加賀道夫さんじゅうななさい   作:ビーバップ八戒

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ランクアップ

 

   クーラタルの迷宮

     二十三階層

 

 今日はとうとう二十三階層だ。

 つまり、ランク3の魔物との初遭遇である。

 初めての階層はいつもそうだが、詳細な地図のあるクーラタルから探索を開始する。

 

「この階層の魔物はグミスライムです。

 火魔法と風魔法と水魔法が弱点で、耐性のある属性はありません。

 土属性の魔法を使ってきますが、土属性に耐性があるわけでもないようです」

「グミスライムか、懐かしいな」

 

 この世界に来たばかりの頃だったな。

 ベイルの町に向かう途中、ロムヤが火炎剣を使って倒していた。

 その話をすると、

 

「この階層だと、クラムシェルも多いはずです。

 火属性に耐性がありますから、魔法を使う時は気をつけてください」

「おっと、そうだったな」

 

 遊び人に〈初級火魔法〉を設定するとしばらく再設定できないからな、注意してくれて助かった。

 〈初級水魔法〉は……ここだとケトルマーメイドも結構出るはずだから、〈初級風魔法〉にするか。

 

「グミスライムは剣や槍で攻撃しても、なかなか攻撃が通りません。

 人に取りついた場合、魔法以外で下手に攻撃すると取りつかれた人がダメージを受けてしまいます」

「飛びかかってきて、捕まると身体が溶かされるんだったな」

 

 改めて聞くと、厄介そうな相手だ。

 盾を持っているミリアが前に出て、セリーはできるだけ距離を取るように……そんな指示をロクサーヌがしている。

 ロクサーヌの心配は誰もしていない、俺も正直していない。

 

「そういえば……一階層の魔物じゃなくても地上に出てくることがあるんだな」

「一階層の魔物が地上に現れるのは、人里近くの迷宮ですね」

 

 ふとした疑問に、すぐさまセリーが答えてくれた。

 周囲に人がいる迷宮は、積極的に人を襲うこともない。

 だが、人が少ない場所の迷宮からはランク2の魔物が、更に奥地の迷宮からはランク3の、つまり今いる二十三階層以降の魔物が出てくる。

 

「これらはエサを求めて長い距離を移動し、積極的に人を襲います」

「あー、なるほど」

 

 そういえばいつぞや、公爵から迷宮探索の協力要請をされた時に、『入るだけで効果がある』と言われたことを思い出す。

 あれはそういう意味だったか。

 きっと貴族社会では、「お宅の領地の方から強めの魔物が出てきてるみたいなんだけど、進捗どうですか?」みたいな心温まる会話がされているに違いない。

 

 ……そういえば、ハーフェンの網元も村から離れると手強い魔物が出てくる、とか言ってたな。

 そして公爵の隣の領地って……ま、いいや。

 

「あと、ランク3の魔物からは全体攻撃魔法を使ってくることがあります。

 回避できませんから大変です」

「そうか……付与術士のジョブをつけた方が良さそうだな」

「良い防具も使わせていただいているので大丈夫だとは思いますが、そこまですれば申し分ないでしょう」

 

 セリーが強権のハルバードを持ち上げて、「もちろん撃たせるつもりはありませんが」と石突で地面をトンッと叩いた。

 ロクサーヌも強権のダマスカス鋼剣を手に、頼もしい笑みを浮かべている。

 遅れてミリアも何故か胸を張っているが……そのエストックに付与されているのは〈麻痺添加〉なのだが、意味がわかっているのだろうか。

 いや、魔物を麻痺させれば魔法攻撃も防げるから、間違っているわけではないのだが。

 

 さて、〈フィフスジョブ〉から〈シックスジョブ〉にする必要があるな。

 問題ないとは思うが……まあ、備えというのは無駄になるのが一番良いのだ。

 

 そしてそうすると、経験値効率を犠牲にする必要がある。

 皆には悪いが、〈獲得経験値二十倍〉を〈獲得経験値十倍〉にさせてもらおう。

 

 付与術士はほとんどレベルを上げていないし、ものまね士もまだ比較的レベルが低い。

 つまりまだまだ上がりやすいはずで、俺の魔法攻撃力を上げるのが一番戦力強化になる。

 特に付与術士は知力が上がるジョブだから、魔法の威力も上がるだろう。

 

