」
「細かい値段は後で交渉するとして、コボルトのスキル結晶が余っていたらそれもつけてほしい」
ハンナを見ると、そっと頷かれた。
値段交渉は任せたぞ。
「わかりました。
先方にはそれで話を持ちかけてみましょう」
不敵な笑みを浮かべて、ルークは去っていった。
「……すまんな、セリー。
勝手に話を決めてしまって」
それを見送ってから、セリーに謝っておく。
「いえ、ご主人様が見立てたスタッフなのですから、何も問題はありません。
使い道がなくなった装備が高く売れそうなのですから、無駄もないですし」
なんともセリーらしい返事だ。
そういえば、使い道がなくなったといえば『ひもろぎのロッド』もそうだ。
どうするかな……出品するか?
「っと、時間も時間だし、さっさと見て回ろうか」
「はい、装備品はこちらになります」
思わぬ時間が掛かってしまった。
考えるのは後にしよう。
最近規則正しい生活をしてるから、この時間になると腹が減るんだ。
さて……ぱっと見しただけで、結構見覚えのないものも混じっているな。
ハンナとセリーの説明を聞いてみたいところだが、今日のところは〈鑑定〉をフル稼働して、空きのスキルスロットが3つ以上ある装備品だけを確認すれば良いだろう。
「あー……っと、是非とも欲しいのはこれくらいかな」
聖銀の胸当て
・空き
・空き
・空き
・空き
・空き
いつぞや、エルフ武器商人がロクサーヌに貸してくれた胴装備と同じものだ。
セリーとハンナに「聖銀の胸当てだ」と言いつつ手をグーパーさせて、空きスロットが5つであることを示す。
「……ところで、聖銀装備はかなり貴重なんだよな?」
状態を確かめている2人に、おっかなびっくり疑問を投げかけてみる。
聖銀は魔法防御が上がったりする、貴重な素材らしいのだ。
あと、たまにミスリルって言ってしまいそうになる。
「その通りですが、胸当ては見ての通り聖銀の量が少ないです。
見栄えは良いのですが、身を守れる範囲も小さいですから、あまり実用的ではないとされています」
セリーがそう言って、「これも実戦で使われたことはなさそうですね」と鼻を鳴らした。
なるほど、ビットローファーのようにファッション重視ということか。
「とすると、案外売れ残ったりするだろうか?」
「さて……セリーさんが仰ったように、見栄えがよろしい品ですから。
クーラタルで反応が悪ければ、帝都の方に持ち込まれるかもしれません」
うーむ、安く手に入ればと思ったのだがな。
……いや、逆に考えよう。
最初にクーラタルに持ち込んでくれて良かったと。
空きスロット5は極めて魅力的だから、結局のところ買い一択だ。
見つけたのが帝都だったら、競り合いになって加熱したかもしれない。
だがクーラタルなら、そこまでいかずに手に入れられるのではないだろうか。
「では出品されたら、これと珊瑚のスキル結晶の購入を頼む。
金策の目処は立ったし、上限は気にしないでいい」
「はい、かしこまりました。
少しでも安く手に入れてみせます」
ハンナが大金が絡む話をする時にする、ギラついた目を見せた。
頼もしい限りだ。
クーラタルの街
道夫の家
食事を終えて、カタリナにお茶を用意してもらった後、ロクサーヌにハルツ公閣下からのお便りとやらを読んでもらう。
――次の休日、日頃の礼を兼ねて略式だが酒宴を設ける所存だ。
――パーティーメンバーと共に、クーラタルで日没になった頃に余の謁見室へお越しいただければ幸いである。
「と書いてあります」
「……宛名や差出人については?」
ロクサーヌは「えっと」と首を傾げながら手紙を
「ありませんね」
最後にもう一度小首を傾げて、そう言った。
小さな紙片だからそんな気はしたが、時候の挨拶どころか名前もなしか。
盗難に遭っても問題ないようにしたのか、それとも実用本位で用件だけを書けば良いと思ったのか……公爵の場合は後者も否定できないのが悩ましいところだ。
