ちょっと短いので、12時に追加で投稿します。
クーラタルの街
道夫の家
駆け足で新人研修を終えて、問題なさそうなのでボス周回も少し試してみた。
それで多少ベスタのレベルも上げることができたので、今日はそれまでとした。
なにしろ公爵との約束の刻限が迫っている。
色々と身支度したりする必要はあるのだが、その前に、
スキル結晶 スライム
スキル結晶 コボルト
スキル結晶 スライム
スキル結晶 コボルト
スキル結晶 スライム
スキル結晶 コボルト
スキル結晶 スライム
「……周回して貯め込んだスライムのスキル結晶は、
テーブルの上に広げたスキル結晶を前に、誰のどの装備に付与するかの相談だ。
普通に考えれば、新人が一番弱いと思うだろうよ。
実働6日間に渡って続けたゼリースライム周回で、〈物理ダメージ削減〉が付与できるスライムのスキル結晶が新たに3つ手に入った。
以前ハンナが競り落としてくれた分もあるから、それで4つになった。
……のは良いんだが、肝心のコボルトのスキル結晶が3つしかない。
先日〝吸精のスタッフ〟と引き換えに得たのは3つ、1つはミリアのエストックに珊瑚のスキル結晶を融合するのに使ってしまった。
なんとか1つはオークションに出てきたから購入できたのだが、それでも1つ足りない。
付与できるのが3つなら、ロクサーヌとセリーとミリアの装備に付けるのが良いと思うんだが……ロクサーヌが許してくれない気がする。
「私は大丈夫ですから、セリーとミリアにお願いします」
そんなことを考えていたら、当のロクサーヌにそう言われてしまった。
俺の装備に使うことは、選択の余地もなく決定事項らしい。
「あー……そうか、わかった。
じゃあ俺のビットローファーと、セリーはダマスカス鋼のプレートメイルが良いだろうな」
スロット数が最大値の装備品なら、今度も使い続ける可能性が高いわけで。
ミリア
<♀・15歳>
暗殺者:Lv37
装備:痺縛のエストック
:ダマスカス鋼の盾
:硬革の帽子
:竜革のジャケット
:竜革のグローブ
:竜革の靴
:身代わりのミサンガ
問題はミリアだ。
竜革装備はセリーに帽子、ミリアに残り3つを装備してもらっているが、どれも空きスロット3つだ。
帽子はエルフ武器商人の店で、グローブと靴は以前足装備探しの旅に出た時に、そしてジャケットはバラダム家からの放出品だが……装備の値段から察するに、空きスロットは4つが最大値っぽいんだよな。
「今後装備を買い替えたり私が製造する事を考慮すると、ジャケットが一番素材を使いますから、手に入りにくいはずです。
……確率としては、ですが」
「なるほど……では、竜革のジャケットにするか」
スロット数MAXっぽい、ロクサーヌの聖銀の胸当てだったら考える必要なかったんだが。
聖銀の胸当ては防御範囲が狭いから、ミリアに使わせるのはちょっと不安だし。
……まあ、ミリアは盾を装備している分、スロット数に余裕はあるから問題ないか。
「じゃあ悪いが、セリーは日没までにスキル結晶融合を頼む。
俺は風呂を沸かしておくから、出かける前に軽く身体を洗おう。
他の皆も身支度を進めておいてくれ」
「はい、わかりました。
ご主人様の服を貸してください」
おっと、そうだった。
というかクリーニングとかするべきだったか、今更だけど。
多分、そんな改まった事にはならないだろうし。
ズボンとシャツだけの姿になって、風呂場に移動する。
果たしてどれくらいで帰ってこられるのやら。
……そういえば今まで、長時間家を留守にしたことがほとんどないのだ。
何かしておいた方が良い事は……と考えながら、〈ウォーターウォール〉で桶に水を貯め始めてすぐ、ミリアとベスタが追いかけてきた。
「ご主人様」
「どうした?」
「ベスタ、お風呂、知らない、です」
それで見せに来たのか。
「うちでは毎日こうして魔法で水を貯めて、温めてお湯にして浸かっている。
気持ちいいぞ」
「何かお手伝いできることは……」
「ああ、あるぞ」
と、ほむらのレイピアを取り出して……おや、そういえば、
「いつもはこれを使って水を温めているんだがな。
ところで、竜人族は火が吐けると聞いたのだが……」
気軽に見せられるものなのかわからないので遠慮気味にそう言うと、ベスタは「大したものではありませんが」と前置きしてから頷いた。
ベスタはロクサーヌと同じで、自己評価低めな感じがするな。
「見せてもらっても良いか?」
「ええと、お湯を沸かすようなことは無理だと思いますが……」
ぶっちゃけただ見てみたいだけなんだが、風呂を沸かすタイミングで聞いたのが良くなかったかな。
まあ、無理にやらせることでもないか……と思っていたら、ミリアが「見たい、です」と口にした。
「……うん、俺も見たいな」
自分の心に素直になろう。
身長2メートルの美人が口から火を吹くんだぜ、そんなの見たいに決まってる。
「い、一応やってみます」