 で、これだとボーナスポイントが余るから、〈MP回復速度五倍〉をつける。

 獲得経験値が減る分は、デュランダル休憩を減らすことでカバーだ。

 〈土防御付与〉を全員に回しながら、片手間に〈キャラクター設定〉を操作していく。

 

「……さて、これで全員だ。

 ではロクサーヌ、グミスライムの匂いはわかるか?」

「遭遇したことはありませんが、嗅いだことのない匂いがあります。

 多分、それですね」

 

 いつも初めて相手する魔物にはそうであるように、数が少ないところに案内を頼んだ。

 ロクサーヌは少し迷ってから、「向こう側のほうがいいですね」と歩き出した。

 ややあって、

 

「えっと、クラムシェルもいるようです」

 

 さすがに二十三階層まで来ると、1匹だけでうろうろしてるなんてことはなかなかないらしい。

 

「いや、問題ない。

 むしろその方が望ましい」

 

 同時に戦うことで、ランク2とランク3の魔物の強さの違いが計れるだろう。

 ランク1とランク2では魔法の使用量がほぼ倍になったが、さてどうなるか。

 

「あちらです」

 

 

   グミスライム

     Lv:23

 

 

 

   クラムシェル

     Lv:23

 

 

 もう見慣れた貝の魔物と一緒に、風船のような魔物がふにょふにょと蠢いていた。

 並べて見ると、波打ち際に打ち上げられたクラゲのようだ。

 

「よし、頼んだぞ」

『はい』

 

 走り出すロクサーヌ達の後ろで、〈ブリーズストーム〉を3連発する。

 そしてすかさず〈鑑定〉で確認するが……グミスライムは健在のようだ、まあそんなもんだろう。

 

 水棲の魔物は大体いつもミリアが相手をしているのだが、今回はロクサーヌがクラムシェルと対峙している。

 グミスライムを相手取るのは、盾を持っているミリアと長い得物のセリーだ。

 その危なげない様子に、ホッと一安心する。

 

「ブリーズストーム」

 

 クールタイムが終わって4発目。

 グミスライムがべちゃっと平たくなって……揮発するように消えた。

 付与術士がついてるから比較しにくいが、1発増えただけで倒せるのか*1

 効率はちょっとあれだが、問題なさそうだな。

 

「ブリーズボール」

 

 うーん……〈セブンスジョブ〉にすれば3発に節約できるかな?

 しかしこれ以上は、〈必要経験値二十分の一〉を〈必要経験値十分の一〉にダウングレードする必要がある。

 残り経験値の計算がどうなってるかわからんから、あまり弄りたくないんだよな。

 それで魔法使いの経験値を無駄にしてしまうような事は避けたい。

 

「ブリーズボール」

 

 などと考えながら更に連発すると、クラムシェルの方は6発で煙になって消えた。

 こっちはこんなもんか。

 

「皆、よくやってくれた」

 

 いつものように労うと、

 

「この階層の魔物でも、こんなに早く」

「さすがはご主人様です」

「すごい、です」

 

 ……口々に褒められると、さすがにこそばゆいな。

 

「あー……弱点属性4発を通常属性8発に換算すると、ランク2からランク3の魔物は5割増しくらいで強くなってるのかな」

「はい、そうなりますね」

 

 セリーがメモ帳を取り出して、マッピングしているのとは違うページに何やら書き込み始めた。

 なんとなくそれを見守っていると、

 

「スターチ、です」

「あ、ああ、ありがとう」

 

 ミリアが拾ってくれた白い固形物を〈鑑定〉すると、

 

 

   スライムスターチ

 

 

 スターチって片栗粉のことだよな? と思い出していると、書き終えたらしいセリーに話しかけられた。

 

「スライムスターチは水で溶いて発酵させるとお酒になります。

 雑味が少なくて好む人が多い品ですが、よろしければ作りましょうか?」

 

 スライム酒のことか、実は皆に隠れてちょっと呑んだことあるんだよな。

 なにしろ麦酒(ビール)果実酒(ワイン、シードル)と違って、地球じゃ絶対呑めない酒だし。

 だが俺にとっては、味も素っ気もない薄い甲類焼酎みたいな代物だった。

 