……公爵……後者。
「ありがとう、ロクサーヌ」
ロクサーヌにお礼を言う。
厚くお礼を言う。
……現実逃避している場合ではない。
にっこりと笑うロクサーヌから、紙片を返してもらった。
読後焼却のこと、とかは書いてないようだが、燃やしてしまった方が良いだろうか。
猛烈に嫌な予感がする。
絶対厄介事だよ、これ。
じゃなかったら、なんで略式と言いつつ謁見室なんか指定するんだ。
つまりこれは、人目に付きやすい入口からは来ないでくれ、と同義だと思う。
「迷宮入口の探索者に階層突破の報告はしてるから、俺とロクサーヌ、セリーとミリアは必須か。
堅苦しい思いをさせてしまうかもしれないが、付き合ってくれ」
「はい、もちろんです」
俺が浮かない顔をしているからだろう、ロクサーヌも憂い顔になってしまった。
「ハンナとカタリナは、悪いが留守を頼む」
「はっ、かしこまりました」
ハンナがいつもよりやや硬い口調で頭を下げた。
表情が窺えないから、俺の懸念を察しているのかどうかはわからない。
……はぁ。
まあ、建前でも酒宴と言っているのだから、酒と食事の用意はしてくれるだろう。
大貴族家のグルメを堪能させてもらう、そう思おう。
原作では魔法使いの奴隷は、オークション開催寸前になって急に売り出された、とアランが言っています。
本作では猶予期間が長いので、このような戦略をアランが打ち出したものとします。
商人ギルドのオークションで奴隷が出品できるかも不明ですが、そんな硬いこと言ってたらそもそも商人ギルドで武器や防具を売っているのがおかしいです。(武器商人ギルドや防具商人ギルドも当たり前ですがあるはずなので)
よって、多分問題ないでしょう。
豚を土属性にした理由についてつらつらと述べようとしたのですが、ぶっちゃけどうでもいいなと思ったのでお暇な方は後書きをご参照ください。
属性付与系のスキル結晶は、火水風については原作で明示されており、ランク2か3の魔物からドロップする仕様です。
そして土属性っぽい魔物はランク2に1種、ランク3に3種存在します。(風属性のスキル結晶は風属性が弱点の飛行系の魔物からドロップしますが、これは飛行=風という連想からでしょう)
物の価値は、需給バランスから求められるはずです。
属性系のスキル結晶の場合、
需要:①属性攻撃需要=その属性を弱点とする魔物の数
+
②属性耐性需要=その属性で攻撃してくる魔物の数
供給:ランクが低いほど倒しやすい=供給が多い
となるでしょう。
②属性耐性需要は厳密にはわかりませんが、魔物は耐性を持つ属性の攻撃をしてくる傾向があると思います。
ただし例外として、グミスライムは土属性に耐性はありませんが、土属性の攻撃をしてきて土属性以外の全属性が弱点なので、実質的に土属性に耐性があると言って良いでしょう。
また、全属性に耐性があるドライブドラゴンは魔法攻撃をしてくる描写がありませんが、火魔法か
ケープカープは4属性全ての魔法を使ってくるとされていますが、中でも水属性が得意だとも言われているのでそちらだけ勘定しています。
そうした観点で、原作で弱点属性と耐性属性が明示されている魔物を判断すると、
①属性攻撃需要は火属性:8種類、水属性:6種類、風属性:6種類、土属性:7種類。
②属性耐性需要は火属性:6種類、水属性:7種類、風属性:2種類、土属性:4種類。
となります。
唯一ランク3の魔物からドロップする火属性のスキル結晶が、一番有用であることがわかります。
さすが、原作はよく考えられていると思いました。
こうして推測できる土属性の有用性から、ドロップするのはランク2の魔物であるべきだと判断しました。
そしてランク2の魔物で土属性の魔物は豚のみです。
以上を踏まえて、『土属性が付与できるのは豚のスキル結晶が妥当である』、という結論に至りました。