居心地悪そうなベスタが、湯船に手をついて屈み込んだ。
そして――
――ゴォォォォ
『おおっ!』
ベスタの口から出た火――いや炎は、結構な勢いで水面に舐めるように広がった。
比重は空気より重そうだな……何のガスだろう。
そして特に変な臭いもしない、良かった……本当に、本当に良かった*1。
やがて炎が収まった。
「このくらいしかもちません。
魔物や敵の注意を一瞬だけ逸らす技です。
長く使うことも、続けて使うこともできません」
「すごい、です」
「ああ、すごいな」
目をキラキラさせるミリアに同調する。
実際すごい。
炎で可視化される肺活量もすごい。
だっちゅーのっぽいポーズで強調されるお胸様もすごい。
「あ、ありがとうございます。
お湯を沸かすことはできませんでしたが」
「かっこいい、です」
「ああ、かっこいいな」
そんなの関係ない、かっこよさこそが最重要だ。
それに料理の時とか便利そうだし、あとかっこいいし、鍔迫り合いの最中とかにこれをされたら堪ったもんじゃないだろうし、何と言ってもかっこいい。
……と、平和に盛り上がってばかりも居られない。
残念だが、時間が迫っている。
「まあ、風呂を沸かすのはいつも通りほむらのレイピアを使うとしよう。
ミリア、ベスタに火炎剣の詠唱を教えてやってくれるか」
「はい、です。
ベスタ、よく聞く、です」
「はい、ミリアお姉ちゃん」
2人が詠唱の練習をしている間、水を貯める作業を再開しようとして……ふと思った。
そういえば、水属性のスキルで水も貯められるんじゃないかと。
魔法でやった方が早い気はするが、いずれ俺がいなくても風呂に入れるようになった方が良いだろうしな。
……ベスタの炎を見て、新技を試したくなったというのも否定できないが。
アイテムボックスから今度はウッドステッキを取り出して、〈流水剣付与〉と念じる。
最近は時短のために、風呂を沸かすのを2馬力でやるようにしているのだ。
ゆでずに簡単、さっと水でほぐすだけ――〈流水剣〉。
……しかし、何も起こらなかった。
「ご主人様……スキル結晶融合が終わりました」
スキル名を間違ったかな? と首を捻っていると、疲れた表情のセリーが風呂場に入ってきた。
「……いっぺんに終わらせたのか」
「今ならできるかと思いまして……申し訳ありません」
すぐに〈布施〉を3連発して、ついでに「水属性を武器に付与できるスキルってなんだっけか?」と訊いてみると、
「ありがとうございます。
水属性攻撃をするスキルは水流剣ですが……お風呂ですか?」
「ああ、これで水を貯められるかと思ってな」
そうして実験を始めたものの、〈水流剣〉は武器の回りに水流が巻き付くだけで、水が出るわけではなかった。
いや、少しは出る。
多分1、2リットルくらいは。
飲水の確保ができると考えれば、十分ではあるが。
「考えてみれば、使う度に水で身体が濡れてたら大変ですよね」
「そりゃそうだ」
できないことがわかった。
これもまた実験である。
……。
…………。
………………。
一緒に入ると妙な気分になってしまいそうだし、どっぷり湯船に浸かっている時間もない。
順番にお湯と石鹸を使って身体を洗って、身支度を済ませた。
そしてここから先の話はベスタに聞かせたくないので、
「カタリナ、ベスタを風呂に入れてやってくれるか」
「はい、かしこまりました」
「え、ええと、私もよろしいのでしょうか?」
「身綺麗にしていてくれると嬉しいから、まあ仕事の一環だと思ってくれ。
それと今夜は出かけるから、ハンナの指示に従ってくれ」
そういうことにして、席を外してもらった。
窓から外を見る。
まだ日没ではないが、かなり陽が傾いているな。
「日没になったら、俺達はボーデに移動する。
ハンナは2人とパーティー編成しておいて、いつでも移動できるようにしてくれ」
一応、留守の間に困らないようにはしたつもりだ。
水瓶は全て満杯にしておいたし、鉄の槍と鋼鉄の剣には〈火炎剣付与〉をしてある。
少なくとも水と火種には困らないだろう。
「ありがとうございます、もしもの時は……?」
「シュポワールの商人ギルドで落ち合おう。
一応、狩人のスキルでそっちの居場所はわかるようにしておくから、都合が悪いようなら適当に移動して構わない」
「はい、かしこまりました」
今回の件に関係なく、今後ハンナとは別行動が増える事になる。
それを考えると、狩人の〈標的設定〉は地味に神スキルかもしれん。
「……すみません、話が見えないのですが」
俺とハンナの緊迫した雰囲気に、ロクサーヌが戸惑いの声を上げた。
「ああ、これから話す。
……といっても、別に決まったわけでもなく、ただの推測なのだが」
と、今まで誤魔化していたが、ハルツ公がセルマー伯に対して極めて大きな不快感を持っていることを話した。
結納品を盗まれたことが噂になっていること。
領内の迷宮攻略も上手くいっていないこと。