 ただ、この世界で人気が出るのはわかる気がする。

 昔の人にとっては品質の安定した白米や白パンが憧れの逸品で、それが当たり前になった現代人にとっては雑穀米や雑穀パンがちょっと贅沢な嗜好品になる。

 酒に対しても、そんな市場原理が働いているのではないだろうか。

 

「いや、それより料理に使おう。

 これを使えば、多分竜田揚げが作れる……はずだ」

 

 ケンタのフライドチキンのようなサクサクの薄い衣になる……と思う。

 衣が油を吸う量が減るから、中年にはこっちの方がありがたいのだ。

 

「揚げ物ですか? 楽しみです」

 

 ロクサーヌの笑顔に、どうしてもプレッシャーを感じてしまう。

 油の量は減らせて軽くなるはずだが、期待は重く伸し掛かる。

 

「で、では、とりあえずこのまま戦ってみるか。

 ロクサーヌ、少しずつ数を増やしてくれ」

「はい……それではこちらです」

 

 そうしてしばらくの間、竜田揚げのレシピを脳内で模索しながら魔物を蹴散らしていって、

 

 

   グミスライム

     Lv:23

 

 

 

   グミスライム

     Lv:23

 

 

 

   グミスライム

     Lv:23

 

 

 

   グミスライム

     Lv:23

 

 

 

   グミスライム

     Lv:23

 

 

 とうとうランク3の魔物のフルパーティーと接敵した。

 

「ブリーズストーム、ブリーズストーム、ブリーズストーム…………って、あれ?」

 

   スライムスターチ   

   スライムスターチ   

   スライムスターチ   

   スライムスターチ   

   スライムスターチ   

 

 だが、全体攻撃魔法の主砲斉射三連でグミスライムが煙になった。

 いつの間にか付与術士のレベルが20を超えていたから、その分魔法の威力が上がったのだろう。

 さすがは〈知力中上昇〉のあるジョブだ、成長度も大きいらしい。

 

「さすがはご主人様です」

「すごい、です」

 

 スライムの群れに向かっている途中で、ロクサーヌとミリアが急ブレーキした。

 そしてセリーは、うわぁ……って顔をしている。

 最近よくされるな、そのドン引き顔。

 

 ……アラフォーからすると、魔法より〈精力増強〉の方が人間辞めてると思うんだが。

 

「さて、もう十分戦っただろう。

 このままボス部屋まで行くとしよう」

「そうですね、こちらです」

 

 今度はセリーが、騎士団の詰め所で買った地図を片手に先導し始めた。

 

「しかし、クーラタルの迷宮は結構人が多いはずなんだが……」

 

 ここまで来る時も、誰とも遭遇しなかった。

 いや、誰かいる時はロクサーヌが避けてくれるから当然ではあるのだが、それでも誰かがいる時は方向転換したりするのに、それもなかったのだ。

 

「グミスライムは魔法使いがいないと戦いにくい魔物です。

 しかし、この階層は相性が悪いケトルマーメイドとクラムシェルが多いですから」

「まあ、それもそうか」

「はい、普通は戦いにくいのです、普通は」

 

 ……セリー君はなにやら不思議な言い回しをするなぁ。

 

「まあ、人が少ないのはありがたい話だな。

 さて、ボスはゼリースライムだったか」

「はい、グミスライムを強くした魔物ですが、基本的な特徴は同じです。

 気をつける点としては、この階層からは通常の魔物が2匹に増えることです」

 

 雑魚は俺が片付ける。

 ただし、ケトルマーメイドかクラムシェルとグミスライムが混在した場合は、ランク1の魔物が残ってしまう。

 その場合はミリアが相手をして、ロクサーヌとセリーはゼリースライムのスキル発動を確実に封殺する。

 そんな方針を決めてから、ボス部屋に突入した。

 

 

   ゼリースライム

     Lv:23

 

 

 

    グミスライム

     Lv:23

 

 

 

    クラムシェル

     Lv:23

 

 

 話した先から、面倒なパターンがきたな。

 だがグミスライムは速攻で溶けて、残ったクラムシェルはすぐにミリアが麻痺させた。

 素晴らしい。

 

 グミスライムとゼリースライムは、比率で言うと粒グミとカップゼリーくらいは大きさに差がある。

 ゼリースライムの方がちょっと動きがアグレッシブというか、体が柔らかそうな感じだな。

 ちなみに俺はソフトキャンディ派だった、歯の詰め物が取れるまでは。

 

 その後も何事もなく、あっさり倒せた。

 

 

 

   ターレの迷宮

    二十三階層

 

 いつもクーラタルの迷宮を探索した後は、ハルバーの迷宮に行っている。

 エルフ武器商人から簡易的な地図をもらっていて、探索しやすいからだ。

 だが移動してすぐ、ロクサーヌが多くの人の気配を察知したのでこちらに移動してきた。

 

「シザーリザードのボスのマザーリザードは硬革を落としますから、ロールトロールのように騎士団員が周回しているのでしょう」

 

 というのが、セリーの推測だった。

 恐らく間違いないだろう。

 

 次の階層に行きたいと言えば通してはくれるだろうが、最近ターレの迷宮をハイスピードで攻略しているのに、あっちに顔を出すのはまずいだろう。

 というわけで、しばらくはクーラタルとターレの二本立てになりそうである。

 

 そしてこの階層の魔物はわからなかった。

 入口の探索者に突破報告した時に聞かれたが、ランク3の魔物の臭いをロクサーヌは知らなかったからだ。

 だが、日を改めて今日探索者に確認したら、ケープカープだと教えてくれた。

 

 一応、他にこの迷宮を攻略している誰かはいるらしい。

 騎士団関係者も、ロールトロールとだけ戦っているわけではないのだろう。

 

「ケープカープは、4属性の魔法を使いこなしてくる魔物です。

 中でも水魔法が得意で、水魔法に耐性があります。

 不得手なのは火属性で、弱点も火魔法です」

 

 ということなので、今度は全属性の耐性を付与していく。

 面倒だが、使われなければ掛け直す必要もない。

 グミスライムにも、結局一度も全体攻撃魔法を使わせなかったし。

 

「しかし、弱点が火か。

 確かこの下の魔物は……」

「ビッチバタフライですね、火属性に耐性があります」

「……だよな」

 

 この階層も面倒くさいことになりそうだ。

 ハルバーの迷宮なら、シザーリザードもその下のマーブリームも土属性が弱点だったのに。

 

 

   ケープカープ

     Lv:23

 

 

 

   ケープカープ

     Lv:23

 

 

 ケープカープは、地味な黒褐色の魚体で空中を泳いでいる、巨大な鯉のような魔物だ。

 ブラックダイヤツナほどではないが、結構な大物だ。

 口先が(ケープ)のように尖っているからケープカープ……なのだろうか。

 

 グミスライム同様、魔法3発で倒せた。

 グミスライムはFFのプリン系の敵みたいに魔法防御力が著しく低い、みたいなケースも考えていたのだが。

 良くも悪くも、そんなことはないようだ。

 

「で、落とすのは……ミミズか?」

 

 

   寄生ワーム

 

 

 ミリアが嫌な顔一つ見せずに拾ったそれを受け取って、アイテムボックスに収納する。

 ……ただのミミズにしか見えないのに、普通に入るんだな。

 なんとなくだが、食材系のドロップアイテムから離れたマスに入れてしまう。

 

「寄生ワームは、畑に撒くと肥料となります。

 また、コイチの実のように連作すると収穫量が減る作物も、畑に撒くことで量を増やすことができます」

 

 なるほど、連作障害というやつか。

 そんなところもミミズなのだな。

 

「ソマーラの村に売りに行くかな」

 

 いや、もう春の農作業は終わっているのだったか……と考えていると、ロクサーヌが「良いと思います」と賛同してくれた。

 

「後から撒くこともできますから」

 

 という事らしい。

 便利なものだな。

 

 多分だが、村長は喜ぶんじゃないかと思う。

 村が豊かになることは嬉しいが、自警団の若者達が村から出ていってしまうのを危惧しているフシがあったからな。

 ウサギ狩りで稼いだ金を農業振興に振り分けることは、村長としては歓迎すべきことだろう。

 

「よし、この調子で探索するか」

 

 と、口では威勢の良いことを言っておくが……正直微妙だ。

 ビッチバタフライが混じると、どうしてもクールタイムを挟む必要がある。

 そして何より、既に〈獲得経験値二十倍〉を〈獲得経験値十倍〉に妥協しているのだ。

 