エルフの諸侯が処断されることは、エルフ全体にとって問題となること。
……ここまでは以前も話していたかな。
「貴族が家宝の類を盗まれることが、どれくらい不名誉なのかはわからん。
多分一番マズイのは、迷宮攻略が上手くいってないらしいという話の方……だよな?」
確認すると、セリーが頷いた。
「迷宮を討伐すれば諸侯に列せられる程ですから、当然討伐できないなら領主の資格なしと思われるでしょう」
……だよな。
そして盗賊に出し抜かれた話が明るみになれば、『そんな領主が迷宮討伐できんの?』と思われるだろう。
その採点基準は、自然と辛口になるはずだ。
「あと話してなかったが、俺がセルマー伯と面会した時、探索者ではなく冒険者だろうと疑われた。
まあ、これは殆ど濡れ衣みたいなものなんだが……」
事前に探索者になっていると、俺が公爵に話したせいだろう。
公爵は俺のことを『探索者のミチオ殿』だと紹介した。
それを疑うことは、公爵の顔を潰すことになるはずだ。
「この時のやり取りが影響したのかはわからんが、伯爵は俺達にバラダム家を差し向けてきた……可能性がある。
そして俺は、一応ハルツ公騎士団の関係者ということになっているからな……」
それに刺客を送るような真似をしたら、顔を潰すどころではない。
苦労人で温厚そうなゴスラーですら、「このままで済ませるつもりはないので」と俺に囁いていたくらいだ。
そして極めつけは先日の手紙だ。
――次の休日、日頃の礼を兼ねて略式だが酒宴を設ける所存だ。
――パーティーメンバーと共に、クーラタルで日没になった頃に余の謁見室へお越しいただければ幸いである。
なぜ略式なのに謁見室に呼ぶのか……それは恐らく、人目を憚るような事があるのだ。
「……話の性質上、口に出すのも気が引けてな、これまで話せなかった。
まあ、ハンナは察していたようだが」
ハンナがロクサーヌに頭を下げた。
「俺はセルマー伯に謁見した。
つまり俺は、フィールドウォークでセルマー伯の居城の奥深くに入れる。
それができるのは数少ないか、下手すると俺だけなのかもしれん」
セルマー伯は用心深いと、公爵は言っていたからな。
……どちらかというと、猜疑心が強いという印象だったが。
「つまり、ハルツ公がセルマー伯を謀殺する片棒を、ご主人様に担がせるということですか」
もしかして、セリーも気付いていたのかな?
わからんが、そうであっても不思議はないか。
「謀殺というより誅殺か……まあ、大して変わらんか」
そういうの誰が決めるんだろうな。
皇帝? 後世の歴史家?
「そんな危険な場に赴くのですか?」
「微妙なところだ。
とりあえず話を聞いてみて、危険そうなら逃げる、大したことがなければ手伝う。
つまりは臨機応変にというやつだな」
〈ワープ〉がある以上、逃げることは難しくない。
それはロクサーヌも理解してくれているようで、とりあえず矛を収めてくれた。
「逃げる場合は、とりあえずペルマスクからカッシームという国を目指すつもりだが、鏡の件で公爵関係者と遭遇する可能性もある。
だからシュポワールで合流して、一気にペルマスクまで飛ぶ」
シュポワールの冒険者ギルドなら関係者とかち合う可能性もあるだろうが、商人ギルドなら大丈夫だろう。
以前ヤギのスキル結晶を買い付けに行ったから、場所はしっかり覚えてる。
公爵と縁が切れるとエリクシールの入手が遠のくが……正直、今のままでもいずれ
ものまね士と魔道士、無理してでも取得しておいて良かった。
「まあ、皆がいればどこでもやっていけるだろう」
「はい! ご主人様のいるところが私のいるところです!」
ロクサーヌが真っ先にそう言って、他の皆も頷いてくれた。
ハンナは冗談めかして、
「思えば御主人様は伯爵閣下からは懸賞金を、公爵閣下の御領地でも随分稼がれました。
そろそろエルフの皆さん以外から、もしくは帝国の外でお稼ぎになるのもよろしいかもしれませんね」
「そうだな、冒険者になってもらったし、ハンナにも大いに働いてもらうか」
全員で顔を見合って、笑い合った。
ここにいる誰も、別にクーラタルやボーデが故郷というわけでもないのだ。
「ま、気楽に行こう。
もしかすると、ただの呑み会ということも十分考えられる。
公爵は結構気さくなところがあるから、案外俺のパーティーメンバーを見たいだけかもな」
「私達をですか?」
ロクサーヌがキョトンとした顔をしている。
「ああ、俺の自慢のパーティーメンバーだからな」
狂犬のシモンという札付きの盗賊を倒したというのに、いまいち自覚がないな、ロクサーヌは。
……まあ、そんなところも彼女らしいか。
気づけば窓から入る光は、だいぶ弱々しくなっていた。
つまり、メタンガスではない事になります。
全ては原作者様の手の内でした……原作の発表から何年も経って、愚かな二次作者が『これ実質ゲップじゃね?』とか言い出さないように手を打っておられたのです。