 一度〈必要経験値二十分の一〉と〈獲得経験値二十倍〉でポンポンレベルアップするのに慣れてしまうと、ゆっくり上がっていく付与術士のレベルをじれったく感じてしまう。

 こんなんじゃ満足できねえよ。

 とはいえそんな泣き言を言えるはずもなく、ひたすら探索を続けていると、

 

 

   ケープカープの肝

 

 

「おっと、別のものを落としたな」

 

 ミリアがタラコのようなものを拾って渡してくれた。

 特に喜んでいる様子もないから、食べ物ではないらしい。

 

「肝は珍しいアイテムのようですね。

 魔物に投げつけると、魔物がドライブドラゴンに変わることがあるそうです」

 

 レア食材ではなく、レアドロップのようだ。

 ドライブドラゴンはランク3の魔物の中でも最強と言われているらしい。

 鯉だから登竜門なのかと、なんとなく納得はするが。

 

「えーと、ボスに使えば弱くなる……ということか?」

 

 確かシレンでやったな、モンスターの肉を投げて敵を弱体化させる攻略法。

 その階層の三十三階層上の魔物がボスになるから、ランク3の魔物であれば基本的に弱体化するわけだ。

 

「はい、ただし魔物の強さによってなりやすさが異なります。

 強すぎる魔物は、なかなかドライブドラゴンにならないそうです」

「それで倒した場合、ドロップするのはドライブドラゴンのアイテムなのだろうか?」

「はい、竜皮ですね」

 

 ふーむ、ドロップアイテムが変わらないなら、エリクシールの素材を比較的安全に手に入れられるかと思ったのだが。

 使うとしたら、どうしても階層突破したい時とかだろうか。

 

「竜皮は、プリプリしていて美味しいのだそうです。

 スープに入れて煮込めば、味が一段も二段も良くなると言われています。

 また、肌が美しくなるともされています」

 

 ロクサーヌがニコニコしながら言った。

 コラーゲンか? 単にタンパク質として吸収されるだけらしいけど。

 でもまあ、

 

「それは楽しみだな。

 もう少し肝が貯まったら、下の階層で試してみるか」

「はい!」

 

 だがその後、肝は1個も落ちることはなく、ボス部屋まで到達してしまった。

 多分、料理人のジョブを有効にせずにマーブリームと戦ったら、尾頭付きのドロップ率はこんなものだったのだろう。

 なかなかしんどい階層だった。

 

 

 

   ターレの迷宮

    二十四階層

 

 肝が落ちない鬱憤をボスのカーブカープにぶつけて、無事に撃破した。

 

 カーブカープは身体のひん曲がった巨大な鯉なのだが、この魔物のレアドロップがドープ薬の素材になるそうだ*2

 黄河の急流を遡り、龍門の滝を登りきった鯉は龍になるというが、こいつはドーピングして楽をしようとしているに違いない。

 身体と同様に根性も曲がって(カーブして)いるわけだな。

 

 ドープ薬を自給できるかもしれないというのは、非常に大きい。

 だが、ケープカープの肝のドロップ率も考えると、レアドロップの確率も渋そうである。

 頭の中に『要検討』のチェックを入れて、次の階層に足を踏み入れた。

 

 さて、いつもなら入口の探索者に階層突破の報告をするところだが、

 

「ロクサーヌ、この階層の魔物はわかるか?」

「いえ、ここも初めて嗅ぐ臭いです」

「帰るまでにはまだ時間があるよな?」

「はい、ハルバーの迷宮に行ってませんから」

 

 まあ、そうだろうな。

 

「どうせこの階層の魔物が何か訊かれるだろうし、一度戦っておくか」

 

 魔法の使用回数が多くて面倒臭いという点を除けば、苦戦らしい苦戦もしていない。

 本格的な攻略はしないまでも、軽く戦っておくくらいはしておいて良いだろう。

 

 そんな軽い気持ちで道案内を頼んだ先で、引き締まった目でロクサーヌが「あちらです」と囁いた。

 〈鑑定〉の結果は、

 

 

   ドライブドラゴン

     Lv:24

 

 

 

   ドライブドラゴン

     Lv:24

 

 

「あ、あれがドライブドラゴンか」

 

 ついに来たか、最強の雑魚。

 さっきケープカープの肝がドロップしたのはフラグだったんだろうか。

 ふよふよと浮遊しているドラゴンを見て、思わず生唾を飲み込んだ。

 

 ドライブドラゴンは、大きな鉤爪のついた四つ足と翼を持った、細長いヘビ型のドラゴンだ。

 竜というより、龍だな。

 全長は相当なものだ。

 でっかいタチウオのことを釣り人はドラゴンと呼ぶが、長さも厚みもそれよりはっきりとデカい。

 

「ドライブドラゴンは、全属性に耐性を持つ魔物です。

 口から火を吹いてきますが、頻度はそれほどでもないそうです。

 さっきも言った通り、ランク3の魔物では最強と言われます」

「……大丈夫か?」

 

 3人に確認するが、すぐに頷きが返された。

 

「二十三階層のボスも大したことはありませんでしたし、問題ないでしょう」

「ドライブドラゴンはクーラタルでは三十三階層に出現します。

 それを考えれば、二十四階層のドライブドラゴンはほとんど最弱と言えます」

 

 ロクサーヌが強気に、セリーが合理的に主張する。

 まあそうだな、ボスと戦うつもりで戦えば、苦戦はしても問題にはならないだろう。

 

「よし、じゃあ頼んだぞ」

 

 3人が走り出す後ろで、魔法を3連発食らわせる。

 空を飛んでるから〈ブリーズストーム〉を使ってみたが、全く影響を受けているように見えない。

 

 ロクサーヌが片方を、セリーとミリアがもう片方を受け持っている。

 比較対象となる3人がいるせいで、ドライブドラゴンが尚の事大きく見える。

 明らかに3メートルはあるだろう。

 

 見たところ、ミリアは盾を使って上手いことやりすごしているが、セリーは結構鉤爪で引っ掻かれてしまっている。

 セリーはスキルの発動を察知するために、視線を下げる必要がある。

 そうなると、前脚の爪と牙の生えた顎は視界から外れるだろう。

 3メートルというのはそれだけ大きい、ジャック・ハンマーより圧倒的にデカい上に、空中を浮遊しているのだ。

 

 ……ロクサーヌは明らかに視界外の攻撃をひらりと避けているけど。

 

 その後も何度も魔法を使って、合間に〈パーティライゼイション〉で回復して、

 

「やった、です」

「おお、よくやった!」

 

 ミリアが1匹を麻痺させてくれてからは、気が楽になった。

 そしてやっと2匹のドライブドラゴンが煙となって消えた。

 

「14発必要だった。

 これは……かなり面倒だな」

 

 ミリアとセリーが拾ってくれた竜皮を受け取る。

 白くてぶつぶつがある、でっかい鶏皮みたいな竜皮だ。

 鱗が生えていたはずなのに、毛穴のようなぶつぶつがあるのはなぜだろう。

 

「これだけ早く倒せるだけでも、素晴らしいことですけれど」

「あー……危険な役目を任せているのに、すまない。

 魔法の使用回数が増えると、どうしてもな」

 

 気まずい顔をしているロクサーヌに謝っておく。

 ボス戦から回復せずに魔法を連続使用したから、ちょっとMP枯渇(ネガティブ)気味になっているかもしれない。

 ……いや、だが経験値効率で考えると、これは酷いぞ。

 

「では、階層突破の報告をして、今日はこれくらいにしよう。

 この時間なら、竜皮を使って夕飯に一品増やせるかもしれない。

 ロクサーヌ、頼んでいいか?」

「はい、もちろんです」

 

 さて、やる気が出るくらい美味しい食材だと良いのだが……。

 

*1
 原作道夫君は、グミスライムLv33相手に遊び人Lv1の状態で〈初級火魔法〉を最低8回以上使っています。(原作10巻の「遊び人」の回で6発使っていることまで明示されており、その後回数を重ねたと描写されている)

 その時点のレベルは不明ですが、魔法攻撃力に影響する英雄は40台中盤、魔法使いのレベルは40台後半だったはずです。

 本作道夫さんは遊び人Lv59(知力中上昇)+ものまね士(魔法使い)+付与術士+カタリナの禰宜(知力小上昇)の分、魔法攻撃力が高くなります。

 そしてレベル減少分から、敵のHPと魔法防御力は約3分の2となるはずです。

 これらを合わせて推測し、必要な魔法の使用回数は半分以下の4回と見積もりました。

*2
本作オリジナル設定、原作ではカーブカープのドロップアイテムは不明です。




 アランの中の人とジャック・ハンマーの中の人って同じなんですね。
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